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9 【論文誌技術解説】 「次世代モビリティ機器を牽引する高機能・高密度実装技術論文特集 2016 11 月号)によせて」 (次世代モビリティ機器を牽引する高機能・高密度実装技術論文特集 編集委員長) 安田 清和(大阪大学) 2004 年より電子情報通信学会論文誌において電子実装 技術に関する一連の論文特集が企画されてから今回で 13 回目を迎える。エレクトロニクス産業において電子実装は、 材料やプロセスから、デバイスやシステムまでの最終製品 に至る幅広い技術の組み合わせと最適化を目指す分野横 断技術であり、関連する技術者研究者間の産学の垣根を超 えた学術交流が国内産業を下支えしてきた側面がある。学 会誌におけるこのような企画を通して本分野の活性化を 図ってきた諸先輩の先見と労に敬意を表したい。 さて、近代歴史の中で特筆されるエレクトロニクス産業 の興隆を振り返ると、米国で産声を上げた半導体 IC の集 積化からスーパーコンピュータ、パーソナルコンピュータ、 スマートフォンに至る先端実装技術の革新がいまや日常 の人間社会の生活基盤を支えている。今後も人間の脳機能 の一部を外界システムが代替し、高機能で存在を感じさせ ないモビリティに富む知的システムの登場が期待できる。 これまで電子実装技術は、実製品の機械的特性、電気的特 性、信頼性を担保する地道な技術の積み上げとともにハー ドウェアを高密度化、高速化することでその機能を高性能 化してきた。最近の技術トレンドは電気自動車の自動運転 技術や、AI による深層学習・認識、拡張現実などの技術 において、情報処理と現実空間とが相互作用することで 我々の生活様式を激変させる可能性を秘めており、依然と して電子実装技術が貢献できるものと考えらえる。そのよ うな時や空間を超えて人間が知的に連携する将来社会で は、いっそう知的電子システムの飛躍が必要であり、携帯 性や利便性が次世代のモビリティ機器に要求されている。 このような背景から今回の特集号では、招待論文として、 日本アイ・ビー・エム(株)の山道新太郎氏よりコグニテ ィブ・コンピューティングに向けたニューロモーフィッ ク・デバイスと今後の実装技術と題してご投稿いただいた。 ビッグデータ時代に向けたコグニティブ・コンピューティ ング、人間の脳の信号処理をハードウェア化したニューロ モーフィック・デバイス、これらに必要となる超微細接合 として Injection Molded Solder(IMS)技術や三次元積層の低 コスト化に有利な Vertical integration after Stacking(ViaS)術などに関して解説いただいた。 一般論文として、 3 次元集積用テンポラリー接着剤の特 性とウェハエッジの影響、表面活性化処理による GaAs 界効果トランジスタの S パラメータへの影響、次世代半導 体配線用めっき銅薄膜の機械的特性分布広がり制御因子 の解明、水蒸気バリア性に優れた有機発光ダイオード (OLED)粘着材と題した 4 件を採録した。また、ショート ノートとして、超微細銅めっき配線パターンの信頼性評価、 同軸管を用いた小型抵抗の非接触 PIM Passive intermodulation)特性評価、シンクロトロン放射光を用い た透明多結晶酸化亜鉛薄膜におけるドーパント成分の局 所構造解析の 3 件を採録した。 最後に、本特集号の発行にあたり、貴重なご投稿をいた だいた著者の皆さま、論文査読にご尽力をいただいた査読 委員、企画編集にご尽力をいただいた編集幹事、編集委員 ならびに学会事務局の皆さまに心より感謝の意を表する。 とりわけ、前回に引き続き編集幹事を担われたリンテッ ク・田久真也氏の惜しみないご尽力に対して、この紙面を 借りて重ねて御礼を申し上げる次第である。 著者略歴: 大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻講師。 1986 年大阪大学工学部卒、 1988 年大阪大学工学研究科修了、同年大阪 大学工学部助手に着任。 2005 2 月~2009 3 月大阪大学講師、 2009 4 月~2012 3 月名古屋大学講師、2012 4 月~現職。 博士(工学)。電子材料の微細接合、異種材料の構造・機能接合 などの研究に従事。 2002 年溶接学会論文賞、 2003 ICEP Outstanding Technical Paper 受賞。溶接学会、エレクトロニクス実装学会、応 用物理学会、金属学会、IEEE CPMT 各会員。

【論文誌技術解説】10 【論文誌技術解説】 英文論文誌C「Microwave and Millimeter-Wave Technology 」 小特集号の発刊に寄せて (ゲストエディタ)

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【論文誌技術解説】

「次世代モビリティ機器を牽引する高機能・高密度実装技術論文特集

(2016 年 11 月号)によせて」 (次世代モビリティ機器を牽引する高機能・高密度実装技術論文特集

編集委員長) 安田 清和(大阪大学)

2004 年より電子情報通信学会論文誌において電子実装

技術に関する一連の論文特集が企画されてから今回で 13

回目を迎える。エレクトロニクス産業において電子実装は、

材料やプロセスから、デバイスやシステムまでの最終製品

に至る幅広い技術の組み合わせと最適化を目指す分野横

断技術であり、関連する技術者研究者間の産学の垣根を超

えた学術交流が国内産業を下支えしてきた側面がある。学

会誌におけるこのような企画を通して本分野の活性化を

図ってきた諸先輩の先見と労に敬意を表したい。

さて、近代歴史の中で特筆されるエレクトロニクス産業

の興隆を振り返ると、米国で産声を上げた半導体 IC の集

積化からスーパーコンピュータ、パーソナルコンピュータ、

スマートフォンに至る先端実装技術の革新がいまや日常

の人間社会の生活基盤を支えている。今後も人間の脳機能

の一部を外界システムが代替し、高機能で存在を感じさせ

ないモビリティに富む知的システムの登場が期待できる。

これまで電子実装技術は、実製品の機械的特性、電気的特

性、信頼性を担保する地道な技術の積み上げとともにハー

ドウェアを高密度化、高速化することでその機能を高性能

化してきた。最近の技術トレンドは電気自動車の自動運転

技術や、AI による深層学習・認識、拡張現実などの技術

において、情報処理と現実空間とが相互作用することで

我々の生活様式を激変させる可能性を秘めており、依然と

して電子実装技術が貢献できるものと考えらえる。そのよ

うな時や空間を超えて人間が知的に連携する将来社会で

は、いっそう知的電子システムの飛躍が必要であり、携帯

性や利便性が次世代のモビリティ機器に要求されている。

このような背景から今回の特集号では、招待論文として、

日本アイ・ビー・エム(株)の山道新太郎氏よりコグニテ

ィブ・コンピューティングに向けたニューロモーフィッ

ク・デバイスと今後の実装技術と題してご投稿いただいた。

ビッグデータ時代に向けたコグニティブ・コンピューティ

ング、人間の脳の信号処理をハードウェア化したニューロ

モーフィック・デバイス、これらに必要となる超微細接合

として Injection Molded Solder(IMS)技術や三次元積層の低

コスト化に有利な Vertical integration after Stacking(ViaS)技

術などに関して解説いただいた。

一般論文として、3 次元集積用テンポラリー接着剤の特

性とウェハエッジの影響、表面活性化処理による GaAs 電

界効果トランジスタの S パラメータへの影響、次世代半導

体配線用めっき銅薄膜の機械的特性分布広がり制御因子

の解明、水蒸気バリア性に優れた有機発光ダイオード

(OLED)粘着材と題した 4 件を採録した。また、ショート

ノートとして、超微細銅めっき配線パターンの信頼性評価、

同 軸 管 を 用 い た 小 型 抵 抗 の 非 接 触 PIM ( Passive

intermodulation)特性評価、シンクロトロン放射光を用い

た透明多結晶酸化亜鉛薄膜におけるドーパント成分の局

所構造解析の 3 件を採録した。

最後に、本特集号の発行にあたり、貴重なご投稿をいた

だいた著者の皆さま、論文査読にご尽力をいただいた査読

委員、企画編集にご尽力をいただいた編集幹事、編集委員

ならびに学会事務局の皆さまに心より感謝の意を表する。

とりわけ、前回に引き続き編集幹事を担われたリンテッ

ク・田久真也氏の惜しみないご尽力に対して、この紙面を

借りて重ねて御礼を申し上げる次第である。

著者略歴:

大阪大学大学院工学研究科マテリアル生産科学専攻講師。1986

年大阪大学工学部卒、1988 年大阪大学工学研究科修了、同年大阪

大学工学部助手に着任。2005 年 2 月~2009 年 3 月大阪大学講師、

2009 年 4 月~2012 年 3 月名古屋大学講師、2012 年 4 月~現職。

博士(工学)。電子材料の微細接合、異種材料の構造・機能接合

などの研究に従事。2002 年溶接学会論文賞、2003 ICEP Outstanding

Technical Paper 受賞。溶接学会、エレクトロニクス実装学会、応

用物理学会、金属学会、IEEE CPMT 各会員。

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【論文誌技術解説】

英文論文誌 C「Microwave and Millimeter-Wave Technology」 小特集号の発刊に寄せて (ゲストエディタ)

末松 憲治(東北大学)

近年、第 5 世代をはじめとする無線通信や、各種レーダ

ーなどのアプリケーションだけでなく、ワイヤレス電力伝

送、生体医療センサ、ワイヤレス IoT など、様々な新たな

アプリケーションにおいて、マイクロ波・ミリ波技術が注

目されています。これらのアプリケーションにおいては、

電気的な性能だけでなく、小形、低コストであることも要

求されるため、MMIC や RFIC などの半導体集積回路技術

や、これら IC や各種受動回路のモジュール、基板、無線

機への実装技術などの、マイクロ波・ミリ波集積化技術が

重要となってきています。これらの集積化技術は、携帯電

話などの無線端末の小形・軽量化を実現するためのキー技

術の 1 つでありましたし、かつ、今後の新しいアプリケー

ションを実現する上でも、キー技術であり続けると考えら

れます。

このマイクロ波・ミリ波集積化技術に関する国際会議

(2015 IEEE International Symposium on Radio-Frequency

Integration Technologies, RFIT2015) が昨年 8 月に、仙台、

東北大学さくらホールにおいて開催されました。135 名を

超える方々が参加し、最新の集積化技術に関する 85 件の

論文発表と、活発な議論が行われました。これを機に、マ

イクロ波・ミリ波集積化技術を中心に、最新、かつ、より

幅広い研究成果を読者の皆様に提供することを目的に、本

小特集号を企画しました。

編集委員会において、査読結果をもとに厳正なる審査を

行った結果、計 16 件の論文(3 件の招待論文、11 件の一

般論文、2 件のブリーフ・ペーパー)を採録しました。査

読にご協力頂きました皆様には、あらためて御礼申し上げ

ます。3 件の招待論文のうち 2 件は、最新の集積化技術を

ご紹介頂いたものです。1 件目は、JAXA の川崎繁男先生

に、 “The Dawn of the New Semiconductor Integrated Circuit

of RF-HySIC - Initiative of a Microwave Hybrid IC by Si and

Compound Semiconductors - ” と題して、最新の半導体集積

化技術である RF Hybrid semiconductor integrated circuit

(RF HySIC) についてご紹介頂きました。2 件目は、産総

研の堀部雅弘様に “Low cost, high performance of coplanar

waveguide fabricated by screen printing technology” と題し

て、プリンテッドエレクトロニクスを用いて製作する最

新の受動回路技術をご紹介頂きました。3 件目は、広島

大・天川修平先生に、“Scattered Reflections on Scattering

Parameters” と題して、マイクロ波・ミリ波回路設計の基

本となる S パラメータに関して、ご解説頂きました。

なお、誠に残念ながら採録に至らなかった論文につきま

しては、査読者のコメントを基に再度ご推敲頂くとともに

論文の完成度を高めていただき、次回の特集号または一般

号への投稿をご検討いただけますと幸いに存じます。最後

になりますが、本小特集号に貴重な最先端の研究成果をご

投稿頂いた投稿者、それらの論文を丁寧にご査読頂いた査

読委員、そして本小特集号の編集にあたり多大なご苦労頂

いた幹事の岡崎様をはじめとする編集委員の皆様に、心よ

り御礼申し上げます。

編集委員会委員(敬称略):

幹事 大平昌孝(埼玉大)、岡崎浩司(NTT ドコモ)、本

良瑞樹(東北大)

委員 石黒仁揮(慶応大)、伊藤信之(岡山県立大)、西川

健二郎(鹿児島大学)、真田篤志(大阪大)、新庄真太郎(三

菱電機)、篠原真毅(京都大)、鈴木俊秀(富士通研)、上

原一浩(岡山大)、楳田洋太郎(東京理科大)、山中宏治(三

菱電機)

著者略歴:

1985 年早稲田大学理工学部電子通信学科卒業。1987 年同大学

院理工学研究科修士課程修了。博士(工学)早稲田大学。1987

年三菱電機(株)入社。携帯電話、ITS、衛星通信用マイクロ波

機器および MMIC/RFIC の研究開発に従事。1992 年~1993 年英国

リーズ大学客員研究員。2008 年~2010 年東北大学客員教授。2010

年より東北大学電気通信研究所教授。APMC2014 実行委員長、

IEEE RFIT2015 General Chair を歴任。1992 年本会篠原記念学術奨

励賞。本会シニア会員、IEEE シニア会員。

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【論文誌技術解説】

英文論文誌 C 小特集「電子ディスプレイ」 (ゲストエディタ)

志賀 智一(電気通信大学)

電子ディスプレイは日常生活のいたるところに浸透し

用いられている。我々はスマートフォンやタブレット PC、

ゲーム機器、テレビ、PC などを通して電子ディスプレイ

を日頃から利用しており、店舗や屋外に設置されたデジタ

ルサイネージ(電子掲示板)や公共交通機関の車内に設け

られた電子ディスプレイなどもよく目にしている。それに

加え最近では安全や利便性を補助する車載ディスプレイ

も普及しつつある。このように広く浸透した背景には、多

くの研究者・技術者の努力の賜物もあるが、電子ディスプ

レイを多くのシーンで利用したいというユーザーからの

要求も大きな要因と言えよう。現在盛んに進められている

フレキシブルディスプレイや仮想/拡張現実(VR/AR)技

術向けディスプレイの研究開発も、ユーザーのこんなこと

ができたらいいなという夢を叶えるべく進められている。

電子ディスプレイ技術の進展には、材料、製造プロセス、

駆動回路、信号処理回路、画像処理、アプリケーションな

ど多岐にわたる分野の研究開発の進展が要求される。その

一端を担うべく、電子情報ディスプレイ研究専門委員会

(EID)では今回の「電子ディスプレイ」小特集を企画し

た。

電子ディスプレイ研究開発分野で世界的にも権威のあ

る国際学会の一つである International Display Workshops

(IDW) は 1994 年から毎年日本で開催されており、EID も

協賛している。第 22 回 International Display Workshops

(IDW ’15) は、2015 年 12 月 9 日から 11 日にわたり大津プ

リンスホテル(滋賀県大津市)で開催された。ノーベル賞

受賞者の天野浩氏(名古屋大学)による液晶ディスプレイ

用光源としても多用されている LED に関する特別講演、

各界の著名な方によるインタラクティブ技術・モバイル技

術・IoT に関する基調講演のほか、口頭 247 件、ポスター

214 件、計 461 件の発表がなされた。参加者は 16 の国と

地域から 1,273 名であった。その発表の中から優れたもの

を本小特集への招待論文候補者として IDW プログラム委

員会からいくつか選出していただいた。同時に一般からも

論文投稿を広く募集した。

投稿された論文原稿に対して、厳正な査読審査を行い、

最終的に 10 件の論文が採録となった。9 件の Regular paper

(うち 8 件が Invited paper)と、1 件の brief paper から構

成されている。採録された論文のいくつかは、フレキシブ

ル液晶ディスプレイに関する論文である。液晶ディスプレ

イはその視野角依存性や材料の特性などの観点からフレ

キシブルディスプレイには不向きとされてきた(ちなみに

現状は有機 EL(OLED)ディスプレイが本命である)。最

近著者らは斬新なアプローチでフレキシブル液晶ディス

プレイの研究を精力的に進めている。また液晶ディスプレ

イの製造プロセスの低コスト化を目的としたものとして、

ブラックマトリックスをエレクトロスプレーデポジショ

ン法で作製する方法や、配向膜を用いずに液晶を並べる手

法といった論文が掲載されている。このほかに、蛍光体の

作製方法に関する研究、液晶ディスプレイや LED 照明の

光学特性測定方法に関する研究、人間の視覚特性を利用し

て信号処理を施すことによりディスプレイの消費電力を

低減する手法といった論文が掲載されている。これらの論

文が電子ディスプレイのさらなる進展に貢献することを

期待している。

最後に、編集委員長として、編集幹事の小尻尚志氏(日

本ゼオン)、編集委員の木村睦氏(龍谷大学)・小南裕子氏

(静岡大学)・伊達宗和氏(NTT)・山口雅浩氏(東京工業

大学)・山口留美子氏(秋田大学)・野中亮助氏(東芝)・

新田博幸氏(ジャパンディスプレイ)・中田充氏(NHK)、

査読者のみなさま、そしてなにより著者のみなさまのご協

力により本特集を発行するに至りました。心より感謝いた

します。

著者略歴:

1999 年電気通信大学電子工学専攻博士後期課程を修了、同年同

大学助手。2004 年から同助教授(現准教授)、現在に至る。博士

(工学)。主としてプラズマディスプレイ、液晶ディスプレイバ

ックライト、視覚特性に関する研究に従事。2005 年 SID Special

Recognition Award 受賞。電子情報通信学会(シニア)、映像情報

メディア学会、照明学会、SID 各会員。