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●第1章 流れの力学 ●流体力学は流れる物体を取り扱う力学 ●圧縮すると体積や密度は、気体では変化し、 液体ではほとんど変化しない ∨+」V p+』p P+A p ± ] 圧縮率 AV/V K=- Ap 外力戸が加えられると圧力がdp増加して、体積がA V増加する(実際にはA V 減少する)。 〟を正値で表わすために負の記号を付けて表わしている。 体積と密度はAVW=-Ap/pとおけることから、 繋' となる。圧縮率の逆数は体積弾性係数Kと呼ばれ、固体の弾性体の体積弾性係数 と同じ定義となる。 __L__ dp K I AV/V 基準体積が変化しない(非圧縮性流体) 基準体積が変化する(圧縮性流体) K= 流体の基準体積 流速 液体 液体は非 気体は圧縮 流体力学では流れる物体を取り とから、液体と気体を対象として トン力学を基礎とした力学となりますが 質的に異なった性質があります。気体は構 が空間を飛び回っていることから隙間だらけ 液体は分子が緩やかに結合した状態なので隙間 とんどありません。そのために気体は圧縮すると体積 が変化して密度が変化しますが、液体では圧縮しても 体積も密度もほとんど変化しません。気体は圧縮性が ありますが'液体は圧縮性がないといえます。 さらに、気体の分子は温度が高くなると飛び回る速 度が増加するので、容器の壁に当たって容器内の圧力 を増加させます。容器がゴム製の場合には膨張して体 積を増加させます。それによって気体の密度も増加し ます。液体はこれらの変化は無視できるくらい小さい 値です。このような気体と液体の物性についての違い が流体力学の特性にも違いを与えます。 管内を流れる液体は狭いところ が低下しますが、圧力が変化して することはありません。これに対して 同様に圧力は低下しますが、密度は圧力と 低下します。空気の流れが遅い場合には圧力 小さく、密度の変化も小さいので圧縮性を無視する とができます。体積の変化と圧力の変化の関係は流体 によって異なりますが、その違いを表わすのに圧縮率 だが用いられます。体積の変化量に対して圧力の変化 量を示すことになり、圧縮率の逆数は固体の弾性体で 用いられる体積弾性率打を表わすことになりますo 気体が高速度で流れると空気の温度が変化するよ うになり、気体の変化を表わすために圧力と温度との 関係、さらに密度との関係が必要となります。したが って、流体力学と熱力学が関係した流れの領域が現 れ'空気力学と水力学との間では異なった流れの特性 を与えることになります。

液体と気体の力学 - Nikkan...Ll:oI AV Jim 分子三〇立 自由行程^は分子が衝突してから 次に衝突するまでの距離。麗tfI 肇幣: クヌツセン数Kn

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Page 1: 液体と気体の力学 - Nikkan...Ll:oI AV Jim 分子三〇立 自由行程^は分子が衝突してから 次に衝突するまでの距離。麗tfI 肇幣: クヌツセン数Kn

●第1章 流れの力学

●流体力学は流れる物体を取り扱う力学

●圧縮すると体積や密度は、気体では変化し、

液体ではほとんど変化しない

∨+」V

p+』p

P+A p

±]

圧縮率 〝

AV/VK=- Ap

外力戸が加えられると圧力がdp増加して、体積がA V増加する(実際にはA V

減少する)。 〟を正値で表わすために負の記号を付けて表わしている。

体積と密度はAVW=-Ap/pとおけることから、

繋'となる。圧縮率の逆数は体積弾性係数Kと呼ばれ、固体の弾性体の体積弾性係数

と同じ定義となる。

__L__ dp

K I AV/V

基準体積が変化しない(非圧縮性流体)基準体積が変化する(圧縮性流体)

K=

流体の基準体積

流速

液体と気体の力学

液体は非圧縮性'

気体は圧縮性

流体力学では流れる物体を取り扱う力学であるこ

とから、液体と気体を対象としています。流れはニュー

トン力学を基礎とした力学となりますが'両者では本

質的に異なった性質があります。気体は構成する分子

が空間を飛び回っていることから隙間だらけですが'

液体は分子が緩やかに結合した状態なので隙間はほ

とんどありません。そのために気体は圧縮すると体積

が変化して密度が変化しますが、液体では圧縮しても

体積も密度もほとんど変化しません。気体は圧縮性が

ありますが'液体は圧縮性がないといえます。

さらに、気体の分子は温度が高くなると飛び回る速

度が増加するので、容器の壁に当たって容器内の圧力

を増加させます。容器がゴム製の場合には膨張して体

積を増加させます。それによって気体の密度も増加し

ます。液体はこれらの変化は無視できるくらい小さい

値です。このような気体と液体の物性についての違い

が流体力学の特性にも違いを与えます。

管内を流れる液体は狭いところでは速く流れて圧力

が低下しますが、圧力が変化しても液体の密度は変化

することはありません。これに対して、空気を流すと

同様に圧力は低下しますが、密度は圧力と同じ程度に

低下します。空気の流れが遅い場合には圧力の変化も

小さく、密度の変化も小さいので圧縮性を無視するこ

とができます。体積の変化と圧力の変化の関係は流体

によって異なりますが、その違いを表わすのに圧縮率

だが用いられます。体積の変化量に対して圧力の変化

量を示すことになり、圧縮率の逆数は固体の弾性体で

用いられる体積弾性率打を表わすことになりますo

気体が高速度で流れると空気の温度が変化するよ

うになり、気体の変化を表わすために圧力と温度との

関係、さらに密度との関係が必要となります。したが

って、流体力学と熱力学が関係した流れの領域が現

れ'空気力学と水力学との間では異なった流れの特性

を与えることになります。

Page 2: 液体と気体の力学 - Nikkan...Ll:oI AV Jim 分子三〇立 自由行程^は分子が衝突してから 次に衝突するまでの距離。麗tfI 肇幣: クヌツセン数Kn

●第1章 流れの力学

●水や空気は実在流体

●理想流体とは粘性がなく、力を加えても圧縮

できない流体として定義

実在流体

流速分布∠///準と二二二二二////ノ

せん断力が作用する(摩擦力が発生する)

理想流体

流速分布////,///////////////

せん断力が作用しない

(摩擦力が発生しない)

●分子は完全衝突する

●分子間に引力が作用しない

●分子の質量はあっても、体積はない

●粘性がない

●圧縮性がない

理想流体と

粘性のある流体とない流体

実在する流体は日常身近で見られる流体で、水ある

いは空気がおなじみの実在流体です。流れる小川を眺

めていると'川岸の水の流れは遅く、岸から離れるに

つれて流速が増加しています。その流れには渦の発生

も見られます。これらは流体が粘性を持っていること

によって起こる現象で実在流体の特性です。ゴム風船

に入れられた空気は力を加えると圧縮することができ

ます。これも実在流体の特性です。

これに対して、理想流体とは粘性がなく、力を加え

ても圧縮できない流体として定義されています。完全

流体と呼ばれることもあります。理想流体では粘性が

ないことから流体間での摩擦を発生するせん断力と呼

ばれる力が作用しないために渦が発生することはあり

ません。したがって、流れの中にある物体に抵抗が作

用しないことになります。理想流体の流れの中に球を

置いてみると、流線は球を覆うように上下左右で対称

になっています。流速と圧力の分布も対称となっている

ことから抵抗は発生しません。実在流体では球の背面

での流れに渦が発生して流線が消滅します。それも時

間的にl定にならないで変化した流れとなります。こ

のために球の前面と後面に作用する圧力分布も異な

り、抵抗が発生します。

水は空気に比較すると粘性は大きい値ですが圧縮

性は無視することができます。これに対して、空気の

粘性は小さい値なので、低速流れであればせん断力が

無視できて理想気体として扱うことができます。流速

が増加するにつれて圧力による体積変化が大きくな

り、圧縮性を無視することができなくなります。した

がって、水も空気も理想流体にはなれませんが、曲が

りの急でない水の流れとか、低流速の空気の流れなど

では理想流体として扱っても実在の流れを近似するこ

とができます。理想流体が気体である場合には理想気

体となりますが'熱力学で定義されている理想気体と

は異なるので注意が必要です。

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●第1章 流れの力学

●気体は圧力によって密度が大きく変化する

●連続流体としてはKnく0.01の領域にあるこ

とが条件

高度50km

。/↑ニー㌃雰○。。。 。。○。 。〇 〇 〇

一 〇 〇 〇

o O

0〇    〇

〇  〇 〇

平均密度は正確だが密度を定義する位置は

位置は不正確   正確だが密度にパラツキ

密度βの定義Am

→PLl:oI AVJim

分子三〇立自由行程^は分子が衝突してから

次に衝突するまでの距離

。麗tfI肇幣:

クヌツセン数Kn

連続流体と不連続流体

成層圏の大気は

不連続流体?

気体は液体あるいは固体とは異なって圧力によって

密度が大きく変化します。気体は構成している分子が

ランダムに運動している集団ですから、隙間だらけで

す。流体力学としては連続した流体を対象にしている

ことから、隙間が多い気体は対象にしていません。

例えば、高度50ーmになると大気の密度はo・001

027ラボとなり、地表の-/100以下になって

単位体積当たりに存在する分子数が少なくなります。

その分子は飛び回っていることから、その数も時間に

よって変化することになり'空間内の質量が連続的に

均一に分布しなくなります。気体の圧力が低くなると

密度を定義することが難しくなります。密度は流体の

単位容積当たりの質量で定義されますが、容積を大き

くとって質量を測定するのと、容積を小さくとって質

量を測定するのとでは密度の値が異なります。気体の

分散している空間では分子が動いているので、時間的

に分子の存在する分布が変化します。したがって、位

置に関して密度を正確に求めるのには、その位置で容

積をできるだけ小さくとる必要があります。すると'

時間で測定した密度が変化します。容積を大きくとっ

て測定すると、時間的に密度の変化は小さくなります

が、密度を測定した位置に誤差が伴います。したがっ

て'流体力学では流体の速度、圧力、密度の変化が時

間と位置の関数として表わされますが、そのためには

質量が連続的に変化する条件が必要となります。

流れの中にある物体まわりの流れに対してその流体

が連続的であるかを判断するために、分子の平均自由

行程1と物体の長さ」との比肋によって見積ることが

できます。肋はクヌッセン数と呼ばれており、連続流

体としてはKn<0.0]の領域であることが条件とされ

ています。物体が大きい場合には連続流体として扱わ

れる流体も極微細な粒子であるナノマテリアルのよう

な物体を扱う流体力学では肋が大きくなり、連続流体

としての流体力学には適用できなくなります。

00

.'

U・・、・01

 

O

o

/

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●第1章 流れの力学

●揚力とは気体の流れで得られる上向きの力

●ベルヌーイの定理によって、流れと揚力の関係

が求められるようになった

I.-,'・:. <T

風があれば羽ばたくことなしに    風力ttなくても羽ばたくことで揚

力が得られる揚力が得られる

流速

浮力と揚力

浮くと揚がるは大違い

大型の飛行船で名を世界に知られたドイツのヒンデ

ンブルグ号は、大西洋横断路線に就航して、大気から

無借で浮力を得ることで低燃費の飛行を実現しまし

た。現在でも貨物を満載した無数の大型貨物船が浮

力で世界中の大洋を航行しています。これらはすべて

アルキメデスの原理からの恩恵を得ている乗物です。

これに対して、飛行機は容積に比較して重すぎるので

浮力は期待できません。鳥類も同じく浮力は得られま

せん。浮

力と同様な重力に対して上向きの力を得るため

の方法を人類は鳥の飛ぶのを見て学んだようです。飛

んでいる鳥は羽ばたくことによって前方の空気を後方

へ追いやっていることがわかります。鳥のまわりに流れ

が発生してそれによって浮くために力を得ています。

流れによって得られる上向きの力は揚力と呼ばれます。

風のあるときには羽ばたかなくても揚力が発生しま

す。凧が揚がるのも揚力によるもので、浮力ではあり

ません。風がないと凧は落ちてしまいます。このよう一

な原理をもとに飛行機が登場することになりました。

流れと揚力の関係を求めようとすることが流体力

学にとっての主要な役割ともいえます。なぜ流れがあ

ると揚力が発生するのか、という疑問は流体力学の初

期においてのミステリーでした。力は圧力で表わすこ

とができますが、圧力が流速と一対一の関係にあるこ

. I,:MI I.:.: I:,l■:i:-. ']・J. dJ'.;.,,[:-. ・'1:,, (.tl tt..:11享享三

これは流体のエネルギー保存式とも呼ばれ、ベルヌ 仙

-イの定理と名付けられました。流速の速いところで

は圧力は低くなり、流速が遅くなると圧力が増加する

ことを表わしています。この定理により、鳥にとって羽

の上側の流速が速く、下側の流速が遅いと圧力差が発

生して上向きの力となって揚力を発生することを表わ

しています。羽一本一本にも流れについての工夫がさ

れているのは驚きです。

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●第1章 流れの力学

●水に浮かべた平板に摩擦応力が発生

●流体の摩擦応力は速度勾配に比例する

摩擦力F

諾霊歪言 ,-i-〃号群占性係数il

流速分布

粘性力の発生

分子が流れの邪魔をする

長い水槽に浮かべた木製の薄い平板の先端に紐を付

けて静かに引っ張っていくと、平板の下の水が同時に

動き出します。水槽が浅い場合には水の速度Uは深さ

方向の距離γについて直線的に減少しています。ただ

し、底表面の水は動きません。板が引張られることに

よって水が動くわけですから、そのためには板を引く

のにそれだけの力が必要になります。板を引張るため

に必要な力戸を測定してみると'速度勾配与と板と

水の接触面積U)に比例することがわかります。

水槽が深い場合には、平板を動かしても動いている

水はある深さまでで、それより下の水は動くことはあ

りません。さらに速度と深さの関係を精度よく測る

と、速度Uは曲線的に減速して速度勾配は直線的では

なくなります。

そこで、微分形式で速度勾配をduAdyで表わすこと

になります。比例関係の定数を〃として力と速度勾配

の関係を表わすことができます。紐を引くことをやめ

ると板は静止してしまいますが、動くときには栃と接

触している水とが接合されているように見えます。ま

た、水の中では互いに水平の層状になって上の層がす

ぐ下の層を引張っていくように見えます。このための

力が摩擦によって発生するものと考えることができま

す。これが粘性力と呼ばれます。

そこで、平板に作用する摩擦力がFであり、板の単

位面積当たりに作用する力を板に作用する摩擦応力

Tと考えることができます。すなわち、T=FSの関係

となりますo管内の流れでは管壁でrが最大となり、

中心部でT=0となります.

摩擦応力が速度勾配に比例する関係は液体が油で

あってもへ見えない空気であっても同じように作用し

ます。ただし、比例定数が流体によって大きく関係し

ています。その比例定数が流体の粘性を表しているこ

とがわかります。そこで'比例定数〃を粘性係数とし

て定義することができます。