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研究レポート No.211 November 2 004 消費に関する所得効果の非対称性 主任研究員 長島 直樹 富士通総研(FRI)経済研 究所

No.211 November 2004 - Fujitsu · 1 過去の実績データで現状を説明する傾向は、ルーカス批判後も一般的であり、データ制約による致し 方ない面もある。しかし、この限界を等閑視し、過去データに基づく実証分析を思考実験など他の手法よ

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研究レポート

No.211 November 2004

消費に関する所得効果の非対称性

主任研究員 長島 直樹

富士通総研(FRI)経済研究所

Page 2: No.211 November 2004 - Fujitsu · 1 過去の実績データで現状を説明する傾向は、ルーカス批判後も一般的であり、データ制約による致し 方ない面もある。しかし、この限界を等閑視し、過去データに基づく実証分析を思考実験など他の手法よ

消費に関する所得効果の非対称性

富士通総研 長島 直樹

要旨 「消費に関する所得効果には非対称性がある」との仮説から、アンケート調査を用いた

実証分析を試みた。この結果、消費の所得弾性値は、所得減少時で約 1 であるのに対して、

所得増加時は 0.5 未満であると推定された。弾性値を規定する要因を分析した結果、所得変

化に対する「反応の有無(消費を増減させるか否か)」と、反応する消費者のうち「反応の

程度(どの程度消費を増減させるか)」ではそれぞれ規定要因が異なっていることが確認さ

れた。また、所得増加に対する反応と所得減少に対する反応ではやはり規定要因が異なり、

現在観察される反応の非対称の原因になっていると推察される。特徴的なのは、①所得減

少のケースでは、所得のダウンサイドリスクが重要な役割を演じ、所得減少に対する消費

減少率を増幅していること、②所得増加のケースでは、供給要因(過去 1 年で欲しいと思

うような商品・サービスが現れた)が重要で、この供給要因があると所得増加に対する消

費の反応を活発化することである。よって現在、所得弾性に非対称性が観察される背景に

は、ダウンサイドリスクが依然として大きい反面、供給要因が不十分であることが示唆さ

れる。 目次 1.はじめに 3.所得効果を規定する要因 2.所得効果の非対称性 3.1 CHAID 分析の考え方 2.1 調査方法について 3.2 分析結果 2.2 観察される非対称性 4.所得効果の計量分析 2.3 属性別の違いとマクロの弾性値 5.結論とインプリケーション ― ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 本稿の作成に当たり、岩村充(早稲田大)、渡辺努(一橋大)の両教授よりいただいた有益なコメントに感

謝したい。なお、残された誤りはもちろん筆者の責任である。

1

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1.はじめに

個人消費の動向が今後の成長持続性に大きく影響するという見方が増えている。数年来、

所得と消費がともに落ち込む過程では“将来不安”に注目が集まり、「消費の底割れを止め

るには将来不安の解消が急務」との認識が広がった。しかし、雇用情勢の好転とともに、 賃金や雇用に対する不安は2002年末近辺をボトムとして徐々に和らいでいる。この様子は、

例えば日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」によって確認できる。 年金不安などは依然色濃く残るものの、将来不安が若干和らぎ始めた現在、消費の見通

しに関する論調で主流を占めるのは、「今後の消費は所得動向次第」というものである。し

かし日本のような成熟経済においては、所得が増加時の所得効果はそれほど大きくない可

能性が高い。この観点から、本稿は「消費に関する所得効果は、所得増加と所得減少のケ

ースで非対称であり、前者は後者を下回る」という仮説を検証しようとするものである。 旧来は、ラチェット効果といったものが指摘され、いったん達成された消費水準は、一

時的な所得の減少に対してあまり反応しないと言われた。上記の仮説はこのラチェット効

果とは逆の状況である。 これに関連する先行研究では、岡田・鎌田(2004)がある。同研究は Zeldes(1989)を

理論的背景として、消費の所得効果が日本において近年鈍化している背景を分析している。

これは経済の成熟化に伴って時系列的な変化の中で観察される現象として世の中の実感と

整合的である。経済の成熟化は消費の規定要因をより複雑にし、所得の役割は相対的に小

さくなっていくと考えられる。しかし、所得効果の鈍化では、単に消費が所得変化に対し

てロバストになったということに過ぎない。これに対して、所得効果の非対称があると、

所得が増加しても消費はそれほど伸びない一方、所得減少には敏感に反応するという不安

定さをもたらす。一部の企業経営者がしばしば表明する「消費はすでに飽和してしまって

いる」という認識も、こうした背景を捉えた現場の実感と見ることも可能である。 非対称性を重視した議論で代表的なものは、Kahneman(1979)の Prospect Theory で

あろう。同理論が提示する価値関数は、参照点を比較基準として損失回避を示す。所得が

変化するという文脈では、人々が一定の所得増加に対して感じる効用の増加は、同額・同

率の所得減少に対して感じる効用の減少よりも小さくなると解釈される。このため、人々

は所得減少に対しては、所得増加以上に過敏に反応し、それが消費行動に現れると考える

ことができる。 本研究の目的は、「所得が増えるときの消費の増え方と所得が減るときの消費の減り方に

非対称性があるか」、現在の日本の状況について示唆を得ることである。ただ、所得効果の

非対称は、ラチェット効果が想定するような一時的な所得変化ではなく、恒常所得に関し

て検証されてこそ意義深い。恒常所得の変化に対する弾性値を、所得増加と所得減少のケ

ースで比較し、さらに違いがあるとすれば、それぞれどのような要因が所得変化に対する

反応を規定しているのか探索を試みる。

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もちろん、通時的・普遍的な現象として検証することは事実上不可能である。また、発

展段階にある経済では、むしろラチェット効果の方がより実情を反映している可能性が高

い。本稿はあくまで、現在の日本の状況についての分析である。こうした目的から、分析

で用いたデータの多くは 2003 年 11 月に独自に実施したアンケート調査結果である。 本稿の構成は以下の通りである。2 節ではアンケート調査から観察される所得効果の非対

称性について検討する。3 節では所得効果の規定要因を探る。この結果に基づいて、4 節で

は所得効果に関する計量分析を行なう。最後に、5 節で結論をまとめ、インプリケーション

を考察する。 2.所得効果の非対称性

2.1 調査方法について

所得変化に対応して消費者・家計がどの程度消費を変化させるかは、アンケート調査

(2003 年 11 月に実施)に拠った。アンケートを用いた理由は、主に既存の公式統計を用

いることの限界によるものである。具体的には、①所得が継続的に減少している期間はご

く限られており、所得増加時の弾性値に対して所得減少時の弾性値を推定するのは困難で

ある、②そもそも所得変化の実績から恒常所得を抽出するためには、技術的な制約が大き

い――という問題がある。 ただ、アンケート調査では「所得が変化したと仮定すると、消費をどうするか」という

状況想定に立った質問になる。これをもって、現実の行動との乖離を問題視し、公式統計

など実績データを重視すべきという立場もある。しかし、実績値はあくまでも過去の実績

値であり、現在あるいは今後の行動を示しているとは限らない。したかって、上記①、②

のような問題が解消されたとしても、実績値を使うべしとする論拠は乏しいと思われる1。 調査に関する説明は補足 1 に記載する。具体的には、図表 1 のような仮想的な質問を行

ない、恒常所得の変化に対する消費支出額の変化を所得増加・所得減少で対照的に尋ねて

いる。マクロの所得弾性値であれば、1%の所得変化に対する消費の変化率だが、アンケー

トに答える個々の消費者は、「1%の変化」では現実感がなく、「その程度の所得変化では消

費支出を変えることはない」という答えが大半を占めると考えた。逆に、例えば 30%増加

など、あまりに大きな所得変化も現実感が乏しくなるため、10%の変化に対する反応を尋

ね、考え得る範囲内で被験者に一種の思考実験をしてもらうことにした。 また、「所得の変化が今後 5 年間続くこと」を恒常所得の変化とした根拠は、「所得見通

しのタイムスパンが、せいぜい 5 年内外である」ことによる。これは、富士通総研が 2002

1 過去の実績データで現状を説明する傾向は、ルーカス批判後も一般的であり、データ制約による致し

方ない面もある。しかし、この限界を等閑視し、過去データに基づく実証分析を思考実験など他の手法よ

りも優れていると考えるなら、それは方法論に関する先入観であろう。

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年 11 月に実施したアンケート調査結果によって示される。図表 2 は年齢層別にタイムスパ

ンの平均値を示している。通常は、余命の長い若年層ほどタイムスパンが長くなると考え

られるが、調査結果は概ね逆である。現実には、将来を見通す計画・予測期間は、余命の

長さ(の期待値)よりも、これまで生きてきた長さと正の相関がありそうである。 (図表 1) 恒常所得の変化に対する消費支出額の変化:アンケートの質問から <恒常所得の増加に対する消費の反応を尋ねる質問>

あなたの家計の手取り年間収入が今後 5 年間にわたって 10%増えると、1 年間の消費額は現在と比べ

てどの程度増えると思いますか。商品・サービスの価格は変わらないと仮定します。8 割ぐらい確か

らしいと思われる区間をご記入ください。 1.( )%~( )%程度消費額が増えると思う 2. 消費額は影響を受けないと思う <恒常所得の減少に対する消費の反応を尋ねる質問>

あなたの家計の手取り年間収入が今後 5 年間にわたって 10%減ると仮定します。1 年間の消費額は現

在と比べてどの程度減ると思いますか。商品・サービスの価格は変わらないと仮定します。8 割ぐら

い確からしいと思われる区間をご記入ください。 1.( )%~( )%程度消費額が減ると思う 2. 消費額は影響を受けないと思う

(出所)富士通総研アンケート調査(2003 年 11 月実施)

(図表 2)所得見通しのタイムスパン

0

1

2

3

4

5

6

20~24 25~29 30~34 35~39 40~44 45~49 50~54 55~59 60~64 65~69

Span1Span2

(歳)

(年)

(出所)富士通総研アンケート調査(2002 年 11 月実施)

(注)「何年ぐらい先まで所得見通しを持ったり、予測したりしますか」の質問で、選択肢は「1. 1~3年未満、2. 3~5 年未満、3. 5~10 年未満、4. 10 年超、5. 計画や見通しなし」。グラフは選択肢

の区間中央値の平均。ただし、計画なしは 0 年、10 年超を Span1 では 10 年、Span2 では 15 年

とみなしている。

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2.2 観察される非対称性

アンケートによる質問の結果、10%の可処分所得増加に反応して消費を増やす家計(先

の質問で“1”を選択した家計・消費者)は 4 割強にとどまる一方、同じだけの所得減少に

反応して消費を減らす家計は 7 割強に達することが判明した。このことは、図表 3、4 にお

いて示される。 (図表 3)所得増加に対する反応の有無(確率)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

消費増加 影響なし

(%) (42.5%)     (57.5%)

(出所)富士通総研アンケート調査(2003 年 1 月実施) ( 注)以下、断わりのない限り図表の出所は上記アンケート調査結果の加工による。

(図表 4)所得減少に対する反応の有無(確率)

0

10

20

30

40

50

60

70

80

消費減少 影響なし

(%)

(73.9%)      (26.1%)

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図表 3、4 は反応の有無を表したものだが、反応の程度も含めて表すと、図表 5、6 のよ

うなヒストグラムが得られる。この中に、「反応しない」サンプル(先の質問で“2”を選

択した家計・消費者)も 0 として分布に含まれている。 10%の可処分所得増加に対する消費増加率は平均 5.1%、10%の可処分所得減少に対

する消費減少率は平均 10.9%(異常値を除けば約 10.0)。弾性値はそれぞれ約 0.5、約

1.0 となり、非対称が観察される。所得増加に対する反応は所得減少に対する反応より

も鈍く、半分程度である。 (図表 5)可処分所得 10%増加に対する消費の増加率

図表

800

6)可処分所得 10%減少に対する消費の減少率

9080706050403020100

700

600

500

400

300

200

100

0

標準偏差 = 11.99

平均 = 5

有効数 = 1017.00

(度数)

800

(%)

9080706050403020100

700

600

500

400

300

200

100

0

)

(度数

6

標準偏差 = 15.41

平均 = 11

1017.00効数 =

%)

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2.3 属性別の違いとマクロの弾性値 ると、マクロでみた弾性値は前述のものとは

違いはいずれも有意にはならない。

図表 7)恒常所得の変化に対する消費変化率

400 95 者層はこれらの

3. のp値は通常の分散分析(F検定)による。 966 っており、被験者全体(1,017 人)

.所得効果を規定する要因

3.1 CHAID 分析の考え方 度を規定するか」に関して確立した理論はない。一般には、

utomatic Interaction D

恒常所得増加に対する反応 恒常所得減少に対する反応

ただ、所得階層による反応の違いを考慮す

異なる数字になる。図表 7 は所得階層ごとに反応の平均を比較したものである。所得減少

に対する反応では、所得階層間の違いが有意でないが、所得増加に対する反応では有意な

差があり、高所得者層で反応が鈍いことがわかる。このため、所得増加に対するマクロの

弾性値は 0.5 よりも小さくなる。 なお、性別や年齢層による反応の

(注)1. 恒常所得の変化とは、家計の可処分所得が 5 年間継続的に 10%増減する状況。

平均値 標準偏差 平均値 標準偏差

     低所得者層 5.02 11.29 12.17 15.46

     中間所得者層 5.88 13.66 10.46 14.97

     高所得者層 3.05 6.37 10.01 16.19

     合計 5.23 10.85

所得階層間の差のp値 0.043 0.255

2. 低所得者層は家計年収が 万円未満、高所得者層は同 0 万円以上、中間所得

中間を表す。

所得階層間の差

4. 合計欄は、所得の質問に答えた被験者( 人)の平均値にな

の平均とは若干の乖離がある。

「何が所得効果の有無や程

費者・家計の経済状況(所得・資産状況)、将来見通し(所得リスクなど)、その他の家

計の属性(年齢、家族構成、性格など)が影響すると考えられる。 そこで、反応を規定する要因に関して、CHAID(Chi-Square Aetection)による変数探索を行なう。これによってわかることは、①ある目的変数(ここ

では所得変化に対する反応)の説明変数としてどのような変数が有力か、②該当する目的

変数の値・確率を大きくする(小さくする)グループはどのような属性を持ったグループ

か――の 2 点である。説明変数の候補として、図表 8 のような変数群を使って探索を行な

った。

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(図表 8) 探索した変数群一覧:説明変数の候補 (所得・資産・負債)

・ 所得(家計の年収):9 段階のカテゴリー

・ 金融資産保有額:実際の金額

・ 住宅ローン残高(年収の何倍か):5 段階のカテゴリー

(将来の所得リスク・不安・不確実性)

・ 1 年後、3 年後の所得減少の可能性:現在を 100 としたときの下限(%)

・ 1 年後、3 年後の所得予測区間幅:現在を 100 としたときの幅(%)

・ 変動性ダミー(3~5 年後に所得変動は激しくなると思うか否か)(ダミー)

・ 不確実性ダミー(将来の所得変動性について見当がつかないか否か)(ダミー)

・ 雇用不安の有無(ダミー)

・ 賃金不安(賃金やボーナスが将来下がる不安)の有無(ダミー)

・ 健康不安(自分や家族が病気になるという不安)の有無(ダミー)

・ 増税不安(増税や社会保障費負担増への不安)の有無(ダミー)

・ 年金不安(年金受け取りの減額に対する不安)の有無(ダミー)

(その他の家計属性)

・ 年齢層(20~60 代):5 段階のカテゴリー

・ 職業:10 カテゴリー

・ 子供の有無(ダミー)

・ 同居家族人数:実際の数字

・ 自分の性格の自己評価(楽天的か否か、悲観的になりやすいか否か、気長か否か、

せっかちか否か、行動力があるか否か、思慮深いか否か)(ダミー)

・ ライフステージ(最近 1 年間で結婚、出産、子供の進学、転職、転居、子供の独立

などでライフステージが変化したか否か)(ダミー)

・ 供給要因の有無(最近 1 年間で欲しい商品・サービスが出たか否か)(ダミー)

(注)調査票での質問の詳細は長島(2004)を参照

3.2 分析結果 CHAID による分析で、所得増加・所得減少に対する消費の反応を規定する要因を探索す

る際に、「反応しない」サンプルを反応 0 として一括して扱う方法(以下、一括法という)

と、「反応の有無」、「反応の程度」を分けて分析する方法(以下、個別法という)がある。

一括法は、「反応の有無」と「反応の程度」を規定する要因が同一であることを暗黙に仮定

していることになる。その結果に基づいて計量モデルを推計するならば、Tobit モデルが最

も標準的な定式化になる。一方、個別法は、「反応の有無」と「反応の程度」を規定する要

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因が異なるという前提に立っている。適用される計量モデルは、Davidson et.al.(1993)等が推奨する Sample Selection モデルになる。どちらの方法が優れているかは先験的には

決まらず、分析結果を見て判断するしかない。 CHAID 分析を両方の方法で試行した結果、「反応の有無」と「反応の程度」を規定する

要因は異なることが示唆された。また、一括法で CHAID 分析を実施し、その結果得られた

変数を使って Tobit モデルを推定した結果も、モデルの妥当性は疑わしいという結果になっ

た。したがって、ここでは、個別法に基づく分析結果を示す。なお、一括法による結果は、

補足 2 に、Tobit モデルによる結果は末尾の補論に示す。 個別法の CHAID による決定木(Decision Tree)は補足 3 に添付するが、得られた結果

は以下の用に要約することができる。 (1) 所得増加効果に影響する変数と所得減少効果に影響する変数は異なる。また、「反応」「非反応」

に影響する要因と、「反応する」グループの中で「反応の程度」を規定する要因とは大きく異なっ

ている。

(2) 所得増加に対する「反応の有無」を規定する変数で重要なものは、「単身世帯か否か」、「子供の数」

(以上をまとめて「同居家族人数」)、「金融資産保有額」、「将来所得に対する不確実性の有無」、

「所得変動リスク」、「供給要因」等である。結果として、反応確率の高い(10%の所得増加に対

して消費を増やす確率の高い)属性は、「子供が 2 人以上いて、将来所得に関する不確実性がなく

供給要因がある(欲しい商品・サービスがある)家計」、「単身世帯」、「子供が 2 人以上いて、将

来所得に関する不確実性はあるが、性格は楽天的と自己判断する消費者」となった。

(3) 所得減少に対する「反応の有無」を規定する変数で重要なものは、「住宅ローン残高」、「単身世帯

か否か」、「子供の数」(以上 2 要因をまとめて「同居家族人数」)、「年齢層」、「健康・年金不安」

である。結果として、反応確率の高い(10%の所得減少に対して消費を減らす確率の高い)属性

は、「住宅ローン残高が年収の 2 倍超の 30 代、50~60 代家計」、「住宅ローン残高は年収の 2 倍以

内だが健康・年金不安の大きい家計」、「単身者世帯」である。

(4) 所得変化に「反応する」グループの中で、反応の程度を規定する要因は、増加と減少で共通点が

大きく、「ダウンサイドリスク」、「所得変動リスク」等、経済リスク要因が重要である。所得増加

効果・減少効果とも、両リスクが大きいグループの方が反応の度合いも大きい。このほか、所得

増加効果は「住宅ローン残高が年収の 3 倍超」だと小さく、所得減少効果は「50~60 代家計」で

小さいことがわかる。

4.所得効果の計量分析

CHAID 分析の個別法に基づいて Sample Selection モデルを推定した。具体的には

Heckman の 2 段階推定を実行した。前節に記載した分析結果のうち、(2)、(3)は「反

応の有無」を規定する要因を示唆している。最初のステップとして、これらを説明変数と

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して、Probit モデルを推定する。次に、Probit モデルの推定パラメーターで評価した逆ミ

ルズ比(ハザード比)を各サンプルについて求める。最後に、(4)から示唆される説明変

数、及び上記で求めた逆ミルズ比を説明変数として、「反応の程度」を推定する。推定方法

は補足 4 に記載する。得られた推定結果を解釈すると、図表 9 のようになる。 なお、推定結果の詳細2は、図表 10(所得増加に対する反応)、図表 11(所得減少に対する

反応)に示す。 (図表 9)所得変化に対する消費の変化を規定する要因:推定結果の整理

 「消費を増やす」確率に影響する要因 消費を増やす消費者中、 消費増加率に影響する要因

促進要因・供給要因があること・単身世帯であること・楽天的であること

・所得予想の区間幅が広いこと(所得変動を現実感をもって受け入れて いること)

抑制要因・家計の年収が950万円以上であること・家計の年収が400万円未満であること・将来所得に不確実性を感じること

 「消費を減らす」確率に影響する要因 消費を減らす消費者中、 消費減少率に影響する要因

促進要因・住宅ローンの残高が、年収の2倍超 あること

・所得予想に関して減少する可能性(ダウンサイドリスク)を大きく感じていること)

抑制要因 ・60代であること

<10%の可処分所得増加に対して>

<10%の可処分所得減少に対して>

(出所)筆者による解釈をもとに整理した。 (注) 図表 10、11 に示した推定結果に基づいて、有意水準 5%で統計的に有意な要因を記載した。

2 Probit モデル、Heckman 推定とも、原則として CHAID 分析の結果得られた説明変数を採用している

が、それでも統計的に有意でない変数は除外している。また、所得増加に対する反応の有無では、せっか

ちな性格だ(と自己判断する)と、やや反応確率が増す傾向が見られたので、「せっかちダミー」を加えて

いる。さらに、補論に記載した Tobit モデルの推定と同様、説明力を高めるために、所得増加への反応に

は PERMDN0(所得減少への反応)、所得減少への反応には PERMUP0(所得増加への反応)を説明変数

として加えた。この結果、所得増加への反応では「所得予想の区間幅」が、所得減少への反応では「所得

のダウンサイドリスク」が有意になった。推定結果を見ると、所得増加のケースも所得減少のケースも共

通して、逆ミルズ比が統計的に有意でない。これは、Sample Selectivity Bias が生じておらず、「反応する」

サンプル、すなわち Probit モデルの被説明変数が 1 のサンプルだけを用いて、効果を推計しても結果は有

効であることを示している。実際に、説明変数から逆ミルズ比を除外して OLS を実行しても、推定パラメ

ーターの p 値、決定係数等の統計量はほとんど変わらない。言い換えれば、所得増加・所得減少いずれの

ケースでも、「反応の有無」と「反応の程度」はお互いに別の変数によって規定される独立した現象であり、

別々に推定することが可能であることがわかる。

10

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(図表 10)所得増加に対する反応を説明するモデル

従属変数:10%の所得増加に対する消費増加の有無(反応は1、無反応は0)

説明変数 パラメーター推定値 標準誤差 z 値 p 値定数項 -0.290 0.073 -3.990 0.000単身世帯ダミー 0.366 0.157 2.329 0.020不確実性ダミー -0.201 0.115 -1.736 0.083供給要因ダミー 0.454 0.151 3.016 0.003楽天派ダミー 0.232 0.082 2.834 0.005せっかちダミー 0.183 0.095 1.926 0.054低所得層ダミー -0.238 0.101 -2.349 0.019高所得層ダミー -0.298 0.123 -2.428 0.015

サンプル数 981「反応(=1)」のサンプル数 415「無反応(=0)」のサンプル数 566Mean dependent var 0.423S.E. of regression 0.487Sum squared resid 230.783Log likelihood -650.270Restr. log likelihood -668.310LR statistic (7 df) 36.080Probability(LR stat) 0.000Akaike info criterion 1.342Schwarz criterion 1.382

所得増加に対する反応の程度(Heckman の2段階推定)

従属変数:10%の所得増加に対する消費増加率(反応なしは0とする)

説明変数 パラメーター推定値 標準誤差 t 値 p 値定数項 3.821 3.800 1.005 0.3151年後所得の予想区間幅 0.176 0.033 5.293 0.000所得減少への反応度 0.603 0.038 15.886 0.000逆ミルズ比 -3.159 3.917 -0.806 0.421(注) 1年後所得の予想区間幅は現在の所得水準を100としたときの80%信頼区間の「上限-下限」

R-squared 0.417Adjusted R-squared 0.413S.E. of regression 12.537Sum squared resid 62559.7Log likelihood -1584.9Durbin-Watson stat 2.469Mean dependent var 12.580S.D. dependent var 16.358Akaike info criterion 7.905Schwarz criterion 7.945F-statistic 94.881Prob(F-statistic) 0.000

11

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12

(図表 11)所得減少に対する反応を説明するモデル 従属変数:10%の所得減少に対する消費減少の有無(反応は1、無反応は0)

説明変数 パラメーター推定値 標準誤差 z 値 p 値定数項 0.658 0.055 11.961 0.000住宅ローンダミー 0.336 0.122 2.757 0.00660代ダミー -0.283 0.099 -2.861 0.004

サンプル数 996「反応(=1)」のサンプル数 736「無反応(=0)」のサンプル数 260Mean dependent var 0.739S.E. of regression 0.436Sum squared resid 188.412Log likelihood -562.321Restr. log likelihood -571.850LR statistic (2 df) 19.058Probability(LR stat) 0.000Akaike info criterion 1.135Schwarz criterion 1.150

所得減少に対する反応の程度(Heckman の2段階推定)

従属変数:10%の所得減少に対する消費減少率(反応なしは0とする)

説明変数 パラメーター推定値 標準誤差 t 値 p 値定数項 8.008 2.785 2.875 0.004ダウンサイドリスク 0.181 0.049 3.685 0.000所得上昇への反応度 0.600 0.044 13.780 0.000逆ミルズ比 2.680 6.207 0.432 0.666(注) ダウンサイドリスク:「現在の所得レベル(100)-1年後所得の80%信頼区間の下限」で計算

R-squared 0.226Adjusted R-squared 0.223S.E. of regression 14.423Sum squared resid 146646.9Log likelihood -2896.2Durbin-Watson stat 2.089Mean dependent var 15.310S.D. dependent var 16.361Akaike info criterion 8.181Schwarz criterion 8.207

-statistic 68.712Prob(F-statistic) 0.000F

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5.結論とインプリケーション 本研究から得られた主要なファインディングを整理すると以下のようになる。 ① 消費の所得弾性値は、消費者・家計の意識から判断すると、所得減少時で約 1 であるの

に対して、所得増加時は 0.5 未満であると推定される。 ② 全消費者の中で、所得変化に対する「反応の有無」を規定する要因と、所得変化に反応

する消費者の中で「反応の程度」を規定する要因は異なる。また、所得増加・所得減少

のケースでそれぞれ異なっている。 ③ 所得増加に対する消費の反応を促進する要因として注目されるのは、供給要因(欲しい

商品・サービスが現れること)であり、不確実性(所得変動の予測不可能性)は反応を

抑制する。一方、所得減少に対する反応は、所得のダウンサイドリスクによって増幅さ

れることが示唆される。 ①で示した非対称性に関しては、流動性制約が影響している可能性もある。確かに、所

得減少に対する反応では、住宅ローンの残高が年収の 2 倍超であると、消費減少の確率が

高まっており(図表 9)、流動性制約によって消費を抑制せざるを得ない状況が一部に起こ

っていると推測される。しかし、もう少し詳しく見ると、住宅ローンの状況と所得変化へ

の反応の関係は図表 12 のようになる。 (図表 12)住宅ローンの残高と所得変化に対する反応

(注)1. ローンなしのケースには、もともとないケースと完済したケースが含まれる。 2. 住宅ローンの状況による反応の差異は、所得増加・所得現象のケースとも統計的に有意でない。 (F 検定のp値は所得増加のケースで 0.925、所得減少のケースで 0.423 となる)

図表 12 によると、年収の 2 倍を超える住宅ローン残高がある家計は、同残高が年収以内、

及び 1~2 倍の家計に比べて所得減少に対する反応が大きいことがわかる。しかし、住宅ロ

ーン残高がない(もともとない、あるいは完済した)家計は、所得減少に対する反応が最

となっており、流動性制約の含意とは矛盾している。もっとも、これらの差異は統計的

平均値 標準偏差 平均値 標準偏差

ローンなし 4.21 8.12 13.39 17.56

残高は年収以内 4.59 7.00 8.78 11.22

年収の1~2倍 5.49 11.60 10.94 16.95

年収の2~3倍 5.67 15.58 13.08 19.26

年収の3倍超 5.54 11.84 12.21 15.32

10%所得増加に対する消費増加率(%) 10%所得減少に対する消費減少率(%)

13

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に有意でなく、住宅ローンの状況と所得弾性は概ね無関係と考えても差し支えはない。い

ら流動性制約を見るならば、これが所得増加時の所

弾性を抑制している、あるいは所得減少時の所得弾性を増幅している事実を統計的に検

につ る反応では高所得者において

とい

平 ような成熟経済では、所得効果の非対称をもたら

由と

アン

らし の理由を尋ねている。右側にある「減らしている」理由を見

と、多い順に、「年金・社会保険の給付が少なくなる不安」、「将来の仕事や収入の不安」

因)、「将来所得が増えると見込まれる」(期待

得要因)となる。このように、消費を「減らす理由」と「増やす理由」は異なっている。

(図表 13)消費増加・消費減少の理由の違い

ずれにせよ、住宅ローン負債の観点か

出することは困難である。 また、2 節の図表 7 に示した通り、所得階層別に弾性値をみると、所得減少に対する反応

いて所得階層間で有意な差がない一方、所得増加に対す

反応が鈍い様子が見て取れる。この事実も、反応の非対称の背景として流動性制約がある

うだけでは説明が難しい。 均的に豊かな消費者を擁する日本の

しているもっと根本的な問題がありそうである。参考になるのは、家計が消費を増やす理

減らす理由が全く異なるという事実である。図表 13 は日本銀行の「生活意識に関する

ケート調査」(2004 年 6 月実施)からの引用である。消費を「増やしている」か「減

ているか」に続いて、そ

と将来不安が並び、次に「実際に収入の頭打ち・減少」という所得要因が来る。その後、

また「増税・社会保障負担の引き上げに対する不安」と、将来不安が続く。 これに対して、左側の「消費を増やしている」理由をみると、「たまたま大きな支出項目

があった」が 1 位、次いで「欲しい商品やサービスがある」(供給要因)が 2 位になってい

る。その下が、「所得が増えている」(所得要

質問「1 年前と比べて、あなた(またはご家族)の支出をどのようにしていますか」(○は1つ)。

増やしている(7.0%) 変わらない(50.7%) 減らしている(42.2%)

問 8-a. 支出を増やしているのはなぜですか。 問 8-b. 支出を減らしているのはなぜですか。 (○はいくつでも) (○はいくつでも)

(55.9) たまたま大きな支出項目があった (60.2) 年金・社会保険の給付が少なくなる

( 9) 収入が増えているから (56.7) 将来の仕事や収入の不安から ( 3.5) 将来、収入が増えると見込まれる (40.1) 収入の頭打ちや減少から ( 3.0) 購入した株式や債券などの金融 (39.6) 増税や社会保障負担の引き上げ

資産が値上がりしたから に対する不安から

(34.7) 欲しい商品やサービスがあるから との不安から 12.

19 2004 6

(出所)日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」(第 回、 年 月調査)

14

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冒頭で述べたような、消費の先行きを所得次第とする見方だけでは不十分であることが

容易に推察できる。すなわち、消費の減少を止めるためには、将来不安の軽減が重要であ

る一方、所得が増えるためには供給要因の充実が重要であることがうかがえる。 「消費は所得次第」という考え方は、戦後から高度経済成長の時期にかけて投資主導成

られる。むしろ「消費が経済を主導する」状況を先

Carroll C., Weil D., 1993 ”Saving and Growth: A Reinterpretation” 1993 NBER Working Paper No.4470, National Bureau of Economic Research

Davidson and Mackinnon, 1993, “Estimation and Inference in Econometrics” Oxford University Press 1993, pp.542~545

Kahneman, D. and Tversky, A. 1979 “Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk” Econometrica, 47 Vol.2, March 1979, pp263~291

長 2004 ic Review Vol.8 No.4, Oct.20 4 日

岡 論によるわ

新堂 精士 「消費における供給要因の重 」 研究レポート No.150

eldes, S. P. 1989, “Optimal Consumption with Stochastic Income: Deviation from Certainty Equivalence,” Quarterly Journal o con May 198 pp.273-298

を続けた時代には適合度が高かった。消費の増加はあくまで経済成長とそれに伴う所得

増加の結果であり、消費の伸び率は成長率を下回る傾向にあった。しかし、所得増加の結

果として消費が増加することがすでに限界に達している現状では、消費自身が経済全体に

対する影響力を高めつつあるとも考え

・成熟経済のあるべき姿として受け入れても良いのではなかろうか。事実、日本を除く

多くの先進国は、消費の成長率が経済成長率を上回る傾向にある。日本経済がこうした形

態に移行するには、企業努力によって消費需要を喚起すること、すなわち供給要因が重要

になってこよう。そのためには規制改革を始めとする環境整備が必要である。 もちろん、個別の消費分野の拡大は他の分野の縮小を伴うものであり、代替的な側面も

ある。しかし、新堂(2001)が指摘するように、消費者がある消費分野の支出を増やすこ

とによって、一定部分は消費の純増となることも実証している。ただ、この点に関する研

究の蓄積は少ないため、今後の検討課題としたい。 また、近年の貯蓄率低下を不安視する論調も多い。ただ、高貯蓄率が高成長を実現する

のか、逆に高成長が高貯蓄率に繋がるかについては見方が分かれる。米国に関して、例え

ば Carroll et.al.(1993)は後者の因果関係を実証している。この点に関しても、特に日本

に関する研究が待たれる。 <参考文献>

島 直樹 「知覚リスクと消費態度」FRI 『Econom 』 0本銀行 2004 年「生活意識に関するアンケート調査」(第 19 回)

http://www.boj.or.jp/ronbun/04/ron0407a.htm 田 敏裕、鎌田 康一郎 2004『低成長期待と消費者行動:Zeldes-Carroll 理が国消費・貯蓄行動の分析』日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.04-J-2 2003 要性 FRI

Zf E omics, 9,

15

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i

<補足1> アンケート調査の概要 (1) 調査目的と方法

アンケート調査は「家計の消費・貯蓄行動の実際」と題し 3 部構成になっている。調査

対象はクリエイティブ・アシスト社1の消費者パネルから、全国の家計で、首都圏(東京都、

神奈川県、埼玉県、千葉県)、近畿圏(大阪府、兵庫県、京都府)から各 33%、他の地域か

ら 34%を抽出している。各家計で“消費や貯蓄の意思決定において主導的な役割を果たし

ている方、あるいはその配偶者”に回答を依頼している。回答者の年齢層は 20 歳以上 69歳以下とし、20 代、30 代、------、60 代それぞれの年齢階層について約20%ずつの構成比

となるように割付を行なっている。すなわち、地域で割り付けた後、年齢で割り付け、そ

の後に無作為抽出を行なう層化無作為抽出法をとっている。方法は郵送方式とし、郵送数

1500、回収数は 1017人(世帯)、回収率は 67.8%となった。 アンケートの構成は、第 1 部に続いて、住宅ローン残高・住宅資産・株価と消費の関連

を探っている第 2 部、家計の職業状況と個別消費品目の関連を尋ねている第 3 部が続いて

いる。最後に家計や回答者に付いて尋ねた「フェースシート」を付加している。 (2) 母集団特性と標本特性

本格的な社会調査は、アンケートの実施に先立って住民基本台帳からのサンプル抽出か (図表 A) 標本抽出の際の母集団特性

1 東京都新宿区高田馬場 4-10-8

年齢構成 家計年収の分布(構成比、%) 同居人数(構成比、%)未婚 既婚 合計 300万円未満 9.7 1人 2.4

男性 0~5歳 2,550 0 2,550 300~500万円未満 25.1 2人 15.16~11歳 2,960 0 2,960 500~700万円未満 29.7 3人 24.812~14歳 1,118 0 1,118 700~1,000万円未満 18.0 4人 36.315~17歳 849 0 849 1,000万円以上 14.3 5人 14.218~19歳 450 12 462 不明 3.2 6人 5.120歳代 1,320 613 1,933 合計 100 7人 1.830歳代 353 4,171 4,524 8人 0.240歳代 148 3,520 3,668 9人~ 0.150歳代 54 1,754 1,808 合計 10060歳代 53 947 1,00070歳以上 38 426 464計 9,893 11,443 21,336

女性 0~5歳 2,424 0 2,4246~11歳 2,757 0 2,75712~14歳 1,034 0 1,034 職業状況(構成比、%)15~17歳 783 2 785 全体 男性 女性18~19歳 463 13 476 フルタイム有職者 29.0 50.8 7.820歳代 1,496 1,074 2,570 自営業 3.9 5.4 2.430歳代 309 5,150 5,459 農林漁業 0.2 0.3 0.240歳代 106 3,091 3,197 自由業 1.0 1.8 0.350歳代 72 1,653 1,725 パート等 6.6 0.2 12.860歳代 48 906 954 無職 21.2 2.3 39.570歳以上 37 614 651 学生・乳幼児 37.6 39.0 36.2計 9,529 12,503 22,032 不明 0.5 0.3 0.7

総計 19,422 23,946 43,368 合計 100 100 100

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ii

ら始めるが、本調査は消費者モニターを母集団としている。そこからのサンプル抽出にな

るため、標本の代表性に関する検討が必要である。このようなケースで広く採用されてい る検討方法は、調査で得られた標本の特性を点検し、他の代表的な調査の標本特性と大き く異なっていなければ偏りは少ないと判断することである。もし、異なっていればその理

由を吟味し、結果の解釈に際して留意することが必要になる。しかし、本調査では母集団

の特性も明らかになっており、その要約は図表 A に示される。年齢、所得、職業等は国勢

調査などと比較して際立った隔たりはない。基本的な属性の分布からみる限り、母集団は

全国の平均的な家計、消費者を表しているといってよさそうである。 次に、こうした母集団から抽出したサンプルの特性を点検してみよう。回答者の年齢区

分は 20~60 代まで、それぞれ約200 サンプルに制御(層別抽出)しているので、ここでは、

家計の世帯人数、所得、資産についての分布特性を示す。世帯人数は 1~9 人まで最頻値 4人を中心に分布しており、平均は 3.39 人である。これは、例えば日本銀行の金融広報中央

委員会による「家計の金融資産に関する世論調査」2とほぼ一致する結果である。また、家

計調査には含まれない、単身世帯も標本中 1 割弱含まれている。 図表 B は家計の年収の分布を示している。構成比が最も大きい区分は 550~750万円で、

70 歳以上の高齢者世帯を含めていないため、各種調査よりも若干高い。ただ、対応する年

齢階層に限れば、全国消費実態調査、家計調査などとほぼ等しい。上記の金融広報中央委

員会の調査とも類似した分布になっている。図表 C は年齢区分ごとの所得分布を示したも

のである。低所得者層は家計の年収が 400 万円未満、中間所得者層は 400~950 万円、高

所得者層は 950万円以上を意味している。全体では、低所得者層27%、中間所得者層 58%、 (図表 B) 家計年収の分布

2 標本は全国から 400 地点を選び、住民基本台帳をもとに約 6000 世帯を層化 2 段階無作為抽出する本格的な社会調査である。

家計年収

2000万円

1500~2000万

1200~1500万

950~1200万

750~950万

550~750万

400~550万

300~400万

300万円

未満

パー

セント

30

20

10

0

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iii

(図表 C) 年齢区分ごとの所得階層構成比

高所得者層 15%である。50代までは年齢階層が上がるにしたがって高所得者の割合が増え、

60 代で低下する。こうした観察結果、及び分布は代表的な社会調査と共通している。 金融資産の分布は図表 D、図表 E のようになる。年齢階層別にみると、高齢になるほど

平均値、ばらつきともに大きくなることが確認できる。 以上、確かめてきたような傾向は各種調査によっても確認されることであり、本調査の

母集団が特に傾向的な偏りを持っていないことがわかる。すなわち、世帯人数、所得、資

産といった指標から、本調査のサンプルは一般的な消費者を表しており、標本の代表性を

保っていると言える。 (図表 D) 金融資産保有額の平均値 (図表 E) 金融資産保有額のばらつき(標準偏差)

低所得者層 中間所得者層 高所得者層 合計20代 46.6 42.3 11.0 10030代 13.4 80.2 6.4 10040代 11.8 69.4 18.8 10050代 13.7 57.8 28.4 10060代 47.6 42.3 10.1 100平均 26.8 58.3 14.9 100

年齢層:10歳刻み

60代50代40代30代20代

金融資産保有額(不明は×)の平均値

1200

1000

800

600

400

200

0

年齢層:10歳刻み

60代50代40代30代20代

金融資産保有額(不明は×)の標準偏差

1800

1600

1400

1200

1000

800

600

400

200

0

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<補足2> CHAID による決定木(Decision Tree):Tobit モデル推定のための変数探索 (1)所得増加に対する反応

ノード 0

平均値標準偏差n%予測

511

1017100

5

.0740

.9869

.00

.0740

ノード 2

平均値標準偏差n%予測

1022747

10

.6757

.8177

.28

.6757

ノード 6

平均値標準偏差n%予測

6146156

.8443

.8407

.00

.8443

ノード 10

平均値標準偏差n%予測

1324181

13

.3889

.5450

.77

.3889

ノード 9

平均値標準偏差n%予測

46

4344

.1047

.6892

.23

.1047

ノード 5

平均値標準偏差n%予測

2840131

28

.6538

.5125

.28

.6538

ノード 1

平均値標準偏差n%予測

410

943924

.6344

.5815

.72

.6344

ノード 4

平均値標準偏差n%予測

613

272266

.0055

.4619

.75

.0055

ノード 3

平均値標準偏差n%予測

49

671654

.0786

.1131

.98

.0786

ノード 8

平均値標準偏差n%予測

39

618603

.8677

.0682

.77

.8677

ノード 7

平均値標準偏差n%予測

69

5356

.5377

.3628

.21

.5377

ノード 12

平均値標準偏差n%予測

59

4145

.1341

.0471

.03

.1341

ノード 11

平均値標準偏差n%予測

119

121

11

.3333

.1833

.18

.3333

対恒常所得増

来年所得予想区間幅調整済み P - 値=0.0004, F 値=17.7154, 自由度=1,1015

>20

同居家族人数調整済み P - 値=0.0067, F 値=11.1517, 自由度=1,72

>1

行動力・実行力がある調整済み P - 値=0.0246, F 値=5.3237, 自由度=1,59

該当非該当

<=1

<=20,<欠損値>

変動性ダミー(q3)調整済み P - 値=0.0337, F 値=6.4553, 自由度=1,941

将来所得変動大,<欠損値>将来所得変動小

供給要因(選択予想)調整済み P - 値=0.0406, F 値=4.2103, 自由度=1,669

非該当該当

健康不安調整済み P - 値=0.0425, F 値=4.3302, 自由度=1,51

非該当該当

iv

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v

(2)所得減少に対する反応

ノード 0

平均値標準偏差n%予測

1015

101710010

.8643

.4132

.00

.8643

ノード 2

平均値標準偏差n%予測

1318

2842713

.9278

.6920

.93

.9278

ノード 6

平均値標準偏差n%予測

1620

1501416

.3400

.6507

.75

.3400

ノード 5

平均値標準偏差n%予測

1115

1341311

.2276

.8675

.18

.2276

ノード 8

平均値標準偏差n%予測

1724424

17

.3095

.4044

.13

.3095

ノード 7

平均値標準偏差n%予測

88

9298

.4511

.6476

.05

.4511

ノード 10

平均値標準偏差n%予測

67

5756

.7807

.8887

.60

.7807

ノード 9

平均値標準偏差n%予測

119

353

11

.1714

.2386

.44

.1714

ノード 1

平均値標準偏差n%予測

913

733729

.6774

.7698

.07

.6774

ノード 4

平均値標準偏差n%予測

1115

1671611

.6527

.5649

.42

.6527

ノード 3

平均値標準偏差n%予測

913

566559

.0945

.1521

.65

.0945

対恒常所得減

変動性ダミー(q3)調整済み P - 値=0.0002, F 値=15.7930, 自由度=1,1015

将来所得変動大

賃金不安調整済み P - 値=0.0211, F 値=5.3763, 自由度=1,282

該当非該当

家計年収調整済み P - 値=0.0411, F 値=9.5662, 自由度=1,132

>550~750万円,<欠損値><=550~750万円

増税不安調整済み P - 値=0.0172, F 値=5.8908, 自由度=1,90

非該当該当

将来所得変動小,<欠損値>

気が長い調整済み P - 値=0.0348, F 値=4.4718, 自由度=1,731

該当非該当

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<Decision Tree からわかること>

・ 候補の諸変数のうち、所得増加に対する反応の規定要因として重要と思われる変数

は、①1 年後所得の予想区間幅、②同居家族人数、③行動力・実行力がある(と自

己判断する)か否か、④変動性ダミー、⑤供給要因の有無、⑥健康不安の有無――

である。 ・ 10%の所得増加に対して消費増加率の高いグループは以下になる(消費増加率の全

体平均は 5.1%)。 1 位:1 年後所得の予想区間幅が大きい単身世帯(28.7%) 2 位:1 年後所得の予想区間幅が大きく、単身世帯ではないが、行動力・実行力が

ある(と自己判断している)消費者(13.4%) 3 位:1 年後所得の予想区間幅が小さく、所得変動が大きくなるとは考えておらず、

供給要因があり、健康に不安を持つ消費者(11.3%) ・ 候補の諸変数のうち、所得減少に対する反応の規定要因として重要と思われる変数

は、①変動性ダミー、②賃金不安の有無、③家計の年収、④増税不安の有無、⑤子

供の人数、⑥気長である(と自己判断する)か否か――である。 ・ 10%の所得減少に対して消費減少率の高いグループは以下になる(消費減少率の全

体平均は 10.9%)。 1 位:将来所得の変動激化を予想し、賃金不安のない、年収 750 万円超の世帯

(17.3%) 2 位:将来所得の変動激化を予想し、賃金不安のある世帯(16.3%) 3 位:将来所得の変動激化は予想しないが、気が長い(と自己判断している)消費

者(11.7%)

vi

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<補足3> CHAID による決定木(Decision Tree):Heckman 推定のための変数探索 (1)所得増加に対する「反応の有無」

カテゴリ % n消費増加 42.47 420影響なし 57.53 569合計 (100.00) 989

ノード 0

カテゴリ % n消費増加 45.89 229影響なし 54.11 270合計 (50.46) 499

ノード 3

カテゴリ % n消費増加 29.87 23影響なし 70.13 54合計 (7.79) 77

ノード 8

カテゴリ % n消費増加 45.71 16影響なし 54.29 19合計 (3.54) 35

ノード 18カテゴリ % n消費増加 16.67 7影響なし 83.33 35合計 (4.25) 42

ノード 17

カテゴリ % n消費増加 48.82 206影響なし 51.18 216合計 (42.67) 422

ノード 7

カテゴリ % n消費増加 47.04 183影響なし 52.96 206合計 (39.33) 389

ノード 16

カテゴリ % n消費増加 52.24 105影響なし 47.76 96合計 (20.32) 201

ノード 24カテゴリ % n消費増加 41.49 78影響なし 58.51 110合計 (19.01) 188

ノード 23

カテゴリ % n消費増加 69.70 23影響なし 30.30 10合計 (3.34) 33

ノード 15

カテゴリ % n消費増加 36.17 149影響なし 63.83 263合計 (41.66) 412

ノード 2

カテゴリ % n消費増加 35.50 71影響なし 64.50 129合計 (20.22) 200

ノード 6

カテゴリ % n消費増加 25.00 15影響なし 75.00 45合計 (6.07) 60

ノード 14カテゴリ % n消費増加 40.00 56影響なし 60.00 84合計 (14.16) 140

ノード 13

カテゴリ % n消費増加 23.33 7影響なし 76.67 23合計 (3.03) 30

ノード 22カテゴリ % n消費増加 44.55 49影響なし 55.45 61合計 (11.12) 110

ノード 21

カテゴリ % n消費増加 48.04 49影響なし 51.96 53合計 (10.31) 102

ノード 5カテゴリ % n消費増加 26.36 29影響なし 73.64 81合計 (11.12) 110

ノード 4

カテゴリ % n消費増加 14.29 6影響なし 85.71 36合計 (4.25) 42

ノード 10カテゴリ % n消費増加 33.82 23影響なし 66.18 45合計 (6.88) 68

ノード 9

カテゴリ % n消費増加 53.85 42影響なし 46.15 36合計 (7.89) 78

ノード 1

恒常所得増への反応

同居家族人数P 値=0.0013, カイ 2 乗値=13.2262, 自由度=2

>3

不確実性ダミー(q3)P 値=0.0022, カイ 2 乗値=9.4123, 自由度=1

不確実性大

予測区間幅の大小(1年後)P 値=0.0056, カイ 2 乗値=7.6897, 自由度=1

区間幅:大,<欠損値>区間幅:小

不確実性小,<欠損値>

供給要因(選択予想)P 値=0.0124, カイ 2 乗値=6.2477, 自由度=1

非該当

性格:楽天的P 値=0.0338, カイ 2 乗値=4.5056, 自由度=1

該当非該当

該当

(1,3]

金融資産保有額:3分割(不明は0)P 値=0.0044, カイ 2 乗値=10.8453, 自由度=2

>資産中(100~500万),<欠損値>

所得減少可能性(1年後)P 値=0.0422, カイ 2 乗値=4.1271, 自由度=1

>15<=15,<欠損値>

高所得ダミーP 値=0.0355, カイ 2 乗値=4.4192, 自由度=1

高所得者層その他

(資産少(~100万),資産中(100~500万)]<=資産少(~100万)

低所得ダミーP 値=0.0239, カイ 2 乗値=5.1053, 自由度=1

低所得者層その他

<=1

vii

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(2)所得減少に対する「反応の有無」

カテゴリ % n消費減少 73.90 736影響なし 26.10 260合計 (100.00) 996

ノード 0

カテゴリ % n消費減少 82.97 229影響なし 17.03 47合計 (27.71) 276

ノード 2

カテゴリ % n消費減少 75.96 79影響なし 24.04 25合計 (10.44) 104

ノード 7カテゴリ % n消費減少 87.21 150影響なし 12.79 22合計 (17.27) 172

ノード 6

カテゴリ % n消費減少 70.42 507影響なし 29.58 213合計 (72.29) 720

ノード 1

カテゴリ % n消費減少 79.82 87影響なし 20.18 22合計 (10.94) 109

ノード 5カテゴリ % n消費減少 66.54 356影響なし 33.46 179合計 (53.71) 535

ノード 4

カテゴリ % n消費減少 61.09 168影響なし 38.91 107合計 (27.61) 275

ノード 9カテゴリ % n消費減少 72.31 188影響なし 27.69 72合計 (26.10) 260

ノード 8

カテゴリ % n消費減少 85.94 55影響なし 14.06 9合計 (6.43) 64

ノード 11カテゴリ % n消費減少 67.86 133影響なし 32.14 63合計 (19.68) 196

ノード 10

カテゴリ % n消費減少 84.21 64影響なし 15.79 12合計 (7.63) 76

ノード 3

恒常所得減への反応

住宅ローンの状況P 値=0.0001, カイ 2 乗値=16.3019, 自由度=1

>年収の1~2倍

年齢層:10歳刻みP 値=0.0160, カイ 2 乗値=5.8032, 自由度=1

40代;20代60代;50代;30代

<=年収の1~2倍,<欠損値>

同居家族人数P 値=0.0004, カイ 2 乗値=15.4204, 自由度=2

>4(1,4]

健康・年金不安の大小P 値=0.0060, カイ 2 乗値=7.5525, 自由度=1

不安小不安大

所得減少可能性(3年後)P 値=0.0050, カイ 2 乗値=7.8765, 自由度=1

>27<=27,<欠損値>

<=1

viii

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ix

(3)所得増加に対する「反応の程度」

ノード 0

平均値標準偏差n%予測

1216

41410012

.4644

.1596

.00

.4644

ノード 2

平均値標準偏差n%予測

1520

1553715

.0774

.2042

.44

.0774

ノード 4

平均値標準偏差n%予測

1824801918

.5625

.6777

.32

.5625

ノード 3

平均値標準偏差n%予測

1113751811

.3600

.1243

.12

.3600

ノード 6

平均値標準偏差n%予測

96

52129

.1827

.1437

.56

.1827

ノード 5

平均値標準偏差n%予測

1621235

16

.2826

.3386

.56

.2826

ノード 1

平均値標準偏差n%予測

1012

2596210

.9006

.9537

.56

.9006

対恒常所得増

所得減少可能性(1年後)P 値=0.0108, F 値=6.5656, 自由度=1,412

>10

予測区間幅の大小(3年後)P 値=0.0261, F 値=5.0486, 自由度=1,153

区間幅:大区間幅:小,<欠損値>

住宅ローンの状況P 値=0.0298, F 値=4.9137, 自由度=1,73

>年収の2~3倍,<欠損値><=年収の2~3倍

<=10,<欠損値>

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ノード 0

平均値標準偏差n%予測

1516

72010015

.3458

.3350

.00

.3458

ノード 2

平均値標準偏差n%予測

1314

4506213

.6756

.3807

.50

.6756

ノード 4

平均値標準偏差n%予測

1616991316

.5303

.8227

.75

.5303

ノード 8

平均値標準偏差n%予測

2021557

20

.4636

.2618

.64

.4636

ノード 7

平均値標準偏差n%予測

115

446

11

.6136

.7231

.11

.6136

ノード 3

平均値標準偏差n%予測

1213

3514812

.8704

.5315

.75

.8704

ノード 6

平均値標準偏差n%予測

105

901210

.3167

.7633

.50

.3167

ノード 5

平均値標準偏差n%予測

1315

2613613

.7510

.2341

.25

.7510

ノード 1

平均値標準偏差n%予測

1818

2703718

.1296

.8567

.50

.1296

対恒常所得減

ダウンサイドリスク大小(1年)P 値=0.0004, F 値=12.7515, 自由度=1,718

ダウンサイドリスク小,<欠損値>

変動性ダミー(q3)P 値=0.0252, F 値=5.0468, 自由度=1,448

将来所得変動大

年齢層:10歳刻みP 値=0.0086, F 値=7.1926, 自由度=1,97

30代;40代;20代60代;50代

将来所得変動小,<欠損値>

30代ダミーP 値=0.0377, F 値=4.3521, 自由度=1,349

30代その他

ダウンサイドリスク大

x

(4)所得減少に対する「反応の程度」

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<補足4> Heckman 推定について ・「反応」「非反応」を説明する変数と、「反応の程度」を説明する変数が異なるため、通常

の Tobit モデルが使えないとき、Sample Selectivity が起きていると考えて以下のように

定式化することができる。

22

**

)(,1)(,),(,1

,0

)(':)()(

)()(

0;01,

σεερσρσ

ρσε

γγφ

εγγφ

ρσβ

γ

===

Φ+

Φ+=

=>=+=

ttttt

t

t

tt

t

ttt

tttttt

VarvVarvCorrNidv

ratioHazardratiosMillsinverseWW

WWXy

otherwisezZifzvWZ

対数尤度は、

[ ]∑ ∑ ∑= = = −

−+Φ+

−+−Φ=

0 1 12

))1

/)((ln())(1ln())(ln(ln

i i iZ Z Z

tttttt

XyWXyWL

ρ

σβργσ

βφ

σγ

と表される。 ・ このとき、まず Zt に関する Probit モデルを推計する。 ・ 次に、その推定パラメーター( )で評価した逆ミルズ比(inverse Mill’s ratio)

γ̂

)ˆ()ˆ(γγφ

t

t

WW

Φ を yt を推計する説明変数群 Xt に加えて説明変数として用いて、OLS

を実行する。これによって、βの不偏推定量を得ることができる。 ・ 実行した推定結果では、逆ミルズ比が統計的に有意でない(所得増加のケースも所

得減少のケースも共通)。これは、Sample Selectivity Bias は生じておらず、「反応

する」サンプル(Probit モデルの被説明変数が 1 のサンプル)だけを用いて、効果

を推計しても結果は有効であることを示している。実際に、説明変数から逆ミルズ

比を除外して OLS を実行しても、推定パラメーターと統計量(p 値、決定係数)

はほとんど変わらない。 (注)上記モデルの表現は以下の文献に従った。

Davidson and Mackinnon, “Estimation and Inference in Econometrics” Oxford University Press 1993 , pp542~545

xi

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<補論> Tobit モデルの推定結果 1. モデルの概要 CHAID による変数探索の結果をもとに、Tobit モデルによって、「所得増加に対する反応」、

「所得減少に対する反応」の推定を行なう。すなわち、(1) 所得増加に対する反応を、①1年後所得の予想区間幅、②同居家族人数、③行動力・実行力がある(と自己判断する)か

否か、④変動性ダミー、⑤供給要因の有無、⑥健康不安の有無――の説明変数で説明する

モデル、(2) 所得減少に対する反応を、①変動性ダミー、②賃金不安の有無、③家計の年収、

④増税不安の有無、⑤子供の人数、⑥気長である(と自己判断する)か否か――の説明変

数で説明するモデルである。 (1) 所得増加に対する反応を説明するモデルで使用する変数は以下の通りである。

・ 従属変数=恒常所得 10%増加に対する消費の増加率(%):PERMU0 ・ ①1 年後所得の予想区間幅:VARYD1E ・ ②同居家族人数:F5 ・ ③行動力・実行力がある(と自己判断する)か否か:F15_M11 ・ ④変動性ダミー:HENDODUM ・ ⑤供給要因の有無:Q8_2_M5 ・ ⑥健康不安の有無:Q1_2_M3

(2) 所得減少に対する反応を説明するモデルで使用する変数は以下の通りである。 ・ 従属変数=恒常所得 10%減少に対する消費の減少率(%):PERDN0 ・ ①変動性ダミー:HENDODUM ・ ②賃金不安の有無:Q1_2_M2 ・ ③家計の年収:F9 ・ ④増税不安の有無:Q1_2_M4 ・ ⑤子供の人数:NCHILD ・ ⑥気長である(と自己判断する)か否か:F15_M5

以上の説明変数を用いて、10%の所得増加・所得減少に対する反応(弾性値)を推定す

る。所得増加を説明するモデル A、B、所得減少を説明するモデル C、D の 4 通りのモデル

を推定した。推定結果の概要は以下の通りである。

xii

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<モデル A>:所得増加に対する反応 ①1 年後所得の予想区間幅、②同居家族人数、③行動力・実行力がある(と自己判断する)

か否か、④変動性ダミー、⑤供給要因の有無、⑥健康不安の有無――のうち、①、④、

⑤だけが 5%水準で有意。決定係数がほとんど 0 で、モデルの説明力は非常に弱い。 <モデル B>:所得増加に対する反応: モデル A の結果に、PERNDN0(所得減少に対する反応)を説明変数として加える。所

得減少への反応をコントロールしても有意になるのは、①1 年後所得の予想区間幅、⑤供

給要因の有無――の 2 要因。以上が所得増加に対するときに影響し、非対称な反応を生

み出す一因となっていると考えられる。 <モデル C>:所得減少に対する反応 ①変動性ダミー、②賃金不安の有無、③低所得ダミー、④高所得ダミー、⑤増税不安の

有無、⑥子供の人数、⑦気長である(と自己判断する)か否か――のうち、①、②、⑦

だけが 5%水準で有意。決定係数がほとんど 0 で、モデルの説明力は非常に弱い。 <モデル D>:所得減少に対する反応

モデル C の結果に、PERNUP0(所得増加に対する反応)を説明変数として加える。所

得増加への反応をコントロールしても、①変動性ダミー、②賃金不安の有無、⑦気長で

あるか否か――の3要因が 5%水準で有意。以上が所得減少に対するときに影響し、非対

称な反応を生み出す一因となっていると考えられる。

モデル B、D の推定結果を図表Ⅰに示す。

xiii

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(図表Ⅰ) 所得増加に対する反応(モデル B)、所得減少に対する反応(モデル D)

<モデルB> 従属変数:10%の所得減少に対する反応

説明変数 パラメーター推定値 標準誤差 z 値  定数項 -14.216 2.462 -5.774 0.000 (***)

① 1年後所得の予想区間幅 0.161 0.068 2.373 0.018 (***)

② 同居家族人数 0.035 0.552 0.063 0.950③ 行動力・実行力ダミー 0.821 1.688 0.486 0.627④ 変動性ダミー 2.244 1.650 1.360 0.174⑤ 供給要因ダミー 7.070 2.644 2.674 0.008 (***)

⑥ 供給要因ダミー -2.986 1.939 -1.540 0.124⑦ 所得増加に対する反応 0.466 0.045 10.305 0.000 (***)

(注) 1年後所得の予想区間幅は現在の所得水準を100としたときの80%信頼区間の「上限-下限」

サンプル数 980Left censored obs. 575Uncensored obs. 405R-squared 0.191618Adjusted R-squared 0.184958Sum of squared residual 117011.5Log likelihood -2107.472Akaike info criterion 4.31933Schwarz criterion 4.364215

<モデルD> 従属変数:10%の所得減少に対する反応

説明変数 パラメーター推定値 標準誤差 z 値  定数項 -0.386 1.501 -0.258 0.797① 変動性ダミー 3.496 1.323 2.642 0.008 (***)

② 賃金不安ダミー 3.099 1.235 2.510 0.012 (***)

③ 低所得者ダミー 2.133 1.440 1.481 0.139④ 高所得者ダミー -0.143 1.772 -0.081 0.936⑤ 増税不安ダミー 2.320 1.275 1.820 0.069 (*)

⑥ 子供の人数 0.064 0.551 0.116 0.908⑦ 気長な性格ダミー 2.807 1.397 2.010 0.044 (**)

⑧ 所得増加に対する反応 0.597 0.048 12.391 0.000 (***)

サンプル数 1008Left censored obs. 294Uncensored obs. 714R-squared 0.185Adjusted R-squared 0.178Sum of squared residual 196198.1Log likelihood -3308.146Akaike info criterion 6.584Schwarz criterion 6.632

p 値

p 値

xiv

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2. モデル妥当性の検討

「所得増加に対する反応」も「所得減少に対する反応」も CHAID の結果が示唆する説明

変数群だけでは非常に説明力が弱かった(モデル A、C)。このため、「所得増加に対する反

応」には「所得減少に対する反応」を、「所得減少に対する反応」には「所得増加に対する

反応」を説明変数として加えると、若干の説明力向上が見られた(モデル B、D)。ただ、

この場合は、所得変化に対する反応を直接説明せず、非対称の反応になる要因(相手をコ

ントロールした上でさらに何か重要な変数があるか)を探っていることになる。 この結果、「所得増加に対する反応」は、「所得減少に対する反応」だけで説明できない

要因として、①1 年後所得の予想区間幅、⑤供給要因の有無――の 2 要因が挙がってきた。

ともにパラメーターの推定値はプラスなので、①が大きいほど、②がある場合はない場合

に比べて、所得増加に対する消費増加率が高くなる。一方、「所得減少に対する反応」は、

「所得増加に対する反応」だけで説明できない要因として、①変動性ダミー、②賃金不安

の有無、⑦気長であるか否か――の3要因が挙がってきた。ともにパラメーターの推定値

はプラスなので、①、②、⑦がある場合はない場合に比べて、所得減少に対する消費減少

率が大きくなる(影響の大きさは①、②、⑦の順)。 ただ、Tobit モデルが有効であるためには、以下の 2 つの前提がある。すなわち、誤差項

が正規分布に従い、分散は均一であるという前提、そして「反応の有無」と「反応の程度」

を規定する要因が共通であるという前提である。結論から言えば、これらの前提はともに

満たされていないようである。例えば、誤差項の正規性の前提は、残差の Jarque-Bera 検

定から正規分布という帰無仮説が棄却される(図表Ⅱ、Ⅲを参照)。 (図表Ⅱ) Tobit モデル「所得増加に対する反応」の残差(モデル Bに対応)

0

100

200

300

400

-2 0 2 4 6 8 10 12

Series: Standardized ResidualsSample 1 1017Observations 980

Mean -0.084514Median -0.435406Maximum 11.69148Minimum -1.860684Std. Dev. 0.975231Skewness 5.594496Kurtosis 56.15631

Jarque-Bera 120490.5Probability 0.000000

度数

標準偏差

xv

Page 32: No.211 November 2004 - Fujitsu · 1 過去の実績データで現状を説明する傾向は、ルーカス批判後も一般的であり、データ制約による致し 方ない面もある。しかし、この限界を等閑視し、過去データに基づく実証分析を思考実験など他の手法よ

(図表Ⅲ) Tobit モデル「所得減少に対する反応」の残差(モデル D に対応)

0

100

200

300

400

-4 -2 0 2 4 6

Series: Standardized ResidualsSample 1 1017Observations 1008

Mean -0.063713Median -0.250457Maximum 7.519350Minimum -3.815771Std. Dev. 1.095978Skewness 3.449728Kurtosis 20.19138

Jarque-Bera 14412.13Probability 0.000000

度数

8標準偏差

また、「反応の有無」と「反応の程度」に関して、CHAID を実行すると、「所得増加に対

する反応」と「所得減少に対する反応」の違い以上に、「反応の有無」と「反応の程度」に

は規定要因に違いが見られる。反応の有無は、家計の属性(同居人数、供給要因、不確実

性、住宅ローン残高、性格等)に規定されるが、反応の程度は将来見通し(所得減少の可

能性、所得予測の区間幅、変動性ダミー等)に規定される傾向がある(詳細は次節)。 松浦他(2001)は以下のような Cragg の検定を推奨している。すなわち、Tobit は Probit

と Truncation を合成したモデルなので、帰無仮説として『「反応の有無」を決める Probitモデルと「反応するサンプル中の反応の程度」を決める Truncation モデルにおいて、パラ

メーターが共通である』を検定する。この帰無仮説のもとで、統計量 L=-2(Lc-(Lp+Lt))は自由度 2 のカイ 2 乗分布に従う。ただし、Lc:Tobit モデルの対数尤度、Lp:Probit モデル

の対数尤度、Lt:Truncation モデルの対数尤度である。 Probit、Truncation、Tobit の対数尤度、及び検定統計量は図表 11 のようになり、いず

れも帰無仮説(共通のパラメーターを持つ)は棄却される。したがって Tobit モデルは適当

でないことになる。 (図表Ⅳ)Tobit モデルの妥当性:推定結果から共通パラメータ仮説を検定

所得増加に対する反応 所得減少に対する反応 (モデル B) (モデル D) Lp:Probit モデルの対数尤度 -643.9547 -537.5993 Lt:Truncation モデルの対数尤度 -1153.015 -1239.459 Lc:Tobit モデルの対数尤度 -2107.472 -3308.146 検定統計量:L=-2(Lc-(Lp+Lt)) 621.0046 3062.1754 χ2分布の臨界値(df=2、1%水準) 9.21 9.21 帰無仮説(パラメーターは共通)を 棄却 棄却

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