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沖野研究室 未来産業技術研究所 東京工業大学 2018 公式パンフレット

公式パンフレット - 東京工業大学ap.first.iir.titech.ac.jp/pdf/LabGuide1804.pdf究院 未来産業技術研究所(旧精密工学研究所)に参画し,さらに活動の幅を広げています。

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沖野研究室

未来産業技術研究所東京工業大学

2018

公式パンフレット

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ご あ い さ つ Message from Prof. Okino 東京工業大学未来産業技術研究所沖野研究室では,プラズマ工学,電気電子回路・計測,物理,

化学,分光計測などをベースとして,温度制御マルチガス低温プラズマ(Low Temperature Plasma, LTP)をはじめとした世界最先端の大気圧プラズマ装置を開発し,それぞれの特性を活かした様々な分野への応用研究を行っています。現在の主な研究テーマは,生体表面付着物の超高感度分析装置開発,単一細胞や単一微粒子中の極微量元素分析装置開発,内視鏡治療用プラズマジェットをはじめとした医療関連分析・殺菌・止血処理機器開発,生命科学や農業・美容などに応用できるプラズマ処理法・装置の開発,材料分野に応用できる表面処理法開発などで,主に医療・分析・環境・農業・材料などの分野に貢献できる先端プラズマ機器の開発と応用研究を行っています。 我々の研究室の関連する主な学術分野・キーワードは,プラズマ,分光,光学,放電,分析化

学,単一細胞分析,医療機器,再生医療,iPS 細胞,ゲノム編集,表面処理,殺菌,接着,農業,美容,3D プリンタなどで,各種大気圧プラズマ装置の設計・製作,光・イオン・活性種などの測定,殺菌・分析・表面処理などの実験,プラズマや回路等のシミュレーションを有効に組み合わせた研究と教育を行っています。 沖野研究室は 2001 年,大学院総合理工学研究科創造エネルギー専攻に誕生しました。2015

年度まで,同専攻の堀田研究室および藤井研究室(2009 年度までは根本研究室)とともに,プラズマ研究グループとして活動してきましたが,2016 年春の東工大の教育改革による改組と堀田栄喜教授の定年退職に伴い,単独研究室での活動を始めました。また同時に,科学技術創成研究院 未来産業技術研究所(旧精密工学研究所)に参画し,さらに活動の幅を広げています。 2001 年の研究室開設より,13 名の博士,52 名の修士,3 名の学士を輩出してきました。修

了生は国内外の企業,大学,研究所等で活躍しています。海外の大学や企業との交流も活発に行っています。沖野准教授は 98年~99年米国ワシントンD.C.の The George Washington Univ.に客員研究員として,06年~07年米国ロサンゼルスのUCLAに客員教授として滞在しました。学生も米国のDrexel Univ.,Indiana Univ.,ドイツのMünster Univ.,BAM Berlin などに留学するほか,全ての学生が国際会議で発表を行ってきました。国内でも連携を強めています。2011年より,沖野准教授が神戸大学大学院医学研究科の客員准教授を兼務し,医療や農業の分野での共同研究を行っています。また,国内外の企業のほか,関西学院大学,東京医療保健大学,鳥取大学,神戸芸術工科大学,中央大学,東京大学,農業・食品産業技術総合研究機構,警察庁科学警察研究所,産業技術総合研究所等と協力して研究を行っています。 沖野研究室では,学部は工学院電気電子系,大学院は電気電子系ライフエンジニアリングコー

スおよび電気電子コースの教育を担当しています。大学院では,学内生のほか全国の大学・高専の全ての学科・専攻からの修士・博士後期課程への進学を歓迎しています。修士課程は電気電子系の大学院入試の突破が必要ですが,これまでの専門分野は問いません。プラズマ応用に興味のある人はぜひ受験して下さい。より詳しい研究内容や各種の最新情報等は研究室のホームページをご覧下さい。研究室の見学や訪問等は一年を通して歓迎していますので,ご興味をお持ちの方は電子メールで気軽にお問い合わせ下さい。

また,国内外の企業との共同研究・技術指導,社会人博士の入学,修士・博士後期課程への再入学等も常時募集していますので,ご相談下さい。 2018 年 4月 東京工業大学 未来産業技術研究所

准教授 沖 野 晃 俊

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教員および学生紹介

Staff and Students

准教授 沖野 晃俊 Associate Professor, Dr. Akitoshi Okino 京都市立堀川高等学校出身。大阪大学工学部応用物理学科卒業,東京工業大学大学院原子核工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。東工大電気・電子工学科助手を経て 01 年総合理工学研究科助教授(准教授)。2016 年より現職。98年~99 年 The George Washington 大学客員研究員,06年~07 年 UCLA客員教授,11年~神戸大学大学院医学研究科客員准教授兼務。08年プラズマコンセプト東京の起業に参加。過去の趣味:クラシック鑑賞 全盛期には年間100 回近いコンサートを聞く。京都市響,大阪フィル,新日本フィル,日本フィル,N響,ワシントンナショナル響の定期会員を歴任。音楽評論家になれるかと思った。現在の趣味:娘とおでかけ,深夜のテニス,F30-AH3 の微妙なモディファイ。

博士後期課程 三宅 智子

Doctoral Course Student, Tomoko Miyake 2004 年京都大学大学院生命科学研究科修了。社会人博士として在籍し,大気圧プラズマの美容,医療への応用を担当。趣味:キャッチボール,金曜日のお菓子パーティー。

修士課程 岡本 悠生 Master's Course Student, Yuki Okamoto 2017年東京理科大学理工学部卒業。学部時代は小型風力発電の出力変動の解析を研究テーマとしていた。現在は,大気圧低温プラズマを用いた表面付着物の高感度分析装置の開発担当。趣味:スポーツ観戦,下町で居酒屋巡り。

修士課程 河野 聡史

Master's Course Student, Satoshi Kohno 2017年東京工業大学電気電子工学科卒業。大気圧プラズマを用いた単一細胞内に含まれる微量元素の分析に関する研究を担当。早起きが永遠の課題。趣味:スノーボード,バイク,散歩。今年の目標:生活リズムを規則正しくすること。

修士課程 末永 祐磨 Master‘s Course Student, Yuma Suenaga 2017 年鹿児島工業高等専門学校専攻科修了。大気圧プラズマの医療や各種産業への応用を研究。鹿児島訛りが依然として健在。最近はビーフジャーキーなど燻製料理にチャレンジ中。趣味:テニス,卓球,PC ゲーム,イラスト描き,ものづくり。今年の目標:英語の論文を速く読めるようになること。

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大気圧プラズマ装置の新しいコンセプト

New concepts of our brand-new atmospheric plasma sources 物質は持っているエネルギーの大きさに応じて固体から液体,気体へと状態が変化し,気体にさらにエネルギーを加えると原子と電子が分離した,プラズマの状態になります。プラズマ中には高エネルギーの粒子が多数存在するため,物質分解や半導体プロセシングなどに使用されてきました。 従来,プラズマはガラスや金属の容器内の低気圧下で生成されて利用されてきました。これは主に,低気圧がプラズマの生成に適しているという理由によるものです。大気圧プラズマの研究は 50年以上前から行われてきましたが,温度が数千度と高かったため,廃棄物処理やガス分解,溶射などに応用先が限られていました。ところがここ 10年ほど,大気圧プラズマの研究と応用がさかんに報告されるようになっています。これは,室温に近い低温な大気圧プラズマが生成できるようになり,様々な物質に自由にプラズマを照射する事が可能となったためです。従来の低気圧プラズマでは,半導体,金属,セラミックスなどの,真空容器に入れられて,プラズマの高温に耐えられるものが対象でしたが,大気圧プラズマでは基本的に何にでも自由にプラズマを照射できるため,生体やプラスチックなど,熱に弱い素材への照射をはじめとして,適用範囲が一気に増えたわけです。 沖野研の大気圧プラズマ装置の特徴を示すキーワードは,「マルチガス」,「ダメージフリー」,「温度制御」の 3つです。現在までに開発されている大気圧プラズマ装置のほとんど全ては,ヘリウム,アルゴン,窒素,空気など,使用できるガスに制限があります。我々は,あらゆるガスをプラズマ化できる「マルチガス」を重要なキーワードとして大気圧プラズマ装置を開発しています。当然と言えば当然ですが,プラズマを生成するガスを変えると,生成されるラジカルや励起原子などの活性種が変わりますので,プラズマの特長は大きく変わり,処理効果も全く変わります。なので,所望の処理に最も適したガスでプラズマを生成する必要があります。 また,放電や熱による損傷のない「ダメージフリー」なプラズマ源を開発しています。ダメージフリープラズマでは,プラズマの電位などを制御することで,放電による損傷を可能な限り低減します。これにより,放電損傷に敏感な回路基板や生体にも安全にプラズマを照射できます。 先にも書いたように,室温に近い 30~200℃程度の大気圧プラズマが,低温プラズマとして注目されています。従来の数千度の熱プラズマに比べると格段に低温ですが,室温よりは高温であり,また精密な温度制御は困難でした。これに対して我々は,零下から高温まで 1℃以内の精度で制御可能な「温度制御」プラズマを開発し,多数の特許を取得しました。温度に弱い素材や人体,細胞,植物などへのプラズマ照射や,各種の化学反応に最適な温度でのプラズマ処理を実

現することが可能です。 我々は,これらのコンセプトをもとにした様々なプラズマ装置を開発しています。例えば,上のマルチガス高温プラズマ,左のマルチガス低温プラズマジェットなど,それぞれの処理に適した形状のプラズマ装置を開発してきました。2015年には,世界で初めて金属の 3Dプリンターを用いて,直径 3.5 mm の内視鏡治療用プラズマジェットを開発し,論文を発表しました。現在,プラズマ源の設計には 3D-CAD,製作には金属の 3Dプリンタを主に使用しています。

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零下から高温までの大気圧温度制御プラズマ

Temperature controllable plasma

プラズマには,電子温度,励起温度,ガス温度,イオン温度などの様々な温度が定義されています。これらのうち,我々が熱い冷たいと感じる温度に一番近い温度は,ガス温度になります。2,000 年頃までは大気圧プラズマは熱プラズマと呼ばれ,数 1,000℃のガス温度を持つ高温プラズマでした。このため,廃棄物処理や有害ガス分解のための熱源として利用されてきました。しかし,近年,ガス温度が室温程度の低温プラズマが開発され,表面処理や医療の分野で注目を集めています。例えば,表面処理の分野ではプラスチック等の熱に弱い素材の親水化処理に使用されはじめています。医療の分野では,生体に熱の影響を与えずに殺菌や止血できるツールとしての応用が期待されています。しかし,従来の低温プラズマのガス温度は,低温とはいっても 40~100℃程度であり,生体などの熱に弱い対象に長時間照射することは困難でした。このため,従来はプラズマを生成する際のエネルギーを制限することで,プラズマのガス温度の上昇を抑えていました。しかし,プラズマも弱くなるため,処理効果も低下していました。

そこで沖野研究室では,上のようなヘリウムプラズマのガス温度制御システムを考案しました。このシステムでは,ボンベから供給されたガスを一度冷却した後,そのガスをヒーターで加熱します。このヒーターの加熱を制御することで,プラズマの温度を自由に制御する事が可能になりました。この手法では,プラズマを生成するエネルギーとは独立に,プラズマのガス温度を零下から高温まで制御する事ができます。実験では,零下 50℃から,160℃程度の範囲で,±1℃以内の精度でガス温度を制御することに成功しており,世界各国で特許を取得しています。零下のプラズマでは,右の写真のようにで水を凍結させる事も可能です。沖野研究室では,世界で初めてガス温度と表面処理効果や殺菌効果や活性種生成量などの調査を行い,論文を発表しました。

さらに,沖野研究室では様々な種類のガスでプラズマを生成できる,マルチガスプラズマ装置にも温度制御を適用しました。マルチガスプラズマ装置は金属の筐体のため,従来の温度制御方式ではガスと筐体の間で熱交換が起きてしまうため,ガス温度を大幅に変えることが困難でした。そこで,下の図のように温度を制御した流体を筐体内部に流し,筐体の温度を制御することで,筐体からガスに熱を伝達させる装置を開発しました。この装置により,従来ではできなかっ

た様々なガス種のプラズマの温度制御に成功しました。これによって,人体や植物などの熱に弱い対象に熱損傷を与えずに,今までよりも高い効果のプラズマ処理が可能になりました。プラズマのガス温度を変えると,プラズマ処理の要因となる活性種の生成量も変わることが明らかになっています。このため,ガス温度を制御することでプラズマ処理効果の最適化や処理要因の解明につながると期待されます。

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内視鏡止血用小型マルチガスプラズマジェット

Multi-gas plasma jet device for endoscopic hemostasis

近年,開腹手術のように大きな傷口を作らない治療法として,内視鏡による低侵襲な治療の需要が高まっています。消化器系の内視鏡的止血術には,アルゴンプラズマ凝固装置(APC)と呼ばれるプラズマ装置が広く使用されています。しかし,APCは約 3,000℃の熱によって止血部を焼くことで止血するため,使用中に組織に穴をあけたり,術後に潰瘍を生じてしまう場合がありました。

そこで沖野研究室は,ガス温度が室温から100℃程度の大気圧低温プラズマを用いた,内視鏡治療用プラズマ止血装置の開発を行っています。この装置では,熱によって血液凝固を行うものではなく,プラズマ中で生成される反応性の高い活性種を血液と化学的に作用させことで血液凝固を行います。このため,使用するプラズマの温度は高温である必要はなく,プラズマを照射した部位の損傷は APC よりも軽減されると期待できます。ただし,プラズマ装置を内視鏡に組み込むためには,直径 3.2 mmの鉗子口に挿入できる小型のプラズマ源が必要となりますが,従来の切削や溶接といった機械加工ではプラズマ源の小型化に限界がありました。沖野研究室では,微細で複雑な構造でも精密に造形できる金属の 3Dプリンタを用いることで,直径 2.8 mmの小型プラズマジェットを開発することに成功しました。左上図のように,内視鏡に挿入して,様々なガスのプラズマを生成することが可能です。

in vitro および in vivo での止血実験を行った結果,内視鏡下の止血には,窒素の約 160 倍の生体吸収性を持ち,血栓を生じにくい二酸化炭素が適している事を示しました。そして,開発したプラズマ装置の実用化に向けて,生体豚の胃や大腸で実際の出血を再現し,内視鏡下での止血効果や処理後の組織への侵襲性を調査しています。右写真のように,内視鏡下でブタの胃粘膜の出血部に対してプラズマを照射し,止血処理を施します。放電電力1.8 W,ガス温度65℃および6.8 W,108℃の場合,それぞれ約90秒および約30秒で止血することに成功し,放電電力を上げることで止血速度が向上する事を確認しました。また,止血処理部を顕微鏡で観察したところ熱損傷は見られず,開発したプラズマ装置の低侵襲性を確認しました。さらに,止血処理部の経過観察を行ったところ,左下の写真のようにAPCによる止血処理では 5日後の組

織に潰瘍化が見られましたが,開発した低温プラズマジェットでは潰瘍化は見られず,良好な回復を確認しました。以上の結果のように,内視鏡的止血術における,低温プラズマ止血装置の有効性を示す事ができました。今後は,より迅速な止血を行うため,多くの活性種を遠くまで運ぶことのできるパルスジェットを利用したプラズマ(詳しくは 8ページ)などの利用を行っていきます。これらの研究は神戸大学医学部や鳥取大学農学部等と協力しながら行っています。

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CO2

N2

GFP 自家蛍光 明視野ガス

GFP 自家蛍光 明視野プラズマ

シロイヌナズナ(葉,双子葉植物)

GFP 自家蛍光 明視野プラズマ

イネ(根,単子葉植物)

GFP 自家蛍光 明視野ガス

植物の種類および組織に限らずタンパク質を導入できることを示した

プラズマ照射による植物細胞内への生体高分子導入 Introduction of macromolecules into plant cells by plasma irradiation 現在,収穫量や品質向上などのために,植物の品種

改良が行われています。品種改良するためには,違う個体同士の交配や薬剤処理等によってゲノム DNA にランダムに変異を入れるなどの手法が用いられています。しかし,これらの方法で有用品種を生み出すには,非常に長い時間と大変な労力が必要です。また,外来遺伝子を細胞内に導入する遺伝子組換えは,導入遺伝子がゲノム DNA 上に組み込まれて次世代に遺伝するため,遺伝子拡散や遺伝子組換え作物に対する消費者の拒絶反応といった問題があります。このため,近年ではタンパク質を細胞内に導入してゲノムDNAを改変するゲノム編集が新しい品種改良法として注目されています。導入タンパク質はその細胞内で分解されるため,導入因子が残る遺伝子組換えとは異なり,得られたゲノム編集植物には外来タンパク質は含まれません。 動物細胞では,タンパク質やDNAの導入技術が多く確立されています。しかし,植物細胞の

場合は,組織表面を覆うクチクラ層や細胞壁といった構造があるため,動物細胞で利用されている技術をそのまま利用することは困難です。このため,既存の技術では前処理が必要であったり,タンパク質を導入する対象の組織や植物種に制限があります。

沖野研究室では農業・食品産業技術総合研究機構と共同で,温度制御した窒素や二酸化炭素のプラズマを植物の組織に照射することで,細胞内にタンパク質を導入することに成功しました。左は,緑色蛍光を発する GFP 融合タ ン パ ク 質 ( 分 子 量 約75,000)をシロイヌナズナの

葉とイネの根の細胞内に導入したときの共焦点顕微鏡画像です。タバコとシロイヌナズナの葉,イネの根のいずれにもタンパク質を導入できました。さらに,タンパク質だけでなく,分子量約4,100,000 の DNAの導入にも成功しました。開発した生体高分子導入法は,適用できる植物種や組織の範囲が広く,特殊な前処理が不要であるため,実験室のみならず農業の現場等での利用が期待できます。 タバコ葉に対して同様の処理を,温度制御しないプラズマを用いて行った場合,下図のように

葉がダメージを受けてタンパク質を導入することができませんでした。また,ガス種を変えることによって,導入の可否や導入量が変わることが明らかとなりました。このため,沖野研究室では,植物への生体高分子導入に適した温度制御マルチガスプラズマ装置の開発を急いでいます。 現在は,開発した生体高分子導

入技術を実際のゲノム編集へ利用できる技術にするための技術開発に取り組んでいます。

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プラズマバブル水の応用と殺菌メカニズムの解明

Plasma bubbled-up water and investigation of sterilization mechanism

医療,農業,食品などの分野では,機器や野菜,水などを清潔に保つための方法として,加熱処理や薬剤による殺菌が使用されています。しかし,これらの殺菌方法では熱による変性や薬剤の残留などが問題となっており,新しい殺菌手法の開発が求められています。その一つの候補

として,大気圧低温プラズマによる殺菌が注目を集めています。プラズマの殺菌要因はヒドロキシルラジカルや一重項酸素などの反応性の高い化学活性種による細胞膜やDNA の損傷などであると考えられていますが,詳細な殺菌メカニズムは明らかになっていません。そこで沖野研究室では,様々なガスをプラズマ化できるマルチガスジェットプラズマなどを使用して,各ガス種プラズマによる細菌の不活化実験を行ってきました。

従来のプラズマを直接照射する殺菌方法では,プラズマと対象物との接触面積が小さく,大面積の殺菌処理に時間を要していました。そこで,プラズマを水に直接照射し,水そのものに殺菌効果を持たせるプラズマ処理水の研究が進められています。プラズマ処理水を用いることによって,水中の対象物の表面などを効率よく殺菌できます。しかし,従来のプラズマを水に照射する方法では,プラズマと水との接触面積が小さく,また,化学活性種が周辺空気の影響を受けるため,水中に効率よく活性種を導入するこ

とができませんでした。そこで沖野研究室では,プラズマを微小な泡として水中に導入するプラズマバブリング方式を提案し,従来のプラズマを水に照射する手法と比較して,下左図のように20倍以上の活性種導入速度を実現しました。

さらに,この方法によって生成した水は殺菌効果を持つため,プラズマバブル水と呼んで殺

菌などに応用する研究を行っています。ただし,活性種には寿命があるため,水中の濃度は減少していくため,プラズマバブル水の殺菌効果は,上右図のように数分~1時間程度でなくなります。このため,作成したプラズマバブル水は保存できず,すぐに使用する必要があります。逆の考え方をすると,一定時間で殺菌力のない普通の水に戻りますので,安全な殺菌水であるとも言えます。我々はこの特徴を活かすべく,医療機器の殺菌,食品や農業用の洗浄,最終的には人体の殺菌等への応用をめざして研究を開始しています。また,このバブル水に超音波を照射して機器等の表面に付着した細菌の殺菌,マイクロバブルと併用して殺菌と洗浄の効果を持つ水としての応用を進めています。

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遠距離・高速表面処理用超音速プラズマジェット

Supersonic plasma jet source for long-distance and high-speed surface treatment 現在,プラズマ処理による表面処理は,接着,印刷,めっきなどの前工程において重要な役割を担っています。例えば,材料同士を強力に接着したい場合には,表面に付着した有機物や酸化物などを取り除く必要があります。従来は薬剤を用いたウェットな表面処理が行われてきましたが,コストや環境性を考えると,ドライな処理が望まれます。プラズマを表面に照射すると,プラズマ中で生成された活性種によって対象の表面に付着した有機物が除去されます。また,基材と接着剤の橋渡しとなるアミノ基などの官能基を付与することも可能です。 従来,プラズマの生成は真空チャンバ内の低気圧下で行われてきました。これは,低気圧がプラズマの安定生成に適しているためです。しかし,工業応用を考えると,低気圧下での処理はコストや連続処理の観点から,不利な部分が多くなります。また,自動車や飛行機などの大型な物体や生体は真空チャンバに入れる事はできません。そこで,これらの問題を解決する,大気圧プラズマが注目を集めています。沖野研究室では,大気圧プラズマが高温プラズマだけだった頃から25 年以上にわたって大気圧プラズマの研究を行い,安定生成法のノウハウを蓄積しています。

これを駆使して,様々な方式や形状の大気圧プラズマ装置を開発しています。例えば,右上のリニア型の装置では,335 mm幅で高密度なプラズマがカーテン状に照射されます。これで金属やフィルムなどを処理すると,写真のように親水化効果を得る事ができます。 ただ,大気圧下ではプラズマの活性力は短時間で減衰するため,遠方の対象を処理することは困難でした。そこで沖野研究室では,遠距離の処理を実現できる,超音速パルスプラズマジェットを開発しています。まず,低速なガス流で高密度なプラズマを生成しておき,高速のガス流で短時間で遠方に輸送します。これにより,プラズマ中の高密度な活性種が反応性を失う前に遠方の処理対象に照射されます。近距離の場合には,より多く

の活性種を対象に到達させる事が可能なため,高速な処理が期待できます。プラズマの噴出速度を調べるため,シュリーレン法を用いて窒素プラズマの流速を測定した結果,下の写真に示すように超音速由来のショックダイヤモンドと呼ばれる衝撃波を観測しました。ショックダイヤモンドの形状から求めた流速はマッハ 1.7 であり,超音速のプラズマを大気圧下で生成する事に成功しました。これにより,従来の数倍の距離のプラズマ処理を実現しました。 詳細は書けませんが,沖野研ではこれらの処理を各種の工業分野に応用する研究を行っています。

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単一細胞中の全元素超高感度分析システム

Measurement system of multi-elements in single cell 超微量の元素を分析する手法として,高温のプラズマ

を用いる誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma, ICP)発光・質量分析法が開発され,様々な分野で使用されています。ICP質量分析法では,右図の ICPトーチと呼ばれるガラス管の内部で高温プラズマを生成し,分析試料をプラズマ中に導入して原子化,イオン化します。そして,質量分析装置に導入して,イオンをカウントします。この ICP 質量分析法では,ng/L 程度の超高感度分析が可能です。例えば,50 mプールの中に溶かした数mgの元素を測定できます。 近年,iPS 細胞による再生医療や,大気中微小粒子の

健康影響への関心が高まっています。一つの生体細胞やナノ粒子中の微量元素の高感度分析が可能になると,iPS 細胞の分化メカニズムや,大気粉塵の起源の解明につながると期待されています。しかし,上記の ICP質量分析装置では毎分数 100 µL の試料を必要とするため,ナノ粒子や生体細胞一個といった超微少量試料の分析は困難でした。そこで沖野研究室では,14 pL の微小液滴を1滴だけプラズマに導入できるドロプレットネブライザを開発し,ICP 質量分析に適用しました(右写真)。その結果,従来装置の約 1/100,000 となる微少量の試料導入と,55 zg(55×10-21g, Na)の検出下限(世界最高感度)を実現しました。さらに,実サンプルとしてドロプレット中に単細胞藻類一個を内包させることで,単一細胞中の多元素同時分析に成功しました(右図)。現在は,植物細胞だけでなく,細胞試料としてヒト由来のがん細胞である HeLa 細胞と U2OS 細胞を用いて分析を行い,単一ヒト細胞中の多元素同時分析を行っています。また,分析で得られる質量信号に最適な信号処理法の開発にも取り組んでおり,世界初となる単一細胞,ナノ粒子中の多元素同時分析システムの実用化をめざしています。今後は,再生医療などの分野に貢献するため,さらなる高感度化をめざした装置の改良を行い,iPS 細胞の高精度な分化誘導などに応用する研究を行う予定です。 一方,従来の ICP装置ではプラズマの生成に 20 L/min 程度のアルゴンガスを使用するため,

高いランニングコストが問題となっていました。単純にアルゴンガスの流量を減少させると,プラズマが不安定になったり,トーチが溶融するなどの問題が生じました。そこで沖野研究室では,シミュレーションと実験を並行して実施し,新しい低流量 ICP トーチの開発を行っています。その結果,低流量でのプラズマ生成を実現するポイントいくつか発見し,これまでに 3 L/min のアルゴンでも安定してプラズマを生成する事に成功しました。現在は,トーチの市販を視野に入れた実用化研究を行っています。

単細胞藻類の質量スペクトル

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さわれるプラズマを用いた表面付着物分析装置

Measurement system for surface adhesion compounds using touchable plasma

近年,医療,美容,食品,犯罪捜査などの分野では,皮膚等の熱に弱い物質の表面に付着した物質の高感度分析が求められています。例えば医療分野では,皮膚に付着した汗や皮脂の成分を用いた疾病の診断が期待できます。しかし,表面に損傷を与えずに付着物だけを取り出すのは容易ではありません。沖野研究室では,さわれるプラズマを用いてこれを実現しました。我々の大気圧プラズマは低温で放電損傷も与えないため,皮膚にも安全に照射する事ができます。触れる安全なプラズマですが,その中には高エネルギーの活性種が存在するため,そのエネルギーで表面に付着した物質を分解する事なくソフトに脱離させます。そして,プラズマ中の水素イオンを付着させて,質量分析装置に導入します。表面に付着していた物質は,分解されずに質量分析されるため,どんな物質が付着していたかを容易に判断することができます。我々はこの手法を,大気圧プラズマソフトアブレーション法(Atmospheric Plasma Soft Ablation method; APSA)と命名し,特許を取得しました。この方法は,このような物質の分析だけでなく,元素分析にも応用できます。脱離した物質を高温な誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma; ICP)に導入すれば,付着物中に含有されている元素を超高感度に分析することができます。 現在は,犯罪捜査やテロ対策のため,警察庁科学警察研究所(科警研)と共同で化学兵器の高感度検出の研究を行っています。微少量でも多くの被害者を出す化学兵器は迅速かつ高感度に検出する必要があります。これまでに,クアラルンプール空港で使用されたVXやソマンなどを数fmol の検出下限で高感度に分析することに成功しています。2020年に開催される東京オリンピックに向けて,実用的な装置の開発をめざしています。

また,美容分野の実験も行っています。海外化粧品などの一部には,日本では認可されていない種類や量の有害物質が使用されている場合があるにも関わらず,知らないうちに個人で購入し輸入している可能性もあります。成分の一部に微量な毒物や劇物を含む場合や,含有量や使用頻度による皮膚への悪影響を防ぐ必要があるため,医薬用外劇物に指定されているホルムアルデヒドやサリチル酸などの成分を対象にした分析を行っています。 ただし,プラズマはガス状であるため,特定の微小領域だけに照射する事ができ

ません。そこで沖野研究室では,レーザーポインタ程度の超低出力レーザーと APSA を組み合わせた,新しい手法を開発しました。まず,レーザーを表面に照射して,付着物を脱離させます。この物質に低温プラズマ中で生成したプロトンを付与して質量分析します。この手法では,毛穴のような狭い範囲に付着している成分を選択的に脱離し,高感度に分析することができます。このレーザーをスキャンすることで,生体皮膚等の表面付着物をマッピング分析することも可能となります。今後は,装置の開発と脱離やイオン化機構の解明を並行して実施していきます。

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卒業生の言葉 Message from graduates 相田 真里 Dr. Mari Aida 平成 30年 3月博士後期課程修了,大気圧低温プラズマを用いた表面付着物の高感度分析装置の開発

私が入学当初に痛感したのは,「書く力」と「話す力」がしっかりと身についていなかった事でした。20年を超える人生で毎日使っている日本語なのに,これほど何かを書いたり話したりする事に苦労した事があっただろうか?とアブストやスライド,申請書作成等の多くの場面で何度も頭を悩ませました。大げさかもしれませんが,一語一語の言葉の選び方,話し方,資料の選び方や順序次第で,受け取る側の反応や興味を示す度合いが劇的に変わり,研究者同士の幅広い人脈作りにつながるだけでなく,自分の研究が共同研究に発展する事もありました。沖野研では,大きい流れから細部にわたるまで,自分の研究成果などを正確に伝え,魅

力的に見せるための表現力や技法を大いに学ぶ事ができました。また,私は大胆な割に小心者で萎縮しがちな性格でしたので,初の海外渡航や口頭発表では緊張や不安だらけでしたし,学振の申請書類も「どうせ書いたって時間の無駄だ」と諦めていました。しかし,沖野先生から「海外渡航はサバイバル気分で乗り切れ!」,「口頭発表はエンターテイメントだ!」,「申請書類は書きながら研究を考える事に意義がある!」等の数々の名言をいただき,何事にも前向きに挑戦する事を学び,今では「やってみないとわからない」という強気の姿勢で取り組めるようになりました。そして最後に,私のうるさいトークに付き合ってくれて,何度も盃をかわした学生一同に本当に感謝します。ありがとうございました!!! 川野 浩明 Dr. Hiroaki Kawano 平成 30年 3月博士後期課程修了,マルチガス温度制御プラズマ装置の開発と医療応用に関する基礎研究

私は,大分高専の専攻科から本学の大学院に入学しました。高専の頃から医療技術の発展に貢献できる研究がしたいと思っており,高専ではロボットハンドの開発に関わるシミュレーションの研究を行っていました。その頃の研究は PC との格闘のみだったため,大学院では実際にモノを触り,現象を解析する研究がしたいと思い,沖野研究室を志望しました。 沖野研究室では,大気圧低温プラズマの医療応用に関する研究に携わりました。在学中には,プラズマによる殺菌メカニズムの調査だけでなく,止血など新しいプラズマの医療応用の研究もでき,その中で化学分析や生物実験,生体実験,装置開発など非常に多くの経験ができました。また,実験室での研究だけでなく,国内外での学会発表や他大学や企業との共同研究などにも参加し,刺激的な研究生活を送りました。これも沖野先生をはじめとする先生や先輩方,秘書さんが自由に研究をできる環境を作ってくださったお陰だと思っています。また,研究室の仲間たちとテニス,ボルダリング,人生初のフルマラソンやウルトラマラソンなど,プライベートでも多くの新しい経験をすることができ,充実した研究室生活を送ることができました。 沖野研究室での 4年間の研究活動を通して大きく成長できたと思うと同時に,大学院でしっかりと研究するためには,研究内容だけでなく,先生の方針や研究室の雰囲気が重要である事をあらためて実感しました。研究室探しに悩んでいる方は,ぜひネットだけでなく足を使って情報を集め,自分に合った研究室を見つけてもらえればと思います。

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小笠原 大介 Daisuke Ogasawara 平成 30年 3月修士課程修了,高速表面処理を目的とした超音速パルスプラズマジェットの開発

私は八戸高専の物質工学科に所属し,化学や材料について学んでいましたが,大学院では様々な分野の知識を学んで研究を行いたいと思い,沖野研究室を受験しました。沖野研究室には電気・電子以外の知識も学びたいと考えている学生が多く在籍しており,また,企業や研究機関との共同研究や国内外の学会に参加する機会が多くありました。このため,材料や医療分野などの最先端の技術に触れる経験が多くあり,充実した研究室ライフを送ることができました。沖野研究室では自主性が尊重されるため,研究の進め方や論文の作成などで頭を悩ませることもありましたが,先輩や先生方からアドバイスを頂きながら再考することで,より良いものに仕上げることができました。また,国内外の学会に参加して,研究者と議論することで自分の研究を多くの方々に伝えることができました。この経験から,自分の伝えたいことを相手にわかりやすく文章や言葉で説明できるようになったと思います。研究以外でも,ゼミ合宿や研究室の有志メンバーによるマラソン大会などで先輩や後輩と楽しい日々を過ごすことができました。修士課程の 2 年間は,あっという間に過ぎてしまいましたが,自分の人生の中で,一番

濃密で,成長した期間だったと思います。この経験を今後の人生に活かしていきたいと思います。先生方や研究室のメンバーには,本当にお世話になりました。ありがとうございました。 林 悠太 Yuta Hayashi 平成 30年 3月修士課程修了,3Dプリンタを用いた小型プラズマジェットの開発と内視鏡的止血術への応用

大学院院進学にあたって研究室を調べていたときに沖野研究室に出会い,複合的な知識が必要な大気圧プラズマの研究と,共同研究や国内外の学会に積極的に参加していく姿勢に惹かれ,入学しました。特に,大学院生は修士修了までに海外の国際学会に最低でも1回参加することが推奨されていることが魅了的でした。僕の場合,アメリカの学会に参加することができました。単身でアメリカに1週間ほど滞在し,トラブルや文化を楽しみつつ,世界基準の研究に触れることができ,とても貴重な経験をさせていただきました。研究に関しては,内視鏡に挿入できるプラズマ止血装置の開発をしていたということもあり,神戸大学のお医者さんと一緒に実験することが多く,現場の方から直接いただいた意見を装置開発に反映することができ,とても実のある研究生活を送れました。一方で,学会の資料作成や発表練習などは他の研究室に比べて多く,加えてその質を向上させるために何度も先輩や先生とやり取りするので,辛いと思うこともたくさんありましたが(写真:論文提出後の温泉にて),それがあったからこそ成長できたと強く感じます。この2年間の経験は社会人になってからも大きく活かされるはずです。これらの経験ができたのは,沖野先生や宮原さんをはじめ,これまで私を支え続けてくれた沖野研究室のメンバーのおかげです。2年間本当にありがとうございました。 細田 順平 Jumpei Hosoda 平成 30年 3月修士課程修了,生体皮膚等の殺菌を目的としたプラズマバブル水生成法の開発及び基礎特性の調査

私は,学部時代はシステム制御系の研究室でシミュレーション解析の研究を行っていました。しかし,もっと人々の役に立つ研究がしたいと思いました。そんな中,大気圧低温プラズマの医療応用に興味を持ち,沖野研究室を志望しました。プラズマは電気や物理系の研究だと思っていましたが,実際には化学や生物などの実に多様な分野の知識が求められました。電気情報系出身の私にはほとんど知識がありませんでしたが,沖野研や共同研究先には様々な専門の方がいらっしゃるため,研究を進める上でいろいろ相談することができ,そのたびに新しい発見があり,大変勉強になりました。また,沖野研では学会発表や報告会などに活発に参加するので,発表資料の作成が大変で,いつも締め切り日ギリギリになってしまいましたが,先生や先輩方との意見交換を通じて,自分の研究内容をわかりやすく相手に伝えるためによりよい資料を作成する技術も学ぶことができました。国内の学会だけではなく,海外で開催される国際学会にも参加させて頂きました。当日の発表だけでなく,海外の会場に一人で無事にたどり着く事も貴重な経験となりました。この 2 年間のさまざまな経験を活かして,社会人になってからも頑

張りたいと思います。本当にありがとうございました。

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最近の主な研究業績 Selected publications and awards

研究論文・解説 (1) M. Aida, T. Iwai, Y. Okamoto, H. Miyahara, Y. Seto and A. Okino, “Development of ionization method using

hydrogenated plasma for mass analysis of surface adhesive compounds”, J. Anal. At. Spectrom. (in press) (2) H. Kawano, T. Takamatsu, Y. Matsumura, H. Miyahara, A. Iwasawa and A. Okino, “Influence of Gas

Temperature in Atmospheric Non-Equilibrium Plasma on Bactericidal Effect”, Biocontrol Science (in press) (3) 柳川由紀, 沖野晃俊, 光原一朗, “プラズマ照射で植物細胞にタンパク質を導入 植物の品種改良への応用利用へ向

けて”, 化学と生物, 56, 1, pp.15-17 (2018). (4) M. Aida, T. Iwai, Y. Okamoto, S. Kohno, K. Kakegawa, H. Miyahara, Y. Seto and A. Okino, “Development of

a Dual Plasma Desorption/Ionization System for the Noncontact and Highly Sensitive Analysis of Surface Adhesive Compounds”, Mass Spectrometry, 6, 3 S0075 (2017).

(5) Y. Yanagawa, H. Kawano, T. Kobayashi, H. Miyahara, A. Okino and I. Mitsuhara, “Direct protein introduction into plant cells using a multi-gas plasma jet”, PLOS ONE, 12, e0171942 (2017).

(6) 柳川由紀, 沖野晃俊, “大気圧低温プラズマ照射による植物細胞への効率的なタンパク質導入”, バイオサイエンスとインダストリー, 75, 6, pp.512-513 (2017).

(7) 沖野晃俊, “さまざまな展開を見せる大気圧プラズマと応用展開”, 工業材料, 65, 10, pp.17-21 (2017). (8) 岩井貴弘, 千葉光一, 宮原秀一, 沖野晃俊, “プラズマを用いた表面付着有機物分析法”, クリーンテクノロジー, 27,

6, pp.44-46 (2017). (9) K. Kakegawa, R. Harigane, M. Aida, H. Miyahara, S. Maruo and A. Okino, “Development of High-density

Microplasma Emission Source for Micro Total Analysis System”, Analytical Sciences, 33, 4 (2017). (10) 宮原秀一, 沖野晃俊, “大気圧プラズマ表面処理装置の開発”, 月刊機能材料, 10, pp.43-55 (2016). (11) 川野浩明, 高松利寛, 松村有里子, 宮原秀一, 岩澤篤郎, 沖野晃俊, “新しい大気圧プラズマ装置の開発と液中殺菌技

術への応用”, ソフト・ドリンク技術資料, 178, pp. 105-118 (2016). (12) Y. Ishihara, M. Aida, A. Nomura, H. Miyahara, A. Hokura and A. Okino, “Development of Desolvation

system for Single Cell Analysis Using Droplet Injection Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy”, Analytical Sciences, 31, pp. 781-785 (2015).

(13) K. Shigeta, Y. Kaburaki, T. Iwai, H. Miyahara, and A. Okino, “Evaluation of the Analytical Performances of a Valve-based Droplet Direct Injection System by Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry”, J. Anal. At. Spectrom., 30, pp. 1609-1616 (2015).

(14) T. Iwai, K. Shigeta, M. Aida, Y. Ishihara, H. Miyahara and A. Okino, “A Transient Signal Acquisition and Processing Method for Micro-droplet Injection System Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry (M-DIS-ICP-MS)”, J. Anal. At. Spectrom., 30, pp. 1617-1622 (2015).

(15) T. Takamatsu, H. Kawano, H. Miyahara, Takeshi Azuma and A. Okino, “Atmospheric nonequilibrium mini-plasma jet created by a 3D printer”, AIP ADVANCES, 5, 077184 (2015).

(16) T. Oshita, H. Kawano, T. Takamatsu, H. Miyahara and A. Okino, “Temperature Controllable Atmospheric Plasma Source”, IEEE Trans. plasma sci., 43, pp. 1987-1992 (2015).

(17) T. Iwai, K. Kakegawa, M. Aida, H. Nagashima, T. Nagoya, M. Kanamori-Kataoka, H. Miyahara, Y. Seto and A. Okino, “Development of a Gas-Cylinder-Free Plasma Desorption/Ionization System for On-Site Detection of Chemical Warfare Agents, Analytical Chemistry”, 87, pp. 5707-5715 (2015).

書籍 (1) 沖野晃俊, 川野浩明, 高松利寛 著 (分担), “バイオフィルムの構造とその形成制御・殺菌・除去技術の現状, 有効利

用法”, シーエムシー出版 (2017). (2) 沖野晃俊 監修, “大気圧プラズマの技術とプロセス開発 (新材料・新素材シリーズ)”, シーエムシー出版 (2017). (3) 高松利寛, 沖野晃俊 著 (分担), “プラズマ産業応用技術 -表面処理から環境, 医療, バイオ, 農業用途まで-,低温プ

ラズマの種類・発生法法と医療分野への応用”, シーエムシー出版 (2017). (4) A. Okino, H. Miyahara, T. Iwai and K. Chiba (分担), “Plasma Spectroscopy, The Encyclopedia of Analytical

Chemistry”, John Wiley & Sons (2016). (5) T. Iwai, H. Miyahara and A. Okino (分担), “Microplasma Atomic Emission Spectroscopy, Encyclopedia of

Plasma Technology”, Taylor&Framcis (2016). (6) T. Takamatsu, H. Miyahara and A. Okino (分担), “Gas Plasma Sterilization in Microbiology: Theory,

Applications, Pitfalls and New Perspectives”, Caister Academic Press (2016). 主な国際特許 (1) プラズマ温度制御装置及びプラズマ温度制御方法 日本,米国,中国,シンガポール等特許査定 (2) プラズマ生成用ガスおよびプラズマ生成方法 PCT/JP2012/064687 (3) プラズマを用いた処理方法 PCT/JP2009/067341 (4) 処理装置,処理方法及びプラズマ源 PCT/JP2007

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(5) 高周波整合器 PCT/JP2007/74696 (6) 液体導入プラズマシステム PCT/JP2006/307123

国内特許 (1) ラジカル機能液およびその製造方法並びにラジカル機能液の使用方法 特許 6271223号 (2) 大気圧プラズマを用いた生物細胞および外皮系のケア装置 特許 6180016号 (3) プラズマ装置 特許:5645157 (4) プラズマを用いたサンプリング法およびサンプリング装置 特許:5581477 (5) 包装容器内プラズマ処理装置方法およびその装置 特許:5455030 (6) 液体導入プラズマシステム 特許:4560634 (7) 液体噴射装置 特許:5272170 (8) 処理装置及び処理方法 特許:5181085

ほか約 60件

新聞報道・テレビ出演等 (1) 日本農業新聞, “植物細胞プラズマ照射 タンパク質導入成功 東工大と農研機構 生育・開花調節応用も”, 2017/2/21 (2) 化学工業日報, “植物細胞にタンパク質 プラズマ照射で導入” 2017/2/14 (3) ScienceDaily, PHYS ORG, Scienmag, SeedQuest など海外メディア 10 件, “Plasmas promote protein

introduction in plants”, 2017/2/10~13 (4) 読売新聞, “低温プラズマ 農作物殺菌 農薬不要, さび除去にも活用”, 2016/12/8 (5) TBSテレビ「未来の起源」, “プラズマを使った成分分析”, 出演: 相田真里, 2016/4/10, 17 (6) 日経産業新聞, “五輪見据えテロ対策 東工大と科警研 有毒ガスすぐ分解 現場でプラズマ使用”, 2016/1/4 (7) 電子デバイス産業新聞, “東京工業大学と神戸大学 3Dプリンターでプラズマ装置作製”, 2015/9/10 (8) 科学新聞, “超小型大気圧低温プラズマジェット 東工大と神戸大の研究グループ開発 3Dプリンター用いてチタ

ンで造形”, 2015/9/4 (9) 日刊工業新聞, “東工大など,3Dプリンターで直径3.7 mmのチタン製プラズマ生成部を造形”, 2015/8/24 (10) 日刊産業新聞, “東京工業大学,チタン製高強度プラズマ生成機を開発”, 2015/8/19

受賞等(大臣表彰:1件,国際学会賞22件,国内学会賞:63件,学内表彰:24件,その他:9件 全 119件) (1) Winter Conference on Plasma Spectrochemistry 各賞 17: 相田真里, 河野聡史, 15: 相田真里, 11: 岩井貴弘, 08:

永田洋一, 06: 沖野晃俊, 宮原秀一, 02: 薮田泰伸 (2) 電気学会 各賞 17: 阿部哲也, 16: 井上祐貴, 15: 小林智裕, 14: 石原由紀子, 大下貴也, 11: 田村利幸, 06: 坂本敏郎,

95: 沖野晃俊 (3) 日本防菌防黴学会 ポスター賞 17: 川野浩明 (4) International Symposium on Biomedical Engineering Young Researchers Poster Award 17: 小笠原大介 (5) プラズマ分光分析研究会 各賞 17: 河野聡史, 馬場美岬,16: 相田真里, 阿部哲也, 15: 掛川賢, 鎗柄直人, 14: 相田

真里, 掛川賢, 宇都宮嘉孝, 川野浩明, 13: 野村亮仁, 奥村健祐, 石原由紀子, 12: 野村亮仁, 高妻智一, 10: 岩井貴弘, 鏑木結貴, 09: 永田洋一, 高橋勇一郎, 重田香織, 07: 永田洋一, 06: 熊谷航, 05: 大場吾朗

(6) 日本分析化学会 各賞 17: 河野聡史, 16: 槍柄直人, 15: 井上裕貴, 掛川賢, 12: 野村亮仁, 11: 鏑木結貴, 高妻智一, 10: 岩井貴弘, 09: 永田洋一, 重田香織, 06: 瀧本和靖, 宮原秀一, 05: 大場吾郎

(7) ライフエンジニアリングコース 優秀プレゼンテーション賞 17: 河野聡史 (8) 創造エネルギー専攻 各賞 17: 細田駿介, 15: 石原由紀子, 13: 高妻智一, 12: 柴田萌, 10: 中島尚紀 (最優秀), 08: 永

田洋一, 07: 瀧本和靖 (最優秀), 野崎啓, 06: 坂本敏郎, 大場吾朗, 05: 土肥隆行, 02: 宮原秀一 (最優秀) (9) 日本分光学会 各賞 16: 細田駿介, 14: 岩井貴弘, 渡辺洋輔, 13: 石原由紀子, 12: 野村亮仁, 11: 高妻智一, 10: 鏑木

結貴, 09: 重田香織, 田村利幸, 08: 山崎正太郎 (10) 日本学術振興会特別研究員 16: 相田真里, 10: 重田香織, 05: 宮原秀一, 01: 薮田泰伸 (11) Analytical Sciences 誌 各賞 15: 石原由紀子, 14: 宮原秀一, 13: 岩井貴弘 (12) 春季応用物理学会 Poster Award 15: 井上裕貴 (13) International Symposium on Microchemistry and Microsystems Best Poster Award of EMN 15: 宮原秀一 (14) Top 25 most read JAAS articles 14: 重田香織 (15) Department of Energy Sciences Presentation Award 13: 岩井貴弘 (Best), 高松利寛, 12: 鏑木結貴 (Best), 11: 柴

田萌, 10: 重田香織, 田村利幸, 09: 中島尚紀, 08: 永田洋一 (16) Bioelectrics Best Poster Award 12: 高松利寛 (17) The Federation of Analytical Chemistry and Spectroscopy, Student Poster Award 11: 鏑木結貴 (18) Plasma Conference 若手優秀発表賞 11: 大下貴也 (19) CSI presentation prize 11: 岩井貴弘, 07: 宮原秀一, 03: 沖野晃俊 (1st Prize) (20) ICAS JAAS Poster Presentation Award 11: 根岸祐多 (21) ICCG Poster Presentation Award 10: 佐々木良太 (1st Prize) (22) 東工大教育賞 優秀賞 09: 沖野晃俊 (23) APFA Young Scientist's Best Presentation Award 09: 宮原秀一 (24) 手島記念研究賞 博士論文賞 06: 宮原秀一, 04: 薮田泰伸 (25) 文部科学大臣表彰 若手科学者賞 05: 沖野晃俊

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東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所 沖野研究室

電気電子系 ライフエンジニアリングコース/電気電子コース

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