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140 回大会 2010 6 19 日(土),6 20 日(日),筑波大学 口頭発表,ポスター発表,ワークショップ要旨 The 140th Meeting of LSJ University of Tsukuba, 19-20 June, 2010 Abstracts of oral presentations, poster presentations, and workshops 《口頭発表 Oral presentationsComplement deletion in modern Ulster Irish Dónall P. Ó BAOILL Hideki MAKI Lobeck (1990) claims that deletion of a constituent is possible only when that constituent is a complement of a functional head that is in agreement with the element in its SPEC. This paper examines complement deletion phenomena in modern Ulster Irish (Irish, hereafter), and claims that what is elided in the complement of C is not IP, but C’ in Irish. Furthermore, if whether is a wh-phrase and if is a head in English, as Kayne (1991) claims, IP deletion is actually C’ deletion in English as well. It also shows, based on the examples with NP deletion, that the wh-phrase cén ‘which’ is in D in Irish, while the wh-phrase which is in DP SPEC in English. Patterns of A’-chains in Selayarese Hideki MAKI Hasan BASRI Finer (1997) is the first who conducted an extensive study on the properties of A’-chains in Selayarese, an Austronesian language. He reports only two patterns of A’-chains: a composite chain made out of movement and resumption (in this order) and a non-composite or uniform chain that only involves movement. However, given the other properties of the language, it is predicted that there should exist two more patterns of A’-chains in Selayarese: a composite chain made out of resumption and movement (in this order) and a chain that only involves resumption. This research shows that there did exist two other patterns of A’-chains in this language, which will contribute to clarifying the genuine mechanism of A’-chain formation in human language. 日本語関係節の統語範疇に関して 赤楚治之 原口智子 本発表の目的は、日本語関係節の統語範疇を Rizzi (1997)らの cartography の観点から再考し、 1) 主格主語を持つ関係節の統語範疇は、TP よりも大きい統語範疇であること、2)属格主語を持 つ関係節は TP であることを主張することにある。提題の「は」は関係節内に現れないのに対し、 対照の「は」やその他の取り立て詞は現れうるという事実は、cartography の研究を敷衍すれば、 関係節の統語範疇は Top P ではなく Foc Pであることから説明される。しかし、「が・の」交替が

日本語関係節の統語範疇に関して - ls-japan.org · 説明できる。またDP1が付加詞相当の名詞句の場合も同様に記述が可能となる。さらに、主語が

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第 140回大会 2010年 6月 19日(土),6月 20日(日),筑波大学 口頭発表,ポスター発表,ワークショップ要旨

The 140th Meeting of LSJ

University of Tsukuba, 19-20 June, 2010 Abstracts of oral presentations, poster presentations, and workshops

《口頭発表 Oral presentations》

Complement deletion in modern Ulster Irish

Dónall P. Ó BAOILL Hideki MAKI

Lobeck (1990) claims that deletion of a constituent is possible only when that constituent is a complement of a functional head that is in agreement with the element in its SPEC. This paper examines complement deletion phenomena in modern Ulster Irish (Irish, hereafter), and claims that what is elided in the complement of C is not IP, but C’ in Irish. Furthermore, if whether is a wh-phrase and if is a head in English, as Kayne (1991) claims, IP deletion is actually C’ deletion in English as well. It also shows, based on the examples with NP deletion, that the wh-phrase cén ‘which’ is in D in Irish, while the wh-phrase which is in DP SPEC in English.

Patterns of A’-chains in Selayarese

Hideki MAKI Hasan BASRI

Finer (1997) is the first who conducted an extensive study on the properties of A’-chains in Selayarese, an Austronesian language. He reports only two patterns of A’-chains: a composite chain made out of movement and resumption (in this order) and a non-composite or uniform chain that only involves movement. However, given the other properties of the language, it is predicted that there should exist two more patterns of A’-chains in Selayarese: a composite chain made out of resumption and movement (in this order) and a chain that only involves resumption. This research shows that there did exist two other patterns of A’-chains in this language, which will contribute to clarifying the genuine mechanism of A’-chain formation in human language.

日本語関係節の統語範疇に関して

赤楚治之 原口智子

本発表の目的は、日本語関係節の統語範疇を Rizzi (1997)らの cartography の観点から再考し、

1) 主格主語を持つ関係節の統語範疇は、TP よりも大きい統語範疇であること、2)属格主語を持

つ関係節は TP であることを主張することにある。提題の「は」は関係節内に現れないのに対し、

対照の「は」やその他の取り立て詞は現れうるという事実は、cartography の研究を敷衍すれば、

関係節の統語範疇は Top P ではなく Foc P であることから説明される。しかし、「が・の」交替が

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観察される関係節では、次例が示すように、取り立て詞と属格主語は共起できないという制約が見

られる。

「太郎だけ・ばかり・のみ が/*の 飲んだ 薬」

これは、この種の関係節が Foc P を持たない TP 節であることを示している。この二つの関係節の

構造の違いから Saito(2004)を土台とした、新しい「が・の」交替の分析を提示することになる。

「do so」と「そうする」の照応範囲について

金重逸

本発表では、遊離数量詞を用いて do soとそうするが vP 代用形であることを裏付ける新しい根

拠を提示する。

まず、do soを VP 代用形として分析している有元・村杉(2005)と vP 代用形として分析している

Stroik(2001)や Hallman(2004a)が、両者とも do soの doと soの振る舞いに関して各自の立場を支

持する根拠のみを提示しており、どちらの立場が妥当なのかについては明確でないことを指摘する。

次に、do soの doと so以外に、do soが vP 代用形であることを支持する根拠を幾つか紹介する。

しかしこれらの根拠がそうするには適用し難いことを指摘し、do so とそうする両者に適用可能な

新しい根拠を提示する。具体的には、先行文にある遊離数量詞の意味解釈に基づいて、先行文の

SPEC(vP)にある遊離数量詞が do so とそうするによって置き換えられることを示し、両者とも vP

代用形であることを示す。

ロゴフォリック代名詞および長距離照応形の統語・意味マッピングと 主語コントロールへの帰結

伊藤祐輝

本発表は de se解釈を強制するという特性を共有するロゴフォリック代名詞と長距離照応形を取り上げ、前者が意味解釈プロセスでの unselective bindingに依拠する一方、後者は Narrow Syntaxでの移動に依拠していると主張する。長距離照応形を resumptionとみなすことにより、Pica (1987)の一般化が導かれると同時に、付加詞内、複合名詞句内への生起が説明されるとし、Narrow Syntaxでの操作に特有の連続循環性により中国語における阻害効果(Blocking Effect)およびアイスランド語におけるドミノ効果が生じると論じる。さらに、主語コントロールとロゴフォリック代名詞およ

び長距離照応形の分布を示し、主語コントロールがどちらのメカニズムにも還元されえないことを

指摘する。

付加疑問文の派生と Relativized Minimality効果について

本多正敏 本発表では、統語構造地図(the cartography of syntactic structures)の枠組みに基づき、付加疑問文の統語的特徴(付加疑問節における極性・主語代名詞や助動詞に課される制約等)を踏まえ

ながら、陳述節(付加疑問の対象となる節)と付加疑問節(tag)の生起位置関係を詳細に考察する。そして、陳述節と付加疑問節の生起位置関係に局所性が働くことを示し、この局所性の性質が

Relativized Minimality(以下、RM)によって説明されると主張する。具体的には、陳述節・中核的(central)/周辺的(peripheral)副詞節・付加疑問節の生起位置関係に局所性が関与するという遠藤(2009)の議論を制限的/非制限的関係節に広げる。そして、陳述節・関係節・付加疑問節の生起位置関係にも局所性が働くことを示しながら、RMによって適切に説明できることを示す。

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固有名詞の統語構造とその解釈様式

猪熊作巳

本発表では固有名詞が担いうる三つの意味解釈を整理し、さらに名詞句内部における固有名詞の

振る舞いを分析することで、この三つの解釈が統一的に説明されることを示す。固有名詞の三つの

解釈とは、①固定指示子としての解釈、②「名前」としての解釈、そして③普通名詞としての解釈

である。普通名詞と共起しうる場合があることから、固有名詞は普通名詞とは異なる位置、すなわ

ち名詞句内の指定部位置に生成される。かつ、(対象物自体ではなく)その「名前」を指示する解

釈も可能であることから、固定指示子としての機能を固有名詞自体の語彙的な素性に還元すること

はできず、両者の違いは統語的に説明される必要がある。本発表では、固有名詞が名詞句内部の指

定部として生成されるという仮定から出発し、固有名詞が埋め込まれる名詞句全体の統語構造と、

その主要部が持つ素性の組み合わせによって固有名詞の統語的性質と解釈様式が説明されること

を論じる。

日本語多重主語構文の叙述構造

中本武志 本発表は「象は/が(DP1) 鼻が(DP2) 長い」構文が次の構造を持つことを主張する。 (1) [PredP [DP1 象]i Pred [CP [DP2 ei 鼻が] [PredP/aP tDP2 長い] ](CP=関係節) Spec,TP等へ移動 「鼻が長い」の部分が開文であり述語であるとは従来指摘されてきたことであるが、これが関係節

であり、PredP(Bowers 1993)を介して主語と叙述構造をなすと考えることにより、DP1と DP2からの数量詞遊離、「DP2-ガ」の中立叙述解釈、DP1の広い作用域、ガ・ノ交替など多くの現象が説明できる。また DP1 が付加詞相当の名詞句の場合も同様に記述が可能となる。さらに、主語が空所の関係節が名詞句と主述関係を持つことは Jean a le cœur qui bat. ‘Jean has the heart that beats.’「ジャンは心臓がどきどきしている」(フランス語)のようにロマンス諸語にも見られ、この構文を日本語の多重主語構文と同様に扱うこともできるようにもなる。

連接名詞句の単数解釈

田中大輝 林下淳一

日本語の『Aや B』などの表現(以下、連接名詞句)は、(1)のような文を見る限りは概略「当該の集合のメンバーすべて」という意味を表すように思えるが、(2)のような文の場合には「当該の集合のメンバーのいずれか」という意味も感じられる(単数解釈)。 (1) ジョンやビルが来た。 (2) 花子はジョンやビルが来たらおいしい日本茶を出す。 これは、一見すると連接名詞句の作用域の問題のように思えるが、本発表では、単数解釈の分布を

詳しく調べることにより、この現象は連接名詞句の作用域の取り方という観点から説明すべき現象

ではないことを示す。そして、『A や B』などの単数解釈の分布が日英語の複数表現の場合と一致することに注目し、単数解釈を得ているときの連接名詞句は量化表現ではなく、選択関数により解

釈されるものであることを主張する。最後に、単数解釈の分布の違いから、連接名詞句には

denotationの異なる2種類を認めなければならないことを論じる。

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範疇文法による非構成素等位接続の分析

窪田悠介

「太郎は花子に、そして次郎は美智子に会った」のような日本語の非構成素等位接続(NCC)には、先行研究において、NCC は音韻的削除によって生成されるとする削除分析と、移動によって生成されるとする移動分析の二つの提案がある。削除分析、移動分析ともに強力な根拠があるため、現

時点ではどちらの分析がより妥当であるかには決着がついていない。本発表では、まず、「自分」

の束縛と「同じ」などの symmetric predicate の解釈において、削除分析、移動分析双方にとって問題となる現象が存在することを指摘する。そして、範疇文法の統語論を用いることにより、削除

分析、移動分析双方の利点を取り入れ、かつ両者の問題を克服する分析が可能であることを指摘し、

具体的な分析の提案を行う。

それは本当に等位構造?

依田悠介 本発表は、等位構造を導くとされてきた「と」/「も」/「そして」を用いた文を観察し、その振る舞いを整理し、以下の(1)を主張することを目的とする。また、本発表では、XP要素が統語派生に於いて同じ高さで接続するものを等位構造とする。

(1) 現代日本語では統語的等位構造を導く接続詞(=Coordinator)は、「そして」のみである。 本発表では(1)を主張すると同時に「と」/「も」についての(2)が当然の帰結として同時に導き出される事を示す。

(2) a. 「と」を用いた等位構造は意味的には等位を成すが統語的に後置詞 (P)と同様の振る舞いを示す。

b. 「も」を用いた等位構造は顕在的/非顕在的な「そして」による支えによって成立しており、「も」単独では等位構造を作れない。また、「も」自体の範疇は接語的付加詞(青柳 (2006))である。

c. 「と」/「も」は共に、統語的に等位接続詞としては認められない。

形式名詞コトのモダリティ

―談話における知識管理の観点から―

金英周

酒井弘

日本語のNノコトという名詞句においては、ノコトの付加が義務的な場合と、一見任意であるような場合がある。後者については、これまで心的述語の補部に現れる場合を中心に議論されてきた

が(笹栗他 1999)、「韓国語でチョバップというのは、すしのことです」のようにコピュラ文で使用される場合もある。本論考では、このようなノコトの用法に注目して分析し、その意味機能を談

話における知識管理の観点から捉える必要があると主張する。具体的には、田窪 (1989)の「名詞句のモダリティ」という提案を手がかりに、ノコトは話し手と聞き手の共有知識中の値を明示する

機能を持つことを示す。ノコトを名詞句のモダリティと関係づける見方は笹栗(1999)でも提案されているが、本論考ではコピュラ文におけるノコトの分析を出発点に検討を進めることで、心的述

語の補部に現れるノコトの意味機能も含めた統一的な説明が可能になると議論したい。

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仮想現実の設定とソ系列指示詞

―古代日本語を中心に―

藤本真理子

古代語では、ソ系列指示詞は現代語とは異なり、聞き手領域指示用法(例)「その服、かわいい

ね。」)の確例がなく、ソ系列において聞き手領域指示の用法は歴史的に生じたものと考えられる。

このようなソ系列指示詞は,現代語の指示詞を対象とした研究に指摘されるように、先行する言語

的表現によってのみ指示の外延が定められると考えられる。そして外延の定まらない場合は不定項

として扱われ,曖昧指示表現や観念指示用法,また外延が定められる場合は文脈照応用法として働

く。曖昧指示表現や観念指示用法、また文脈照応用法といった用法は、古代語のソ系列でも確認で

き、ソ系列にはものごとの仮定を指示する例が一定の勢力をもって見られる。 本発表では,このようなソ系列の働きを受けて,これまで分析されてきた古代語の指示詞の様相

をより詳細に検討し,未来や非現実といった「仮想現実」の設定が指示詞の歴史的変化とどのよう

に関連するかについて述べる。

日本語名詞句「NP1 の NP2」の意味と名詞の意味特性

―非飽和名詞,譲渡不可能名詞,譲渡可能名詞―

西川賢哉

本発表では,日本語名詞句「NP1の NP2」(1) 太郎の手 (2) 太郎の妹 (3) 太郎のパソコン 特に(1)のようなタイプの表現の意味を,他のタイプ(2)(3)の「NP1の NP2」と比較しながら考察する.主要語(NP2)の辞書的意味に着目し,[i](1)は(2)のようなタイプの表現とは異なる(「妹」は非飽和名詞---それ単独で外延を決めることができない名詞---であるが,「手」は飽和名詞である);[ii](1)は(3)のようなタイプの表現とも異なる(「手」は飽和名詞ではあるが,「パソコン」のような飽和名詞とも異なるタイプの名詞---譲渡不可能名詞---であり,NP1 との意味的緊張関係が異なる);[iii]ただし,(1)を〔その自然な読みとは別に〕(3)と同じように読むことも可能である(すなわち,(1)は理論的には曖昧である),といったことを論じる。

日本語のテキスト処理における視点の統一性の影響

魏志珍

玉岡賀津雄 大和祐子

日本語においては,視点を固定する傾向が強いと言われており(森山, 2007など),テキスト内の視点の一貫性が,テキスト構成上の重要な要素となっている(池上, 1983)。そこで,本研究では,テキストの視点の一貫性の欠如が,「読み(reading)」にどう影響するかについて,自己制御読みによるテキストのオンライン処理によって実証的に検討した。内容の異なる2つの「自転車」と「道

案内」のテキストをそれぞれ視点の統一度の高低で2対作成し(合計4テキスト),48名の日本語母語話者を対象に実験を行った。その結果,テキストを読み終えた後の理解については,視点の統一

度の高低による影響はないものの,テキストの読み時間については,視点の統一が崩れた場合,あ

るいは崩れた直後に,処理時間が長くなることがわかった。日本語のテキストでは,視点が統一し

て書かれており,それが崩れると読みに負荷がかかり,さらに視点が崩れた後で元に戻る際にも負

荷がかかることが分かった。本研究は,テキスト内の視点の統一が,読みの認知処理にも影響する

ことを実証した。

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可視化に基づく助数詞分析 ―共起ネットワークを用いて―

李在鎬

助数詞は名詞の意味クラスに関するカテゴリー化を反映するものとして認識されているが,事象

構造との関連性については明らかにされてこなかった。そこで本研究では「現代書き言葉均衡コー

パス」(BCCWJ)を使い,助数詞の共起語分析を行った。具体的には BCCWJ の書籍コーパスの中から「匹,台,個,本,枚」を含む文サンプルを抽出した。そして,統計的手法である共起ネッ

トワーク分析を行い,助数詞が他の品詞とどう関係しているのかを調査した。とりわけ動詞との共

起関係に注目した。調査の結果,「匹」は「対象が{生まれる,死ぬ,出る,残る,増える}」のパ

ターンで使用され,存在や発生の事象に関連づけられていること,「台」は「動作主によって対象

が{走る,通る,止まる}」のパターンで使用され,操作や操縦の事象に関連づけられていること

を報告した。同様の観点から「本,個,枚」などについても説明し,事象構造の観点からの分析可

能性を考察した。

主観的状況と日本語受身文

町田章 一般に、日本語受身文の特徴は、(ⅰ)間接受身の存在、(ⅱ)直接受身の視点制約、(ⅲ)ラレル形態素の多義性(自発、可能、尊敬)などにある。そして、これまでの日本語受身文に関する研究は、

それぞれの特徴を別個に論じることが多かった。本研究の目的は、上記の特徴を統一的に説明する

ことにあり、日本語受身文の拡張に関する認知的動機付けを明らかにすることにある。その際、事

態内視点(本多 2005、中村 2004、町田 2009)という考え方を援用し、ラレル構文の一つとして、どのように直接受身と間接受身が出現するのかを考察する。そして、言語の使用現場(Usage Event)で実際に何が生じているのかを詳しく考察することにより、認知主体と事態との主観的な関係が構

文の拡張に深く関わっていることを指摘したい。

日本語の語彙的複合動詞の語形成 ‐特質構造における語形成―

日髙俊夫

日本語のいわゆる「語彙的複合動詞」(影山 1993)について,先行研究では主に何らかの形で項構

造や語彙概念構造(LCS)を合成して形成するというアプローチが採られてきた(影山(1999),由本(2005),浅尾(2007)等)が,実際の例を観察してみると,動詞の命題的意味を表示するLCSだけでは捉えられないと思われる語彙的複合動詞も存在する。 本発表では,生成語彙(Generative Lexicon; Pustejovsky 1995)理論や,それを発展させた影山(2005)

の特質構造(Qualia Structure)の表示をさらに修正することにより,「他動性調和の原則」(影山 1993)や「主語一致の原則」(松本 1998)等では例外的となるものも含めて,予測可能性を持った説明が可能になることを示す。また,本発表のメカニズムは,「非対格性優先の原則」(由本2005)という形態統語レベルの制約を発展的に解消し,「語彙的複合動詞は意味構造のレベルで形成される」とい

う由本らの主張を補強することになる。

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譲歩文の処理における副詞の影響について

備瀬優 坂本勉

Miyamoto and Takahashi (2002)によって指摘された Typing Mismatch Effect (TME)とは、wh語の入力によって疑問小辞の入力が期待されているとき、疑問ではなく肯定の小辞が入力されると

処理に時間がかかるという効果である(どんな本を買った「か・と」)。本研究では、TMEが他の構文でも観察されるかどうか調べるために、譲歩文を用いて被験者ペースの読み時間実験を行った。

譲歩文においては、譲歩の副詞(「タトエ」など)の入力によって譲歩の動詞形態「V テモ」の入力が期待される(たとえ雨が降っても)。従って、期待に反する動詞形態「V タラ」が入力される場合は読み時間が長くなるはずである(たとえ雨が降ったら)。しかしながら、結果はこの予測とは逆のものになった。このことから、譲歩文の処理においては wh疑問文の処理とは異なるメカニズムが働く可能性があることを指摘した。

「小耳に挟む」 ―接辞繰り上げ分析と型繰り上げ分析―

戸次大介

「小」「横」「後ろ」等の接頭語は、「小耳に挟む」「横槍を入れる」「後ろ指を指される」等の表現に

おいて、形態論的には名詞に接続しているにも関わらず、意味的には名詞と動詞の組み合わせを修飾す

る、ということが知られている。 Kitagawa(1986)では、これらの形式を接辞繰り上げ(suffix raising)と呼ばれる操作を用いて分析しているが、接辞繰り上げ操作の正確な定義、およびそれを採用した場合の経験的な予測は不明瞭である。本

発表では、文法理論として組合せ範疇文法(CCG)を採用し、「小」「横」「後ろ」等の接頭語について、一般化量化子と同様の型繰り上げ分析(type raising)を採ることの利点について論じると共に、接辞繰り上げ分析の背後にある「意味表示におけるスコープ関係は、LF の木構造におけるC統御関係として実現されなければならない」という誤解を指摘する。

Towards a new perspective on semantic typology of event framing in Japanese and Mandarin

Wenchao LI

Naoyuki ONO

This paper provides a new perspective on the typology of event framing in Japanese and Mandarin with a focus on motion as well as result as sub-domains of event representation. Properties of VV compounds of Japanese and Mandarin are revisited. This paper postulates that different types of compounds show various behaviours of event framing patterns. Furthermore, we argue that Talmy`s typology, as well as those of other linguists, are not real semantic typologies of cross-linguistic variation. Rather, they are based only on the diversity of lexical resources of motion/resultative event framing and preferences for event encoding options by selecting different linguistic resources.

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Lexical typology of ditransitive constructions: a semantic map approach

Andrej L. Malchukov

In my talk (based on joint work with Martin Haspelmath and Bernard Comrie) I address the issue of lexical typology of ditransitive verbs (such as give and related verbs) in order to establish alignment preferences associated with particular verb types. In this way it is attempted to extend the basic alignment typology established for the give-verbs (indirective vs. secundative vs. neutral alignment) to other types of three-argument verbs. Alignment preferences are captured in the form of a semantic map, which can be used to describe but also to constrain possible patterns of lexical splits in the ditransitive domain. The paper presents cross-linguistic evidence for the map, as well as addresses some problematic data.

他地域出身者の「気がつきにくい方言」使用にかんする一考察 ‐沖縄地域の「~わけ」の使用意識調査から‐

副島健作

本発表では,標準的な日本語(以下,共通語)と方言の干渉を受けた地域の日本語(以下,地方共

通語)とで,形態が同じであるが,意味や用法にずれがある「気がつきにくい方言」と呼ばれる表

現に着目し,他地域出身者の地方共通語の使用意識について考察した。沖縄で地方共通語として使

用される「~わけ」は「遅れてごめん。道がこんでたわけ」「(かばんを準備する人を見て)きっと

明日から旅行だわけよ」「どうして休んだわけ? —頭が痛かったわけ」「昨日買い物行ったわけさ。楽しかったー」のように話し手の主観的な把握を表すことができ,共通語よりも使用範囲が広い。

この「~わけ」の使用意識を沖縄在住の日本人へ調査した。その結果,沖縄県外出身者は滞在期間

の長さにかかわらず,「~わけ」をあまり使用しないということがわかった。この結果は,「気がつ

きにくい方言」が他地域出身者の地方共通語使用の妨げとなる可能性があることを示唆している。

中国語仮定複句の代表的な関連詞「如果」の使用動機

陳会林 本研究はインフォーマント調査を通して「如果」の使用範囲と使用動機を確認した。①日本語条件

表現の四形式と比べて「如果」は「仮定的用法」にしか使用できない。②予測的、認識的仮定複句に「如

果」を使用しないのが常態である。認識的仮定複句に「如果」を使用するのが常態である。前者への

「如果」の不使用は文体論等の言語外的な要素に起因する。後者への「如果」の使用は言語主体の心的

要素に起因する。 また本研究は音声実験を通して,言語主体が関連詞を使用せずに複句(特に多義複句)の意味関係

を誤解なく伝達するために韻律的操作が為されていることを証明した。③関連詞を使用する場合と

しない場合とは前分句にかかる韻律的操作の負担が異なる。④複句の意味関係を決定づけるのに発

話時間よりピッチと音強の方が機能している。⑤中国語複句に現れる関連詞は形式自身のみでなく

その形式にかかっている韻律的情報も意味関係を決定づける機能がある。

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中国語の類別詞「塊」の認知意味論的分析

游韋倫

本発表は、中国語の類別詞「塊 kuai4」における意味特徴を解明することを目的とする理論的意

味分析である。中国語の類別詞「塊」は、形状の規定がなく、「根 gen1(本)」「片 pian4(枚)」「顆

ke1(大きめの粒)」「粒 li4(粒)」「條 tiao2(本)」などの類別詞群の中でデフォルトである。し

かし、「塊」の対象物は以下のような3つの使用条件に制約されていることを主張する:①無生で

ある、②固体である、③分割されても役割は喪失しない。そのうち、①は必要条件で、②と③はそ

れぞれ典型条件の程度条件と特徴条件である。②の条件に近ければ近いほど典型となり、③の条件

を満たさなくても容認できるが、満たせば典型となる。考察した結果、類別詞「塊」の典型的な指

示物は石、チョコレート、豆腐などのようなものであることが分かった。アイスクリーム、看板な

どでは非典型的なものである。

ジッバーリ語のアクセント ―音響解析と聴取実験を通して―

二ノ宮崇司

本発表の目的は、ジッバーリ語 (オマーンに分布するセム語) のアクセントを音響解析と聴取実験によって記述することにある。 フィールドワークで得たデータを解析した所、ピッチが弁別的に働いていると思われる組合せを

見つけることができた。ただしそれはピッチパタンだけでなく、音圧パタンも異なっている。そこ

で、「アクセント」が異なるとインフォーマントが指摘した事例に対して、音圧や時間長に何も手

を加えず、ピッチを Praatで加工し、インフォーマントに聞かせる聴取実験を行った。 実験の結果、インフォーマントはピッチを軸にプロソディーを聞いていることが分かり、ジッバ

ーリ語がピッチアクセントを持つ言語である可能性が出てきた。これまでの先行研究はプロソディ

ーとしてストレスと長短しか記述してこなかったが、本発表はピッチを記述することの重要性を訴

える。

ノルウェー語 Sandens (サンネス) 方言の複合語アクセント規則

三村 竜之 Sandnes方言では、語は必ず主強勢を伴う音節を一つ有し、その音節には高平調(アクセント1, Acc1)と下降調(Acc2)のいずれかが現れる。本発表では、複合語における主強勢の位置と音調の別が全て規則で予測可能であることを主張する。複合語アクセント規則の概要は以下の通り: (1) 複合語全体の主強勢は前部要素本来の主強勢が担う。(2) 複合語の音調は、前部要素が多音節語の場合は前部要素の音調が複合語の音調となるが、(3) 前部要素が一音節語の場合は、 後部要素の音節数と 結合要素の有無と種類によって決定される。後部要素が一音節語であれば全体の音調は Acc2に、後部要素が多音節語であればその音調が複合語全体の音調となる。ただし、結合要素が介する場合は各要素の音節数は関与せず、結合要素が -s- であれば全体の音調は Acc1に、-e- であれば Acc2 となる。上記の規則には例外が存在するが、各要素の語種や音節構造の面から説明がほぼ可能である。

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オノマトペにおける有生性 ―声と音の違いが生む違い―

秋田 喜美

有生性(animacy)は,日本語研究における擬声語 vs.擬音語や擬容語 vs.擬態語の区別のように,オノマトペの分類で一般的に用いられる概念であり,Quechua等のオノマトペでは文法的支柱を担うとさえ言われる(Nuckolls 2010).本研究は,当然視される有生性の重要性を諸側面より問い直すことで,それが少なくとも擬声語の特別なステイタスを認識する切欠としては有用な概念となる

ことを指摘する. 擬音語その他のオノマトペと比べて,擬声語は通言語的に幾らかは存在し,形態的規範性が低く

(例:cock-a-doodle-doo),付加詞的実現が基本であり(例:犬がわんと{吠え/*し}た,A dog {cried woof/?woofed};cf. A chime {?rang clang/clanged}),擬音語では豊富な意味拡張(例:がーんとショックを受ける)が見出し難く,音素分布に特殊性が見られる(例:日本語擬声語における語頭/p/の稀有性).こうした有標性は,擬声語が間投詞に近く,類像性が殊に高く,言語と非言語の間に

位置し,あるいはより原始的であることによると考えられる.

日本語の「持つ」と韓国語の gajidaについて

‐連体修飾の機能を果たす場合‐

韓 必南

本発表は,日本語の所有動詞「持つ」と韓国語の所有動詞 gajidaを対象に,小説テクストの分析を通して連体修飾の機能を果たす際の特徴について考察したものである.日本語の「持つ」は英語

のような言語に比べ,所有物としてとる名詞類に制限があるという角田(1991)に基づき,「持つ」がとる所有物名詞の種類を韓国語の所有動詞 gajidaの場合と対照しつつ考察を行う.用例分析に基づくと,「持つ」と gajidaは両方とも[所有物V所有者]で現れた場合に比べ,[所有者V所有物]で現れた場合に「所有物」としてとる名詞の種類が制限される傾向がある.さらに,実現された「持つ」

と gajidaの連体形に注目すると,日本語の「持つ」は韓国語の gajidaに比べ,被修飾名詞が「所有物」であるかあるいは「所有者」であるかによる連体過去形の使用頻度の差が目立つ.これは,韓

国語の gajidaはほとんど静的な意味を表すのに対して,日本語の「持つ」は静的な意味から動的な意味までその意味範囲がより広いということと関わっていると思われる.

日本語の「のだ」と中国語の「是…的」構文

―コーパスによるアプローチ―

劉 向東 日本語の「のだ」と中国語の「是…的」構文は統語上共通点を持つだけでなく、意味・機能にも

類似点があり、相互の訳語となる場合がある。一方、両者とも意味・用法が多様性に富み、対応し

ない場合が多い。 本研究は、中日対訳コーパスに収録されている小説から用例を収集・調査し、日本語の「のだ」

が中国語の「是…的」に翻訳される条件と実態および両者間の対応性・非対応性を生み出す本質的異同を明らかにすることを目的とする。「のだ」は「是…的」より高いモダリティ性と結束性を持つことを指摘する。即ち、①「是…的」構文の基本的な機能は、命題のフォーカスを示すことであるのに対し、「のだ」は常に話し手の心的態度を同時に示す。②「のだ」は先行文脈だけでなく後

続文脈とも関連できるが、「是…的」は先行文脈にある情報にしか関連しない。また、「のだ」の中

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国語訳文には原文にない接続表現が必要になる場合が多い。

韓国語の複数標識 -tul について

蔡熙鏡

韓国語における複数標識 -tul は,前接要素の複数を表す機能のほかに文のいろいろな要素に付いてその文の主語,または目的語が複数であることを表す機能を持っていることが指摘されている。

しかし,目的語の複数を表す -tul に関しては,現象の指摘にとどまっているのが現状であり,その記述が充分とは言い難い。本発表は主語と目的語の複数を表す -tul を対象にどのような統語的特徴が見られるかについて考察を行ったものである。 本発表では,着脱動詞文に現れた全ての -tul が主語の複数を表していること,目的語の複数を表している例が使役文といわゆる原型的な他動詞文に現れることを示した。さらに,使役動詞によ

る使役文と ‘-key hata (するようにする)’ 使役文に現れた -tul に見られる統語現象から -tul は,述語動詞が表す行為の直接行為者が複数であることを表す機能を持つということについて論じた。

談話機能からみた日本語関係節処理 -コーパス調査と読文時間計測実験による検証-

佐藤淳

カフラマン バルシュ 酒井弘

これまでに日本語を含む多くの言語で、目的語関係節が主語関係節に比べ処理が難しいことが明

らかにされている。両者の相違を統語構造や記憶負荷の違いで説明しようとする仮説に対して、

Roland et al. (2007)はコーパス調査や文脈を用いた実験を通して、目的語関係節が難しい理由を談話機能の違いという観点から説明している。そこで、本研究はコーパス調査と行動実験を用いて談

話機能仮説の普遍性を検証した。現代書き言葉均衡コーパスを用いた調査の結果、目的語関係節で

は関係節内の名詞が先行文脈で言及されている割合が高いことが分かった。そこで、目的語関係節

の談話機能を満たす文脈を用いて読文時間計測実験を行ったが、談話機能を満たせば目的語関係節

の負荷が減じるという予想に反し、目的語関係節の負荷は減じないことが分かった。日英両言語で

どうして文脈の効果が違うのか、両言語の相違を説明可能な仮説の検討が望まれる。

Effects of relative clause type and aspect in subject-verb agreement

Yukie Hara Amy Schafer

This study tests two factors in subject-verb number agreement during sentence production in English. Participants completed sentence preambles that consisted of a singular noun followed by a relative clause that contained a plural noun, i.e. an intervening plural that could interfere with matrix subject-verb number agreement. Preambles contained either subject or object RCs, and RC verbs with present progressive or perfective aspect. The results revealed more agreement errors with object RCs than with subject RCs, supporting the role of structural proximity of the intervening plural to the matrix verb over linear proximity. Aspect also showed significant effects on agreement choices, suggesting possible effects of event simulation

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or aspect maintenance.

Effects of word order alternation in the processing of spoken Sinhalese sentences

Katsuo Tamaoka A. B. Prabath Kanduboda

Hiromu Sakai The Sinhalese language allows all six possible word orders (i.e., SOV, OSV, SVO, OVS, VSO, and VOS), even though its unmarked order is subject-object-verb (SOV) (e.g., Noguchi, 1984; Yamamoto, 2003). Reaction times for the processing of correct active sentences with transitive verbs showed SOV < SVO = OVS < OSV = VSO = VOS. The three different degrees of reaction times correspond exactly to the three different types of word order alternation. First, the fastest reaction time for SOV word order corresponds to the canonical order SOV without any structural change, represented as [TP S [VP O V] ]. Second, word order alternation at the same structural level can be involved in both SVO and OVS, [TP S [VP t1 V O1] ] for SVO and [TP t1 [VP O V ] S1 ] for OVS, resulting in a slower reaction speed than SOV. Third, word order alternation takes place at a different structural level, [TP’ O1 [TP S [VP t1 V ] ] ] for OSV, [TP’ V1 [TP S [VP O t1] ] ] for VSO, and double word order alternations take place within the same level as [TP t1 [VP t2 V O2] S1] for VOS. These word order alternations for OSV, VSO and VOS require an extra cognitive load for sentence processing, even heavier than a single word order alternation of SVO and OVS taking place at the same structural level. The present study thus provided evidence that reaction time data can be predicted from the cognitive load involved in word order alternation in a configurational phrase structure.

ナーナイ語の条件表現

風間伸次郎

ナーナイ語には条件表現を形成する3つの形式がある。1つは分析的な表現によるもので、残り

の2つは副動詞によるものである。本発表ではこの3者の使い分けについて考察した。3つの条件

文の意味範囲は重なっているが、それぞれのニュアンスは少しずつ異なっている。それぞれの形式

の特徴は、以下のようである。 ・osɪnɪ条件文:もっとも条件らしい条件形で、文全体は聞き手への働きかけなど、強いモダリティを持つ、具体的には命令法を中心とした直説法の文になる。もっぱら会話で用いられ、主語は聞き

手や話し手であることが多い。形式・機能ともに日本語の「なら」によく似ている。 ・-pI 条件文:同一主語の連続動作を示し、同時副動詞や先行副動詞に近い機能を持つ。従属節には一定以上の長い時間がかかる動作が主に現れる。機能的に日本語の「と」に似ている。 ・-OčIA条件文:必ず異主語をとり、主節の動作に対する外的な環境を示す。

サハ語(ヤクート語)の補語

江畑 冬生 サハ語(ヤクート語)は膠着的な言語であるが,一方で名詞については接尾辞の何も付かない形,

つまり「はだか名詞」が用いられることもある.サハ語のはだか名詞は,連体修飾機能を担ったり

目的語となる用法もあるが,発表者は動詞述語の直前に現れ二次述語となるはだか名詞に新たに着

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目し,これを補語と呼んだ.本発表では,補語の成立条件とその機能を明らかにする.結論として,

補語は具体名詞の一時的状態を描写する二次述語として働く.またその成立条件には次のような制

約がある.(1) 他動詞文では,目的語名詞の一時的状態を描写する二次述語として働く.動詞は運搬動詞または授受動詞に限られる.(2) 自動詞文では,主語名詞の一時的状態を描写する二次述語として働く.動詞は状態動詞,移動動詞または状態変化動詞のいずれかに限られる.

オロエ語の所有構造と動詞構造における名詞(代名詞)の現れ方

辻 笑子

オロエ語(ニューカレドニア)では、名詞(代名詞)が(i)名詞の所有者を表わす場合と、(ii)動詞の目的語を表わす場合、以下の2種類の現れ方が共通して見られる。 [A] そのままの形で名詞や動詞に後続する. [B] 形態素 i (代名詞は ghi)に後続した形で、名詞や動詞に後続する. (i)名詞(代名詞)が名詞の所有者を表わす場合、所有関係が分離不可能所有の場合は[A]の形で現れ、分離可能所有の場合は[B]の形で現れる。 (ii)名詞(代名詞)が動詞の目的語を表わす場合、動作が対象に及ぶ度合いが高い動詞の目的語は[A]の形で現れ、動作が対象に及ぶ度合いが低い動詞の目的語は[B]の形で現れる。 (i)(ii)いずれの場合も、名詞(代名詞)は、結合する要素(名詞や動詞)との意味的な密接度が高いほど[A]の形で現れ、密接度が低いほど[B]の形で現れる。本発表ではこれらの例を用いて、名詞(代名詞)と結合する要素(名詞や動詞)との言語現象の密接度と意味的な密接度との関係を考察する。

インドネシア語における認識動詞の使役形・受動形の意味素性について

山崎 雅人

インドネシア語で「分かる・知る」を表す認識動詞では、[+意図性+持続性] の memaklumi「理解している」の使役形は memaklumkan/mempermaklumkan「宣言する」、受動形は dimaklumi「容認される」となる。[+意図性–持続性]の memahami「理解する」の使役形は memahamkan「理解させる」、受動形は dipahamiと terpahamiで、後者は ter-と[+意図性]から否定形では「理解されえない」となる。[–意図性+持続性] の mengetahui「知っている」の使役形 mempertahukanは母語話者は稀だと言うが、受動形は diketahuiと ketahuanで後者は「ばれる」となる。[–意図性–持続性]の mengerti「理解する」の使役形は mengertikan「説明する」で、受動形 dimengertiと共にメッセージ性のある情報に関わる。

アラビア語チュニス方言(チュニジア)の非動詞的文

熊切拓

アラビア語とその諸方言には、人称辞の接尾された特定の名詞、前置詞などが文頭に立って、「~

を持っている」「~が欲しい」というような動詞文に似た意味を表す構文がある。本発表ではこれ

を、動詞ではないものが文の主要部に現れることから非動詞的文と名付け、チュニス方言において

は次の3種があることを述べた(補語には前置詞句、名詞句、節が含まれる)。 1)名詞+人称辞 補語 2)前置詞+人称辞 補語

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3)前置詞+名詞+人称辞 補語 さらにこの3種に具体的にどのようなものがあるかを記し、ついでその主なものについて統語的

特徴(否定形式、名詞の修飾、人称辞を名詞に置き換えられないことなど)と意味(非動詞的文に

用いられる名詞や前置詞は、そうでない場合とは異なる特殊な意味を持つこと)の観点から分析を

行い、この非動詞的文が、動詞文や名詞文とは異なる独立した文範疇として認定できるだけの共通

性をもつという結論を述べた。

古代エジプト神官文字の表記要素 ‐「エルミタージュ・パピルス No.1115」の文字素論的分析‐

永井正勝

表記要素は樺島忠夫(1977「文字の体系と構造」)が提示した概念であり、「それ以上に細分する

と、音列との対応がくずれる最小の文字列」と定義される。本発表は古代エジプトの神官文字(ヒ

エラティック)を題材に、その表記要素の類型を記述した研究の報告である。使用した資料はパピ

ルス写本「エルミタージュ・パピルス No.1115」(紀元前 18 世紀前後)の 1 点である。本研究では写

本を写真に収め、そのすべての字形を画像化したデータベースを自ら作成し、各種の分析を行った。

その結果、神官文字の表記要素は①1文字素が単音・音列に対応する「還元的音価要素」(30 種類

の類型)、②文字素列が音列に対応する「非還元的音価要素」(21 種類の類型)、③語の末尾に置か

れて語や形態素の意味的・文法的な範疇を示す「限定符」(14 種類の類型)に区分されることがわか

った。本発表では文献言語学の重要性について指摘した後、研究方法と成果について述べる。

日本語における分離話題化とその性質について

菅原彩加 本発表では、これまでドイツ語などで主に研究されてきた分離話題化(Split Topicalization, Van Riemsdijk (1989))を、日本語の名詞句について考察し、当該現象が可能な構造は五つのタイプに分けられることを提案する。その上で三タイプ(NP no NP, Adjective NP, N-N (compound))について考察し、その統語的性質から、当該現象における「の」は代名詞であり、「の」は義務的に要

求されるということを示す。 ドイツ語の分離話題化の研究においては、その派生はコピーと部分削除であるとする主張や基底

部生成と移動であるとする主張(Roehrs (2009)他)がなされてきた。本発表では、かきまぜ構文との比較や再構築現象のデータに基づき、日本語における分離話題化の派生は基底部生成によると

主張する。 [TOPIC 教科書は] 太郎が [DP 理科の e ] を 買った。

日本語の分裂構文と同一指示

池田則之 代名詞は、それが c統御している固有名詞と同一指示になれないということがよく知られている。本発表では、この一般化が分裂構文においては適切ではないということを示した。焦点句に固有名

詞が含まれている分裂構文では、構造関係に関わらず、前提部の「彼/彼女」がその固有名詞と同

一指示になれないのである。また、固有名詞と「彼/彼女」がどちらも焦点句に含まれている多重

分裂構文においても、「彼/彼女」と固有名詞とが同一指示になることは出来ない。これらの観察

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に基づいて、分裂構文というものの特性について考察した。

節レベルでの選言的等位接続をめぐる事実は

本当に日本語使役構文が複文構造を持つ証拠になっているか

矢田部修一

黒田成幸は、2003 年の Lingua所収の論文で、「花子が正雄にうちを掃除するか部屋代を払わせる

ことにした」のような文の存在は、日本語使役構文が複文構造を持つ証拠であると述べている。黒

田の主張は、このような文においては、使役形態素が補文を取っており、その補文の内部で二つの

動詞句が選言的に等位接続されているとしか考えられないというものであるが、本論文は、この黒

田の主張の妥当性を検討することを中心的な目的とする。「(煙がひどいから、)窓をあけるか、換

気扇をお願いします」のような文においては、「か」が、2つの動詞句を、等位接続とは違う形で

結合しているのではないか、上記の黒田の例文でも同種のことが起きているのではないか、という

問題その他を、アンケート調査・コーパス調査の結果に基づいて論じる。付随的に、「か」が動詞

句を結合することによって生じる諸構文に関する網羅的な調査の結果についても報告する。

琉球語のエヴィデンシャリティーシステム

新垣友子

evidentiality とは、情報の源を明らかにする文法範疇で (Aikhenvald 2004)、本発表は、琉球語には evidentialityという文法範疇が存在するということを提案するものである。Aikhenvald(2004)によると、類型論的にみて evidentialityの種類は A,B,C,Dの4種類に分類され、それぞれ A1-A5、B1-B5、C1-C3、 D1、と 14 種類に下位分類される。この中で、琉球語の evidentiality はどのタイプに分類できるのかを考察する。方法としては、沖縄県那覇市の首里方言のシステムを提案し、先島方言(主に与那国、宮良方言)のシステムと比較考察を行う。その結果、首里方言は C2(Direct, Inferred, Assumed, Reported)にあたり(Arakaki 2009)、先島方言に関しては、今のところ、B1(Direct, Inferred, Reported)に相当すると考えられる(伊豆山 2005, 2006)。首里方言も先島方言も(Direct, Inferred, Reported)というカテゴリーを共通してもっていることが両者の特徴で、今後さらなる比較研究が必要とされる。また、evidentialityは動詞のみならず、形容詞にも用いられる文法範疇で、琉球語を記述する際、動詞、形容詞の考察に欠かせない概念であるといえる。

奄美大島湯湾方言の deictic motion verbs ik-「行く」と k-「来る」

新永悠人

本発表では、まず奄美大島湯湾方言の deictic motion verbs である ik-「行く」と k-「来る」の使い分けの基準を、以下の 4 点に注目して記述する。すなわち、「話し手」、「聞き手」、「発話時」、「指示時(話し手の発話する文の内容が達成される時点)」である。結論として、湯湾方言では発

話時または指示時に話し手が居る場所、あるいは指示時に聞き手が居る場所に対しては必ず k- が使える。また、発話時に話し手がいる場所に対しては原則として ik- は使用できない。 次に、発話時の発話者の位置を deictic center とし、そこへの移動を表す動詞(COME)と、

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そこ以外への移動を表す動詞(GO)という 2項対立を持つ言語に関して、以下の 2つの仮説を提唱する。①「発話時の聞き手がいる場所が移動の到着地であれば必ず COME が使える」という言語は存在しない。②「指示時の聞き手の位置が到着地であれば必ず COME が使える」言語であれば、必ず「指示時の話し手の位置が到着地であれば必ず COMEが使える」。

宮古語大神方言の副動詞と非従属化

トマ ペラール

本発表では南琉球の宮古語大神方言の副動詞の体系を考察し、特に副動詞が主要部となっている

従属節の非従属化(desubordination/insubordination)の現象に着目する。 大神方言の副動詞は否定やテンスの標識をとることができ、狭義の従属節だけでなく節連鎖にも

現れる。また、基本的に副詞節を形成するが、主節に現れることもある。この場合、焦点標識がと

れることなど、主節の動詞にはない副動詞の特徴を保っている。例えば、通常継起などを表す

narrative副動詞が主節では過去を表す: ffuɯ=u=pɑ mmɛ num-i=tu 薬=ACC=TOP.OBJ もう 飲む-CVB=FOC 「薬はもう飲んだよ」 定形性による副動詞の定義を再検討し、形態論的な不完全性と統語論的な依存性という二つの基

準を分けることを提案する。また、自然談話における副動詞の使用と機能の観察から非従属化の出

現の説明を提案する。

中国語における作用域関係についての考察 ―普遍数量詞と疑問詞の相互作用―

徐佩伶

本発表は、中国語における疑問詞と普遍数量詞の共起について、疑問詞の解釈及び両要素の作用

域関係を考察する。特に、疑問詞に対する single answerである「個体読み」の分布に注目し、英語とは異なり、述語のタイプによって解釈が制限されていることを指摘する。従来の研究では、「個

体読み」は疑問詞が普遍数量詞より広い作用域を取っていると分析されていたが (May 1988, Lasnik and Saito 1991, Cheng 1991)、本発表では、「個体読み」を許す述語と許さない述語の特徴を一般化し、述語の語彙的な情報が疑問詞の解釈に関係することを示す。さらに、中国語の疑問詞

と普遍数量詞の作用域及びその解釈を決めるには、Huang (1982)と Cheng (1991)が主張する潜在的な移動は不要であると主張する。

中国語の文構造と格理論

郭楊

本発表では、中国語の他動詞には、抽象格を一つ付与するものと二つ付与するものとがあると仮

定することによって、中国語の構文がうまく説明できるということを主張する。つまり、主語と目

的語の NPに同時に Caseを付与する他動詞があるということである。中国語の Topic構文は、Case filter に違反するように見える構文であるが、本発表の主張に基づけば、さらなる仮定を必要することなく、そのまま説明できる。本発表では、ほかにもいくつかの構文を、この仮定に基づいて分

析する。

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中国語疑問文の成立条件

王慶

疑問文には、疑問語疑問文・真偽疑問文・選択疑問文などのタイプがあることが知られているが、

そのタイプの別は、単に特定の要素の有無で決められるものではない。本発表では、疑問文に特徴

的な要素の各々に次のような特性があると仮定すると、その相互作用によって疑問文構文の解釈が

うまく決定できるということを示す。 (1) 疑問のスコープを表す要素に関する条件:

a. ne(呢)はその c統御領域にある選言的接続構造に疑問のフォーカス[QF]を付与する。 b. ma(吗)は文中の特定の表現ではなく、eventそのものに[QF]を付与する。 (2) shi(是)が含まれる選言的接続構造は、[QF]を付与されなければならない。 (3) 疑問文が成立する条件: ()と()が同時に満たされないと、容認可能な疑問文にはならない。

日本語児による目的語位置に「だけ」を含む否定文の解釈

野地美幸

「pro 和子だけにプリントを配っていない」のように「だけ」と否定辞が含まれる二重目的語構文

は曖昧であり、否定辞より「だけ]の作用域が狭い読みと「だけ」の作用域が広い読みが共に可能

である。本研究の目的は、このような文に対して日本語児が大人と同様にどちらの解釈も与えるこ

とができるのかを明らかにすることである。発表では 18名の 4~6歳(平均 5歳 4ヶ月)の日本語児と 18 名の大人の日本語母語話者を対象に行った真理値判断法に基づく実験の結果を報告する。日本語児は狭い読みと広い読みのどちらも容認し、分散分析の結果、その平均容認度に有意差はな

く、また子供と大人の平均容認度にも有意差は見られなかったこと、またこの結果は Musolino and

Liz (2006) の Isomorphism by Default 説ではなくむしろ Hulsey et al. (2004) 等の Question

Answer Requirement 説に支持を与えるものであること、を報告する予定である。

事象関連電位に見る日本語不連続依存制約 ―統語構造とワーキングメモリ―

時本真吾

本研究は不連続依存を含む日本語文の視覚呈示が惹起する事象関連電位を材料に,不連続依存可

否に対する作動記憶負荷と統語構造の影響を考察する。 動詞補文または副詞節を含む2種類の複文について,従属節目的語を文頭に置くことで不連続依

存を操作し,従属節主語を保持負荷の高い固有名または負荷の低い「私」とすることで,不連続依

存可否に対する従属節種と作動記憶負荷の効果を考察した。実験の結果,不連続依存文の従属節主

語呈示後約 400msで左前頭部に作動記憶負荷を示す陰性波が現れ,また固有名についての振幅は 「私」よりも大きかった。さらに文法性の低い副詞節不連続依存文では,従属節動詞呈示後約 600msで頭頂から後頭にかけて統語的制約違反を表す陽性波が現れた。本研究の結果は,作動記憶制約と

は独立した,統語構造に対する不連続依存制約の存在を示しているので,不連続依存制約を作動記

憶制約に還元することはできない。

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CHILDES を用いた英語の wh-疑問文獲得に関する縦断的研究

深谷修代

本発表では、CHILDESに収録された Ninaのデータ(1;11-3;3)を用いて wh-疑問文の発達を縦断的に分析する。はじめに grep検索で得られた wh-疑問文を 11のグループに分けた。その結果、what-疑問文(計 570例)では、what’s S?が 1;11で 6例、2;2で 17例と増加し、計 93例観察された。そして what's that? (1;11.16) の他、what's those ? (2;2.28)のように主語と動詞の一致を欠いた発話も観察された。これは、wh-句が[Spec, IP]、主語が[Spec, VP]に位置していると分析できる。その後 2;2で初出した what be S?は 2;10で 31例と増加し、137例すべてが主語と be動詞の一致がみられる。これは[Spec, IP]が主語位置として確立されたと分析する。Crain and Lillo-Martin (1999)によると、初期の疑問文の特徴として主語を欠いた what doing?、 主語と助動詞の倒置を欠いた what Mommy eating?を指摘している。しかし Ninaのデータでは例えば、主語を欠いた what-疑問文は 7例のみである。さらに 1;11-2;2では観察されず、2;10の 3例が最多である。以上のことから、Ninaの初期疑問文は wh’s S?で、その後 wh be S?、wh do S V?と発展したと結論付ける。 《ポスター発表 Poster presentations》

Priority information for canonical word order of written Sinhalese sentences

A. B. Prabath Kanduboda Katsuo Tamaoka

The present study investigated priority information among case particles, thematic roles and grammatical functions to determine canonical order of written Sinhalese sentences. Four types of sentences were examined to determine priority information for canonical order of written Sinhalese sentences. A series of ANOVAs were conducted on reaction times and error rates of canonical and scrambled sentences. The active sentences of Experiments 1 and 2 supported the existence of scrambling effects in written Sinhalese sentences. In the passive sentences in Experiment 3, thematic roles and case markers offered different information regarding canonical order. Experiment 3 proved scrambling effects in the direction indicated by case particles. Thus, thematic roles were excluded from the priority of information. Since the dative case is assigned to syntactic properties of the subject in potential sentences, case particles and grammatical functions provide different information concerning canonical order. Experiment 4 revealed scrambling effects on potential sentences which were ordered on the basis of grammatical functions. Thus, as the study on the spoken form (Kanduboda & Tamaoka, 2009) indicated, the written form of Sinhalese sentences also showed grammatical functions as being priority information among thematic roles, case particles and grammatical functions. Consequently, grammatical functions are universal in providing information for canonical order.

東アジアの味ことばとその意味拡張 ―中国語貴州方言、プイ語、日本語を例として―

高嶋由布子 梶丸岳

本発表では、言語への文化や環境の反映を観察するために、味覚表現について報告した。味を表

す表現はその土地で何が食べられているのかに依存している。生理学ではレセプターとの対応のあ

Page 19: 日本語関係節の統語範疇に関して - ls-japan.org · 説明できる。またDP1が付加詞相当の名詞句の場合も同様に記述が可能となる。さらに、主語が

る、甘塩苦酸味とうま味を基本味としておりうま味以外はどの言語でも語彙を持つ傾向があるとい

われる。ここでは食材が豊富なアジア圏の味ことば収集のパイロットスタディとして中国語貴州方

言、タイ・カダイ語族に属するプイ語の味覚語彙をフィールドワークから収集し、詳細な味覚語彙

を持つタイ語の先行研究(佐藤 2000)、日本語の記述的分析と比較した。四川に近い貴州省方言では、唐辛子の辣と花椒の麻が異なる意味拡張を持っている。プイ語では、おいしいとまずいの対立

が味の基本となり、味覚語彙の味覚以外への意味拡張は発見できなかった。結論として味覚形容詞

とその意味拡張がそれぞれの食文化を反映し、各々異なっていることを示し、味ことば調査の意義

を主張した。

「病院の言葉」の類型の推測とモデル化 ‐『現代日本語書き言葉均衡コーパス』における語の使用度数を用いた一考察‐

佐野大樹 田中牧郎 丸山岳彦

本研究の目的は、(1)認知率が低い病院の言葉と(2)認知率は高いが理解率が低い病院の言葉の判別モデルを構築することである。 モデルの構築には、『現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)』に含まれる流通実態サブコーパス(LB)と生産実態サブコーパス(PB)の書籍データにおける使用度数とその比率を用い、樹木モデルによる分析を行った。LB は複数の図書館に収められており社会にある程度流通しているテクストを母集団とし、PB は 2001~2005 年に出版された書籍全てを母集団として編纂されたコーパスである。 病院の言葉 69語の使用度数と比率を求めモデルを構築したところ、(1)と(2)では LBの使用度数に対する PBの使用度数の比率が異なり、これを用いることで類型を判別できることが明らかになった。 代表性の異なるコーパスにおける使用度数の違いから、病院の言葉の難解さの種類を推測するこ

とが可能となる。 《ワークショップ 1 Workshop 1》

スケール構造に基づく語彙意味論・語用論に対する形式的アプローチの進展

企画・司会:窪田悠介

スケール構造に基づく形式意味論へのアプローチが近年、語彙意味論と形式意味論を結びつける

試みとして注目を集めている。Rotstein & Winter 2003, Kennedy & McNally 2005, Kennedy 2007 などの先行研究においては、すでに、形容詞の分類、比較構文の意味論、形容詞と程度副詞や計量表現の共起関係など、広範な言語現象に関する統一的な理論を与える試みが成功し、めざま

しい成果を挙げている。本ワークショップでは、スケール構造に基づく意味論の新たな開拓領域と

目される、動詞の意味構造の分析(Wechsler 2005, Kennedy & Levin 2008 など)や、狭義の意味論

の枠内に収まらない語用論レベルも含めた程度性の分析(Sawada 2009, 2010)に関して、日本語と

中国語の述語の意味論に関する研究発表を行い、これらの新分野におけるこのアプローチの有効性、

今後の進展の可能性を探る。

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日英語の結果構文におけるスケール構造と事象構造の同形性

上垣渉

Wechsler (2005) は、英語の結果構文にあらわれる結果述語は限界性のあるスケールをもつ形容

詞(e.g., flat, smooth)に限られるという事実を結果述語のスケール構造と結果構文自体の telic

な事象構造の同形性によって説明した。一方、日本語の結果構文では「花子が紐を長く伸ばした」

「太郎が息子を大きく育てた」に見られるように、限界性のないスケールをもつ形容詞である「長

い」や「大きく」も結果述語として自由に現れることができる。日本語の結果構文は結果述語のス

ケールに関わらず telic な事象をあらわすため、この事実はスケール構造と事象構造の同形性を破

っているように一見思われる。しかし、本発表では、日本語の結果述語は、動詞がもつスケールに

対して基準値(standard)にもとづく最終点を付け加える役割を果たすという分析を提案し、日本

語結果構文では英語とは異なるかたちでスケール構造と事象構造の同形性が守られていることを

主張する。

日本語の数量的累加表現におけるスケール構造について

澤田治

計量表現につく「あと」と「もう」はどちらも累加の意味を表すが、両者はスケール性に関して

異なる特性を持っている。たとえば、「太郎は{もう/あと}一杯ビールを飲むはずだ」という文には、「太郎は既にビールを一杯以上飲んでいる」という「発話時以前に関する前提」(Greenberg 2009)があるが、「あと」を使った文には、そのような前提に加え「次の一杯が最後になる」という終点

に関する意味(前提)もある。また、「あと」と「もう」が状態述語と共起した場合、「もう」を使

った文は適格となるのに対し、「あと」を使うと不適格となる(「このさおは{もう/*あと}1センチ長い」)。本発表では、累加表現には「終点志向」タイプと「非終点志向」タイプがあり、「あと」

と「もう」の生起環境は、累加表現のスケール構造と述語の意味との適合性を考えることによって

説明できることを示す。また本発表では、語用論レベルにおけるスケール性の役割についても考え

る。

中国語における複雑形容詞のスケール構造

彭筱雯

中国語の形容詞には基本形(“紅”(赤い))とそれから派生される複雑形(“紅紅的”(赤い)) の

二種類があり、前者は性質を表す「性質形容詞」、後者は描写の機能を果たす「状態形容詞」であると

されている(朱 1956) 。性質形容詞と状態形容詞は、程度副詞の修飾をうけるかどうか、比較級に

なるかどうか、連体修飾位置で<的> という標記が現れるかどうか等、様々な面で異なった振る舞

いを示す。本発表は Morzycki(2009)で提案されているパースペクティブ・スケール(perspective

scale) の概念を取りいれ、孤立言語である中国語ではパースペクティブ・スケールの導入と操作

が形態的に顕著な形で現れると主張し、性質形容詞から状態形容詞への派生はその一例であること

を示す。