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TRAVEL JOURNAL 2019.4.22 TRAVEL JOURNAL 2019.4.22 22 23 JNTOSEMINAR 外客攻略のヒント JNTO発 外客攻略のヒント JNTOが行ったインセンティブセミナー。需要掘り起こしに注力する 資料:結婚情報サイト「Zankyou」オンライン調査 0 10 20 30 40 50 60 70 80 (%) 大都会 ガストロノミー 自然 リラックス ビーチ 文化体験 19% 30% 35% 44% 50% 65% ハネムーンでやってみたい体験 スペインでは近年、好調な経済と日本食やマンガ・ アニメの普及などの日本への関心の高まりを背景と して、訪日観光客数は12年以降、急成長を遂げて いる。この5年間で2.5倍以上に成長し、18年は10 万人の大台を超え、前年比19.1%増の11万8900人 と、欧州重点市場でもひときわ高い伸びを示す注 目の市場である。 17年3月のマドリード事務所開設以来、在外公 館や来西自治体などとも連携し、マンガなどの日 本文化関連イベントへの出展や、スペイン旅行会社 連盟と連携した地方都市などでの訪日観光セミ ナー実施などで、現地メディアや旅行会社への日 本の観光魅力の発信強化に努めてきた。 これらの取り組みを進めた結果、訪日旅行商品 を扱う現地旅行会社の増加に加えて、18年の日本 の観光地の露出が前年比30%以上の大幅増となる など、訪日機運が高まっている。東京、京都のほか、 昨年力を入れてプロモーションに取り組んだ和歌山、 北海道、長野、四国、岩手などの地方の観光魅力 の露出が多くなっている。スペインは、訪日プロモー ションの歴史がまだ浅い市場だけに、「知る人ぞ知 る日本の地域の魅力」への興味・ニーズも高く、 プロモーション効果の高い発現が期待できる市場と もいえる。 訪日スペイン人旅行者の特徴を見てみると、男 女ともに30代が多く、日本を初めて訪れる旅行者 は、地域にとって優良な旅行者といえる。また、 訪日旅行の満足度はとても高く、訪日旅行者への アンケートでは「大変満足」「満足」が99.3%、日 本への再訪意向も「必ず来たい」「来たい」が92.1 %を占めており、今後リピーターも期待できる市場 である(17年訪日外国人消費動向調査)。 さらに特筆すべきことは、スペイン市場ではレジ ャー旅行より消費単価が高いハネムーン旅行およ びインセンティブ旅行の目的地として、日本の人気 が高まっていることである。 スペインはイタリアと並んで訪日旅行者に占める ハネムーナーの割合が高い。スペインの大手結婚情 報サイトによる直近のオンライン調査結果では、ス ペイン人に人気の海外ハネムーン旅行先として、日 本は米国、モルディブやタイを抜いて1位となって いる。その理由としては、 「日本ならではの文化」 「異 文化体験ができる」「日本食が好き」に加え、「伝 統とモダンが同時に楽しめる」「友人や家族の高評 価の口コミ」が好印象を与えていることなどが挙げ られる。 一般的なスペインからのハネムーンの特徴は、旅 行時期としては6 ~ 9月、旅行手配は旅行エージェ ント経由が約7割と多く、55%はテイラーメード。 旅行先の選定には、「安全性」「ホスピタリティー」 「ロマンチックな体験」を重視するといわれている。 こうしたアンケート結果も踏まえ、ウェディング 関連イベントなどでの訪日セミナーの実施をはじめ、 ウェディング雑誌と連携した訪日ハネムーンの魅力 を紹介した E ブックの作成・配布、ウェブを通じ た訪日観光 PR や訪日ハネムーン経験者の口コミ活 用などのプロモーションの強化を積極的に図ってい る。こうした取り組みとあわせ、ハネムーナーにと って思い出に残り、帰国後に親戚や友人に語りた くなるような日本ならではのちょっとした無料の サービスや体験の提供などのハネムーナー向けサー ビスの充実を、日本の観光業や受け入れ地域には 期待したい。 ハネムーン旅行に加えて、スペインは好調な経済 に支えられ、企業インセンティブが活発化、なかで も訪日インセンティブ旅行の人気が高まっている。 スペインの MICE 専門業界誌によると、アジアで人 気のデスティネーションは日本と中国で、1人当た りの予算額は4200ユーロ(約53万円)とレジャー 旅行に比べて非常に高額である。 日本を含むヨーロッパ圏外へのインセンティブの 場合、参加者人数が50人未満と規模は小さめなが ら、旅行シーズンは3月、5月、6月、10月とレジャー 旅行のオフシーズンに当たり、旅行需要の平準化に も資するありがたい旅行者といえる。 このため、専門誌での訪日 MICE の魅力の PR や、 訪日MICEハンドブックの作成・配布など訪日イ ンセンティブ旅行の誘致を強化。現地経済団体と 連携したビジネスなどで日本と関係があるスペイン 企業の経営者などを対象としたMICEセミナーの 実施など需要の掘り起こしに努めている。 地域を訪れる外国人旅行者の消費拡大や域内消 費の拡大による地域の活性化を図る観点からも、 高い効果が期待されるスペイン市場、とりわけ、ハ ネムーン旅行および訪日インセンティブ旅行に、関 心を持って積極的に取り組む地域や観光事業者の 積極的な参入を期待したい。 が7割以上、旅行形態は9割以上が個人手配で、滞 在日数は2週間以上がほぼ4割と長期滞在が中心で ある。 旅行時期は7 ~ 10月がハイシーズン、次いで3 ~ 4月が日本の桜のイメージも浸透していること、セ マナサンタ(イースター)休暇もあることから第2の ハイシーズンとなっている。スペイン人の訪日旅行 の関心事を見てみると、「日本食を食べること」が 最も人気で、次いで日本ならではの「自然・景勝 地観光」「歴史的建造物や遺跡等の観光」「温泉入 浴」が人気となっている。 初訪日の割合が高いこともあり、ゴールデンルー トの東京、京都や大阪のほか、広島・宮島、奈良、 飛騨高山・白川郷、金沢、日光も人気が高く、ス ペインのカミーノ・デ・サンティアゴと同じ世界遺 産の巡礼路の熊野古道・高野山などが訪問先とし て人気が根強い。 一方、最近、スペイン国内で販売されている訪 日旅行商品を見ると、三重県(伊勢・鳥羽や伊賀) や四国(高松・直島や徳島、しまなみ海道等)など の観光地も新たに加わっており、旅行目的地の多 様化が進みつつある。 スペイン人旅行者の大きな特徴は、1回当たりの 旅行支出額が高いことである。18年の訪日外国人 消費動向調査(速報値)によれば、国籍・地域別 の1人当たりの旅行支出額はスペインは23万7000 円で、オーストラリアに次ぐ2位となった。特に飲 食費と交通費の支出が重点20市場で最も大きく、 国内各地を回り地域で消費するスペイン人旅行者 商機はハネムーンとインセンティブ 訪日スペイン旅行者は前年比2割増の12万人となり、急成長している。 欧州でも消費単価が高く、伸びしろが期待される市場だが、 ハネムーンとインセンティブ旅行の訪日需要が高まっており、 消費額の引き上げや旅行需要の平準化に大きく寄与しそうだ。 vol.85 注目高まる2つの旅行カテゴリー 際立つ消費単価の高さ 井上健二 JNTOマドリード事務所長 (次回は5月27日号に掲載します)

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TRAVEL JOURNAL 2019.4.22 TRAVEL JOURNAL 2019.4.2222 23

JNTO発SEMINAR

外客攻略のヒント

JNTO発 外客攻略のヒント

JNTOが行ったインセンティブセミナー。需要掘り起こしに注力する 資料:結婚情報サイト「Zankyou」オンライン調査

10

1月15年

4月

3月

2月

11 12 13(年)10

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14

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18

20(千件) (人)

300

400

500

600

700

800

549592

537

601

17,515 17,09318,219 17,796

訪日外客数出国日本人数

100 140 160 180120 200(万人)

121.8123.5

138.6125.7

152.6153.0

114.9

訪日外客数日本人出国者数

176.4

0 10 20 30 40 50 60 70 80(%)

0 10 20 30 40 50 60 70 80

大都会

ガストロノミー

自然

リラックス

ビーチ

文化体験

19%

30%

35%

44%

50%

65%

●ハネムーンでやってみたい体験

 スペインでは近年、好調な経済と日本食やマンガ・アニメの普及などの日本への関心の高まりを背景として、訪日観光客数は12年以降、急成長を遂げている。この5年間で2.5倍以上に成長し、18年は10万人の大台を超え、前年比19.1%増の11万8900人と、欧州重点市場でもひときわ高い伸びを示す注目の市場である。 17年3月のマドリード事務所開設以来、在外公館や来西自治体などとも連携し、マンガなどの日本文化関連イベントへの出展や、スペイン旅行会社連盟と連携した地方都市などでの訪日観光セミナー実施などで、現地メディアや旅行会社への日本の観光魅力の発信強化に努めてきた。 これらの取り組みを進めた結果、訪日旅行商品を扱う現地旅行会社の増加に加えて、18年の日本の観光地の露出が前年比30%以上の大幅増となるなど、訪日機運が高まっている。東京、京都のほか、昨年力を入れてプロモーションに取り組んだ和歌山、北海道、長野、四国、岩手などの地方の観光魅力の露出が多くなっている。スペインは、訪日プロモーションの歴史がまだ浅い市場だけに、「知る人ぞ知る日本の地域の魅力」への興味・ニーズも高く、プロモーション効果の高い発現が期待できる市場ともいえる。

 訪日スペイン人旅行者の特徴を見てみると、男女ともに30代が多く、日本を初めて訪れる旅行者

は、地域にとって優良な旅行者といえる。また、訪日旅行の満足度はとても高く、訪日旅行者へのアンケートでは「大変満足」「満足」が99.3%、日本への再訪意向も「必ず来たい」「来たい」が92.1%を占めており、今後リピーターも期待できる市場である(17年訪日外国人消費動向調査)。

 さらに特筆すべきことは、スペイン市場ではレジャー旅行より消費単価が高いハネムーン旅行およびインセンティブ旅行の目的地として、日本の人気が高まっていることである。 スペインはイタリアと並んで訪日旅行者に占めるハネムーナーの割合が高い。スペインの大手結婚情報サイトによる直近のオンライン調査結果では、スペイン人に人気の海外ハネムーン旅行先として、日本は米国、モルディブやタイを抜いて1位となっている。その理由としては、「日本ならではの文化」「異文化体験ができる」「日本食が好き」に加え、「伝統とモダンが同時に楽しめる」「友人や家族の高評価の口コミ」が好印象を与えていることなどが挙げられる。 一般的なスペインからのハネムーンの特徴は、旅行時期としては6~9月、旅行手配は旅行エージェント経由が約7割と多く、55%はテイラーメード。旅行先の選定には、「安全性」「ホスピタリティー」「ロマンチックな体験」を重視するといわれている。 こうしたアンケート結果も踏まえ、ウェディング関連イベントなどでの訪日セミナーの実施をはじめ、ウェディング雑誌と連携した訪日ハネムーンの魅力を紹介したEブックの作成・配布、ウェブを通じ

た訪日観光PRや訪日ハネムーン経験者の口コミ活用などのプロモーションの強化を積極的に図っている。こうした取り組みとあわせ、ハネムーナーにとって思い出に残り、帰国後に親戚や友人に語りたくなるような日本ならではのちょっとした無料のサービスや体験の提供などのハネムーナー向けサービスの充実を、日本の観光業や受け入れ地域には期待したい。 ハネムーン旅行に加えて、スペインは好調な経済に支えられ、企業インセンティブが活発化、なかでも訪日インセンティブ旅行の人気が高まっている。スペインのMICE専門業界誌によると、アジアで人気のデスティネーションは日本と中国で、1人当たりの予算額は4200ユーロ(約53万円)とレジャー旅行に比べて非常に高額である。 日本を含むヨーロッパ圏外へのインセンティブの場合、参加者人数が50人未満と規模は小さめながら、旅行シーズンは3月、5月、6月、10月とレジャー旅行のオフシーズンに当たり、旅行需要の平準化にも資するありがたい旅行者といえる。 このため、専門誌での訪日MICEの魅力のPRや、訪日MICEハンドブックの作成・配布など訪日インセンティブ旅行の誘致を強化。現地経済団体と連携したビジネスなどで日本と関係があるスペイン企業の経営者などを対象としたMICEセミナーの実施など需要の掘り起こしに努めている。 地域を訪れる外国人旅行者の消費拡大や域内消費の拡大による地域の活性化を図る観点からも、高い効果が期待されるスペイン市場、とりわけ、ハネムーン旅行および訪日インセンティブ旅行に、関心を持って積極的に取り組む地域や観光事業者の積極的な参入を期待したい。

が7割以上、旅行形態は9割以上が個人手配で、滞在日数は2週間以上がほぼ4割と長期滞在が中心である。 旅行時期は7~10月がハイシーズン、次いで3~4月が日本の桜のイメージも浸透していること、セマナサンタ(イースター)休暇もあることから第2のハイシーズンとなっている。スペイン人の訪日旅行の関心事を見てみると、「日本食を食べること」が最も人気で、次いで日本ならではの「自然・景勝地観光」「歴史的建造物や遺跡等の観光」「温泉入浴」が人気となっている。 初訪日の割合が高いこともあり、ゴールデンルートの東京、京都や大阪のほか、広島・宮島、奈良、飛騨高山・白川郷、金沢、日光も人気が高く、スペインのカミーノ・デ・サンティアゴと同じ世界遺産の巡礼路の熊野古道・高野山などが訪問先として人気が根強い。 一方、最近、スペイン国内で販売されている訪日旅行商品を見ると、三重県(伊勢・鳥羽や伊賀)や四国(高松・直島や徳島、しまなみ海道等)などの観光地も新たに加わっており、旅行目的地の多様化が進みつつある。 スペイン人旅行者の大きな特徴は、1回当たりの旅行支出額が高いことである。18年の訪日外国人消費動向調査(速報値)によれば、国籍・地域別の1人当たりの旅行支出額はスペインは23万7000円で、オーストラリアに次ぐ2位となった。特に飲食費と交通費の支出が重点20市場で最も大きく、国内各地を回り地域で消費するスペイン人旅行者

商機はハネムーンとインセンティブ訪日スペイン旅行者は前年比2割増の12万人となり、急成長している。欧州でも消費単価が高く、伸びしろが期待される市場だが、ハネムーンとインセンティブ旅行の訪日需要が高まっており、消費額の引き上げや旅行需要の平準化に大きく寄与しそうだ。

vol.85

注目高まる2つの旅行カテゴリー

際立つ消費単価の高さ

井上健二 JNTOマドリード事務所長

(次回は5月27日号に掲載します)