6
鋼板挿入型ドリフトピン接合による木質構造接合部の非線形解析と実験 NONLINEAR ANALYSIS AND EXPERIMENT OF THE WOOD STRUCTURE JOINTS BY DRIFT PINED JOINTS WITH INSERT-STEER GUSSET PLATE 智之* Tomoyuki HORI By reference to the preceding study on the grid system for floor structures of the wooden housing, I have been studying the characteristic of the validity and solution of the model using large experiments and analysis model, and I have found out a problem about the load-bearing properties of joint fracture . The object of this study is first to examine the strength in case of using a wood structure joints , the analysis of its breaking situation, and validity of practical use , and then to Mechanical properties of the wood joints for building a grid-like horizontal structure Driftpin , Wood, anisotropy, Elasto-plastic analysis, Finite element method ドリフトピン, 木材, 異方性, 弾塑性解析, 有限要素法 1. はじめに 我が国の木造住宅における耐震性能は,阪神淡路大震災以降大き く向上した。 2000 年の建築基準法改正や住宅の品質確保の促進など に関する法律(品確法)により現在の木造住宅は高い耐震性能の確保 が可能となっている。剛性・耐力を確保するために,面材を横架材 に釘打ちする構法が採用され,構造的に弱点となるリビングや玄関 ホールなどの吹き抜け空間を小さく抑えることが必要とされている。 しかしその結果,木造住宅の内部空間が閉鎖的空間になる傾向がみ られ,近年住まい手からはより開放的な空間,かつデザイン性のあ る空間が求められてきている。そして今後は,住まい手のライフス タイルに合わせることのできる間取りの変更に対しての技術開発も 望まれている。本研究は,従来の木造住宅の吹き抜け構造とは違う, 「格子状吹き抜け構造」という新たな構造モデルの完成を目的とし ている。既往の研究として 2009 年度に工学院大学で行われた格子 状水平構面実大実験 1) のデータを参考として新たな格子モデルの実 大実験および解析モデルを用いたモデル化の妥当性とその解の特性 について検討した。そこで問題となっているのが,接合部の耐力特 性である。本研究では,鋼板挿入型ドリフトピン接合による木質構 造接合部を用いた場合の耐力,変形状況を解析,実験から実用化の 妥当性について検討し格子状吹き抜け構造を構築するための木質接 合部の力学特性について検討する。 2.格子状吹き抜け構造について 格子状吹き抜け構造とは,従来の木造住宅の耐震構造とは異なる 格子状または田の字状の横架材格子ユニットのことで,本来は床ま たは吹き抜けを含む床構面として活用できる水平構面である。この 格子ユニットの特徴として,吹き抜けを有する間取りで床構面,およ び屋根構面の剛性・耐力の確保ができる。狭小地の住まいにおける, 採光・通風の確保ができ,また開放的な空間を演出でき,住まい手 の長期スパンのライフスタイルに合わせて間取りの変更が可能とな る。木造住宅にこのような格子ユニットを用いて,新たな格子状吹 き抜け構造を確立することが出来れば,特徴に挙げられているよう なことが実現される。今回の研究では, 4P×4P-3P×4P の開発を試 みる。基本モジュールとして P=910 ㎜を採用する。 格子状吹き抜け構造のユニットの種類と活用例を図 1,図 2 に示す。 1 格子ユニットの種類 2 格子状吹き抜け構造活用例 格子状吹き抜け構造の格子ユニットの接合部は主に 2 つの金物か ら成り立っている。区画梁部分は GOYA 金物とし,格子梁接合部は T 字型プレートとする。図 3 に区画梁および格子梁の各接合部を示す。 * 近畿大学大学院システム工学研究科 博士前期課程 Master’s Course, Graduate School of system Engineering, Kinki University.

NONLINEAR ANALYSIS AND EXPERIMENT OF THE ......鋼板挿入型ドリフトピン接合による木質構造接合部の非線形解析と実験 NONLINEAR ANALYSIS AND EXPERIMENT OF

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鋼板挿入型ドリフトピン接合による木質構造接合部の非線形解析と実験 NONLINEAR ANALYSIS AND EXPERIMENT OF THE WOOD STRUCTURE

JOINTS BY DRIFT PINED JOINTS WITH INSERT-STEER GUSSET PLATE

堀 智之* Tomoyuki HORI

By reference to the preceding study on the grid system for floor structures of the wooden housing, I have been studying the characteristic of the validity and

solution of the model using large experiments and analysis model, and I have found out a problem about the load-bearing properties of joint fracture . The

object of this study is first to examine the strength in case of using a wood structure joints , the analysis of its breaking situation, and validity of practical use ,

and then to Mechanical properties of the wood joints for building a grid-like horizontal structure

Driftpin , Wood, anisotropy, Elasto-plastic analysis, Finite element method

ドリフトピン, 木材, 異方性, 弾塑性解析, 有限要素法

1. はじめに

我が国の木造住宅における耐震性能は,阪神淡路大震災以降大き

く向上した。2000 年の建築基準法改正や住宅の品質確保の促進など

に関する法律(品確法)により現在の木造住宅は高い耐震性能の確保

が可能となっている。剛性・耐力を確保するために,面材を横架材

に釘打ちする構法が採用され,構造的に弱点となるリビングや玄関

ホールなどの吹き抜け空間を小さく抑えることが必要とされている。

しかしその結果,木造住宅の内部空間が閉鎖的空間になる傾向がみ

られ,近年住まい手からはより開放的な空間,かつデザイン性のあ

る空間が求められてきている。そして今後は,住まい手のライフス

タイルに合わせることのできる間取りの変更に対しての技術開発も

望まれている。本研究は,従来の木造住宅の吹き抜け構造とは違う,

「格子状吹き抜け構造」という新たな構造モデルの完成を目的とし

ている。既往の研究として 2009 年度に工学院大学で行われた格子

状水平構面実大実験1)のデータを参考として新たな格子モデルの実

大実験および解析モデルを用いたモデル化の妥当性とその解の特性

について検討した。そこで問題となっているのが,接合部の耐力特

性である。本研究では,鋼板挿入型ドリフトピン接合による木質構

造接合部を用いた場合の耐力,変形状況を解析,実験から実用化の

妥当性について検討し格子状吹き抜け構造を構築するための木質接

合部の力学特性について検討する。

2.格子状吹き抜け構造について

格子状吹き抜け構造とは,従来の木造住宅の耐震構造とは異なる

格子状または田の字状の横架材格子ユニットのことで,本来は床ま

たは吹き抜けを含む床構面として活用できる水平構面である。この

格子ユニットの特徴として,吹き抜けを有する間取りで床構面,およ

び屋根構面の剛性・耐力の確保ができる。狭小地の住まいにおける,

採光・通風の確保ができ,また開放的な空間を演出でき,住まい手

の長期スパンのライフスタイルに合わせて間取りの変更が可能とな

る。木造住宅にこのような格子ユニットを用いて,新たな格子状吹

き抜け構造を確立することが出来れば,特徴に挙げられているよう

なことが実現される。今回の研究では,4P×4P-3P×4P の開発を試

みる。基本モジュールとして P=910 ㎜を採用する。 格子状吹き抜け構造のユニットの種類と活用例を図1,図2に示す。

図 1 格子ユニットの種類

図 2 格子状吹き抜け構造活用例

格子状吹き抜け構造の格子ユニットの接合部は主に 2 つの金物か

ら成り立っている。区画梁部分は GOYA 金物とし,格子梁接合部は T

字型プレートとする。図 3 に区画梁および格子梁の各接合部を示す。

* 近畿大学大学院システム工学研究科 博士前期課程 Master’s Course, Graduate School of system Engineering, Kinki University.

Page 2: NONLINEAR ANALYSIS AND EXPERIMENT OF THE ......鋼板挿入型ドリフトピン接合による木質構造接合部の非線形解析と実験 NONLINEAR ANALYSIS AND EXPERIMENT OF

図 3 格子ユニットの構成部材

3. 解析方法

3.1 応力-ひずみ関係

本研究の解析では,直交異方性体の弾性応力により解析を行う。直

交異方性の主軸を(x, y, z)とする直交異方性体を考えると,その

弾性応力-ひずみ関係は,次式で与えられる。

{𝜀} = [𝐶]{𝜎} (1)

ここに,{𝜀}𝑇 = {𝜀𝑥 𝜀𝑦 𝜀𝑧 𝛾𝑥𝑦 𝛾𝑦𝑧 𝛾𝑧𝑥} (2)

{𝜎}𝑇 = {𝜎𝑥 𝜎𝑦 𝜎𝑧 𝜏𝑥𝑦 𝜏𝑦𝑧 𝜏𝑧𝑥} (3)

[𝐶] =

⎣⎢⎢⎢⎢⎢⎢⎢⎢⎢⎡

1𝐸𝑥

−𝜈𝑦𝑥𝐸𝑦

−𝜈𝑧𝑥𝐸𝑧

0 0 0

−𝜈𝑥𝑦𝐸𝑥

1𝐸𝑦

−𝜈𝑧𝑦𝐸𝑧

0 0 0

−𝜈𝑥𝑧𝐸𝑥

−𝜈𝑦𝑧𝐸𝑦

1𝐸𝑧

0 0 0

0 0 0 1𝐺𝑥𝑦

0 0

0 0 0 0 1𝐺𝑦𝑧

0

0 0 0 0 0 1𝐺𝑧𝑥⎦⎥⎥⎥⎥⎥⎥⎥⎥⎥⎤

(4)

3.2 Hill ポテンシャル理論

異方性の Hill ポテンシャル理論2)は,Hill の基準は材料の異方

性降伏を考慮するために von Mises の降伏条件を拡張したものであ

り,この基準が等方硬化則として使用される場合,降伏関数は以下

の通り求められる。

𝑓(𝜎) = �{𝜎}𝑇�𝐶𝑝�{𝜎}− 𝜎0(𝜀�̅�) (5)

ここに,σ0=参照降伏応力,εp=相当塑性ひずみ,

{σ}=応力ベクトル,[Cp]=塑性コンプライアンスマトリックス

である。また,移動硬化則として扱われる場合には,降伏関数は

以下のようになる。

𝑓(𝜎) = �({𝜎}− {𝛼})𝑇�𝐶𝑝�({𝜎}− {𝛼}) − 𝜎0(𝜀�̅�) (6)

材料は3つの対称直交平面を持つと仮定すると,材料座標系がこれ

らの対称平面に対し法線方向である場合,塑性コンプライアンスマ

トリックスは以下のように表される。

�𝐶𝑝� =

⎣⎢⎢⎢⎢⎡𝐺 + 𝐻 −𝐻 −𝐺 0 0 0

−𝐻 𝐹 +𝐻 −𝐹 0 0 0 −𝐺 −𝐹 𝐹 + 𝐺 0 0 0 0 0 0 2𝐿 0 0 0 0 0 0 2𝑀 0 0 0 0 0 0 2𝑁⎦

⎥⎥⎥⎥⎤

(7)

F,G,H,L,M,N は,異方性パラメータであり,以下の通り定義され

る。

𝐹 = 12� 1𝑅𝑦𝑦2

+ 1𝑅𝑧𝑧2

− 1𝑅𝑥𝑥2

�, 𝐺 = 12� 1𝑅𝑧𝑧2

+ 1𝑅𝑥𝑥2

− 1𝑅𝑦𝑦2

𝐻 = 12� 1𝑅𝑥𝑥2

+ 1𝑅𝑦𝑦2

− 1𝑅𝑧𝑧2

�, 𝐿 = 32� 1𝑅𝑥𝑦2

𝑀 = 32� 1𝑅𝑦𝑧2

�, 𝑁 = 32� 1𝑅𝑧𝑥2

� (8)

ここに, Rxx,Ryy,Rzz,Rxy,Ryz,Rzx,は降伏応力比である。降伏応力

比は,解析の際に,ユーザーによって指定される値であり,一般に

降伏応力σijy を用いて以下の式で用いられる。

𝑅𝑥𝑥 = 𝜎𝑥𝑥𝑦

𝜎0,𝑅𝑦𝑦 = 𝜎𝑦𝑦𝑦

𝜎0,𝑅𝑧𝑧 = 𝜎𝑧𝑧𝑦

𝜎0

𝑅𝑥𝑦 = √3 𝜎𝑥𝑦𝑦

𝜎0,𝑅𝑦𝑧 = √3 𝜎𝑦𝑧𝑦

𝜎0,𝑅𝑧𝑥 = √3 𝜎𝑧𝑥𝑦

𝜎0 (9)

3.3 応力‐ひずみ関係に及ぼす繊維・年輪傾斜の影響

単軸圧縮応力を受ける木材の応力-ひずみ関係に及ぼす繊維・年

輪傾斜角の影響について検討する。このとき図 4 に示す LR,LT,RT のいずれかの面内における異方性主軸の回転のみを考える。こ

こに,LR 及び LT 面での加圧方向と L 方向との成す角を「繊維傾

斜角」,RT 面での加圧方向と R 方向との成す角を「年輪傾斜角」と

それぞれ呼称する。

参考のため,繊維・年輪傾向がある場合のヤング係数の変化を図

5 に示す。また,材料定数としては,表1値を採用した。

図 4 木材の直交異方性主軸

Page 3: NONLINEAR ANALYSIS AND EXPERIMENT OF THE ......鋼板挿入型ドリフトピン接合による木質構造接合部の非線形解析と実験 NONLINEAR ANALYSIS AND EXPERIMENT OF

図 5 繊維・年輪傾斜角の変化がヤング係数に及ぼす影響

表 1 採用材料

方向 値 単位 備考

ヤング係数 E L 10500 N/mm2 EL R 420 N/mm2 EL/25 T 420 N/mm2 EL/25

せん断弾性係数G

LR 700 N/mm2 EL/15 RT 700 N/mm2 EL/15 TL 700 N/mm2 EL/15

ポアソン比ν LR 0 RT 0 TL 0

木材等の異方性を対象とした降伏特性に関する研究 3)は数多くあ

るものの,本研究では簡単のため Hill 理論に基づく降伏特性による

解析を行い,その基本特性について検討を行った。このとき,解析

に用いた降伏応力値を表 2 に示す。

表 2 採用する降伏応力値

記号 値(N/mm2) 備考 降伏応力比 Rij

単軸降伏

応力

FL 30.0 FL FL/FL=1.000

FR 3.75 FL/8 FR/FL=0.1250

FT 3.75 FL/8 FT/FL=0.1250

せん断降

伏応力

FLR 3.00 FL/10 √3FLR/FL=0.1732

FRT 3.00 FL/10 √3FRT/FL=0.1732

FTL 3.00 FL/10 √3FTL/FL=0.1732

4.鋼板挿入型ドリフトピン接合の解析と実験

4.1 実験&解析目的

格子状吹き抜け構造の実大実験により発覚した格子梁,区画梁接

合部の問題について格子部分の的を絞った解析と実験により力の流

れと,実験から得られるであろう大まかな数値を予想するため解析

を行う。また,実験を行うことにより解析の妥当性の検証と実際の

データの採取と結果の検討を行う。 4.2 有限要素法による弾塑性解析

解析モデルは,図 6,図 7 に示す試験体に対し,ドリフトピン本

数および端距離(直径 D=12mm のドリフトピン径の 2 倍,4 倍,6倍)の異なるモデルである。また,解析モデルのメッシュ分割を図

8,図 9 に示す。

図 6 解析モデル(基本形状)

P1-2D(端距離) P1-4D(端距離)

P1-6D(端距離) P2-2D(端距離)

P2-4D(端距離) P2-6D(端距離) 図 7 ドリフトピンのパターン

図 8 2D-1 モデル 図 9 4D-1 モデル

4.3 実験概要

写真 1~写真 3 に鋼板挿入型ドリフトピンの要素実験試験体を示

す。試験体は,ドリフトピンが一本の軸径が 2D(D=16)のものを,

P1-2D という。実験には,P2-2D,P3-2D と,同様の形状でドリフトピ

ンの軸径が 4D のものでピンの本数が 1 本(P1),2 本(P2),3 本(P3)

があり,それらに対して同様に実験を行う。

写真 1 試験体 P1-2D

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

ヤング係

数(N

/mm

2 )

繊維傾斜角(deg)

EL

ER,ET

φ1224

800

120

300

スリット11mm

11

φ1224

800

φ1248

800

φ1272

800

φ12

24

800

75

φ12

48

800

75

φ12

72

800

75

Page 4: NONLINEAR ANALYSIS AND EXPERIMENT OF THE ......鋼板挿入型ドリフトピン接合による木質構造接合部の非線形解析と実験 NONLINEAR ANALYSIS AND EXPERIMENT OF

写真 2 試験体 P2-2D

写真 3 試験体 P3-2D

試験体作成については,鋼板を挿入し写真 4 のようにドリフトピ

ンをハンマーで打ち込んでいく。片側はもう一方の鋼板を両面にボ

ルトで固定する。そして木材と鋼鈑の相対変位を計測するために変

位計をセットし,試験体の両端部を試験機に固定し引張試験を行う。

写真 4 試験体製作風景

写真 5 試験体 写真 6 変位計

写真 5 の頂部に変位計をセットし試験体の両端部を固定し引張試

験機にセットし引張試験を行う。この実験では吹き抜け構造の格子

梁接合部でのピンポイントで実験を行った。

4.4 解析結果

せん断応力度分布を見てみるとピンが 1 本の場合では端部とピン

の間に応力が集中しているが,2本,3 本の場合ではピンとピンの間

に応力が集中していることがわかる。これは,鋼板を引っ張ること

によりピンが引っ張られるためであると考えられる。解析の妥当性

については図 12 と写真を見比べても全く同じ箇所が破壊されてい

ることがわかり解析と実験の妥当性が伺える。しかし,繊維方向,

接線方向のように力を加える方向により耐力が変わってくる異方性

の材料である木材と異方性ではない金属を混ぜて解析する場合,そ

の材料の異方性を入力し,木材と金属の接触問題にも考慮しなくて

は全く違う値となることがわかった。

図 10 P1-2D 相当応力度分布 図 11 P2-4D 相当応力度分布

図 12 応力度分布 試験体破損状況

図 13 P1 せん断応力度分布 図 14 P2 せん断応力度分布

4.5 実験結果

各試験体の終局状況,ドリフトピンの軸径ごとの変位を以下に示

す。写真 7,810,11 では側面部に破断が見られる。これはドリフトピ

ンが鋼板により引っ張られ,部材が破断したものと考えられる。写

真 9,12 では,上記と同様の理由に合わせ,解析結果からピンとピン

の間に応力が集中しているため母材が割れるように破断したのだと

考えられる。

写真 7 P1-2D 写真 8 P2-2D 写真 9 P3-2D

写真 10 P1-4D 写真 11 P2-4D 写真 12 P3-4D

図 15 2D モデル 図 16 4D モデル

Page 5: NONLINEAR ANALYSIS AND EXPERIMENT OF THE ......鋼板挿入型ドリフトピン接合による木質構造接合部の非線形解析と実験 NONLINEAR ANALYSIS AND EXPERIMENT OF

ドリフトピンの軸径が大きくなるごとに変位が大きくなり,また

ピンを多く打つことにより終局状況が悪くなる。写真 9,12 を見てみ

ると中央部から割れていることが確認できる。

実験結果と解析結果から,ピンが多くなるにつれ変位が大きくな

り,ピンが一本の場合と二本の場合では,変位がほぼ二倍もの違い

があることが確認できた。解析の結果からせん断応力度分布を見て

みるとピンとピンの間に力が集中していることがわかる。引っ張り

試験時,鋼板とともにドリフトピンも外側に引っ張られる形となる

ので部材が中心から割れるように破断していったのではないかと推

察される。

5.使用されるドリフトピンの実験と解析

鋼板挿入型ドリフトピンに使用されるドリフトピンの実験と解析

を行い,耐力特性を把握し曲げに対して充分な耐力を有しているの

かの検討を行った。今回実験で使用されるドリフトピンは,SS400縦 5 ㎜横 120 ㎜の一般的なドリフトピンでの実験を行う。

写真 13 実験写真 図 17 解モデル図

実験,解析ともに写真 13,図 17 のように全く同じ条件でピンの

両端を固定し頂部に荷重をかけるという方法で曲げ試験を行う。解

析では妥当性を検討する目的もあり試験体と全く同じ厚さ,ヤング

係数,形状での解析を行った。ヤング係数は 230KN/mm2 ,ポアソ

ン比:0.3,摩擦系数:0.00002 の値を採用する。試験体の終局状況,

を写真 14に,解析における終局に対する応力度分布を図 18に示す。

また,図 19 に荷重-変位関係を示す。

写真 14 試験体終局状況 図 18 解析終局度分布

図 19 荷重-変位関係

荷重と変位の関係から初期剛性は高く 6kN を超えるまでは変位

もそれほど大きくはなかったが,6kN を超えてからは大きく変位し

10kN で約 15mm 変位した。解析の応力度分布からピンの中心部に

応力が集中していることが分かり,解析結果と実験結果を比較する

と 6kN までは両者とも弾性域であるが 6kN を超えてからは塑性域

に入り徐々に変位が大きくなることが確認された。 6.鋼板挿入型ドリフトピン接合の曲げ試験体

前節では,鋼鈑挿入型ドリフトピン接合の基本的な特性を把握す

るための要素実験の結果を示した。本節では実構造への応用を検討

するための検証実験として,ドリフトピンを複数配置した鋼板挿入

型ドリフトピン接合の大型試験体による曲げ実験を行うことにより,

ドリフトピン配列が接合部の耐力に及ぼす力学的特性を検証する。

図 20 曲げ試験体詳細図

本実験ではドリフトピンの配置を千鳥配置とすることに木材に伝

達されるよりせん断応力度の分布を分散するようにし,曲げに対す

る耐力の向上を図った試験体の設計を行っている。 加力は図 21 に示すように試験体中央部を 2 点載荷とした曲げ試

験を行い,作用させた荷重値 P および D1~D7 に示す個所の変位を

計測した。このとき,水平に設置した変位計 D6,D7 によって,試

験体中央部の回転角を算出した。

図 21 曲げ試験における加力位置および変位計測箇所

図 22 に曲げ試験における荷重-中央たわみ関係を,図 23 にはり

中央部における曲げモーメント-回転角関係を示す。最大荷重は

116kN(最大曲げモーメント 174kNm)であり,最大強さは

24.6N/mm2となる結果であった。日本建築学会・木質構造接合部設

計マニュアル 4)によるドリフトピンの設計基準では,端距離はドリ

フトピン径の 7 倍以上,縁距離は 4 倍以上離すこととなっているが,

本実験では,それ以下の数値(径の 3 倍)としたドリフトピン配列

の設計を行っているものの,木材の割裂などは生じず,鋼鈑の降伏

で終局耐力が生じていることが確認された。

105

105

450

3000 650 650 3000

8160

3980

3430

580 580

3430

430 4307300

3980

48

溝形鋼200-90-8-13.5-L450鋼鈑(SS400)450-580-t9

ドリフトピンDP16-210(丸鋼φ16-L210×40本)

構造用LVL 105-450(120E-320F/55V-47H)

M16ボルトL185 スチフナ(t=9)

高力TCボルトM20-L60

ドリフトピンDP16用孔加工木材:φ16孔,鋼材:φ16.5孔

φ18貫通孔(φ50段差孔)

φ22孔

200

550 550

50505050

φ18貫通孔(φ50段差孔)

900 900 900 900

8 8

φ18貫通孔(φ50段差孔) φ18貫通孔(φ50段差孔) φ18貫通孔(φ50段差孔)

140

φ18貫通孔(φ50段差孔) φ18貫通孔(φ50段差孔) φ18貫通孔(φ50段差孔)

87.5

87.5

900900900900 140

鋼鈑:φ18孔木材:φ18貫通孔(φ50段差孔)

87.5

50

87.5

50

φ22孔

φ22孔

φ22孔

φ22孔

φ22孔

φ22孔

φ22孔

φ22孔

φ22孔

φ22孔

48

9

200

ドリフトピンDP16用孔加工木材:φ16孔,鋼材:φ16.5孔

484848484848484848

48

48

48

33

33

48

48

48

48

480

488 488

実験

解析

Page 6: NONLINEAR ANALYSIS AND EXPERIMENT OF THE ......鋼板挿入型ドリフトピン接合による木質構造接合部の非線形解析と実験 NONLINEAR ANALYSIS AND EXPERIMENT OF

図 22 荷重-中央たわみ関係

図 23 曲げモーメント-回転角関係

また,試験体の各部および終局上状況を写真 15~20 に示す。

写真 15 試験体全図(実験前) 写真 16 試験体終局状況

写真 17 試験体全図(実験前) 写真 18 試験体終局状況(表面)

写真 19 試験体接合部(実験前) 写真 20 試験体接合部終局状況

また,試験体を 1 本の連続したはりととらえたときの計測したた

わみから算出される曲げヤング係数は 6.66 kN/mm2であり,試験体

に用いた LVL のヤング係数等級(12.0 kN/mm2)に比べ,小さい値

となることが確認された。これはドリフトピンと木材,鋼鈑と鋼鈑

を接続する部分の接合部金具における初期すべり等の影響によるも

のと推測される。

7.まとめ

本研究では,鋼鈑挿入型ドリフトピン接合による木質構造接合部

の力学的特性を解明することで,戸建住宅を対象とした吹き抜け空

間を構築するための構造要素に対する力学的特性について考察した。

提案する鋼鈑挿入型ドリフトピン接合では,木質材料の異方性に起

因する非線形理論の定式化が必要となるため,本研究では異方性理

論の基本である Hill のポテンシャル理論に基づく材料異方性降伏

条件を用いた塑性コンプライアンスによる弾塑性有限要素解析を行

った。このとき,木材の繊維方向(L 方向)を異方性材料定数の基

準特性としてとらえ,直交する他の 2 方向である年輪半径方向(R方向)および年輪接線方向(T 方向)については繊維方向に対する

比例低減率により直交異方性材料構成則のパラメータを設定する手

法を提案した。また,ドリフトピンと木材との接合面にはペナルテ

ィ法とラグランジュ乗数法の組み合わせによる接触の適合性を定義

した拡張ラグランジュ法を用いて接触問題を考慮した。本研究で提

案する解析手法の精度,再現性を検討するために単純なドリフトピ

ン配列に対する要素引張試験を実施し,ドリフトピンの本数と相互

間隔に伴う三次元的な非線形挙動を精度良く解析するためには,直

交異方性理論の適用とドリフトピンと木材との接触問題の考慮が重

要であることを確認した。これらの知見を踏まえて,施工性に優れ

る鋼鈑挿入型ドリフトピン接合の検討例として,鋼鈑分割型の大断

面組立梁の実大接合部要素実験を実施し,その力学挙動を確認する

とともに,生産性を考慮した木質構造接合部の提案を行った。以上

総括すると,本論文では,鋼鈑挿入型ドリフトピン接合による木質

構造接合部の力学的特性について検討し,木質構造接合部の設計に

おいて有用となる力学特性を示すことができた。しかしながら,本

研究で扱った問題は複雑な非線形挙動であるため,設計手法として

確立させるためには,今後,個々の構造要素に対する更なる検証実

験が望まれる。

参考文献

1) 田崎裕和,大野義昭,迫勝則,宮澤健二,疋田慎二,木質系住

宅の格子状吹き抜け水平構面の技術開発研究,日本建築学会大

会学術講演慷慨集(北陸),構造 III,pp.437-438,2010 年 9 月 2) Hill, R. : The Mathematical Theory of Plasticity, Clarendon Press,

1950 (鷲津久一郎,山田嘉昭,工藤英明訳:塑性学,培風館,

1954)

3) Azzi, V. D., Tsai, S.W. : Anisotropic Strength of Composites,

Experimental Mechanics, pp.283-288, 1965.9

4) 日本建築学会,木質構造接合部設計マニュアル,丸善株式会社,

2009 年 11 月