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NTT技術ジャーナル 2008.9 52 NTTグループの危機管理・防災ソリューション 主役登場 ちょうど仕事の関係で某市と共同での防災訓練(大地震 発生後の避難訓練等)の打合せを行った翌日,2008年6 月14日の午前8時43分ごろ,偶然にも岩手県・宮城県に て強い地震が発生し,他人事とは思えない恐怖を感じまし た.「岩手・宮城内陸地震」と命名されたこの地震は,岩 手県奥州市と宮城県栗原市で震度6強,震源の深さは約8 キロ,マグニチュード7.2という非常に大きなものでした. 13年前には兵庫県南部地震,近年では新潟県中越地震, 能登半島地震,新潟県中越沖地震などが起こり,また今後, 1854年の安政東海地震以来150年以上地震を起こして いない東海地震は,いつ起きても不思議ではない状況とさ れています.そしてさらに,約200年間隔で起き,ある 程度の切迫性があるといわれる首都直下地震については, 死者約1万1千人,経済的損失約112兆円に上ると予想さ れています.日本は,世界の地震の約2割以上が発生して いる有数の地震列島であり,私たちの暮らしはいつ来るか 分からない大地震の脅威に常に脅かされています. このような状況の中,行政における防災への取り組みが 重点化されるとともに,企業,住民の多くからも「安心・ 安全」を求める声が年々高まっています.これらを踏まえ, NTT環境エネルギー研究所では,防災情報伝達制御シス テムとして,確実に屋外などの住民に避難情報を伝えるた めの堅牢な同報配信システムの仕組みと,お年寄りを含め た屋内住民に確実に避難情報を伝えるための仕組み,また, 避難所に避難してきた住民に対して公平性のある情報を配 信するための仕組み,そして職員の災害時の初動を迅速化 できる操作性の仕組みを開発するとともに,自治体やグ ループ会社との共同実験を通じて成果を挙げてきました. 今問題視されている1つに,災害で気象庁や国土交通省 の観測データに基づき行政機関より発令される避難勧告や 指示に,残念ながら当該地域に住む人々が従わないといっ た実例が多数あり,行政にとっては憂慮に堪えない事態が 発生しています.今後の防災情報システムにおいては,行 政からのこのような呼び掛けの際に,住民が速やかに行動 を起こすための仕掛けが必要だと考えています.また,行 政内における各拠点での通信網のさらなる堅牢化を図り, いかなる災害時でも必ずつながり,重要な情報を迅速に共 有化できるという業務遂行の確実性に資する仕組みや,特 定のメディアに依存することなく避難情報などを住民へ届 け得る仕組みづくりが肝要です.そしてこれらの実現のた め,プロデューサとともに,NTTグループ各社と協力し, 研究開発を進めています. 私自身の事業会社での各期限プロジェクト業務で培った ネットワーク構築のスキル,現場経験で得たサービス向上 のノウハウ,そして仕様検討や共同実験にて得たグループ各 社との関係と,実際にお客さまが何を望んでいるかといっ た視点を大事にしながら,防災分野の研究開発を行い,事 業および社会貢献を進めていきたいと思います. いつ来るか分からない大地震の 脅威と対応策 榎本 裕幸 NTT環境エネルギー研究所 研究員

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  • NTT技術ジャーナル 2008.952

    NTTグループの危機管理・防災ソリューション

    主役登場

    ちょうど仕事の関係で某市と共同での防災訓練(大地震

    発生後の避難訓練等)の打合せを行った翌日,2008年6

    月14日の午前8時43分ごろ,偶然にも岩手県・宮城県に

    て強い地震が発生し,他人事とは思えない恐怖を感じまし

    た.「岩手・宮城内陸地震」と命名されたこの地震は,岩

    手県奥州市と宮城県栗原市で震度6強,震源の深さは約8

    キロ,マグニチュード7.2という非常に大きなものでした.

    13年前には兵庫県南部地震,近年では新潟県中越地震,

    能登半島地震,新潟県中越沖地震などが起こり,また今後,

    1854年の安政東海地震以来150年以上地震を起こして

    いない東海地震は,いつ起きても不思議ではない状況とさ

    れています.そしてさらに,約200年間隔で起き,ある

    程度の切迫性があるといわれる首都直下地震については,

    死者約1万1千人,経済的損失約112兆円に上ると予想さ

    れています.日本は,世界の地震の約2割以上が発生して

    いる有数の地震列島であり,私たちの暮らしはいつ来るか

    分からない大地震の脅威に常に脅かされています.

    このような状況の中,行政における防災への取り組みが

    重点化されるとともに,企業,住民の多くからも「安心・

    安全」を求める声が年々高まっています.これらを踏まえ,

    NTT環境エネルギー研究所では,防災情報伝達制御シス

    テムとして,確実に屋外などの住民に避難情報を伝えるた

    めの堅牢な同報配信システムの仕組みと,お年寄りを含め

    た屋内住民に確実に避難情報を伝えるための仕組み,また,

    避難所に避難してきた住民に対して公平性のある情報を配

    信するための仕組み,そして職員の災害時の初動を迅速化

    できる操作性の仕組みを開発するとともに,自治体やグ

    ループ会社との共同実験を通じて成果を挙げてきました.

    今問題視されている1つに,災害で気象庁や国土交通省

    の観測データに基づき行政機関より発令される避難勧告や

    指示に,残念ながら当該地域に住む人々が従わないといっ

    た実例が多数あり,行政にとっては憂慮に堪えない事態が

    発生しています.今後の防災情報システムにおいては,行

    政からのこのような呼び掛けの際に,住民が速やかに行動

    を起こすための仕掛けが必要だと考えています.また,行

    政内における各拠点での通信網のさらなる堅牢化を図り,

    いかなる災害時でも必ずつながり,重要な情報を迅速に共

    有化できるという業務遂行の確実性に資する仕組みや,特

    定のメディアに依存することなく避難情報などを住民へ届

    け得る仕組みづくりが肝要です.そしてこれらの実現のた

    め,プロデューサとともに,NTTグループ各社と協力し,

    研究開発を進めています.

    私自身の事業会社での各期限プロジェクト業務で培った

    ネットワーク構築のスキル,現場経験で得たサービス向上

    のノウハウ,そして仕様検討や共同実験にて得たグループ各

    社との関係と,実際にお客さまが何を望んでいるかといっ

    た視点を大事にしながら,防災分野の研究開発を行い,事

    業および社会貢献を進めていきたいと思います.

    いつ来るか分からない大地震の脅威と対応策

    榎本 裕幸NTT環境エネルギー研究所研究員