Title 尿管尿管端々吻合により良好な結果が得られた...

Title 尿管尿管端々吻合により良好な結果が得られた外傷性尿管断裂の1例

Author(s) 壬生, 寿一; 影林, 頼明; 田中, 雅博; 金, 聖哲; 吉井, 将人; 藤本, 清秀; 大園, 誠一郎; 平尾, 佳彦

Citation 泌尿器科紀要 (1998), 44(5): 327-330

Issue Date 1998-05

URL http://hdl.handle.net/2433/116181

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌 尿 紀 要44:327-330,1998 327

尿管尿管端々吻合によ り良好な結果が

得 られた外傷性尿管断裂の1例

奈良県立医科大学泌尿器科学教室(主 任:平 尾佳彦教授)

壬 生 寿 一,影 林 頼 明,田 中 雅博,金 聖哲

吉井 将人,藤 本 清秀,大 園誠一郎,平 尾 佳彦

SUCCESSFUL TREATMENT WITH END-TO-END URETERAL

ANASTOMOSIS FOR URETERAL AVULSION CAUSED

BY ABDOMINAL BLUNT TRAUMA : A CASE REPORT

Hisakazu MIBU, Yoriaki KAGEBAYASHI, Masahiro TANAKA, Sung Chul KIM,

Masahito Yosim, Kiyohide FUJIMOTO, Seiichiro OZONO and Yoshihiko HIRAO

From the Department of Urology, Nara Medical University

Avulsion of ureter without renal injury is rarely caused by blunt trauma, only 28 cases having been reported in Japan. A 33-year-old male was admitted to our hospital 1 month after blunt abdominal trauma at work. He complained of left flank pain and macroscopic hematuria. Under the suspicion of renal or ureteral injury, drip infusion urography and abdominal computerized tomography revealed an extravasation from the left upper ureter and urinoma formation in the retroperitoneal cavity. In order to reduce the inflammation, the urinoma was drained. The retrograde pyelogram revealed complete obstruction at the left upper ureter, 20 cm from the left ureteral orifice. Urinary tract reconstruction, end-to-end ureteral anastomosis, was performed under the diagnosis of left ureteral avulsion. Drip infusion urography revealed normal ureteral healing without stricture formation at 2 years after reconstruction.

(Acta Urol. Jpn. 44: 327-330, 1998) Key words : Ureteral avulsion, End-to-end ureteral anastomosis, Urinary tract reconstruction

緒 言

鈍的外傷による腎外傷 を伴わない尿管断裂は,比 較

的稀な外傷である.受 傷直後の症状は比較的乏しく,

発見が遅れ,感 染の合併などにより腎の温存も困難な

ことがあ り,診 断および治療方法には十分な注意が必

要である.

今回,鈍 的外傷後1カ 月間,顕 著な症状が発現せず

尿管断裂の診断が遅れた症例に対 して,経 皮的尿嚢腫

ドレナージおよび尿管尿管端々吻合を施行 し,尿 路再

建 しえた症例を経験 したので若千の文献的考察を加え

報告する.

症 例

患者:33歳,男 性

主訴:左 腰背部痛および肉眼的血尿

既往歴:特 記することなし

家族歴:祖 母は胃癌,母 は子宮癌にて死亡.

現病歴:1994年1月19日,伐 採作業中,運 搬車と樹

木の間に挟 まれ受傷 し,近 医を受診 した.単 純X線 検

査で,第1か ら第5腰 椎の両側横突起骨折および第

Fig. 1. Abdominal plain CT revealed no re-

markable findings.

3,第4棘 突 起 骨 折 が診 断 され,近 医 整 形 外 科 に入 院

した.な お,整 形 外 科 入 院 時 に撮 影 した腹 部単 純CT

で は,両 腎 お よび 腎 周囲 に は異常 所 見 を認 め な か った

(Fig.1).ま た,受 傷 直 後 に 肉眼 的 血 尿 を認 め たが,

3日 後 に は消 失 した.受 傷 約1カ 月後 に左 側腹 部 腫 脹

お よ び左 腰 背 部 痛 が 出現 し,排 泄性 尿 路 造影(DIU)

にて左 水 腎症 お よ び左 上 部 尿 管 か らの造 影 剤 の溢 流 を

認 め た た め(Fig.2),尿 路 損 傷 が 疑 わ れ,1994年3月

328 泌尿紀要44巻5号1998年

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Fig.4.Theretrogradepyelogramrevealed

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ureter,20cmf}omtheleftureteral

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Fig.3.AbdominalCT,afterDIU,revealed

anextravasationfromtheleftupPer

ureterandurinomaformationinthe

retroperitonealcavity.

2日 当 科 を紹 介受 診 した.

入 院 時 現 症=体 格 栄 養 中 等 度,意 識 清 明.血 圧

138/90mmHg,脈 拍ll2/分,整,体 温35.6℃.胸 部

に異常 所 見 を認 めず,左 側 腹 部 に圧 痛 を伴 う新 生児 頭

大 の腫 瘤 を認 め た.

入 院時 検 査成 績:血 液一 般 お よび血 液生 化 学 検査 に

て 異 常 を認 めず 検 尿 で は潜 血(一),沈 査 でWBC

3-・4/hpf,RBCO～1/hpfで あ った.

画像 診 断:DIU後 に施 行 した 腹部 単 純CTで は,

左 腎 孟 腎杯 に造 影剤 の残 存 が み ら れ,L2レ ベ ルで は

Gerota筋 膜 内 に少 量 の造 影 剤 の貯 留 を認 め,L4レ ベ

ル で は左 後腹 膜 の 尿嚢 腫 と筋層 へ の 造影 剤 の 浸 透 が認

め られ た(Fig.3).

入 院 後経 過:以 上 よ り尿 路損 傷 が 疑 わ れ,1994年3

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晩.

Fig.5.DIUrevealednormalureteralhealing

withoutstrictureformationat2years

afterreCOnStrUCtiOn.

年2日 当科へ転科 となり,同 日超音波ガイ ド下に尿嚢

腫 を穿刺 し,660mlの 淡黄色の内容液を吸引 し,ド

レナージカテーテルを留置 した.

また同時に施行 した逆行性腎孟造影では,L3-4レ

ベルより中枢側の尿管は,ま った く造影されず完全閉

塞 を呈 していた(Fig.4).

以上 より外傷性尿管断裂 と診断 し,同 年3月22日 全

身麻酔下にて尿管尿管端々吻合を施行 した.

壬生,ほ か:外 傷性尿管断裂 尿管尿管端々吻合 329

Tablel. CasesofuretcralavulsioncausedbyabdominalblunttraumareportedinJapan

Age

Sex

Affectedside

Siteofinjury

Causcofinjury

Procedureofreconstruction

Male

Female

Right

Left

Unknown

Ureteropelvicjunction

Upperureter

Midd且eureter

Lowcrureter

Unknown

Tra伍caccident

Occupationalaccident

Fall

Nephrectomy

Pyeloureterostomy

UreterOUreterOStOmy

UreterOCyStOStOmy

Pyeloileocystostomy

Simplesuture

Unknown

2～63(Average25.8)

24

5

14

14

1

16

5

5

1

2

19

6

4

10

4

10

2

1

1

1

手術 所 見:約2カ 月 にお よぶ尿 溢 流 の ため,後 腹 膜

全 体 に強 い癒 着 が み られ,Gerota筋 膜 の肥 厚 は著 明

で あ った.Gerota筋 膜 後 背 面 を剥 離 し,腎 下 極 背 面

でGerota筋 膜 を切 開 して,尿 管 を見 いだ した.上 部

尿 管 は腎孟 尿 管 移 行 部 の 下 方 約2cmに 渡 って完 全 に

閉塞 してお り,尿 管 の連 続性 は な く,吻 合 可 能 な上 下

尿 管 間 は約4cm離 れ て い た.左 腎 全体 を剥 離 して腎

の可 動 性 を もた し,7FrD-Jス テ ン トを留 置 して,

尿 管尿 管 端 々吻合 を施 行 した.な お,尿 嚢 腫 壁 は尿 管

吻 合後 に切 除 した.

術 後 経 過:術 後 合 併 症 もな く,D-Jス テ ン トを457

日目 に抜 去 した.術 後2年 目に施 行 したDIUで は,

左 腎 の腎 孟 腎杯 に拡 張 を認 めず,左 尿管 の通 過 も良好

で あ っ た(Fig.5).

考 察

近年,交 通事 故 や 産 業事 故 の増 加 と と もに尿路 外 傷

も増 加 して い る.こ れ まで 当教 室 で は,腎 外 傷1),下

部 尿 路 損 傷2)に つ い て報 告 して きた が,鈍 的外 傷 に よ

る腎 外傷 を伴 わ ない 尿管 断裂 の報 告 は初 めて で あ る.

本 邦 で は,わ れ われ が調 べ え たか ぎ りで は 自験 例 が29

例 目5'11)に あた る(Tablel),

外 傷 性 尿 管 断 裂 の 発 生 機 序 に つ い て は,Rezni-

chek3)ら は,1)上 部 尿 管 と腎 孟 が 第12肋 骨 や腰 椎 横

突起 に圧 迫 され る こ と,2)体 幹 の顕 著 な側 屈,3)腎

が上 方 へ 急 激 に偏 位 し,そ の た め に尿 管 が 過伸 展 す る

こ とを挙 げ て い る.腎 孟 尿 管 移 行部 は,比 較 的可 動 性

に乏 し く,周 囲支 持 組 織 も少 な い た め,損 傷 が最 も生

じやすい部位である.自 験例では,第1か ら第5腰 椎

の両側横突起骨折があ り,牽 引され緊張 した上部尿管

が第2腰 椎左横突起に圧迫され断裂を生 じたものと考

えられる.

症状は,silentpathologyと いわれるように他の合

併損傷に隠されることが多いため,受 傷後かなり時間

が経過してから診断されることが多い4・5)自 験例も,

受傷から診断まで約1カ 月の期間を要 したが,そ の理

由としてD腰 椎横突起骨折の痙痛により,尿 管断裂

による腰背部痛が隠されていたこと,2)受 傷直後の

腹部単純CTに て異常 を認めなかったことより,受

傷直後は不完全断裂であった尿管に,そ の後徐々に緊

張がかか り完全断裂に至ったのではないかというこ

と,3)受 傷直後は肉眼的血尿を認めたが,3日 後に

は消失し,泌 尿器科受診が遅れたこと,な どが考えら

れた.尿 管損傷は放置されると尿嚢腫や感染を合併し

て膿瘍を形成 し,敗 血症となったり,腎 温存が困難な

ため腎摘除術 となる場合が多い6)が,自 験例は,感 染

を伴わなかったことと尿嚢腫に対 し経皮的に ドレナー

ジができたことより,腎 周囲に荒廃をきたさず,腎 の

温存が可能であった.

治療は,本 邦では尿路再建術(腎 孟回腸膀胱吻合

術7)を含む)と 腎摘除術が行われているが,腎 摘除術

を施行された症例は受傷から手術 までの期間が長 く,

尿管断裂による後腹膜腔の広範な癒着を引き起こし,

尿路再建術を困難にしていた.自 験例では後腹膜全体

に強い癒着がみられ,し かも吻合可能な尿管尿管間は

約4cm離 れていたが,腎 全体を丁寧に剥離し,腎 の

330 泌尿紀要44巻5号1998年

可動性 をもたせることにより尿管尿管端々吻合を施行

できた.

以上より,腹 部外傷症例においては全身状態が許す

かぎり,尿 管断裂 を含めた尿路損傷 も念頭に置 き,

DIUや 造影CT検 査を行い,早 期発見 早期治療に

努めるべきであると考えられた.

結 語

33歳男性の鈍的外傷による腎外傷を伴わない尿管断

裂の1例 を経験 し,若 干の文献的考察を加え報告 し

た.

本論文 の要 旨は第158回 日本泌尿器科学会 関西地方会 にお

いて発表 した,

文 献

1)田 中雅博,大 園誠 一郎,木 村 昇紀,ほ か:腎 外 傷

の臨 床 的検 討.泌 尿紀 要40:975-980,1994

2)田 中雅博,大 園誠 一郎,高 島健 次,ほ か:下 部 尿

路 損 傷 の臨 床 的検 討.泌 尿紀 要43:7-12,1997

3)ReznichekRC,BrosmanSAandRhodesDB:

Ureteralavulsionfromblunttrauma.JUrol109:

812-816,1973

4)WhitesidesEandKozlowskiDL:Ureteralinjury

frombluntabdominaltrauma:casereport.JUrol

36=745-746,1994

5)多 田 晃 司,由 羽 正 義,田 村 公 一,ほ か:交 通 事 故

に よ る 非 開 放 性 尿 管 断 裂 の1例.泌 尿 紀 要35:

1581-1584,1989

6)宮 崎 裕,石 川 清,山 本 勝,ほ か:外 傷 性 尿

管 断 裂 の1例.西 日泌 尿46:123-127,1984

7)石 戸 谷 滋 人,伊 藤 晋,大 山 力,ほ か:外 傷 性

尿 管 断 裂 の2例.泌 尿 器 外 科4:839-842,1991

8)山 田 博 彦,安 富 祖 久 明,永 吉 盛 司:尿 管 完 全 断 裂

の1例.沖 縄 医 会 誌29:201-202,1992

9)堀 建 夫,山 崎 淳 之,林 幹 男,ほ か:鈍 的 外 傷

に よ る 尿 管 断 裂 の2例.日 泌 尿 会 誌80:1524,

1989

10)斉 藤 良 司,薄 宏:鈍 力 に よ る 腎 孟 破 裂 お よ び

尿 管 断 裂 の 各1例.日 泌 尿 会 誌78:1633,1987

11)竹 沢 豊,岡 村 桂 吾,柴 田 康 博,ほ か=尿 管 損 傷

の 臨 床 的 検 討.泌 尿 紀 要41:355-358,1995

(昼:::臨欄y,糊)