Haw Par Villa...

Preview:

Citation preview

2019年12月21日 作成2020年2月26日 更新

Haw Par Villa ハウ(ホー)・パー・ヴィラ訪問記名古屋工業大学 先進セラミックス研究センター井田 隆

「タイガー・バーム・ガーデン」としても有名である。アジア結晶学連合会議 AsCA 2019 会場となったシンガポール国立大学(NUS)本部に直結する地下鉄駅 Kent Ridge の隣駅 Haw Par Villa 駅の出口から近い場所にあり,入場は無料であった。NUS はアジア No.1 大学として有名である。なお,日本でトップ大学とされる東京大学はアジアの大学ランキングでは No. 7 程度である。

地下鉄 Haw Par Villa 駅の出口から表に出ると,すぐにこのような光景が現れる。若い男女のイラスト背景に描かれる白蛇は,園内の塑像群の重要なモチーフの一つになる。

この画像にも現れている布袋尊のモチーフも,この後,繰り返し現れる。これは,制作者にとっては意図的なものだろう。

タイガーバームと呼ばれる「外用鎮痛消炎薬商品」の広告のために,子虎を起用するのは当然と言えるが,確かに造形や塗装・維持管理については微妙な印象を与えるかもしれない。

愛と感動のマダム・ホワイト・スネーク物語第1話。マダム(上部左)が愛する夫を救おうとして「人魚的なもの」や「人亀・人貝的なもの」(上部中央)など「水の精霊」も味方にして悪いヤツらと戦ったらしい。でもそれほど悪くない人(下部)も犠牲にしてしまったことが,この後に問題になる。

愛と感動のマダム・ホワイト・スネーク物語第2話。夫を救う時に無辜(むこ)の犠牲者を出した罰として,マダムは白蛇に姿を変えられ,石塔に幽閉された。マダムがまだ人間の姿の時に男子を出産しており,成長した孝行息子が塔を訪れたとき,人間の姿に戻され,塔から出ることを許された(右上)。

日本の薬事法では外用鎮痛消炎薬に分類されるタイガー・バームの効能を印象付けるために,シンガポールに「日本の横綱的なもの」が出現したとしても,そのこと自体はそれほど不思議ではない。「わしらも使ってるっす。タイガーバーム。」ここは,シンガポールの子供たちに人気のスポットらしい。

「笑うブッダ」て,いやこれ日本では七福神のうちの一柱として有名な「ホテイ」じゃん。布袋尊は唐代末から五代にかけて実在としたとされる伝説的な仏僧がモデルとされているんだし,いろんな意味で間違ってるじゃん。と思われるかもしれないが,実は布袋尊もブッダの現れ方の一つなのよって表現の意図があることを,この後に,他の塑像を見て知ることになる。

「擬人化」と言うより「ヒトの非ヒト擬似化」「擬獣化」とでも呼ぶべき表現と思われるが,首から下はヒトの形で,頭部のみを動物のものに置き換えた表現をする作品もホー・パー・ヴィラの作品群には多い。この作品では,鶏人のペアが何かもめている感じのことが表現されている。このペアの間にどのようなことがあったのかは,想像できそうな感じがする。「アンタ,なに他の♀といちゃついてんのよ」とか。「アタシが稼いだ金をバクチでスったって?もう博打場とか行くんじゃねー」とか。この画像ではわかりにくいが,意味ありげな造形が画面奥の位置にも配置されている。

鼠人♀がミカンのような柑橘類を載せた皿を差し出し,その頰を,帽子とパンツのみを着用した豚人♂が指でつまんでいる。解釈のやや困難な作品だが,豚人♂の帽子の意匠から,この豚人♂は,かなり高位の役職につく官僚と推測される。豚人♂「ここうまそうだよね。で,おっぱい触っていい?」鼠人♀「ダメですよ。ミカンでも食べといてくださいよ」というような状況かもしれないと想像される。

『伝承の池』作品群の冒頭に設置される作品。上半身は女性のヒトで,下半身は貝である。(水生生物,特にエコロジカルには分解者に近い海底で生息する生物種に対する敬意?)を表現していると思われる一連の塑像のうちの一つ。人貝♀(巻貝系)。

別のタイプの人貝♀(巻貝系)。

人貝♂(巻貝系)。

人魚♀。上半身がヒトの女性の姿で,下半身をサカナとする造形に魅力を感じるのは,西欧でもアンデルセン童話「人魚姫」のように,共通する「なにか」があるようだが,この造形では尾ビレだけでなく,腹ビレも付けられていることに注目すべきかもしれない。この腹ビレが陸生動物の「足」へと進化したのであろう。

人魚♀× 2下の人魚♀の体幹の維持の仕方や,上で片手倒立する人魚♀の左腕の引き方,腰の曲げ方,アゴの引き方は,力学的に合理的かとも思われる。おそらく地中から上人魚の体幹に至るまで鉄芯のようなものが仕込まれていると想像されるが,重心は接地位置の上から大きく狂ってはいないように見える。

人蟹♀。「伝承の池」シリーズの作品群の中でも特に印象的な作品。カニの姿の上に,ヒトの頭部の造形が付けられ,ヒトの肌のように,彩色されている。エコロジカル(生態学的)な観点から,蟹や貝のような海底生物は「分解者」に近く,重要な存在であると言うことが強く意識されているかもしれないと思わされる。

人貝♀(二枚貝系)。二枚貝系の「人貝♀」は,マダム・ホワイト・スネーク物語第1話でも見られるように衣服を着用しており,「貝殻にハサまってるヒト」のようにしか見えないかもしれないが,このシリーズに共通する主題から,これはあくまで海底生物としての「貝」を表現したものと解釈される。

中国の古い物語によると思われる「亀の恩返し」。亀を助けた優しい少年が,水難事故の際に,亀に救助される。ただ,少年を甲羅にのせた方でない方のもう一体の亀は他のヒトに頭から噛み付いているので,心温まるストーリーと言うより,かなり厳しい意味合いも含んだ表現である。

中央で合掌する人物の塑像の頭頂部と,背景レリーフ中の人物の頭頂部とを,アンビリカル・ケーブル umbilical cable で接続すると言う大胆な3次元造形が用いられている。中央の塑像は「ブッダ」を,背面レリーフ中の人物は「現世でのブッダの現れ方」を表現する。背景レリーフの向かって左側に「布袋尊」が出現しており,「笑うブッダ」と名付けられた塑像は,「間違っちゃった」わけで

はなく,布袋尊もブッダの現れ方の一つであるとすることも合理化しうる道教的な思想によることがわかる。仏教思想における「ブッダ」を,道教思想で「自然界を支配する原理・道(タオ)」のようなものと捉えて,融合させる意図があると解釈される。

ホー・パー・ヴィラ(タイガー・バーム・ガーデン)には,全体的に道教的な世界観を表現する作品が多い。道教思想の「道(タオ)」を「物理法則」や「セントラル・ドグマ」に置き換えれば,道教思想には,むしろ現代的な世界観・価値観との親和性の高い面があるのではないかと考えさせられた。ただし,道教思想の主流が「老荘(老子・荘子)思想」から「陰陽五行説」へ移行した時期には,当時の「革新的な技術進歩」のようなものが,背景として存在したと推測される。

ホー・パー・ヴィラの「地獄セクション」も見所が多いが,それは別に「地獄篇」としてまとめることとする。

なお,シンガポール当地でも(バスの運転手さんとか)「ハウ・パー・ヴィラ」に聞こえる発音をする人が多いようだが,地下鉄でのアナウンスは,日本語表記では「ホー・パー・ヴィラ」に聞こえる。シンガポールの漢字表記では「虎豹别墅」である。

Recommended