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Vol.7, No.1, 09/15/2016 - EBook2.0Forum€¦ · 15/09/2016  · 『epub 戦記』を読む:パネルの感想. 9 月9 日に「本当の『epub 戦記』」と題 したパネルがjepa

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EBook2 Magazine Vol.7, No.1, 09/15/2016 ©2010-16 OTI, Inc.

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E-Book 2.0 Magazine 2016 年 9 月 15 日号

Vol.7, No.1, 9/15/2016 [無償公開版]

目次

ANALYSIS & COLUMN 続々立ち上る Amazon Pop-Up ストア(2) 2

『EPUB 戦記』を読む:パネルの感想 3 NEWS & COMMENTS 続々立ち上る Amazon Pop-Up ストア(1) 7 アマゾン Alexa/Echo の第 2 ステージ 10 B&N 衰退にみる旧出版業界の没落 11

E-Book 2.0 Magazine 2016 年 9 月 15 日発行(第 7 巻第 1 号、通巻第 313 号)

ISSN: 2185-954X (2010 年 9 月 15 日創刊)

編集兼発行人:鎌田 博樹 発行:オブジェクトテクノロジー研究所 〒185-0003 東京都国分寺戸倉 3-15-22 www.otij.org Email : [email protected] ⓒ2010-2016 by Object Technology Institute, Inc.

紙の透かし(watermark)の技術が広がったのは、1282年イタリアにおいてであると言われている。現代の電子透かしは著作権保護のために使われるが、知覚可能型と知覚困難型に分かれる。図は最初期の透かしの一つで、製紙所の図案が入っている。

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ANALYSIS & COLUMN

続々立ち上る Amazon Pop-Up ストア(2)

簡単に言って、アマゾンに店舗が必要に

なったのは、オンラインで築かれた「流

通プラットフォーム」が店舗を必要(必

然)とする顧客密度と内容を獲得し、同時に必要な「店舗」のモデ

ルが明確になってきたと考えたためで、店舗のアイデアそのものは

当初から存在したと思われる。しかし、世間はなおアマゾンを理解

していない。[全文=♥会員] (1)は NEWS を参照

店舗が必要になったのはなぜか

21世紀型店舗が可能である根拠

オンライン+オフラインの完全連動

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ANALYSIS & COLUMN

『EPUB戦記』を読む:パネルの感想

9 月 9 日に「本当の『EPUB 戦記』」と題

したパネルが JEPA の主催で開催され、

不肖ながら筆者がモデレーターを仰せ

つかったが、非常にハイレベルで有意義

な内容だった。簡単に感想をまとめておきたい。

本/出版の過去・現在・未来

パネルは、「EPUB 日本語組版仕様」で中心的役割を果たした人々の

中から 4 氏をお呼びして、EPUB3 に至る国内・国外の活動を 5 年後

の視点で語りつつ、次のテーマである Web と出版の統合についての

それぞれの考えを共有しようという趣旨で行われた。『EPUB 戦記』

からは省かれた「真実」もないわけではないが、JEPA30 周年と「出

版記念」でそれを語るのは適当ではない。「本当」というのは「本質」

「真意」ということだと筆者は勝手に考えることにした。

つまり懐旧談、武勇談に花を咲かせようというつもりは毛頭なく、

EPUB3(つまり HTML5+CSS3 技術の上の E-Book 環境)をステップと

した次の 5 年になすべきことに向けた話にしたいと思ったのだ。失望

した方には申し訳ないが、別の機会もあるだろう。

さて、出版が書物の完成をもって完結するものではなく、企画をもっ

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て立ち上るプロジェクトであることは、著者の小林龍生さんや、発案

者の下川和男さん、村田 真さんなどを含めた了解事項である。出版

とは「メッセージ」を社会に届けるプロジェクトであり、それは発刊

と同時に放物線を描くと考えられる。私たちは「書物」の完結性を評

価しつつも、コミュニケーションのメディアとして完全であるとは考

えない。つまり、「テーマ」を中心とした著者と読者のコミュニケー

ションを持続させ、高めていくために、Web、ミーティングなどのツ

ールを使って継続していくことが 21 世紀の出版の「常態」であると

考えている。そのコストが出版された本の売上で回収されるか、著者

の次の作品で回収されるかは別の問題だ。

今回のパネルは、出版にまつわる「本当」を、既読者、未読者の方と

共有するためのものだ。パネラーの議論と会場からの質疑応答は期待

以上のもので、要約/記録は論点を掘り下げていく足掛かりになるの

で、いずれ発表していきたいと考えている(E-Book 2.0 Forum でのペー

ジを計画中)。

出版の大転換期を越えて残すべきもの

現時点で、W3C と IDPF は合併する方向にあり、IDPF および EPUB

の位置づけは、Web の中での出版(活動)のサポートという位置づけ

が鮮明になった。『EPUB 戦記』はこれからも続くし、私たちはそこ

で新しい課題を明確にしなければならない。

最初の 2 つの EPUB は、「出版・本とは何か」を議論してつくられた

標準ではなく、在来の本の「コンテンツ」をいかに表現するかという

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ことに関心が限定されていた。それに対して EPUB3 は、動的コンテ

ンツなど、Web の最新技術を在来型書籍に反映させるための作業に重

点が置かれている。そして、日本語組版チームの努力は、EPUB の大

改訂に際して、20 世紀の活字遺産を 21 世紀の E-Book 国際標準の上

に移植するということに集約された。しかし、それは孤立した、後ろ

向きの作業ではなく、むしろ EPUB3 に多くの「創造的拡張」をもた

らした(とくに多言語と CSS)。

もとより「出版・本」について現実的・技術的な側面から語るのは容

易ではなく、現実に登場する「出版・本」の形を見極めなければ標準

など無意味になる。EPUB3 は Kindle によって定義された市場を前提

にした標準である。EPUB の次の作業が新しいビジョンを必要とする

ことは明確だろう。さもなければ、EPUB3 は Kindle の拡張を助けた

だけで終わってしまう。私たちが「紙か電子か」のような重箱の隅の

議論に熱中しているうちに、何が起きたかを考えていただきたい。

パネラーの議論が「次」の話に移行するなかで、どうにも筆者の気に

なったことがある。それは、会場参加者の平均年齢の高さであり、今

後 10 年の戦いを、誰が担うのだろうかということだった。もちろん、

年季が入った壇上の EPUB 戦士たちに期待する以外はないのだが、そ

もそも国際舞台で活躍できる人材は薄く、標準化の駆引きには、知識

と能力以外に年の功も必要だ。いや、それ以上に、ベテランの編集者

が続々とリタイアしている。編集者こそデザインやレイアウトの意味

を知る人間であり、制作技術は編集のノウハウによって発展してきた。

組版ルールは(運よく言語化された)その一部に過ぎない。

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大規模な世代交代と基礎技術の転換、それに出版業界の激変が重なっ

てしまった。このままでは何が起きるか、火を見るよりも明らかだろ

う。まず出来ること、なすべきことを皆さんと一緒に考えてみたい。

◆ (鎌田、09/15/2016)

記事タグ

本誌カテゴリ: コンテンツビジネス, データフォーマット, テクノロジ

ー, 出版・製作

タグ: EPUB3, デジタル出版史

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NEWS & COMMENTS

続々立ち上る Amazon Pop-Up ストア(1)

ジェフ・ベゾス氏が出資者として名を連

ねる Business Insider は 9 月 9 日、アマゾ

ンが来年、米国内のショッピングモール

に小規模なポップアップ・ストアを最大

100 店舗展開する計画であることを報じた。シアトルなどでスター

トした Amazon Books とは別系列で、この会社の実店舗が、系統別

にネットワーク化されたものであることを示している。

「オンラインの巨人」のミニ・ストア

期間限定の仮店舗であるポップアップ・ストアは、1990 年代以降の

英国、米国を中心に広がった店舗形式で、日本のアマゾンも Kindle

Fireのプロモーションに使ったことがある。BIの記事 (By Eugene Kim)

によれば、Amazon Pop-Up は、面積 300-500 平方フィート(27.9-46.5m2)

で、ショッピングモールの中にあり、メディアデバイス(Kindle Reader、

Kindle Fire、Fire TV、Echo、アクセサリを展示・販売する。8.5-15 坪

といった、かなり狭いスペースだ。

8 月現在ですでに 16 店舗を開設しており、昨年末で 6 店舗、今年末

で 30 店舗、来年末に 100 店舗になるという。毎週 1 店が開店してい

る勘定だ。じつはこれら店舗の情報を集約したサイトも存在する。そ

れによれば、現在の店舗数は 12 州 21 店舗。共通した特徴は、近郊都

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市のモールということだろう(例外は、2013 年開設で旗艦と目される

サンフランシスコのウェストフィールド・センター)。ストアの展開に

要する資金や人員は相当な規模であり、昨年末から噂されていた、不

動産ブローカーを興奮させた、オンラインの巨人によるショッピング

モールへの大量出店の話は(意外にも)ガセネタではなかったことに

なる。

アマゾンはポップアップ (APU)が、試験段階から成長段階に入った

としている。つまり、立地、商品構成、オペレーションの骨格が固ま

り、数百店規模での展開についての核心を掴んだということだろう。

ポップアップ・ストアの規模は小さいが、分野別(書店、アパレル、

靴、DIY など)に拡大される可能性は十分にある。

アマゾンはもはや、「何でもオンラインで揃う」ことを売りにしてい

たように見えた、かつてのアマゾンではない。オンラインの売上はま

ったく衰えを見せておらず、常識的には敢えて固定費が嵩む店舗販売

に乗り出す理由は見当たらない。にもかかわらず、実店舗に強い関心

と意欲を示すのはなぜか。小売業界が店舗の限界を共有している時に。

筆者は、アマゾンが店舗に関心を持ち、大規模に展開しようとしてい

る理由を以下のように考えている。

1. ガジェットの販売能力拡大(顧客へのオフラインアクセスの拡大)

2. オンラインとの連携による顧客体験の深化(多様な顧客=ライフ

スタイルに対応)

3. プラットフォーム対応サードパーティ製品の展示・販売

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◆ (鎌田、09/14/2016)

参考記事 Amazon is doubling down on retail stores with plans to have up to 100

pop-up stores in US shopping malls, By Eugene Kim, Business Insider, 09/09/2016

New Amazon data from Wall Street should terrify all retail stores in the US, By Eugene Kim, Business Insider, 09/08/2016

Amazon Reportedly Planning to Open “Up To 100” Pop-Up Stores, by Nate Hoffelder, The Digital Reader, 09/09/2016

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本誌カテゴリ:コンテンツビジネス, 流通・書店・図書館,

タグ:アマゾン, ビジネスモデル, ポップアップ・ストア

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NEWS & COMMENTS

アマゾン Alexa/Echoの第 2ステージ

アマゾンは9月14日、第2世代となる Echo

Dot を 50 ドルで販売することを発表した

(10 月 20 日発売)。また英国とドイツに提

供地域を拡大しており、順次全世界に拡大

する。前週には、Echo の戦略的音声エージェント技術 Alexa を、

Kindle Fire のローエンド機 Fire HD 8 ($90)に搭載すると発表してお

り、展開の方向が見えてきた。[全文=♥会員]

爆発的拡大への布石

デバイス非依存の戦略的優位

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NEWS & COMMENTS

B&N衰退にみる旧出版業界の没落

Barnes & Nobleが2017年の最初の四半期

決算を発表し、6.6%の減収、6.1%の減益

という暗いものとなった。赤字額が 1,440

万ドルと前年同期比で 2 倍に近くなった

ことで危機の深刻さを裏付けている。「大統領選による悪影響」と

いうリッジオ CEO 代行の説明を信じる人はいない。米国小売業界

は不振でないからだ。

全事業にわたって悪化

総売上は、6.6%減の 9 億 1,390 万ドル。小売(B&N ストア+BN.com)

は 6.1%減の 8 億 8,170 万ドル。NOOK は 24.5%減の 4,100 万ドルと、

なお急落を続けている。採算点から遠ざかるばかりで、赤字は 1,400

万ドルとなった。買い手がつくかどうかによらず、サービスの閉鎖は

時間の問題と言ってもよい。B&N は最近、ロン・ボイリーCEO を更

迭したが、これは出版業界に疎い同氏の下で発注を絞りすぎて店舗の

在庫不足をきたしたためと説明されている。これも伝説的な大経営者

の言とは思えず「語るに落ちる」というか「聞くだに悲しい」話だ。

B&N は 4 月決算なので、Q1 は 5-7 月。B&N はこの状態が 2017 年度

いっぱいは続くと見ているので、大手出版社の不振を示す数字と合わ

せて、印刷本に頼る旧出版業界が構造的な問題を露呈していることは

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もはや隠しようもない。つまり、B&N だけの問題ではなく、大型書

店ビジネスの没落が急速に顕在化してきたということだ。最近までは

「書店は悪くない」「不採算店を整理すれば」と考えられていたのだ

が、それは気休めに過ぎなかった。ストアの売上向上のためのレスト

ラン、雑貨、玩具などの販売も焼け石に水だった。

必然ではなく、デジタルに抵抗した結果

2013 年まで、Nook も好調だった。2014 年までは、書籍販売は悪くな

かった。2015 年は書店の売上に黄信号が出た。そして 2016-7 年は店

舗の閉鎖が続くのだろう。単純に言えば、顧客はどちらからも去って

いったのだ。昨年には顧客サービスの悪化が伝えられたので、顧客の

流出が加速したのだろう。顧客はデジタルと紙のコンテンツを、オン

ラインとオフラインのフォーマットで購入する。すべてを有利に選べ

るチャネルを優先し、そうしない場合は愛着の持てる独立系書店を選

ぶという分極化が進めば、かつては品揃えで独立系を圧倒した大型書

店の存在は容易にアマゾンと置換えられた。

2010 年以来、旧出版界はオンラインと E-Book の急成長に脅威を感じ

て、これらの成長を価格でコントロールしようとした。しかし、紙だ

けが自由価格で E-Book が統制価格という状態は、オンラインと

E-Book のアマゾン支配を助けるものでしかない。大出版社と大書店

は、ともに現実から目を背けてきたが、ついに来るべき時が来たのだ。

これも大出版社による E-Book 価格改定(2014-5 年)の結果であると

すれば、なんとも取返しのつかない大失敗ということになる。2 年前

から結果を予言していた筆者だが、嬉しくも悲しくもない。やはりク

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ラッシュは止められないのだ。◆ (鎌田、09/15/2016)

Barnes & Noble Reports 6.6% Drop in Sales in Q1 2017, By Ellen Harvey,

Book Business, 09/09/2016

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本誌カテゴリ:コンテンツビジネス, 流通・書店・図書館

タグ: B&N

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