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メタヒューリスティクスによる最適化の例 1.大学生活の中から:研究室配属問題、時間割作成問題、 試験監督配置問題など。 2.工場の生産スケジューリング:自動車、造船、鉄鋼、家 電、半導体、カメラ、段ボール紙、その他。 3.最適ルートの決定:巡回セールスマン問題、配送計画問 題、ロジスティクス、カーナビのアルゴリズムなど。 4.詰込み、配置の計画:長方形詰込み問題、工場・倉庫・ コンビニなどの最適配置問題、資源の最適配分問題など。 5.メタヒューリスティクスを中心としたアルゴリズムの研究。 6.グラフ・ネットワーク理論、論理関数のデータ解析への 応用など、離散数学の話題。 離散数学、アルゴリズム、グラフ・ネットワーク理論、最適化理論、計算の複雑さなど情報科学 の基礎をなす理論と、それらの現実問題への応用を研究対象としています。応用上重要な離散最適 化問題には困難なものが多いので、厳密な最適解でなくても、質のよい近似解を高速に求めること が重要と考え、メタヒューリスティクスの枠組みを利用して、代表的な標準問題に対する「問題解決エンジン」の開発と 実装を行ってきました。また、これらのエンジンを適用するには、対象とする問題の適切な数理的モデルを建てなければ なりませんが、モデリングの理論と技術はまだほとんど手が付けられていない分野なので、その意味で興味をもっていま す。「理論と現実を橋渡しするための研究を楽しみつつ行う」というのが私のモットーです。 茨木 俊秀 教授 専門分野/離散数学・最適化・アル ゴリズム ●研究テーマ 「 問題解決エンジン」の開発と応用 人間は、空間の情景を両眼で見ると、奥行きや立体の配置を理解することができる。これは、左 の目と右の目に映る2つの画像の違いによって理解していると考えられ、実際にその仕組みを利用 した、立体映像、映画が既に実現されている。一方で、われわれは、平面の上に描かれた1つの図 形から、その図形が表している立体を不完全ではあるが理解することができる。しかし、人間が、どのような仕組みで1 つの図形から立体を理解しているのか、明らかにされていない。情報科学や数学や心理学の知識・手法を用いて、さまざ まな仮説を検証しながら、立体認識の過程を研究している。 浅野 考平 教授 専門分野/応用数理科学、離散幾 何学 ●研究テーマ 立体認識と不可能物体 テーマのひとつは、不可能物体の生成です。不可能物体というのは、実際に 存在しそうで、存在しない物体です。左の図が不可能物体の1つで、研究室の 学生が考えたものです。存在しそうで存在しない物体というのは、言葉で説明 するのは難しいのですが、上で説明した「1つの図から立体を認識する過程」 において、最初は成功するが、途中で失敗するような図形だと考えられています。 今は、不可能物体を用いて、立体認識の過程を研究しようとしています。 数学や、物理学など歴史のある分野の研究と異なり、情報科学の研究はいろ いろな分野の方法を用います。それだけに、各分野の研究方法の本質をしっか り捉える必要があります。難しいことですがやりがいのあることだと思ってい ます。

茨木 俊秀ist.ksc.kwansei.ac.jp/grad_school/etc/profs.pdfメタヒューリスティクスによる最適化の例 1.大学生活の中から:研究室配属問題、時間割作成問題、

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メタヒューリスティクスによる最適化の例 1.大学生活の中から:研究室配属問題、時間割作成問題、試験監督配置問題など。

2.工場の生産スケジューリング:自動車、造船、鉄鋼、家電、半導体、カメラ、段ボール紙、その他。

3.最適ルートの決定:巡回セールスマン問題、配送計画問題、ロジスティクス、カーナビのアルゴリズムなど。

4.詰込み、配置の計画:長方形詰込み問題、工場・倉庫・コンビニなどの最適配置問題、資源の最適配分問題など。

5.メタヒューリスティクスを中心としたアルゴリズムの研究。6.グラフ・ネットワーク理論、論理関数のデータ解析への応用など、離散数学の話題。

離散数学、アルゴリズム、グラフ・ネットワーク理論、最適化理論、計算の複雑さなど情報科学の基礎をなす理論と、それらの現実問題への応用を研究対象としています。応用上重要な離散最適化問題には困難なものが多いので、厳密な最適解でなくても、質のよい近似解を高速に求めること

が重要と考え、メタヒューリスティクスの枠組みを利用して、代表的な標準問題に対する「問題解決エンジン」の開発と実装を行ってきました。また、これらのエンジンを適用するには、対象とする問題の適切な数理的モデルを建てなければなりませんが、モデリングの理論と技術はまだほとんど手が付けられていない分野なので、その意味で興味をもっています。「理論と現実を橋渡しするための研究を楽しみつつ行う」というのが私のモットーです。

茨木 俊秀 教授専門分野/離散数学・最適化・アルゴリズム

●研究テーマ

「 問題解決エンジン」の開発と応用

人間は、空間の情景を両眼で見ると、奥行きや立体の配置を理解することができる。これは、左

の目と右の目に映る2つの画像の違いによって理解していると考えられ、実際にその仕組みを利用

した、立体映像、映画が既に実現されている。一方で、われわれは、平面の上に描かれた1つの図

形から、その図形が表している立体を不完全ではあるが理解することができる。しかし、人間が、どのような仕組みで1

つの図形から立体を理解しているのか、明らかにされていない。情報科学や数学や心理学の知識・手法を用いて、さまざ

まな仮説を検証しながら、立体認識の過程を研究している。

浅野 考平 教授専門分野/応用数理科学、離散幾何学

●研究テーマ

立体認識と不可能物体

テーマのひとつは、不可能物体の生成です。不可能物体というのは、実際に

存在しそうで、存在しない物体です。左の図が不可能物体の1つで、研究室の

学生が考えたものです。存在しそうで存在しない物体というのは、言葉で説明

するのは難しいのですが、上で説明した「1つの図から立体を認識する過程」

において、最初は成功するが、途中で失敗するような図形だと考えられています。

今は、不可能物体を用いて、立体認識の過程を研究しようとしています。

数学や、物理学など歴史のある分野の研究と異なり、情報科学の研究はいろ

いろな分野の方法を用います。それだけに、各分野の研究方法の本質をしっか

り捉える必要があります。難しいことですがやりがいのあることだと思ってい

ます。

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金田 悠紀夫 教授専門分野/並列処理・マルチエージェント・画像処理

●研究テーマ

並列計算・マルチモバイルエージェント・並列画像処理

●研究テーマ例

(1)マルチエージェントによる高安全コンピューティングの実現

(2)モバイルエージェント記述言語と実行環境に関する研究

(3)並列コンピュータを用いた高速シミュレーション技法の研究

(4)実時間画像処理手法の導入による自動車走行の安全性向上に関する研究

インターネット、WWWのハイパーリンク構造(Webグラフ)をはじめ、物流や電力網などの社会技術インフラ、遺伝子や代謝系の生物システム、知人や企業間の社

会的関係など、多くの領域に“ネットワーク”が見られる。それらは互いにまったく異なる要素で構成されているにも関わらず、結合構造には驚くほど共通の性質が存在することが近年発見されてきた。これが一つの契機となって、複雑ネットワークの科学が発展しつつある。本研究室では、離散数学(特にグラフ理論、ランダムグラフ理論)、離散

最適化アルゴリズム理論、確率論などを駆使することによって、ネットワークの形成原理を説明できる様々な数理モデルを構築し、性質を解析している。さらに、コンピュータウィルスの拡散過程や検索ロボットによるWeb グラフ探索などのネットワーク上の様々なアルゴリズムの挙動とネットワーク形状の関係を解析し、性能の良いアルゴリズムの設計にもつなげている。また、これらの研究とも関連して、インターネットをはじめとする情報

通信ネットワークの最適設計技術、経路制御や負荷分散制御、P2P(Peer-to-Peer) 通信やセンサネットワークなどの各種制御技術、性能評価技術の研究開発も行っている。研究領域は、これらに留まらず、現実の社会において数理的な観点から取

り扱える様々な問題のモデル化や解析、アルゴリズム設計なども行っている。

巳波 弘佳 専任講師専門分野/離散数学、通信ネットワーク、オペレーションズ・リサーチ

●研究テーマ

ネットワークの数理科学

提案したネットワーク形成モデルの一つである「閾値モデル」によって描かれたネットワークの例。簡単な規則で生成されるが、現実のネットワーク「らしい」形状になっていることが分かる。

コンピュータが実用化されてから 50 年以上たっています。並列コンピュータの実現は当初からの夢でした。現在、集積回路技術の進歩により 1チップ化が可能となり並列コンピュータの実用化の時期を迎

えています。従来の単一コンピュータによる直列型計算と根本的に異なる計算法が求められています。気象予測などの大型シミュレーションや実時間画像処理・認識を始めとして多くの大型計算の要求があります。並列化によるこれらの計算の高速化技法の研究をしています。(地球シミュレータが並列コンピュータの代表例です〈図

参照〉)一方、インターネットを始めとするコンピュータネットワークの発展によりネットワークを介した取引や協調が盛んに

行われるようになって来ました。ここに、新たに安全性の問題が出てきました。マルチエージェント、モバイルエージェントの技術を用いたネットワー

ク上での安全性の高い計算法に関する研究も行っています。

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高橋 和子 助教授専門分野/知識情報処理、計算機科学

●研究テーマ

時空間要素を含む知識の表現と推論方法

ロボットに代表される知的システムを正確に効率よく動かすためには、それらが扱う対象知識に対する十分な表現力と効率のよい推論機構が不可欠です。特に、時間的空間的要素をとりいれた知識の表現および推論方法についての研究を行なっています。具体的なテーマを 2つあげると、1つ

は定性空間推論の枠組の構築とその上での推論アルゴリズムの開発であり、もう 1つは、分散環境におけるマルチエージェントを使った問題解決方法の研究です。定性空間推論は図形や画像データを位置座標や長さなど数値表現ではなく、オブジェクトの数や互いの相対的位置関係な

ど、目的に応じて必要なもののみを定性的なデータとして取り出して記号表現する方法で、データ量や計算量を減らすことができます。この研究では、簡略地図の生成、WEB上のデータからの空間情報獲得、画像認識への応用などをめざします。マルチエージェントを使った問題解決では、各エージェントが部分的な情報しかないときにどのような行動をとるか、

動的に変化する環境に対応できるか、信用できないエージェントがいる場合どうするか、といったことが問題になり、これらを確実に解決するのはとても困難になっています。この研究では、マルチエージェントの考え方を使って分散環境における安全かつ柔軟なシステムの提供をめざします。

図 1は空間の表現方法についての例で、この図を定量的に表現すると「左下隅を (0、2) の位置に 4× 3の長方形 Aがあり、 左下隅を (4、5) の位置に 2× 2の正方形 Bがある」となり、定性的に表現すると「オブジェクト A、Bが互いに線で接している」のようになります。これまでに、領域の相対的位置を表す空間情報と領域上で成り立つ性質を表す意味情報を組

み合わせたモデルを提案し実装しました。また、点、線、閉路、範囲を構成要素としてこれらの関係で図形データを表現し、その上で推論を行なう枠組を研究中です。図 2はマルチエージェントによる問題解決システムの例で、ネットワークプリンタの制御シ

ステムの構成図です。基本部分は実装済で、今後はセキュリティの保証や動作の検証などを研究していく予定です。

図 1

図 2

携帯電話やディジタル映像・音響機器に搭載されるプロセッサは、高いマルチメディア処理能力と低消費電力化、低コスト化という相反する目標の達成が厳しく要求される。目的に最適化したアーキテクチャを持つ専用プロセッサの設計によりこの問題の解決を目指すアプローチは、独自のキー

デバイスを持つという技術戦略上のメリットもあって、種々の試みがなされているが、実用化にはそのプロセッサのソフトウェアの開発環境、特にコンパイラの開発が大きな課題になる。当研究室では、ソースプログラムとプロセッサのアーキテクチャ記述を入力として、そのプロセッサのコードを生成するリターゲッタブル・コンパイラの開発を目標に、コンパイラのリターゲッティング技術、コード最適化技術の研究を行っている。これに関連し、C言語等のプログラムからこれを実行するプロセッサと等価なハードウェアを自動合成する高位合成システムの研究も行っている。

石浦 菜岐佐 教授専門分野/ LSI の計算機援用設計、 コンパイラ

●研究テーマ組込みプロセッサ用リターゲッタブル・コンパイラの開発

●研究テーマ例(1) コンパイラ・フロントエンドの開発、プロセッサのアーキテクチャ記述からコンパイラに必要な情報の抽出、コンパイラ・バックエンドの開発、特にコードスケジューリング・アルゴリズムの研究

(2) GCC のリターゲッティング、BINUTILS の自動生成、コンパイラのテスト・スイートの開発

(3) プロセッサ代替可能なハードウェアを合成する高位合成システムの開発

C プログラム

リターゲッタブルコンパイラ

プロセッサ1機械語プロセッサ2機械語プロセッサ3機械語

リターゲッタブルコンパイラ

プロセッサ1アーキテクチャプロセッサ2アーキテクチャプロセッサ3アーキテクチャ

プロセッサのアーキテクチャ記述自動生成

dsp.md dsp.h dsp.c dsp.cpu

cgen

アセンブラ (as)、 リンカ (ld)デバッガ (gdb)、 etc.

gcc-dspライブラリ(newlib)

GCC のリターゲッティング

Cプログラム関数1 関数 2 関数 3 関数 4

合成専用 HW 専用HW プロセッサ

主記憶

高位合成システム

gcc

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社会基盤としての情報通信システムには、情報処理や伝送の効率がよいこと、信頼性が高いこと、そして安全性が高いことが要求されます。情報理論と呼ば

れる分野は、情報を定量的に扱うことで、これらの限界を明らかにする学問です。また、広義の情報理論は、その限界を達成するための具体的な情報の変換方法、すなわち符号化の検討を含みます。1948 年にシャノンが情報理論を創設して以来、「情報理論とその応用」は学術的に発展を続けており、また得られた成果の多くが実用化されています。中でも、特に誤り訂正符号化とディジタル通信への応用に関する研究を主たる研究対象とし、最近では暗号技術とその応用の研究にも着手しています。

現代は情報洪水の時代です。この洪水に溺れてはいけません。「無くて七癖」といわれるように、データの中にはたくさんの癖が潜んでいます。

この癖から金鉱を掘り出して役立てていく、これがデータマイニングです。機械学習や統計学の方法を発展させる必要があります。しかし、純粋に理論を追いかけると、袋小路に入ってしまいます。対象データの世界に一歩踏み込むと、本当に値打ちのある知識か、それとも本質には関係のない単なる癖かがわかります。そして、本当に意味のある知識を求める方法は、マイニングにとっても真に有効な新しい方法論です。本研究室では、分子や医療の世界を中心としながらも、商業やスポーツなどをふくむ幅広い世界を対象として、実際にマイニングを行っています。解析の過程で問題点を見つけ、マイニングの理論を発展させ、実際にシステムを作ります。好奇心を一杯にして、金やダイアを一緒に探しましょう。

井坂 元彦 専任講師専門分野/情報理論、符号化、暗号

●研究テーマ

通信の信頼性と安全性の向上に関する研究

1990 年代半ば以降、ターボ符号や LDPC 符号など、通信の信頼性に関する理論的限界に迫る優れた符号化と復号法が知られるようになりました。当研究室でも、これらの先端的な符号化に関する検討を中心に行っており、具体的な符号の構成や効率的な復号法の開発などを研究テーマとしています。また暗号分野では、複数のプレイヤーが安全に計算を行うための手法とそこで用いられる暗号プリミティブを中心に研究しています。情報通信の高度化に伴って、基礎理論の重要性は近年さらに高まっており、特にその信頼性と安全性の向上に貢献すべく、研究活動を行っています。

岡田  孝 教授専門分野/人工知能・情報学(化学、医療、スポーツ、商業)

●研究テーマ

分子生命情報学とデータマイニング

●研究アクティビティの例

1.発ガン性物質からの特徴的化学構造の発見

2.遺伝子と医薬品からの医療データマイニング

3.特徴的ルールの探索システム開発

4.グリッド技術を使った大量データのマイニング

5.XMLを使った知識発見のためのWebシステム

医薬品の副作用予測や買い物パターンの分析、スポーツの作戦予測を行います。

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Web はその急速な普及により現代社会を支えるインフラストラクチャの一つとなっており、情

報発信や共有など様々な用途に用いられている。その利用者はコンピュータの専門家だけではなく、

子供や高齢者な どの初心者にまで広がっており、誰でも使えるユーザフレンドリーなWebインタ

フェースの開発は急務となっている。一方、Webシステムの課題の一つは関連する情報が複数の情報源に分散して存在

することであり、これらを連携させ、それぞれの

付加価値を上げる情報統合技術が必要になる。わ

れわれの研究室では擬人化キャラクタエージェン

トや Semantic Web 技術を用いたWeb 情報統合イ

ンタフェースの研究を行っている。

北村 泰彦 教授専門分野/Web 情報統合、マルチエージェントシステム

●研究テーマ

キャラクタエージェントによるWeb情報統合

競争型レストラン推薦システムRecommendation Battlers(RB):右図に示す RB では異なる情報源から情報収

集した複数のキャラクタが競争しながらユーザにレストラン推薦を行う。それぞれのエージェントは価格と近さの観点からユーザにレストランを推薦し、それに対するユーザの反応からユーザの好みを学習し、推薦戦略を変更する。

モバイルシステムが情報通信媒体として用いている電波は、送信アンテナから受信アンテナに到達するまでに様々な物体での反射や散乱を受け、複数の経路を通ってくる。これをマルチパス伝搬と言うが、これらの複数パスの電波は、その振幅、位相、偏波、到達時間などが異なるために、受

信信号は非常に激しい場所的・時間的変動を受ける。この激しい変動が信号伝送品質を著しく低下させる。このような通信チャネルを前提として、これまで以上に高速な情報伝送を可能とするモバイルシステムを実現するに

は、電波の伝わり方を明らかにし、阻害要因を克服する技術を開発することが重要となる。本研究室では、電波の伝搬現象の解明とモデリング、並びにその成果を応用したモバイル通信システムの研究開発を進めている。電波という通信媒体の多重波伝搬路内におけるチャネル特性の解明とモデル化、並びにモバイル端末におけるアンテナの構成法(性能評価法、空間・偏波・指向性などの組み合わせ最適化法、小形・広帯域なアンテナ素子の開発、人体効果)を、情報科学として捉え、コンピュータ・シミュレーションを通じて研究を行う。

多賀 登喜雄 教授専門分野/広帯域モバイル通信、チャネル解析、チャネルモデリング

●研究テーマ

高速・広帯域モバイルマルチメディアシステムの実現

●目標の研究アクティビティの例

1.確率的シャドウイング変動モデル

2.レイトレーシング技法によるチャネル特性評価ソフト

3.動的チャネルシミュレーションモデルの確立

4.多重波中でのMIMOアンテナ特性評価法(3D到来波モデル) 2.4GHz 帯無線 LAN の電波が 1m× 1mの窓から外に漏れ出す様子

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昨今の日本経済の混迷の原因は多元的なものですが、最も基本的な原因の1つは、日本が世界を圧倒してリードする製品、殊に産業基盤となる新素材を持っていないことにあると思います。21世紀の材料研

究者の使命は、21 世紀の世界の産業を興し文化の発展に寄与するために、新製品のキー・マテリアルとなる新材料を発見し発明することであると思います。新材料の発見と発明を効率よく行うために、コンピュータを活用した材料の設計法と設計技術を確立することが重要です。コンピュータによる新材料の設計法と設計技術を確立した研究者が材料開発を制します。そしてその国が世界の産業を制します。この研究室では、材料の設計法として最も優れた手法の1つであるDV-X α法を採用しています。この手法の本質を徹底して理解し、徹底して使いこなし、徹底してノウハウを蓄積し整理することによって、 新材料の設計技術の完成度を高めて、新材料の発見と発明に努めています。

素材の性能向上が、これからの環境調和型社会の確立という観点から強く求められています。このような材料の物性改善には組織制御が大きく貢献することが知られており、大量の研究資源が投入されています。このような領域に、物理や

化学の知識を縦横に使って計算を進める情報技術を組み込もうというのが我々が取り組んでいる計算機材料学の目標です。材料の組織制御においては、電子による化学結合から、原子の有限温度での集団

運動、そしてナノ構造物やバルクの成長や変形という、ミクロからメゾ・ナノまでの長さスケールにわたる素過程が関わってきます。またそこで必要となる知識も、量子力学・熱統計力学などの基礎物理学、および第一原理計算、分子動力学、有限要素法などの計算手法といったように、多岐の学問領域にわたります。計算機材料学は、新奇な材料開発を見据えて、広いスケールにまたがって複雑な系をシミュレートする手法の確立を目指しています。

早藤 貴範 教授専門分野/材料設計・計算科学・コンピュータシミュレーション

●研究テーマ

コンピュータ内の仮想実験室による新材料設計

●研究アクティビティの例1.コンピュータによる新材料設計手法の確立2.ULSI 用新材料(半導体、金属、絶縁体)の設計3.ULSI 極浅接合用の新ドーパントの探索4.ULSI 電極用のシリサイド合金の設計5.ULSI 絶縁膜用の新強誘電体の設計 6.酸化物ワイドギャップ半導体の超低抵抗化の研究

Ba8Ti7o

(Sn2In30O89N)84-B6Si42H42

西谷 滋人 教授専門分野/計算機材料学、マルチスケールシミュレーション、第一原理計算

●研究テーマ

第一原理計算による組織制御シミュレーション

図 1 マルチスケールシミュレーションのコンセプト。

図 2 Fe-Cu 系の bcc-Cu の析出に伴う自由エネルギー変化の計算値。エンタルピー H、エントロピー S、自由エネルギーのサイズ nにおける計算値から、臨界粒子数 n*、臨界エネルギーG* が求められた。

材料のマルチスケールシミュレーションには、大量の計算機資源が要求されます。近年の CPU、メモリー、HD、通信性能の飛躍的な向上は、数年前までは世界に一つか二つしかなかったようなスーパーコンピュータを、デスクトップに置くことが可能となってきました。当研究室では、このような驚異的な計算機能力を駆使して、シュレディンガー

方程式を数値的に解く第一原理計算を道具として使っています。そこで得られた精密なエネルギー変化を熱統計力学と組み合わせることによって、よりマクロなスケールで組織がどのように変化していくかをシミュレートしています。実際に、次世代の高張力鋼と目される Fe-Cu 系の組織制御には、我々が求めたbcc-Cu の析出自由エネルギー変化の計算値が使われています。また、このような計算の基礎となる並列・グリッドなどの実行環境の効率的な構築・運用や、量子力学・熱統計力学の数値計算手法の改良などを通じて、計算機シミュレーションが材料開発の有力な手法の一つとなるように研究を進めています。

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長年通信関係の企業で通信技術、コミュニケーション技術の研究開発に携わった後、関西学院大学に移った。長期的視点に立った基礎研究を行うと共に、研究成果を世の中に生かしていくことも大学の使命であると考えている。具体的には、情報処理技術を活用したエンタテインメント(ディジタルエンタテインメント)の

研究を行っている。エンタテインメントは、日常生活の中で私達の心を慰めたり力づけてくれる事により私達に精神的な豊かさを与えてくれる。従来の工学は私達の生活における物質的な豊かさの実現に貢献してきたが、心の時代といわれる21世紀には、私達の生活の精神面を豊かにするエンタテインメント技術などの研究が重要になると考えられる。しかしながら、テレビゲームなどのディジタルエンタテインメントが広く世の中に普及しているにもかかわらず、これまでは研究の対象とされることが少なかったのではないだろうか。このような考え方に基づき、次世代のエンタテインメントの研究を行うと共に、エンタテ

インメントと人間の心理・生理面との関係も研究する。

中津 良平 教授専門分野/コミュニケーションロボット、ヒューマンインタフェース、インタラクション技術、バーチャルリアリティ

●研究テーマディジタルエンタテインメントの研究

●次世代の新しいエンタテインメントを実現するために、以下のような研究を行っている。⑴エンタテインメントロボットの研究

音声などによる人とのコミュニケーション機能を持つ人型や動物型のロボットの設計・開発を行っている。また、それらのロボットのエンタテインメントへの応用として、身体動作(太極拳など)の教示ロボット、ロボットを用いた対戦ゲーム、企業などにおける広報・宣伝活動への応用などを研究している。

⑵仮想体験システムの研究ユーザが主人公となって、歴史上のイベントなどを仮想体験できるシステムの研究

を行っている。また、そのコンテンツをシナリオから容易に開発することをめざして、インタラクティブコンテンツのオーサリングソフトの研究も行っている。

⑶エンタテインメントにおける「面白さ」「没入感」などの研究ゲームプレイ時の脈拍・発汗や脳の血流などの生理的情報を測定しながら、エンタ

テインメントにおける面白さとは何か、長時間ゲームなどに没入したとき脳にどのような影響があるのか、などを解明しようとしている。

ロボットによる太極拳動作

インタラクティブシステムオーサリングツール

近年のコンピュータ及びネットワーク技術の進歩によって、個人を取り

巻く情報環境の大きさが劇的に拡大した。これは生活の利便性に直結し、

人間の生活する場(社会)自体の拡大であると考えられる。しかし残念な

ことに、誰でもコンピュータ操作の典型的インタフェースであるキーボードとマウスを容易に

使いこなせるわけではない。一方、長い歴史の中で、音声による会話は我々人間が日常慣れ親

しむ最も快適で効率のよいコミュニケーションの手段であり続けてきた。音声対話が、人間と

コンピュータのインタフェースとして注目されるようになるのは自然の成り行きといえる。本

研究室では、信号処理・記号処理・知能処理などの基礎技術を駆使し、人間と音声で自由に会

話するコンピュータの実現をめざす。研究領域は音声にとどまらず、対話エージェントに表情

を与えるための画像生成・制御、知的なふるまいをさせるための言語・知能処理に及ぶ。

川端  豪 教授専門分野/音声認識・理解・対話システム

●研究テーマ

人間と音声で自由に会話するコンピュータの実現

音声対話エージェントは実写やCGの顔画像を持ち、さまざまな表情で人間に話しかけてくる

●研究アクティビティの例

1.音声認識とその応用サービスデザイン

2.人間とコンピュータの音声による対話システム

3.音声対話アルゴリズムの定量的評価

4.知的な音声対話シナリオの効率的作成法

5.音声処理・言語処理における新パラダイム構築

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今まで技術開発は、主として産業からのニーズに支えられて発展してきました。現在の私たちの生活レベルは、テクノロジーに支えられたものではありますが、過大な合理主義のもと問題も発生しつつあります。ここでは、「こんなことが出来れば楽しいだろうな」「こんなシステムがあればこのような表現ができるだろう」などのように、ヒトが本来持ち合わせる欲求や夢をベースに、情報技術と関連した「もの作り」「こと作り」を行うことを課題とします。具体的には、「インタラクション」「マルチメディア」「意図の伝達」をキーワードに、1)音楽情報処理(認知科学、各種システ

ム構築)、2)インタラクティブマルチメディアコンテンツ、ゲームの制作、3)上記の制作環境の構築、4)社会/福祉ためのヒューマンインタフェース技術研究に取り組みます。http://ist.ksc.kwansei.ac.jp/̃katayose/jp/

片寄 晴弘 教授専門分野/音楽情報処理、感性情報処理、ヒューマン・コンピュータ・インタラクション、

●研究テーマ

事例を利用したコンテンツデザインとその応用

図1.演奏表情データ(可視化例)。右図において X軸がテンポ、Y軸が音量図2.鑑賞のモードと脳活動の関係 前頭前野正中部における脳血流測定結果。赤線で表示したデータがOxi-Hbの時間的軌跡に相当する。「聞き流す」、「注意して聞く」、「指揮インタフェース利用時」の順で、この部位での脳活動の低下が著しい。芸術的没頭と相関があるものと思われる。

音楽や映像、造形や舞踊など、非言語メディアのデザインやイメージを言葉で伝えることは簡単なことではありません。そうするより、直接、事例を参照し、その特徴を伝える方がはるかに容易です。職業的なデザイン分野、特に、コンテンツプロダクションにおいては、例えば「ビートルズのあの編曲」、「スタンリー・キューブリック後期作品のシーン展開」などのように、具体的な目標事例を掲げてデザインイメージの伝達・共有をはかり、その上で、具体的な制作プロセスに入ることが通常です。本研究室では、このような形で実施されるデザインの支援を行うことを目標としています。この方式を用いれば、専門的な知識を持ち合わせていないユーザでも簡単に音楽を創ることが可能となります。具体的には、本研究では演奏における表情付け、ミックスダウン(商用音楽制作における最終工程)、作・編曲を対象としたデザイン転写技術を開発してきました。また、評価研究の一環として、心理・脳機能計測や情緒あふれる演奏生成 (Performance Rendering) システムの聴き比べコンテスト Rencon を推進しています。

長田 典子 助教授専門分野/メディア工学・感性情報処理

●研究テーマ

メディア感性情報の理解・表現・評価

「高級感のある映像」とはどのような配色や音楽から構成されているのか。また「ラテンダンスらしい動き」とはどのような身体の動きなのか。 私たちが何気なく使う言葉の中には、直

感やイメージといった主観的な情報(感性情報)が含まれています。 「人間中心システム」といわれるように、人が使いやすく親しみやすいコンピュータを実現するために、こうした感性情報を理解し表現する技術が求められています。 映像・音楽・アニメ・ゲーム・ダンスなどのメディアコンテンツにおいて、色や音や動きの特徴(らしさ)を解析し、これを利用して新しいコンテンツを生成するために、CG・VR・オーディオビジュアルインタラクション・脳機能計測・生理心理計測など多方面から研究をすすめています。 さらにはメディアが人の心に与える効果を分析し、より良いメディア表現のあり方を提案していきたいと考えています。

●研究アクティビティの例1.3DCGによるバーチャルキャンパスの構築2.音楽と映像のインタラクション3.ヒューマンシミュレーション-ラテンダンスらしさの解析と生成4.共感覚の脳機能計測5.自己イメージの研究-主観年齢-

バーチャルキャンパス

ラテン人らしいダンスモーション

共感覚保持者の脳活動(fMRI)