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牧田東一ゼミ 2009 年度卒業論文 地球市民社会における NGO の可能性 クラスター爆弾禁止条約の締結に至るアドボカシー型 NGO の活躍 国際学部国際学科四年 20627128 関山 渚

NGO の可能性 - 桜美林大学...NGO とは何か 第一項 NGO の定義 NGO とは英語のNon-Governmental Organization の略である。日本では、「非政府組織」

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牧田東一ゼミ

2009 年度卒業論文

地球市民社会における

NGO の可能性 クラスター爆弾禁止条約の締結に至るアドボカシー型 NGO の活躍

国際学部国際学科四年

20627128 関山 渚

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目次

序章................................................................................................... 3

第一章 NGOとは ........................................................................... 4

第一節 NGOとは何か .................................................................................................4 第一項 NGOの定義 .................................................................................................4 第二項 NGOの役割 .................................................................................................5

第二節 先進国のNGO .................................................................................................8 第一項 誕生と発展...................................................................................................8 第二項 イギリスのNGO ........................................................................................ 11

第三節 途上国のNGO ...............................................................................................13 第一項 誕生と発展.................................................................................................13 第二項 インドのNGO............................................................................................14

第二章 アドボカシー型NGOの可能性と課題................................. 17

第一節 アドボカシー型NGOが国際公益を実現するための政策提言の事例 .............17 第二節 アドボカシー型NGOの諸課題 ......................................................................20 第三節 今後の可能性.................................................................................................21

第三章 クラスター爆弾禁止条約の締結までのプロセス .................. 23

第一節 クラスター爆弾とは ..........................................................................................23 第二節 クラスター爆弾禁止に向けて............................................................................26 第三節 オスロ・プロセス ...............................................................................................27

終章................................................................................................. 33

参考文献 ......................................................................................... 34

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序章

冷戦が終結した 1990 年代から、グローバル化やグローバリゼーションという言葉が世に

広まった。ヒト・モノ・カネ・情報の国境を超えた行き来がスムーズになった。人々の文

化交流は盛んになり、安価なものや便利なものが手に入るようになった。インターネット

の普及により、いつでもどこでも情報交換ができ、私たちの生活は豊かな時代になった。

だがそれと同時に、経済の資本主義化がいっそう進み、世界経済の南北格差や、民族紛争、

地球環境破壊、テロ、感染症拡大、情報格差など、世界中で複雑に絡み合う様々な問題が

浮上してきた。個人ではどうすることもできず、もはや政府や国際機関でさえ問題解決が

難しくなってきた。 この状況下で、政府や国際機関ではなく、企業でもない第三のアクターとして台頭した

のが NGO である。グローバルな諸問題解決の担い手として、NGO は期待されている。NGOが世間に注目され始めたのは 1980 年代頃であるが、NGO の歴史は深く、キリスト教団体

の慈善活動から始まったとされている。現在では広範囲な分野で活動し、いくつもの世界

的で大規模な問題に挑戦してきた。一般的に、NGO にはサービス提供型 NGO と、アドボ

カシー型 NGO に分類される。 筆者はインドで、サービス提供型 NGO で活動をし、農村開発を学んできた。しかし、そ

の活動や持続性について疑問に思うことがあった。途上国の零細な NGO の支援は、限られ

た資金と、少ないスタッフ、また受益者もかなり限られている。開発 NGO の場合、援助を

なくしても生活ができるようにすることが NGO 目的であるとすれば、難しいのではないだ

ろうかと感じた。受益者側(=現場住民)の教育レベルや、資源環境、社会構成等のもっと大

枠な部分に問題があり、ここを解決しないと根本的な解決にならないと考えるからだ。 ニュースや新聞で「クラスター爆弾禁止条約」が採択されたことを知り、異なる NGO の

形態があることも知った。そして、大きな問題に力を入れて結果を残した、アドボカシー

型 NGO へ関心を寄せた。NGO の二つの体型は特性が違うため、優劣をつけることは無意

味である。どちらもグローバルな問題解決に必要な NGO であるし、両方が協力し合わなけ

れば、NGO の存在意義はなくなると考える。本論文では、筆者はアドボカシー型 NGO が

より世界を動かす動力が大きいととらえ、そこに焦点をあてていくことにした。 NGO の存在意義は何か。グローバルな諸問題解決の新しいアクターとして、何に期待で

き、一方で何が課題なのであろうか。また、「クラスター爆弾禁止条約」では NGO は何を

し、条約締結まで進めてこられたのだろうか。 最後に、本論文で使う NGO とは、国内ではなく国際的な問題に、何らかの関心を持ち、

活動をしている国際 NGO のことを指す。

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第一章 NGO とは 第一節 NGO とは何か 第一項 NGO の定義

NGO とは英語の Non-Governmental Organization の略である。日本では、「非政府組織」

「国際協力市民組織」「民間公益組織」「民間海外援助組織」などと訳されることが多い。

また、先進国であるアメリカは、ボランタリーという言葉を強調するために、PVO(Private Voluntary Organization 民間ボランタリー組織)と呼び、イギリスは、市民社会における

NGO 活動を強調するために、CSO(Civil Society Organization 市民社会組織)と呼んでい

る[重田 2005:16]。しかし、国際的な定義はされていない。国連憲章 71 条では、「経済社会

理事会は、その権限内にある事項に関係のある民間団体と協議するために、適当な取り極

を行うことができる・・・」とし、ここでいう民間団体を表す言葉として、NGO が用いら

れ始めた。しかし、国連経済社会理事会の関係にかかわらず、軍縮と平和、貧困解消と開

発、人権、ジェンダー平等、環境といったグローバルな問題に取り組む市民団体を総称す

る言葉として NGO は用いられている[馬橋 2007:12]。 つまり、これらのグローバルな問題を、主権国家のみで解決しようとすると自国の利益

を主張しあうばかりで、解決が難しい。グローバルな問題を解決するために、それぞれの

共通の関心分野をもった市民団体が、国境を越えた共通の利益を追求する担い手として注

目されたのが、NGO である[馬橋 2007:16]。 NGO の活動の特徴として、JANIC(Japan NGO Center for International Cooperation)

は、①政府の援助が届かない最底辺の人々と関わろうとしていること、②人と人との絆を

基礎としていることから、きめ細やかな心通う協力活動ができること、③組織が比較的小

規模であることから、活動が柔軟で機動性に富むこと、④世界の人々と共に生き、助け合

い分かち合うという「地球市民」の考えが広がることの四点をあげている[馬橋 2007:16]。 JANIC によると、日本の現在の NGO 団体数は、400~500 団体といわれ、最新の『国際

協力 NGO ダイレクトリー2004』に掲載される団体は 354 団体と言われている。JANIC が

記載した 354 団体の基準は以下を参照のこと。国際的な NGO は、NGO の定義によって異

なり、各国が統計をとっていないため正確な数値は不明だが、15,000 団体と推測される[馬橋 1998:16-17]。

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1 事業内容 ①開発教育、②教育・提言、③ネットワーク

2 活動対象国 OECDのDAC(開発援助委員会)メンバー国を除く、以下の地域の国を主な活動対象国としている組織①アジア(中東を含む)、②アフリカ、③中南米、④オセアニア、⑤旧ソ連および東欧

3 組織運営および事業実績①市民主導による国際協力活動、②意志決定・責任体制、③市民参加・支援、④自己財源、⑤情報公開、⑥活動実績、⑦支出規模

(1) 2003年4月現在、2年以上2会計年度以上の活動実績(2)前事業年度の国際協力事業費支出実績

開発協力型:300万円以上教育・提言型:100万円以上ネットワーク型:50万円以上

(1)2003年4月現在、1年以上および1会計年度以上の活動実績(2)前事業年度の国際協力事業費支出実績

開発協力型:100万円以上300万円未満教育・提言型:50万円以上100万円未満ネットワーク型:50万円未満

第2部(2) 52団体 以下の(1)~(3)に該当すること(1)2003年4月現在、1年以上および1会計年度以上の活動実績(2)前事業年度の国際協力事業費支出実績

開発協力型:問わないが、厳密には100万円未満教育・提言型、ネットワーク型は問わない

法人格  226団体(第1部)の法人格取得状況は以下の通り

法人格取得132団体(全体の58.4%)で、残り94団体(41.6%)が任意団体。前者のうち特定非営利活動法人104団体(46.0%)、財団法人14団体(6.2%)、社団法人9団体、社会福祉法人2団体、準学校法人1団体、公益信託1団体、宗教法人1団体

(3)年間財源の25%以上、または100万円以上が自己資金(会費・寄付金・事業収入・基金運用益等)

表1  NGOダイレクトリー掲載基準3つの掲載基準

第1部 266団体 以下の(1)~(3)を満たしていること

第2部(1) 76団体 以下の(1)(2)を満たしていること 

(出典:『国際協力 NGO ダイレクトリー2004』JANIC をもとに重田作成[重田 2005:17]) 第二項 NGO の役割 第一項から、NGO はグローバルな問題にとりかかろうとする民間の組織であることが分

かる。では、NGO の果たす役割と期待は何であろうか。 第一に、グローバルな諸問題の解決への取り組みがあげられる。貧困、飢餓、人口爆発、

環境破壊、累積債務拡大、人権侵害、地域紛争などさまざまな問題が拡大し、先進国政府

と国際機関の開発援助活動も限界に達している。そうした中で重田は、「「開発問題」「人権

問題」「環境問題」「平和構築・紛争予防」「貿易問題」「債務問題」「HIV/AIDS問題」など

の解決が、NGOには求められている[重田 2005:15-16]」と述べている。また、実践的な現

場での問題解決のための実践活動もNGOに期待されている。開発NGOは、インフラの整備

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や農村開発、教育、マイクロクレジット1などの活動をしてきた。環境NGOは植林や砂漠防

止運動などがあげられる。これらに自然災害時に支援物資を届ける活動を加えて、サービ

ス提供型のNGO、または実働型NGOといえる[目加田 2009:15-16]。このタイプのNGOは

独自の活動の他、ODA(政府開発援助)の実施に協力や各国際機関の活動に参加することが活

動の主である[功刀 2006:11]。 一方で、第二に、アドボカシー2型のNGOがあげられる。国連会議、先進国首脳サミット、

世界銀行、国際通貨基金(IMF)総会などの国連会議に公式、非公式に参加し、国連機関や政

府に大きな影響を与えている[重田 2005:21]。また、高速道路やダム建設などの事業に対す

る提言活動もある。つまり、アドボカシー活動は、意思決定に影響力を与える働きかけを

行っていくことである。松本は、「重要な意思決定は一部の偏った意見を持つ人たちだけの

密室での議論を行うのではなく、幅広いステイクホルダーの意見を取り入れ、透明でアカ

ウンタブルなプロセスで行う必要がある。また、市民やNGOからも積極的に意思決定機関

に対し意見を提出し、それを具体化していくための仕組みづくりや政策提言に関わってい

く必要がある[松本 2004:151]」と述べている。 第三は、「地球市民意識」の普及と共有化である。「グローバルな問題について認識し、

途上国と先進国とのあり方を考え、共に生きることのできる公正な地球社会作りに地域レ

ベルで参加する態度を育てる[重田 2005:21-22]」ことが NGO には期待されている。 その他に、広報や啓発、資金・物資援助、緊急援助、人材育成がある。団体それぞれに

特徴があり、重点の置き方は異なるものの複数の役割を担っている。先にも少し述べたが、

NGO は政府機関や国際機関に比べ、組織が小規模できめ細かである。状況に応じてプロジ

ェクト変更などの柔軟な対応ができ、低コストで効率的な運営ができる。さらに、様々な

制度に縛られることなく、枠組みにもとらわれることなく、新しい試みに挑戦できるとい

う点が評価できる[朝日新聞 1998:262]。また、人々のニーズに応えるという最大の利点も

NGO にはある。 たとえば、ODA は相手国政府からの要請があって、初めて供与を検討するが、実態は日

本のコンサルタントや商社が関与している。しかも、調査はじっくり行うわけでもなく、

現地の役人の聞き取りが中心である[朝日新聞 1998:260]。つまり、役人と住民との間でず

れが生じてしまう。一方、NGO であれば、まず現地調査をし、調査結果をみて議論が行わ

れ、さらに現地でつめる。その際には現地住民と意見を交わしながら、NGO の指針を説明

し、住民自身にも考えてもらい、資金も出してもらう。住民との信頼関係を築きながら少

しずつレベルアップを図っていく[朝日新聞 1998:258-260]。主体は NGO ではなく住民で

あることが大前提であり、だからこそ、底辺の人々が本当に必要なことを汲み取り、住民

の自立をも促すことができる。

1 Microcredit 少額融資。 2 Advocacy 政府や国際機関、企業の活動を対象とした政策提言。

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第三項 NGO の発展段階 NGO の存在意義は分かった。では、NGO はどのように誕生し、どのような発展経緯が

あるのだろうか。まず、カナダ国際協力議会(CCIC)の元専務理事ティム・ブロッドヘッド

氏の NGO の三つの発展段階をみる。表2は先進国の開発 NGO の発展段階を表している。

第一段階 第二段階 第三段階

開発協力救援復興、慈悲福祉活動

南の自立、参加のための支援活動

促進者・触媒者としての側面的支援活動

開発教育①(教育・学習)

情報提供、広報、変革のための実践

南北問題の構造理解 人類生き残り活動

開発教育②(提言・キャンペーン)

募金、政府援助適正な貿易、体制作り、障壁除去政策

側面的な支援政策

表2 T・ブロッドヘッドによる開発NGOの発展段階

(出典:World Development Autumn 1987) 第一段階の「救援復興・慈善福祉活動」では、先進国 NGO が途上国の国々に乗り込み、

現地事務所を開設、専門家やボランティアを派遣し、自らが現地で活動を行い技術指導や

救援のために食糧物資の支給を行うなどして、外部導入型の援助を行う立場であった。ま

た、この時期の開発教育は、自分が所属する国内での資金集めのために、途上国の貧しさ

や厳しさを感情的に訴える募金活動、あるいは ODA を含めて援助が必要であるという広報

活動が中心であった。それに対して、途上国の現地の人々は先進国からの救済や技術指導

を受ける、一方的な受益者という立場にあり、途上国のリーダーたちは先進国の NGO の下

で働いていた[重田 2005:27]。 第二段階の「南の自立、参加のための支援活動」では、このような先進国という外部か

ら持ち込まれる援助や支援に取る開発活動に対する反省が起こり、本当の開発活動は現地

に住む人々の手で行われることによって成果を上げることができるという考えに変化する。

先進国の NGO は、現地住民の自立や参加を促す活動に移行し、途上国の国々にローカル

NGO (いわゆる途上国の NGO)が組織されるようになる。先進国の NGO は途上国の NGOを資金的に支援し、途上国の住民自身による開発を推進するようになる。また、先進国の

NGO の開発教育は、単に途上国の人々の貧しさや厳しさを訴えるのではなく、問題を生み

出している要因や南北問題を広く構造的に理解し、この問題の解決に向けた実践を志向す

る活動が試みられるようになる[重田 2005:27]。 第三段階は、「促進者・触媒者としての側面的支援活動」である。この段階では、途上国

の NGO の活動は活発になり、大都市だけでなく各地域に住民参加型の開発を進める地域コ

ミュニティグループが設立されるようになり、農村レベルにおいても自立や参加のための

開発活動がおこなわれるようになる。途上国の NGO は、そのようなコミュニティや住民組

織を支援していくようになる。 先進国のNGOは、途上国の人々自身の自立型の活動を側面的に支援する促進者(ファシ

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リテーター3 Facilitator)あるいは触媒者(カタリスト4Catalyst)として活動するように

なる。また先進国のNGOは、開発教育において途上国の開発問題を自分たちと無関係な問

題に位置付けるのではなく、世界の市民へのキャンペーンや各国政府や国際機関へのアド

ボカシーなど、先進諸国を含めた地球社会全体の生き残り(サバイバル)のための活動、

すなわち持続可能な開発のための活動が求められている[重田 2005:27-28]。 また、「民衆中心の開発フォーラム」のデビット・コーテン氏は、NGO の戦略を「救援・

福祉」「地域共同体の開発」「持続可能なシステムの開発」「民衆の運動」というように、四

つの世代に分けて説明している(表 3)[重田 2005:28]。

第一世代 第二世代 第三世代 第四世代

救援・福祉 地域共同体の開発持続可能なシステムの開発

民衆の運動

問題意識 モノ不足 地域社会の後進性 制度・政策上の制約民衆を動かす力を持ったビジョンの不足

持続期間 その場限り プロジェクトの期間 10~20年 無限

対象範囲 個人ないし家庭 近隣ないし村落 地域ないし一国 一国ないし地球規模

主体(担い手) NGO NGOと地域共同体関係するすべての公的・民間組織

民衆と諸組織の様々なネットワーク

NGOの役割 自ら実施 地域共同体の動員開発主体の活性化(触発)

活動家・教育者

管理と運営の方向性

供給体験管理・運営

プロジェクトの管理・運営

戦略的な管理・運営自己管理・運営的ネットワークの連携と活性化

開発教育のテーマ

飢える子供たち地域共同体の自助努力

制約的な制度と政策 宇宙船地球号

表3 D・コーテンによるNGOの4つの世代とその戦略

(出典:デビット・コーテン著、渡辺龍也訳 『NGOとボランティアの21世紀』学陽書房、1995年、P145) 第二節 先進国の NGO 第一項 誕生と発展 ここからは、先進国の NGO についての誕生と発展について四点論じていく。簡単に言え

ば、先進国の NGO 設立の目的は、かつて宗主国として植民地支配をしてきた人や黒人奴隷

貿易に対する贖罪意識によるものや、キリスト教博愛主義、戦争の復興と救済によるもの

である。なお、ここでの先進国とは欧米諸国を指す。

イギリスのチャリティによる発展

3 Facilitator 議論においての中立介入者。 4 Catalyst 物事のまとめ役。場所や議題を提供する役割。

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チャリティ5やボランティア6活動は英国から始まったとされる。英国はチャリティ大国、

ボランティア大国と呼ばれる。2001 年度末現在で約 60 万のボランティア団体があり、約

18 万 8 千団体がチャリティ委員会に登録されている[重田 2005:44]。チャリティの概念は

以下のようなものがある。 ①「公的公益」 ・・・市民やコミュニティのために利益になるものと定義づけている。 ②「独自性」「自立性」「独立性」 ・・・政府とは異なる概念である。 ③「利益追求型としない」 ・・・チャリティは商業活動目的も行うが公益を目的とした活動である。 (出典:市民フォーラム 21『第二回イギリスの NGO/NPO 活動報告調査』1997)

なぜ、英国のチャリティはここまで発展したのだろうか。歴史、宗教、文化、政治、経

済の要因と深く結び付いており、五点あげられる。

Ⅰ.キリスト教会の貢献 英国のチャリティの起源は、12~13 世紀の中世までさかのぼる。発端は「富める者が貧

しいものを助けるという」教会による貧困救済活動であった。17 世紀には 1601 年に「貧

困者救済のためのエリザベス法令」が定められ、今日のチャリティ法の起源となった。ま

た、第二次世界大戦後の復興の際には、財政赤字であって自治体に代わり、地域でチャリ

ティ活動を始めた。このように、教会は助言や精神的支え、財政支援という三つの面で大

きな役割を果たしてきたといえる[重田 2005:45-46]。 Ⅱ.精神の自己浄化作用(カタルシス7)

英国市民は、チャリティ団体への寄付やボランティアへの参加によって、自己の魂を浄

化させることを求めた。古くは敬虔なクリスチャンにとって、チャリティが自己や家族が

キリストに救われるための手段であるとされてきた。また、現代、熱心な信仰者は減りつ

つも、自己浄化のためにチャリティやボランティアに参加する人が多くいる [重田 2005:46-47]。 Ⅲ.政府への代弁者としての役割 英国のチャリティ団体が扱う課題は、高齢者、障害者、児童、女性、人権、環境、開発、

教育など地域レベルで多岐にわたる。これらは、政府に対して問題解決のための提言や交

渉を行っている[重田 2005:47]。 Ⅳ.商業資本家や中産階級の人々による支援

5 Charity イギリスでは教会の救済行為。富める者が貧しいものを助けるという意。 6 Volunteer 自警団や志願者。または社会問題解決のために無償で働く一般市民。 7 Catharsis 清浄なものにすることの意味。宗教用語として、罪障を除去するお祓い。

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18 世紀から 19 世紀にかけて産業革命の成功により、商業資本家のエリート層つまり、フ

ィランソロフィスト8たちや中産階級の人々は、チャリティ活動やボランティア活動を支援

してきた。産業革命により、公害や環境破壊、児童労働などの問題を生み出しながらも、

これらの発展に大きく貢献したことはとても皮肉な成果である[重田 2005:47-48]。 Ⅴ.行政に代わる住民へのサービス提供

チャリティ団体が自治体に代わり、福祉サービス分野の事業を行った。1979 年サッチャ

ー政府は、「大きな政府」の民営化を目指していたため、このことを奨励していた。「市民

の中には、官僚的で効率の悪い政府や自治体に税金を払うよりも、チャリティ団体に寄付

した方が賢明であり、政府の仕事をできるだけ民間セクターに移行していくことを望んで

いる人もいた[重田 2005:49]。チャリティ団体は、多くの英国市民から信頼と愛着を持って

いたことがわかる。以上が英国のチャリティの発展要素である。

キリスト教系団体の植民地における慈善活動 これは、途上国で活動する国際NGOの原点であるといえる。18 世紀後半から 19 世紀に

かけて、キリスト教会が植民地へ布教活動と共に、社会福祉活動を行うようになった。植

民地での布教活動の資金は、宗主国の募金によって支えられていた。英国団体の例をあげ

ると、1792 年に設立された「バプティスト・ミッショナリー・ソサエティ(The Baptist Missionary Society)」は、最初インドで活動を始めて以来、キリスト教の伝道を目的に、

アジアやアフリカ諸国で今日まで活動を続けている。その他に、1799 年Church Missionary Society、1844 年The South American Missionary Society、1869 年National Children’s Home、1874 年The Leprosy Mission、1879 年Oxford Mission、1890 年St. Francis Leprosy Guild9がキリスト教布教のために第三世界へ渡った。これらのキリスト教会やキリスト教

系団体が現在のNGOの原点であった[重田 2005:50-51]。

黒人奴隷制度からの解放運動 18 世紀後半から 19 世紀前半にかけ、トマス・クラークソン10らは「反奴隷インターナシ

ョナル(Anti-Slavery International =ASI)」を設立し、英国議会へ奴隷解放キャンペーンを

行った。このASIは世界で一番古い人権団体である。その後も、クラークソンの意思を引き

継ぎ、強制労働、女性や子どもの労働、少数民族に関するキャンペーン、政策提言、調査、

関係団体の支援等、第三世界の人々の解放運動を行っている。この活動が、現在のNGOの

目的である政策提言活動の原点である[重田 2005:51-52]。

戦争被害者・難民への救済活動

8 Philanthropist 慈善活動者。 9 『Third Would Directory 1993』(イギリス発行)による。 10 Thomas Clarkson 英国ケンブリッジ大学生時の反奴隷運動指導者

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この活動を通して、緊急援助や復興支援がNGOの基礎になった。主なNGOを歴史的にた

どっていくと、1848年のイタリア統一戦争の緊急援助ための「国際赤十字委員会(ICRC)11」、

第一次世界大戦とスペイン内乱における救済活動を目的とした「American Friend Service Committee12」、「Save the Children13」、「Foster Plan14」、第二次世界大戦の復興・救済の

ための「Oxfam15」、「Christian Aid16」ができた。戦争中の被害者や難民支援、戦後復興・

救済のために欧米のNGOが設立され、国益や国の政策を越えた、人道的な立場で活動し、

国際的なNGOに成長していった[重田 2005:52-57]。 第二項 イギリスの NGO 具体的に、NGO 先進国である英国、とりわけ巨大 NGO であるオックスファム(Oxfam)

の活動を、英国政府と関連づけて論じていく。 英国は、先進国の NGO の中で量、質ともにトップクラスである。中でも、オックスファ

ムは歳入面で約 350 億円をあげ 1 位になった。オックスファムの本部の向かいには、オッ

クスファムショップという古着や本を売る店がある。店の規模は、全国に 830 店舗、売上

は約 30 億円(1998)で全収入の 12%を占める。オックスファムという組織への信頼と、英国

市民のチャリティ精神が浸透しているのだろうと筆者は思う。 同 NGO の規模は、英国全土に約 3 万人のボランティア、国内外の専従スタッフ 1300 人、

現地地元スタッフは 1500 人を超える。1998 年の歳入の内訳は、英国政府や EU、国連から

の助成金が 48%、個人寄付 28%、ショップ 12%、遺産贈与 6%となっている[三好

2001:235-237]。英国の開発 NGO の活動範囲はだいたい以下のようになる。

①地域限定型―アフガン・エイドなど、特定の地域に絞った支援活動 ②活動分野の限定型―ウシを送れ運動(Send a Cow)など発展途上国に牛を送る運動 ③特定の技術提供型―ウォーター・エイドなど、適正な飲料水を確保するための技術指導 ④プロジェクト実地型―セーブ・ザ・チルドレンなど、自らプロジェクトを立案・実施 ⑤資金提供型―クリスチャン・エイドなど、発展途上国の教会、草の根組織を通した資金提供

この他にも、開発教育センターや開発に関する調査研究、NGO スタッフ研修の専門家グ

ループなどが活動している[三好 2001:238-239]。 英国の NGO が発達しているのは、歴史的背景や市民意識だけではない。政府の助成金シ

ステムというものがある。1995 年では、チャリティ法で市民活動団体に税金の減免など、

11 1959 年スイスで設立。「人道・公平中立・独立・奉仕・単一・世界性が」基本原則。 12 1917 年米のクェーカー教徒により設立。戦地での医療活動が中心。 13 1919 年戦争で家族を失った孤児のために英国で設立。現在世界 120 カ国以上で活動。 14 1937 年英国人によって米で設立。里親型支援。財政規模で日本最大の NGO。 15 1942 年ナチスドイツによる救済目的。英国で設立。パートナー支援型。 16 1942 年英国国教会により設立。キャンペーン活動や政策提言が中心。

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優遇措置が与えられている団体は約 20 万グループある。また、英国の ODA 予算の約 1 割、

約 280 億円が NGO への助成金にあてられる。助成金の配分は図 1 を参照。

難民などに対す

る緊急援助33%

二国間援助プロ

グラム33%

プログラム助成

(NGOが実施し

ていること)20%

海外へのボラン

ティア派遣 14%

イギリス政府の助成金配分(図1)

出典:『学び・未来・NGO』三好他、をもとに筆者作成

この政府の助成金配分のメカニズムの特徴は、第一に、プログラム助成の比重が多いこ

とにある。プログラム助成はあくまで NGO が主体的に取り組むプログラムに、政府が最大

50%支援するもので、現地での運営費や英国本部の運営費までもまかなわれる。しかし、近

年、英国政府は NGO プログラムに政府の意向をより反映させるため、NGO を下請けにす

る傾向がある。そして、プログラム助成の割合を下げる一方で、二国間援助プログラムの

割合を増やしている。さらに、労働党は 1998 年にプログラム助成を廃止する提案をし、

NGO との折衝が進められている[三好 2001:239]。 第二の特徴は、巨大 NGO を優遇するブロック資金(Block Fund)とよばれるものである。

英国の NGO は巨大なものと、中小なものに二極化されている。以下にあげる五団体は、組

織、財政、スタッフ等の面でその他 NGO から突出している。 ①オックスファム ②セーブ・ザ・チルドレン ③クリスチャン・エイド ④カフォド17 ⑤アクション・エイド このうちの⑤アクション・エイド以外が、ブロック資金18の対象である。またこのビッグ

5 は、英国海外協力団体グループ(BOAG, British Overseas Agencies Group)を 1980 年に

結成し、共通の課題について、情報交換や政府への働きかけなど、共同歩調をとっている[三好 2001:239-240]。

こうした、政府や EU、国連からの助成金はどう扱うのか。オックスファムは、「地域開

発プログラム」では 15%以下に抑えるとしている。政府の開発援助戦略を優先するのでは

なく、現地の人々のニーズに即したプログラムを行うための担保としている。ただし難民

17 CAFOD, the Catholic Fund for Overseas 18 複数年度にまたがるプログラムを対象にした資金

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救済など、一刻を争う緊急プログラムに関しては、人道援助優先にし、実質的に無制限と

形をとっている。1998 年度では助成金のうち 48%を緊急プログラムが占めている[三好

2001:241]。 このように、先進国の NGO 誕生のルーツや発展は、チャリティ活動をはじめ、キリスト

教による植民地慈善活動や黒人奴隷解放運動、戦後復興支援を通して発展してきた。先進

国にはこれらの問題の加害者であるために、救うべき要素があったとはいえ、先進国の

NGO には、ボランティア活動を支える市民の意識や基盤が、深い歴史を通して市民なかに

根付いているように筆者は感じる。また、市民による政府に対してのアドボカシーを行う

パワーや組織力及びリーダーシップ、教会のような宗教的要素、さらには財政基盤があっ

たからこそ、大きく成長し、発展したのではないだろうか。

第三節 途上国の NGO 第一項 誕生と発展 途上国の NGO 活動の特徴は、先進国の NGO と共通した部分もあるが、その多くは先進

国の NGO に影響したものであると考えられる。また、途上国の NGO は第二次世界大戦以

降、1950 年代~1960 年代に誕生し、先進国に比べると遅い時期に設立された[重田 2005:76]。途上国の NGO の誕生について、大きく分けて五つを論じていく。ここでいう途上国とはア

ジアを指すことにする。 Ⅰ.スラムでの活動 ある個人や市民グループによる強い意志のもと、都市や農村にある委員会やグループを

組織しはじめた。都市スラムでの活動や、農村ワークキャンプ、村づくり委員会などが重

要な役割を果たした[重田 2005:29]。 Ⅱ.宗教の布教活動 先進国同様、途上国でも、宗教関係者によって設立された。イスラム教、ヒンドゥー教、

キリスト教、仏教などの布教活動と同時に、慈善活動を行い広まっていった。中には、宗

教関係者が NGO のリーダーであることが途上国の NGO では見られる[重田 2005:31]。 Ⅲ.大手の国際 NGO からの要請 先進国の巨大なNGOの要請により、事務所や支部をもつことで、その後独立していった。

NGOの例として、バングラディシュのプロシカ19がある[重田 2005:32]。バングラディシュ

の救援と開発に力を入れてきた、カナダのCUSO20というNGOの研修部門が 1976 年に独立

し、代表がバングラディシュ人になり、ローカルNGOとして活動を始めた[馬橋 1998:197]。 Ⅳ.紛争や内戦による人道主義的立場

19 (PROSHIKA)。年間予算は 65 億円。スタッフ数は 3000 名。農村開発やインフラ提供、

環境保全や保健衛生、また民衆劇グループを組織している。 20 カナダ大学海外奉仕団

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戦争の戦地であったことに加え、第二次世界大戦後、途上国は独立戦争や部族間紛争も

多い。そこに現れた、難民・避難民、被災民への救援と復興のために作られた。バングラ

ディシュ最大のNGO、BRAC21が例だ。最近は、紛争が起こる前に、紛争当事者間で和解

のために、調停・調整を行うNGOが出てきた[重田 2005:38-82] 。 Ⅴ.貧困からの脱却 途上国の多くの人々が、経済的、政治的、社会的に劣悪な立場であるため、このような

貧困者の救援活動を行っている。1960 年代以降は、先進国の NGO や先進国政府、国際機

関がドナーとなり、資金を効率よく活用するようになった。また北の植民地支配の歴史か

らの自立を図るため、アドボカシー活動も行っている[重田 2005:33-38]。 これら途上国の NGO の特徴は、貧困解決や、救済活動、紛争予防の他に、途上国にある

課題や問題の伝達活動をすることや、国際ネットワークに参加することがあげられる。先

進国の NGO や政府、国際機関へアドボカシー活動を行っていくと同時に、それらが開催す

るフォーラム等に参加するということである[重田 2005:38-39]。 第二項 インドの NGO 筆者はインドにて NGO 活動をした経験があることや、アジア、ひいては途上国の中でも

最大の NGO 大国インドを例にあげ、活動分野や資金について述べていく。 インドは広域であることから州によってカラーが出るが、活動分野として、農村開発、

エンパワメント、保健衛生、環境、労働、スポーツ、各種産業、インフラ、部族問題など

があげられる(次頁表5参照)。また、緊急支援や社会支援など、これらサービス提供型の

NGO以外にも、政策の変更や構造改革を求める民衆参加の社会運動もある[大橋 1995:75]。 インドの NGO においては、以下四つの法令に基づいて政府に登録されている。 ①協会登録法(Societies Registration Act, 1960) ②インド信託法(Indian Trust Act, 1882) ③会社法(Company Act, 1956)、但し非商業会社(non-trading company) ④協同組合法(Cooperative Societies Act, 1926) これらはすべて州レベルでの登録であるが、協会登録法は州境を越えて活動ができる。い

ずれかの登録が行われていないと、国内外の資金援助は受けられない[大橋 1995:75-76]。イ

ンドの NGO 数は、正確な数字は不明だが、ムカジー財務相によると、デリー直轄地とウッ

タル・プラデーシュ州、ビハール州の三か所の合計で、協会登録法に登録される 1 年間の

合計として、2 万 4 千団体から 3 万 6 千団体と見積もり、全国では 10 万団体と予測でき、

急速に増加していることがいえる[大橋 1995:76]。 インドの NGO の資金源については、支持者や活動者、政府や外国援助団体、銀行や国内

の企業から得ている。外国や政府の援助は増加しているが、国内の自己資金は減少してお

21 (Bangladesh Rural Advancement Committee)。1972 年年間予算は 175 億円。開発や小

規模融資、人権、保健・栄養などプロジェクトは多種多岐にわたる。

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り、総額の 90%は外国からであり、またその大半は外国の NGO からの資金であることが

分かっている。ちなみに、資金提供元はアメリカ、ドイツ、イギリスなど欧米諸国の NGOを中心に、世界銀行や国連児童基金(UNICEF)、国際労働機関(ILO)や国連開発計画(UNDP)などである。正確な NGO 団体数が分からないため、こちらも正確ではないが、1991/92 年

度の外国資金はインドの外国貢献規制法(FCLA)の統計によれば 4億ドル(=538億円)である。

1991 年度の日本の NGO の自己資金額のおよそ 2.6 倍である。 このように途上国の NGO の誕生と発展要因は先進国とは異なり、アドボカシー型よりも

サービス提供型の NGO が多く存在することがわかる。インドだけでなく、他の途上国も活

動資金は先進国を主とした外部依存が高い。先進国と途上国との発展が比較しやすいよう

に以下表 4 を載せておく。また、表 5 のインドの州別活動分野も参照するとよい。

欧米諸国(北)のNGO 開発途上国(南)のNGO

誰が設立したのか個人や市民グループの自発的意思キリスト教関係者・関係団体国際NGOからの要請/独立

個人や住民グループの自発的意思宗教関係者・関係団体国際NGOからの要請/独立

何のためか(要因)

貧困者や弱者に対する人道主義戦争被災者や難民に対する人道主義植民地政策への贖罪主義黒人奴隷制度への贖罪主義人権侵害・環境破壊南北問題の経済格差・不公正政府や国際機関の政策への不満

植民地支配の克服と北からの自立戦争被災者や難民に対する人道主義貧困からの脱却人権侵害・環境破壊南北問題の経済格差・不公正政府や国際機関の政策への不満

特徴

(18c~19c)キリスト教系団体による植民地慈悲活動黒人奴隷解放運動(19c~20c)戦争被災者・難民人道復興支援貧困削減のための開発援助人権・環境分野への支援南北問題解決のための開発教育政府や国際機関への政策提言国内・国際ネットワークの構成紛争予防・平和構築

(20c)戦争被災者・避難民・難民救済貧困者・弱者への救済・支援南にある課題・問題(人権・環境など)への支援国内・国際ネットワークの構成紛争予防・平和構築

表4 NGOの誕生と発展の要素

出典:重田康博『NGOの発展と軌跡』2005

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28州と7連邦直轄地/分野

農村開発

人材開発

社会公正とエンパワメント

健康と家族幸福

環境と森林

スポーツ

労働

非原子力エネルギー資源

織物

科学技術

農業

輸送と高速道路

統計と問題の実施

部族問題

小規模産業

IT

政府/U.T.S

農業と農村開発のための政府銀行

1 アンドラ・プラデーシュ 759 198 436 100 45 27 7 1 8 0 1 9 1 77 8 0 0 0

2 アルナーチャル・プラデーシュ 4 8 8 2 0 1 0 0 5 0 0 0 0 14 0 0 0 0

3 アッサム 84 110 45 29 11 12 3 0 24 1 0 1 0 18 1 0 14 5

4 ビハール 665 111 89 106 139 53 14 1 7 3 0 6 0 1 4 0 0 12

5 チャッティースガル 24 5 6 1 7 2 0 0 0 0 0 0 0 6 0 0 20 0

6 ゴア 3 0 8 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0

7 グジャラート 176 75 84 43 20 7 1 1 10 2 1 1 0 25 1 1 127 16

8 ハリヤーナー 99 33 68 8 1 24 5 0 2 0 0 1 0 0 0 0 0 3

9 ヒマーチャル・プラデーシュ 54 18 14 13 3 19 0 0 11 0 0 0 0 9 0 0 25 11

10 ジャンムー・カシミール 20 12 32 10 21 10 2 0 19 0 0 1 1 6 0 0 0 5

11 ジャールカンド 111 30 11 19 34 14 0 0 0 2 0 0 0 10 4 0 0 13

12 カルナータカ 232 107 212 50 20 41 2 2 3 0 1 4 0 24 3 0 15 13

13 ケララ 222 1 151 31 45 83 5 2 10 3 1 0 1 7 4 0 0 22

14 マディヤ・プラデーシュ 196 164 97 56 41 51 5 0 9 0 0 1 0 37 0 1 0 18

15 マハラシュトラ 308 159 201 103 16 26 4 3 7 6 3 6 0 46 11 1 11 36

16 マニプール 222 28 111 22 0 42 9 0 23 0 0 7 0 28 0 2 149 0

17 メーガーラヤ 8 5 12 1 0 0 0 0 2 1 0 0 0 5 0 0 268 0

18 ミゾラム 22 2 21 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 12 0 0 0 0

19 ナガランド 26 14 13 23 0 4 1 0 10 0 0 4 0 25 0 1 0 0

20 オリッサ 333 285 169 78 2 42 14 0 41 0 0 7 1 80 0 0 0 61

21 パンジャブ 6 20 42 2 0 4 0 0 2 0 0 0 0 0 0 0 34 1

22 ラジャスターン 210 59 79 21 17 16 1 1 10 3 0 5 0 11 0 0 35 21

23 シッキム 0 3 3 32 0 2 0 0 1 0 0 0 0 3 0 0 8 0

24 タミル・ナードゥ 519 162 208 207 22 35 5 2 6 9 0 4 2 6 1 0 0 21

25 トリプラ 8 20 15 0 0 2 1 0 8 1 0 0 0 3 0 0 20 0

26 ウッタル・プラデシュ 1123 217 392 189 82 135 25 1 45 5 4 13 1 10 6 1 0 77

27 ウッタル・カンド 98 11 19 5 20 22 0 0 11 1 2 0 0 5 0 0 0 8

28 西ベンガル 804 131 203 107 84 77 14 1 25 10 2 5 1 34 15 0 0 22

29 アンダマン・ニコバル諸島 2 1 1 4 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0

30 チャンディーガル 5 12 19 4 0 3 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 32 0

31 ダードラー及びナガル・ハヴェー 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 5 0

32 ダマン・ディウ 0 15 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

33 デリー 193 47 166 76 17 97 19 4 23 1 5 13 4 6 4 1 0 2

34 ラクシャディープ 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

35 ポンディシェリ 5 11 8 0 2 1 0 0 1 1 0 0 0 0 0 0 32 0

合計 6541 2074 2944 1343 649 853 137 19 325 50 20 88 12 509 62 9 795 367

NGO分野別データ(表5)

(出典:HP Voluntary Organization Databaseより筆者作成)

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第二章 アドボカシー型 NGO の可能性と課題 1990 年代以降に広がったグローバリゼーションにより、世界経済が連結化し、ヒト・モ

ノ・カネ・情報が国境を超えるようになってきた。この流れにより、国際社会で安全保障

と言う言葉がキーワドになり、国家中心、軍事中心の「国家の安全保障」に対して、人々

の生命や財産、人権や世界をまとめる「人間の安全保障」という新たな概念が生まれ、非

軍事的で国家以外の主体のスムーズさが不可欠になり、NGO の活躍がより期待されてきた。 本章では、「アドボカシー型」の NGO を中心に、可能性と課題を論じていく。

第一節 アドボカシー型 NGO が国際公益を実現するための政策提言の事例(分野別) 人道と平和 ①世界法廷プロジェクト(WCP) 1992 年 反核NGOや一般市民、弁護士など、世界 700 を超える団体が集結して、国際

司法裁判所(ICJ)22に核兵器使用の国際法上の問題に勧告的意見を求めた。世界保健機関

(WHO)総会や国連総会もこれに賛同し、ICJは以下を示した。「核兵器の使用や威嚇が国際

法に反するとする。ただし、国家存亡に関わる究極の事態の場合は判断しかねる」という

勧告的意見を出した。このことは、すべての核使用に関しての禁止は得られなかったもの

の、その後の反核・軍縮運動に新たな活動の足がかりとなる画期的なことであった。その

他核に関する活動団体は、2000 年までの核兵器禁止条約締結を目指す「アボリッション

2000」や、2007 年に「核兵器廃絶国際運動(ICAN)」の発足など、核に依存しない安全保

障体制を訴え活動している[目加田 2009:26]。 ②対人地雷・クラスター爆弾の禁止 核兵器のような大量破壊兵器ではなく、通常兵器とよばれる対人地雷やクラスター爆弾、

小型武器は、実際の紛争現場に多く使用されてきた。被害の多くは、戦闘行為に関わらな

い一般市民であることから NGO は取組始めた。 まず、対人地雷において、1992 年欧米の六つのNGO団体「地雷禁止国際キャンペーン

(ICBL)」23が発足した。大国の反対から既存の国際法の枠組みでは禁止が実現できなかっ

た状況下で、カナダやアイルランド、ブラジルといった中堅国家がICBLの働きかけに呼応

した。そこで、1997 年 12 月「対人地雷禁止条約(通称オタワ条約)」24が成立した(1999 年

3 月発効)。この「オタワ・プロセス」は興味深く、三つの点に意義があるので詳しく述べ

ていく[目加田 2009:26-27]。 一つは、大多数の多国間条約交渉ではなく、政府の枠組み外で成立したということ。二

つ目は、類例のない形で、政府と NGO の協働関係を実現させたこと。ICBL は政府が持っ

22 International Court of Justice 国連の常設司法機関。対象は国家のみ。 23 International Campaign to Ban Landmines ヒューマン・ライツ・ウォッチ、ハンデ

ィキャップ・インターナショナル、人権のための医師団、アメリカベトナム戦争退役軍人

会財団、地雷顧問団の六つと、1100 超の団体が加盟している 24 対人地雷の使用、開発、生産、貯蔵、保有、移譲などの禁止条約。

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ていない情報や、長年の専門知識によって政府と対等に協議する基盤を持っていった。一

方政府は、ICBL のような世界的なネットワークと協力することで、国際世論を味方につけ

る手段を得た。三つ目は、交渉期限を設けて合意に達成することができたこと。交渉開始

から 1 年 3 か月でオタワ条約が成立し、国際社会が覚悟を持って取り組めば、短期間で条

約を成立させることはできるということを証明した。これを範にし、「クラスター爆弾禁止

条約(通称オスロ条約)」においても交渉開始から 1 年 3 か月で条約が成立できた[目加田

2009:26-28]。同条約については、次章で詳しく述べることにする。 ③国際刑事裁判所(ICC)25の創設 カナダや南アフリカ、オランダなどの諸国と 1995 年に結成されたNGOネットワーク「国

際刑事裁判所を求めるNGO連合(CICC)」が協働し、交渉を牽引してきた。1998 年に戦争

犯罪、人道に対する罪、ジェノサイド26といった重罪を犯した個人を裁く常設裁判所を創設

することができ、ICCは管轄権が国家に制限されているICJとは異なり、個人を起訴する権

限を持ち世界の法治主義にとって大きな一歩となった。CICCは、2002 年に発効したロー

マ規程の履行監視や締約国27の増加に取り組んでいる[目加田 2009:29]。 ④子ども兵の禁止 人権団体NGO「アムネスティインターナショナル」や子供問題を専門とするNGO「セー

ブ・ザ・チルドレン」が中心となり、1998 年「子ども兵士禁止のための世界連合」を結成

した。同連合は国際機関と連携しながら、武装紛争議定書28への寄与や子どもの権利条約29、

ジュネーブ条約追加議定書30を履行するよう働きかけている[目加田 2009:29-30]。 ⑤その他 2003 年には世界に蔓延する武器の規制を求める「コントロール・アームズ」キャンペー

ンにより、武器の貿易を規制する武器貿易条約(ATT)の締結を求めている。また、2005 年

劣化ウラン弾31の禁止を訴える「ウラン兵器禁止国際キャンペーン(ICBUW)」を発足させ、

国際的禁止を求めている[目加田 2009:29-30]。

環境と開発 冷戦後、環境問題が国内外の政治・経済・社会のあり方に大きな変化をもたらすものと

されてきた。1992 年に開催された「環境と開発に関する国連会議(通称地球サミット)」が、

NGO の地球規模課題への関与という文脈において、重要な転機となった。 25 International Criminal Court オランダのハーグに常設。対象は個人。 26 Genocide 大量殺戮 27 2009 年 8 月末現在で 110 カ国 28 武力紛争への子どもの関与に関する子どもの権利条約の選択議定書。18 歳未満の子ども

が敵対行為に直接参加しないことを留意した議定書 29 18 歳未満のすべての人間を人権の主体として認め、その保障を地球規模で各国において

実現することを約束し合った条約。1989 年成立、1990 年発効。 30 1997 年及び 2005 年の国際人道法会議で採択された武装に関する議定書。 31 強い破壊力や放射能と毒性による健康被害、環境汚染をもたらす爆弾。

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「気候行動ネットワーク(CAN)」は、地球温暖化防止のための気候変動枠組条約および京

都議定書の締結に取り組んだ。1997 年の段階で 73 カ国、約 250 の団体に及び、気候変動

枠組条約と京都議定書の作成過程において盛んなロビー活動32によって影響を及ぼした。現

在では 450 のNGOが参加し、ポスト京都議定書の国際的温暖化対策の目標値を定める交渉

に関わっている[目加田 2009:30-31]。 開発の分野では、途上国の開発にとって重要な阻害要因とされる、三大感染症(エイ

ズ・結核・マラリア)や疫病の対策に、途上国へ資金提供をする機関として、「世界エイズ・

結核・マラリア対策基金(世界基金)」が 2002 年に設立された。NGO の強い働きかけがあ

り、2000 年国内外の NGO が G8 へ向け、政府に問題の重要性を訴えかけたことが G8 首

脳を説得する力となり、同基金の設立に至った[目加田 2009:31]。

グローバリゼーションと経済格差 ①「市場主義偏重」への反発 経済のグローバル化により 1980 年代から多国籍企業が国外への投資が急速に拡大し、途

上国へ生産拠点を移した。これにより、本国とは異なる労働条件や労働基準を採用し、不

当な児童労働や重労働が目立ってきた。さらに、資源の乱開発や有害部室の不法投棄によ

る環境破壊から、途上国の人々の生活の安全を奪うこととなった。先進国内での産業の空

洞化による失業や安全基準の甘い輸入商品による食や健康の安全が懸念されだした。 NGO がとくに重要視した事柄は、貿易と投資のルールづくりである。1997 年、経済開

発協力機構(OECD)が秘密裏に作成していた二国間投資協定に代わる多国間投資協定(MAI)の原案を公表した。この協定は、途上国が海外からの投資を引き付けるため、労働や環境

基準を引き下げ、多国籍企業にのみ利益を得る懸念があった。これに NGO が待ったをかけ、

世界各地で抗議行動を展開し、OECD 加盟国内の対立意見もあったこともあり、MAI は事

実上廃止に追い込まれた[目加田 2009:32]。 ②世界社会フォーラム 2001 年、市場原理主義の色彩の濃い新自由主義に異を唱える反グローバル化の象徴とな

ったのが、「世界社会フォーラム(WSF)」である。これは、毎年世界の財界トップや著名な

エコノミストを集め、スイスのリゾート地ダボスで開催される「世界経済フォーラム(WEF)通称ダボス会議」に対抗する民衆フォーラムである。第一回目は、2 万人が参加し、2002年は 5 万人、2003 年は 10 万人、2004 年は 7.5 万人、2005 年は 12 万人が世界各地から集

結した。「もう一つの世界は可能だ(Another World Possible)」をスローガンに、国境や人

種、宗教を超え、多種多様でオープンな議論の場となった。21 世紀にはいって、ラテンア

メリカで相次いだ「反米政権」誕生は、こうした考えに呼応する民衆の声がある[目加田

2009:33]。 ③債務帳消し運動

32 Lobbying 政府の政策に影響を及ぼすことを目的とした私的な政治活動。

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1990 年代後半、世界 60 カ国以上の NGO が「21 世紀までにはすべての人が人間らしく生

きられる世界にするため、2000 年待つまでに最貧国の人間的な社会発展の妨げとなってい

る重債務を帳消しにしよう」と呼びかけが始まったのが「ジュビリー2000」だ。最貧国は、

歳入の多くが債務の返済に充てられることから、教育や医療へ財源が行きわたらない。ジ

ュビリー2000 では、G8 首脳会議や国際金融機関に対して、差貧国の債務問題に耳を傾け

てもらえるよう努力してきた。その結果、1999 年のケルンサミットで、先進 7 カ国が 36カ国の ODA の債務 100%の取り消しを打ち出した[目加田 2009:32]。 このように、NGO は多岐にわたる分野でほかの主体と国境を超えて連携ないし協力しな

がら、不可能や非現実的と思われてきた課題解決に取り組んできた。これ以外にも、途上

国の自然を破壊するダム建設に異議を唱える NGO ネットワークや、先進国を含む政府の汚

職を追及する NGO ネットワーク、航空料金への課税により問題解決の資金調達を図る連帯

税の導入を目指すネットワークなどが、既存の枠組みを変えるべく活動をしている[目加田

2009:35-36]。 第二節 アドボカシー型 NGO の諸課題 国連総会や国際会議での公式文書への NGO の早期対応 国連総会や国際会議における、早期政策提言を行う場である、国連総会や国際会議では、

会議が始まる 2 年以上前に、公式文書に盛り込む内容に関する協議や草稿づくりは始まり、

しかも大枠はだいたい決まっている。したがって、公式文書が準備される過程でのチェッ

クが欠かせなくなる。このためには、国境を超えた NGO ネットワークが重要になり、NGO間の連携を強化していくことが課題である。また、政府間の事前協議に対する専門知識を

つけることや、公式文書作りは英語であるため、日本や途上国など、母国語を英語としな

い国々は言葉のハンディキャップも乗り越えなければならず、知的な面の強化もいっそう

必要になってくる。まさに「時間との戦い」と「言葉の戦いである」[功刀 2006:138]。 こうした課題をクリアしていくための、一つの方策に、政府間会議の会期中に開催され

るNGOの「コーカス33」だ。コーカスは、地域やテーマごとに開催されるNGOの集まりや

ネットワークで、先進国のNGOが主催することが多い。会期中に公表される公式情報のみ

ならず、非公式情報もメンバーで共有し、討論し、連携して戦略を立てることを目的とし

ている。ここでも、先進国のNGOは途上国のNGOに対し、専門用語や国連用語を理解し、

言語においても支援していかなければならない[功刀 2006:138-139]。 途上国 NGO の強化 上記の途上国NGOの言語の習得以外に、政策の提言や策定、実施において能力をつける

こと。国連とのパートナーシップが強いNGOは、ほとんどは欧米先進国が本部であるNGOである。それに比べて、途上国のローカルNGOは少数派であり、ここで南北格差が存在し

33 caucus 議会総会などで討議するという意味。

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てしまっている。だが、途上国のローカルNGOは、自国の草の根レベルに根付いて活動す

るころが多く、住民のニーズを把握しており、サービスの質も高い。さらに、国際機関や

国際NGOに比べても住民の意見は受け入れられやすく、仕事が進めやすいことも多い。そ

れであれば、国際社会に対してその実績や実力をアピールし、国際社会で通用するプロポ

ーザル34作りも課題である[功刀 2006:145-146]。 事実、OECD 諸国の ODA 総額は減少しているものの、途上国の NGO への直接援助は増

加の傾向にある。先進国に本部を置く「北」の NGO をバイパスして、直接的に「南」の

NGO へ資金を供与する流れは、徐々にだが確立されつつあり、その動きは強まりつつある

[功刀 2006:146]。 社会的インパクトを与える 2005 年、ホワイトバンドの「ほっとけない世界のまずしさ」が一世を風靡した。入口は

ファッション感覚で、異なった認識で終わってしまったかもしれないが、アドボカシー・

キャンペーンとしては、人に伝えてその結果としてたくさんの人が行動を起こす(啓発活

動)という側面で評価できる。それだけでなく、日本は郵政民営化を争点に衆議院解散総

選挙が行わた頃であり、国連サミットが開催される頃でもあった。小泉元首相は、国連サ

ミットに出席し、「貧困に苦しむ人を支援するために日本を含む先進国が約束を果たし行動

することがよりよい世界を作る基盤となる」という演説をした[功刀 2006:207-208]。選挙

前であったため、票集め工作だったかもしれないが、これこそが民主政治であり、市民が

もたらした影響は大きかったと言える。このようなインパクトの大きいアドボカシー・キ

ャンペーンを、間近のミレニアム開発目標(MDGs)とからめて何かできないだろうかと筆者

は考える。 国連と NGO の連携による作用 本章の第二節で事例をあげたように、国連や国際機関、各国政府との連携が今後さらに

いっそう重要になってくる。国連や国際機関、各国政府の政策や活動を批判し、その軌道

修正を行っていくことで、アドボカシー型 NGO の存在意義が高まり、グローバルな諸問題

の大きな解決が図られる。またそれだけでなく、専門調査員の専門性を高めていくことや

情報公開・不正のモニタリングもしていかなければならない。さらに、その独立性や緊張

関係になくてはならないために、公的機関や企業から資金援助がもらえず、資金調達につ

いても考えなければならない[功刀 2006:13]。 第三節 今後の可能性 ここから NGO へ期待や可能性について論じていく。本章はアドボカシー型 NGO につい

て述べてきたが、本節はこればかりに限らず、NGO 全体の課題としてとらえてほしい。 34 proposal 提案、提議、計画の意味

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新しい世界的立憲秩序 現在の国際秩序に対するオルタナティブ35として、この考え方を提示する。これは国家以

外の主体が、国際・国内の両レベルで、政治・経済・文化各面の政策決定に参加できると

いうものだ。そして、それに至るプロセスを考えるときに四つのレベルを設定している。「国

家間システム」「国連システム」「国際市民社会」「底辺社会」であり、NGOは「国際市民社

会」に属する。その上で武者小路が強調するのは、世界の大多数を占める「底辺社会」に

属する民衆(とそれを擁する前近代的農村地域)は、国際市民社会と極めて細いパイプ(少数の開発NGO)によって結ばれているにすぎないのであり、底辺社会が参加することによっ

て、世界の政治経済文化の変容と新しい国際秩序が形成される[武者小路公秀 1996:68]と述

べる。 武者小路案をもとに考えると、国際市民社会(=NGO)の役割は底辺社会とのパイプを太く

することが大事となる。NGO の本来持つものは、「市民」や「住民」、「農民」などの存在

であり、それが NGO の根っこである。だが、政府や国際機関を強く意識した組織でもある

がゆえに、政府と市民との間で、宙ぶらりんな存在と言ってもよい。これまでは、「参加・

強調型」「批判型」「対決型」など政府との関係で NGO を規定することが多かったが、NGOが自分たちは何者であるかを自己検証し、自己規定しようとするときには、「人びと」との

関係を軸に考えていくことが最も大事であろう。それは、NGO が真の「現場性」と「政治

性」を取り戻すことにつながるものである[藤岡 2006:58-59]。 コネクターとしての NGO への期待 グローバル問題の解決は、国際機関や政府、NGO の専管事項ではなくなってきている。

コネクターとしての NGO の位置づけを意識し、企業や政府、市民社会とうまく連携しなが

ら、大きく社会を動かしていくアドボカシーを実践していく NGO が増えるのではないかと

期待している[藤岡 2006:208-209]。 グローバル・ガバナンスへの取組み 公平さが失われる国際社会の中で、格差に歪む世界市場の中で、持続性が懸念されるグ

ローバル社会の中で、ガバナンス改善の可能性注目する。グローバル・ガバナンスとは、「個

人と機関、私と公とが、共通の問題に取り組む多くの方法の集まり」であり、「相反する、

あるいは多様な利害関係の調整をすることや、協力的な行動をとる継続的なプロセス」で

ある[グローバル・ガバナンス委員会 1995:28]。アムネスティインターナショナルやオック

スファムのような「権利ベースのアプローチ」や、グラミン銀行や BRAC のマイクロ・フ

ァイナンスによる「経済面、社会面のアプローチ」から公平性を追求していくことができ

る。また、個と全体をつなぐリーダーシップまたはオーナーシップも必要とされる。 紛争や自然災害に直面した際、短期的で迅速性や即効性が必要とされる場面でも NGO は

35 alternative 代案

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期待されている。逆に、中長期的な例えば、ジュビリー2000 で債務帳消しをしたことで長

い期間を要する教育や保健衛生などの分野へ資金を費やせるようになったこと等も NGOは可能にしてきた[功刀 2006: 226-237]。 ここまで、アドボカシー型 NGO を大まかに紹介し、期待されること、課題をのべてきた。

筆者は、アドボカシー型 NGO に最も必要なことは、政府と市民社会を結びつけることであ

ると考える。特に、市民社会の声を政府に主張することが最重要である。市民一人の声は

政府には届きづらいが、それが組織となれば社会を動かす力となる。そしてそれが、世界

中で注目されている問題を動かす原動力になる。次章はそのアドボカシー活動で、取り組

みと成果のプロセスを追って論じていく。 第三章 クラスター爆弾禁止条約の締結までのプロセス 本章では、実際に NGO がアドボカシーを行ったことで、国連決議に採択されたものをとりあげる。

クラスター爆弾禁止条約のプロセスを選んだ理由は、最新であったことと、非常に大きな取り組み

であったからである。まず、クラスター爆弾について簡単に説明する。 第一節 クラスター爆弾とは

クラスター爆弾(Cluster Bomb Unit) とは、ディスペンサーとよばれる本体から多数の子弾を

散布して、広範囲の目標を破壊する親子弾タイプの爆弾である。集束爆弾、CBUともいう。クラスタ

ー爆弾を投下して、一定の時間が経過すると信管36が作動してディスペンサーが上下に分離し、

遠心力などによって内部に収容していた多数の子弾を広範囲に散布する。ベトナム戦争当時は

「ボール爆弾」とよばれていた[Yahoo!百科事典HP 2010.1.8]。

対人クラスター爆弾であるCBU-58(760 ポンド)の場合、直径 3 インチの球形の子弾がディスペ

ンサーに 650 発入っている。子弾の中には 100 グラムの炸薬(さくやく)と多数の鋼球が充填(じゅ

うてん)されている。ディスペンサーから散布された子弾は地面に落ちると同時に爆発し、飛散する

破片と鋼球によって周辺の人員を殺傷する。近距離で被爆した場合、無数の破片によって人間が

立ち木に貼り付いてしまうともいわれている。多目的クラスター爆弾であるCBU-87(950 ポンド)の

ディスペンサーには、ビール缶サイズの子弾が 202 発入っている。散布された子弾は目標に弾着

すると同時に爆発し、成型炸薬弾頭が装甲を貫通する。さらにスチールケースと発火性物質(ジル

コニウム37)が飛散して目標を破壊し燃焼させる。米空軍のCBU-87 調達価格は 1 発当り約 1 万

4000 ドルである(1990 年時点)[Yahoo!百科事典HP 2010.1.8]。 一般的に散布された子弾の不発化率は約 5%といわれている。子弾が不発の場合、友軍地上

36 砲弾や爆弾に充填(じゅうてん)されている装薬を、希望の時刻あるいは希望の状況の

もとで爆発または発火させるための点火用装置。 37 zirconium 遷移元素の一つで、周期表第 4 族に属し、チタン族元素の一つ。

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部隊が進撃する際の障害物になり、また戦闘終了後に爆発して民間人に被害が発生する危険性

がある。コソボ、アフガニスタン、イラクでは不発弾の処理が問題になっている[Yahoo!百科事典

HP 2010.1.8]。

図 2 右が親爆弾で、左はその中の子爆弾。 [写真は http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/ 2009.1.10]

次に、クラスター爆弾を使用した国、被爆国、生産国、保持国を順に述べていく。 使用国 15 カ国 使用国:被爆国(被爆年)

1- アメリカ:ラオス(1965-1973)、ベトナム(1965-1975)、カンボジア(1969-1973)、グレナダ、

レバノン(1983)、イラク、クウェート、サウジアラビア(1991)、セルビア、コソボ、モンテネグ

ロ(1999)、アフガニスタン(2001-2002)、イラク(1998,2003-2006) 2- イギリス:フォークランド諸島 38 (1982)、セルビア、コソボ、モンテネグロ(1999)、イラク

(2003-2006) 3- オランダ:セルビア、コソボ、モンテネグロ(1999) 4- フランス:チャドに使った疑い(1986)、イラク、クウェート(1991) 5- セルビア:アルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア(1999) 6- ロシア :アフガニスタン (1979-1989)、チェチェニア 39 (1994-1996,1999)、グルジア

(2008.8) 7- グルジア:南オセチア(2008) 8- イスラエル:シリア(1973)、レバノン(1978,1982,1996,2006) 9- サウジアラビア:サウジアラビア(1991) 10- エリトリア:エチオピア(1998) 11- エチオピア:エリトリア(1990,1998-2000) 12- スーダン:南スーダン(1995-2000) 13- ナイジェリア:シエラレオネ(1997) 14- リビア:チャド(1987)

38 南米大陸南端の北東方にある英国の直轄植民地。1982 年に英国とアルゼンチン間で軍事

紛争が起こった。 39 ヨーロッパロシア南部カフカス山脈の北斜面に位置する共和国

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15- モロッコ:西サハラ(1975-1991) 16- NATO(北大西洋条約機構):ボスニア・ヘルツェゴビナ(1995-1999)、アルバニア(1999)

被爆国 36 カ国

アフガニスタン、アルバニア、アンゴラ、アゼルバイジャン、ボスニア・ヘルツェゴビナ、カンボジア、

チャド、チェチュニア、クロアチア、コンゴ民主共和国、エリトリア、エチオピア、フォークランド諸島、

グルジア、グレナダ、イラク、イスラエル、コソボ、クウェート、ラオス、レバノン、モンテネグロ、モロッ

コ、ナゴルノ・カラバフ40、ロシア、サウジアラビア、セルビア、シエラレオネ、スーダン、シリア、タジ

キスタン、ウガンダ、イギリス、ベトナム、西サハラ、ザンビア。詳細は以下参照。 1- セルビア・モンテネグロ・コソボ (1999.6)

1,392 弾=子爆弾 289.536(コソボのみの情報) 2- レバノン 2006

400 万以上の子爆弾が戦闘中の 72 時間に使われ、100 万を越す小爆弾は不発弾である。 3- イラク 1991-2006

およそ 5000 万の子爆弾が使われ、260 万から 600 万は不発弾である。 4- アフガニスタン 2001-2002

1228 弾=248.056 の子爆弾が使われた。 5- ラオス 1965-1973

414.920 弾=2 億 6 千万の子爆弾が使われ、そのうち 130 万~780 万は不発弾。 6- ベトナム 1965-1975

296,680 弾=約 9700 万の子爆弾が使われ、490 万~2900 万は不発弾。 7- カンボジア 1969-1073

80.173 弾=2600 万の子爆弾が使われ、130 万~780 万は不発弾。 生産国 34 カ国 アルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブラジル、チリ、中国、エジ

プト、フランス、ドイツ、ギリシア、インド、イラン、イラク、イスラエル、イタリア、日本、オランダ、北朝

鮮、パキスタン、ポーランド、ルーマニア、ロシア、セルビア、シンガポール、スロバキア、南アフリカ、

韓国、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、イギリス、アメリカ。 ※ イタリックは 2009 年現在でもクラスター爆弾生産の疑いがある国 保有国 85 カ国

アルジェリア、アンゴラ、アルゼンチン、アゼルバイジャン、オーストラリア、オーストリア、バーレー

ン、ベラルーシ、ベルギー、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブラジル、ブルガリア、カナダ、チリ、中国、

コロンビア、コスタリカ、キューバ、チェコ共和国、デンマーク、エジプト、エリトリア、エストニア、エチ

40 アゼルバイジャン南西部の自治州(Nagorno-Karabakh)

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オピア、フィンランド、フランス、グルジア、ドイツ、ギリシア、ギニア、ギニアビザウ、ホンジュラス、ハ

ンガリー、インド、インドネシア、イラン、イラク、イスラエル、イタリア、日本、ヨルダン、カザフスタン、

クウェート、リビア、マリ、モルドバ、モンゴル、モンテネグロ、モロッコ、オランダ、ナイジェリア、北朝

鮮、ノルウェー、オマーン、パキスタン、ペルー、ポーランド、ポルトガル、カタール、ルーマニア、ロ

シア、セルビア、シンガポール、スロバキア、スロベニア、南アフリカ、韓国、スペイン、スリランカ、ス

ーダン、スウェーデン、スイス、シリア、タイ、トルコ、トルクメニスタン、ウガンダ、ウクライナ、UAE、イ

ギリス、アメリカ、ウズベキスタン、イエメン、ジンバブエ[Cluster Munitions Coalition (2010.1.5) http://www.stopclustermunitions.org/the-problem/countries/]。 第二節 クラスター爆弾禁止に向けて 非人道性の告発

ジュネーブ条約第 1 加議定書の「戦闘員と民間字は区別する」「不必要な苦痛を与えてはならな

い」という国際人道法に抵触するとして、ICRCとNGOが被害の実態を訴える報告書を提出し、クラ

スター爆弾の使用禁止を求めるようになった。対人地雷やレーザー兵器(目つぶし兵器)などは

1980 年代の「特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)」41が成立したが、通常兵器は、兵器その

ものが問題なのではなく、使い方が問題であるとされてきた。こうした流れから、クラスター爆弾にお

いても、CCWにて制限されるだけでなく、包括的な禁止を求める国際世論が広まった。その理由

の一つには、1999 年に旧ユーゴで起きたジェノサイドにおいてNATOが大量のクラスター爆弾を

使用し、実質的に不発弾が残り、多くの民間人を傷つけたからである。これらのクラスター爆弾が巻

き起こす重大な実態を受け、問題意識を抱いたNGOは多数あり、調査報告書を発表し、非人道性

を訴えた[目加田 2009:51-53]。 政府間交渉の限界と、NGO と政府の協働

こうした NGO や ICRC の声を受け、CCW は何らかの対応をせざるを得なかった。だが、積極的

に禁止をしようとする諸国と、消極的な諸国に分かれ、最終的に 2003 年 11 月 28 日、約 3 年の歳

月を費やし、第 5 追加議定書として「爆発性戦争残存物に関する議定書」を採択した。ERW とは、

紛争後に取り残される砲弾や手りゅう弾などすべての不発弾や破棄弾の総称で、特定の兵器が使

用されることを規制・禁止することではなく、使用された後の国際協力の原則を定めたにすぎない。

しかも、除去の責任は、被害地域を支配する国にあるとされ、使用した国に責任は問われない。欧

米諸国は厳しい制限を求めたのに対し、米・露が「クラスター爆弾は有効な兵器」と反対したことか

ら、妥協策として、戦後被害の軽減措置に限定した内容に留まった。この議定書は 2006 年に発行

され、2009 年 8 月末現在の加盟国は 60 カ国[目加田 2009:53]。政府間の協議は妥協という形で

終わった。 41 Convention on Certain Conventional Weapons

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この事態を重く見たNGOは、「クラスター兵器連合(CMC)」42を 2003 年にオランダのハーグで

立ち上げた。だが、期待もむなしく、CCW第五議定書以降の進展はなく、2006 年夏、イスラエル

がレバノンをクラスター爆弾で攻撃した。条約を見直すために、CCWは五年に一度開催されるの

だが、同年11月に第三回が開かれ、オーストリア、アイルランド、メキシコ、ニュージーランド、スウェ

ーデン、バチカン市国の六カ国は、クラスター爆弾がもたらす非人道的被害には、法的拘束力が

必要だと、CCW内の政府専門家会合にて協議を始めた。だがまたしても、米・中・露の反対により、

新しい議定書づくりは先延ばしされた[目加田 2009:53-54]。 しかし、クラスター爆弾の禁止に賛同するくには確実に増えてゆき、上記 6 カ国のほか、独、伊、

ベルギー、ノルウェー、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ペルー、アルゼンチン、セルビア、スイス等 30 カ

国に及んだ。こうした状況を踏まえて立ち上がったのはノルウェーだった。ノルウェー外相ヨーナ

ス・ストレーは、2006 年 11 月「クラスター爆弾によってもたらされる苦しみに終止符を打つべく具体

的な方針を立てなければならない。幸い、国際的禁止に向けた機運が高まっている。・・・多くの諸

国で明確になった政治的意思を活かさなくてはならない。」と演説し、明確な行動方針を表した。さ

らに 2007 年 2 月にオスロで国際会議の開催を提案し、「クラスター爆弾の問題に緊急行動をとる

関心と意志を持った国々、そして国際機関や人道団体を招待する」と述べ、政府のみによる CCWとは別の枠組みで議論を進める考えを示した。ノルウェー政府は特定の兵器の禁止に向けて①

CCW で実現できなかったことから、有志国だけでも禁止を実現させるために、中堅国家がイニシ

アティブを取るべく立ち上がったこと、②問題解決に向けて新たな国際法の制定を呼びかけたこと、

③国際的気運の盛り上がりを好機ととらえ国際世論に呼びかけたこと、④条約作りに国際機関や

NGO との共同方式を選択した[目加田 2009:55-56]。これはカナダ政府が行った対人地雷禁止法

へ向けた努力と、共通点が多い。このオスロでの国際会議開催がのちのオスロ・プロセスとなり、ク

ラスター爆弾禁止条約へとつながっていく。次節で明らかにしていく。 第三節 オスロ・プロセス 第二節で論じてきたように、2006 年末からクラスター爆弾の禁止をめぐる国際社会の陸

みは CCW から新しい枠組みへ移行する動きが始まった。こうした政府間交渉を見据えなが

ら、実は NGO ネットワークである CMC は重症な仕掛けを始めていた。ここからは、新し

い枠組み作りであるオスロ・プロセスを会議ごとに状況を述べていく。 ロンドン会合の開催 CMCはCCWでの議論が遅々として進まないため、新しい仕掛けをする必要があると考え

ていた。そこで、この問題に関心を示しそうな諸国をCMCが拠点とするロンドンで非公式

な会合が行われた。(NGOは、公式な場では自由闊達に意見交換できない、本音で語り合え

ないと判断した場合、自らの主張に近いと思われる国々を招いて会合を開くことがある。)

42 2003 年に発足した NGO ネットワーク。現在 80 カ国、約 300 団体が参加。分野は多岐

にわたる。「正義・国際法・人間の安全保障・人権などの価値を重んじる」が共通項。

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この会合に参加した国々は、ノルウェー、ベルギー、リトアニア、スイス、スウェーデン、

オランダ、アイルランド、メキシコ、デンマークでいずれもクラスター爆弾の禁止に積極

的な国々であった。CMCからは、対人地雷問題に取り組んできた経験のあるNGOや、兵器

や国際法を熟知している専門家、政府関係者との距離の保ち方や駆け引きを熟知している

ベテランぞろいになった。この会合の目的は、個人の立場でクラスター爆弾の問題につい

て理解を深め、互いの認識を共有することにあった。したがって、参加者は団体や組織の

代表ではなく、「チャタムハウス・ルール43」という議事録を残さない方法で進行した[目加

田 2009:72-74]。 この会合の成果として、以下の合意が確認された。①クラスター爆弾は明確な人道問題として対

処すべき、②クラスター爆弾禁止への国際機運の高まり44、③クラスター爆弾は全廃が最善策であ

るということ、④この兵器に特化した国際法を制定するには、CCWの枠外のプロセスが必要である

こと、⑤志を同じくする中核国の必要性、⑥NGOと政府で共通の基盤が確立されつつあること、と

いう六つの点である。また、ノルウェー政府がこれらを主導するに相応しいと、皆が認識していた[目加田 2009:82-83]。 市民社会フォーラム(2007.2.) オスロ・プロセスの国際会議の前日に、CMC は「クラスター爆弾に関する市民社会フォーラム」を

開催し、多くの NGO やオスロ市民に参加を呼びかけた。この会議に参加した NGO は二つに大別

できた。一つは、ICBL を通して長年対人地雷の問題に取り組んできた人々。もう一方は、初めて

クラスター爆弾の問題に関わる人々の二つであった。このフォーラムには 35 カ国から 100 を超える

NGO、国際機構関係者、ICRC、政府の一部も参加した[目加田 2009:81-82]。市民社会フォーラ

ムは今後も各会議が始まる前日に開催されることが主流になっていき、各会議が円滑に、有意義

に進むように、必要不可欠な会合であった。 問題国への懸念 ①オスロ会議に参加予定であった 49 カ国の中でも、10~12 カ国は本心からこの条約を考えてお

らず、各国の会議への姿勢や発言に CMC は注視していく。②推進派諸国の意欲が十分とは言い

難い。③クラスター爆弾の定義の曖昧さによる保留国が多くなる可能性の高さであった。その上で、

オスロ会議の目的は、「政治的意思の確認・強化」であって、あくまで CCW の枠組み外で新しい条

約を作る必要があり、2008 年中に条約を成立させる政治的意思があることを確認することにある、

という共通認識に至った。問題国というのは、クラスター爆弾禁止と全く関わりたくないと考える米、

中、露、印、パ、イスラエルなどと、リップサービスで今回参加しているが実は急速な進展を望んで

いない英、蘭、日、加、豪などである[目加田 2009:82-84]。

43 発言者が特定できるような形での公式引用ではない規則。政府は個人の立場から発言で

きるよう、NGO との協議でよく行われる。 44 ベルギーでのクラスター爆弾国内法の成立やノルウェーの輸出凍結などから

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第一回 オスロ会議 (2007.2/22-23) 会議の初日は、ノルウェーを主導とし、CCW の枠外で条約交渉を歓迎する発言が相次いだ。た

だ独は、CCW を優先し、駄目だった場合はオスロ・プロセスを進めるという立場であった。これに仏、

英、伊、加が同調した。また、2008 年中に条約を作るというオスロ宣言については、その期限を問

題視する発言もあり、期限を外すべきとの意見も出た。しかし、ノルウェー政府やニュージーランド

政府は、CCW ではなくオスロ・プロセスを発展させていく意向を強く示した。初日が終了した時点

で、CMC は「これで条約の実現に向けたプロセスができる。しかもみのある条約ができそうだ」と評

価した。特に参加国の間で、「目標を共有している意識が芽生え確実に何かを成し遂げようと動き

出した」と評価した[目加田 2009:86-88]。 CMC のメンバーはコーヒーブレイクの最中でも知り合いの政府に最後までオスロ宣言を支持する

よう求めた。CMC は何カ国が著名するのか、見当がつかなかった。それだけに、緊張の面持ちの

中最終セッションが行われ、加、伊、英、独、仏の順に支持を表明した。結局、参加した 49 カ国中

賛成は 46 カ国で、日、ポーランド、ルーマニアの 3 国は不支持であった。日本が支持しなかったこ

とは大変残念なことであったが、欧州主要国からの賛成を得られたことは、CMC にとってオスロ・プ

ロセスへの弾みをつける上で極めて重要になった[目加田 2009:89-90]。 第二回 リマ会議 (2007.5/23-25) 第一回オスロ会議では、2008 年内に法的拘束力のある文書を採択することが決まったため、

いよいよ条約作りがスタートした。新たに 28 カ国が加わり、68 カ国45が出席した。その他、

様々な国際機関(UNICEF,UNDP等)やICRC、そしてCMCが顔をそろえた。この会議の目

的は、オタワ条約を参考にして、クラスター爆弾の禁止条約を骨格化するものであった。

議長案では六つの主要分野について話された。犠牲者支援、クラスター爆弾の除去、貯蔵

クラスター爆弾の破棄、国際協力と援助、透明性や遵守、手続きである[目加田 2009:96-98]。 同会議が行われる前日に、CMC 主催の市民社会フォーラムが前回同様開かれた。政府の

政策・見解・姿勢を CMC 内で常にメーリングリストなどで情報を共有した後、CMC の主

張とどう違うのかを分析し、反論を準備する時間とした。例えば、クラスター爆弾の国防

45 参加国:アンゴラ、ブルンジ、チャド、ガーナ、ギニア・ビサウ、レソト、リベリア、モーリタニア、モザンビーク、ナイジェリア、セネガル、タンザニア、ウガンダ、ザンビア。アルゼンチン、ボリビア、カナダ、チリ、コロンビア、コスタリカ、ドミニカ共和国、

ペルー、エクアドル、グアテマラ、メキシコ、パナマ、パラグアイ、ベネズエラ。オース

トラリア、ニュージーランド、インドネシア、日本、バングラディッシュ、カンボジア、

ラオス、タイ。アルバニア、オーストリア、ベルギー、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロ

アチア、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシア、

バチカン市国、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、リトアニア、ルク

センブルク、マルタ、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ロシア(オブザー

バー)、セルビア、スロバキア、スペイン、スイス、イギリス。エジプト、レバノン、イエメン。※イタリックは新規参加国。

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関係について検証がなされ、技術的で専門的な分野であるものの、CMC 傘下の NGO は事

前に勉強をし、熱心に取り組んでいる。そうでないと政府へのロビー活動で議論が成り立

たず、相手にしてもらえないことを熟知しているからだ。NGO の人々は、会議に参加する

度に専門知識を蓄積していき、オスロ・プロセスにおいても政府や国際機関ともきちんと

議論することが可能になっていった[目加田 2009:103]。

第三回 ウィーン会議 (2007.12/5-7) 参加国は前回会議の倍以上、138 カ国であった。また欧州委員会や米州機構、UNDP や国連

難民高等弁務官事務所(UNHCR)、ICRC といった国際機関からも代表国が参加した。今会議の

目的は、条約案について意見交換を進めることのみならず、条約締結に向けた国際的気運を盛り

上げることでもあった。ここでの成果は、前回会議をうけ、犠牲者支援を独立した条項として設ける

ことで合意したところにある。これに異論を唱えた国はなかった。また、次回ウェリントン会議での課

題も明確になり、一つは、クラスター爆弾の「定義」をめぐる問題である。さらに、ウェリントン宣言」が

採択される予定であるが、それに何カ国署名するかがカギとなっていた[目加田 2009:103-105]。 同会議で、主要国(英、日、独、スイス)は再三にわたって、米とイスラエルの主要生産・使用国が

条約に含まれないことで実効性が損なわれると主張した。しかし CMC は「生産・使用国でオスロ・

プロセスに参加していないのは、米、露、イスラエル、エリトリアの 4 カ国のみである。これらの国々

に拘るべきではない」と反論した[目加田 2009:10]。 第四回 ウェリントン会議 (2008.2/18-22) 会議を重ねるごとに参加国が増えていったが、その背景には、細かいことは後の交渉に委ねよう

とする意図があった。そのため今会議では、消極派は巻き返しを図ったため、厳しい交渉の場とな

った。政治的意思を表明する段階から、本格的な条約の内容を詰める内容に入っていき、会議は

一週間に及んだ。参加国は 103 カ国、国際機関や ICRC、CMC を含む総勢約 500 名が参加し

た。同会議の目的は、最終的なダブリン会議へのパスポートとなる「ウェリントン宣言」の署名と最終

交渉のたたき台となる条約の議長案に合意することだった。 同会議の進展は、開催地がニュージーランドという決して国際会議に好条件ではない土地にもか

かわらず、103カ国が参加をし、82カ国が「ウェリントン宣言」の著名をしたことである。また、議長案

は修正を繰り返したものの(後ほど説明)、「例外なき禁止」案が残ったことが進展といえる。遅々とし

ている CCW に比べて、オスロ・プロセスはスピードと、多くの諸国が参加したうえで条約採択に向

けて大きな一歩を踏み出した[目加田 2009:108-110]。 ウェリントン会議における条約議長案に関する主要な論点が三点ある。日、独、仏、加、豪、デン

マークが議長案に対して特に問題視した。一つめは、「移行期間46」である。日独英が提案したの

であるが、CMCは条約に同意するのに、なぜ「継続使用を法的に認める」ことができるのか、と強く

非難した。二つ目に、「同盟国等との共同作戦における相互運用性」。これは同盟関係にある国が、

46 条約が発効した後にも、一定の期間はクラスター爆弾の使用を認めるというもの。

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非締約国であった場合、支障をきたすという懸念から生じた提案である(米国を念頭に置いてい

た)。これに対しCMCは、同盟関係にある国々による使用は認める一方で、非政府軍や非同盟国

の使用を非難することはできない、ある特定の兵器が民間人に被害を及ぼすとして禁止されるなら

ば、あらゆる使用が禁止されるべきだと反論した。三つ目は定義の問題だ。日、独、仏、スイス等が

例外47を求めたのに対し、ノルウェーや途上国が議長案を支持した。CMCはこれまで通りの姿勢

で、技術的改善ではクラスター爆弾の非人道性は食い止められないことを説明した[目加田

2009:110-112]。 第五回 ダブリン会議 (2008.5/19-30) 今会議には 111 カ国の政府代表団が参加し、国際機関や ICRC、CMC が参加した。クラスター

爆弾禁止条約の締結に向けた最後の会議であったため、二週間を予定し、同会議の目的は条約

交渉であった。CMC は今回も事前に綿密な会合をし、特にクラスター爆弾の定義や移行期間に

ついて具体的な戦略を立てるとともに、地域別の分析や、今回のカギとなる各条項の個別対策も

進めた。また、最終的に条約採択の場面では数が意味を持つため、クラスター爆弾に関する知識

の乏しい途上国が、正しい判断を下せるよう、情報提供や説明も CMC は行った。 議論の争点は「定義」「移行期間」「相互運用性」であった。開催スタートから前半は、この三つに

関してお互いの立場を譲ろうとはせず、日独英などの主要先進国とそれ以外の国で意見の不一致

が起きていた。第一週が経とうとした頃、CMC は、CMC として譲れない線をどこに引くかであった。

安易に妥協せず高みを目指すことと、政府とやすやすと取引はしない、参加できない国は去れば

よいという強気な立場を示す一方、ギリギリの線についても暗黙の了解があった。 第二週は劇的な週となった。議長は「条約案をパッケージとして受け入れてほしい」と政府代表団

に求めた。加の政府代表団は「誰も要求が全て叶えられたわけではなく、結果として正しいバラン

スを実現した。このまま受け入れるようオタワに進言する」と発言。仏は「最高の妥協案だ」、伊は

「議長案をそのまま本国に推薦する」とし、問題国が次々と表明をした。ハイライトになったのは、英

国で「数時間前にブラウン首相が備蓄庫からクラスター爆弾を撤去することを決めた」と発言し、条

約案の支持を表明したのだ。日本も福田康夫首相の政治判断で条約を飲み込んだ。そして、五月

三十日の本会議、ダブリン会議はオカレイ議長が「クラスター爆弾禁止条約が採択しされました48」

と宣言し会議は終了した[目加田 2009:120-135]。 CMC は「オスロ条約は、世界への贈り物だ。真の受益者は、クラスター爆弾で四肢や命を奪われ

47 自己破壊装置がついたものや不発弾率の低い種類、目標認識誘導装置がついたもの等。 48 最終的に採択された条文では、加重方式による定義を採用。クラスター爆弾は「無差別

な地域的効果及び不発弾のリスクを防ぐために、次の全ての特徴を備えたものとする」と

し、五つの条件を列挙した。(ⅰ)子弾数が十個以下(ⅱ)子弾の重量が 4 キロ以上(ⅲ)単体目

標を識別・攻撃する機能付き(ⅳ)電子式自己破壊装置付き(ⅴ)電子式自己不活性化装置付き、

は例外化した。移行期間については、移行期間はなしという結果。相互運用性については、

非加盟国には条約参加を促し、非加盟国に使用を思いとどまらせるよう求めるという項と、

加盟国に禁止されている行為に携わる非加盟国と軍事協力や作戦を行うことを否定しない

などとした。

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ずにすむ何千人の市民だ」と総括した。アイルランドやニュージーランド、ノルウェーらの政府代表

者は「今回は、政府と市民社会の間に、すばらしいパートナーシップができた。皆さんの専門知識、

特に技術的な知識が条約成立に貢献した。このプロセスは終わりではなく、始まりである。」と CMCを評価した[目加田 2009:136-135]。牽引国の政治代表者に労をねぎらってもらったことが CMCにとって達成感や CMC 内の連帯感がとても高まったと筆者は思う。妥協案で終わるのかと思いき

や、当初の条約のまま採択されたことが、大きな意味のあることだろう。主要先進国の粘り強い主張

にも屈することなく、対等に反論していけたことが CMC の自信につながり、市民社会の強さも知る

こととなった。アドボカシー型 NGO の存在意義はそこにあると、改めて感じた。

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終章 筆者は高校生の時に、「ほっとけない、世界のまずしさ」のホワイト・バンドプロジェク

トがきっかけで、世界の 3 秒に 1 人は飢えで死んでしまうということに衝撃を受けた。そ

こで世界の貧困に目を向け始め、経済学ではなく国際学を学びたいと思い、特に NGO 活動

について興味を持った。こうして世界の貧困問題のみならず、今まで知ることのなかった

世界の問題に関心を寄せる若者は多くいたと思う。まずは、あらゆる国際問題を知るとい

うこと、興味・関心を持って行動してみること、この点においてアドボカシー型 NGO は有

効であると考える。 アドボカシー活動ないし、NGO 活動は、いかなる市民でも参加できる。まず特定の問題

に対して疑問を投げかけ、その問題について一緒に活動してくれる市民や NGO を募り、一

つの活動団体として、政府や国際機関に意見を出す。そして、社会の共通利益となるよう

活動する。ただ、連携をしていかなければならない相手が、政府や国際機関であるため、

NGO には情報の正確さや専門知識・技術において、ビハインドがある。そのため市民や

NGO は常に情報収集に努め、国境を超えたネットワーク、さらに専門知識や技術面を勉強

しなければならない。この部分が NGO の課題であろう。クラスター爆弾禁止条約で大活躍

の、CMC(クラスター兵器連合)はただならぬ努力をし、また本当に市民のために力を尽く

そうとする熱意があった。NGO も本気となれば、主要先進国とも対等に議論できるという

ことが世界に証明されたと思った。 また、同条約に向け、積極的に参加したのは欧州諸国であり、アフリカや中南米諸国は

被害を食い止めようと参加したとみてもよい。先日開催された COP15(気候変動枠組み条

約)においても、同等なことが言える。我が日本は、会議に顔を出すものの、先進主要国の

顔色をうかがい立場を表明する。各国の経済状況や政治的思惑があるのは当然だが、大国

こそが、参加を表明し、全世界の利益のために、リーダーシップを発揮していってほしい

と願う。同条約は、文書化し、署名・捺印を集める会議ではないことから、これからが始

まりであり、完全なる撤廃に向けて一層の努力を要し、米・中・露などの大国に参加を促

すことも必要であると考える。 最後に、NGO はグローバルな諸問題解決の新しいアクターとして期待するのは古い。現

在は、政府や国際機関と協働し、国際公益となる行動をとることが NGO に求められている

と筆者は考える。特に、公益の部分では NGO などの非営利目的な要素が不可欠であるため、

NGO がよい働きとなるであろう。また、主にアドボカシー型の NGO について主に述べて

きたが、サービス提供型 NGO も同じことが言える。わたしたちは、行動するのは有志の市

民団体 NGO というとらえ方ではなく、地球市民全員が、地球市民社会において守るべくも

のを守らなくてはならない。地球市民が行動する場が NGO であり、NGO には、世界を変

える原動力、さらにはグローバル・ガバナンスも期待できると筆者は考える。

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参考文献 朝日新聞「地球プロジェクト 21」(1998)『市民参加で世界を変える』朝日新聞社 グローバル・ガバナンス委員会(1995)『地球リーダーシップ 新しい世界秩序を目指して』

日本放送出版協会 藤岡美恵子・越田清和・中野憲志 (2006)『国家・社会変革・NGO』新評論 今田克司・原田勝弘(2004)『国際協力 NGO』日本評論社 功刀達朗・毛利勝彦(2006)『国際 NGO が世界を変える―地球市民社会の黎明―』東信堂 馬橋憲男 (1998)『ハンドブック NGO』明石書店 目加田節子(2009)『行動する市民が世界を変えた』毎日新聞社 武者小路公秀(1996)『転換期の国際政治』岩波書店 大橋正明(1995)『恵泉女学園大学人文学部紀要第七号』 重田康博(2005)『NGO の発展の軌跡』明石書店 若井晋・三好亜矢子・生江明・池住義憲 (2001)『学び・未来・NGO』新評社 HP Indian NGO.com (2009.2.2) http://indian.ngos.com/ NGO-JICA Japan desk (2009.7.7) http://www.jicaindiaoffice.org/ Stop Cluster Munitions (2010.1.5) http://www.stopclustermunitions.org/the-problem/countries/ Voluntary Organization Database (2009.2.2) http://pcserver.nic.in/ngo/ Yahoo! Japan 百科事典 (2010.1.8) http://100.yahoo.co.jp/detail/

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