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– 1 – Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータ 及び情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のア ドバイスの提供を目的としたものではありません。従って、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類 等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 更新日:2020/6/15 石油天然ガス開発推進本部:野神 隆之 原油市場他: OPEC プラス産油国減産措置延長による世界石油需給引き締まり期待等で上昇する原 油価格 IEAOPEC、米国 DOE/EIA 他) 1. 米国では、新型コロナウイルス肺炎に伴う個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されつつあるこ とからガソリンや留出油需要は底打ちしつつあると見られるものの、原油価格下落に伴う製油所の精 製利幅の改善と石油製品生産活動の持ち直しによる各種石油製品供給増加で相殺されて余りあっ たことから、ガソリン及び留出油在庫は増加傾向となり、双方とも平年幅の上限を超過する量となって いる。他方、ブレント原油に対する WTI 原油の割安感が低下したこともあり、米国からの原油輸出が 減少したことが一因となり、原油在庫は増加、週間統計史上最高水準に到達するとともに平年幅の上 限を上回る状態は継続している。 2. 2020 5 月末のOECD 諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、 欧州では、原油精製処理水準が低下した一方で原油調達も減少したと見られることから、原油在庫 はほぼ同水準となった。他方、米国では、国内での原油生産が減少しつつあったものの、製油所で の原油精製処理活動の低迷で相殺されたことから、在庫は若干ながら増加となった。また、日本で も、製油所での春場のメンテナンス作業実施もあり原油の精製処理が進まなくなったことで、原油在 庫は増加した。この結果、OECD 諸国全体として原油在庫は増加したうえ、在庫量が平年幅上限を 超過する状態は継続している。石油製品については、欧州では製油所の稼働低下に伴う石油製品 生産活動の鈍化により供給が低迷した結果、石油製品在庫は減少となった。しかしながら、米国や 日本では航空機及び産業向け石油需要の減少等により、石油製品在庫は増加した。このため、 OECD 諸国全体として石油製品在庫は増加したうえ、平年幅上限を超過する量となっている。 3. 2020 5 月中旬から 6 月中旬にかけての原油市場では、米国石油坑井掘削装置稼働数の減少に加 え、OPEC プラス産油国閣僚級会合を控えての主要関係国間での減産措置延長の暫定合意到達の 情報に伴う石油需給引き締まり期待等により、原油相場に上方圧力が加わった結果、5 18 日には 1 バレル当たり 31.82 ドルの終値であった原油価格(WTI )は上昇傾向となり、6 7 日夜間から 8 未明の時間外取引では一時 40 ドルを超過する場面が見られたが、その後は新型コロナウイルス肺 炎の感染第二波に対する懸念等もあり反落、6 12 日の終値は同 36.26 ドルとなった。 4. 当面の市場の主な注目点は、まず、新型コロナウイルス肺炎に伴う個人の外出規制と経済活動制限 の緩和に伴う感染第二波に関する動向で、これにより石油需要回復に関する市場心理とともに原油 相場が左右されるものと考えられる。また、OPEC プラス産油国の減産遵守状況に関する情報にも原 油相場が反応することも想定される。さらに、原油価格が 1 バレル当たり 40 ドルを上回る場面も見ら れるほど上昇したこともあり、米国でのシェールオイル開発・生産活動が復活し始めるとの観測が市 場で増大しつつあることから、この面では今後原油相場の上昇を抑制する方向で作用する可能性も ある。そして、香港の国家安全法の制定を巡り米国と中国等の対立の先鋭化すれば、石油需要回復 に対する市場の不安感が増大する結果、原油相場が下振れする場面が見られることもありうる。

IEA OPEC DOE/EIA 1. WTI 2. 5 OECD 3. OPEC 1 WTI 4. OPEC...OECD諸国全体として石油製品在庫は増加したうえ、平年幅上限を超過する量となっている。

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Page 1: IEA OPEC DOE/EIA 1. WTI 2. 5 OECD 3. OPEC 1 WTI 4. OPEC...OECD諸国全体として石油製品在庫は増加したうえ、平年幅上限を超過する量となっている。

– 1 – Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータ

及び情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のア

ドバイスの提供を目的としたものではありません。従って、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類

等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

更新日:2020/6/15

石油天然ガス開発推進本部:野神 隆之

原油市場他: OPEC プラス産油国減産措置延長による世界石油需給引き締まり期待等で上昇する原

油価格

(IEA、OPEC、米国DOE/EIA他)

1. 米国では、新型コロナウイルス肺炎に伴う個人の外出規制及び経済活動制限が緩和されつつあるこ

とからガソリンや留出油需要は底打ちしつつあると見られるものの、原油価格下落に伴う製油所の精

製利幅の改善と石油製品生産活動の持ち直しによる各種石油製品供給増加で相殺されて余りあっ

たことから、ガソリン及び留出油在庫は増加傾向となり、双方とも平年幅の上限を超過する量となって

いる。他方、ブレント原油に対する WTI 原油の割安感が低下したこともあり、米国からの原油輸出が

減少したことが一因となり、原油在庫は増加、週間統計史上最高水準に到達するとともに平年幅の上

限を上回る状態は継続している。

2. 2020年5月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、

欧州では、原油精製処理水準が低下した一方で原油調達も減少したと見られることから、原油在庫

はほぼ同水準となった。他方、米国では、国内での原油生産が減少しつつあったものの、製油所で

の原油精製処理活動の低迷で相殺されたことから、在庫は若干ながら増加となった。また、日本で

も、製油所での春場のメンテナンス作業実施もあり原油の精製処理が進まなくなったことで、原油在

庫は増加した。この結果、OECD 諸国全体として原油在庫は増加したうえ、在庫量が平年幅上限を

超過する状態は継続している。石油製品については、欧州では製油所の稼働低下に伴う石油製品

生産活動の鈍化により供給が低迷した結果、石油製品在庫は減少となった。しかしながら、米国や

日本では航空機及び産業向け石油需要の減少等により、石油製品在庫は増加した。このため、

OECD諸国全体として石油製品在庫は増加したうえ、平年幅上限を超過する量となっている。

3. 2020年5月中旬から6月中旬にかけての原油市場では、米国石油坑井掘削装置稼働数の減少に加

え、OPEC プラス産油国閣僚級会合を控えての主要関係国間での減産措置延長の暫定合意到達の

情報に伴う石油需給引き締まり期待等により、原油相場に上方圧力が加わった結果、5 月 18 日には

1 バレル当たり 31.82 ドルの終値であった原油価格(WTI)は上昇傾向となり、6 月 7 日夜間から 8 日

未明の時間外取引では一時 40 ドルを超過する場面が見られたが、その後は新型コロナウイルス肺

炎の感染第二波に対する懸念等もあり反落、6月12日の終値は同36.26ドルとなった。

4. 当面の市場の主な注目点は、まず、新型コロナウイルス肺炎に伴う個人の外出規制と経済活動制限

の緩和に伴う感染第二波に関する動向で、これにより石油需要回復に関する市場心理とともに原油

相場が左右されるものと考えられる。また、OPEC プラス産油国の減産遵守状況に関する情報にも原

油相場が反応することも想定される。さらに、原油価格が 1 バレル当たり 40 ドルを上回る場面も見ら

れるほど上昇したこともあり、米国でのシェールオイル開発・生産活動が復活し始めるとの観測が市

場で増大しつつあることから、この面では今後原油相場の上昇を抑制する方向で作用する可能性も

ある。そして、香港の国家安全法の制定を巡り米国と中国等の対立の先鋭化すれば、石油需要回復

に対する市場の不安感が増大する結果、原油相場が下振れする場面が見られることもありうる。

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– 2 – Global Disclaimer(免責事項)

本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータ

及び情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のア

ドバイスの提供を目的としたものではありません。従って、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類

等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

1. OPEC 及び一部非 OPEC(OPEC プラス)産油国で 5~6 月に実施している減産措置を 1 ヶ月間延

長することで合意

(1) 協議内容等

2020年6月6日にOPEC産油国は総会を開催、そしてその後OPEC及び一部非OPEC(OPECプラ

ス)産油国は閣僚級会合を開催した(どちらもテレビ会議形式で開催された)。OPEC プラス産油国閣僚

級会合にはエクアドル、インドネシア及びトリニダード・トバゴがオブザーバーとして参加した。2020 年 4

月12日に開催された前回のOPECプラス産油国閣僚級会合では次回会合の開催日は6月10日とされ

た(またその前日の 6月9日にはOPEC通常総会が開催される旨3月5日開催のOPEC臨時総会で決

定されていた)が、サウジアラビアの原油公式販売価格(地域ごとの指標原油価格に対し加減する調整

金)の決定が通常毎月 5日であることから、実務上の支障を回避するべく、6月 4日に前倒しして開催す

る方向で調整が行われた(OPEC 議長国であるアルジェリアのアルカブ(Arkab)エネルギー相が関係各

国に会合開催日の前倒しにつき書簡を発出した旨 5 月 30 日に伝えられた)が、関係国間での調整に時

間を要した結果実際には 6月 6日の開催となった。

OPEC プラス産油国閣僚級会合では、2020 年全体で世界石油需要が日量 900 万バレル程度縮小す

るとの認識に基づき、前回の OPEC プラス産油国閣僚級会合で決定された 2020 年 5 月 1 日~6 月 30

日において日量 970 万バレル、及び 7月 1 日~2020 年 12月 31 日において日量 770 万バレルの、そ

れぞれ減産措置(減産の基準となる原油生産量はサウジアラビアとロシアについては日量 1,100 万バレ

ル、その他の産油国は 2018年10月の原油生産量)に関し、2020年7月1日~7月31日の 1ヶ月間に

ついては 5月 1日~6月30日の減産措置を延長する旨決定した(表1参照)。また、2020年5~6月に

100%の減産遵守率を達成できなかった OPEC プラス減産参加産油国は、減産遵守未達成部分につき

同年 7~9 月に既存の減産措置に追加して減産することに同意した。そして減産措置の継続は、4 月に

開催された前回の OPEC プラス産油国会合で決定された減産措置につき、これまで減産遵守未達成で

あった産油国が未達成分を今後追加して減産することを含め減産を完全に遵守することを条件とすると

された。さらに、サウジアラビア(日量 100万バレル)、UAE(同 10万バレル)、クウェート(同 8万バレル)

及びオマーン(同 1~1.5万バレル)が、6月において自主的に追加減産措置を実施する旨表明した。た

だ、6月5日にメキシコのロペスオブラドール大統領は4月12日に開催されたOPECプラス産油国閣僚

級会合で決定された5~6月の減産措置(メキシコ分は日量10万バレルであり、これは5~6月のみに適

用されると 6 月 6 日に報じられる)を延長する立場にはない旨表明した他、6 月 6 日には同国のナーレ

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– 3 – Global Disclaimer(免責事項)

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及び情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のア

ドバイスの提供を目的としたものではありません。従って、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類

等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

(Nahle)エネルギー相も5~6月に実施されている自国の減産措置を7月に延長することはない旨発言、

アルカブOPEC議長も 7月のOPECプラス産油国の減産幅は日量960万バレル程度である旨明らかに

し、4 月 12 日に開催された前 OPEC プラス産油国閣僚級会合で決定された同 970 万バレルをメキシコ

の減産幅分だけ下回る旨示唆した一方で、ロシアのノバク エネルギー相は 7 月の OPEC プラス産油国

減産措置はメキシコも含め日量 970 万バレルとなっている旨 6 月 6 日発言するなど、OPEC プラス産油

国減産規模を巡っては不透明な部分も存在する。なお、原油生産が不安定なイラン、リビア及びベネズ

エラの各国の減産目標については、4月12日に開催されたOPECプラス産油国閣僚級会合時の声明で

は言及されてなかったが、今般の会合等での声明においても言及されていない。次回のOPEC総会(通

常総会)は 2020年11月30日に、OPECプラス閣僚級会合は 12月1日に、それぞれオーストリアのウイ

ーンで開催される予定である。そして、OPEC 及び非 OPEC 閣僚監視委員会(JMMC: The

OPEC-Non-OPEC Joint Ministerial Monitoring Committee、委員はサウジアラビア、クウェート、UAE、イ

ラク、アルジェリア、ナイジェリア、ベネズエラ、ロシア及びカザフスタン)が、共同技術委員会(JTC:

Joint Technical Committee)及びOPEC事務局による支援のもと、全般的な市場の状況、原油生産水準と

減産遵守状況につき緊密に監視を行うことを確認するとともに、2020年12月まで JMMCを毎月開催、そ

して次回 JMMCを 6月18日に開催する旨OPECプラス産油国閣僚級会合で決定した。

(単位:日量千バレル)

2020年5月1日の減産時

基準生産量

2020年5月1日~6月30日減産目標

2020年5月1日~6月30日の原油生産目標

2020年5月1日~6月30日の減産率(%)

2020年3月原油生産量

(非OPEC産油国はコンデンセート

を除外)

2020年4月原油生産量

(非OPEC産油国はコンデンセート

を除外)

2020年5月原油生産量

(非OPEC産油国はコンデンセート

を除外)

減産量(非OPEC産油国はコンデンセート

を除外)

減産遵守率(非OPEC産油国はコンデンセート

を除外)(%)

2020年7月1日~7月31日の

減産目標

2020年7月1日~7月31日の原油生産目標

2020年7月1日~7月31日の減産率(%)

アルジェリア 1,057 241 816 23 1,030 1,007 880 177 73 241 816 23アンゴラ 1,528 348 1,180 23 1,402 1,312 1,270 258 74 348 1,180 23コンゴ 325 74 251 23 294 281 300 25 34 74 251 23赤道ギニア 127 29 98 23 122 127 100 27 93 29 98 23ガボン 187 43 144 23 202 193 200 -13 -30 43 144 23イラク 4,653 1,061 3,592 23 4,571 4,521 4,250 403 38 1,061 3,592 23クウェート 2,809 641 2,168 23 2,873 3,132 2,350 459 72 641 2,168 23ナイジェリア 1,829 417 1,412 23 1,844 1,777 1,750 79 19 417 1,412 23サウジアラビア 11,000 2,508 8,492 23 9,997 11,550 8,600 2,400 96 2,508 8,492 23UAE 3,168 722 2,446 23 3,507 3,839 2,500 668 93 722 2,446 23減産参加OPEC産油国 26,683 6,085 20,599 23 25,842 27,739 22,200 4,483 74 6,085 20,599 23イラン 3,330 2,022 1,969 1,920 1,410リビア 1,118 91 82 100 1,018ベネズエラ 1,206 660 622 550 656OPEC産油国 32,337 28,614 30,412 24,769 7,567

アゼルバイジャン 718 164 554 23 684 680 557 161 98 164 554 23バーレーン 205 47 158 23 212 201 NA NA NA 47 158 23ブルネイ 102 23 79 23 121 109 NA NA NA 23 79 23カザフスタン 1,709 390 1,319 23 1,671 1,576 1,392 317 81 390 1,319 23マレーシア 595 136 459 23 667 520 NA NA NA 136 459 23メキシコ 1,781 100 1,681 6 1,747 1,752 NA NA NA 0 1,781 0オマーン 883 201 682 23 936 964 679 204 101 201 682 23ロシア 11,000 2,508 8,492 23 10,398 10,493 8,590 2,410 96 2,508 8,492 23スーダン 75 17 58 23 71 71 NA NA NA 17 58 23南スーダン 130 30 100 23 125 136 NA NA NA 30 100 23減産参加非OPEC産油国 17,198 3,615 13,582 21 16,632 16,502 NA NA NA 3,515 13,682 20減産参加OPECプラス産油国 43,882 9,701 34,181 22 42,474 44,241 NA NA NA 9,601 34,281 22※減産量の列のマイナスは増産を示す※イラン、リビア及びベネズエラの基準生産量は2018年10月の同国原油生産量

出所:OPEC他データをもとに推定

表1 OPEC及び一部非OPEC産油国減産幅(OPECプラス閣僚級会合開催時点で利用可能なデータもとに構成)

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及び情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のア

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(2) 今回の会合の結果に至る経緯及び背景等

前述の通り、4月 12日に前回のOPECプラス産油国臨時閣僚級会合が開催され、2020年 5~6月に

おいて合計日量 970 万バレルの減産を実施する旨決定し、5 月 1 日より実施した。4 月の OPEC プラス

産油国原油生産量は、減産措置が実施される前であり、3月6日に開催された前々々回(4月12日の前

回OPECプラス産油国閣僚級会合の3日前の4月9日にも閣僚級会合が開催されているため前々々回

となる)の OPEC プラス産油国閣僚級会合において追加減産措置に関する交渉が決裂した影響で、大

幅な増加となっていた(4 月の OPEC プラス産油国原油生産量は 2 月のそれに比べ日量 276 万バレル

(減産に参加するOPECプラス産油国のみでは同307万バレル)の増加となっていた)一方で、新型コロ

ナウイルス肺炎の拡大により、米国(カリフォルニア州では 3月19日、ニューヨーク州は 3月22日に、そ

れぞれ外出禁止令が発令されるなどしたことで個人の往来が大きく制限された)他世界各国・地域にお

いて個人の外出が規制されるとともに経済活動が制限されたことにより、ガソリンやジェット燃料といった

石油需要が世界的に減少した(2020年4月の世界石油需要は 1月時の見通しから日量2,480万バレル

下方修正されたとの指摘もある)ことから、4 月は石油供給が需要を日量 2,300 万バレル程度上回ったも

のと推定される。しかしながら、4 月 16 日に米国のトランプ大統領が新型コロナウイルス肺炎に伴う外出

規制及び経済活動制限の緩和に関する指針を発表して以降米国の諸州が一部であれ市民の外出規制

及び経済活動制限を緩和した(5 月 20 日のコネチカット州を以て米国の 50 州全てが部分的にではある

が規制等を緩和している)他、イタリア、スペイン、フランス及び英国といった欧州の一部諸国でも外出規

制や経済活動制限が緩和される方向に動いている一方、中国では 4月8日に武漢の都市封鎖が解除さ

れた後、経済が正常化に向かいつつあり、それに伴い石油需要も回復する傾向にある旨伝えられる。こ

のような石油需要の回復に加え、5月1日にはOPECプラス産油国による減産措置の開始もあり、5月の

世界石油需給バランスは供給が需要を日量 1,100 万バレル程度超過しているものと推定され、引き続き

供給過剰ではあるものの、4 月に比べれば相当程度過剰幅が縮小しているものと考えられる。新型コロ

ナウイルス肺炎については、外出規制や経済活動制限を緩和した地域の一部では、感染が再拡大する

現象も見られるが、概ね外出規制や経済活動制限を再強化することなく今日に至っていることから、感染

の第二波及び第三波の到来は世界経済成長及び石油需要の伸びにとって依然としてリスクではあり続

けるものの、少なくともOPECプラス産油国閣僚級会合前の時点では世界石油需要はこの先回復方向に

向かうものと市場では概ね認識されていた。他方、4月12日に開催された前回のOPECプラス産油国閣

僚級会合では、2020年5月1日~6月30日は日量970万バレル、2020年7月1月~12月31日は同

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– 5 – Global Disclaimer(免責事項)

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及び情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のア

ドバイスの提供を目的としたものではありません。従って、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類

等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

770万バレル、2021年1月1日~2022年4月30日は同580万バレルの、それぞれ減産措置を実施す

る旨決定されたことから、需要回復と併せれば、世界石油需給は引き締まる方向に向かうものと市場では

予想された。このようなこともあり、5月渡し原油先物契約取引期限を 4月21日に控え、4月20日には一

時 1 バレル当たりマイナス 40.32 ドルに到達した他、この日の終値もマイナス 37.63 ドルとなった原油価

格(WTI)は、その後上昇傾向となり、5 月下旬においては終値ベースで概ね 33~35 ドル程度で推移し

ていた。しかしながら、この時点でもまだ、3月 6日のOPECプラス閣僚級会合開催直後の終値である 1

バレル当たり 41.28 ドルには到達しておらず、3 月 6 日の OPEC プラス閣僚会合開催以前のサウジアラ

ビアの財政収支均衡原油価格とされる 1バレル当たり 80ドル程度(WTIを基準としている)及びロシアの

予算措置前提原油価格である40ドル程度(WTIを基準としているが、ブレント原油価格で42.40ドルと伝

えられる)を割り込んだままとなっていた(また、3 月 11 日にロシア エネルギー省のソローキン副大臣は

原油価格の均衡点は 1バレル当たり 45~55ドル程度であり、この水準であれば、産油国にとっても快適

であり、世界経済発展にとっても十分に低水準である旨認識している旨示唆していた)。加えて、世界石

油需給は少なくとも 2020 年第一四半期及び第二四半期は供給過剰となったことで、この期間中は世界

的に石油在庫が積み上がりつつあると見られる(18 億バレル程度の石油在庫が積み上がるものと推定さ

れる)ことから、これがこの先市場関係者間での石油購買意欲を削ぐ形で作用する結果原油価格の回復

を抑制する恐れがあることも予想された。このようなことから、サウジアラビアを中心とする一部 OPEC プ

ラス産油国は余剰石油在庫の取り崩しを促進するとともに市場での世界石油需給の引き締まり感を増大

させることを通じ原油価格の回復を加速させることを希望したと見られ、2020年5~6月に実施している減

産措置を 2020 年末まで延長することを企図している旨 5 月 28 日に伝えられた。ただ、この直前の 5 月

26日には、ロシアのノバク エネルギー相が同国の主要石油会社との間で会合を開催し、5~6月に実施

されている減産措置を延長する(8 月末までにかけての 2 ヶ月間の延長につき議論されていたとされる)

ことにつき、石油会社から意見を聴取したが、賛成と反対が相半ばする状況であった旨この日報じられ

た他、その後ロシアとしては 4 月 12 日に開催された前回の OPEC プラス産油国閣僚級会合で決定され

た 7 月以降の日量 770 万バレル程度の減産措置の実施に固執する方針である旨 5月 26 日に報じられ

た。また、ロシアの最大手石油会社であるロスネフチは、原油売買に関し長期契約を締結している大口

需要家に対し販売する原油が不足するとして、減産措置を 6 月以降延長することは困難である旨示唆し

たと 5月28日に伝えられる。さらに、ロシアとしては、大幅な減産措置を長期間推進する結果、石油需給

の引き締まり感が市場で広がることで原油価格が相当程度上昇することに伴い、米国のシェールオイル

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータ

及び情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のア

ドバイスの提供を目的としたものではありません。従って、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類

等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

を含む原油生産量が急速に回復する結果、OPEC プラス産油国の原油生産調整を以てしても制御が困

難なほどの世界石油需給緩和を招くことによって原油価格が乱高下するのではないかという懸念を持っ

ていたこともあり、5~6 月に実施されている減産措置を延長することには消極的であった。この結果、こ

の時点ではサウジアラビアを中心とする一部OPECプラス産油国が推進する、5~6月に実施されている

減産措置の 2020年末までの延長に対し、ロシアが賛同しないという構図が明らかとなった。

ただ、そのような中で、ロシアのプーチン大統領はサウジアラビアのムハンマド皇太子との間で電話会

談を実施し、減産措置に関しさらに緊密に協力することで合意した旨、5 月 27 日にロシア大統領府が声

明を発表した。他方、OPECの議長国であるアルジェリアのアルカブ エネルギー相がOPECプラス産油

国閣僚級会合を当初の 6月10日開催から 6月4日開催へと繰り上げることを提案した旨5月30日に報

じられる一方で、ロシアはその案に対し反対していない旨 5 月 31 日に伝えられたことに加え、OPEC プ

ラス産油国間で5~6月に実施されている減産措置を1~3ヶ月(1~2ヶ月との情報もあった)延長すべく

検討していると5月31日に伝えられた(この時点でサウジアラビア等は5~6月に実施している減産措置

の 1~3 ヶ月程度の延長につき受け入れる意向を示していたことが示唆される)。また、前述の通り、ロシ

アとしては、大幅な原油価格の上昇は希望していなかったものの、新型コロナウイルス肺炎の再拡大に

より世界石油需要の回復が阻害される結果原油価格が大幅に下落する可能性も否定できないなど、不

透明感が漂う中で、同国としては、5~6 月に実施している減産措置を短期間実施してみることにより、世

界石油需給と原油価格への影響を見極めるといった方針を採用する方向に傾いていったものと見られる。

6月 2日には、ロシア他一部OPECプラス産油国は 5~6月に実施している減産措置に関し 1ヶ月間の

延長を希望している旨、そして、6月3日にはサウジアラビアとロシアは減産措置を1ヶ月間延長すること

につき暫定的に合意した旨伝えられた(ただ、サウジアラビアはその後も 5~6 月に実施している減産措

置を 8月末迄継続することを主張していたと 6月 5日に報じられる)。

しかしながら、この合意、及び合意のための6月4日のOPECプラス産油国閣僚級会合の前倒し開催

は条件付きとされた。その条件とは、足元の減産状況が芳しくない、イラクやナイジェリア等の産油国に

対し、減産遵守を徹底させることであった。OPEC 産油国の盟主としてこれまで高水準の減産遵守を維

持してきたサウジアラビアに加え、今回の減産措置では国内の石油会社を説得し日量 241 万バレル程

度の大幅減産措置を実現したロシアにとって、OPECプラス産油国の減産措置実施による世界石油需給

均衡と原油相場の回復への努力にただ乗りするように見受けられるイラクやナイジェリアといった産油国

の存在は OPEC プラス産油国の結束という観点からも許容しがたいものであったと見られる。このため、

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等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

サウジアラビアやロシアは遵守率の低いOPECプラス産油国に対し減産の遵守徹底に加え、これまでの

減産措置における目標未達成分についても、今後追加減産を実施することで相殺するよう迫ったとされ

る。そしてナイジェリア等の減産遵守率の低い OPECプラス産油国に加え、6 月 5日にはイラクも減産遵

守を約束する旨表明した(なお、ナイジェリアは、通常 OPEC 産油国の原油生産量には計上されないコ

ンデンセート生産量が自国の原油生産量に含まれたことで、これが増加したことが減産遵守率の悪化に

寄与したとしており、このコンデンセート生産量を従来の原油生産量から分離した後の原油生産量は原

油生産目標の枠内に収まっている旨 6 月 3 日に同国石油資源省が明らかにしている)。このようなことか

ら、OPEC 総会及び OPEC プラス産油国が 6 月 6 日に開催され、5~6 月に実施している減産措置の 1

ヶ月延長を決定したものと考えられる(これに伴い当初 6 月 5 日に決定予定であったサウジアラビアの 7

月積みの原油公式販売価格は 6月7日に決定されており、大半の油種の公式販売価格が引き上げられ

た旨同日明らかになっている)。なお、6 月 5 日に米国のトランプ大統領は、サウジアラビアとロシアの支

援もあって原油価格は回復し米国のエネルギー産業は短期間で救われたとして OPEC プラス産油国に

よる減産措置に対し感謝の意を表明している。

(3) 原油価格の動き等

市場では、5~6月に実施されている減産措置の1~3ヶ月間の延長がOPECプラス産油国により検討

されていることが 5 月 31 日に伝えられたことに加え、6 月 3 日にはサウジアラビアとロシアとの間で当該

減産措置を 1ヶ月間延長することにつき暫定合意に到達した旨報じられたことから、当該延長による石油

需給引き締まりの加速に対する期待が市場で高まったことが原油相場に上方圧力を加える方向で作用

した結果、原油価格の終値は 6月 1日の 1バレル当たり 35.44ドルから 6月 5日には同 39.55 ドルへと

上昇傾向を示した。また、今般の OPEC プラス産油国閣僚級会合での減産措置の 1 ヶ月間の延長決定

による世界石油需給の一層の引き締まりに対する条件反射的反応で、OPEC プラス産油国閣僚級会合

開催後の 6 月 7 日夜間から 8 日未明(米国東部時間)の市場では、原油価格が 40 ドルを超過する場面

が見られた。しかしながら、市場では予め5~6月に実施している減産措置の1ヶ月間延長に対する認識

が織り込まれてしまっていた一方で、実際にOPECプラス産油国閣僚級会合でも同様の措置が決定され

るなど、市場の事前予想を上回るものではなったこともあり、OPEC プラス産油国閣僚級会合を巡る石油

需給引き締まり期待に関する材料は出尽くし感が強まったことにより、時間の経過とともに利益確定の動

きが強まってきたことに加え、これまで減産目標が未達成となっているイラク等の産油国が減産遵守を強

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化する意向である旨伝えられはするものの、これまでの実績からするとこれらの産油国が今後減産遵守

を徹底したうえでこれまでの減産目標未達成分まで追加して減産することに対し市場では懐疑的な見方

が根強かったこと、サウジアラビア等が実施している日量 118 万バレルの自主的な追加減産措置を 6 月

末で終了する旨この日サウジアラビアのアブドルアジズ エネルギー相が示唆したことで、世界石油需給

引き締まり加速に対する市場の期待が後退したことから、この日の原油価格の終値は 1 バレル当たり

38.19ドルと前週末終値比で 1.36ドル下落した。

2. 原油市場を巡るファンダメンタルズ等

2020年 3月の米国ガソリン需要(確定値)は日量 778万バレルと前年同月比で 15.2%程度の減少と

なり(図 1 参照)、速報値(前年同月比で 12.5%程度減少の日量 803 万バレル)から下方修正された。

新型コロナウイルス肺炎の拡大により、カリフォルニア州では3月19日、ニューヨーク州は 3月22日に、

それぞれ外出禁止令が発令されるなどしたことで個人の往来が大きく制限されたことに伴い、自動車で

の移動が大幅に鈍化したことが、ガソリン需要に大きく影響したものと考えられる。また、新型コロナウイ

ルス肺炎に伴う経済活動の制限により、3月の同国農業部門雇用者数が前月比で 137.3万人の大幅減

少となるなどした一方で、3 月 27 日には米国のトランプ大統領が署名し成立した経済対策法に基づき

大半の成人が 1人当たり 1,200ドル、未成年(17歳未満)が 1人当たり 500ドルの現金給付が実施され

ることになったが、実際に現金が給付されたのは 4 月に入ってからであったことから、3 月の米国の 1

人当たり実質可処分所得は前年同月比で0.2%低下したことが、同月のガソリン需要の減少に反映され

ている。また、2020年5月の同国ガソリン需要(速報値)は日量731万バレル、前年同月比で 22.2%程

度の減少となったものの、4 月の同国ガソリン需要(速報値)である日量 569 万バレル、前年同月比で

38.0%程度の減少からは減少幅が縮小している。4月16日に米国のトランプ大統領が米国民の外出規

制緩和と経済活動再開への指針を発表したことで、同国では外出規制と経済活動制限の緩和が実施さ

れている(5 月 20 日のコネチカット州を以て米国の全 50 州で部分的であれ個人の外出規制及び経済

活動制限が緩和されている)ことから、多少なりとも往来が活発化していると見られるものの、依然として

新型コロナウイルス肺炎に伴う個人の外出規制及び経済活動制限以前の状態には戻っていないことが、

5 月のガソリン需要を抑制しているものと考えられる。他方、新型コロナウイルス肺炎に伴う個人の外出

規制及び経済活動の制限の強化に伴う石油需要の不振により概ね 3 月中旬から 4 月上旬にかけ米国

製油所の精製利幅が低迷したことから、3 月下旬以降同国製油所の一部で稼働が低下するとともに石

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油製品生産活動が抑制される事例が目立ってきたが、4 月初旬を底として同国のガソリン需要が回復

傾向を示した一方で、4 月中旬にかけて原油価格が大幅に下落したことにより、製油所の精製利幅が

改善したことから、5月8日の週以降製油所での原油精製処理量が上向き気味に推移する(図2参照)

とともにガソリンを含めた石油製品の生産活動が持ち直した(ガソリン最終製品生産量は図 3参照)もの

の、それに伴うガソリン供給の伸びに需要の伸びが追い付かなかったと見られる結果、5 月上旬から 6

月上旬にかけての同国のガソリン在庫水準は上昇傾向を示した他、平年幅上限を超過する状態は維

持されている(図4参照)。

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2020 年 3 月の同国留出油(軽油及び暖房油)需要(確定値)は日量 391 万バレルと前年同月比で

5.8%程度の減少となり、速報値である日量 397万バレル(同 4.5%程度の減少)から下方修正されてい

る(図5参照)。同月の同国からの留出油輸出量が速報値段階では日量139万バレル程度と推定される

ところ、確定値では同146万バレルへと日量7万バレル程度上方修正されたことで、この分が留出油需

要の速報値から確定値への移行段階で国内需要から輸出に振り替えられたことが、当該需要の下方

修正の一因になっているものと見られる。また、新型コロナウイルス肺炎拡大に伴う経済活動制限によ

り同月の米国の鉱工業生産が前年同月比で 4.3%の減少となった(因みに 2019 年 3 月のそれは同

2.3%程度の増加であった)こともあり、同月の同国の物流活動も前年同月比で 1.9%の減少となった

(因みに 2019年3月の同国物流活動は前年同月比で 1.8%の増加であった)ことに加え、2020年3月

は同国北東部が前年同月に比べ相対的に温暖であったことから、当該地域で暖房用に利用されてい

る留出油の需要が抑制されたと見られることが、同月の米国の留出油需要の前年同月比での相当程度

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の減少に寄与しているものと考えられる。また、2020 年 5 月の留出油需要(速報値)は日量 336 万バレ

ルと前年同月比で 16.8%程度の減少となった。新型コロナウイルス肺炎に伴う米国での経済活動制限

は 4 月後半以降の緩和されているものの、なお、経済活動制限以前の状態には戻っていないことが 5

月の当該需要を抑制しているものと考えられる。一方で、精製利幅改善に伴い製油所の稼働が上昇し

たことから石油製品生産活動が上向いたことに加え、空路での往来が極度に落ち込んだことで航空機

向け需要が大幅に減少していることにより生産が絞り込まれたジェット燃料に代わりに、相対的に精製

利幅が良好であった留出油の生産(ジェット燃料と品質が比較的類似していることもあり製造上の転換

が比較的容易であるとされる)が相対的に維持された(図 6 参照)ことから、5 月上旬から 6 月上旬にか

けて同国の留出油在庫は増加傾向となり、6 月 6 日時点の当該製品在庫量は 1.758 億バレルと 2010

年 8 月 20 日(このときは 1.760 億バレル)以来の高水準に到達した他、平年幅の上限を超過する状態

は続いている(図7参照)。

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2020 年 3 月の米国石油需要(確定値)は、前年同月比で 9.4%程度減少の日量 1,828 万バレルとな

った(図 8 参照)。ガソリン、ジェット燃料、留出油及び重油等幅広く石油製品の需要が前年同月の水準

を相当程度下回ったことが同月の石油需要に反映されている。また、ガソリンに加え、その他の石油製

品需要が速報値(日量436万バレル)から確定値(同390万バレル)に移行する段階で下方修正された

ことが一因となり、当該需要も速報値(日量 1,912万バレル、前年同月比 5.3%程度の減少)から下方修

正されている。他方、2020 年 5 月の米国石油需要(速報値)は、日量 1,625 万バレルと前年同月比で

19.7%程度の減少と、4月(同26.7%程度の減少)と比較すると減少幅が縮小しているが、なお、新型コ

ロナウイルス肺炎による個人の外出規制及び経済活動制限の影響が残る格好となっていることから、ガ

ソリン、ジェット燃料及び留出油等幅広く需要が不振であることが石油需要に影響を及ぼしているものと

見られる。他方、4月 12日に OPECプラス産油国で日量 970万バレル程度の減産措置の実施が決定

したことが、米国に比べ相対的に中東産油国に距離の近い欧州市場の指標であるブレント原油価格に

上方圧力を加えた一方で、当時米国では原油生産量が十分に減少しておらず、米国原油(WTI)先物

受け渡し地点である同国オクラホマ州クッシングでの原油在庫が大幅に増加しつつあったことにより、

当該地点での余剰原油貯蔵能力の消滅に対する懸念が市場で広がっていたことが WTI 原油価格に

下方圧力を加えたことから、ブレント原油に対するWTI原油の割安感が強まったこともあり、概ね4月中

旬から 5 月中旬にかけ同国からの原油輸出が高水準に到達したものの、米国の原油生産量が減少し

続けた(当該生産量は 4月17日の週には日量1,220万バレルであったが、6月5日の週には同1,110

万バレルへと減少している)一方で米国製油所の原油精製処理活動が持ち直したことから、かえってク

ッシングの原油在庫が減少傾向を示し始めたことで、WTI 原油価格に上方圧力が加わった結果、ブレ

ント原油に対する WTI 原油の割安感が縮小したこともあり、米国からの原油輸出が減少したことが一因

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となり、5月上旬から 6月上旬にかけては米国の原油在庫は増加傾向となり、6月5日には 5.38億バレ

ルと 1982 年後半以降の米国原油在庫統計史上最高水準に到達した他、平年幅上限を上回る状態は

続いている(図9参照)。そして、原油、ガソリン及び留出油在庫が平年幅上限を上回っていることから、

原油とガソリンを合計した在庫、そして原油、ガソリン及び留出油を合計した在庫は、いずれも平年幅

上限を超過する状態となっている(図10及び 11参照)。

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2020年5月末のOECD諸国推定石油在庫量の対前月末比での増減に関しては、原油については、

欧州では、複数の製油所で春場のメンテナンス作業が実施されたことに加え、新型コロナウイルス肺炎

感染拡大により人材確保が困難になったと見られることに伴い操業削減が行われた製油所もあったこと

から、原油精製処理水準が低下したものの、原油の調達も併せて減少したと見られることから、原油在

庫はほぼ同水準となった。他方、米国では、国内での原油生産が減少しつつあったものの、製油所で

の原油精製処理活動の低迷で相殺されたことから、在庫は若干ながら増加となった。また、日本でも、

複数の製油所が春場のメンテナンス作業を実施したこともあり原油の精製処理が進まなくなったことで、

原油在庫は増加した。この結果、OECD 諸国全体として原油在庫は増加したうえ、在庫量が平年幅上

限を超過する状態は継続している(図12参照)。石油製品については、欧州では製油所の稼働低下に

伴う石油製品生産活動の鈍化により供給が低迷した結果、中間留分やガソリンを中心として石油製品

在庫は減少となった。しかしながら、米国や日本では新型コロナウイルス肺炎に伴う空路での往来の大

幅鈍化による航空機向け需要の減少に加え経済活動制限に伴う産業向け需要の低迷(さらに日本の

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場合冬場の暖房シーズンの終了に伴う暖房向け灯油需要の低迷)等により、灯油及び軽油を中心とし

て石油製品在庫が増加した。このため、OECD 諸国全体として石油製品在庫は増加したうえ、平年幅

上限を超過する量となっている(図 13 参照)。そして、原油及び石油製品在庫が平年幅上限を上回っ

ていることから、原油と石油製品を合計した在庫も平年幅上限を超過する状態となっている(図 14 参

照)。なお、2020 年 5 月末時点の OECD 諸国推定石油在庫日数は 73.8 日と 4 月末の推定在庫日数

(79.1日)から減少している。

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5 月 13 日に 1,500 万バレル台前半程度であったシンガポールでのガソリン等の軽質留分在庫は、5

月 20 日も 1,500 万バレル台前半程度の量であった。5 月 27 日には 1,400 万バレル台前半程度の水準

へと低下したものの、6 月 3 日には 1,500 万バレル台後半程度の量へと増加した。ただ 6 月 10 日には

1,500万バレル台前半の量へと減少した結果、5月13日とほぼ同水準となっている。新型コロナウイルス

肺炎感染例が増大しつつあった欧州諸国で 3 月に個人の外出制限等の規制が強化された他、同月米

国でも主要各州で個人の外出禁止令が発令されるなどしたことから、欧州での域内及び米国向けガソリ

ン需要が減少するとの観測が市場で広がったこともあり、欧州のガソリン価格が下落した結果、アジアの

ガソリン価格(他方中国が2月10日以降経済活動制限を緩和し始めたことから石油需要回復への期待が

市場で発生したこともありアジア市場でのガソリン価格は比較的維持されていた)が欧州のそれを上回る

状態が顕著になったことから、欧州方面からアジアに向けガソリンが流入したことが、シンガポールでの

軽質留分在庫を増加させる方向で作用した反面、アジア諸国での製油所における春場のメンテナンス

作業の実施に伴うシンガポールへの石油製品供給減少に加え、新型コロナウイルス肺炎感染沈静化後

経済活動を再開させつつあった中国がシンガポールからガソリンを輸入する場面が見られたことが、シ

ンガポールでの軽質留分在庫を抑制する格好となったことから、当該在庫水準は上下に変動しながらも

比較的限られた範囲で推移した。他方、アジア諸国での新型コロナウイルス肺炎に伴う外出規制の緩和

の動きに伴いガソリン需要が回復するとの観測が市場で増大し続けていることに加え、米国での新型コ

ロナウイルス肺炎に伴う外出規制の緩和の進展によりガソリン需要が持ち直し始めたことで欧米諸国で

のガソリン価格が回復しつつあることがアジア市場でのガソリン価格に上方圧力を加えたことから、依然

として当該価格はドバイ原油価格を下回る状態ではあったものの、その差は縮小しつつある。

ナフサについても、欧米諸国での新型コロナウイルス肺炎に伴う外出規制の緩和によるガソリン需要

回復傾向でガソリンに混入するナフサの需要が拡大しつつあることに加え、中東でも、サウジアラビアの

ラス・タヌラ製油所(操業者:サウジアラムコ、原油精製処理能力日量 55 万バレル)がメンテナンス作業の

実施に伴い操業を停止することにより、これら地域からアジアに向けたナフサ供給が減少するとの観測

が市場で拡大したうえ、アジアの一部諸国でも製油所で装置不具合が発生したことにより、ナフサを含め

た石油製品の供給に支障が生じるとの見方が市場で増大したことに加え、アジア諸国での石油化学製

品製造のための原料としてナフサ需要は比較的堅調に推移していたとことから、当該製品需給の引き締

まり感が市場で広がった結果、依然としてナフサ価格はドバイ原油価格のそれを下回ってはいたものの、

価格差は縮小する傾向を示している。

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータ

及び情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のア

ドバイスの提供を目的としたものではありません。従って、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類

等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

5 月 13 日には 1,400 万バレル台前半程度の量であったシンガポールの中間留分在庫は、5 月 20 日

もほぼ同水準であった。5月 27日には 1,500万バレル弱の量へと増加した後 6月 3日には 1,400万バ

レル台後半程度の量へと減少、6 月 10 日も 1,400万バレル台後半程度の量ではあったが前週からは増

加となるなど、当該製品在庫は、若干ではあるが増加傾向となっている。アジア諸国での製油所の春場

のメンテナンス作業実施等により石油製品生産が抑制された反面、緩和されつつあるとはいえ、アジア

諸国での新型コロナウイルス肺炎に伴う経済活動の制限は継続していたことや、空路での往来が低迷し

たままとなっていることが軽油やジェット燃料の需要に影響を与えたことが、在庫増減の背景にあるもの

と考えられる。ただ、アジア諸国では、新型コロナウイルス肺炎に伴う経済活動の制限がさらに緩和され

る方向であることから、軽油需要回復に対する期待が市場で増大してきていることがアジア市場での軽

油価格に上方圧力を加えた結果、軽油とドバイ原油との価格差(この場合軽油価格がドバイ原油のそれ

を上回っている)は拡大する傾向が見られる。

5月13日には 2,500万バレル弱程度の水準であったシンガポールの重油在庫(高硫黄のものが中心

と見られる)は、5 月 20 日には 2,600 万バレル台前半程度の水準の量へと相当程度増加した。しかしな

がら、5月27日には 2,500万バレル半ば程度の水準へと低下した後、6月3日は 2,500万バレル台後半

程度の量へと若干ながら増加、そして、6月10日の当該在庫も6月3日とほぼ同水準となっている。アジ

ア、中東、及び欧米諸国の製油所が、新型コロナウイルス肺炎に伴う外出規制及び経済活動制限の強

化に伴う石油需要不振による精製利幅の縮小で操業を削減したり、メンテナンス作業を実施したりしたこ

とにより、稼働を低下した結果、重油の生産が鈍化したことから、それら諸国からシンガポールへの当該

製品供給が減少したものの、新型コロナウイルス肺炎に伴う経済活動の制限により、海上輸送活動が鈍

化したこともあり、船舶用重油需要が低迷したことで相殺されて余りあったことから、シンガポールでの重

油在庫が多少なりとも増加したものと見られる。ただ、新型コロナウイルス肺炎に伴う経済活動の制限緩

和に伴い、国際貿易が相対的に活発化することにより船舶用重油需要が持ち直すと見られることに加え、

中東では夏場の空調向けの電力供給のための発電用重油需要が盛り上がる時期に差し掛かってきてい

ることもあり、重油需給の引き締まり感が市場で意識されていることから、例えば、シンガポールでの高硫

黄重油とドバイ原油の価格差(高硫黄重油価格がドバイ原油のそれを下回っている)は縮小する傾向を

示している。

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3. 2020 年 5 月中旬から 6 月中旬にかけての原油市場等の状況

2020年5月中旬から 6月中旬にかけての原油市場では、中国石油需要回復に関する報道、米国政

府の景気刺激策実施方針発表等による石油需要増加観測、及び米国石油坑井掘削装置稼働数の減

少に加え、OPEC プラス産油国閣僚級会合を控えての主要関係国間での減産措置延長の暫定合意到

達の情報に伴う石油需給引き締まり期待等により、原油相場に上方圧力が加わった結果、5 月 18 日に

は 1バレル当たり 31.82ドルの終値であった原油価格(WTI)は上昇傾向となり、6月7日夜間から 8日

未明の時間外取引では一時 40 ドルを超過する場面が見られたが、その後は新型コロナウイルス肺炎

の感染第二波に対する懸念等もあり反落、6月12日の終値は同36.26ドルとなった(図15参照)。

5 月 18 日には、足元の中国石油需要が日量 1,300 万バレルに到達し 2019 年 12 月の日量 1,370 万

バレルを若干下回る水準にまで回復した旨この日報じられたことに加え、OPEC プラス産油国の原油輸

出量(海上輸送分)が過去 1 ヶ月間で日量 630 万バレル減少した旨石油市場調査会社ケプラー(Kpler)

が報告した他、石油市場調査会社ペトロロジスティックス(Petro-Logistics)も、5 月 1~13 日の期間の

OPECプラス産油国の原油輸出量が 4月との比較で日量596万バレル減少した旨報告したと 5月18日

に報じられたことで、OPEC プラス産油国の減産が順調に行われつつあることを市場が意識したこと、初

期の小規模臨床試験で新型コロナウイルスから防御するための免疫を体内で生産する潜在性を示す等

の有望な結果が得られた旨5月18日に米国バイオテクノロジー会社モデルナが発表したことで、新型コ

ロナウイルス肺炎拡大と世界経済に対する影響に関する市場の懸念が後退したこともあり、米国株式相

場が上昇したことから、この日の原油価格は前週末終値比で 1 バレル当たり 2.39 ドル上昇し、終値は

31.82ドルとなった。また、5月19日も、この日のNYMEXの 6月渡し原油先物契約の取引期限を控えた

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持ち高調整が市場で発生したことに加え、この日米国のムニューシン財務長官が、米国議会上院銀行

委員会の公聴会での証言で 4 月 3 日より実施している同国中小企業融資制度である給与保障プログラ

ム(PPP: Paycheck Protection Program)の延長を検討している旨明らかにしたことで、米国経済成長と石

油需要の回復に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格の終値は 1 バレル当たり

32.50ドルと前日終値比で 0.68ドル上昇した(なお、この日を以てNYMEXの 2020年 6月渡し原油先物

契約は取引を終了したが、2020 年 7 月渡し原油先物価格のこの日の終値は 1 バレル当たり 31.96 ドル

(前日終値比 0.31 ドルの上昇)であった)。5 月 20 日も、この日米国エネルギー省(EIA)から発表された

同国石油統計(5月15日の週分)で原油在庫が前週比で498万バレルの減少と市場の事前予想(同120

~240万バレル程度の増加)に反し減少していた他、米国オクラホマ州クッシングの原油在庫が同559万

バレル減少していた旨判明したことから、この日の原油価格は前日終値比で 1 バレル当たり 0.99 ドル上

昇し、終値は 33.49ドルとなった。5月21日も、5月 20日にEIAから発表された米国石油統計で原油在

庫が市場の事前予想に反し減少していた他クッシングの原油在庫が減少していた旨判明した流れを引

き継いだことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり33.92ドルと前日終値比で0.43ドル上昇し

た。この結果原油価格は 5月 18~21日の 4日間で併せて 1バレル当たり 4.49ドルの上昇となった。た

だ、5 月 22 日には、この日開会した中国全国人民代表会議(全人代)(5 月 28 日まで開催)の政府活動

報告(所信表明演説)で李克強首相が 2020 年の同国の経済成長目標を示さなかったことで、同国の経

済成長と石油需要の伸びに対する不安感が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレ

ル当たり 33.25ドルと前日終値比で 0.67ドル下落した。

5 月 25 日は、米国戦没将兵追悼記念日(メモリアルデー)の休日に伴い終値は計上されなかったが、

この日国際エネルギー機関(IEA)のビロル事務局長が、政府による政策の欠如、持続的な経済回復、及

び低原油価格により、世界石油需要はこの先新型コロナウイルス肺炎の拡大による石油需要の落ち込

み前の水準を超過する可能性がある旨主張したことに加え、ロシアが OPEC プラス産油国による減産措

置に基づく自国の減産目標に到達した旨同国のノバク エネルギー相が発言した他、6~7 月には世界

石油需給が再均衡するとロシアエネルギー省が予想している旨明らかにしたと 5月25日に報じられたこ

とから、この日の原油価格は前週末終値比で1バレル当たり1.10ドル上昇し、終値は34.35ドルとなった。

しかしながら、香港はもはや中国からの高度な政治的自治が認められず、従って香港は 1997 年 7 月 1

日の中国への返還以前と同様の、米国法に基づく優遇措置を適用し続けることは困難である旨公式に

判断し米国議会に通知した旨5月27日に米国のポンペオ国務長官が声明を発表したことで、今後米国

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と中国との対立が先鋭化するとともに両国等の経済成長及び石油需要の伸びが影響を受けるのではな

いかとの懸念が市場で発生したことから、この日の原油価格の終値は1バレル当たり32.81ドルと前日終

値比で 1.54ドル下落した。それでも、5月 28日には、この日EIAから発表された米国石油統計(5月 22

日の週分)で、クッシングの原油在庫が前週比で 340 万バレル減少したことに加え、ガソリン需要が前週

比で日量 46 万バレル増加するとともにガソリン在庫が前週比で 72 万バレルの減少と市場の事前予想

(同 100 万バレル程度の減少~15 万バレル程度の増加)の一部に反し減少している旨判明したことから、

この日の原油価格は前日終値比で 1 バレル当たり 0.90 ドル上昇し、終値は 33.71 ドルとなった。5 月 29

日も、この日米国石油サービス会社ベーカー・ヒュージズ(Baker Hughes)から発表された同国石油坑井

掘削装置稼働数が同日時点で 222基と前週比で 15基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日

時点で 219 基と同 14 基減少)していた旨判明したことに加え、5 月 29 日に中国の全人代において香港

への国家安全法制導入を採択したことに対し、米国のトランプ大統領が米国と中国との貿易問題を巡る

第一段階の合意を破棄する意向はない旨 5 月 29 日に報じられたことから、この日の原油価格の終値は

1 バレル当たり 35.49 ドルと前日終値比で 1.78 ドル上昇した。この結果原油価格は 5 月 28~29 日の 2

日間で併せて 1バレル当たり 2.68ドルの上昇となった。

他方、5月28日の中国全人代で香港への国家安全法制導入を採択したことに対し、5月29日に米国

のトランプ大統領が貿易面等での香港への優遇措置の付与を撤廃する旨表明したことを受け、中国政

府が米国からの大豆等農産物購入の一部を停止するよう同国主要国有農産物輸入会社に対し要請した

旨6月1日に報じられたことにより、両国間の対立の先鋭化と両国等の経済成長及び石油需要の伸びに

対する懸念が市場で増大したことが原油相場に下方圧力を加えた一方で、OPEC 議長国であるアルジ

ェリアのアルカブ エネルギー相が、従来6月9日に開催予定であったOPEC総会及び 6月10日に開

催予定であったOPECプラス産油国閣僚級会合を、6月4日に前倒しして開催する方針である旨の書簡

をOPECプラス産油国に向け発出したと 5月30日に報じられたことに対し、ロシアは当該日程での開催

に反対しない旨5月31日に伝えられた他、ロシアを含むOPECプラス産油国は現行の日量970万バレ

ル程度の減産措置を 7~8 月においても実施する方向で協議中である旨 6 月 1 日に報じられたことで、

世界石油需給の引き締まり加速に対する市場の期待が増大したことが原油相場に上方圧力を加えたこと

から、この日の原油価格の終値は 1 バレル当たり 35.44 ドルと前週末終値比で 0.05 ドルの下落にとどま

った。しかしながら、6 月 2 日には、OPEC プラス産油国が 5~6 月に実施している日量 970 万バレル程

度の減産措置に関し、ロシアを含め一部のOPEC産油国が1ヶ月間の延長を希望しており、当該案に対

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する OPEC プラス産油国間での合意が形成されつつある旨この日伝えられたことにより、世界石油需給

引き締まり加速に対する期待が市場で増大したことから、6 月 2 日の原油価格は前日終値比で 1 バレル

当たり 1.37 ドル上昇し、終値は 36.81ドルとなった。6月 3日も、サウジアラビアとロシアがOPEC プラス

産油国による日量 970万バレル程度の減産を 7月も実施することで暫定的に合意した旨この日報じられ

たことで、世界石油需給引き締まりの加速に対する期待が市場で拡大したことに加え、6月3日にEIAか

ら発表された米国石油統計(5 月 29 日の週分)で原油在庫が前週比で 208 万バレルの減少と市場の事

前予想(同 300~350 万バレル程度の増加)に反し減少している他、クッシングの原油在庫も前週比で

174 万バレル減少している旨判明したことから、この日の原油価格の終値は 1 バレル当たり 37.29 ドルと

前日終値比で 0.48 ドル上昇した。また、6 月 4 日も、OPEC プラス産油国による日量 970 万バレル程度

の減産措置の 1 ヶ月間延長の条件となっている、イラク他減産遵守状況の芳しくない産油国による減産

遵守改善の約束を巡る関係国間での協議の進捗を巡り、持ち高調整が市場で発生したことから、この日

の原油価格は前日終値比で 1 バレル当たり 0.12 ドル上昇し、終値は 37.41 ドルとなった。さらに、6 月 5

日には、OPECプラス産油国閣僚級会合が6月6日に開催される方向である旨この日報じられたことで、

日量 970 万バレル程度の減産措置の延長決定に対する期待が市場で増大したうえ、6 月 5 日に米国労

働省から発表された 5月の同国非農業部門雇用者数が前月比で 250万人の増加と市場の事前予想(同

750~800万人程度の減少)に反し増加していたことに加え、失業率が 13.3%と 4月の 14.7%から低下し

た他市場の事前予想(19.0~19.8%)を下回ったこともあり、米国株式相場が上昇したこと、6 月 5 日にベ

ーカー・ヒュージズから発表された米国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で 206基と前週比で 16基

減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で 204 基と同 15 基減少)していた旨判明したこと

から、この日の原油価格の終値は1バレル当たり39.55ドルと前日終値比で2.14ドル上昇した。この結果

原油価格は 6月2~5日の 4日間で併せて 1バレル当たり 4.11ドルの上昇となった。

ただ、6 月 6 日に開催された OPEC プラス産油国閣僚級会合において、5~6 月に実施されている減

産措置の 1 ヶ月間の延長が決定したものの、既に事前に市場で予想されていた減産規模を上回ったわ

けではないこともあり、これまでの原油価格上昇に対する利益確定が発生したことに加え、OPEC プラス

産油国閣僚級会合で、イラク等これまでの減産遵守未達成産油国に対しこれまでの未達成分につき今

後既存の減産目標に追加して減産を実施する旨決定したものの、当該方策に対する懐疑的な見方が市

場で発生したこと、世界石油需要の回復が示唆されており目的が達成されたとしてサウジアラビア等が

現在実施している日量118万バレルの自主的な追加減産措置を 6月で終了する旨6月8日にサウジア

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ラビアのアブドルアジズ エネルギー相が示唆したことで、世界石油需給引き締まり加速に対する市場の

期待が後退したことから、この日の原油価格の終値は 1 バレル当たり 38.19 ドルと前週末終値比で 1.36

ドル下落した。しかしながら、6月10日にEIAから発表される予定である米国石油統計(6月5日の週分)

で、原油在庫が減少しているとの観測が6月9日の市場で発生したことに加え、6月7日に操業を再開し

たリビアのシャララ油田(停止前の原油生産量は日量約30万バレルであったが、原油出荷のためのパイ

プラインを武装勢力が停止したことから、2020 年 1 月 19 日により事実上操業停止)につき、武装勢力が

油田関連施設を占拠したことにより、6月9日にリビア国営石油会社NOCが当該油田で生産される原油

の出荷に関し不可抗力条項の適用を宣言したこと、イラク国営石油販売公社 SOMO(State Organization

of Marketing of Oil)が、顧客に対し契約に従って 6~7月に売買する原油につき引き取りを行わないよう

にすべく検討できるかどうか打診している旨 6 月 9 日に伝えられたことで、OPEC プラス産油国による減

産措置におけるイラクの遵守強化に対する期待が市場で増大したことから、この日の原油価格は前日終

値比で 1バレル当たり 0.75ドル上昇し、終値は 38.94ドルとなった。また、6月 10日も、この日EIAから

発表された米国石油統計でガソリン及び留出油需要が前週比でそれぞれ日量35万バレル及び同58万

バレル増加している旨判明した他、留出油在庫が前週比で 157 万バレルの増加と市場の事前予想(同

150~350万バレル程度の増加)の一部ほど増加していなかったことで、この先の米国石油需要回復と石

油需給引き締まり期待が市場で増大したことに加え、6 月 10 日に開催された米国連邦公開市場委員会

(FOMC)で、2022 年まで政策金利を 0.00~0.25%近辺で据え置く方針を示唆したことで、米ドルが下落

したことから、この日の原油価格の終値は 1バレル当たり 39.60ドルと前日終値比で 0.66ドル上昇した。

この結果原油価格は 6月9~10日の 2日間で併せて 1バレル当たり 1.41ドル上昇した。しかしながら、

6 月 10 日に EIA から発表された米国石油統計で原油在庫が前週比で 572 万バレルの増加と市場の事

前予想(同170~320万バレルの減少)に反し増加していた他、原油在庫量が3.58億バレルと1982年後

半以降の米国原油在庫統計史上最高水準に到達した旨判明した流れを 6月 11日の市場が引き継いだ

ことに加え、米国の新型コロナウイルス肺炎感染者が200万人を突破した旨6月10日夜(米国東部時間)

に報じられた他、個人の外出規制及び経済活動制限の緩和を実施した同国の一部の州で感染者が拡

大傾向を示すなどしたことで、感染第二波の到来の兆候が意識されたこともあり、米国株式相場が下落

したことから、この日の原油価格は前日終値比で 1バレル当たり 3.26ドル下落し、終値は 36.34ドルとな

った。また、6 月 12 日には、米国を含む世界各国・地域における新型コロナウイルス肺炎の感染第二波

に関する懸念が市場で増大しつつある流れを引き継いだことが原油相場に下方圧力を加えたものの、こ

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータ

及び情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のア

ドバイスの提供を目的としたものではありません。従って、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類

等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

の日ベーカー・ヒュージズから発表された米国石油坑井掘削装置稼働数が同日時点で 199 基と前週比

で 7 基減少(同国石油水平坑井掘削装置稼働数は同日時点で 196 基と同 8 基減少)していた旨判明し

たことに加え、6 月 11 日の大幅下落に対して値頃感から買い戻しの動きが発生したことで米国株式相場

が上昇したことが、原油相場に上方圧力を加えたことから、この日の原油価格の終値は 1 バレル当たり

36.26ドルと前日終値比で 0.08ドル下落にとどまった。

4. 原油市場における主な注目点等

地政学的リスク要因面ではいくつかの動きが見られる。2018 年 7 月にイランの最高指導者ハメネイ師

を侮辱した罪で2019年にイランの裁判所により10年間の禁固刑の判決が下された米海軍退役軍人であ

るマイケル・ホワイト氏が釈放された(同氏は出国し米国に向かったとされる)旨6月4日に米国のトランプ

大統領が発表した。他方、米国の対イラン制裁に違反したとして有罪とされた、米国とイランの二重国籍

を保有するマジッド・タヘリ氏に対し同氏のイラン訪問が承認された旨 6 月 4 日に報じられる。このように

最近両国では対立の先鋭化とは反対方向の動きが見られてはいるものの、5 月 19 日に、米国財務省は、

制裁対象となっているイランのマハン航空の代理店業務を行っている中国の上海の企業に対し、米国内

資産凍結と米国人との取引禁止を内容とする制裁を発動した。また、2019 年 11 月 15 日以降発生したイ

ラン政府に対するガソリン価格引き上げに対するデモ活動を武力で鎮圧するよう指示した結果、一部の

デモ参加者が殺害されるなど人権が侵害されたとして、5 月 20 日に米国財務省はイランのラハマニファ

ズリ内相にも同様の制裁を発動した。他方、ペルシャ湾において米軍艦船から 100 メートル以内の範囲

に進入した場合には合法的に自衛措置を実施するための脅威の対象と見做す旨当該地域の船舶に対

し米海軍が警告したと 5月 19日に報じられる。また、5月 27日に米国のポンペオ国務長官は、対イラン

制裁猶予策の一部である、同国西部アラクにある重水炉でのプルトニウム産出を困難にするための施設

改修作業や、テヘランの研究用原子炉で使用される濃縮ウランの供給、及び原子力発電で使用された

核燃料の国外搬送等を制裁対象とする(60日間の猶予期間付き)旨表明した。さらに、イラン原子力機構

の幹部 2 名につきウラン濃縮のための遠心分離機の研究・開発に関与していたとして制裁を発動した

(他方、イラン南部のブシェール原子力発電においてロシアの支援により進められている新規原子炉建

設工事については、90 日間制裁猶予期間を延長する旨発表した)。また、6 月 5 日に取り纏められた国

際原子力機関(IAEA)の報告書によれば、核兵器の開発が実施されていたと疑われているイラン国内の

3施設に関しイランが IAEAからの質問に回答しないうえ、うち 2施設についての査察を認めない状態が

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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含まれるデータ

及び情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの投資等に関する特定のア

ドバイスの提供を目的としたものではありません。従って、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いません。なお、本資料の図表類

等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

ここ数ヶ月間継続しているとして、深い懸念を表明していることに加え、低濃縮ウラン貯蔵量が 1,571.6 キ

ログラムと 2015年7月14日にイランと西側諸国等との間で締結された核合意で規定されている 202.8キ

ログラムの貯蔵上限を相当程度上回っている他、2 月 19 日時点での 1,020.9 キログラムからも貯蔵量が

増加している旨明らかにしている。このように、米国とイランとの対立は継続しており、今後新型コロナウ

イルス肺炎に伴う外出規制と経済活動制限の緩和が進むにつれ、また、11 月の米国大統領選挙を控え

るにつれ、米国とイランとが対立する局面が目立つようになることで、原油相場に上方圧力が加わる場面

が見られる可能性も否定できない。

5 月 27 日にベネズエラの最高裁判所はグアイド国会議長の議長としての正当性を否定し、汚職疑惑

で野党勢力から追放されたパラ氏を正当な議長として承認したが、野党はこの決定に反発している。ま

た、米国政府は、ベネズエラと取引したと見られる(最低 40 隻程度とされる)外国籍タンカーに制裁を科

するべく検討しており、近日中にその一部を発表する予定である旨6月5日に伝えられる。このようなこと

もあり、ベネズエラに石油を輸送しつつあったタンカーが仕向け地を変更したり、ベネズエラ周辺海域か

ら離れつつあったりする旨6月9日に伝えられる。そして、ベネズエラ産原油輸出上の支障の増大から、

同国西部のマラカイボ湖近辺に位置するラグニラス(Lagunillas)及びバチャクエロ(Bachaquero)の両油

田は操業を停止する予定である旨 6 月 11 日に伝えられる。このようにベネズエラについても、米国が制

裁をさらに強化する可能性があり、米国とベネズエラとの間での対立が高まるとともに、ベネズエラでの

政情不安と当該地域からの原油供給のさらなる低下への懸念から原油相場を下支えするといった展開も

ありうる。

ここ最近リビアでは、西部の首都トリポリを拠点とする国民合意政府(GNA: Government of National

Accord)(国連及びトルコ等が支援)が、東部トブルクを拠点とする暫定議会を支援する、ハフタル将軍を

指導者とするリビア国民軍(LNA: Libya National Army)(エジプトや UAE 等が支援)の支配していた同

国北西部やトリポリ近郊の軍事拠点を奪還しつつあると伝えられており、6月 4日にはトリポリ周辺地域全

体を制圧した旨明らかにしている。6 月 6 日にはエジプトのシシ大統領が 6 月 8 日からの停戦を提案、

LNAの指導者であるハフタル将軍は受諾した。しかしながら、GNAはLNAが拠点としている同国中部の

都市シルテ(Sirte)の掌握に向け進軍しつつあり、6月8日朝の受諾期限においても停戦に応じる姿勢を

示していない。ただ、GNA と LNA との間で停戦監視委員会を再開する(2020 年 2 月 3~8 日及び 2 月

18 日に実施されたが、2 月 18 日からの委員会開催の際GNA の支配地域内の港湾が攻撃されたとして

GNA のシラージュ首相が協議の中断を表明していた)旨 6 月 1 日遅く(リビア現地時間)に国連リビア支

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等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

援団(UNSMIL: United Nations Support Mission in Libya)が発表、6月3日より委員会を実施している旨6

月10日に明らかになっている。

他方 6 月 5 日には、同国南部にあるシャララ(Sharara)油田(停止前の原油生産量日量 30 万バレル)

の操業が再開され、6月7日には原油生産が開始されており(同油田と近隣のエル・フィール(El Feel)油

田(同 7~7.5 万バレル)は石油ターミナルに原油を輸送するパイプラインが閉鎖されたことにより、原油

の出荷に関し不可抗力条項の適用を宣言したと 2020 年 1 月 20 日伝えられ、それに伴い油田の原油生

産も停止していた)、90日以内に日量30万バレルの原油生産量に到達する予定である旨6月7日に伝

えられ、6月8日にはリビア国営石油会社NOCが同油田産原油の出荷に関し不可抗力条項の適用を解

除する旨発表した。さらにエル・フィール油田も生産を再開したと 6 月 8 日に伝えられた。しかしながら、

シャララ油田は 6 月 9 日に武装勢力が油田関連施設に侵入したことにより生産を停止、同日一旦操業を

再開したものの、再び停止した結果、6月 9日にNOCは同油田からの原油の出荷に関し再度不可抗力

条項の適用を宣言した。またエル・フィール油田も武装勢力が油田を占拠したとして 6 月 10 日に停止し

た旨伝えられる。このように、リビアについては、和平協議が行われつつあるものの、その行方に不透明

感が伴う他、同国の油田関連施設の操業も不安定なままとなっていることから、今後も同国の石油供給

の低迷状態が継続する結果、原油相場に影響を及ぼす場面が見られる可能性もある。

イラクにおいても、5月12日より同国南部のアフダブ(Ahdab)油田周辺での住民による抗議活動(同油

田が位置するワジット(Wasit)州知事他幹部の辞任を要求)で、当該油田(原油生産量日量 6.8 万バレ

ル)の操業に支障が発生したことから、早ければ 5月16日にも同油田の操業が停止する旨5月15日夕

方(米国東部時間)に報じられた(但し、5月18日(現地時間)にイラク石油省はアフダブ油田の閉鎖は予

定していない旨明らかにしている)ことや、原油価格の下落による予算措置上の問題に加え、4 月にはイ

スラム国(IS)による攻撃が活発になってきている旨伝えられる他、5月22日には、同国南部のバスラで天

然ガス開発活動を行うバスラ・ガス・カンパニーの労働者が給与遅配に抗議する活動を活発化させたこと

に伴い外国人従業員が避難した旨5月21日に報じられる等、5月7日にカディミ新政権が発足したもの

の、同国政治経済における混迷等に伴う石油供給への支障の可能性等の不安材料が散見される。

経済面での市場の注目点は、新型コロナウイルス肺炎に伴う個人の外出規制及び経済活動制限に関

する動向であろう。現時点では欧米やアジア諸国等で個人の外出規制の緩和や経済活動の再開等が

行われており、この結果、石油需要も回復傾向を示していることから、OPEC プラス産油国等による原油

供給削減努力と相俟って、石油需給引き締まり期待を市場で醸成させている結果、原油相場に上方圧力

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が加割っている。今後も欧米及びアジア諸国等において都市の封鎖が緩和されるとともに経済活動が

再開する動きが続くようであれば、原油相場にさらなる上方圧力が加わりやすいものと考えられる。他方、

都市封鎖を緩和し個人の外出規制が緩和されるとともに経済活動が再開される過程で、新型コロナウイ

ルス肺炎の感染第二波(もしくは第三波以降)が到来する(6月11日時点では米国のフロリダ州やテキサ

ス州等 21 州で感染者数が増加する傾向が見られる旨報告されており、これが感染第二波の兆候として

市場で懸念されている)結果、外出規制や経済活動制限が再度強化される、といったことになれば、再

び石油需要が抑制される方向に向かう結果、石油需給緩和感が市場で強まることにより、原油相場に下

方圧力が加わる可能性がある。他方、新型コロナウイルス肺炎のワクチンもしくは治療薬の開発進展状

況に関する情報によっても、原油相場左右されるものと考えられる。ここにおいては、治験結果が良好で

あれば早期の新型コロナウイルス肺炎感染収束と経済活動完全回復による石油需要増加期待が市場で

増大する結果、原油相場に上方圧力を加える反面、治験結果が後ろ向きであれば、新型コロナウイルス

肺炎感染収束と経済活動の完全回復時期が遠のくとの観測が増大する結果、石油需要の増加期待が市

場で後退することにより原油相場に下方圧力を加える可能性がある。

また、5 月 22~28 日には中国で全国人民代表大会(全人代)(国会に相当)が開催され、5 月 22 日に

同国の李克強首相は香港の国家安全の改善を企図する法制度を導入する意向である旨表明した。全人

代での香港への国家安全法導入検討の動きは 5 月 21 日に既に報じられており、同日米国のトランプ大

統領は中国が香港に対し国家安全法を制定するようであれば、「非常に強硬な」方策を実施する旨発言

した他、5月22日にはホワイトハウスのハセット顧問も香港問題により米国は中国に対し懲罰的な経済措

置を検討中である旨明らかにした。また、5 月 22 日午後(米国東部時間)には中国新疆ウイグル自治区

のウイグル族等少数民族の人権侵害に関与しているとして、米国政府が中国の企業や機関を含む 9 組

織に対し米国企業との取引関係を禁止する旨の措置を実施する旨発表した。他方、5 月 24 日には中国

の王毅外相が、中国は香港に対し国家安全法を速やかに成立させるとしたうえで、米国からの批判を内

政問題に対する干渉であると非難した他、台湾統一問題についても、その流れは誰も止められない旨表

明している。5月28日に中国の全人代で香港への国家安全法制導入方針を採択したことを受け、5月29

日午後(米国東部時間)に米国のトランプ大統領が記者会見を開催し、中国の香港への国家安全法制導

入方針に関連し、米国と中国との貿易問題を巡る第一段階の合意の取り扱いについて言及することはな

かったものの、貿易面等での香港への優遇措置の適用を停止させる方針を表明した。これに対し、中国

政府は同国主要国有農産物輸入会社に対し米国からの大豆等農産物購入の一部を停止するように要

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請した旨6月1日に報じられる。このように、5月21日以降米国と中国との間での政治関係を巡る対立が

高まる兆しを見せている(これ以外にも 5月22日には米国運輸省が米国と中国との米国航空会社による

航空便運航の再開について中国当局が妨害行為を行っていると非難している)こともあり、両国間の対

立の先鋭化と両国等の経済成長及び石油需要の伸びに対する懸念が市場で増大しつつあり、今後も、

香港への国家安全法の制定問題に関する米国の中国に対する政策及びそれに対する中国の対応の仕

方によっては、両国の政治的対立が一層高まるとともに、貿易を含む両国関係が悪化することにより、両

国等の経済成長及び石油需要の伸びに対する懸念が市場で一層広がる結果、原油相場に下方圧力を

加える可能性がある。

加えて、今後発表される予定である欧米諸国や中国等の景況感等の経済指標類や米国等の金融当

局者等による金融政策を含めた景気刺激策等の他、7 月に入ると米国主要企業等による 2020 年 4~6

月等の企業業績及び業績見通し等が発表され始めることから、それらの内容によっては、米国等の経済

成長及び石油需要の伸びに関する観測を市場で発生させる結果、原油相場にそれらが反映されるとい

ったことも想定される。

他方、新型コロナウイルス肺炎に伴う外出規制と経済活動制限の実施に伴う同国経済成長鈍化の可

能性に対処するために、3 月 15 日に米国連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利をそれまでの 1.00~

1.25%から 0.00~0.25%へと引き下げた。このような金融緩和策に伴う資金調達コストの低下により、株

式や商品といったリスク資産市場に低コストで調達された資金が流入しやすい状況が生まれており、これ

が原油相場への上方圧力を増幅する方向で作用する可能性がある。この場合、原油価格を押し下げる

要因であっても、下落した局面では原油を購入する良い機会であるとの市場の判断から原油の購入が

促進される結果、原油価格がそれほど下落しない現象が見られやすくなる一方で、原油相場をそれほど

大幅に押し上げそうにない要因であっても、資金流入が活発化する結果、原油相場の上昇幅が拡大す

るといった、原油価格の上下変動が非対象となる場面が見られることもありうるので注意が必要であろう。

石油需給ファンダメンタルズ面では、前述の新型コロナウイルス肺炎感染による個人の外出規制と経

済活動制限の緩和具合による石油需要の回復状況や回復に対する市場の観測に加え、OPEC プラス産

油国等による減産措置を巡る動向と実際の石油供給状況等が挙げられる。既に外出規制や経済活動制

限を緩和した一部地域では感染が再拡大しているとも伝えられるが、これが外出規制や経済活動制限

の再強化に繋がるようであれば、石油需要の回復がその分だけもたつくことになり、世界石油需給引き

締まり感が市場で後退することから、原油相場の上昇を抑制する方向で作用する反面、感染再拡大が限

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定的であり、外出規制や経済活動制限の緩和過程に大きな影響を及ぼさない、ということであれば、世

界石油需要回復(もしくはその期待)が OPEC プラス産油国による減産措置延長と相俟って世界石油需

給引き締まり観測が市場で強まる結果、原油相場に上方圧力を加えるものと考えられる。また、タンカー

追跡データ等により明らかになる OPEC プラス産油国等の原油生産関連情報や、EIA の週間原油生産

関連情報、掘削生産性報告(DPR: Drilling Productivity Report)、ベーカー・ヒュージズによる石油坑井

掘削装置稼働数情報を含む、米国、カナダ、ブラジル及びノルウェー等OPECプラス産油国枠外の産油

国の原油生産動向によっても、石油供給に関する新たな観測を市場で醸成させ、原油相場にそれが反

映される場面が見られることもありうる。

他方、2020 年 5 月は OPEC プラス産油国で日量 970 万バレル程度、うち OPEC 産油国で推定日量

609 万バレル程度の減産を実施する予定となっていたが、実際の OPEC 産油国の減産遵守状況はまだ

ら模様である。サウジアラビアについては、日量 251 万バレル程度の減産目標と推定されるところ、実際

の減産量は同 240 万バレルと遵守率は 96%となっている他、UAE は同 72 万バレルの減産目標に対し

同 67 万バレルの減産と 93%の遵守率である。また、5 月のロシアの推定原油生産量(コンデンセートを

除く)は日量859万バレルと減産量は同241万バレルで、減産目標である同251万バレルに対し遵守率

は96%とサウジアラビアと同等の遵守状態となっている。他方、イラクは日量106万バレルの減産目標に

対し実際の減産量は同 40 万バレルと遵守率 38%、ナイジェリアは同 42 万バレルの減産目標に対し実

際の減産量は同 8 万バレルと遵守率は 19%にとどまる。この結果、OPEC 産油国の減産量は日量 448

万バレルと遵守率は74%となっている。6月8日にイラクは減産遵守を強化させる意向である旨表明した

他、6月12日にナイジェリア国営石油会社NNPCのクヤリ社長も減産を遵守する旨明らかにしているが、

減産措置の遵守率低迷に対する罰則が事実上存在しないということもあり、引き続き遵守状態が必ずし

も良好でない減産参加国が存在するようであると、この先のOPECプラス産油国の結束力に緩みが生ず

ることにより、減産遵守率が一層低下する結果、石油需給引き締まり感が市場で後退することで、原油相

場に下方圧力を加えるようになるといった展開も否定できない。

また、4 月 10 日の 20 ヶ国・地域(G20)エネルギー相会合(サウジアラビアが議長国)開催の際には、

米国のブルイエット エネルギー省長官が 2020 年末までに日量 200~300 万バレル程度同国の原油生

産水準が低下する可能性がある旨予想していたが、6 月 5 日の週の当該原油生産量は日量 1,110 万バ

レルと直近の最高水準である 3 月 13 日の週の同 1,310 万バレルから同 200 万バレル減少している。た

だ、原油価格が WTI で 1 バレル当たり 30 ドルを相当程度上回る水準に到達していることもあり、米国で

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のシェールオイル開発・生産活動が復活するとの見方が市場で広がってきている(各鉱床によりばらつ

きはあるものの、同国のシェールオイル生産コストは平均で 1バレル当たり 23~32ドル程度とされる他、

ダイアモンドバック・エナジー(Diamondback Energy)やパセリ・エナジー(Parsley Energy)等といった米

国シェールオイル開発・生産会社は 30 ドル前後の原油価格であれば、開発・生産活動を再開できる旨

示唆したと 5 月 5 日に報じられることに加え、パイオニア・ナチュラル・リソーシズ(Pioneer Natural

Resources)は既に石油サービスコストが 20%低減したうえ、現状の原油価格やリグ稼働数が継続すれば

2021 年に向けさらに 5~10%石油サービスコストが低下する可能性がある旨示唆したと 6 月 4 日に報じ

られる)。また、北米の油井の操業停止は 5 月がピークであり、原油価格が上昇してきていることから、石

油会社は急速に原油生産を回復させるはずである旨の見解を 6 月 1 日に米国大手金融機関バンク・オ

ブ・アメリカが明らかにしている他、パセリ・エナジー(2019年の原油生産量日量 9万バレル)も原油価格

が上昇していることにより数週間前に操業を停止した油井での操業を再開させつつあると6月1日に報じ

られたことに加え、米国中堅石油会社(そして米国最大のシェールオイル生産企業とも言われる)EOG リ

ソーシズ(2019年原油生産量日量46万バレル)も、5月は自社の原油生産量を 4分の 1程度削減したも

のの、2020 年後半においては産出を加速する方針である旨 6 月 2 日に明らかにするなど、米国の原油

生産が持ち直す兆候が見られたり、持ち直すとの観測が市場で発生したりしている。このようなことから、

世界石油需給の引き締まり感が市場で低下する結果、原油相場の上昇を抑制する場面が見られることも

ありうる。

もっとも、原油価格の下落が持続したり、原油価格の下落が加速する兆候が見られる局面では、サウ

ジアラビア等の OPEC プラス産油国が、減産措置の強化等の意向を示唆すること等により、石油需給引

き締まり期待を市場で醸成することを試みることを通じ、原油価格の回復を図るといった展開となることも

予想される。

大西洋圏ではハリケーン等の暴風雨シーズンに突入した(暴風雨シーズンは例年6月1日~11月30

日である)。ハリケーン等の暴風雨は、進路やその勢力によっては、米国メキシコ湾沖合の油田関連施

設の操業に影響を与える結果、当該地域での原油生産が減少する(実際に被害が発生しなくても、暴風

雨接近に伴い沖合油・ガス田は従業員を避難させなければならず、また、2020 年は新型コロナウイルス

感染抑制のため、従業員の避難及び復員に時間を要する結果油・ガス田の操業停止が長期化する恐れ

もある)他、湾岸地域の石油受入及び積出港湾関連施設や製油所の活動に支障を発生させたり(実際に

製油所が冠水し操業が停止することもあるが、そうでなくても周辺の送電網が暴風で切断されることによ

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り、製油所への電力供給が途絶することを通じて操業が停止するといった事態が想定される)、メキシコ

の沖合油田や原油輸出港の操業を停止させたりすること等により米国の原油輸入(2019 年には米国メキ

シコ湾岸地域はメキシコから日量 56 万バレル程度の原油を輸入した)に影響を与えたりする。最近では

米国の原油生産に占める陸上の割合が大きくなってきているものの、それでも同国メキシコ湾沖合では

それなりの量原油が生産されている(2019年に当該地域では日量188万バレルの原油を生産しており、

米国の原油生産量全体の約 15%を占める)他、米国メキシコ湾岸は引き続き同国の精製活動中心地

(2019年の当該地域の原油精製処理能力は日量 866万バレルと米国原油精製処理能力全体の約 47%

を占める)こともあり、今後のハリケーン等の実際の発生状況、進路及び勢力、そしてその予報等によっ

ては石油市場関係者間での石油供給に対する懸念が強まるとともに、その影響が原油価格に織り込ま

れるといった場面が見られることもありうる。5 月 21 日に発表された米国国立ハリケーンセンターの予報

や 6月4日時点でのコロラド州立大学の予想によると、2020年の大西洋圏でのハリケーンシーズンは平

年よりも活発な暴風雨の発生が予想されている(表 2 参照)。そのような中で、既に 6 月 5~7 日頃(米国

東部時間)には熱帯性低気圧「クリストバル(Cristobal)」が勢力を強めつつ米国メキシコ湾沖合を北上、

ルイジアナ州沿岸方面に上陸したことで、メキシコ湾沖合の一部油田及びガス田が操業を停止した(6月

7日午後零時半(米国東部時間)現在米国メキシコ湾沖合原油生産量の34.30%に当たる日量約64万バ

レルが停止したと報告されている)他、6月6日には米国の主要原油受入ターミナルであるルイジアナ沖

合石油ターミナル(LOOP: Louisiana Offshore Oil Port、原油受入能力日量100万バレル程度とされる)

が閉鎖された(暴風雨の通過に伴い操業を再開した旨 6 月 9 日に報じられる)。そして、活発なハリケー

ン等の暴風雨シーズンが予想される中、シーズン初期に米国メキシコ湾沖合での油田操業を脅かすよう

な暴風雨が発生していることから、この先のシーズン中も活発にハリケーン等の暴風雨が発生し油田操

業等を再度脅かすのではないとの神経質な感情が市場で根強くなる結果、この面で原油価格の下落が

抑制されやすくなるといったこともありうる。

表2 2020年の大西洋圏でのハリケーン等発生個数予想

発表日 熱帯性低気圧(命名されるもの) うちハリケーンとなるもの うち強い勢力*のハリケーンとなるもの

コロラド州立大学 4月2日 16 8 4

米国国立ハリケーンセンター 5月21日 13-19 6-10 3-6

コロラド州立大学 6月4日 19 9 4

平年(1981~2010年平均) 12.1 6.4 2.7*:カテゴリー3(風速時速111マイル(時速178km))以上のハリケーン

出所:予測機関予測をもとに作成

総合すると、当面の市場の主な注目点は、まず、新型コロナウイルス肺炎に伴う個人の外出規制と経

済活動制限の緩和に伴う感染第二波に関する動向であり、感染第二波による個人の外出規制及び経済

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等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。

活動制限の再強化が広がるようであれば、石油需給の緩和感が市場で再燃する結果、原油相場に下方

圧力を加えるものと考えられる。他方、制限等の再強化が広がらないようであれば、石油需要の回復と石

油需給の引き締まり期待が市場で強まる結果、原油相場には上方圧力が加わるものと考えられる。また、

今後の OPEC プラス産油国の減産遵守状況に関する情報によっても、OPEC プラス産油国間での結束

を巡り市場での観測が発生することにより原油相場が反応するといったことも想定される。さらに、既に原

油価格が 1 バレル当たり 40 ドルを上回る場面も見られるほど上昇したこともあり、米国でのシェールオイ

ル開発・生産活動が復活し始めるとの観測が市場で増大しつつあることから、この面では今後米国石油

供給の回復に伴う世界石油需給引き締まり期待が後退することにより原油相場の上昇を抑制する方向で

作用する可能性もある。そして、香港の国家安全法の制定を巡る米国と中国等の対立の先鋭化が両国

等の政治・外交・経済問題に発展する結果、貿易上の制限が強化されるようであれば、それが世界経済

成長に対する足枷となることにより、石油需要回復に対する市場の不安感が増大する結果、原油相場が

下振れする場面が見られることもありうる。