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IEA HPT Magazine no 3/2018 国内版第 43 号(2019 年 2 月 一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター発行) HPT マガジン国内版は、ヒートポンプセンター(IEA HPT TCP の事務局、在スウェーデン)が発行する IEA Heat Pumping Technologies MAGAZINE を日本語要約したものです。原文の IEA HPT MAGAZINE は、ヒートポンプセンタ ーのホームページ https://heatpumpingtechnologies.org/the-magazine/からダウンロードが可能です。

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IEA HPT Magazine no 3/2018

国内版第 43 号(2019 年 2 月 一般財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター発行)

HPT マガジン国内版は、ヒートポンプセンター(IEA HPT TCP の事務局、在スウェーデン)が発行する IEA Heat

Pumping Technologies MAGAZINE を日本語要約したものです。原文の IEA HPT MAGAZINE は、ヒートポンプセンタ

ーのホームページ https://heatpumpingtechnologies.org/the-magazine/からダウンロードが可能です。

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目 次

1.IEA HPT MAGAZINE VOL.36 NO.3/2018からピックアウト ...................................1

1.1 FOREWORD ....................................................................................................1

1.2 COLUMN ........................................................................................................3

1.3 HEAT PUMPING TECHNOLOGIES NEWS ..............................................................5

1.4 NEWS IN FOCUS ............................................................................................7

1.5 MARKET REPORT ............................................................................................9

1.6 特集記事1 ...............................................................................................15

特集記事2 ...............................................................................................19

2.ANNEXES(国際共同研究) ................................................................................25

2.1 Ongoing Annexes in HPT TCP .................................................................25

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1.IEA HPT MAGAZINE VOL.36 NO.3/2018からピックアウト

1.1 FOREWORD

低 GWP冷媒

– システムソリューションとコンポーネント

私たちは激しい気候変動にまさに直面しています。そして、世界各

地で氷河がいっそう急速に溶けるというニュースを見聞きします。

昨夏には、ヨーロッパとアジア諸国が極端な気象と記録的な高熱に

見舞われ、気候変動加速の懸念がひときわ大きくなりました。 温度

上昇がもたらした明白な結果としてエアコンの使用が増加し、その

結果、より多くのエネルギーが消費されています。 このような状況

下で、熱関係エンジニアの最も重要な仕事は、環境負荷を低減させ

ながら、熱と食品の安全をすべての人に提供することです。

エネルギー効率の向上は、この排出削減の取組みに対して、非常に大きく寄与しますが、空調や

冷凍システムで使用される冷媒の地球温暖化係数(GWP)を削減することも、環境への影響を最小

限に抑えるという目標にとって重要です。したがって、この環境目標を達成する上で、エネルギ

ー効率の向上と冷媒の GWPの削減という 2つの目標を同時に検討する必要があり、多目的最適化

により、それぞれのアプリケーション向けにさまざまな GWP値を持つ多くのパレート解が存在す

ることが示されています。この努力に加えて、国際冷凍研究所(the International Institute

of Refrigeration:IIR)は、環境指標として製品寿命気候負荷(Life Cycle Climate

Performance:LCCP)を使用することを提案し、2016年には空調機、ヒートポンプ、および冷凍シ

ステムのすべてのタイプへのLCCPガイドラインが公開されました。

科学者たちの指摘のようにオゾン層破壊や、1970年代からの地球温暖化の傾向により、環境にや

さしい冷媒の探索が始まりました。この取組みには、新しい流体の開発だけでなく、GWP値が非常

に低いメリットのある自然冷媒を安全かつ経済的に利用することが含まれます。最新の IT技術を

活用して分子のより良い組み合わせをしらみつぶしに探索することに加えて、候補となる流体の

実際的な実験評価が空調・暖房・冷凍研究所(Air Conditioning, Heating and Refrigeration

Institute:AHRI)および米国暖房・冷凍空調技術者協会(American Society of Heating、

Refrigerating and Air-Conditioning Engineers:ASHRAE)によって共同で行われました。これら

の取組みは、超低、低、中 GWP値を持つ主要候補冷媒を特定するのに役立ちました。ここでは、

GWP値の範囲を次のように分類することを提案したいと考えています:0〜10を「極低」、10〜

100を「低」、「中」として100〜1000です。

自然冷媒および新たに特定された合成冷媒は、現在使用されている冷媒とは、異なる熱力学的・

伝熱特性を持つので、極低〜中 GWP冷媒に移行するには全システム的アプローチが必要です。こ

の点を念頭において、ヒートポンプ技術に関する IEAの技術コラボレーションプログラムである

HPT TCPは、「低GWP冷媒を用いたヒートポンプシステム」についての新アネックスを始める狙い

です。このアネックスは、低 GWP冷媒用のヒートポンプの部品やシステムの設計指針を開発する

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ことにより、高 GWPである HFCのフェーズダウンを加速し、低 GWP冷媒の適用を促進することを

目的としています。

新しい空調システムと現行使用されている冷凍システムによる環境への影響を最小限に抑える努

力と私たちの過去の環境工学で考慮が足りなかった結果とのしのぎ合いは既に始まっています。

この攻防戦での我々の成功は、近視眼的なエンジニアリング目標からもたらされた恒久的な環境

損傷の深刻さへの問題意識からもたらされ、低 GWP冷媒への迅速な変換に対する我々の緊迫度に

かかっています。

我々は、今こそ低GWP冷媒に躍起になるべき時なのです。

YUNHO HWANG

Research professor, Associate director

Center for Environmental Energy Engineering, USA

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1.2 COLUMN

気候変動との戦いは厳しい道のり

- しかし、正しい道

ヒートポンプは、100%エミッションのない暖房を提供する可能性のある数少ないテクノロジー

の 1つです。しかし、ヒートポンプを機能させるためには冷媒が必要であり、現在のところ、こ

れは通常、HFC( 最も一般的なタイプのFガス)であります。

過去 10年間、CO2排出量の削減、及び気候にダメージを与えるガスの影響を限定化する可能性

が注目されてきました。1989年のモントリオール議定書とキガリ改正、また 2年前の気候変動

パリ協定以降、地球規模の気候変動に対する戦いは世界中に広がっています。EUの Fガス規制

は最も重要な駆動輪の1つです。ヨーロッパの気候変動に対処する主な目的は、業界を低GWPと

自然冷媒に向けるとともに、HFCを徐々にまた大幅に削減するフェーズダウンとクォータ(割り

当て)システムによる既存の HFCのリサイクルと再利用を促進することです。2030年までに

2015年の販売量の 21%以下になることでしょう。しかし、これにはいくつかの課題があります。

業界は現在、多くの課題に対処する能力が必要な包括的な移行に直面しています。ヒートポンプ

製造業者によって現在最も使用されている冷媒は、R410A、R407および R32ならびにより大型ヒ

ートポンプ用のR134aがあります。これらの中にはGWPが高いものや中程度のものがあるため、

それらはフェーズダウンの影響を受けます。

HFCsの使用量の制限や再利用等循環を促進するためにマーケティングクォータ制を導入したが、

これにより、価格はサプライチェーンのあらゆるレベルで急速に上昇しています。いくつかの冷

媒では最近数ヶ月間に数百%になりました。このように、冷媒供給業者は、クォータシステムの

上限に対応するために、より少ない生産量状態となっています。それは、もう1つの課題、特定

の高 GWP HFC冷媒の急速な不足或いは供給不可なども発生させています。今後数年間、EUで利

用可能な量の HFCsをさらに大幅に削減する予定です。いくつかの分析では、既存のシステムの

保守のために十分な量の冷媒を得ることが困難であることが示されています。

フェーズダウンとGWPの上限2,500は、HFCの使用を止め、フェーズダウンの影響を受けない純

粋なHFOs、CO2、アンモニア、炭化水素及び再生されたHFCsやリサイクルされたHFCs等に転換

する以外に選択肢がありません。代替物質を含む解決策が見つかるまで、HFCの使用を延長する

ための活動が行われていますが、そのような延長は、今のところ認められていません。従って、

新しい製品が実現するにつれて、自然冷媒および低GWP冷媒の使用の機会が増えています。欧州

市場でのヒートポンプのシェア拡大には、一部には低GWPや自然冷媒に切り替える業界の能力に

依存します。

エコデザイン指令は、環境に配慮した製品の共通要件の枠組みを設定するだけでなく、環境保護

にも貢献します。ヒートポンプに適用される2つのエコデザイン規制は現在検討中です。新しい

要件は 2019年に承認され、それらは、多少とも現在の形で継続することが期待されますが、お

そらくエネルギー効率に関するより厳しい要件があるかもしれません。

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デンマークでは、人工冷媒の特別な規定を導入し、 ヒートポンプ内の HFCsの最大充填量は

10kgを超えてはならない。GWPが 5以下の HFOは、10キロ以上のより大きな充填量で使用でき

るようになりました。 現在、10kgの制限が議論の対象となっており、ヒートポンプでは 50kg

に引き上げられる予定です。

ヒートポンプ業界にとって、地球規模の気候変動のための戦いは、低GWPと自然冷媒への移行、

及び既存のHFCのリサイクルと再利用を確実にするための課題が数多くあります。

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1.3 HEAT PUMPING TECHNOLOGIES NEWS

HPT TCPは、新たに2つのAnnexを追加しました。

世界的な人口増加と経済の拡大は、とりわけ途上国において、空間の冷房、除湿及び冷凍の需要

の大幅な増加をもたらすと考えられる。これは、グローバルでのエネルギーと気候変動目標達成

を極めて困難なものとする。これに取組むため、世界の HVAC&R界は、この需要拡大の影響を減

らすためどんなアクションが出来るだろうか?

最近承認された HPT Annex53では、2つの考えら

れる技術の方向性について調査中である。

• 低または極低GWP冷媒による蒸気圧縮式の進

• 非従来技術(ゼロGWP)

(出展:U.S. Department of Energy Building Technologies

Office, Emerging Technologies Program)

エアコンや冷凍での全ての製品化において、一つの技術が明確な勝ち組になることはない。蒸気

圧縮式の技術は、数十年の研究・開発と実証の歴史があり、それは今でも続いている。とりわけ

当面の間、または、多分暫くの間、選択されるシステムであり続けるだろう。しかしながら、蒸

気圧縮式は更なる冷媒制限を受けるという弱みがある。非従来技術では冷媒とは関係ないので、

その問題はない。その一方、それらの技術は、市場投入するまでに更なる開発が必要となる。

目的

Annex53の目的は、エネルギー消費の増加を最少化またはそれを抑制し、高効率エアコンや冷凍

システムの技術的解明を行うことである。主な技術領域は、従来型蒸気圧縮式、それに代わる蒸

気圧縮式への取組み、及びエアコンや冷凍機器の非従来型サイクルへの取組みである。Annexの

範囲は、広範となるが、課題もまた広範である。1つや、または 2,3の解決策では、済みそう

にない。

Annex54の目的と範囲:

この Annexの目的は、現状利用可能な低 GWP

冷媒の特性、適用基準、安全性、可燃性、及

び可燃性冷媒の安全な使用法を吟味して、ヒ

ートポンプシステムやコンポーネントを低

GWP冷媒用に最適化する設計指針を策定する

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ことにより、低GWP冷媒製品の促進や高GWP冷媒のフェースダウンを加速化することである。

• ヒートポンプシステムやコンポーネントの低GWP冷媒対応への最適化

• 現状設計と低GWP冷媒に最適化した設計でのLCCP(製品寿命気候負荷)影響の解析

• 2030年に於ける低GWP冷媒とそれを用いたヒートポンプの市場見通しの研究

主眼となる製品は、エアコンと家庭用・商業ビル用のヒートポンプシステムである。

Annex54は、クリーンな低カーボンエネルギーシステム設計と製品を志向する IEAのビジョン

とミッションに整合するものである。それは、ヒートポンプ用の低 GWP冷媒への代替えまたは

自然冷媒の促進によって、IEAの戦略的目標達成を後押しするものである。世界中の専門家に

参画して貰うことで、Annexは、政策立案者に環境的意識醸成を促進させる。

Read about all our other Annexes at: www.heatpumpingtechnologies.org/ongoing-annexes/

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1.4 NEWS IN FOCUS

Fガス規制に反する違法冷媒販売

欧州 Fガス規制は、高 GWP(地球温暖化係数)の冷媒量を減らすことが、目的である。しかし、

市場では、適切に適合されてないという明確な兆候が出ている。違法な高GWP製品が取引されて

いるのだ。当局は、困惑を隠しきれない。

Fガス規制は、2014年に改訂され、HFC冷媒は、逐次フェーズダウンする取組みも含まれて

いる。2015年から 2030年の間に上市される HFC量は、割り当て制度により 79%削減

されることになっている。その代わりに低 GWP冷媒が開発され使用されること

が期待された。それは、確かに起こっているが、強化されたFガス指令は他の効果を生んだ

ようだ。種々の冷媒がなんと違法な容器で違法にネット販売されている証拠があるのだ。

Cooling Post(UKの空調冷熱業界専門誌)誌の調査によると一般的なネット検索で割り当てシ

ステム外の HFCを購入することは、比較的簡単であるようだ。HFCの割り当てシステムは、それ

ぞれのHFCのGWPをベースとして、市場の各人があるHFC割り当て量を与えられ、その分量だけ

上市出来るように取り決められている。また、購入者は、Fガス認証を持っている必要がある。しか

し、いくつかのオンライン販売業者は、この認証を顧客に照会していない。これは、明らかに規

制違反である。

これは、今、イタリアで裁判になっている が 、 アマゾンは、購入者に認証を確認せずに HFCを販

売したことで告発されている。2018年 10月現在、訴訟は、継続しており評決は、まだ出てい

ない。原告は、18のイタリア企業であり、不公正競争であると申し立てている。かれらの

バックの CNA(イタリア国家手工業、中小企業連盟)は、暴露されるリスクが低い違法な市場で

良心的な売り手と買い手が取引する並列の市場が形成されるリスクを指摘している。この違法な

市場では、決められた割り当て以上の量を販売することは簡単だ。

遺憾ながら、高GWP HFCだけが違法にネット販売されている冷媒ではない。HCFCやCFCのよう

なオゾン層破壊物質さえも取引されているのだ。これらの冷媒の製造や消費は、1987年からモ

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ントリオール議定書により規制されており、世界的にフェーズアウトが決められているのだ。

1996年までにCFCは、禁止され、HCFCは、まだある程度許容されている。

そこで容器の問題がある。2007年以降、使い捨てのシリンダーに冷媒を保管することは、許さ

れていない。全てのHFC冷媒は、詰め替え用容器で販売することになっているが、全ての業者が

これに従っているわけではない。Cooling Post誌の調査によると使い捨て容器が堂々とネット

販売されているようだ。

2014年からの改訂Fガス指令は、まだEU各国政府で広く運用されてはいない。フランスやドイ

ツは、このプロセスに時間がかかることを示す例であるが、実際、ベルギーやイタリアは、適用

が立ち遅れている。指令の各国法への展開が、違法販売の抑止になるものと考えられる。

出展:

https://www.coolingpost.com/world-news/amazon-in- court-over-illegal-f-gas-sales/

https://www.epeeglobal.org/refrigerants/

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1.5 MARKET REPORT

イタリアのヒートポンプ市場レポート

Maurizio Pieve and Raniero Trinchieri, ENEA, Italy

本稿では、過去 10年間のイタリアのヒートポンプ市場について概括する。まず、本稿で使用す

る統計学的方法について簡単に説明する。この方法は、空気熱源ヒートポンプについて正確に把

握可能となる(補助システムとして設置されたユニットを除外)。欧州全域のなかでのイタリア

市場の位置づけについても分析し、ヒートポンプのタイプ別に検討する。最後に、将来的な市場

拡大のための普及策と障壁を含めたヒートポンプ市場の可能性について現時点での展望を記す。

序論

居室の冷暖房および一般家庭の給湯に使用されるヒートポンプシステムは、今日、ビル及び居住

空間技術の両分野における欧州エネルギー効率化政策の主柱として位置付けられているほか、大

気汚染防止の観点からも主軸の一つとなっている。この状況は、エンドユーザーレベルでの電化

普及を後押しする販売傾向にも如実に表れている。先ごろのフェルナンド・ペットロッシ

(Fernando Pettorossi、イタリアAssoclima協会コーディネータ)の概要報告[1]にある通り、

ヒートポンプ技術は燃焼システムに比して数多くのメリットがある。ヒートポンプのメリットは、

環境、経済技術、安全性の3側面がある。

第1の有益な環境側面は、化石燃料消費量削減である。再生可能資源の利用が拡大し、局地的排

出すなわち環境への粒状物質排出が抑止される。第2の利益は、経済側面で、建物内の暖房、家

庭給湯および冷房の統合による料金請求手続きの一元化および保守コスト削減である。加えて、

建物内での燃焼が排除されることで、火災や爆発の危険がなくなり、排気管系統も不要となる。

イタリアヒートポンプ市場は、質・量の両面で改善可能性が大きい。現時点では、主に夏季の冷

房用としての冷暖両用の空気熱源ヒートポンプ(ASHP)が圧倒的大部分を占めている。しかしな

がら、イタリアの気候―特に中部~南部―では、ASHPによって暖房および給湯用途をまかなえ、

他の暖房システムは不要となるであろう。ハイブリッド ASHP(太陽光 HPシステム)の技術開発

が進み、低温 ASHPが実用化されれば、この用途の市場機会はさらに拡大する。加えて、イタリ

アでは 2014年以来、2020年を目指した国家再生可能エネルギー行動計画(PAN)の再生可能エ

ネルギーのシェア目標が達成されていることが、近年のASHP市場規模からもうかがえる[2]。

統計情報

暖房用のヒートポンプについては、リバーシブル ASHPの統計方法について明白にしておく必要

がある。イタリアでは、2012年1月14日付省令DM技術付属書VIIIにおいて、国のエネルギー

統計の対象となるシステムに使用されているヒートポンプに関する報告の方法論が規定されてい

る。国家目標(採取エネルギー消費に占めるRES冷暖房の比率として設定されている)が達成さ

れることで、政令 D.Lgs.28/2011(再生可能資源由来のエネルギー使用推進に関する EU指令

2009/28/ECを採択する政令)要件が満たされる。付属書 VIIIは、地中海地域諸国の代表的市場

であるイタリア市場に関する専門技術的調査を基盤としている。

イタリアでは、Air to Airユニットのうち統計や計算に組み入れられているのはごく一部分

(約 9.5%)にとどまるため、冷房専用の Air to Airユニットについて正確なシェアの推定は

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難しい。具体的には、国家 RES統計における過大推定の危険を減じるため、容量 17kW未満の冷

暖両用 Air to Airシステム(一般に、「モノスプリット」および「マルチスプリット」システ

ムと称されるもの)の 2012年のシェアは、当初は販売量全体の 9.5%とされていたが、後日

10.2%に修正された。これが、メインの暖房システムとして使用されている比率である。

欧州委員会決定 2013/114も、同じ原則を採択しており、リバーシブル型ヒートポンプは、温暖

ないし平均的な気候においては、冬季の暖房利用も可能であるものの、室内冷房目的で設置され

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ることが多いと記している。冬季暖房需要よりも夏季冷房需要が高いため、定格容量は暖房能力

よりも冷房能力を反映するものとなっている。暖房需要の指標は設備容量であるが、設備容量に

関する統計は暖房目的で設置された容量を反映しないことが示唆される。従って、温暖気候にお

いては安全側に立ち、年間等価ヒートポンプ時間(HHP)―ヒートポンプが定格容量において熱

を提供する年間時間数―については 10%に引き下げられている。実際、EU決定でも前述のイタ

リアの調査に言及し、この点を支持している。

上述の統計学的方法論は、ヒートポンプ販売統計に反映されている。一例として、欧州ヒートポ

ンプ協会(EHPA)―欧州ヒートポンプ企業の過半数が加入―は、前述した EU指令に規定された

アプローチに従っている。従って、EHPAの販売データは、主用途(冷房、補助暖房、メイン暖

房など)を区別せずヒートポンプと類比可能な全ての機器を統計に含めている他の情報源からの

データとは大きく異なる可能性がある。この点において、EHPAのデータと、Heat Pump

Baometer EurObserv’ER[3]のデータの比較が実施された(EU内の多種産業部門における再生

可能エネルギーの比率拡大状況を調査した欧州モニタリングプロジェクト)。この比較では、

Air to Airユニットの比率は 9.5%に訂正された。2件の統計の数値はよく一致しているので、

以下の論考では、EHPAのデータを使用する。

イタリアのヒートポンプ市場

イタリアのヒートポンプ市場は、欧州域内で最大市場の一つである。過去 10年間、イタリアは

常に市場規模で第2位、市場シェアは13~18%を維持してきた。図1[5]は、最近年(2017年)

の国別シェア(EU-21)およびEHPAによるタイプ別シェアを示している。予想どおり、イタリア

市場ではリバーシブル空気熱源ヒートポンプが大きな比率を占めていることが注目される。

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過去 10年間、イタリアにおけるヒートポンプの年間販売量は平均で約 130,000ユニット、過去

2年間は約 180,000ユニットとピークを呈した。総販売量は、2015年は前年比 23%、2016年は

同じく 46%の伸びとなった(図 2[3、5]を参照)。この急伸は、2014年に導入された特別税

措置(ヒートポンプを主たる暖房システムとして使用する常住消費者のみが対象)やその他の普

及策が追い風となった。特別税は現在は新規導入には適用されていない。2015および 16年の 2

年間の伸びは、昨今の夏の酷暑も影響要因の一つである。

イタリアにおけるヒートポンプ販売の内訳をみると、図 3に示す通り、2017年については、Air

to Airスプリットシステムが大きな比重を占めている。理由は前述の通りである。主たるエネ

ルギー源という点では、Air to Airシステムがほぼ市場独占状態にある(97%)。それ以外は、

地中熱源システムが約 3%、水熱源システムは殆どゼロである[7]。図 3のリバーシブル型ヒ

ートポンプのうち、大半は空気/水タイプである。すなわち、空気を熱源とし、水をヒートシン

クとする。このタイプのヒートポンプの販売量は、過去 10年でほぼ 3倍に拡大し(図 4)、

2017年には 33,000ユニットに迫った[5、6]。2014~2017年の年平均伸び率は 27%を上回る。

とはいえ、このタイプは Air to Airヒートポンプ全体の 4分の 1にとどまる点を留意のこと。

ヒートポンプ販売量全体の中でのシェアの低さは、コスト面とならんで、暖房システムの改修に

はラジエータ交換が必須であることがネックになっている可能性がある。ラジエータタイプの暖

房システムは、現在、家庭用暖房設備の90%以上を占めている。

ガスボイラーと従来タイプのヒートポンプ(小型)を組み合わせたハイブリッドシステムは、気

候条件に鑑みた性能という点でベストであり、上々の成長傾向を示している。このタイプは最近

開発された技術だが、順調な伸び率で普及が有望視されている。2017年は 2015年に比して倍増

となった。それ以外では、家庭給湯用のヒートポンプは、依然として普及ペースは鈍い。これは、

コスト高が響いていると思われる。現在、家庭給湯用ヒートポンプは、サイズや機能にもよるが、

従来型電気ボイラーの 8倍と高価である。最後に、地中熱源ヒートポンプは、過去 10年間ほぼ

横ばいで、年間販売量は平均して 1,000ユニットに届かない[4]。イタリアは、地熱源電力で

は世界トップ10国に数えられ、EU内では地熱エネルギー直接熱消費量で第1位であるにも関わ

らず、地中熱源ヒートポンプの普及は遅れている。

今後の可能性と障壁

技術の市場浸透度および将来的な可能性を図る代表的指標は、1000世帯あたりの販売率である。

イタリアの場合、1000世帯あたり販売率は2017年時点でほぼ7[5]で、近隣諸国と大差ない。

しかしながら、北欧諸国との比較では 4~5分の 1にとどまる。このことは逆に成長の可能性が

大きいことを示唆する。主な障壁は、エネルギー価格、政策と普及策、建築部門における浸透

(新築と改築の双方)である。過去3年間、イタリアの電気とガスの価格比(暖房に使用される

エネルギー1kWhあたりの天然ガス価格に対する電力価格の比)は 2.3~3.3の間で変動してきた

(平均は約 3)[8]。季節性能係数(SPF)がエネルギー価格比を上回っている状況では、ヒー

トポンプシステムは、他の競合技術に比してコストメリットが大きいことに注意されたい。

近年、イタリアでは、3通りの普及策が導入されている。1つめは「ホワイト証明書」と呼ばれ

るもので、省エネ率に応じた助成金であり、最終用途(暖房、冷房、ヒートポンプ給湯機)やセ

クター(産業、民間)ごとに設定されている。2つめは、民間個人のみを対象とする普及策で、

旧式暖房システムや電気ヒーターのヒートポンプ給湯機への交換に対する税還付(投資額の

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65%を上限)措置である。3つめは最新の普及策 Conto termico 2.0(サーマルアカウント 2.0)

である。これは、行政機関、中小企業、および民間個人をターゲットとし、旧式暖房システムか

らヒートポンプへの交換に対し助成金を交付するシステムである。ヒートポンプ設置は、上記の

3通りの普及策すべての要件を満足する。従って、最適な選択は適用される普及策に左右される

ことになる。

そのほかの障壁としては、供給チェーンにおける知識不足が挙げられる。例えば、設置業者はヒ

ートポンプの技術的長所を知らず、宣伝不足である。実際、ヒートポンプは確かに初期投資コス

トは無視できない額であるため、エンドユーザーに対しては、ヒートポンプの全ての機能が理解

されるよう慎重に説明する必要がある。室冷暖房と給湯に使用される場合、ヒートポンプは、一

次エネルギーの観点からは最も高効率である。また、初期投資はわずか数年で元が取れる。

結論

イタリアのヒートポンプ市場は、現在、欧州で最重要市場の一つである。販売量は 10年前のほ

ぼゼロから、昨年は180,000ユニットに成長した。普及率指数はトップクラスの国々と比べると

かなり低く、このため今後の成長が期待できる。販売量は、数年間は比較的安定した状態が続い

たが、その後、イタリアのヒートポンプ市場は近年、大きく上向きに転じている。年間市場成長

率は、2015年が 23%、2016年は 46%となった。リバーシブル Air to Airタイプの家庭用が大

半を占めている。昨今の夏の酷暑を反映し、これまでは主に夏季の冷房用として導入されてきた。

Air to Airタイプ以外の機種は、過去10年間に販売量が3倍に伸びており、今後が有望視され

ているが、現時点での市場シェアは低レベルにとどまっている。初期投資コストの高さが主な理

由だが、政府の普及策が功を奏してきている。加えて、供給チェーン・サイドの動き次第で、市

場は急成長の可能性がある。特に、エンドユーザーの意識向上には設置業者が重要な役割を担っ

ている。環境と経済の両面で基準順守と持続可能性を実現するヒートポンプ選択の優位性につい

て、エンドユーザーレベルでの理解を深めることが重要である。

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参考文献

[1] 大気汚染―電気ヒートポンプが大気汚染軽減に貢献する理由

http://www.assoclima.it/news/2017/inquinamento_atmosferico_perche_le_pompe_di_calore_elettriche_possono_ajuta

rd_a_contrastarlo

[2] 経済開発省、再生可能エネルギーに関する国家行動計画(指令2009/28/EC)、2010年6月11日、イタリア

http://www.sviluppoeconomico.gov.it/images/stories/recuperi/Notizie/Piano.pdf [3] EHPA統計、http://www.stats.ehpa.org

[4] Heat Pump Baometer EurObserv’er報告書 2013年、2015年、2016年

http://www.eurobserv-er.org/category/all-heat-pumps-barometers/

[5] T.Nowak、欧州ヒートポンプ市場の発達、EHPA、2018年 http://www.ehpa.org [6] Assoclima空調部門に関する年間売上高報告書(2017年)、Anima Bureau for Studies、2018年

http://www.anima.it/contenuti/10666/studio-statistico-2017

[7] イタリアにおける再生可能エネルギー源に関する統計報告、GSE、2018年

http://www.gse.it/documenti_site/Documenti_GSE/Rapport_statistici/Rapporto_statistico_GSE-2016.pdf [8] エネルギー市場観測、DG Energy、EU、報告書―2015年、2016年、2017年、2018年

http://ec.euro-pa.eu/energy/en/data-analysis/market-analysis

INFORMATION

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1.6 特集記事1

微燃性冷媒の 7つの燃焼に関する疑問

Peter B. Sunderland – Univ. of Maryland, USA

地球温暖化への懸念が大気中で急速に分解する新しい低GWPハロゲン冷媒を採用する強い動機と

なった。この反応性は、微燃性冷媒が着火源のある住居に漏えいした場合、新しい弊害となるか

も知れない。それらの冷媒についての7つの疑問について検討することで可燃性試験方法、着火

源の活性、漏えい検出及びフッ化水素(HF)有害性についての見通しを提供する。

序論

1987年に始まるCFCとHCHCの段階的廃止のより、殆どの新しいヒートポンプは、冷媒として不

燃性のHFCを使っている。残念ながらそれらは、高いGWPを持つ。環境影響は、膨大である。:

家庭用エアコンからの大気への漏えいは、封入量の平均8.5%にもなる[1]。

冷媒の可燃性は、4つの安全クラスに分類される。:1、2L、2そして3であり、この順で可燃性

が大きくなる。ANSI/ASHRAE 34[2]及び ISO 817[3]規格による。冷媒封入量の上限は、一般

に可燃性が増すと減少する。今後10年間で殆どの住宅用ヒートポンプは、サブクラス2Lの微燃

性であるハロゲン冷媒に移行すると考えられている。これらは、R32、 R143a、 R1234yf、

R1234zeとそれらの混合物を含む。それらの火災危険性は、導入に対する一番の障害になってい

る。

サブクラス2Lの冷媒は、3つの燃焼性要求に準拠しなければならない。:発熱量19kJ/g以下、

最小可燃限界100g/m3または、3.5%以上、燃焼速度10cm/s以下。[2-4]これらの3つの要求は、

小規模燃焼テストで決められている。大規模試験では、2L冷媒は、着火しにくく、発火時に強

い爆風を発生しそうにないことが示されている。

7つの燃焼についての疑問

1.最小可燃限界(LFLs)はどうやって測定するのか?

冷媒の LFL測定法の標準は、ASTM E681である。ASTM E681

で得られた結果は、冷媒のクラス分けだけでなく、部屋の

大きさと LFLで決まる限界封入量にも結び付いている。さ

らにそれは、クラス 1(非燃焼性)冷媒を認証する唯一の

試験でもある。

ASTM E681は、12リットルのガラス容器の中で予混合の火

炎伝搬を目視で観察する。LFLは、90°円錐に沿って上方

や外方向に燃焼する火炎の発生として定義される。残念な

がら、ASTM E681は、厳密性に欠け、異質な LFL決定法

[5]なのが悩みである。例えば R-32の LFLは、13.5 –

14.8 %と報告されている。

我々の研究[5]では、ASTM E681に5つの比較的簡単な変更

をすると試験の正確性が著しく向上することが分かっている。

Fig. 1: Schematic of the proposed polycarbonate vessel assembly, reproduced from Ref. [5]. 参照 5から作成されたポリカーボネート容器アセンブリ提案のスケッチ図 The 90° cone shown represents the location of a flame at the LFL. 90°円錐は、LFLでの火炎の存在する位置を示す。

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例えば、容器材料は、腐食を避けるため、透明なポリカーボネートにする。測定中の換気は、し

ない。電極は、水平とする。これらの変更を適用した容器構成を図1に示す。

図2にLFL近傍のハロゲン冷媒の火炎の代表例を示す。 垂

直電極(現状標準での要求)では、火炎の最上部に大きな

穴が形成されている。水平電極(図 1のデザインによる)

その穴がなくなり正確性が向上する。

2.非燃焼性冷媒は、燃えるのか?

室温では、燃えない。しかし、2つのシナリオがある。十

分な外部からの熱が与えられたらクラス 1のハロゲン冷媒

は、発熱性燃焼して大量のフッ化水素(HF)を放出する。

大量の冷媒がエアロゾル化した冷凍機油と共に漏えいして

いる。着火源の存在で、この油は、周りのクラス 1ハロゲ

ン冷媒を火炎の球の中で発火させる。

もし、外部の火がクラス 1ハロゲン冷媒の冷凍システムに

影響を及ぼすなら、容器を弱くするかまたは内部圧力が増

大する。その結果、密封性がなくなる。その結果、もし、

火炎と遭遇すると噴出した冷媒が発火する。

3.サブクラス2L冷媒は、発火しにくいのか?

サブクラス2L冷媒は、クラス3冷媒(プロパンやブタンの

ような)よりはるかに発火しにくい。これは、原理的に、

それらがより大きな消炎距離を持っているからである。

-8 – 25 mmのオーダーである[5]。代表的な 2Lハロゲ

ンの最少発火エネルギーは、10Jで、一方メタンでは、3

× 10-4 Jである。 典型的な静電気では、0.1Jの放電であ

るので、この間のエネルギーとなる。このように2L冷媒は

オープンの火炎や熱せられた電熱線により発火しても、モ

ーターや電気スイッチ、またはトースターのような抵抗性

熱デバイス、ヘアドライヤーまたはスペースヒーターによ

って発火することはない[6]。

4.サブクラス2L冷媒の火炎を抑制することが出来るか?

出来る。我々のラボでの試験では、2Lハロゲン冷媒の火炎

を抑制できるいくつかのシナリオを確認している[6]。例

えば、火のついたタバコを2Lと空気の理論空燃比混合の中

に入れても直ぐに消える。2Lハロゲンをチャンバー内に適

当な混合比で満たしても、LFLに達する前にろうそくの炎

を消火してしまう(図 3参照)。こうした観測は、参考文献[7]での発見と矛盾していない。ハ

ロゲンは、条件によって燃料にも消火剤にもなることを示すものだ。

図 3:R-32を適当に満たした中でろうそくの炎が消火さ

れる。

図 2:爆発限界付近の R-32 の火炎での電極の配置方向の効果 (a)は、電極を垂直に配置し、(b)は、水平に配置した時の火炎の様子。参照[5]による再現

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5.過去のアンモニア火災の経験から何を学ぶのか?

参考文献[7]で議論されているように、アンモニアは、2L冷媒であり、2Lハロゲン冷媒と似た

燃焼特性を持っている。アンモニアは、毒性が強すぎるので殆どのヒートポンプ製品では、使用

されないが、その燃焼性は、よく理解されている。そして、その過去からの安全性情報の蓄積は、

2Lハロゲン冷媒システムの将来のリスク分析のために豊富な情報を提供する。例えば、大量の

アンモンニアの流出は、構造物を壊すような強い爆発を起こした。アンモニアは、2Lハロゲン

冷媒の研究試験の良い代用物となるかも知れない、なぜならその燃焼生成物は、はるかに有害性

が低いからである。

6.信頼性のあるエリアモニタリング漏えい検出器はありますか?

2L ハロゲン漏えいについては、多くの技術がある[8]。それらは、通常、ピンポイントでの漏

えい、または領域でのモニタリングのどちらかに最適化されている。ピンポイントの検出器は、

サービス時によく使われ、使用時に数分だけ電源オンされる。信頼性のある手頃な価格の 2Lハ

ロゲンのピンポイント検出器はある。

エリアモニタリング検出器は、2L冷媒を使用した将来の多くのヒートポンプシステムで要求さ

れるだろう。これらの検出器は、出来れば多年に渡りサービスなしで連続的に動作してほしいも

のである。標準は、ドラフト案が出来つつあって、LFLの 20%(またはそれ以上)について 15

秒(または、それ以下)の応答時間が要求されている[8]。それらの要求を満足する手頃な価

格の検出器は、まだ存在しない。このギャップが標準のリリースを遅らせているのかも知れない。

7.フッ化水素は、重大な危険か?

その通り。居住用ヒートポンプシステムでは、他の3つの火災危険(家具への延焼、爆発、やけ

ど)より大きな危険かも知れない。フッ化水素の量は、2L冷媒火災の50%に達するかも知れない。

フッ化水素は、火炎がなくとも熱のみでも生成されるかも知れないのだ。

最近主要な研究所の実験室で 2人の従業員が 2Lハロゲンの燃焼実験中、フッ化水素で負傷した。

あるケースでは、従業員が決められたプロテクターを装着せずに燃焼室に短時間立ち入ったが、

その後、彼は、多分心臓停止のため、倒れこみ、入院した。

その他の事故としては、燃焼室の壁に手で触れた際に直ぐに焼けた感じがした。何回もの換気を

したのに高濃度のフッ化水素が固着していたようだ。これは、液体状態の水がなくともフッ化水

素の沸点が19.5 °Cであることによるもので驚くべきことである。

サブクラス 2Lの燃焼時の障害については、最近、筆者も参加し消防署長、消防部長と議論した。

それらの専門家も 2Lハロゲン冷媒に起因するその他の火災による危険よりもフッ化水素の危険

についてより大きな懸念を表明した。2L冷媒漏えいが関与する火災への対応では、最初の対応

者、火災調査者及び救護者に専門的トレーニングが必要であるし、医学的な物資供給も必要とな

る。

フッ化水素は、クラス 1のハロゲン冷媒が火炎や熱にさらされた時も生成される。重要な違いは、

2L冷媒は、着火源がある場合に自ら発火し燃焼することである。未訓練な居住者や最初の応答者は、

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消火器で完全に消化できるかもしれないが、フッ化水素のばい煙を吸引または触ることにより後で、

倒れることになる。

結論

微燃性ハロゲン冷媒は、環境懸念により既に採用されている。これらの冷媒は、いくつかの新た

な危険性があり、それに対し更なる研究が必要である。例えば、燃焼性試験の基準は、改善され

るべきだし、新しい検出器も開発されるべきである。多分、これらの最も大きな危険は、冷媒燃

焼時に毒性のあるフッ化水素を発生することである。

参考文献

[1] I.P. Koronaki, D. Cowan, G. Maidment, K. Beerman, M. Schreurs, K. Kaar, I. Chaer, G. Gontarz, R.I.

Christodoulaki, X. Cazauran, Refrigerant Emissions and Leakage Prevention Across Europe – Results from the

RealSkillsEurope Project, Energy 45 (2012) 71-80.

[2] ANSI/ASHRAE Standard 34, Designation and Safety Classification of Refrigerants, 2016.

[3] ISO, 2014, ISO 817:2014 Refrigerants – Designation and Safety Classification, International Organization for

Standardization.

[4] S. Kujak, K. Schultz, Insights Into the Next Generation HVAC&R Refrigerant Future, Sci. Tech. Built Environ.

(2016) 22, 1226–1237.

[5] D.K. Kim, A.E. Klieger, P.Q. Lomax, C.G. McCoy, J.Y. Reymann, P.B. Sunderland, Advances in the ASTM E681

Flammability Limit Test for Refrigerants, RP-1717, Sci. Tech. Built Environ., accepted.

[6] D.K. Kim, A.E. Klieger, P.Q. Lomax, C.G. McCoy, J.Y. Reymann, P.B. Sunderland, Viability of Various Ignition

Sources to Ignite A2L Refrigerant Leaks, Purdue Conferences, Lafayette IN, 2018.

[7] J.L. Pagliaro, G.T. Linteris, P.B. Sunderland, P.T. Baker, Combustion Inhibition and Enhancement of Premixed

Methane–Air Flames by Halon Replacements, Combust Flame 162 (2015) 41–49.

[8] M. Wagner, R. Ferenchiak, Leak Detection of A2L Refrigerants in HVACR Equipment, Final Report, AHRTI Report

9009, 2017.

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特集記事2

「Low GWP refrigerants for Refrigeration and Air Conditioning Systems」

一般社団法人 日本冷凍空調工業会 技術部長 松田憲兒

序論

オゾン層保護や地球温暖化対策などの地球環境を守るため、冷凍空調設備に使用されている冷媒

のフロンは大きな変遷を遂げてきた。オゾン層を破壊する物質の一つとして塩素があり、塩素を

含む冷媒として CFC(クロロフルオロカーボン)冷媒の R11、R12、R502や HCFC(ハイドロクロ

ロフルオロカーボン)冷媒の R22、R123などの特定フロンから、塩素を含まない HFC(ハイドロ

フルオロカーボン)冷媒のR410A、R404A、R134aなどの代替フロンへと変わり、現在はさらに地

球温暖化対策としてGWP(地球温暖化係数)の低い冷媒へと変わりつつある。

CFCから HCFC及び HFCへの従来の冷媒転換は、アンモニア冷媒を除いては可燃性を考慮する必

要がなかった。しかし、さらにGWPを低くすることは原子の化学結合を弱める方向となり不安定

さが増し、燃焼性が出てくる。省エネ性を維持・向上させながら燃焼性のある冷媒をいかに安全

に使用できるようにしていくかが、地球温暖化対策としての冷媒転換の大きな課題となっている。

日本では燃焼性のある冷媒の特性把握とリスクアセスメントを行い、安全に使用するための安全

基準の策定だけでなく、冷凍空調機器の安全基準を規制している高圧ガス保安法の規制緩和や

ISO 5149や IEC 60335-2-40や 2-89などの国際規格改定を積極的に行っている。地球環境保全

と改善のために、日本が行っている低GWP化の動きに関し、関連法の改正や製品別の冷媒転換状

況などを解説する。

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世界と日本の冷凍空調業界の状況

フロン類への規制の始まりは、1974 年 NATURE 誌にアメリカのローランド博士らにより特定フ

ロンのオゾン層破壊現象の論文発表からである。その後の冷凍空調設備に使用されている冷媒の

フロンへの規制の流れは、1987年モントリオール議定書によるオゾン層保護から、1997年京都

議定書による温暖化防止対策へと進んだ。

その後、日本は 1998年地球温暖化対策推進法、1999年改正省エネ法施行でトップランナー制度

を開始した。2001年には冷媒の回収破壊を推進するために、フロン回収・破壊法と家電リサイ

クル法が成立し、2002年に自動車リサイクル法が成立した。

このように国際的な一連の協定や議定書などフロン類の冷媒規制に伴い、日本の国内法を整備し

いち早く冷媒の転換を進めてきた(図1)。

2015年 4月からフロン回収・破壊法が「フロン類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法

律」(フロン排出抑制法)となり、冷媒の生産・使用・管理・再生や破壊まで、冷媒のライフサ

イクル全般に係る冷媒管理の責任分担と責務を明確にした。冷凍空調機器メーカーの責務として、

指定製品化で製品別にある期限までに低 GWP(台数平均)の冷媒に転換した製品を市場投入する

ことになった(表 1)。フロン排出抑制法上で指定製品化された製品(目標値、目標年度が定め

られたフロンを使用している製品)は、冷凍空調機器メーカーの責務で低GWP化を図ることにな

るが、省エネ性、安全性、経済性を考慮した低GWP化をする必要がある。このため、目標値や目

標年度の決定には、これらの重要な指標を国の審議会で議論され承認されたものである。

最近の地球温暖化への対応は、2015年7月17日に開催した地球温暖化対策推進本部において、

2030年度の温室効果ガス削減目標を、2013年度比で 26.0%減(2005年度比で 25.4%減)とす

る「日本の約束草案」を決定した。国際的には、2015年 12月にフランス・パリで開催された

COP21では、全ての国が参加する公平で実効的な 2020年以降の法的枠組みとして「パリ協定」

が採択された。

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パリ協定の採択を受け、政府は 2015年 12月 22日に開催した地球温暖化対策推進本部において

「パリ協定を踏まえた地球温暖化対策の取組み方針について」を決定し、「地球温暖化対策計画」

を策定。2016年 3月 15日に開催した地球温暖化対策推進本部において「地球温暖化対策計画

(案)」を取りまとめ、2016年5月13日「地球温暖化対策計画」の閣議決定がされた。計画は、

2030年度に 2013年度比で 26%削減する削減目標達成への道筋を付けるとともに、2050年まで

に80%の温室効果ガスの排出削減を目指すことを位置付けている。

2016年 10月 14日ハイドロフルオロカーボン(HFC)の生産及び消費量の段階的削減義務(CO2

換算)等を定める本議定書の改正(キガリ改正)が採択された。改正議定書は、20か国以上の

締結を条件に 2019年 1月 1日以降に発効する。日本は、「オゾン層保護法」により特定フロン

を含むオゾン層破壊物質の生産と消費を規制(割当)で法的な担保を図る。2018年 7月 4日に

改正オゾン層保護法は公布された。

注目の低 GWP冷媒

地球温暖化対策として冷媒転換(レトロフィットではなく、新規にGWPの低い冷媒に合わせた設

計・施工等を行った冷凍空調機器へ転換すること)は、フロン類のGWPを小さくしていく一つの

対応策である。 GWPの低い冷媒には微燃性冷媒(A2L:燃焼速度10cm/s以下で燃焼限界3.5vol%(若しくは 0.10kg/㎥)を越え、燃焼熱量 19MJ/kg未満とされている)である R32、R1234yf、

R1234ze(E)やこれらの混合冷媒などが多く ASHRAE Standard 34に多く登録されている(表 2)。 登録された冷媒の組成の中には、R32、R1234yf、R1234ze(E)を基本に、R134a、R125、R152aや

R290(プロパン)、R600a(イソブタン)、R744(二酸化炭素)などを混合した冷媒が多くある。

冷凍空調機器の冷媒として使用される冷媒の多くは、不燃とされているR410A、R134a、R404Aな

どで、ISO817の安全性分類では A1に属するものであった。今後は、GWPの低い冷媒を高効率で

安全に使用していくことになることから、A2L、A2などの混合冷媒の評価取扱いも重要となって

くる。

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低 GWP化の進む製品紹介

この表は日本の主な各製品分野の冷媒転換状況である(表 3)。矢印の左側が使われている冷媒

もしくは使われていた冷媒である。矢印の右側が低GWP化を図った冷媒を示している。矢印の右

Table2 List of conventional and alternative refrigerants

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側の“?”マークの意味は、低GWP化を現段階で要求されても適切な冷媒がないか、変換に課題

が多く冷媒を特定できていないことを示す。

家庭用エアコンはR32に転換がほとんど完了している。業務用エアコンの小型のものもR32に転

換が進みつつある。ただし、VRFのように冷媒充塡の多い機器は、燃焼性を有する低 GWPの冷媒

の場合、安全性確保のための規格・基準の策定とその周知がある程度の時間が必要になるため、

現段階では市場投入が進んでいない。

家庭用給湯機器は、給湯容量の小さい機種では、R32を使用した機器が市場に出ているが、エコ

給湯機の名で知られている家庭用ヒートポンプ給湯機は、二酸化炭素冷媒を使用している。一方、

業務用給湯機は、R410Aと二酸化炭素冷媒が使われている。大容量の給湯が必要な設備や、給湯

の再熱利用を行うため湯を戻し再加熱する場合の設備などでは、システム効率の観点から R410A

が使用されている。そのなかで、R410Aの代替冷媒としてR454C(GWP値149)を使用した機器が

リリースされた。これが主流になるかはもう少し市場の反応を見ていく必要がある。

ターボ冷凍機は、冷媒転換しても性能低下が少なく、機器の大幅な設計変更も不要となる低圧用

冷媒(R1233ze(E)、R1224yd(Z)、R514A)と高圧用冷媒(R1234ze(E)、R1234yf)が出ており、す

でに商品化も進んでいることから、今後はこれらの冷媒転換が進むと考えられる。

一方、チラーは使用温度帯域が広く、使用される圧縮機の種類も多い。これらの仕様に合わせた

冷媒の種類も多いことから、まだ、適切な冷媒の選定・評価ができていない。

冷凍冷蔵機器は、二酸化炭素やイソブタンに代表される自然冷媒を使用した製品が市場にでてい

るが、その数は非常に小さい。また、コンデンシングユニットの冷媒は、二酸化炭素冷媒を使用

した機器が市場に出ているが、全ての使用領域で省エネ性を確保するまでになっていないこと、

既設の配管を使用できないために新規の物件が対象になることも多いこと、以上からコンデンシ

ングユニットは、フロン冷媒が多く使用されている。そのなかで、R448A、R449A、R407H、R463A

など A1冷媒で GWP値が 1,500以下の冷媒を使用した機器がリリースされた。しかし、GWP値が

1,000を切るような冷媒はまだ市場には出ていない。なお、R448Aや R449Aは、欧州などでレト

ロフィット冷媒として市場で使用され始めているが、日本ではこれらの冷媒は新設計の機器に使

用するものとして使われている。

カーエアコンの冷媒はR134aからR1234yfに転換されることになるが、ハイブリッド車や電気自

動車の普及に伴い、暖房用の熱源が少なくなることから、カーエアコンもヒートポンプ化を図る

必要があることから、一部の車種では二酸化炭素冷媒を使用したカーエアコンも出始めている。

カーエアコンは地球温暖化への対応だけでなくヒートポンプ化の流れによるさらなる冷媒転換の

可能性がある。

なお、家庭用冷蔵庫や自動販売機はすでに低 GWPの冷媒(R600a、二酸化炭素、R1234yfなど)

に転換されている。

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今後の展望

国内外の大きな課題である地球温暖化対策には、省エネルギー化やGWPの低い冷媒への転換、機

器からの冷媒漏えい防止の取組みなど、冷凍空調機器業界の役割は大きい。

パリ協定やキガリ改正により、HFCの削減(CO2換算)が求められることから、多少燃焼性を有

する微燃性冷媒(R32、R1234yf、R1234ze(E)とそれらの混合冷媒)やフルオロカーボンよりも高

圧である二酸化炭素冷媒の活用が多くなる。

また、冷凍冷蔵分野での炭化水素冷媒も有望な次世代冷媒でもある。いずれも一長一短があり、

特に安全性に関しては従来よりも気を付ける必要のある冷媒が増えてくる。

冷凍空調機器業界がこれまで経験の少ない可燃性を有する冷媒を安全に使っていくには、安全に

関するリスク評価と危害度の分析や規制のあり方など、幅広い知見を有する学識者と規制当局と

連携して取り組むことが望まれる。日本にて行った産官学連携の微燃性冷媒リスクアセスメント

や安全性評価・分析など評価・分析技術を活用・発展させることが、世界的な課題である地球温

暖化対策の1つであるGWPの低い冷媒への転換を牽引する大きな力となるものと確信している。

参考文献

[1] Molina, M. J. and Rowland, F. S., “Stratospheric sink for chlorofluoromethanes: chlorine atom-catalysed destruction of ozone”, Nature 249, 810–812 (1974). https://www.nature.com/articles/249810a0

Table3 Low-GWP Alternatives and Products

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2.ANNEXES(国際共同研究)

2.1 Ongoing Annexes in HPT TCP

数か月前、EU加盟国内の全ての新規の公衆ビルが概ねゼロエネルギービル(Nearly Zero

Energy Buildings :nZEB)への適合要求が導入された。2年後、この要求は、全てのビルに拡

大されることになっている。その他の大陸、米国、カナダ、日本においても概ねゼロエネルギー

ビルは、将来の高性能ビルに対する次のステップとなっている。しかしながら、nZEBへの認識

や期待が最先端のものと比較され、またそれは、EU加盟国により異なっている。それが nZEB実

施のための性能標準化システムソリューションの開発を製造者にとって困難なものにしている。

Annex49では、nZEBでのヒートポンプ運用を評価する。これは、nZEBで実現している低い負荷

及び低い温度で保証されている技術であり、従って、高性能をもたらすものである。

更にヒートポンプは、nZEBで設置されている PV発電の自己消費比率を高めることが出来る。こ

れは、フィードインタリフ(電力買取価格)の低下時に PV設置をより経済的にすることが出来

る。

Annex49の作業は、4つのタスクにスケジューリングされている:

Task1は、nZEBにおける最先端のヒートポンプを概括し、上記の問題を解決するために各国に

おける先進的取組みの進み具合を評価する方法の検証を現在継続している。

Task2は、nZEBにおけるヒートポンプ構築の各種方法、及びエネルギー柔軟性まで範囲を広げ

た蓄蔵手段も含む熱源側をカバーする。Task3では、参加国での種々のモニタリング作業が開始

されており、途中経過が部分的に開示されている。

Task3は、試験とnZEB構成要素の更なる開発をカバーする。

Task4は、nZEB応用におけるヒートポンプの設計と制御、これは、Task2の構築の各種方法に関

連している。例えば、エネルギー柔軟性や需要応答性を高める先進的ヒートポンプ制御の開発を

含む、熱源と排熱の設計に関する事項である。

Annex Taskの2~4は、2018年6月7、8日にTrondheimのSINTEF(ノルウェー産業科学技術研

究所)Building Research and NTNU(ノルウェー科学技術大学)でのAnnex49会議で提示され議

論された。

Task2では、太陽熱吸収をヒートポンプの熱源として、排熱側をビルの夏期冷房負荷とした居住

用ビルのシミュレーションがスイスで行われ、またドイツでは、8軒の住宅の模擬による熱と電

気の蓄蔵システムが調査されている。それらは、その後もモニタリングされる。

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より高い自己消費と需要応答のための熱と電気の蓄蔵システムの調査は、継続中の他のモニタリ

ングプロジェクトに繋がっている。ベルギーでは、下水を熱源とするより大規模なビルのための

システムが調査され、モニタリング設備と繋がっている。

Task3の中間結果は、これらの継続中のモニタリングプロジェクトの結果から成っている。ノル

ウェイでは、2018年から開始し、または、2019年から開始するいくつかのプロジェクトがあり、

それらは、幼稚園、病院、スーパーマーケットのようなより大規模な非居住ビルのものである。

オーストリアとドイツでは、モニタリングは、理想的な運用での性能データがどのくらいになる

かを評価するため、シミュレーション研究と並行して行われる。その後、モニターされたシステ

ムでの最適化が行われる。スウェーデンでは、2つの同一の家、双子家と呼ばれるが、一つは、

居住して、もう一つの家には、調整可能な負荷を付けて、床暖房と輻射式の異なった暖房システ

ム及びオンオフ制御とインバータでの制御でのそれぞれの運用状態を比較、モニタリングしてい

る。さらにボアホールと空気の熱交換でのフリークーリングも評価された。米国では、NIST

(National Institute of Standards and Technology:米国標準技術研究所)の NZE(Net-Zero

Energy)住宅試験設備で性能と熱快適性について種々の空気暖房システムが大規模に試験及び評

価されている。さらに種々の費用効果のあるZNE技術の様々なシステムが評価されている。

Task4では、太陽光パネルと蓄電池のシステム設計と自己消費指標の相関性がドイツでのモニタ

リング結果に関連して蓄電装置のための評価が行われた。

ノルウェイでは、規則による制御やモデル予測制御を含む種々の制御方式が建物やシステム技術

の需要応答能力の基礎として評価されている。これは、IEA EBC(Buildings and Communities)

TCP Annex67のトピックでもある。

その他のAnnex49のTaskについての最新の結果は、11月7日~9日に米国ワシントンDC近郊の

Gaithersburgにある NIST(National Institute of Standards and Technology:米国標準技術

研究所)での最近のAnnex49の会合で提示され議論された。

Annex website http://heatpumpingtechnologies.org/annex49/

Contact Operating Agent is Carsten Wemhoener, for SFOE, Switzerland. [email protected]

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Fig. 1: スウェーデンの双子の家。異なった暖房システム特性と異なったヒートポンプ制御の評価に使われた。

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序論

ヒートポンプがより広く受け入れられるようにするには、

騒音を低減させることが重要である。うるさい騒音を最小

化するため、定常状態での騒音発生及び運転条件切り替え

時の騒音の識別特性の遷移挙動に注目しなければならない。

特に ATWヒートポンプでは、便利で省エネを効率的に達成

出来るのだが、既存の設備が再利用されることが多く、騒

音は、新規と再利用の両方の市場で改善することが、非常

に重要である。

Task2の枠組みでは、3つのヒートポンプが試験に選ばれた

が、その最初の測定が行われた。ヒートポンプ温水器

(Heat Pump Water Heater ; HPWH)の排気が CETIAT

( CENTRE TECHNIQUE DES INDUSTRIES AÉRAULIQUES ET

THERMIQUES)の double reverberant roomで試験された

(図 1参照)。ATWヒートポンプが ACA(Acoustic Center

Austria; Stetten, Austria)と AIT(Austrian Institute

of Technology ; Vienna, Austria)によって試験され、気

候チャンバー内で60本以上のマイクロフォンで遷移音が録

音された(図2参照)。

試験は、critical icingと de-icing サイクル含む、種々

の動作点で実施された。加えて、従来のスキャンニング技

術、音響パワーレベルを計算するための音響強度プローブ

(マイクロフォン)が使用された。このヒートポンプは、

2018年 7月に DTI(Danish Technological Institute ;

Denmark)に移送された。

参加研究機関から 15名の出席者が 2018年 6月、RISE

(Research Institutes of Sweden ; Borås, Sweden)がホ

ストになり、3回目の会合に2日間に渡って集まった(図3

参照)。2日間の会合では、イタリアの Politecnico di

Milanoによる Taskで準備された音響測定技術と規制の序

論に関する資料を集中的にレビューした。更にスウェーデ

ンとオーストリアでのリスニングテスト時で行われた心

理的音響試験について議論された。数学的音響特性法により人間の知覚との相関を求めることは、

非常に重要である。こうして、Annexは、全ての関係のあるステークホルダーの利益のための

図 1:CETIATの倍反響室に設置されたヒートポンプ温水

器排気測定装置 [出展:CETIAT, France]

図2:AITの気候チャンバーの中で60本以上のマイクロ

フォンを持つ音響ドーム内に設置されたエアツーウオー

ターヒートポンプ。 [出展:AIT, Austria]

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種々の分野からのアプローチとの協調に後押しされて、短長期的なこの領域のガイダンスや将来

の標準に寄与することになる。

Annexの参加者は、今、全ての Taskで奮闘しており、ヒートポンプ関連の音響研究プロジェクトの

結果について提供したり議論することで重要な役割を果たしている。

Annex51を支える各国のプロジェクトは、全速力で疾走している。

目的

・騒音と振動におけるヒートポンプの快適性が、より広く受け入れられるように更に向上するように

する。

・種々のレベル(製造者、音響コンサルタント、設置業者、立法関係者等)の知見と専門性を高める。

・各国標準や国際標準へインプットする。

・6回の参加国での音響に関する Annex会合を準備する。3回は、開催済み(Austria Vienna 06-

2017, France Lyon 01-2018, Sweden, Borås, 06-2018)、1つ計画中(Denmark Aarhus 01-2019)

・結びの国際ワークショップを組織し、議事報告を編集する。2020年に Mostra Convegno, Italy,で

計画。

・既にある普及メディアを通じてヒートポンプ製造者に結論を世界中に普及させる。

・音響ガイドラインを作成し、種々のレベル(コンポーネントレベル、ユニットレベル、装置レベル)

に周知する。

Taskの概観

Task1: 法令と標準 - 音響に関する規制と標準、測定技術と認証スキームを集積し比較検討する

Task2: 研究でカバーするヒートポンプ装置を定義 - Annexで使う代表的製品のリストを編集

Task3: コンポーネントレベルとユニットレベルでの騒音の識別、騒音制御技術 - 設計と制御方

式を含むコンポーネント、ユニットレベルの騒音の概観の作成

Task4: ヒートポンプの運転条件の音響特性上の効果の分析

Task5: ヒートポンプ設置と周囲環境の影響 - 音響知覚に焦点を当てて、ヒートポンプ設置と環

境による影響を調査する

Task6: 音響性能の測定と解説の改善 - 将来の選択肢の議論、より詳細かつ関連する音響性能の

数値に対して

Task7: 普及、周知 - ヒートポンプ音響に関するガイドライン、推奨提案と教育材料の準備

キーデータ

プロジェクト期間:2017年4月‐2020年3月

プロジェクトリーダー(OA: Operating Agent)Christoph Reichl, AIT Austrian Institute of

Technology, [email protected]

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参加国:フランス、スウェーデン、オーストリア、イタリア、ドイツ、デンマーク

その他詳細情報: http://heatpumpingtechnologies. org/annex51/ and Research Gate https://www.research-

gate.net/project/IEA-HPT-Annex-51-Acoustic-Signatures- of-Heat-Pumps

Annex website http://heatpumpingtechnologies.org/annex51/

Contact Operating Agent is Christoph Reichl, [email protected], AIT Austrian Institute of Technology in Austria.

図3:スウェーデンのBoråsにあるRISEでの第3回専門家会議IEA HPT TCP Annex 51チーム [出展: The IEA HPT TCP Annex 51 チーム]

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HPT TCPでのプロジェクトは、Annex(アネックス)として知られている。Annexへの参画は、当

該国の見識を高める効率的な方法である。これは、プロジェクトの目的でもあり国際的な情報交換に

よるものでもある。Annexは、限定した期間で運営され、その目的は、新技術導入への研究により異

なる。

The Technology Collaboration Programme on Heat Pumping Technologies participating countries are:

Austria (AT), Belgium (BE), Canada (CA), Denmark (DK), Finland (FI), France (FR), Germany (DE), Italy (IT), Japan (JP), the Nether- lands (NL), Norway (NO), South Korea (KR), Sweden (SE), Switzerland (CH), the United Kingdom (UK), and the United States (US).

Bold, red text indicates Operating Agent (Project Leader).

以上

*)ドイツからのプロジェクト・リーダー、その他の参加国からの参加はなし

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このHPT Magazineの効果的な活用のため、今後改善を図っていきたいと考えておりますので、

忌憚のないご意見、ご要望などを下記事務局までお寄せ下さい。

事務局連絡先:(一財)ヒートポンプ・蓄熱センター 国際・技術研究部

IEA HPT TCP 日本事務局 前山 英明

TEL: 03-5643-2404 FAX: 03-5641-4501

e-mail:[email protected]