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日本薬学会 薬学研究ビジョン部会 Pharma VISION NEWS No.3 巻頭言 創薬戦略に役立つPharma Visionを! 藤野 政彦(武田薬品工業 ㈱) 薬学研究ビジョン 創薬にはあらゆる情報を分子に活かせる メディシナルケミストが必要 多田 幸雄(大鵬薬品工業 ㈱) 最近のバイオインフォマティクス動向 青島 健 (三井情報開発 ㈱) 薬学研究最前線 メタボローム/トランスクリプトーム解析による 創薬ターゲットバリデーション 田中 利男(三重大学医学部) ABCトランスポーター遺伝多型の 機能解析から創薬への応用 石川 智久(東京工業大学大学院) 話題 ジェノックス創薬研究所-成果と今後の課題- 杉田 雄二(山之内製薬 ㈱) 薬学研究に関わる世界の学会 - AAPS、ISSX、PSWC - おしらせ 編集後記 夏苅 英昭(東京大学大学院) Index ( January 2004 )

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日本薬学会 薬学研究ビジョン部会

PharmaVISION NEWS

No.3

巻頭言 創薬戦略に役立つPharma Visionを!藤野 政彦(武田薬品工業 ㈱)

薬学研究ビジョン創薬にはあらゆる情報を分子に活かせる

メディシナルケミストが必要多田 幸雄(大鵬薬品工業 ㈱)

最近のバイオインフォマティクス動向青島 健 (三井情報開発 ㈱)

薬学研究最前線メタボローム/トランスクリプトーム解析による

創薬ターゲットバリデーション田中 利男(三重大学医学部)

ABCトランスポーター遺伝多型の機能解析から創薬への応用

石川 智久(東京工業大学大学院)

話題 ジェノックス創薬研究所-成果と今後の課題-杉田 雄二(山之内製薬 ㈱)

薬学研究に関わる世界の学会 - AAPS、ISSX、PSWC -

おしらせ編集後記 夏苅 英昭(東京大学大学院)

Index

( January 2004 )

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社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会

Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)2

創薬戦略に役立つPharma Vision を!

遺伝子情報の解読がここ 1、2年で急速に進み、

殆ど完全な遺伝子構造のデータを眺めることが可

能になってきた。この事実は医薬品の研究開発の

あり方に大きな影響を与えようとしている。た

だ、遺伝子情報から医薬品のターゲットを探索し

た場合に、現状ではその標的を盲目的に正しいも

のと信じがちである。そのことが、最近国の内外

で開発段階に入った貴重な候補化合物がどんどん

ドロップアウトする極めて遺憾な事態を引き起こ

しているような気がしてならない。要するに、創

薬ターゲットのバリデーションが不足していると

考えられるのである。例えば、Urotensin Ⅱの受

容体が動物種で発現場所がかなり異なり、実験動

物レベルでは心臓病のターゲットになり得ると

思っていたのに、ヒトでは、受容体の発現が心臓

の血管では全く認められないことが分かり、研究

を諦めざるを得なかった。このような場合に、動

物実験のみでバリデーションをいくら試みても、

臨床実験に入って、落胆するのは研究者である。

このような状況下で、2003 年の一月に創薬ビ

ジョンシンポジウムが開

催され、Pharma VISION

N E W S が発行されたこと

は、大変に意義あること

である。今、創薬研究で

はゲノムに続いて、プロ

テオームやトキシコゲノ

◆略歴◆藤野 政彦:武田薬品工業(株)・相談役

1958年北海道大学大学院修士課程終了。同年武田薬品工業(株)入社。ペプチド化学分野での研究に従事し、前立腺癌治

療薬のリュープロレリンを創製。1974年ハーバード・メディカル・スクール客員研究員。1981年テキサス大学客員教授。2001年東京大学大学院薬学系研究科客員教授。1989年武田薬品・取締役・筑波研究所所長、1992年同社常務取締役・創薬研究本部長を経て、専務取締役、副社長、会長を歴任。2003年6月から現職。

ミックスが注目を集めているが、既に厚生労働省

が大阪北部に建設中の医薬基盤研究所(仮称)の

メインのテーマとしてこれら選定しており、大い

に期待される。本当の意味で創薬に役に立つ研究

を進めて欲しいものである。

アメリカは医薬品研究で大きな成功を収めてい

るように言われているが、これはバイオベン

チャーの関与による抗体医薬やタンパク質医薬が

主なものである。その点でアメリカの創薬研究は

戦略的には成功している。この辺で、日本も明確

な研究戦略を立てて国際的に高く評価される画期

的な医薬品を創製しなければ、日本の製薬企業の

存続は困難になるであろう。そのための創薬ビ

ジョンであって欲しいと願っている。

藤野 政彦  武田薬品工業 ㈱ 

巻頭言

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)3

薬学研究ビジョン(1)

創薬にはあらゆる情報を分子に活かせるメディシナルケミストが必要

ポストゲノム時代と言われる昨今、製薬企業は

創薬研究のみならず合併提携等、企業形態として

も生き残りを懸けたビジョンが問われている。ま

た創薬に携る研究者も個々の資質が問われる時代

になって来ている。

果たして今後とも低分子医薬品だけで良いかと

いう議論もあるが、それは他に譲りここでは低分

子としての創薬に関わる考えを述べたい。創薬に

関わる科学は多様であるが、基礎となるのは生物

学と物理化学を含む化学である。創薬研究者はこ

れらの基礎力が十分でないと、いい加減な創薬に

陥ってしまう。創薬には優秀なバイオロジスト

と、目的とする生物活性を化合物で具現化できる

メディシナルケミストの存在が必須である。従っ

て、ポストゲノム時代とは言え、新たな創薬ター

ゲットに関するゲノム情報をはじめ ADME-Tox に

関わるあらゆる情報を最終的には化合物という形

で実現できるメディシナルケミストの存在が創薬

の生命線であると考えている。

1 有機化学者とメディシナルケミスト

との違いは何か? メディシナルケミストの定義は千差万別であ

る。一般的に創薬の場で、メディシナルケミスト

と言えば有機合成研究者を指すことが多い。しか

し、こんなことが言われる場合もある。

"Organic chemists know how to make, but do

not know what to make."

個人的には、メディシナルケミストとして有機化

学が基盤でなくてよいと考えている。従って、何

を作れば良いかを知っている、もしくは少なくと

もその考えがある人をメディシナルケミストと定

義したい。例えば、代謝を担当する研究者が代謝

に絡む問題を具体的な化合物展開として解決でき

れば、「創薬代謝」を実行できる優秀なメディシ

ナルケミストであると言える。つまり、誰でもメ

ディシナルケミストリーに関する知識と技能を身

に付ければ、そのレベルに応じたメディシナルケ

ミストとして創薬に携ることができると考えてい

る。従って、in silicoの創薬テクノロジーを利

用して創薬に携わる者を in silico メディシナ

ルケミストと呼ぶことができる。

2 メディシナルケミストとしての

必要な基盤知識 メディシナルケミストになるために学ぶべき主

な項目を列挙してみると、それがいかに多岐に

渡っているかが理解できる。

化学分野:有機合成化学、分析化学、医学

生物学分野:薬理学、生化学、代謝化学

物理化学分野:物理化学、量子化学、分子力学、

分子動力学

情報科学:構造活性相関解析手法、統計学

その他:コンピュータプログラム(基礎)

従って、実績の出せる優秀なメディシナルケミ

ストになるには分野に拘らず、創薬に必要ならば

何でも勉強するという旺盛なバイタリティーが必

要である。

◆略歴◆ 多田 幸雄:大鵬薬品工業(株) 創薬センター(生物科学室)・主任研究員

1977年岐阜薬科大学大学院薬学研究科修士課程終了、同年大鵬薬品工業(株)(技術研究所)入社後、定量的構造活性

相関解析および分子設計手法(計算化学、モデリングなど)を基盤技術として創薬に従事。1990年創薬センター・生物

科学室長(1992年生物科学室廃止)、以後創薬センター内で論理的創薬に従事、2001年から現職。

多田 幸雄 大鵬薬品工業 (株)創薬センター

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)4

3「構造式活性相観」からの脱却

"Rule of five" で有名な Lipinski は「2nd

International Drug Discovery and Development

Summit」 (2003, Honolulu) の要旨に次のように

書いている。

" E f f e c t i v e c o m m u n i c a t i o n b e t w e e n

pharmaceutical scientists and medicinal chemists

is essential. It is important to appeal to the

chemist’s highly developed pattern recognition

skills and to avoid the use of mathematical

equation as much as possible."

私自身、有機硫黄化学の研究室の出身であるの

で、合成化学者が合成反応を知識として蓄えると

同じパターン認識的手法で、薬剤開発における化

合物の構造展開パターンを知識化し、それを頼り

に創薬に臨んでいることが良く理解できる。この

洗練されたパターン認識力を持つ有機合成化学者

が、その豊富な知識と経験に基づく匠の技的「勘」

により創薬に成功した例は少なくなく、このよう

な伝統的なメディシナルケミストは尊敬に値す

る。

一方、生半可な知識と経験しかないメディシナ

ルケミストが唱える構造活性相関には、「それは

構造式活性相観であって相関でも何でもない」と

いう苦言を呈している。その方法は単なる結果の

辻褄あわせであって、一般性も予測性もないの

で、他に活かせる本質的な経験にはならない。

Wermuth も著書 「The Practice of Medicinal

Chemistry」 の中で、「古い諺」として " Methyl,

Ethyl, Propyl, Butyl, ... Futile " を紹介し

ているが、同じ思いではないかと想像している。

置換基の変換が生物活性やADME-Tox に影響を及

ぼしているとき、その原因を構造式だけでなく化

合物の物理化学的性質に求めて欲しい。

 

4 定量的構造活性相関(QSAR)解析の

             利点と制限 化合物が引き起こす全ての生物活性は化合物の

物理化学的性質に基づく生体高分子との相互作用

の結果であり、生物活性の変動は結合自由エネル

ギーの変動である。しかし、この自由エネルギー

の変動を直接算出し、活性を予測するのは容易で

はない。そこで、厳密には超熱力学的アプローチ

ではあるが、生物活性の変動を自由エネルギーの

パラメーターを用いて表わす方法が QSAR である

と言える。

近代的な QSARは 1964年の化合物の物理化学的

性質に基づく重回帰分析法を用いた H a n s c h -

Fujita法にはじまる。その後、多くの方法:パター

ン認識、主成分分析、クラスター解析、PLS 法、

ニューラルネットワーク、ジェネティックアルゴ

リズム、Recursive Partitioning法等が QSAR解

析に利用され、化合物の3次元構造も考慮する3-

D QSARも実用化されている。これらの中で、現在

では Classical QSAR と称されている Hansch-

Fujita法がメディシナルケミストには利用し易い

と思われるので、その利点と制限を挙げる。

 Classical QSAR の利点

・ 多種の生物活性を対象にできる

・ 用いる記述子は物理化学的意味を持ってい

るので化合物のデザインに利用し易い

・ 活性の予測値は統計的信頼限界内で定量的

に扱える

・ 良好な解析結果はメカニズム解明に示唆を

与える

・ 例外化合物を見出すことができる

・ 活性の低い化合物の情報も活かせる

・ 相関がないという事実も有用な情報となる

  Classical QSAR の制限

・ 活性と相関する記述子を見出すのが容易で

はない

・ 用いる記述子ひとつに付き5化合物が必要

・ 用いる記述子間の相関はできる限り小さい

こと

・ 記述子が得られない化合物は解析に含めら

れない

・ 偶然の相関による誤った解析の恐れがある

ある物理化学的性質から化合物の生物活性を眺

めて見ない限り、例外化合物として他の化合物と

判別できないことを考えると Classical QSAR の

利点の内で、例外化合物を見出せることは最も重

要な利点のひとつである。このような例外化合物

を基点に新たな化合物展開を生み出せる可能性が

ある。また、活性の低い化合物や予想に反して活

性を失った化合物の情報を基に化合物を展開すべ

きでない方向を知ることも大切である。

 我が国では 1975年に「構造活性相関懇話会」が

スタートし、現在では薬学会の「構造活性相関部

会」として活動を続けているが、我が国の創薬の

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)5

現場では思った程普及していない。この事から

QSAR は役に立つと実感できるメディシナルケミ

ストが少ないものと思われる。確かに QSAR は新

しい活性化合物を見出すよりもむしろ、活性デー

タの(事後)説明に用いられる方法と言われるこ

とがある。しかし、QSAR解析は論文の為ではなく、

あくまでも目的は活性予測であり、個人的経験か

らは十分実績を出せる創薬テクノロジーのひとつ

であると考えている。

5 論理的創薬 vs セレンディピティー

 それぞれの時点で利用できる創薬テクノロジー

は、貪欲に利用して論理的な創薬を進めて来た立

場からも、セレンディピティーを否定はしない。

自分自身は思わぬものを偶然発見する能力もその

チャンスもあるとは思っていないが、論理的創薬

テクノロジーとは言えまだ創薬支援の域をでるも

のではない。最終の意思決定にはやはり科学的な

経験、洞察力、勘が必要である。In silicoの判

断であってもプログラムは人が作ったものである

し、結果を判断するのはやはり in brainである

事に変わりはない。従って、QSAR解析に基づいて

提示した論理に合わない化合物であるほど是非、

合成し検証して欲しい。但し、結果的に期待した

活性がなくても以後の展開に役に立てることがで

きる様に、できるだけ多くの情報が得られると予

測される化合物を合成して貰いたいと考えてい

る。

6 ADME-Tox への QSAR の応用

 目的としている生物活性を予測するより、化合

物の物理化学的性質の影響がより顕著に出やすい

吸収、分布、代謝、排泄の各データの方が QSAR解

析を適用できる場合が少なくない。また、一連の

化合物群に共通する毒性発現の原因を化合物の物

性を丹念に調べることで明らかになる場合があ

る。また最近では CYP、hERG、変異原性、染色体

異常などの毒性に関連して、QSAR解析が行われて

いる。今後、創薬の成功確率を上げるには創薬プ

ロセスの早い時期に毒性を考慮することが必要と

されており、各種基礎データからヒトの毒性の予

測に QSAR は重要な役割を果たすものと思ってい

る。

7 in silicoメディシナルケミストの役割

 1980年代には標的タンパクの構造に基づく

Structure Based Drug Design (SBDD) が台頭

したが、当初の SBDD への熱は冷めてしまった。

その原因はソフトウエアやコンピュータのパ

ワー不足や特定の研究者しか利用できないなど

が考えられるが、合成を司るメディシナルケミ

ストの理解が得られなかったことが最大の原因

であったと思われる。従って、in silico メ

ディシナルケミストは他部署、特に合成化学者

との対話を重要視すべきと思う。

 また、得てしてコンピュータを扱う者は計算

値に頼り勝ちであるが、実測値に勝るものはな

い。化合物のデザインに必要と判断した物性値

は、自らが測定した正確な値に基づいてデザイ

ンを進めるべきと考える。

8 おわりに

 今後とも疾病に関連するゲノム、タンパクの

構造、生体の複雑なネットワークなどが明らか

になるにつれ、薬剤として満たすべき条件は多

くなってくる。このような状況下、論理的な思考

から創薬を実現できるメディシナルケミストの

存在が重要であると考えている。

☆次回本部会シンポジウムのお知らせ  第4回創薬ビジョンシンポジウム  開催日 :2004 年 9 月 30 日、 10 月 1 日  場 所 :昭和大学上條講堂 主 題 :プロテオーム創薬 大会委員長 :辻本豪三 (京都大学 ・院)           高柳輝夫 (第一製薬)

☆ Pharma VISION NEWS    (NO.1-NO.3)を別刷刊行!  124 年会 ・大阪薬学会会場に於い   2004 年3月30日 15:00 - 17:00   「創薬ビジョンフォーラム」 * 参加者に優先配布します。

☆☆是非会場へお越し下さい☆☆

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)6

最近のバイオインフォマティクス動向 

薬学研究ビジョン(2)

ポストシーケンス時代における

   バイオインフォマティクスの課題

2003年 10月現在、ヒトゲノムも含め、約 100種

類以上の生物種のゲノムシークエンスが完了して

いるなか、新しいゲノム研究の焦点は遺伝子とい

う貴重な情報を人類の健康・疾病の治療に役に立

てることなどにフォーカスしている。そのため、

遺伝子の構造・機能および遺伝子の発現制御機構

を明らかにし、生命のメカニズムを遺伝子の側面

から解明しようとしている。バイオインフォマ

ティクスに関わる研究においても、従来のゲノム

配列の解析から、次第に比較ゲノミクス、高次

データベースの構築、トランスクリプトーム解

析、多様性解析、タンパク質高次構造、ネットワー

クシミュレーション、細胞シミュレーション、プ

ロテオーム解析、タンパク質相互作用などの分野

へとシフトしている。プロテオーム解析及びタン

パク質相互作用の解析に関しては、次節または別

◆略歴◆ 青島 健:三井情報開発(株)バイオサイエンス本部 研究開発部・部長

1993年東京工業大学物理情報工学専攻卒業、工学博士。1996年三井情報開発(株)入社後、バイオインフォマティクス関連研究開発に従事。主な研究分野は臨床情報とリンクした疾病ゲノム・プロテオーム解析、遺伝子ネットワーク同定及び可

視化アルゴリズムなど。2001年から現職。

 

青島 健   三井情報開発 (株) バイオサイエンス本部 研究開発部 

はじめに

バイオインフォマティクスは、生命現象を情報

という観点から解明しようとの目的で生まれた新

しい研究分野である。当初はゲノム配列解析の支

援ツールからスタートしたが、現在は遺伝子の構

造解析、機能解析、発現解析、タンパク質の機能・

構造解析、プロテオーム解析、分子間相互作用解

析、疾病感受性遺伝子による遺伝子診断、ゲノム

創薬など、さまざまな生物科学・医科学などの研

究分野にとって不可欠な存在となっている。とく

に、ポストゲノム時代に突入している現在、膨大

で多種多様な医学情報・生物情報を効率よく整

理・解析し、その生物学的・医学的な意味を明ら

かにするために、バイオインフォマティクスはき

わめて重要な役割を示している。

バイオインフォマティクスに関する理解は、研

究者によってさまざまのようであるが、「生体現

象をシステム的・数学的に捉える」というのが共

通の認識であり、バイオンフォマティクスがカ

バーしている範囲もどんどん広くなっている。筆

者らが長年にわたって従事してきたバイオイン

フォマティクスの内容から分類すると、1) クリニ

カルインフォマティクス(clinical informatics)、

2) バイオリソースインフォマティクス(bioresource

informatics)、3) ゲノムインフォマティクス

(genome informatics)、4) トランスクリプトーム

インフォマティクス(transcriptome informatics)、

5) プロティンインフォマティクス(p r o t e i n

infromatics)、6) プロテオームインフォマティクス

(proteome informatics)、7) グライコムインフォマ

ティクス(glycome informatics)、8) システムバイ

オロジー(systems biology)などの分野がある。こ

れらの分野は丁度、米国NIHが定義している、バ

イオインフォマティクス(bioinformatics)とコン

ピュテーションナルバイオロジー(computational

biology)を足し合わせたものに相当する。NIHで、

バイオインフォマティクスに関する定義は、生物

学、医学、ヘルスケアなどのデータを体系的に

データベース化・可視化することを含めたコン

ピューターツールの提供である。また、コン

ピューテーショナルバイオロジーの定義は、生物

学、行動学及び社会システムの研究に関するデー

タ解析手法、理論的な手法、数学的モデリング技

術およびコンピューターシミュレーション技術の

開発および応用である 1)。

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)7

の機会に述べることとし、本節はその他の部分に

ついて解説する。

比較ゲノミクスは、同種及び他の生物種の類似

配列との比較によって、共通に保存されている

コーディング領域を発見し、相同な遺伝子の構造

を正確に知ることができるだけでなく、タンパク

質をコードしていない機能性 RNAや遺伝子発現

調節領域などが検出できる。したがって、比較ゲ

ノム技術は、バイオインフォマティクスの中で最

も重要な分野のひとつである。

高次データベースはゲノム統合データベースと

もいい、各種の基本データを組み合わせたり、基

本データベース中から特徴を抽出したりして作ら

れるデータベースのことをいう。この分野で目指

しているのは「遺伝子百科辞典」を作成すること

である。例えば、がん抑制遺伝子 p53 について、

その言葉の定義、塩基配列、ゲノム上の位置、ド

メイン・機能情報、関連遺伝子パスウェイ、他の

生物種との相同性、発現情報、多型情報、疾病情

報、臨床情報、薬剤情報、実験情報、特許情報、

文献情報など、さまざまな情報を体系的にまと

め、一枚のシート上で見ることができれば大変便

利である。

トランスクリプトーム解析は現在最も活発な分

野の一つであり、DNAチップや DNAマイクロア

レー技術の発展により、数百から数万個の遺伝子

の発現を一度の解析で得られるようになった。し

かし、異なる実験条件(ワイルド株対変異株、無

刺激対外部刺激、健常対疾患、または同一実験内

における時系列の測定)下での遺伝子発現実験を

行った場合、データの次元が増え、解析も複雑に

なってくる。近年、バイオスタティスティクス

(biostatistics)という言葉をよく耳にするが、こ

れはこれらのデータを統計学的なアプローチで生

物学的・医学的な意味を見出そうとしている学問

である。また、生物は物理学や化学より複雑な現

象を示すことが多く、単純な統計解析を行っても

有意な結果が得られないケースもしばしばある。

そのため、人工知能(AI)のような学習機能を有

する高度な解析手法を用いるようになった。その

代表としては、学習機能付きアルゴリズムニュー

ラルネットワーク(NN)2)、ファジーニューラル

ネットワーク(FNN)3)、サポートベクターマシン

(SVM)4)などの方法が用いられるようになり、バ

イオインフォマティクスの研究者の注目を集めて

いる。

多様性解析分野においては、特に近年、ヒトの

病気の原因解明、診断、医療といった医療分野で、

マイクロサテライトや一塩基多型(SNP)がもっ

とも注目されている。SNP は各個人の遺伝的背

景(genotype)を個別化するのに最適であると考

えられ、臨床情報(phenotype)と比較するアソシ

エーションスタディにより、「体質」が同定でき

ると期待されている。そのための解析手法として

リンケージ解析、ハプロタイプ解析、ケース対コ

ントロール解析など、いわゆる集団遺伝学的な解

析アプローチが主流である 5)。

タンパク質高次構造解析は、比較的古くから研

究されている分野である。一次配列からのタンパ

ク質の立体構造予測は、ホモロジーモデリング、

図1 遺伝子間の制御関係を推定する主なアプローチ

threading法(フォールド認識法)、分子動力学に

基づく ab initio立体構造予測法などがあるが、い

ずれも高い精度を実現するには課題が残ってい

る。今後、X線結晶構造、NMRなど他の実験結果

を利用・学習し、より高精度の立体構造予測法が

求められる。

情報処理(in silico)による遺伝子ネットワーク

の同定はまだ発展途上であるが、生命のメカニズ

ムへの理解に必要な技術である。現在、この問題

に挑戦する実験方法は主に2種類ある。 1) 遺伝子

をノックアウトした場合の発現変化からネット

ワークを同定する方法と、2) 特定条件下における

遺伝子発現の経時変化から遺伝子ネットワークを

同定する方法がある。また、解析モデルは、構造

モデル(ブーリアンネットワーク 6)、ベイジアン

ネットワーク 7)とダイナミックモデル(線形モデ

ル 8)、S-system9))の2つに集約される(図1)。

遺伝子発現実験データ ネットワーク推定モデル 推定ネットワーク

X1

X2X3

X4

X5

X6

X7

X8

ダイナミックモデルu 線形モデルu S-System

構造モデルu ブーリアンネットワークu ベイジアンネットワーク

遺伝子発現実験データ ネットワーク推定モデル 推定ネットワーク

X1

X2X3

X4

X5

X6

X7

X8

ダイナミックモデルu 線形モデルu S-System

構造モデルu ブーリアンネットワークu ベイジアンネットワーク

遺伝子破壊株(過剰発現株など)発現プロファイルデータ

特定条件(K.O.実験,薬剤投与,照射など)において、時系列測定を行った発現プロファイルデータ

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)8

生体シミュレーション技術の確立は、バイオイ

ンフォマティシャンの夢である。その実体は、分

子・細胞・生命レベルの各種シミュレーターを作

成することであり、生物現象の解明の研究と予

測・実証研究などが主な課題である。現在、この

ようなシステムの多くは、転写や代謝系のネット

ワークをルールとして記述すると、それに基づい

てシステムの挙動を微分方程式などでモデル化し

て表示している。しかしながら、生命現象は極め

て複雑であり、遺伝子ネットワークや代謝系の

ネットワークがわかっても、おのおのの素過程に

おけるパラメータが知られていないため、シミュ

レーションと現象の理解とは必ずしも等しくない

のである。筆者らが考えている究極のシミュレー

ションとは、10 %の実験と 90 %のシミュレー

ションで生体現象の解明が実現できるものであ

る。

プロテオームインフォマティクス

の新たな展開

解析の視点から見た場合、ゲノムレベルは比較

的静的であるのに対し、タンパク質は極めて多様

であり、ひとつの生物体において量・質ともに時

間的・空間的に変動しており、動的である。プロ

テオームを調べることは、その細胞が持っている

タンパク質の全体像を調べることであり、翻訳後

にリン酸化、糖化などの各種修飾を受けてタンパ

ク質の構造や機能が変化している場合には、それ

らの状況も分かる。つまり、細胞の生理的な状態

や病理的な状態をタンパク質という視点で監視で

きるということである。したがって、たとえば細

胞が老化や分化、癌化などを起こしたときのプロ

テオームの変化を解析することによって、それら

の細胞の機能変化を陰で操っているタンパク質の

正体を捕まえることができるのである。伝統的な

プロテオーム解析手法は、2 次元電気泳動(2D-

PAGE)により、ある細胞に発現しているタンパ

ク質を分離し、得られたゲル画像をコンピュー

ターでパターン比較などの処理をして、タンパク

質の同定及び発現解析を行ってきた。現在も、2D-

PAGEによるタンパク質の同定は有効な方法の一

つとして用いられている。しかし、この方法には

タンパク質同定の精度、再現性、スループットな

どの問題があり、何らかの別の方法で分離された

タンパク質の同定が必要となっている。

近年、2D-PAGE法で分離されたタンパク質をト

リプシンなどで酵素消化し、得られたペプチドを

質量分析(MS)することによってタンパク質を

同定する方法が脚光を浴びている。さらに、2D-

PAGEの代わりに、液体クロマトグラフィー(LC)

によってタンパク質を分離する方法を用い、酵素

消化、質量分析などの過程をすべてオンライン化

することにより、効率化を図っている。

MS によるタンパク質の同定方法は主に、1) ペ

プチドマスフィンガープリント法(PMF)及び、

2) ペプチドシーケンスタグ法(PST)との二つの

方法がある。PMFは得られたMS測定値と理論値

とを比較し、タンパク質を同定する方法である。

PST は得られた MS/MS波形スベクトルから質量

差を解析してタンパク質を推定し、同定する方法

である。PMF 及び PST に対応したソフトウエア

も数多く発売されており、その代表としては

Profound、Mascot、Lutefiskなどがある。しかし、

どのソフトウエアでも偽陽性(false positive)、翻

訳後修飾への考慮は不十分であったり、定量解析

への未対応など、いくつかの課題が残っている。

また、これら市販されているソフトウエアは殆ど

欧米製のもので、国産はまだ存在しない。

近年、質量分析及び周辺技術の急速な発展によ

り、大規模プロテオームの解析ができるように

なった。質量分析の各々の過程において、各種ロ

ボット(スポット切り出しロボット、分注ロボッ

ト、自動プレート洗浄ロボット、サンプル運搬ロ

ボット、及びサンプルオートローダーなど)を導

入し、徹底的に自動化を図っている。これにより、

極めて高速でタンパク質の解析ができる、いわゆ

るプロテオーム解析工場の時代がやってきた。現

在、もっとも効率のよい研究施設では、一日当た

り約 10,000スポット(タンパク質)の解析ができ

る。このようなハイスループット解析を支えるた

め、膨大な実験データをいかに効率よく処理し、

高速、かつ高精度でタンパク質を同定するかは、

バイオインフォマティクスに従事している研究者

が直面している大きな課題である。筆者らは、

エーザイ(株)と共同で、昨年から先進プロテオ

ミクスプラットフォーム研究の一環として、質量

分析計測の自動化・高速化及び、専門家のノウハ

ウを学習できるタンパク質検索エンジンの開発に

挑戦している。

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)9

参考文献1) http://www.bisti.nih.gov/2) S. Bicciato et al., Biotechnol. Bioeng., 81, 594-606(2003)3) T. Ando et al., Jpn. J. Cancer Res., 93, 1207-1212(2002)4) T. S Furey et al, Bioinformatics, 16, 906-914 (2000)5) 鎌谷直之編集, ポストゲノム時代の遺伝統計学, 羊土社,2001

第3回創薬ビジョンシンポジウム開催!

来る1月15日より本部会主催 「第3回創薬ビジョンシンポジウム」を昭和大学上條講堂にて開催します。 本会では 「創薬 ・医薬品産業 ・薬学の将来を考える」を主題とし、 創薬全般の領域において、 「今伝えなければならない将来への提言と展望」について議論されました。

【第1日目】1 月 15 日 (木) 【第2日目】1 月 16 日 (金)

13:30-14:00 薬学研究ビジョン部会 第3回総会

14:00-14:30 オープニングリマーク 

         水島 裕 (東京慈恵会医科大学DDS研究所)

             「日本の医療と創薬研究の将来について」

14:30- 15:30 特別講演 Shiew-Mei Huang

        (FDA, Center for Drug Evaluation and Research)

         「The role of pharmacogenetics in drug

     development and regulatory review一 current status」

15:30- 16:30 特別講演 Willy Roth (Boehringer Ingelheim)

         「The new focus of drug metabolism and

         pharmacokinetics in the drug discovery phase」

16:30-17:30 特別講演 宮田 満

                (日経BP社・先端技術情報センター)

              「創薬における日本のとるべき道」

17:45-20:00 懇親会

         (昭和大学病院17 階、レストラン昭和)

9:30-10:00 特別講演 木村 栄一 (日本薬学会・会頭)

       「日本の薬学の将来像について」

10:00- 10:45 辻  彰 (金沢大 ・薬)  

「トランスポーターと創薬戦略」

10:45- 11:30 山口 明人 (大阪大 ・産研)

「トランスポーターの結晶化と機能解析」

11:30- 12:15 西島 和三

  (蛋白質構造解析コンソーシアム、持田製薬・研開本部)

「タンパク質の構造情報を活用した創薬」

 

13:15-14:00 高岡 雄司 (大正製薬・研究システム部)  

   「Drug-likenessと合成展開の容易さを予測する試み」

14:00- 14:45 多田 幸雄 (大鵬薬品 ・創薬センター) 

         「構造活性相関解析によるADME-Tox を

                    考慮したドラッグデザイン」

15:00- 15:45 廣田 光恵

          (厚生労働省・医政局・研究開発振興課) 

          「行政における創薬への取り組み ・

              行政の研究開発支援 -」

15:45- 16:30 Nicholas Paul Davies 

         (IBM ビジネスコンサルティングサービス

          Life Sciences/Pharmaceuticals Division) 

     「Pharma 2010一Targeted treatment solution will  

                 drive the new discovery model」

16:30- 16:40 閉会の辞 次期大会委員長

  

1月15日 (木)-16日 (金) 昭和大学 上條講堂に於いて

6) T. Akutsu et al., Pacific Symp. Biocomput., 17-28(1999)7) N. Friedman et al., J. Comput. Biol., 7(3-4), 601-620

(1998)8) E. P. van Someren et al., Proc. ISMB, 355-366 (2000)9) M. A. Savageau, J. Theor. Biol., 151(4), 509-530(1991)

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)10

1 薬理ゲノミクスとケモゲノミクス

2003 年 4月 14日、「国際ヒトゲノム計画」にお

けるヒトゲノムシークエンスの解読完了が、関係

6カ国首脳により宣言された。2001 年 2 月 15日

(Nature)、16 日(Science)にヒトゲノムドラフト

シークエンスが報告 1)されてから約2年余を経過

して、99.99%の精度で解読された。その結果、現

実にポストゲノムシークエンス(機能ゲノミク

ス)時代がスタートした。この機能ゲノミクスを

基盤にして薬理ゲノミクス 2)とケモゲノミクス3)

が構築されつつある。ゲノム創薬は、この薬理ゲ

ノミクスやケモゲノミクスにより初めて可能にな

ることから、今後の展開は熾烈さを極めると思わ

れる。薬理ゲノミクスは、既存医薬品の作用/副

作用に関与する遺伝子クラスターを同定、ゲノム

/プロテーム機構を解明し、薬物応答性の個体差

機序を解明する。さらに未解決のヒト病態(主に

多因子疾患)に有効な新しい薬物療法を確立する

ことにある 4)。精密なゲノム地図が完成した今世

紀には、人類史上始めて経験する、想像もできな

い速度での創薬ターゲット発見/バリデーション

や新しい治療法開発が成し遂げられることが期待

されている。

しかし、その創薬ターゲットバリデーションは、

予想以上に困難性が伴うことも明らかになりつつ

ある 5)。そこで、薬理ゲノミクスを補う基盤科学

としてのケモゲノミクス(chemogenomics)が新し

く展開している 3)。ケモゲノミクスは、医薬品を

含む低分子化合物による機能ゲノミクスであり、

chemical genomics、chemical genetics、chemical

biologyなどとも呼ばれている研究領域で、疾患に

メタボローム/トランスクリプトーム解析による創薬ターゲットバリデーション

    田中 利男   三重大学 医学部薬理学教室 ・生命科学研究支援センター

対応する医薬品に焦点を当てる薬理ゲノミクスよ

りも、対象が広い。さらに創薬ターゲットバリ

デーションにおいて、最も重要なエビデンスは、

低分子化合物による治療的薬理作用の確証である5)。我々はこの課題に対して、トランスクリプ

トームとメタボロームの統合的解析の有効性を明

らかにしたので、解説する6)。

 

2 ゲノム創薬における     ターゲットバリデーション

ゲノム創薬における本質的困難性は、主要な医

薬品が単一遺伝子疾患ではなく、多因子疾患を適

応症としていることに起因する。多因子疾患は、

環境因子と遺伝因子の複合的機序により発症する

とされている。すなわち、多因子疾患病態におけ

るゲノム機構の完全解明なしに新規治療薬創製を

試みることが、ゲノム創薬における基本的困難性

の主因である。これらのことから、現時点で薬理

ゲノミクスは一見不可能に考えられる。しかし、

我々人類は不完全ながらも多因子疾患の病態解明

を待たずに、少なくとも 483種類の分子を標的と

する治療薬を創製している4)。さらに、依然とし

てヒトゲノムの中に新規創薬ターゲットが残され

ており、これをより効率良く適切な方法で探索す

ることが、ポストゲノムシークエンス時代の現在

の最大の緊急課題であることに異論はない。ヒト

ゲノムシークエンスが完了した現在、前世紀の分

子生物学時代の遺伝子発見は完成度が上がり、機

能ゲノミクス研究が最盛期を迎えている。その結

果創薬ターゲット候補リストは膨張しているが、

創薬ターゲットバリデーションは困難を極めてお

り最大のボトルネックとなっている。

◆略歴◆田中利男:三重大学 医学部薬理学・教授、同・生命科学研究支援センターバイオインフォマティクス・併任教授1980年三重大学大学院医学研究科博士課程修了。1980年三重大学医学部薬理学助手、1982年同講師、1982年米国ベイラー医科大学細胞生物学留学、1983年三重大学医学部薬理学講師を経て、1988年4月から現職。1996年よりジェノックス創

薬研究所に参加、1998年よりゲノム創薬フォーラムに参加。

薬学研究最前線(1) 研究紹介

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)11

3 メタボローム解析による     ターゲットバリデーション

我々は、創薬ターゲット発見/バリデーション

にトランスクリープトーム/メタボローム解析を

主に一次スクリーニングとして活用している。現

時点では、病態選択性の確立はトランスクリプ

トーム/プロテーム/メタボローム解析が頻用さ

れている。すなわち主に病態時に発現が変動する

生体防御遺伝子や治療遺伝子(新規創薬ターゲッ

ト)に焦点を当て解析している。具体的には、病

態選択的に疾患形質を改善する機能をもつ新規創

薬ターゲット遺伝子(産物)や代謝物が得られて

いるので、その具体例を提示する 6,7,8)。

既に述べたように、ターゲットバリデーション

は、医薬品を含む低分子化合物の活用により、初

めて確立する。しかしながら、創薬ターゲット候

補に作用する低分子化合物が、常に存在するわけ

ではない。そこで、創薬ターゲット候補に作用す

る低分子化合物を得る(リード化合物発見)ため、

大規模なケミカルライブラリーのハイスループッ

トスクリーニングが、試みられる。それでもなお

適切なリード化合物が存在しない状況で、ター

ゲットバリデーションが必要となることが多い。

そこで、我々はこの基本的課題を克服するため

に、機能ゲノミクスに内在する知恵を活用してい

る。すなわちラットの虚血や低酸素病態における

トランスクリプトーム/メタボローム解析と薬理

ゲノミクス研究から新しい創薬ターゲットとして

のS100C遺伝子発現機構を見い出した。この場合

は、創薬ターゲット発見と同時に、そのターゲッ

トに作用する低分子発見をメタボローム解析によ

り成し遂げ、バリデーションへの活用につなげて

いる我々独自の研究戦略を実践している6)。① 低

酸素に曝露したラット肺でのトランスクリプトー

ム解析や、冠状動脈結紮により作製した心筋梗塞

ラットモデルにおいて、我々が独自にクローニン

グしたS 100Cの mRNAおよび蛋白質レベルでの

発現量が増加していることを見出した。② 低酸

素によるS100C遺伝子の転写調節にはHIF-1が関

与していることを明らかにした。③ 低酸素暴露

ラット肺におけるメタボローム解析より選択的な

タウリンの濃度上昇を見い出した。④ 血管平滑

筋において、S100C 遺伝子の低酸素性発現誘導

は、タウリンによって抑制されることを見い出し

た。また、⑤ レポーターアッセイの結果から、こ

の抑制は転写レベルでの阻害を介していることが

明かとなり、タウリンによる低酸素や虚血に対す

る細胞保護作用は、S100C遺伝子の転写制御を介

していることが示唆された。⑥ ラットを低酸素

環境に暴露すると、肺動脈圧上昇や、末梢肺動脈

での形質変化など肺血管リモデリングが認めら

れ、臨床における慢性閉塞性肺疾患、心疾患、肺

移植後などの難治性肺高血圧症の所見がみられ

る。また、in vitroの結果と同様に、S 100C遺伝

子の発現上昇が in vivoでも認められる。⑦ この

肺高血圧症モデルラットにタウリンを経口投与す

ると、S 100C遺伝子の発現上昇が阻害されると

同時に、⑧ 病的な血管リモデリングが抑制され

ることが明らかとなった。さらに⑨ βアラニン

によりタウリンレベルを低下させると、S100C遺

伝子発現と血管リモデリングは増加した。以上の

結果より、タウリンは低酸素病態で組織濃度が上

昇し、低酸素ストレスにより発現誘導される

S100C 遺伝子を転写レベルで抑制することによ

り、血管病変の進行に抑制的な作用を示すことが

明らかとなった 8)。

以上の具体的な例から、病態選択的に疾患形質

を軽快させる治療遺伝子を探索し絞りこんでゆく

過程におけるトランスクリプトーム/メタボロー

ム解析による薬理ゲノミクス/ケモゲノミクスの

重要性が明らかとなった。

4 ファルマコインフォマティクス

創薬ターゲットバリデーションの方法論とし

て、現在国際的に最も期待されているものが薬理

ゲノミクス/ケモゲノミクスである 2,3)。これら

の方法論の特色は、ハイスループット化された手

法が活用されるためそのデータ生産速度や量は従

来の方法に比較すると莫大な増加がありデータ過

重は不可避である。さらに、ヒトゲノムプロジェ

クトを中心とした公開遺伝子データベース、公開

文献データベース、化合物データベースは、イン

ターネット等最近のインフラストラクチャー整備

に伴いその拡充に著しいものがある。そこで、

我々は独自の薬理ゲノミクスデータベースを構築

し、その 一部 は公 開し て い る( h t t p : / /

www.jscr.medic.mie-u.ac.jp/)。

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)12

このデータベースが薬理ゲノミクス/ケモゲノ

ミクス(トランスクリプトーム/プロテオーム/

メタボローム解析)と有機的に統合され、活用さ

れることを目的としているのがファルマコイン

フォマティックスである。具体的には、登録低分

子化合物 13,883 種/延べ 5,642,535 文献数、登

録疾患 1,214種/延べ 4,606,342文献数、登録遺

伝子 11,980種/延べ 76,452,677文献数による薬

理ゲノミクスデータベースである。さらに創薬

ターゲット決定支援プログラムとして機能する薬

理ゲノミクスデータベースを開発中であり、2004

年には公開予定である。その基盤は、医薬品に関

連する遺伝子クラスターと疾患関連遺伝子クラス

ターを機能ゲノムネットワーク上に表示するもの

である。この結果、治療遺伝子クラスター、病態

遺伝子クラスター、治療/病態遺伝子クラスター

が機能ゲノムネットワーク上に明示されることに

なる。これらの情報を統合することにより、医薬

品作用の薬理ゲノム/プロテーム機構に新しい洞

察が可能となり、テーラーメイド医療の基盤情報

として活用されると思われる。

これらの新しい薬理ゲノミクス/ケモゲノミク

スを基盤としたファルマコインフォマティックス

を構築し、その有効性を確立することが次世代の

薬理ゲノミクスの成否を決定すると思われる。さ

らに、この新しい薬理ゲノミクスは革新的治療

薬の創製を可能にするだけではなく、新規低分

子医薬がどのようなゲノム/プロテーム機構を

介して、真の治療を可能にしているかを我々に

明確に示し、全く新しい治療学が確立すること

も期待される。

謝辞:本研究の一部は、文部科学省、厚生労働

省、経済産業省の支援による。

参考文献1) E. S. Lander, L. M. Linton, B. Birren, et al, Nature, 409, 860-921 (2001)2) T. Tanaka, Y. Nishimura, H. Tsunoda , M. Naka,J. Cardiovasc. Pharmacol. , 36(Suppl.2), S1-4(2000)

3) M. Habeck, Targets, 2(3), 75-77 (2003)4) J. Drews, Science, 287(5460), 1960-1964 (2000)5) H. Winkler, Targets, 2(3), 69-71 (2003)6) H. Amano, K. Maruyama, M. Naka, T. Tanaka, The Pharmacogenomics J. 3(3), 183-188 (2003)7) Y. Nishimura, T. Tanaka, J. Biol. Chem., 276(23), 19921-19928 (2001)

8) H. Suzuki, K. Kanamaru, H. Tsunoda, et al, J. Clin. Invest., 104, 59-66 (1999)

第2回部会フォーラム、 124年会 (大阪薬学会)において開催!!

3 月 30 日 (火)15:00-18:00 J 会場 ATC ホール コンベンションルーム

第2回創薬ビジョンフォーラム  主題 :創薬プロテオミックス

【プログラム】

オーガナイザー挨拶 石黒正路 (サントリー生有研)

創薬プロジェクトへの新しいハイスループット手法 : 植田充美 (京大院農)

生体内ペプチドのファクトデータベース、 ペプチドームと創薬 :南野直人 (循環器病セ)

構造プロテオミクスとハイスループット技術の創薬プロテオミクスへのインパクト:

宮野雅司 (理研播磨研)

薬理プロテオミクスに基づくネットワーク標的創薬 : 松尾 洋 (理研ゲノム科学総合研究セ)

プロテオミクスによる創薬ターゲットの探索 : 小島深一(住友製薬)

総括 古谷利夫(ファルマデザイン)

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)13

 研究紹介 薬学研究最前線(2)

 2003 年 11 月 3 日、米国 FDA は新薬の臨

床開発申請の際に必要な遺伝子多型らのファー

マコゲノミクス情報に関するドラフトガイダン

スを発表した。薬剤応答性に関連する遺伝子を

解明し、最適な薬物療法の実現等を推進するこ

と、即ち薬が効く患者と効かない患者の遺伝子

の塩基配列を比較することにより、遺伝子多型

と薬の効果・副作用との関連を解明することは

重要である。ヒトゲノム一塩基多型(SNP)の

網羅的解析により、近年、薬物トランスポー

ターの遺伝子多型の情報が蓄積している。薬物

トランスポーターは薬物代謝酵素に匹敵して、

薬物の体内動態を規定する重要な因子である。

吸収・分布・排泄に関与するトランスポーター

等の SNP とその機能を解明することにより、遺

伝子多型と薬の効果・副作用に関連する知見が

得られ、薬剤の有効性の向上、副作用の低減等、

新薬の研究開発の基盤整備が確立されると考え

られる 1)。

ヒト薬物トランスポーター遺伝子群の cSNPと

基質特異性の差異との関係を解明し、薬剤応答性

予測に役立つ測定技術とデータベースを開発する

ことが必要である。薬物輸送に関与するABCトラ

ンスポーター 2)である ABCB1 (P-糖蛋白質; P-

gp)と ABCG2 (BCRP)の遺伝子多型と機能との関

連性を解明することを目的として、我々は i n

vitro発現系と高速スクリーニング系を構築し、ア

ミノ酸変異体の基質特異性を解析した。アミノ酸

変異を引き起こすSNPに関しては、NCBIゲノム・

データベースから得られた情報を基に、アミノ酸

変異体をコードする cDNA を部位特異的変異に

よって作成し、Sf9 細胞または HEK293細胞に発

現させた。またさらに、構造機能相関に基づいて

ABC トランスポーター 遺伝多型の機能解析から創薬への応用石川 智久 東京工業大学 大学院生命理工学研究科

基質特異性を解析するアルゴリズムも開発して、

薬物動態に影響すると予想される SNP を同定す

るとともに、SNPによって影響を受ける薬物を発

見する解析方法を検討した。

ABCB1(P-gp)遺伝子多型の機能解析

ファルマスニップコンソーシアムとの共同研究

において、最近我々は 96 ウェルプレートを用い

たスクリーニング方法を確立し、ABCB1の基質

特異性解析に応用した。Sf9 細胞膜には内因的な

ATPase活性が存在するが、ABCB1を発現するSf9

細胞膜では、基質を加えると ATPase活性に有意

な上昇が確認される。41種類の市販医薬品および

生理活性物質をもちいて ATPase 活性を測定し、

Chemical Fragmentation Codesによる解析をおこ

なった 3)。薬物濃度 10 μ Mにおける ATPase活性

(verapamil に対する比活性)を目的変数とし、

Chemical Fragmentation Codesの有無をダミー変

数として線形重回帰を行った。その解析の結果か

ら基質特異性と相関性のよい C h e m i c a l

Fragmentation Codesの組み合わせを選択した。

その結果、ATPase 活性に関して、実測値と予測

値がほぼ一致し、ABCB1 の基質認識において重

要な分子構造因子を同定することに成功した 3)。

今回得られたChemical Fragmentation Codesの組

み合わせ結果は、ABCB1 バリアントごとの基質

特異性を記述するデータベースとして利用するこ

とができるものと考えられる。

次に 、ア ミ ノ 酸 変 異 を も つバ リ ア ン ト

(Asn21Asp、Asn44Ser、Phe103Leu、Gly185Val、

Ser400Asn、Ala893Ser、Ala893Thr、Met986Val)

を発現する Sf9 細胞を作成した 1)。そして、その

発現細胞から細胞膜画分を調製して、機能解析

◆略歴◆ 石川 智久:東京工業大学 大学院生命理工学研究科・教授

1982年北海道大学大学院理学研究科博士課程を修了。1987年までデユッセルドルフ大学医学部博士研究員。1987年大阪大学医学部助手。1989年ドイツ癌研究所にてプロジェクトリーダー。1991年テキサス大学M.D. アンダーソン癌センター助教授。1995年ファイザー製薬(株)中央研究所の主任研究員、室長、東京本社・研究技術開発担当部長を歴任。2000年6月から現職。

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)14

(ATPase活性測定)を行った。アミノ酸変異を持

つ ABCB1バリアントの基質特異性(Vmaxおよび

Km 値)を解析する場合、各バリアントの Sf9細

胞における発現量をきちんと定量化して補正する

必要がある。Sf9細胞膜に発現したアミノ酸変異

を持つ ABCB1の verapamilに対する Vmaxおよび

Km 値をもとめた結果、各バリアント間で、Vmax

および Km 値に有意な差が認められた 1)。この差

が薬物の体内動態にどのように寄与するのかを解

明するためには、今後臨床データとの関連づけが

重要になるであろう。

ABCG2(BCRP)の遺伝子多型および        獲得変異の機能解析

ABCG2(BCRP)は anthracycline耐性の乳癌細胞

株、mitoxantrone耐性のヒト大腸癌細胞株、そし

てヒト胎盤cDNAライブラリーからクローニング

された新規ABCトランスポーターである。我々は、

以下のアミノ酸変異を伴う遺伝子多型および獲得

変異の機能への影響を解明した:Val12Met、

Thr123Tyr、Gln141Lys、Gln166Glu、Phe208Ser、

Ser248Pro、Glu334stop、Arg482Gly、Arg482Thr。

アミノ酸変異をもつバリアント cDNAを Sf9昆虫

細胞に発 現さ せ て、機能解析 を行っ た 4 )。

Val12Met、Thr123Tyr、Gln141Lys、Gln166Glu、

Phe208Ser、Ser248Proのバリアントを発現した

S f 9 細胞膜ベシクルは A T P に依存した [ 3 H ]

m e t h o t r e x a t e 輸送活性を示した 4 )。一方、

Glu334stop、Arg482Gly、Arg482Thr のバリアン

トは、methotrexate を全く輸送しなかった 4)。

昆虫細胞で得られた結果を哺乳類細胞で検証

するために、pcDNA3.1ベクターを用いてABCG2

の野生型(Arg482)と獲得変異体(Arg482Glyと

Arg482Thr)を HEK293細胞に恒常的に発現させ

た 5,6)。昆虫細胞膜の系で観測されたのと同様に、

ABCG2 の野生型(Arg482)は A T P - 依存性

mitoxantrone輸送能力をもつ一方、Arg482Glyと

Arg482Thrタイプはmethotrexateを輸送しなかっ

た 5)。さらに ABCG2野生型(Arg482)はイリノテ

カンの活性中間体であるSN-38に対する耐性に寄

与することが判明した 6 )。また、獲得変異体は

mitoxantrone、 doxorubicin、 daunorubicinに対する

耐性に大きく寄与していることが判明した。今

後、機能に関係する SNP を同定し解析すること

は、臨床での薬剤応答性と SNP との関係を解明

するうえで極めて重要になると考えられる。

おわりにSNPの薬物トランスポーターへの影響を解析

するにあたっては、少なくとも次の2つの場合

を考慮しなくてはならないだろう。

(A) アミノ酸変異を伴うSNPによって、薬物ト 

ランスポーターの機能が変化する場合。

(B) プロモーター領域のSNPによって、薬物ト 

ランスポート遺伝子の発現レベルが変化する場 

合。

前者は質的変化であり、後者は量的変化であ

る。特に後者について、薬物トランスポーター

遺伝子の発現の変化は、薬を長期投与する際、

薬理効果の低下や副作用の原因にもなる可能性

がある。最近我々はヒト ABCトランスポーター

遺伝子全て(48 種類)について、プロモーター

領域を in silico解析した 7)。今後、プロモーター

領域の SNPの遺伝子発現への影響を in vitro実

験で検証する必要がある。そのためには、研究

結果を速やかに統合して、薬物トランスポー

ター遺伝子群のSNP機能解析のデータベースを

構築し、薬剤応答性予測に役立つ測定技術を開

発することが重要であろう。

参考文献1) Ishikawa, T., Tsuji, A., Inui, K., Sai, Y., Anzai, N.,

W a d a , M . , E n d o u , H . a n d S u m i n o , Y .Pharmacogenomics 5, in press (2004)

2) Ishikawa, T. In Cooper, D.N. (ed.) NatureEncyclopedia of the Human Genome, NaturePublishing Group, London, vol.4, pp.154-160 (2003)

3) Onishi, Y., Hirano, H., Nakata, K., Oosumi, K.,Nagakura, M., Tarui, S. and Ishikawa, T. Chem-Bio. Information Journal 3, 181-199 (2003)

4) Ishikawa, T., Kasamtsu, S., Hagiwara, Y., Mitomo,H., Kato, R. and Sumino, Y. Drug Metabol.Pharamcokin. 18, 194-202 (2003)

5) Mitomo, H., Kato, R., Ito, A., Kasamatsu, S., Ikegami,Y., Sumino, Y. and Ishikawa, T. Biochem J: 373,767-774 (2003)

6) Yoshikawa, M., Ikegami, Y., Sano, K., Yoshida, H.,Mitomo, H., Sawada, S., and Ishikawa, T. J. Exp.Ther. Oncol. in press (2004)

7) Kitajima, M., Matsubara, K., and Ishikawa, T.  http://www.humanABC.bio.titech.ac.jp (2003)

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話題

「ゲノム情報を基盤とした戦略的創薬科学の樹

立」を研究開発テーマとして発足したジェノック

ス創薬研究所(以降、ジェノックス)は、産官学

の協力のもとに多くの成果を上げ、2003年3月末、

研究業務を終了した。研究実施期間7年の間に、

ヒトゲノムを巡る状況は激変し、ゲノム創薬とい

う概念が確固たるものとなった。私達も、微力な

がら、この流れに一石を投じることができたと思

う。本プロジェクトについて概説する。

1 プロジェクトの概要

ジェノックスは医薬品機構による 13 番目の出

資プロジェクトとして、民間 8社の共同出資を得

て 1996年 3月末に発足した。企業ミッションは、

今や、国民病として、非常に関心が高いアレル

ギー疾患について、いわゆる「From Disease to

Gene」により新規創薬標的を見出すことであっ

た。研究所は、帝京大学のレンタルラボを中心と

し、国立小児病院(現、国立成育医療センター)

研究所内にもサテライトラボを構えた。当初、研

究員は、出資会社から派遣された4名程であった

が、プロジェクトの進捗とともに漸増し、最大時

で 21名、スタッフ部門を加えると、総勢 26名規

模となった。官民による出資額は、総額 42.5億円

に達した。出資が終了した2003年3月末日をもっ

て、実質的な研究業務を終了し、現在は、成果管

理会社が、成果の管理、普及を継続している。

ジェノックス創薬研究所 -成果と今後の課題-

2 研究の背景・成果等

1) アレルギー疾患

研究所開設以来の共同研究パートナーであった

国立小児病院によれば、20 代成人の約 80%が特

異的 IgE 陽性であるという。IgEが発症の要因と

なるアトピー性皮膚炎、喘息等のアレルギー疾患

は、先進諸国における代表的な慢性疾患として社

会問題化している。特に、アトピー性皮膚炎は、

近年、成人になってから発症あるいは難治化する

症例が増加しており、患者 QOL の観点から、新

たな治療法にたいする社会の関心が高い。ジェ

ノックスは、創薬の新たな潮流であるゲノム創薬

を前面に掲げて、アレルギー疾患に取り組んだ。

2) 倫理課題への取り組み

ジェノックス発足当初は、厚生労働省によるヒ

トゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針が示

されていなかった。私達は、臨床試料、臨床情報

の入手、管理方法について、1年近い時間を費や

して、患者個人情報の秘匿性に配慮したシステム

を作り上げた。私達の手になる患者情報匿名化シ

ステムは、現在、厚生労働省ミレニアムプロジェ

クトにおいても活用されている。

3) 研究戦略

本プロジェクト期間中に、target identification

biology は、トランスクリプトーム解析、塩基配列

決定等の技術革新により、大きく進歩したが、

target validation biology は、いまだthroughput 性

に乏しい。私達は、アレルギー患者組織における

遺伝子発現と臨床情報を統合的に解析し、多くの

◆略歴◆ 杉田 雄二:山之内製薬(株)創薬研究本部 研究推進部・次長

1977年東北大学 大学院理学研究科修了。同年 昭和大学 薬学部 助手(1983年~ 1985年ニューヨーク大学留学)を経て1990年 山之内製薬(株)入社。1996年~ 2003年ジェノックス創薬研究所出向(19991年~ 2003年研究部長)。2003年 10月から現職。

杉田 雄二 山之内製薬 (株)創薬研究本部研究推進部 (前 ジェノックス創薬研究所)

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)16

疾患関連遺伝子を見いだした。さらに、今後の発

展性(商品価値)を考慮に入れながら、数個の遺

伝子を選択し、踏み込んだ機能研究を行なった。

しかし、大手の製薬企業研究においてさえ、疾患

組織のトランスクリプトーム解析から得られる数

100 個の疾患関連遺伝子から、評価プロセスを経

て、創薬標的パイプラインに加わる遺伝子は数個

であると言われる。私達の研究資源を考慮する

と、全ての資源を個別遺伝子の評価研究に割くの

はリスキーであると判断した。そこで、プロジェ

クトの終盤では、個別遺伝子研究と平行して、企

業ニーズが特に高いと思われるトランスクリプ

トームデータを包括的遺伝子特許として知的財産

化する戦略を進めた。

臨床試料については、臨床情報の重要性を痛感

した。いくら、解析技術が優れていても、均一な

試料群の解析が成されなければ、重要な情報はノ

イズの中に埋もれてしまう。この種の研究では、

医療現場と課題を共有することが必須である。

4) ゲノムテクノロジー

最初の約3年間は、蛍光differential display (DD)

法により患者末梢血細胞を解析した。本法は定量

性に難があるために、定量的PCR法との抱き合わ

せによるスクリーニングシステムを確立した。例

えば、末梢血10 mlから調製したT細胞について、

DD 法により、述べ約 10,000個の遺伝子発現をス

クリーニングし、そこから選ばれた数 100個の遺

伝子について定量的 PCR法による発現量の確認

が可能である。1999 年になると、従来法に比べ、

遥かに t h r o u g h p u t 性に優れた G e n e C h i p

(Affymetrix 社 ) が、利用できるようになった。当

時は、日本での使用実績はほとんどなく、私達は

少量 の R N A に対 応 した プ ロ ト コ ー ル を

Affymetrix社と共同で整備し、患者試料の解析に

用いた。

2001年にヒトゲノムドラフトが公開されると、

大量のゲノム情報が公的 DBを通して利用できる

ようになり、バイオインフォーマティクスが増々

重要な業務となった。ジェノックスは、必要な解

析をin houseで実施できるように諸環境を整備し

たが、この領域での社内資源の不足は否めず、外

部への委託業務を積極的に進めることによって解

析レベルの底上げをはかった。

5) 成果のまとめと今後の利用

患者末梢血 433検体を用いて、同一患者の病態

間比較等、複数の切り口からスクリーニングを実

施した。疾患関連遺伝子 105個を同定し、このう

ち 53 個について特許を出願した。特に、ある種

のオーファン核内受容体遺伝子については、アレ

ルギーにおける好酸球の関与について、SOCS

ファミリー遺伝子については、T細胞の関与につ

いて有益な情報を得ることができた。また患者末

梢血 B細胞 194検体を不死化し、細胞バンクを作

成した。本バンクは、現在、厚生労働省ミレニア

ムプロジェクトにおいて利用されている。

ヒト気道上皮細胞から杯細胞への分化関連遺伝

子群、アトピー性皮膚炎患者の皮疹形成に関与す

る遺伝子群を解析し、1,400 個に及ぶ疾患関連遺

伝子を同定し、包括的遺伝子特許として出願し

た。本特許には、マウス喘息モデル肺組織、マウ

ス皮膚炎モデル皮膚におけるカンターパート発現

情報も付加されており、企業ニーズが高い成果で

あろう。さらに、本特許ライセンス企業による

GeneChip生データの利用も可能である。また、研

究データは、逐次、社内データベースに格納し、

管理してきたが、研究業務収束にあたり、再度整

理し、GENOBA と命名した社内データベースと

してまとめた。GENOBAについても、今後、多く

の研究機関に利用していただく方針である。特許

出願総数は出資終了時、54件であった。成果の概

要とその利用方法については、ホームページに詳

しく記載されているので、是非一度ご覧ください

(http://www.genox.co.jp/)。一方、研究成果は積極

的に学会発表、論文発表を行ない(出資終了時、

学会発表 51件、論文発表 25報)、多少ながらアレ

ルギー研究におけるジェノックスのプレゼンスを

示すことが出来たと考えている。

予算の半分以上を国民からの原資に頼ったプロ

ジェクトである以上、研究成果を、さらに下流の

創薬、診断薬研究に発展させるべく最大限の努力

を払わねばならない。最終年度の下期には、研究

員、スタッフが、20社に上る、製薬、診断薬会社

を訪問して成果の売り込みを行なった。その後、

成果管理会社におけるライセンス活動を経て、現

在までに、4社とのライセシング契約が成立して

いる。

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)17

3 おわりに

研究成果の売り込みを体験する過程で、ジェ

ノックスのようなベンチャー企業が、製薬企業に

興味に持っていただくためには、① 解析試料の貴

重性とデータの信頼性、② 候補遺伝子について

の充分な機能検証が必須であることを痛感した。

①については、ジェノックスはそこそこの有利性

を持ちえたが、②については、研究戦略のさらな

る詰めが必要であったと反省している。私達が行

なった機能研究は、細胞レベル、個体レベルとも

に、ありふれた研究戦略であり、それも短時間の

勝負故に、他機関に追いつき、凌駕するほどの経

験を蓄積できなかった。その結果、多くの候補遺

伝子を見い出したものの、機能研究に進んだほと

んどの遺伝子について、創薬標的としての確度

(遺伝子発現をマニピュレートすることで、病態

が寛解する)を明確に示せないレベルで終わって

しまった。惜しむらくは、機能研究に得意 (特異

)技術を持つ、ベンチャー企業との共同研究を、早

期から収束の時間軸まで考慮しつつ模索出来な

かったものか。さらに、機能研究を深耕化する遺

伝子の選択について明確な方針を出せなかった点

も悔やまれる。ジェノックスの内部では、最後ま

で目指すべき研究成果について認識がヘテロで

あった。極論すると、遺伝子の選択にあたり、学

問的に魅力的 な新たな情報が付加できれば、

druggabilityは考慮する必要がないという主張と、

druggability が認知されている遺伝子ファミリー

に多くの資源を投入すべきだという二つの主張が

あったように思う。私達は、結局、両者を許容し、

バランスを取りながら研究を進めたが、これでは

多くの成果は望めない。下流の創薬研究に明確な

ビ ジ ョ ン が 描 け な い 遺 伝 子 は 捨 て て 、

druggability の高い遺伝子を重要視すべきであっ

た。しかし、このような課題は、多くの半官半民

プロジェクトが引きずるジレンマのようなもので

あろう。最後に、共同研究を通して、ジェノック

ス研究を盛り上げ、支えて下さった諸先生に深謝

申し上げます。

PSWC2004 (第2回世界薬学会議)2nd PHARMACEUTICAL SCIENCES WORLD CONGRESS

「先端治療を担う医薬品開発に向けた科学の地球的展開」

会期 :2004 年 5 月 29 日(土)~ 6 月 3 日(木)会場 :国立京都国際会館 (京都市左京区宝ヶ池)主催 :国際薬学連合 (Federation Internationale Pharmaceutique, FIP)共催 :米国薬学会 , フランス薬剤学会 , ヨ-ロッパ薬学連合 , 国際コントロ-ルドリリ-ズ学会 ,    日本薬学会 , 日本薬剤学会他後援 :厚生労働省 , 文部科学省 , 日本薬剤師会組織委員長 :杉山雄一 (東京大学薬学系研究科教授)

●一般演題(ポスター)申込締切 :2004 年 1 月 14 日(水)                 注)Web 上でのお申込みとなり、 要旨は PDFファイルの添付となります。●参加登録費 (Web 上でのお申込みとなります)●会議登録費   ○ Early Bird (2004 年 1 月 28 日迄)      ○ Advance (2004 年 4 月 14 日迄)       Participants 75,000 円 90,000 円   Academic/Government 60,000 円 75,000 円   Students/Post-docs 20,000 円 25,000 円   Banquet 登録費 一律 12,000 円

各種詳細は、 ホームページでご参照下さい。 http://www.fip.org/PSWC/

☆第 2 回世界薬学会議事務局 :〒 113-0033 東京都文京区本郷 4-2-8 フローラビル 7F                                       (財)日本学会事務センター 内

TEL: 03-3815-1681  FAX: 03-3815-1691  E-mail : [email protected]. jp 

 

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話題

 2003 年度の米国薬学会 (AAPS; American

Association of Pharmaceutical Scientists) 年会

は、10 月 26 日から 30 日の 5 日間にわたり、

Salt Lake City で開催された。本会は、創薬を

念頭とした大規模な国際学会であり、例年、年

会への参加者の半数以上は、製薬企業の研究者

により占められている。他の国際学会と同様、

最近のトピックを扱った 1 時 15 分程度のモーニ

ングセッションの後、3 時間半程度のシンポジ

ウム、2 時間程度のラウンド・テーブルなどが

多数企画されたが、ほとんどのセッションは、

大学および企業の研究者双方によりオーガナイ

ズされる。また、FDA の研究者がオーガナイ

ザーや演者として加わるセッションも多いこと

からも、米国では産・学・官が一体となり創薬

を推進していること、そして AAPS が学会全体と

して創薬を支援していることを知ることができ

る。また一般講演はポスター発表となるが、本

年会では 2,000 演題を超える発表がなされ、ト

ピック性に富んだ演題は Symposium セッション

で紹介する機会が与えられている。また、関連

企業のブース展示も 500 を超え、本会に対する

関心の高さが伺える。

 上述のように、AAPS が創薬をゴールとした学

会ということもあり、本ビジョン部会の目的と

重なる部分も多い。例えば、本年度のプレナ

リー・セッションは Frontiers in Medicine とい

うタイトルで行われたが、このセッションは

Linking genetics, diagnostics and therapeutics

to a drug development plan (Dr. Chamberlain,

Roche Products, Ltd.), Utility of new

proteomics approaches in drug discovery (Dr.

Moran, MDS Proteomics), Imaging for drug

development in post-genomic era: challenges

and opportunities (Dr. Li, NIH), New frontiers

in tissue engineering: the human body on a

chip (Dr. Griffith, MIT) という4演題から構

  AAPS (米国薬学会) の活動について

    -杉山雄一先生が AAPS Award 受賞-

  鈴木 洋史  東京大学医学部附属病院薬剤部 

成されている。そして、薬理ゲノミクス、創薬

分子標的の発見と評価、薬物毒性の迅速なスク

リーニング法などに関する議論が展開されてお

り、創薬に AAPS が学会としてどのように関与す

べきかの議論がなされている。このほか、「創薬

におけるメタボノミクス」、「創薬におけるプロ

テオミクス・ケモインフォマティクス」などの

セッションは、本ビジョン部会の研究対象とも

直接関連している。また、例えば分析分野につ

いても、特に high throuput screeningを目指し

たシンポジウム (Fast analytical technologies

for the new mellenium) が企画されているほか、

Emerging bioassay technologies and designs:

their use in drug discovery, let release

testing and pre-clinical developmentという

セッションでは、新規分析法の導入と創薬とを

密接に関連づけた議論がなされている。そして

薬物動態分野では、Clinical trials simulation

in drug development などのセッションで、いか

に臨床試験を効率的に進めるかについて講演さ

れるほか、Case studies in accelerated time to

market: process, clinical and regulatory

strategies という、迅速な薬物開発を目指した

セッションも設けられている。

AAPS の活動を歴史的に概観すると、従来は、

消化管吸収と関連した溶解性や吸収促進に関す

る話題、高分子などを利用した薬物放出制御や

組織標的化などに関する話題が中心であったが、

その後、薬物体内動態の分子機構の解析などの

分野が加わり、上述のように、現在ではこれら

の背景を基盤としつつ、一段と創薬への志向性

が前面に打ち出されている。AAPS の活動展開を

も参考としながら、本ビジョン部会が益々活性

化されることが期待される。

 また、本年会においては、本ビジョン部会代

表世話人の杉山雄一教授が、AAPS Distinguished

Pharmaceutical Scientist Awardを受賞した。

この賞は2年に一度、目覚しい業績を上げた研

薬学研究に関わる世界の学会

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)19

話題

   

ISSX という学会名を初めてお聞きなる人もお

られるかと思います。ISSX(The International

Society for The Study of Xenobiotics、http://

www.issx.org/)は、薬をはじめとした化合物の吸

収・代謝・分布・トランスポート・排泄等の動態

全般について、生命現象との関わりの広い視野で

の研究を発展させる目的で設立された学会です。

1981 年に Gordon Research Conferences on Drug

Metabolismから独立して創設され、現在は50ヶ国

以上から約 2,500名の会員を有しています。日本

人の会員は近年約 20%となり、USAに次ぐ第2勢

力になっています。これまで ISSXの meetingとし

て、北米 ISSX、European ISSX の各 meeting が毎

年または隔年で開催され、さらに International

ISSX Meetingが隔年または3年毎に開催されてい

ます。

我が国の薬物動態学会(JSSX, The Japanese

Society for The Study of Xenobiotics)には独自

の歴史があり、会員数も約 2,000名を有する非常

に活発な学会です。2004 年には第 19回年会が金

沢で予定されています。これまでJSSXは国際的な

学会交流が十分とは言えない状態でしたが、近

年、杉山雄一教授(東大)や鎌滝哲也教授(北大)

を始めとする多くの方々のご努力により着実に日

本人の ISSX 会員は増加し、国際交流が根付いて

きています。

2004 年には 8 月末にバンクーバーで第 7 回の

 ISSX (国際薬物動態学会)の活動について 

  - 2004/2005 年会長に杉山雄一先生が決定-

International ISSX meeting が予定されています

が、 2005 年 10月には第 13回北米 ISSXと第 20回

JSSX の joint meetingがハワイ・マウイで開催さ

れ、この年は両国の各年会は開催されず大々的な

joint meetingが計画されていることは、国際交流

の結実を具体化したものであり、日本の学術団体

の中でも特筆すべき国際化であります。また、第

8 回 International ISSX meetingは 2007 年に山添

康教授(東北大)により開催されることが決定し

ています。

こうした背景の基、この度 ISSX の 2004/2005

の Presidentに杉山雄一教授(東大)が選出され、

さらに辻 彰教授(金沢大)が、理事に選出され

ましたことは、JSSXの国際化を越えて、世界の動

態研究を我が国が中心で動かしていくという将来

像が見えてきたように感じられます。

近年 ICHを初め、ヒトゲノムプロジェクトの進

展、ゲノム創薬の新たな視点での研究の急展開が

見られます。ISSX と JSSXともに半数以上の会員

が製薬関連企業の方々です。現在 ISSX, JSSX は

医薬品の動態研究のみならず、幅広い視野に基づ

いた創薬研究を主導していく学会になりつつあり

ます。薬学研究ビジョン部会としましても、この

分野の学会の動向に常に関心を持って行きたいと

考えています。

         横井 毅 金沢大学薬学部

究者に贈られるもので、杉山教授は8人目の受

賞者となり、米国在住以外の研究者の受賞とし

ては初めてとなる快挙である。杉山教授の業績

は、本ビジョン部会での活動を通じて会員各位

に広く知られているように、薬物体内動態の分

子基盤を明らかとしつつ、in vivoにおける薬物

作用発現を pharmacokinetics および

pharmacodynamics の手法に基づき in vitro 情報

から定量的に予測することに成功を修めた点に

集約される。この独創的な方法論は、医薬品開

発段階において候補化合物の効率的なスクリー

ニングを可能としたものであり、現在国内外で

進められている創薬の過程においても導入され

つつある。杉山教授の受賞を機に、本ビジョン

部会の活動に基づいて創薬が推進されることを

祈念している。

薬学研究に関わる世界の学会

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Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)20

PSWC2004

2004 年 5 月 31 日~ 6 月 3 日、京都国際会議

場で PSWC2004 が開催される。本会議は、世界薬

学会(FIP)の科学部門(BPS)の現チェアマンであ

る杉山が組織委員長、FIPのVice Presidentであ

る橋田がプログラム委員長の一人となり、その企

画・運営は日本、米国、ヨーロッパが対等に責任

を持つ形で進められる。各担当委員長を表1参照

技術に関する最新事情の情報交換交換を目的として

企画された。ゲノム創薬、プロテオミクス、コンビ

ケム、ハイスループットスクリーニング、遺伝子診

断、薬物代謝酵素・トランスポーターと動態特性と

の関連解析、臨床データのPK/PD解析、遺伝子デリ

バリー、バイオ医薬DDSなど、創薬の世界で注目を

集めるトピックスがそれぞれシンポジウムのテーマ

として取り上げられ、各領域をリードする研究者に

よって興味深い研究内容が紹介される。また、製薬

産業のグローバリゼーション、薬事規制のハーモナ

イゼーション、ブリッジング試験などの動きを背景

として、行政関係の話題も重要なテーマと位置づけ

られており、米国FDAをはじめ各国からかなりの数

の行政担当者も来日するので、3極の行政、産業、学

術関係者の間での幅広い意見交換の場となることが

期待されている。

企業展示も、米国薬学会における大規模な展示

と同様に、研究機器、製剤機械、製剤添加物などの

メーカーや、薬物動態特性のスクリーニング技術、

DDS 技術の開発などを専門とするベンチャー企業、

あるいはCROなどが一堂に会する予定で、製薬産業

を支えるインフラの構築をグローバルな視点から知

る良い機会となると思われる。

  参加登録(Early Bird)の締め切りは 2004年

1月 28日、一般講演の公募締め切りは2004年1月

14日である。多数の薬学関係者、創薬に関わる研究

者の参加を期待したい。

       (杉山雄一:PSWC2004 大会委員長)

    表1:担当委員長   

Chair: Yuichi Sugiyama(Japan)

Scientific Program Co-Chairs: Mitsuru Hashida (Japan)

会議は“The Global Translation of Sciences

into Drug Development in Advancing Therapy”を

メインテーマとし、学術プログラムとしては、栄誉

講演(1講演)、特別講演(8講演)と、11のコアト

ピックスにもとづいて計画された日米欧から選ばれ

た 3招待講演と一般講演からなる 35 のシンポジウ

ム、さらにコアトピックスに従って、公募されるポ

スターセッションが予定されている。特に、開会式

の中で行なわれる栄誉講演の演者として、野依良冶

先生と、米国 UCLA の Ignarro 教授というお二人の

ノーベル賞受賞者をお迎えすることができた。 会

議プログラムの中心に位置づけられた 35のシンポ

ジウムは、創薬科学に関連した最先端研究の紹介

と、創薬・医薬品開発の新しい方法論、システム、

Hans E. Junginger (The Netherlands) Fund-raising Co-Chairs: Hiroshi Terada(Japan)

Gordon L.Amidon(USA)  Malcolm Rowland (UK)

Publicity Co-Chairs: Toshio Honda(Japan) Kamal K.Midha (Canada) Claus-Michael Lehr(Germany)

第2回FIP世界薬学会へのお誘い

 ~参加登録、要旨応募の締め切り迫る!~

話題 薬学研究に関わる世界の学会

Vincnet H. Lee(USA)

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社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会

Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)21

第2回創薬ビジョンシンポジウム報告

子の機能解析について京都大学大学院医学研究科・大島

正伸先生、万有製薬(株)つくば研究所・小谷秀仁先生

から紹介された。2日間を通して大学、研究機関、企業

などから延べ300名近い参加者があり、最後の総合討論

ではターゲット分子の機能解析におけるRNAi、ノック

アウトマウスの利用について会場を交えた活発な議論が

あった。

 続く第3回シンポジウムは主題を「創薬・医薬品産

業・薬学の将来を考える」とし、平成16年1月15,16

日に昭和大学上條講堂にて開催される。ここでは創薬全

般の領域において、「今伝えなければならない将来への

提言と展望」について議論する予定であり、多くの皆様

の参加をお待ち申し上げます。

   (平井 洋:万有製薬 ( 株 ) つくば研究所)

*「ファルマシア」10 月号「部会」より抜粋

編集委員会からのお知らせ* この Pharma VISION NEWS は、本部会が年2回の予

定で部会員宛にメール発信致します。ご希望の方は、事務局宛にお問い合せ下さい。

薬学研究ビジョン部会からのお知らせ

 ゲノム創薬をはじめとして医薬品開発の過程が大き

く変貌を遂げようとしている。創薬に関わる研究者は広

い目で創薬科学を見渡し、新しい創薬過程においてどの

ように貢献できるかを考えるべきであろう。このような

背景の下、21世紀の創薬科学に関する理想的な研究は

どうあるべきかを考えるための薬学研究ビジョン部会が

設立され、年2回の創薬ビジョンシンポジウム、年会で

のフォーラム開催を行っている。第1回シンポジウムは

本年1月に開催され、21世紀の創薬研究がいかにある

べきかを主題に創薬全般に渡って議論した。

 第2回シンポジウムは第1回での議論を受けて、創薬

の最初の段階であるターゲットとなる分子の探索と機能

解析に焦点を絞って議論を行うことを目的に、平成15

年7月17、18 日の2日間に渡り日本薬学会長井記念

ホールにおいて開催された。総会での活動状況報告に続

き講演会を行い、まず東京理科大学薬学部・寺田弘先生

よりオープニングリマークとして創薬戦略におけるファ

ルマコインフォマティクスについてお話頂いた。続いて

特別講演では東京大学大学院工学系研究科・多比良和誠

先生、東京大学大学院医学系研究科・永井良三先生から

それぞれ「RNA工学に基づいた創薬ターゲット分子の

探索と機能評価」、「心血管リモデリングに関わる転写因

子KLF5と抑制薬の開発」の演題でお話頂いた。本シン

ポジウムの主題であるターゲット分子の探索と機能解析

には in vitro, in vivoで遺伝子をノックダウンする技術

が重要な役割を果たすことは言うまでもない。多比良先

生からは今注目のribozyme, RNAiなどの技術とその応

用について最先端のお話が紹介された。永井先生からは

1つの病態(心血管リモデリング)に関わる因子

(KLF5)の同定、遺伝子欠損マウスの作製によるその機

能解析、およびその抑制薬による病態の改善、という示

唆に富む特別講演を頂いた。初日最後には筆者より2日

目のシンポジウムへの導入として、創薬ターゲット分子

の探索と機能解析手法についての概論が紹介された。

 2日目のシンポジウムではターゲット分子探索と機能

解析について8人の先生から講演を頂いた。まずゲノ

ム、プロテオーム等の情報を利用したターゲット探索に

ついて、発現プロファイル(筑波大学基礎医学系・内田

和彦先生)、SNPs(東京医科歯科大学難治疾患研究所・

村松正明先生)、プロテオミクス(東京医科大学臨床プ

ロテオームセンター・西村俊秀先生)、遺伝性疾患(熊

本大学大学院医学薬学研究部・甲斐広文先生)、オー

ファンGPCRの機能解析(武田薬品工業 (株 )開拓研究

所・伊藤康明先生)それぞれの観点からの研究をお話頂

いた。またエーザイ (株 )シーズ研究所・長洲毅志先生

には化合物からの創薬ターゲットの探索についてご紹介

頂いた。後半では遺伝子改変動物を使ったターゲット分

* 部会員登録が必要です。 部会員登録用紙は、部会HP からPDFでダウンロードしてください。

* 部会員の登録には、 入会金 ・年会費は無料です。   日本薬学会の会員でなくても部会員登録はできます。

* 投稿原稿を募集いたします。 詳細は事務局宛にお問

い合せ下さい。

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社団法人 日本薬学会 薬学研究ビジョン部会

Pharma VISION NEWS No.3 (Jan.2004)22

新年明けましておめでとうございます。

Pharma VISION NEWS第3号をお届けします。ご

多忙中にもかかわらず原稿執筆を快くお引き受けいただ

きました先生方に厚くお礼申し上げます。

ヒトゲノムの解読や ITの急速な進歩などとあいまっ

て、創薬研究の戦略はパラダイムシフトしつつあると言

われています。しかし、そういう中で、創薬の難しさは

従来にも増しているのが現状です。巻頭言では、藤野政

彦先生から、このような状況下で、本当の意味で創薬に

役立つ研究を行うためのPharma Visionを考えることが

必要、とのご提言をいただきました。

薬学研究ビジョンにおいては、多田幸雄先生が、創薬

には「メディシナルケミスト」の存在が生命線であること

を強調しておられます。是非、前号の長瀬博先生の記事

とあわせてお読みください。青島健先生には「生体現象を

システム的・数学的に捉える」というバイオインフォマ

ティクスの最近の動向を執筆していただきましたが、そ

の広がりや進歩に驚嘆するばかりです。

薬学研究最前線では、田中利男先生にメタボローム/

トランスクリプトームの統合的解析による創薬ターゲッ

トのバリデーションと独自のファルマコインフォマティ

クスの構築を、また石川先生にはABCトランスポーター

遺伝多型の機能解析を通して薬剤の有効性の向上や副作

用軽減を目指した創薬への応用研究を紹介していただき

ました。ポストゲノム時代の創薬研究をリードする両先

生の研究のさらなる発展を期待したいと思います。

話題として、杉田雄二先生にはジェノックス創薬研究

所(1996-2003)における7年間の体験をもとに、アレ

ルギー性疾患に挑戦された研究活動と半官半民プロジェ

クトのあり方を含めた今後の課題を概説していただきま

した。詳細についてのHP(http://www.genox.co.jp/)も

是非ご覧ください。

皆様はAAPS、ISSXあるいはPSWCという学会をご

存知でしょうか?薬学研究に関わるこれら世界の学会活

動の紹介を鈴木洋史先生、横井毅先生、杉山雄一先生に

お願いしました。これら学会の活動も参考にしながら、本

部会が活性化されることを期待したいと思います。

本部会も本年は発足3年目を迎え、 1 月15、16日に

は第3回部会シンポジウムが開催されます。今年も熱い

議論が交わされるものと楽しみにしております。また、本

誌は会員皆様の意見交換の場としても活用していただき

たいと思っております。皆様からのご寄稿をお待ちして

おります。 

(夏苅英昭)

Pharma VISION NEWS No.3目次

☆ 巻頭言 2

  創薬戦略に役立つ Pharma Vision を!   藤野 政彦  武田薬品工業 ㈱

☆ 薬学研究ビジョン (1)  3

  創薬にはあらゆる情報を分子に      活かせるメディシナルケミストが必要

多田 幸雄  大鵬薬品工業 (株)創薬センター

☆ 薬学研究ビジョン (2) 6

最近のバイオインフォマティクス動向青島 健   三井情報開発 ㈱ バイオサイエンス本部

 

☆ 薬学研究最前線 (1)                    10

メタボローム/トランスクリプトーム解析       による創薬ターゲットバリデーション“ c’ † — ’̃ j 三重大学医学部薬理学教室 ・

三重大学生命科学研究支援センター

☆ 薬学研究最前線 (2)                    13

ABC トランスポーター 遺伝多型の   機能解析から創薬への応用

石川 智久 東京工業大学大学院生命理工学研究所

☆ 話題                     16 

  ジェノックス創薬研究所 - 成果と今後の課題-杉田 雄二 山之内製薬 ㈱ 創薬研究本部研究推進部

薬学研究に関わる世界の学会        19

- AAPS、 ISSX、 PSWC -

☆ おしらせ 21

☆ 編集後記                          22 

  夏苅 英昭 東京大学大学院薬学系研究科

発行 :薬学研究ビジョン部会 (部会代表:杉山雄一)

薬学研究ビジョン部会事務局 :   

東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室内

〒 113-0033 東京都文京区本郷7-3-1

TEL:03-5800-6988  FAX:03-5800-6949

Email:[email protected]

編集委員会 : 夏苅英昭 (委員長) 、鈴木洋史、

辻本豪三、長瀬 博、長洲 毅志、獅山喜美子 (事務局)

*本誌の全ての記事、図表等の無断複写・転写を禁止

 編集後記

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