58

Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12

Page 2: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

- 1-

は じ め に

 平成17年に文部科学省「地域医療等社会的ニーズに対応した医療人教育支援プログラム」に採択された

「中越地震に学ぶ赤ひげチーム医療人の育成」プログラムが活動を開始し、早1年が経過した。この間、この

プログラムが運営し、実績を上げてきたのは、学内はもとより地域医療機関・地域行政関係者の皆様の様々

なご協力があってのことと改めて御礼申し上げる。

 このプログラムの活動開始一年を記念して、またこの一年間の成果の報告会を平成18年12月3日新潟大学

有壬記念館において「地域医療を考えるシンポジウム」として開催した。このシンポジウムにおいて、コア

ステーションの担当教員を始め、この一年間、このプログラムに携わってきていただいた多くの方から発表・

発言を頂いた。また会場からもこれからの運営に対してたいへん建設的な意見を賜った。今後の活動に大い

に生かし、充実したものにしたい。

 当日は、折からの悪天候にもかかわらず、会場がほぼ満席となる90名近い参加者があった。またシンポジ

ウムもディスカッションの盛り上がりに合わせて、予定の2時間を大幅に延長したが、盛会のうちに終える

ことができ、参加していただいた方々に改めて御礼申し上げる。

 今回、このシンポジウムの内容を冊子としてまとめることができた。これを機に、今後もプログラムのさ

らなる発展と拡充を目指し、活動を継続していきたいと考えている。関係する皆様の一層のご指導・ご支援

をよろしくお願い申し上げる。

       新潟大学医歯学総合病院     (地域医療教育支援コアステーション リーダー)

    下 条 文 武

Title:001はじめに.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:19:20

Page 3: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

- 3-

目  次

はじめに …………………………………………………………………………………………………………………………1

式次第 ……………………………………………………………………………………………………………………………9

◆地域医療を考えるシンポジウム◆

病院長挨拶 新潟大学医歯学総合病院長  下条 文武 …… 11

第一部 赤ひげチームの取り組み報告

 1)赤ひげチーム医療人の育成プログラム 一年の成果

地域医療教育支援コアステーション 講師  井口清太郎 …… 14

 2)中越地震に学ぶ赤ひげチーム医療人の育成 アンケート報告

地域医療教育支援コアステーション 講師  藤澤 純一 …… 19

第二部 地域医療と医師不足の現状

 1)ワークショップとフィールドワークに参加した学生から 地域医療の実状を見て

新潟大学医学部医学科 5年生  北澤  勝 …… 28

 2)地域医療病院での研修を終えて

新潟大学医歯学総合病院 臨床研修医  北田 倫子 …… 33

 3)離島における地域支援テレビシステムの効用

佐渡市立両津病院小児科 部長  岩谷  淳 …… 37

 4)地域医療と医師不足の現状 -県行政の立場から-

県福祉保健部医薬国保課 主査  渡邉 健吾 …… 44

 5)私が見た医療 -医師不足を取材して-

NHK新潟放送局 記者  染谷 光哉 …… 48

第三部 総合ディスカッション 司会 新潟大学医歯学総合病院医科総合診療部長  鈴木 榮一 …… 54

おわりに …………………………………………………………………………………………………………………………60

Title:003目次.ec6 Page:3 Date: 2008/07/08 Tue 11:19:56

Page 4: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

- 5-

Title:005口絵.ec6 Page:5 Date: 2008/07/08 Tue 11:21:08

Page 5: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

- 6-

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:005口絵.ec6 Page:6 Date: 2008/07/08 Tue 11:21:13

Page 6: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

- 7-

Title:005口絵.ec6 Page:7 Date: 2008/07/08 Tue 11:21:17

Page 7: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

- 8-

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:005口絵.ec6 Page:8 Date: 2008/07/08 Tue 11:21:22

Page 8: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

- 9-

文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念

「地域医療を考えるシンポジウム」

日時:平成18年12月3日(日)午後1時~午後3時

会場:有壬記念館

式 次 第

開会の辞

病院長挨拶  新潟大学医歯学総合病院長

         (地域医療教育支援コアステーション リーダー) 下条 文武

第一部 赤ひげチームの取り組み報告(午後1時~午後1時30分)

 1)赤ひげチーム医療人の育成プログラム一年の成果

地域医療教育支援コアステーション  講師  井口清太郎

 2)「中越地震に学ぶ赤ひげチーム医療人の育成」アンケート報告

地域医療教育支援コアステーション  講師  藤澤 純一

第二部 地域医療と医師不足の現状(午後1時30分~2時20分)

 1)ワークショップとフィールドワークに参加した学生から(地域医療の実状を見て)

新潟大学医学部医学科  5年生  北澤  勝

 2)地域医療病院で研修した研修医より

新潟大学医歯学総合病院  臨床研修医  北田 倫子

 3)離島における地域支援テレビシステムの効用

佐渡市立両津病院小児科  部長  岩谷  淳

 4)県行政の立場から

県福祉保健部医薬国保課  主査  渡邉 健吾

 5)私が見た医療 -医師不足を取材して-

NHK新潟放送局  記者  染谷 光哉

~休憩(10分)~

第三部 総合ディスカッション(午後2時30分~午後3時)

    司会……新潟大学医歯学総合病院医科総合診療部長

        (地域医療教育支援コアステーション サブリーダー) 鈴木 榮一

閉会の辞

Title:009式次第.ec6 Page:9 Date: 2008/07/08 Tue 11:22:21

Page 9: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

太田 求磨(総合司会)

 今日は多数の方々、この天候の悪い中お越しい

ただきましてありがとうございます。それでは、

文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プロ

グラム」の一周年記念といたしまして、「地域医療

を考えるシンポジウム」をこれより始めさせてい

ただきたいと思います。まず開会にあたりまし

て、このプログラムのリーダーであります、新潟

大学医歯学総合病院長、下条文武より挨拶をさせ

ていただきます。

下条 文武(新潟大学医歯学総合病院長)

 皆さんこんにちは。本日は雨でお足元の悪い

中、多数の方々にお集まりいただきまして誠にあ

りがとうございました。今日は「地域医療を考え

るシンポジウム」を企画させていただきました。

1年前になりますが、文部科学省が新たに設定し

た医療人GPプロジェクトに、私どもの病院が手

を挙げまして応募しました。タイトルはここに書

いてあるように「中越地震に学ぶ赤ひげチーム医

療人の育成」が採択され、プロジェクトがスター

トしました。このプロジェクトの特徴は、全国的

に深刻化している地域医療の問題に少しでも光明

を見出すべく、関係者が考えに考えて、我々の中

越地震の医療支援の経験を基に企画したものであ

ります。特徴の第1は、地域医療をこれから担う

人に早い時期に実体験をしてもらうために、地域

に出向いてフィールドワークしていただくという

ものです。次に、地域医療というと、とかく医師

のみというふうに考えられがちですが、地域医療

を支えるのは医師ばかりでなく、いわゆるチーム

医療人、コメディカルの方々も一緒になって地域

医療を考えようというチーム医療の育成がありま

す。これが2番目の特徴であります。第3には、

既に地域医療で頑張っている方々に、テレビ会議

システム等を通しての支援をするものです。地域

で1人、或いは2人の医師のみで頑張っているの

に対して、新潟県の医療全体、大学病院も含めて、

地域全体で医療をバックアップしようというもの

で、非常に特色あるプロジェクトと考えておりま

す。私は、新潟県において、このプロジェクトが

地域医療の充実に役立つことを期待しております

が、プロジェクト自身は3年間ということです。

私はこれを何とか根付かせて、3年で終ることな

く、大きな太い木として育てたいと思い、関係者

にいろいろご理解とご支援を求めているところで

ございます。

 私は学生さんと話をして感じることは、関係者

は一生懸命やっているのですが、意外と多くの学

生さんにはまだ充分理解されていないという点が

あると思います。一年を振り返りつつ、2年、3

年或いはもっと長期的な視点で現在のわが国の地

域医療を考えたいと存じます。

 今日は、本プロジェクトの1年間の実績と同時

に、もっと広い意味で新潟県の医療を考えていた

だくために、お集まりの方々からご意見をお伺い

するセッションを含め3部の構成になっておりま

す。時間は午後3時には終る予定ですが、最後ま

で皆さんの熱心な参加をいただいてこの会が充実

した会になるようにお願い致しまして、開会の辞

- 11 -

文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念

「地域医療を考えるシンポジウム」

日時:平成18年12月3日(日)午後1時~午後3時会場:有壬記念館

���������������������������������

���������������������������������

��������

��������

Title:011前文.ec6 Page:11 Date: 2008/07/08 Tue 11:22:51

Page 10: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

とさせていただきます。今日はどうぞよろしくお

願いします。

太田 求磨(総合司会)

 それでは早速シンポジウムに入らせていただき

ます。まず、今後の進行につきましては、サブ

リーダーの鈴木栄一より務めさせていただきま

す。

鈴木 栄一(司会)

 皆さんお集まりいただきましてどうもありがと

うございます。今日のシンポジウムの司会を務め

させていただきます、総合診療部の鈴木です。今

日のシンポジウム、今、病院長の下条先生からお

話がありましたように、第1部で、まずはこの1

年間の取り組みについて、地域医療教育支援コア

ステーションの専任教員である井口、藤澤から報

告をしていただきます。その後、第2部では学

生、臨床研修医、離島勤務医、行政、マスコミの

方と、いろんな立場の方から、地域医療、あるい

は医師不足についてご発言をいただきたいと思い

ます。第3部は総合討論ということで、フロアの

今日参加された皆さんでいろんなディスカッショ

ンができればと考えていますので、ぜひ積極的な

ご参加をお願いしたいと思います。それでは、時

間も限られていますので、早速第1部、赤ひげ

チームの取り組み報告で、第一席は『赤ひげチー

ム医療人の育成プログラム、一年の成果』という

ことで、地域医療教育支援コアステーション講師

の井口先生、よろしくお願いします。

- 12 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:011前文.ec6 Page:12 Date: 2008/07/08 Tue 11:22:51

Page 11: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

- 13 -

第一部 赤ひげチームの取り組み報告

Title:013仕切.ec6 Page:13 Date: 2008/07/08 Tue 11:23:54

Page 12: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

井口清太郎(地域医療コアステーション講師)

 よろしくお願い致します。皆さん本日は天候の

悪い中お集まりいただきましてありがとうござい

ます。赤ひげチーム医療人の育成プログラムが始

動して1年が経過いたしました。この1年間のわ

れわれの取り組みについてご報告させていただき

たいと思います。まず、本プログラムの目的です

けれども、これはまず、地域医療に情熱を持ち、

地域社会のニーズに全人的に対応できる総合医療

チーム、いわゆる「赤ひげチーム」を統率できる

医師を育成すること、これは医師に限らず、いろ

んなコメディカルの方も含んでいます。また、地

域医療を担う医師が定着できるように、大学病院

における地域医療の支援体制を新たに構築するこ

と、この2点であります。本プログラムの対象と

致しますのは、当初の予定としては、学部教育に

おいては医学部医学科4年次学生、医学部保健学

科学生、それから歯学部口腔生命福祉学科の学生

が挙げられております。また、卒後臨床研修にお

きましては、新潟大学臨床研修病院群研修プログ

ラムに参加している臨床研修医、そして研修修了

後の方としては、地域医療を希望する医師、ある

いは今現在、既に地域医療病院に勤務されている

医師の方々の教育支援を目的としております。

 これらの目的を達成するために、私達は「学部

学科を越えた学生によるワークショップとフィー

ルドワーク」、これを考えました。それからもう

一つ、これは実際既に地域で働いていらっしゃる

医師、あるいは地域医療病院で研修をしている研

修医に対して「地域支援テレビシステム」、これを

用意いたしましてサポートすることを始めたわけ

- 14 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

赤ひげチーム医療人の育成プログラム一年の成果

新潟大学医歯学総合病院 地域医療教育支援コアステーション 井口清太郎

Title:014井口.ec6 Page:14 Date: 2008/07/08 Tue 11:24:27

Page 13: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

であります。

 まず「学部学科を越えた学生によるワーク

ショップとフィールドワーク」、これは全部で三

日間の日程で行われるものです。第1日目は、

様々な学部学科を越えた、ということがあります

ので、いろんな学部学科の学生に集まっていただ

いて一つの小グループを作っていただきます。そ

して、地域医療、あるいはチーム医療といった

キーワードで、小グループによるディスカッショ

ンを行います。そして翌日のフィールドワークで

どういったことを見るか、どういったことを聞い

てきたいか、そういったことを話し合っていただ

きます。2日目には、それぞれ指定されました地

域医療病院にみんなで赴きまして、チームによる

訪問診療に同行し、地域医療の体験実習を行う、

こういうことを行うわけです。そして3日目に

は、これらの結果を持ち寄り、それぞれ感じたこ

とを発表したり、あるいはどんなことを見てきた

か、それぞれのいろんな経験を共有しあって、ま

た、話し合う。そういうことを通して一つのワー

クショップ・フィールドワークということを行っ

ております。平成17年度第1回といたしましては

御覧のような日程で、中越地震で被災されました

山古志の陽光台仮設診療所、それから陽光台の仮

設住宅を見学をさせていただき、ついでこれらの

中越地方の医療機関の訪問診療に同行させていた

だきました。平成18年度の第1回といたしまして

は、平成の大合併でかなり合併が大掛かりに行わ

れたわけですが、それらの合併した市町村に赴き

まして、その市町村の問題点を行政の立場からど

んな問題点があるか、そういったことを伺ってま

いりました。そして午後からは、それらの保健行

政に付属している公設診療所、こういう所を見学

させて貰ったわけです。平成18年度第2回といた

しましては、帰村の始まりました長岡市、今度は

長岡市になりましたが、長岡市の山古志診療所、

それから山古志支所へ行き、様子を伺って、また、

午後は同じように公設診療所を回らせていただき

ました。一応、この3回行いまして、延べ人数で

- 15 -

赤ひげチーム医療人の育成プログラム 一年の成果

Title:014井口.ec6 Page:15 Date: 2008/07/08 Tue 11:24:29

Page 14: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

42名の学生の参加をいただいたわけであります。

このワークショップとフィールドワークの前後に

おきまして、学生の意識の変化がどうであったか

ということをVASを用いて比較してみたもので

す。参加学生は全部で42名おりますけれども、

ワークショップとフィールドワークの前後におい

ては、たとえば「地域医療人は楽しそうである」

あるいは「地域医療には夢がある」「やりがいがあ

る」、こういった項目において、著しい差をもって

肯定的な考え方が増えている、肯定的な意見が増

えている、こういう結果が得られています。つま

り、ワークショップとフィールドワークを行うこ

とによって、地域医療に対して非常にポジティヴ

な印象を持っていただけるようになるのではない

かと考えております。

 続きまして、現在設置を進めております、「地域

支援テレビシステム」についてご説明します。こ

れはお手元の資料にパンフレットが入っておりま

すので、そちらの方も参照いただければ幸いで

す。まず、このようにモニターがいくつかありま

す。それから、様子を写すテレビカメラ、それか

ら、レントゲン写真や或いは検査データなどを相

手に送るカメラ、こういったものを一つのセット

として組み合わせてありまして、これを専用回線

で、大学病院と地域病院、あるいは地域医療病院

同士で接続できるようにしてあるものでありま

す。今年の2月から設置を開始いたしまして、今

現在、御覧のような施設、全部で12施設に13の

セットが設置されております。これは今年の2月

から3月にかけて県内各地で行われた地域支援テ

レビシステムの開通式の様子です。上は2月に県

立津川病院で行われたもの、下の方は今年の3月

に県立松代病院で行われたものであります。それ

ぞれ地域病院の関係の方々、あるいは地域行政機

関の方々に多数の参加をいただきまして、これら

の事業の開始を広く周知できたものと考えていま

す。実際、この地域支援テレビシステムがどのよ

うに活用されているかということですけれども、

たとえば、ちょっと難しい症例であるとか、ある

- 16 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:014井口.ec6 Page:16 Date: 2008/07/08 Tue 11:24:35

Page 15: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

いは、やはり地域医療病院の先生方はそう人数が

多くおりませんので、自分の専門とは少し違う疾

患をどうしても診なければならないときに、大学

病院の検討会室とこのように地域医療病院とが接

続されております。レントゲンを見たり、あるい

は経過表を見たりしてもらう中で、その状態でど

ういった処置が必要か、どういうことが治療とし

て必要なのか、そして必要によっては転院をすぐ

させてほしい、あるいはこちらのほうに来ていた

だきたい、そういったことをアドバイスいただけ

る、そういうことを実際やっております。大学病

院は全診療科から64名の医師を登録医師として登

録しておりまして、これらの専門医が全て対応で

きるようになっております。また、この地域支援

テレビシステムは、大学が一方的に診療を手伝う

だけでなく、大学病院の研修医においても重要な

教育的な効果を持っております。たとえば、大学

は偏った症例が非常に多い部分があります。県立

松代病院などから、地域でしか見られないような

症例などを提示していただいて、大学の研修医に

実際それを見て頂く。たとえばツツガムシ病であ

るとか、あるいはレプトスピラといった新潟市内

ではまず見ることのないような症例についても、

このシステムを使って研修医が大学にいながらに

して学ぶことができる、こういう利点がありま

す。続きまして、これは実は、先日行われた県立

妙高病院と県立柿崎病院間での話です。県立妙高

病院の方で褥瘡に関する講演会が行われまして、

その様子を、テレビシステムを用いて県立柿崎病

院の方にも同じように配信できます。これによっ

て双方で100名ほどの参加が得られております。

妙高病院の方にいる講師に対して柿崎病院の方か

ら質問がある、などというのも全てできて、妙高

病院の講師にその質問に答えてもらう、こういう

ことをやっております。つまり、大学と地域医療

病院をつなぐだけではなく、地域医療病院間の情

報交換もスムーズにして、より有機的なつながり

が持てる、そのようなシステムとして現在活用し

ております。

- 17 -

赤ひげチーム医療人の育成プログラム 一年の成果

Title:014井口.ec6 Page:17 Date: 2008/07/08 Tue 11:24:38

Page 16: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

 本プログラムの最終的に目指すところなのです

けれども、地域医療を支える総合医療チームの力

を向上すること、そして、それにより大学におけ

る教育の質の向上も図りたい、実際地域医療を

担っている先生方の、医師の定着を可能とする、

これが大きな目標であります。そしてこのこと

が、全国に散在いたします医師不足、医師過疎地

域における医師定着の一つのモデルとなることを

目指して行きたいと考えております。本プログラ

ムはまだ開始して1年足らずではありますが、今

後更に事業を拡大し、対象も更に広げながらやっ

ていきたいと考えております。以上です。

鈴木 栄一(司会)

 どうもありがとうございました。このシンポジ

ウムの進め方ですが、それぞれの演題個々に対し

て質問がある方、この場で1回質問を受けていた

だいて、総合的な討論は最後に行いたいと思いま

す。ただいまの井口の報告に対して何かご質問ご

ざいますでしょうか。よろしいでしょうか。は

い、では井口先生ありがとうございました。

 それでは続きまして第2席、『中越地震に学ぶ

赤ひげチーム医療人の育成、アンケート報告』こ

れも地域医療教育支援コアステーション専任教員

の藤澤から報告させていただきます。では、藤澤

先生、よろしくお願い致します。

- 18 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:014井口.ec6 Page:18 Date: 2008/07/08 Tue 11:24:39

Page 17: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

藤澤 純一(地域医療教育支援コアステーション講師)

 それでは、今回の「中越地震に学ぶ赤ひげチー

ム医療人の育成」プログラムで行っている各種ア

ンケートの報告をさせていただきます。お手元に

お配りした、このアンケート報告書も御参考にな

さってください。

 いまほど井口からも報告させていただきました

が、「中越地震に学ぶ赤ひげチーム医療人の育成」

プログラムは、学部教育、卒後臨床研修、卒後臨

床研修修了後の地域医療人の育成・支援を3つの

柱としています。プログラムの介入による効果を

測る指標として、それぞれの対象の地域医療への

意識などについて、プログラム介入前と介入後に

アンケート調査を行い、比較することによって効

果を測ることとしました。それぞれの対象別に、

これらのアンケート調査を設定し、実施していま

す。それでは、各々のアンケートについて紹介さ

せていただきます。

 医学部6年生を対象とした卒後臨床研修・地域

医療アンケート。この目的は、これまで地域医療

にほとんど触れてこなかった医学部6年生の、卒

- 19 -

中越地震に学ぶ赤ひげチーム医療人の育成 アンケート報告

中越地震に学ぶ赤ひげチーム医療人の育成アンケート報告

新潟大学医歯学総合病院 地域医療教育支援コアステーション 藤澤 純一

43

Title:019藤澤.ec6 Page:19 Date: 2008/07/08 Tue 11:25:33

Page 18: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

後臨床研修、そして新臨床研修制度で必修化され

た地域保健・医療研修についての意識を調査する

ことです。対象は、平成17年度医学部医学科6年

次生の99名。アンケートは、卒後臨床研修と、地

域医療、将来の進路について特化したオリジナル

です。卒後臨床研修プログラムである、内科、外

科、救急(麻酔)、小児科、産婦人科、精神科、地

域保健・医療、選択科目の各研修に対する期待と

不安のそれぞれの度合いについて、そして「地域

医療について」と、「将来への思いについて」 に

ついて質問しています。

 「研修に対する期待」の項目では、地域保健・医

療研修は他の科目に比べて低い傾向があり、内

科、外科、救急(麻酔)、小児科、選択科目の各科

目と比較して有意に低値でした。産婦人科と比べ

てもやや低い傾向がみられ、精神科とほぼ同じく

らいでした。これは、医学生の地域保健医療に対

する関心の低さを反映しているものと考えられま

す。

 「研修に対する不安」の項目では、地域保健・医

療研修は他の科目に比べて低く、内科、外科、救

急(麻酔)、小児科、産婦人科、精神科の各科目と

比較して有意に低値でした。

 「地域医療について」の項目では、「地域で働く

医師は立派である」、「地域医療を担うには他職種

との連携が大切である」と思っている学生が多い

ですが、一方で、「地域で働く医師は大変である」

と思っている学生も多い結果でした。これらは、

地域医療に対する肯定的なイメージがあるとも考

えられますが、上記の結果とあわせると、やはり、

「立派な『赤ひげ』先生のする仕事」というよう

な、自らの仕事としては結びつきづらい印象があ

るようにも思われます。

 「将来への思いについて」の項目では、「将来な

りたい医師」は専門医、総合医の選択項目がそれ

ぞれ有意に高値でした。「将来働きたい場所」の質

問項目では、都市部の方がへき地より有意に高値

でした。「将来働きたい医療機関」の質問項目で

は、中規模病院、大規模病院が高値を示しました。

- 20 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:019藤澤.ec6 Page:20 Date: 2008/07/08 Tue 11:25:35

Page 19: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

 臨床研修医を対象とした「地域保健・医療研修

における指導に対する評価・研修環境に対する評

価」アンケート。この目的は、地域保健・医療研

修における、指導と研修環境に対する研修医の評

価を調査することです。対象は、平成16年度に臨

床研修を開始し、平成17年度に8つの地域医療病

院で地域保健・医療研修を行った研修医42名です。

大きく、指導内容に対する評価、研修科毎の研修

環境の評価、研修施設毎の研修環境の評価の3項

目について行いました。地域保健 ・医療研修に対

するこれらの評価結果を、大学病院内科、外科研

修の評価 、協力型研修病院の内科研修での評価と

比較検討しました。

 地域保健 ・医療研修では、指導内容の総合評価

において、A、満足と評価した割合が73%と高く、

大学病院内科 ・外科および協力型病院内科に比べ

て評価が高かったです。

 研修科毎の研修環境の評価では、休暇 ・休養、

経験手技 ・検査の種類、経験手技 ・検査の数、研

修の時期において、大学病院内科・外科および協

力型病院内科に比べて評価が高値でした。研修期

間、教育システム、指導医同士の連携、コメディ

カルからの支援の項目においても、大学病院内

科・外科および協力型病院内科に比べて評価が高

値でした。

 研修施設毎の研修環境の評価では、食事と机・

ロッカーについての評価は、大学病院および協力

型病院より高く、宿直室については、協力型病院

より高い評価でした。また、事務担当者からの支

- 21 -

中越地震に学ぶ赤ひげチーム医療人の育成 アンケート報告

9 13

12

11

10

Title:019藤澤.ec6 Page:21 Date: 2008/07/08 Tue 11:26:06

Page 20: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

援、診療情報へのアクセスについての評価も、大

学病院より高値でした。一方、図書・医療情報検

索の設備、技術研修用設備に関する評価は、大学

病院および協力型病院に比べて低値でした。本プ

ログラムでの地域支援テレビシステムは、まさに

これらの点の改善を図るのにふさわしいものと考

えます。

 地域医療従事者を対象としたQOL・地域医療に

関するアンケート。この目的は、地域医療を担っ

ている医療人の身体的、精神的な健康感や、地域

医療に対する意識を測ることです。対象は、地域

保健・医療研修を担当する9施設の全職員1093名。

769名、男性162名、女性588名、無記入19名、平

均年齢42.4歳から回答を得ました。回収率は

70.4%でした。また、地域医療病院と比較する目

的で、地域中核病院の2施設の全職員614名にも

同様のアンケートを行い、408名から回答を得ま

した。アンケートは、SF-36v2日本語版と、地域

医療に関するオリジナル、以下地域医療アンケー

トを用いました。

 SF-36は、健康状態を測る質問紙として世界中

で最も普及しており、健康状態を連続的にとらえ

ることが可能とされています。このように大きく

分けて身体的健康度と精神的健康度の2つのカテ

ゴリーに分けることができます。身体的健康度に

は、身体機能、日常役割機能(身体)、体の痛み、全

体的健康感の4つのサブスケールがあり、精神的

健康度には、活力、社会生活機能、日常役割機能

(精神)、心の健康の4つのサブスケールがありま

- 22 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

14

15

16

17 18

Title:019藤澤.ec6 Page:22 Date: 2008/07/08 Tue 11:26:49

Page 21: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

す。

 結果ですが、SF-36では、全職種の総計データ

で8つのサブスケールとも、偏差得点の平均値の

50を下回りました。これは、地域医療病院に勤め

る職員は、健康感が日本人の平均よりも低いとい

うことをあらわしています。特に、身体的健康度

よりも、精神的健康度が低い傾向がみられまし

た。

 職種別にみると、このように、特に看護師、介

護福祉士・介護員で、身体的健康度、精神的健康

度ともに低い傾向がみられました。地域医療病院

職員の中で、特にこれらの職種の人々に、より負

担がかかっていることが推察されます。また、医

師は、このように、身体的健康度に比べて精神的

健康度の低得点が目立ちます。医師には、精神的

ストレスがかかっているものと思われます。

 地域医療アンケートでは、「職場でお互いに助

け合い、協力し合っていますか」、「自分の仕事に

誇りを持っていますか」の質問項目で、比較的高

いスコアでした。一方、「職員はイキイキしてい

ると思いますか」、「現在の仕事量は適当だと思い

ますか」、「病院全体が一丸となる雰囲気がありま

すか」の質問項目で、比較的低いスコアでした。

自分の仕事に対しての誇りはあるが仕事に追われ

ており、同じ職種内では協力し合っているが、他

職種との連携は十分とはいえない、という状況が

うかがえます。

 地域医療病院と地域中核病院の比較では、SF-

36では、PF(身体機能)、GH(全体的健康感)の

サブスケールで、地域医療病院が有意に低い結果

がみられました。地域医療病院職員のほうが、よ

り身体的な負担がかかっていることがうかがえま

す。

 地域医療アンケートでは、「自分の仕事に満足

していますか」、「職員はイキイキしていると思い

ますか」、「正論を大事にする雰囲気があります

か」、「新しい仕事に取り組んでいこうという雰囲

気がありますか」の各項目で、地域医療病院のほ

うが有意に低い結果がみられました。一方、「地

- 23 -

中越地震に学ぶ赤ひげチーム医療人の育成 アンケート報告

22

21

20

19

Title:019藤澤.ec6 Page:23 Date: 2008/07/08 Tue 11:26:50

Page 22: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

域医療に貢献していると思いますか」、「周囲の施

設との連携は図られていると思いますか」の項目

では、地域医療病院のほうが、有意に高い結果が

みられました。地域医療病院職員は、地域医療へ

の貢献、周辺施設との連携については、地域中核

病院より高い意識を持っているが、仕事への満足

度、職場の雰囲気については、高い意識を持てず

にいることがうかがえます。

 地域住民を対象とした地域医療に関するアン

ケート。この目的は、地域住民の地域医療病院に

対する意識を測ることです。対象は、前出の地域

保健・医療研修を担当する9施設に通院している

外来患者です。900枚のアンケート用紙を配布し、

762名、平均年齢は61.6歳、男性310名、女性450名、

無記入2名から回答を得ました。回収率は84.7

%でした。前出の地域中核病院2施設に通院して

いる外来患者にも同様のアンケートを200名に配

布し、111名から回答を得ました。

 アンケートの結果からは、「この病院で働く職

員は大変そうである」、「がんばっているなぁと思

う」については「とてもそう思う」傾向がみられ

ました。「楽しそうである」については前二つの設

問に比し「そう思わない」傾向が強く出ていまし

た。地域住民の視点としては、地域医療病院の職

員は頑張って働いていて大変そうであるが、あま

り楽しそうではないというイメージがあるようで

す。

 また、地域医療病院の住民と地域中核病院の住

民のアンケート結果を比較しますと、「この病院

- 24 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

23

24

25

26 27

Title:019藤澤.ec6 Page:24 Date: 2008/07/08 Tue 11:26:53

Page 23: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

で働く職員はがんばっているなぁと思う」、「この

病院で働く職員は楽しそうである」、「この病院は

他の病院とよく連絡が取れている」、「この病院で

働く職員は頼りがいがある」、「この病院で働く職

員は地域のことをよく知っている」の5項目で、

地域医療病院が有意に高値でした。地域医療病院

は、より地域住民から親近感、信頼感を得ている

ことがうかがえます。

 以上、「中越地震に学ぶ赤ひげチーム医療人の

育成 」プログラムで行ったアンケートについて報

告させていただきました。この場をお借りして、

アンケートにご協力いただいた皆様に御礼申し上

げます。本当にありがとうございました。地域医

療に関して、これだけの量と質のデータを扱う機

会を得たことは、本当に貴重なことと思います。

今回のアンケート結果については、まだ前調査の

段階ですが、報告させていただいたとおり、いく

つかの興味ある結果を得ることができました。平

成19年度には、今回と同様のアンケート調査を行

い、今回の「赤ひげチーム医療人の育成」プログ

ラムを進めた上での評価をさせていただきたいと

考えております。その節は、また、どうぞよろし

くお願いします。御静聴ありがとうございまし

た。

鈴木 栄一(司会)

 ありがとうございました。ただいまの報告に関

して何かフロアの方からご質問があれば受けたい

と思いますが、いかがでしょうか。よろしいで

しょうか。そうしましたら、総合討論の際にとい

うことになりますので、藤澤先生、どうもありが

とうございました。

 引き続き第2部に入りたいと思います。『地域

医療と医師不足の現状』ということで、最初にお

話しましたように、いろんな立場の方からご発言

をいただくことにしております。第2部の第1席

はワークショップとフィールドワークに参加した

学生から『地域医療の現状を見て』ということで、

新潟大学医学部医学科5年生の北澤さん、よろし

くお願いします。

- 25 -

中越地震に学ぶ赤ひげチーム医療人の育成 アンケート報告

28

Title:019藤澤.ec6 Page:25 Date: 2008/07/08 Tue 11:26:54

Page 24: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

- 27 -

第二部 地域医療と医師不足の現状

Title:027仕切.ec6 Page:27 Date: 2008/07/08 Tue 11:28:01

Page 25: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

北澤  勝(新潟大学医学部医学科5年生)

 新潟大学医学部医学科5年生北澤勝と申しま

す。宜しくお願いします。私、平成18年3月13日

~15日の間に行われた第1回赤ひげチーム医療人

プログラム、ワークショップ・フィールドワーク

に参加し、新潟県立松代病院を見学させていただ

きました。松代地域というのは日本有数の豪雪地

域でありまして、私が行ったのは3月だったので

すが非常に雪が多く、地域住民や医療人にとって

とても負担の大きいところであると感じました。

また、松代病院の医療圏は松代・松之山全域とと

ても広く、地域の特性として高齢化がとても進ん

でいるために、雪とあいまって病院に通えない患

者さんがたくさんいらっしゃいます。そのために

訪問診療がどうしても必要な地域、そういうふう

になっています。松代病院は現在3名の医師が常

勤で働いていますが、その3人の医師で1日約

150件の外来とその間を縫って月に50件の訪問診

療を行っています。当直の日数をみてみますと、

一人当たり年間約100日松代病院で当直をしてい

て、一年の3分の1を病院に泊まっている、そう

いったことになってしまいます。大学病院と松代

病院とはまた機能も規模も役割も違うので一概に

比べることはできないですが、大学病院では約

300人の医師が働いており、外来の件数は1日約

2,100件くらいで、だいたい10倍くらい違ってきま

す。地域病院での大変な先生方医療者の大変な仕

事が思い描かれると思います。また、僕が普段実

習している大学病院では専門的なスタッフがたく

さんいますし、他にも専門的な設備、一般設備が

たくさんありますが、やはり地域の病院ではそう

- 28 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

WS・FWに参加した学生から地域医療の実情を見て

新潟大学医学部医学科5年 北澤  勝

Title:028北澤.ec6 Page:28 Date: 2008/07/08 Tue 11:28:51

Page 26: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

もいってはいられないという現状があります。病

院の役割が違うので一概に比べるわけにはいかな

いですが、限られたスタッフやいわゆる設備だけ

で仕事をしていくことに対する医療者の不安や負

担も大きくなってくるんではないんでしょうか。

また、医師の仕事としては臨床というのはもちろ

ん大事なんですが、研究という仕事も必要と思い

ます。そういった研究をしていくための環境はや

はり整っているとは言えないんじゃないかと思い

ました。そういったことからどうしても雪が多く

て暮らしがこの都市部に比べてちょっと不便で

あったり、人手が足りていなくて先ほどの藤澤先

生からの報告もあったんですが大変だということ

だと思うんです。また新しい医療ができない、研

究ができないといったことから医療者の不安、負

担が大きくなってしまい、そこから人手不足とい

うふうなことになってしまっているんではないか

なということをやはり僕も考えました。

 しかし、松代病院を見て感じたことっていうの

はこういったネガティブなこともあったんです

が、要は僕が行ってみて楽しかったんですよ。

さっきのアンケートでも有意にいい報告があっ

たっていうふうにあったんですが、布施先生と一

緒に訪問診療に混ぜてもらったんですけれども、

訪問診療しているときの患者さんがとても嬉しそ

うな顔をしてくださったり、僕は血圧を測ってい

るだけなんですけれども、そんなことでも非常に

嬉しそうにしてくれてすごい楽しくてやりがいが

ある、満足感がある仕事なんじゃないかなぁと、

そういったことを感じることができました。これ

が行った中で一番の収穫だったんじゃないかと思

います。というわけで、そういった楽しいなって

思えた職場にどういうふうに人がいっぱい入って

くるか、また人手不足を解消することでそれが

もっとこう楽しく仕事ができるようにするにはど

うしたらいいか、ということをいろいろ考えたん

ですけども、細かい話はちょっと抜きにしてこう

いったことを考えたんで、それについて少しお話

をさせていただきます。県立病院松代病院は県立

- 29 -

WS・FWに参加した学生から地域医療の実情を見て

Title:028北澤.ec6 Page:29 Date: 2008/07/08 Tue 11:28:56

Page 27: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

の病院です。県内には15の県立病院があり、その

15の県立病院で地域医療の一端を担っていると言

えます。県の職員として看護師とかコメディカル

スタッフを確保するということが可能であり、そ

の15の県立病院の中でローテーションしていくこ

とで一人ひとりの負担を減らしていく、都市部の

病院にいることもあれば地域の病院にいることも

ある、そういったことで個人の負担を減らしてい

くことが可能になっていくんじゃないかと思いま

す。また、地域医療をやっていると病院としては

赤字が出てしまうことが多いらしいですが、それ

を民間の病院がやったらそれはもうすぐ倒れてし

まいます。しかし、それに対して新潟県とか国と

か大きな基盤でやっていれば、それに対する体力

も多くはあると思うので、そういった県とか国と

か大きな行政の力が地域医療では必要だと感じま

した。また、地域でがんばられている医療者が大

変だというアンケート結果もありましたので、そ

ういった不安、負担、大変だという感じをなくし

ていくためのバックアップを強くしていく必要が

あるのではないでしょうか。

 松代病院は多くの診療所や医療施設とネット

ワークを組んで、役割分担をして地域医療を行っ

ています。そこに新潟大学医歯学総合病院が強く

関わっていくことによって、医療者を派遣したり

先ほどのテレビシステムのように高度な医療を提

供することができ、また、地域で働いている利用

者が大学病院やこういった大きなネットワークの

中にいると感じることで、孤独感を感じず安心し

て医療を行うことが可能になるのではないかと考

えました。先程井口先生から説明があったのです

が、地域支援テレビシステムというものが現在稼

動しています。大学の検討会室と地域医療の病院

と結んでそこで難しい症例を専門医が専門的な知

識を持って的確にアドバイスをしていく、そう

いった地域医療を支援するシステムです。こうい

うものに限らずに、他にも多くのものがこれから

出来ていけばいんじゃないかと考えていきます。

 また、この地域出身の医療者が増えればそれだ

- 30 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:028北澤.ec6 Page:30 Date: 2008/07/08 Tue 11:29:11

Page 28: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

けその地元に帰っていく人も増えていくと思いま

す。というわけで地域出身の医療者を増やしてい

く、これも人手不足の解消につながっていくん

じゃないでしょうか。例えば、今新潟県でもやっ

てると思うんですけれども、医学部に新潟県民枠

を増やしていくなどをすれば、それが直接結果に

結びつくわけじゃないですが、いつかは新潟県に

還元されていく、そういったことも考えられま

す。新潟県が交付している奨学金、つまり新潟県

で9年ぐらい働くと返済義務がなくなる、そう

いったこともあると思うんですが、それをうまく

使っていき、もし予算に余裕があれば拡大してい

く、そういったことをしていけば、また新潟で働

く医者も、新潟に残れる医者も増えていくんじゃ

ないかと思います。

 次はすごい大きな妄想なんで。新潟県広いで

す。例えば上越とかに新潟医学大みたいのでも

あったら新潟県の医者も増えていくんじゃないか

なぁ、と思います。そういったことをすごく長い

スパンでもいいから考えていけたら、新潟県に医

療者が増えてやりやすくなるんじゃないかなぁと

も考えました。

 最後ですが、多くの人に地域医療について知っ

てもらうことから考えることが始まって、考え始

めたら、地域医療をやってみたいと思う人がもし

かしたら10人いたら1人2人出てくるかもしれな

いですよね。だからまず知ること、考えることが

大切ではないでしょうか。大学でもそういった教

育の取組をこれからしていこうということで動い

ていますし、大学なんて大きなこと言わなくて

も、例えば今日家に帰って家族にこの講演で聞い

た話をしてみたら、またその人が誰かに話をして

地域医療に感心を持ってやってみようという人が

増えていくかもしれません。だから今日帰ってま

ず話して、明日月曜日学校に行って、職場に行っ

て誰かに話して、また来週違うところに行った

ら、今日あった地域医療ってこんなことをやって

こんなことを考えてるんだよってことを誰かに話

していただきたいと思います。そういったことで

- 31 -

WS・FWに参加した学生から地域医療の実情を見て

Title:028北澤.ec6 Page:31 Date: 2008/07/08 Tue 11:29:14

Page 29: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

みんなで働く職場を作っていただけたらいいなと

いうふうに考えています。どうもありがとうござ

いました。

鈴木 栄一(司会)

 医学生の北澤さんにみんなまとめてもらったみ

たいで、ほんとにいいお話だったと思います。非

常にいろんな提案もありましたし、地域医療の際

には新潟県の医師不足という話もありましたけれ

ども、何か今この場で北澤さんにご質問がござい

ましたら受けたいと思いますが、いかがでしょう

か。よろしいでしょうか。北澤さん、どうもあり

がとうございました。またあとでお願いします。

- 32 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:028北澤.ec6 Page:32 Date: 2008/07/08 Tue 11:29:14

Page 30: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

鈴木 栄一(司会)

 それでは第2席は今度は臨床研修医の先生から

お話をしていただきますが、『地域医療病院で研

修をした研修医より』ということで、新潟大学医

歯学総合病院臨床研修医の北田先生、よろしくお

願いします。

北田 倫子(新潟大学医歯学総合病院臨床研修医)

 こんにちは。新潟大学研修医2年の北田倫子で

す。今回このような会でお話させていただく機会

を得まして大変恐縮しております。あまりたいし

た話は出来ませんけれども、地域医療病院での研

修を終えて感じたことや経験したことを少し話し

てみたいと思います。私は、6月26日~8月5日

までの6週間を十日町にある松代病院で研修しま

した。私は先ほどの北澤君とは違って、雪のない

すごくいい季節に行かせてもらいました。新潟か

ら松代までの道のりはものすごく険しく、トンネ

ルを何個も何個も越えます。何度となく「道を間

違った、こんなところに病院があるはずがない」

と思いました。何個目かのトンネルを越えてぱっ

と目に付く「ようこそ松代へ」の看板、「道あって

たんだ」とかなりびっくりしたことを覚えていま

す。これは松代病院のホームページです。病院の

外観が載っています。松代病院は病床数55床で

パートを含めた職員は66名、そのうち医師が4名

ですが院長も含んでおり、さらに私がいたときは

育休中の先生もいらっしゃいました。一人ひとり

の負担、責任、仕事量はとても大きなものでした。

ホームページより抜粋した写真です。これは

2003年の大地の芸術祭の写真なんですが、ちょう

ど私が行っていたときも3年に一度の大地の芸術

- 33 -

地域医療病院での研修を終えて

地域医療病院での研修を終えて

新潟大学医歯学総合病院 臨床研修医2年 北田 倫子

Title:033北田.ec6 Page:33 Date: 2008/07/08 Tue 11:30:06

Page 31: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

祭が実施されていました。観光客がたくさん入っ

て非常に活気付いていた時期に研修していたわけ

です。また、後から少しお話しする訪問診察へ向

かう道すがらあちらこちらに点在する芸術作品に

触れ、日常診療の中にも地域の催しというものを

感じることができました。さて、松代病院での研

修でどのようなことをしてきたかですが、一般入

院診療、当直の他にも、上部消化管内視鏡、胃カ

メラですね、この手技練習といった技術的なこと

を学んだり、十日町高校へ出向いて検診をした

り、病院へ来院できない高齢者宅への訪問診療を

行ったり、十日町の保健所へ行って保健所の業務

について勉強したり、禁煙外来を行ったり、診療

所業務を体験したり、テレビ会議で大学病院と患

者さんについてディスカッションしたりと、本当

に様々なことを経験しました。患者さんの場合、

非常に高齢化が進んでいて、地域研修前には90歳

以上に多少驚いていましたが、動じなくなりまし

た。盛りだくさんの研修を行って新臨床研修制度

で多くの科や病棟を回りましたが、これほど濃密

だったところはありません。毎日がめまぐるしく

過ぎていきました。その中から禁煙外来について

少しお話しすると、松代病院では6月から始めら

れたもので、禁煙しようと心に決めた人たちにた

ばこの恐ろしさについて指導をし、ニコチンパッ

チを用いて禁煙のサポートを行っています。地域

住民のヘルスケアについても深く関わっているわ

けです。さらに私は、地域の中学校での禁煙教室

にも同行させてもらいました。非常に幅広く地域

と関わりあっていることを実感しましたし、病院

側がヘルスケア事業に意欲的に取り組んでいる姿

にとても感銘を受けました。そして訪問診療につ

いてですが、私が実際に指導医の先生と共に訪問

診療を行っている4分ほどのビデオクリップがあ

りますので、どんな感じで行われているのか少し

ご覧下さい。

 訪問診療では本当に田舎の山の奥深くまで踏み

入りました。こんなところに人が住んでいるのか

- 34 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:033北田.ec6 Page:34 Date: 2008/07/08 Tue 11:30:08

Page 32: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

といった心境です。私は出身が福島の会津若松で

田舎にはかなり免疫があると自信があったのです

が、打ち砕かれました。そして、雪の季節を想像

してとても恐ろしくなりました。訪問診療は患者

さんの生活空間に踏み込むという特徴があり、そ

して地域住民としての患者さんを意識することに

なります。家の中の段差や隣近所までの距離も気

になりますし、寝たきりの患者さんの介護者と密

に接することができるのも訪問診療ならではと思

いました。そして、多くのスタッフがいる病院で

はなく、自宅で判断することの責任性というもの

を自覚しました。診察を終えて帰るときの患者さ

んや家族のありがとうが、非常に真にせまったも

のだったことを覚えています。研修中、様々な病

気の患者さんを診ましたが、少し取り上げてみた

い症例を紹介します。一番目の症例は不整脈で通

院中の患者さんがバリウムを誤嚥して受診した。

よく話を聞いてみると筋力の低下が進行している

とのこと。CKの軽度高値や握力の低下などが確

認され、神経筋疾患が疑われました。もう一例は

ANCA関連血管炎でステロイド内服管理中の患

者さんが、ステロイド減量中に再燃してしまいま

した。一番目の症例では診断はいったい何なの

か?追加の検査は?果たして我々の考え方は合っ

ているのか?というクエスチョンマークが。二番

目の症例ではステロイドの増量は前回と同じ量で

いいのか?というクエスチョンマークが出てきま

す。専門医がそろっている大きな病院であればす

ぐに相談することができます。しかし、地域の病

院では専門医はどうしても限られます。頭の中で

はどこに相談すればいいんだろうという不安が生

じます。そこで活躍するのがテレビ会議システム

です。これは実際私が行ったテレビ会議の風景で

す。ここにテレビがあってこちらにカメラがあり

ます。で、こちらの部屋の状況が大学病院へ映し

出されるわけです。画像などの供覧をしていただ

くことができます。テレビの向こうには懐かしい

先生方の顔があり、孤独を紛らわすこともできた

りします。先程紹介した一番目の症例では実際に

- 35 -

地域医療病院での研修を終えて

Title:033北田.ec6 Page:35 Date: 2008/07/08 Tue 11:30:09

Page 33: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

患者さん自身もこの場所に来てもらい、会議に参

加していただいてテレビを通じて大学病院の先生

に顔つき、表情などを含め診察してもらいまし

た。テレビ会議によって一人じゃないという安心

感や我々の判断でよかったんだという後押しが得

られることは必須で、このシステムの重要性を認

識しました。

 最後になりましたが、地域医療の研修を終えて

感じたことを挙げてみたいと思います。今までに

経験したことも意識したこともない分野での学ぶ

べきことの多さと新しさ、地域ならではの医師の

役割とその重さ、へき地医療だからこそ経験でき

ることの数々、地域間のつながり、他の研修医が

いない孤独、見知らぬ所での不安、スタッフとの

連携、協力、テレビ会議で得られる後押し、独り

じゃないという安心感、地域医療病院と大学病院

とが、お互いにない部分を補いあい、常によりよ

い医療へ向けて発展していくことなど考えまし

た。地域医療、とても勉強になりました。ご清聴

ありがとうございました。

鈴木 栄一(司会)

 北田先生からいいお話を聞かせてもらいました

けども、北田先生に何かご質問ありますでしょう

か。偶然北澤さん、北田先生お二人とも松代病院

のお話でしたけれども、今日松代病院の布施院長

もいらっしゃってますが、また総合ディスカッ

ションのときにお話を伺いたいと思います。他の

地域医療病院、県内にはいっぱいあるわけです

が、研修をお願いしているそれぞれの病院でも、

先程のアンケートの結果を見ても地域医療病院の

研修はすごくいいという評価をみんな研修医は出

しているようです。特に質問がなければ北田先生

ありがとうございました。

- 36 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:033北田.ec6 Page:36 Date: 2008/07/08 Tue 11:30:13

Page 34: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

鈴木 栄一(司会)

 それでは第3席は実際今地域でバリバリと第一

線で活躍してらっしゃる先生からですけども、

『離島における地域支援テレビシステムの効用』と

いうことで佐渡市立両津病院小児科の岩谷先生よ

ろしくお願いします。

岩谷  淳(佐渡市立両津病院小児科部長)

 ご紹介していただきました佐渡市立両津病院小

児科の岩谷です。当院には今年3月に地域支援テ

レビシステムを設置していただきまして、大学の

先生方のご協力をいただき、運用を開始している

ところです。今日はその小児科における利用状況

と効用、それから問題点などをちょっとお話させ

ていただこうかと思います。離島におけるという

題目ですので離島・佐渡ヶ島を紹介させていただ

きます。佐渡ヶ島、非常に風光名妓で文化・歴史

もあっていいところなのですが、今日はそういう

紹介は省かせていただき、一つの二次医療圏とし

ての佐渡ヶ島を紹介します。新潟県の他の田舎と

一緒で少子高齢化が急速に進んでいます。面積は

東京23区の約1.4倍、昭和35年から現代まで、15歳

から64歳の生産年齢人口は減少の一途をたどり、

0歳から14歳の小児人口も減っています。一方、

65歳以上の高齢者人口はどんどん増えてる。地方

はどこも一緒だと思うのですが、この緑の線は総

人口ですけれども、昭和35年当初は11万近くいた

人口も平成17年度の国政調査では全島で6万

7384人、年少人口は12%、老年人口は33.8%そう

いう状況になっております。佐渡医療圏の入院病

床の状況ですが、私のいる佐渡市立病院がここで

- 37 -

離島における地域支援テレビシステムの効用

離島における地域支援テレビシステムの効用

佐渡市立両津病院 小児科 岩谷  淳

Title:037岩谷.ec6 Page:37 Date: 2008/07/08 Tue 11:30:54

Page 35: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

130床、佐渡の中央には佐渡の唯一の総合病院、厚

生連佐渡総合病院一般418床・感染4床がありま

す。佐渡市立相川病院、それから南部の厚生連羽

茂病院は療養病床の病院です。他に佐和田病院と

いう規模の比較的小さい民間の病院があり、厚生

連の真野みずほ病院は精神病床で158床。これが

佐渡の医療圏の入院病床なのですが、学生の方も

おられるみたいなので一応ちょっとお話させてい

ただきますと、一般病床というのはいわゆる治療

するための病床です。例えば点滴で薬を使った

り、いろいろな検査をしたり、人工呼吸器を使っ

たり。一方療養病床は基本的には治療は必要ない

ものの、かなり濃厚な介護が必要なので家に帰っ

たり施設に行くにはちょっとハードルが高いとい

う方が利用する病床が療養病床です。ですから療

養病床でもし例えば肺炎になって治療が必要にな

れば、そのまま療養病床で入院して治療を行った

とすると、そのときの医療費というのは全部病院

の持ち出しになってしまうので、やっぱり病院も

つぶれるわけにはいかないですから、そういう病

気の必要になった患者さんは一般病床のある病院

に送るということになります。県の地域保健医療

計画における佐渡医療圏の基準病床数が936床と

いうことになっています。現在の佐渡医療圏の一

般病床、療養病床数というのは685床。約250床不

足している。そういう状況です。

 これは私が勤務してる佐渡市立両津病院です。

へき地医療拠点病院ですが、特徴としては特別養

護老人ホームと老人保健施設を同じ敷地の中に併

設しています。病床数は一般病床は130床で、私

の赴任した当初は外科も整形外科も産婦人科も常

勤医の先生は一人ずつ居られまして、手術件数も

多く、分娩数も年間150ぐらいお産があったので

すが、医師不足の中で医者を集約化していかなけ

ればならないという状況の中で現在は内科医は5

名、小児科医が1名、歯科口腔外科医が2名が常

勤になっています。そのほかの外科、整形、産婦

人科、耳鼻科は週に2日もしくは1日、大学病院

や佐渡総合病院の先生に来ていただいて、外来だ

け出張診療していただいている状況です。産科が

なくなって小児科だけになったうちの小児科の3

年間の診療実績ですが、だいたい外来患者数が一

日平均50人ちょっとぐらいで、入院患者は年間だ

いたい216人から230人前後の診療実績です。小

児科の3年間の入院患者の内訳ですが、肺炎とか

喘息とかクループ症候群とかそういう呼吸器疾患

が一番多くて62%、胃腸炎がメインで、中には腸

重積とか先天性胆道拡張症とか少数ありますけれ

- 38 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:037岩谷.ec6 Page:38 Date: 2008/07/08 Tue 11:30:58

Page 36: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

ど消化器疾患は12%ぐらい。神経・精神疾患は結

構多く、痙攣性疾患が多いのですが、けっこう多

いのが、心身症や身体表現性障害で11%ぐらい。

あと数は少ないですが、ネフローゼとか上部尿路

感染症の腎尿路疾患、糖尿病とか甲状腺機能亢進

症とか夜尿症検査入院とかの内分泌疾患がありま

す。心疾患は新生児を診てるところではどこでも

必ずある程度いるのですが、うちは新生児はいな

くなったのであんまり診ないのですが、術前の先

天性心疾患の方が心不全で繰り返し入院したりす

ることもありました。感染症、免疫には川崎病だ

とかシェーンライン・ヘノッホ紫斑病だとか、そ

の他はしかですとかね、その他ごちゃごちゃ分類

しました。事故ではやっぱり溺水、佐渡は海に囲

まれていますから溺水が多く、その他、薬を自殺

目的で飲んだとかですね、灯油を飲んだとかそう

いう事故で入院される方がいます。小児科医1人

でこの通りいろいろカバーする疾患が非常に多い

のですが、当然わからないことも多いので、相談

できる相手がいるかどうかというのはほんとに死

活問題でしょっちゅうメールで相談している状況

です。今年の3月からは地域支援テレビシステム

を入れていただきまして、相談するために利用さ

せていただいています。先程井口先生が機械の説

明をしてくださったのですが、このシステムの最

大の特徴は画像を送れるということだと思います

が、画像所見の読みが自分ではちょっと心配だ

し、専門の先生方に診てもらいたいというのは

しょっちゅうあります。このシステムでは胸部単

純レントゲン写真に関しては細かい読影になると

放射線科の先生はこんなのではきちんと読めない

とおっしゃると思うのですが、参考所見としては

まあまあ使えるレベルのように思います。図表の

解像度に関しては許容範囲のシステムかなと思い

ます。一方CTの読影になるとちょっと見にくい

かなぁという不十分かなぁという感じもします。

実際3月から先月までに小児科で相談した症例を

紹介します。19歳の男性で、小児期から小児科で

診てる方なのですが、適応障害で神経性の無食欲

- 39 -

離島における地域支援テレビシステムの効用

Title:037岩谷.ec6 Page:39 Date: 2008/07/08 Tue 11:31:01

Page 37: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

症になって風邪ひいたのがきっかけで全身状態が

ガーンと落ちて入院された方で、これは精神科の

先生にご相談させていただいて、回復して退院後

は精神科にお願いして診ていただいています。ネ

フローゼ症候群のお子さんは3歳からうちで診て

いるのですが、一人で診てると不安になるので

データを提示して大学の先生に診療方針などをア

ドバイスしていただいています。この症例は昨年

学校検尿で抽出された IgA腎症の女の子で去年

大学病院で腎生検してもらったのですが、治療方

針について大学の先生からアドバイスをいただき

ました。10ヶ月の男の子は蜂窩織炎と高熱で入院

してきて、回復期にどうも好中球が少ないことに

気がつき相談して、結局その後大学に検査入院し

ていただいて、自己免疫性好中球減少症と診断さ

れました。13歳の男の子は学校の心電図検診で

ひっかかってきて、初めはいわゆる肥大型心筋症

と疑ったんですけど、大学の先生方のアドバイス

に従い検査を行い、今のところ高血圧性心肥大な

のかなぁという方向で話は完結していないんです

けど、診療中です。テレビシステムの運用が始

まった2006年3月から先月までの間にどのくら

い自分が紹介状を書いているのかなぁと思って

ちょっと調べてみたのですが、最多の紹介先は島

内の佐渡総合病院で21件紹介してます。佐渡島内

の小児科医は佐渡総合病院に3人いて、あと僕を

いれて4人なのですが、佐渡総合病院小児科の岡

崎先生を中心にみんな協力してやっています。検

査や診療をお願いするために小児科・小児外科に

よく紹介しますが、その他いろんな科の先生方に

お世話になっています。島内の開業医の先生にも

紹介状を結構書いています。なかでも皮膚科に、

なんだかよくわからないから皮疹を診てください

ということで紹介することが多いです。大学にも

5件紹介させていただいています。この他にしば

しばメールでしょっちゅうどうしたらいいかとい

うことを相談させていただいています。新潟市民

病院の先生方にもよく相談にのっていただいてい

ます。この期間は西新潟中央病院、はまぐみ小児

療育センターにご紹介していますが、この期間に

はなかったのですがこの他にも各医療機関に大変

お世話になっていて、この席をお借りしてお礼を

言いたいと思います。地域支援テレビシステムの

効用ですが、治療方針に迷う症例を相談すること

で、先程藤澤先生の講演でその精神的にストレス

を感じてるという話がありましたけれども、やっ

ぱりストレスが減ることが大きいと思います。大

学病院に相談してるということを患者さんに伝え

- 40 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:037岩谷.ec6 Page:40 Date: 2008/07/08 Tue 11:31:03

Page 38: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

ることで患者さんも安心できるので、良好な患者

―医師関係を構築できるということもあります。

無用な紹介が減って、患者・医師共に利益を得る。

患者さんを海を越えて紹介したものの、なんとも

なくてそのまま帰ってくるということがなくなり

ます。僕自身は今までも小児科の先生には相談に

のっていただける先生がいたのでそれ程困っては

いなかったのですが、他科の先生に紹介したい時

などは面識がないので、貴重な相談手段であると

思います。一方、問題点なのですが、あらかじめ

日時を調整しないとだめですので、時間を作らな

ければいけないという事が負担になる。忙しい大

学の先生方をテレビに呼び出すのは悪いという思

いも少し負担ですし、約束の時間までに外来が終

わらなかったりすると結構気をやきもきしたりし

て、そういうところがちょっと負担になったりす

る。また、心エコーなどの動画なども送れるとよ

いですし、一部の病院では画像データをデジタル

のまま送って、かなりの画像の質で診断できるよ

うなシステムを運用している病院があるようです

が、CTの読影に耐えるような通信システムが構

築されると理想ではあると思います。これは僕の

意見じゃないのですが、当院の他の先生にも意見

を求めたところ紹介先を紹介してほしい、相談だ

けではなく紹介先を紹介してほしいときもあると

いうようなこととか、アドバイスで治療方針を決

めて、例えば「いや、もうちょっと様子を見てこ

うしてみよう」と言ったところで患者が思わしく

ない経過をたどった場合、責任の所在はどうなる

のかというような意見もありました。これらは地

域の医師がバランスをとりながら診ていくしかな

いとは思うのですが、そんな意見もありました。

一応これで終わりなのですが、ちょっと追加で少

し演題とは関係ないのですが、2、3枚スライド

を出させてください。うちでは医療スタッフを募

集しています。医師はもちろんなのですが看護

師、放射線技師、薬剤師を募集中です。うちは職

員の数がとにかく足りません、県内の公立病院の

一部をいくつか抜き出して表にしてみました。A

病院は一般279床、療養42床の病院。B病院は一

般161床、療養38床。C病院は714床+感染8床、

療養なし。うちは一般130床。いずれも県内の公

立公設の病院なのですが、病床利用率を見るとA

病院一般88.8%、B病院80.4%、C病院86.8%、う

ちは63%ととても低く、よく行政から批判されま

す。全然働いていないじゃないかと。おまえらが

悪いんだろと言われるわけなのですが、100床あ

たりのですね、職員数で比べてみると、100床あた

- 41 -

離島における地域支援テレビシステムの効用

Title:037岩谷.ec6 Page:41 Date: 2008/07/08 Tue 11:31:06

Page 39: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

りに医師がどのくらいいるか、他の病院に比べて

うちは6.2人ということで圧倒的に少ない。さら

に問題になっているのは看護師なのですが、看護

師の数が全然足りてないんですね。今年はご存知

の通り夏に診療報酬が改訂になったときに看護師

数を増やして手厚い看護が行える、7対1看護の

基準を満たすと基本入院料が上がるということ

で、大きな病院が看護師さんをどんどん確保して

中小病院まで回ってこないというのが問題になっ

ていますが、それで少ないというのもあるのです

が、うちの場合は長年に渡って人件費抑制のため

看護師を補充してこなかった。ある程度10対1看

護ができるので看護師は足りているという話の元

で計画的に補充してこなかったことで、現在非常

に困っているのですが、先程藤澤先生のアンケー

トを見てやっぱりなぁと思ったのですが辛そうな

んですね、看護師さんたち。ほんとに辛そうで一

生懸命働いてくれているのですが見るに忍びな

い。極論すると医者はなんていうか自分で職場を

かえることが容易ですのでモチベーションがあれ

ば働けますが、看護師さんたちはそこの地域で生

活し、就職していて、職場を変えることはやめる

ことになります。その人たちを酷使し続けるとい

うことは地域医療崩壊の危機を非常に感じます。

行政はとにかく赤字の病院は民営化して独立採算

ですればいいですとかね、そんな雰囲気、そうは

直接は言わないまでもそういう雰囲気を感じるの

ですが、医師一人あたりで診療報酬をどのくらい

稼いでるかとみると、もちろん病院ごとに医療の

内容も役割も違いますから一概に比べられないわ

けですが、それなりに稼いでるわけですね。看護

師一人当たりで見ても他の病院と遜色ないわけで

すよ。職員数が足りないということが問題なの

で、僕たちが働いてないから赤字なんじゃないと

いうその辺がなかなかわかってもらえない。それ

で例えば病床利用率が低い理由の一つなのです

が、非常にひどいデータなのですが、当院の季節

での病床利用率を出してみました。例えば夏場一

番病床利用率が減る7月はどの年も惨澹たるもの

です。平成16年は整形と産婦人科がいなくなった

次の年で全体としてガクンと一旦低下し、平成17

年は外科がいなくなった次の年でまたさらに落ち

込んでますけど、7月と3月とを比べると夏場は

低い。冬場は病床利用率がある程度上がるわけで

すね。平成17年の冬はインフルエンザが全然流行

らなかったので上がりませんでしたけど。これは

人の総死亡、日本の総死亡をグラフにしたもので

国立感染症研究所のホームページからとりまし

た。冬になると人は死にます。夏場は死ななくな

る。冬場は人は死ぬ。インフルエンザが流行ると

さらに死ぬ。要は人は冬に具合が悪くなる。当然

地方の病院は緩衝地帯がないですから冬に入院が

増えて、夏に入院が減るのは当たり前と思いま

す。夏に合わせて人員を用意しても冬は対応でき

なくなるわけですね。地域にはそういう事情が

あって一概に病床利用率のことだけを言っても

らっても・・・とそういう思いがあります。どう

も長くなりましたがありがとうございました。

- 42 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:037岩谷.ec6 Page:42 Date: 2008/07/08 Tue 11:31:09

Page 40: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

鈴木 栄一(司会)

 両津病院の医師不足の問題とか、色々な問題を

提起していただきました。それは最後の総合ディ

スカッションでと思いますが、何かこの場で質問

ありますでしょうか。よろしいでしょうか。岩谷

先生、どうもありがとうございました。

- 43 -

離島における地域支援テレビシステムの効用

Title:037岩谷.ec6 Page:43 Date: 2008/07/08 Tue 11:31:09

Page 41: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

鈴木 栄一(司会)

 続きまして第2部第4席、今度は『県行政の立

場から』ということで、県福祉保健部医薬国保課

の渡邉さんからお話を伺います。では、よろしく

お願いします。

渡邉 健吾(新潟県福祉保健部医薬国保課主査)

 ただいまご紹介いただきました、新潟県福祉保

健部医薬国保課の渡邉と申します。私からは、本

日のテーマであります「地域医療と医師不足の現

状」、特に医師不足という点につきまして、医師

数、県の対策等について、話題提供させていただ

きたいと思っております。

 まず、こちらのスライドは厚生労働省が実施し

ております医師・歯科医師・薬剤師調査のデータ

で、平成6年から平成16年までの全国及び新潟県

の年次推移です。上の青いラインの方が全国、ピ

ンク色が新潟県です。人口10万対で、全国での医

師数が平成6年では184.4人から16年には211.7人

に、27人増加しております。新潟県におきまして

も156.1人から179.4人に増加しております。実数

で、平成6年の3,875人から16年には4,400人に、

525人増加しております。

 次に、都道府県別の人口10万対の医師数です。

こちらでは、新潟県は多いほうから数えまして38

位ということで、下から数えたほうが早く、10番

目ということです。ちなみに全国平均は211.7人

です。グラフで見てみますと、かなり下の方にあ

るということが分かります。全国平均との比較と

しては、人口10万対32人程度の差があり、新潟県

とトップの徳島県との差は、人口10万対103人も

あります。医師不足の原因のひとつとして、都道

- 44 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

地域医療と医師不足の現状

新潟県福祉保健部医薬国保課 渡邉 健吾

Title:044渡辺.ec6 Page:44 Date: 2008/07/08 Tue 11:32:19

Page 42: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

府県間の地域間格差が非常に大きいものがある

と、県としては考えております。

 次に、新潟県内の18年4月からの医療圏別の人

口10万対医師数です。新潟県の平均179.4人に比

較して、上回っている医療圏は、新潟医療圏です。

この新潟医療圏は新潟市、阿賀野市、五泉市、阿

賀町を含んだものです。この新潟医療圏以外の地

域は、人口10万対120人から170人、というデータ

です。先ほど、都道府県間の地域間格差があると

申し上げましたが、県内においても地域間格差が

あるということが課題の一つであると考えており

ます。

 次に、診療所と病院の関係、勤務医と開業医の

関係、というものがございます。こちらのデータ

は、全国の病院所属の医師の数、診療所所属の医

師の数の年次推移です。平成6年から平成16年の

診療所の医師数は、ブルーの方のグラフですが、

こちらが平成6年に77,441人から平成16年には

92,985人へと増加しています。医育機関を除いた

病院は、平成6年には全国で102,665人が、平成16

年には120,260人へと増加しております。全国的

に見ましても診療所の先生方も増えていますが、

病院の先生方も増えているというのがデータ上の

数字です。次が、新潟県です。まず診療所です

が、平成6年の時点で1,304人が、平成16年には

1,490人と増加しております。病院所属の医師の

数ですが、これは1,799人から2,113人に増加して

います。診療所、病院間というのはこのような

データが今のところ出ているという状況です。

 次に、医療を受ける側の状況の変化というもの

も大いにあるかと思います。例えば専門医受診志

向というものがあるのではないか。これによって

細分化が進むと、院内においても相互紹介が増え

て延べ患者数が増加すると思われます。次に、時

間外に求められる診療、説明や膨大な診断書、証

明書記入業務。

 次に時間外に求められる診療ということで、資

料といたしまして、平成16年度の厚生労働科学研

究の小児救急に関する研究がございまして、その

- 45 -

地域医療と医師不足の現状

Title:044渡辺.ec6 Page:45 Date: 2008/07/08 Tue 11:32:21

Page 43: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

中で、いわゆる通常時間外の受診を不可とした

方々の理由について調査したものです。通常時間

に受診できない理由として一番多く占めていたも

のがいわゆる「仕事」で76.3%、それから「休め

ない」5.7%、「用事」5.2%という結果で、働く環

境、社会性を帯びたものまで背景にあると考えら

れます。

 次に、新潟県の、県としての対策です。新潟県

といたしましては短期的な対策、中期的な対策、

それから長期的な対策を行っております。短期的

な対策といたしまして、例えば医学部への招聘活

動の実施、医師・医学生への情報提供、これは新

潟県の病院を載せたカラーの冊子を全国の医学部

等へ配っておりますし、ホームページ等を作成し

て、PRに努めておるところです。それ以外にも

県外での現地説明会の開催なども行っているとこ

ろです。次に、中期的対策です。この中期的対策

につきましては、たとえば自治医科大学の医師養

成、市町村との共同による修学資金貸与制度で

す。次に、最近の話題で、今年の8月に発表され

ました厚生労働省、文部科学省、総務省3省合同

の新医師確保総合対策におきまして「地域枠」の

創設、それから定員増に関する内容が出ておりま

す。新潟大学におかれましては平成20年から地域

枠5名の設定を進められているということです。

新潟大学の定員増について県といたしましては、

新潟県の人口に対しまして新潟大学の定員が100

名であるということについては、非常に少ないと

以前から国の方へ要望しておりました。今回の新

医師確保総合対策におきまして、平成20年4月か

ら最大10人、10年間の増員が容認されたことは評

価でき、県としても前向きに対応させていただき

たいというふうに考えております。

 最後になりますが、長期的対策でございます。

この中で重要なものといたしましては、やはり医

学部への進学意欲の向上です。高校に行き、医学

部進学への意欲高揚等行っていくものです。時間

が少し過ぎたようでございますので、以上にさせ

ていただきたいと思います。どうもありがとうご

- 46 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:044渡辺.ec6 Page:46 Date: 2008/07/08 Tue 11:32:23

Page 44: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

ざいました。

鈴木 栄一(司会)

 どうもありがとうございました。今の渡邉さ

ん、県の方へ何かご質問があるかもしれません

が、だいぶ時間がおしていますので総合討論でと

いうことで、ありがとうございました。

- 47 -

地域医療と医師不足の現状

Title:044渡辺.ec6 Page:47 Date: 2008/07/08 Tue 11:32:23

Page 45: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

司会

 第2部最後になりますけども、今回NHK放送

局染谷さんに発言をお願いしています。タイトル

は『私が見た医療 -医師不足を取材して-』と

いうことで、一緒にいろいろやっていただいてい

ますので、染谷さんの正直な感想をお話いただけ

ればと思います。

染谷 光哉氏(NHK新潟放送局 記者)

 それではよろしくお願いいたします。NHK新

潟放送局の染谷と申します。今日は学生の方も含

め医学の専門家の方が多い、その中で素人の私が

話すというのは肩身が狭い思いもあるのですが、

医療について放送すると職場でも、「うちはこう

だったよ」「私の家族はこうだったよ」と非常に反

響が大きいのですね。それだけ身近な問題だとい

うことだと思います。私が実際、自分自身が経験

した医療ですとか、取材現場でみた医療、そうい

う中で、自分ならばどういう医療を受けたいか、

というようなことをお話し出来ればと思います。

まず、自己紹介ですが、千葉に生まれまして、平

成9年にNHKに入局して記者をしております。

これまでに山形、酒田、秋田そして去年の8月か

ら新潟ですので日本海側が非常に長い記者生活で

す。先ほども医療に関しては素人とお話しました

が、大半は事件取材が多かったので、この中での

医療での関わりといいますと秋田でありました気

管内挿管の問題。こちらの方で事件側のサイドか

ら取材したというのが、取材の中での数少ない医

療との接点だったのです。新潟に来まして普段は

県政の報道の方を担当しております。その中で今

年早々に水原郷病院の問題が起きました。非常に

大量の医師の方々がお辞めになったと聞いて「あ

れ?」と思って、いろいろ背景だとかを調べてい

くと、今は非常に地域医療が厳しい状況におかれ

ているんだなぁと感じました。それで本格的な取

材をしまして5月にNHK新潟放送局で医療シ

リーズというかたちでこちらの“赤ひげチームプ

ロジェクト”の取組などを含めて放送させていた

だいたというわけなのです。そこで地域の医療現

場、この中にも私が取材させていただいた先生方

も何人かいらっしゃるのですが、実際現場を見ま

すと「ホント大変だな」という思いがあります。か

くゆう私も実は当直明けで、あまり寝ていない状

態で来ているのですが、そういう状態で医師の皆

さん、看護師の皆さんが命を扱う仕事をしてい

る。まともな神経を持った人間なら、かなりのプ

レッシャーで、たまらない状況だと思います。当

然、人間は睡眠時間が少なくなると注意力、集中

力が落ちます間違いなく。我々記者も同様でし

て、記事を書く上で固有名詞を間違えないという

ことは“イロハのイ”ですから、出来るだけない

ように気をつけて原稿を書くのですが、特に明け

の日の夕方とかに事情があって取材をして原稿を

書く、疲れた状態だと言葉の選び方を後から考え

るとちょっと違う言葉を選べばよかったかな、も

うちょっと適切な言葉の選び方があったのではな

いかな。それと今はパソコンを使って原稿を打ち

ますから変換ミスがあったりとか、そういった細

かいミスや反省がどうしても出てきてしまう。そ

ういった自分自身の当直の経験から考えますと、

医療ミスに対する考え方をもうちょっと、表面的

- 48 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

私が見た医療-医師不足を取材して-

NHK新潟放送局 記者 染谷 光哉 氏

Title:048染谷.ec6 Page:48 Date: 2008/07/08 Tue 11:33:09

Page 46: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

に捉えるのではなく、背景といいますか状況を含

めて立体的に考える必要があるのではないかと感

じました。それでこちらでいちいち今の医療危機

の現状を説明していくというのもあれなので、か

いつまんでお話していきたいと思います。所謂、

地域での医師の不足、または国の立場で言います

と医師の偏在。これがきっかけとなって地域の医

療が危機に瀕したという状況は、これは新しい研

修制度が始まって自由に研修先を選べるように

なった、本来でしたら地域の大学の出身者の方な

ら地域の中で研修を受けて地域に就職していく姿

がこれまでの姿だったわけですけれども、そのと

ころが自由に選べる様になって都会に流出すると

いう現状が起きてきたところがきっかけというふ

うに認識しております。そうすると悪循環が生ま

れてくるわけです。それぞれの現場で医師の数が

足りない、そうすると残された人達の勤務の負担

が非常に重くなっていく。そうするとベテランの

方でしたら同じ苦労をするのであれば、自分自身

のために開業して自分のペースで自分のために働

くことを考えようかな、若い先生方でしたらより

高度な医療、研鑽の場を求めて環境的に恵まれた

所に行こうかなと、そういうことは考えるのはや

むを得ないのでないかと思います。こういった現

状が新潟県だけではなく全国的に起きていると感

じました。この悪循環を何処かで断つということ

をしなくては医療というものは維持出来ないと思

います。一番簡単に考えるのでしたら医師の供給

源、供給量を増やして、たくさんの医師の方を世

の中へ送り出す仕組みを取る、これが手っ取り早

いと感じてしまいますがなかなかそうはいかな

い、医師を育成していくためには時間も掛かりま

すし、もちろんここに投入される税金という問題

もあります。更に今の医療制度改革の方向性は高

齢化社会を見越してある程度今の日本の国力で賄

える医療費の負担はどの程度だろうとそういうこ

とを考えての方向へいっていると思います。です

からなかなか費用面から無手勝流に場当たり的に

医師の数を増やそう増やそうとはいかない。新潟

県みたいに、大学の医学部の定員数が少なくて地

域が苦労しているような県でも、全国一律なかな

か増やしてくれないという現状があったわけで

す。

 こちらの赤ひげチーム医療の取組なのですが、

何度か取材させていただきました。今年3月位か

ら、学生さんの地域での研修の様子ですとかテレ

ビ会議システムの様子を取材させていだたきまし

た。非常に思い出深いのは、ある取材先の方へ取

材の趣旨を連絡する時に、あまり深い考えはなく

現代の“赤ひげ”を育てるみたいなタイトルで趣

旨を送ったんです。そうしたらえらく怒られまし

て「“赤ひげ”じゃない“赤ひげチーム”だ」と懇

切丁寧に趣旨を説明してもらった思い出がありま

す。“赤ひげ”と言うと非常にキャッチーな言葉で

マスコミとしては使ってみたくなる言葉なのです

が、“赤ひげ”という言葉の中の概念にはやはり属

人性の要素が非常に多くあるのではないかと思い

ます。語感として“自己犠牲になりたったヒー

ローの様な存在”そんな意味合いがあると思いま

すね。まあなかなか今、日本国内、医療費の抑制

が叫ばれていますけれど、国が掛けている費用に

比べて非常に効率の良い医療を他の先進国に比べ

て提供しているのが日本の医療だと思います。そ

の背景には非常に献身的に地域ですとか医療現場

で、それこそ責任以上の仕事をされて支えてきた

医師の方々、それからコメディカルの方々の努力

というのがあってこういう効率の良い医療が成り

立ってきたのだと思いますけれども、社会として

そういった個人の良心に任せるといいますか属人

性に任せるというのは限界にきているのではない

かと思います。やはりシステムとして誰がやって

も10人並の普通の努力で責任をまっとうできる。

そうした医療の仕組みを整える時期にきていると

感じています。だからこそ“赤ひげ”ではなくて

“赤ひげチーム”なんだと。このチーム医療は、

チームで医療を担う次の世代の人材を育成すると

供に、インターネットを利用します。テレビ会議

システムで結び新潟大学と地域の病院を連結する

- 49 -

私が見た医療 -医師不足を取材して-

Title:048染谷.ec6 Page:49 Date: 2008/07/08 Tue 11:33:10

Page 47: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

取組を進めています。地域で働く先生方をプレッ

シャーから解放して手厚い専門家のバックアップ

を受けられる仕組みになっているわけですが、地

域の病院では先進医療を提供する機会というより

はむしろ生活習慣病の管理などそういった症例の

方が多いのでないかと思うのですが、なかでも専

門家の育成は急務となっています。抗癌剤の治療

ですとかそういった分野が地域の病院でも受けら

れるという状況になっています。このテレビ会議

システムのおかげですよね。これは地域で働く医

師の方々の経験や知見を広げるということではな

くて、自宅から一定期間入院してまた退院してと

いうことを繰り返すということが出来る様になる

わけですから、患者の皆さんにとっても非常にこ

れはメリットが大きいシステムだなということを

実際、テレビ会議での相談、事例などを拝見し思

いました。テレビ会議システムに加えて全国の中

では大きな県立病院に何年か勤務してその後地域

の小さな病院に勤務する。そしてその後、都会で

すとか海外とかで自由に選んだ先進的な医療を学

ぶ期間が与えられる、こういったローテーション

システムを導入しているところがあります。こう

いったシステムだけでは、なかなか新潟県で医師

として働いてみないかとは言えないと思います

が、このテレビ会議システムと組み合わせれば、

先にローテーションシステム導入している県より

も、「新潟県は地域に行ったってこれだけ大学の

バックアップを受けられるよ」というかたちで、

医師の方々を呼ぶのに有力な武器を持ったのでは

ないかなというふうに思います。是非こういうこ

とは次の医師確保のアクションとしてご検討され

てみてはと思うのですが、如何でしょうか。

 それとあと、地域医療なのですが患者との密接

な関わりが特色です。この関わりというのは地域

医療の大きな魅力の一つだと思います。でもこれ

は実際経験してみないと字面ではなかなか分らな

いと思います。この赤ひげチームのプロジェクト

では、若い学生さんが実際地域を見て訪問医療の

楽しさですとか、患者さんと触れ合う楽しさを経

験されます。これは非常に有効な取組だと思いま

す。ある本で読んだのですが、都会でも訪問医療

を専門にやっている病院が幾つかあるみたいなん

ですね。その先生がある患者さんの自宅にお伺い

した時に、本当だったら肺炎かどうかを診断する

にはレントゲンを撮らないとわからないというこ

となんですが、聴診器と問診でこの人は肺炎だ

よ。肺炎の為の処置をしようという形で対応した

そうです。一緒にいた看護師の方が「なんで先生

そんな事分るのですか。」というようなお話をした

というエピソードを本で読んだことがあるので

す。実はですね、専門家の方々にこんなことを言

うのは口はばったい様なところもあるのですが、

高度の医療を提供するのも専門家の仕事だと思い

ますけれども、こうやってなかなか自分の病状を

うまく説明できない、医学の知見というものもな

かなか少ないこういった患者さんから医療を提供

するのに必要な問診をして、または自宅へ訪問し

てその人の家のベッド周りの様子ですとか、台所

の様子ですとかそういったところを観察してです

ね、この人が今抱えている病気とは何なのだろ

う、この人の病状を改善する為にはこういう処置

が必要なんじゃないか、そういうことを判断する

能力は専門的な職人的な技術がいることではない

かと私は思います。ですから、こうした地域医療

を志願する医師を増やすには、やはり訪問医療で

すとか地域医療というものが1つの学会を持つと

いったら言い方が適切かどうか分らないのです

が、ひとつの専門分野として確立され、社会的に

認知される、そういうかたちになっていくと、初

めから若いうちから地域医療に取り組んでみよう

いう予備軍といいますか志を持った人達が増えて

いくのではなかなぁ、というふうに思います。

 集約化、義務化と言われていますけれども、義

務化とかして本意ではない、もしくは適正ではな

い方が地域に行っても、やはりこれは患者さんに

とって必ずしも幸せなことではないと思いますの

で、そういったジャンルとして確立して社会的に

認知されるこうした流れを是非これは新潟大学さ

- 50 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:048染谷.ec6 Page:50 Date: 2008/07/08 Tue 11:33:10

Page 48: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

んなどが主導して潮流をひとつ造っていくような

事になってくれないかなと期待しております。

 それで医療の今後ということについて、私自身

の主観を述べさせていただきたいと思います。自

分の経験で言いますと、ちっちゃい頃はアレル

ギー性皮膚炎で、ずっと、千葉に住んでいたんで

すが、都内へ病院通いしていました。喘息がでる

前に水泳で心臓と肺を鍛えてしまったのでそれが

皮膚へ出たのではないかと言われていたのです

が、10歳を境にケロッと治ってしまったのでその

後あまりお世話になる機会はなかったのですが、

自分にとっても非常に病院は身近な存在だったの

ですね。身内には癌になって死んでいったという

のが結構いまして、中でも印象的なのは祖父と父

親です。祖父は私が小学生の低学年の頃に亡く

なったので、かなり前の話なのですが、すい臓癌

で見つかった時にはもうかなり転移が進んでいる

状況でして、一年近く入院して亡くなったという

ことなのですけど、はじめは筋骨隆々のなかなか

若々しい身体を持った爺さんだったので、はじめ

は布団に寝ていても身体の盛り上がりが見てとれ

たのですが、段々意識がなくなるほど症状が悪く

なったころには、やせ細って布団にぺったんこに

なっちゃう。骨と皮の状態になっなっちゃう。当

時はまだ、疼痛コントロールという事が一般的で

はなかった上に本人もモルヒネを使われるを嫌

がったので、痛みの発作がでると布団を噛んでそ

の場は悶絶してしまう、そんな状況をちっちゃい

頃目撃しました。そして数年前に父親を亡くした

んですが、岩手の山の中の自宅で倒れて、見つ

かって病院にかかってCTを撮ったらお腹の輪切

りの写真に半分以上が癌細胞になっているとい

う、素人が見てもダメだなという様な状況だった

んですね。当時、私は秋田に居たので、岩手に

ずっといるわけにもいかず何とか秋田市内の大き

な病院へ転院させてもらいました。ところが、秋

田の病院に着いてからですね、廊下で30分も40分

も、連絡が入っていたにも関わらずトイレにも行

かされないままストレッチャーのまま放置される

という連携の悪さとかがあったのですね。患者の

家族という立場からみれば細かい不満もあって、

大きい病院だったら良いってもんじゃないなと思

いました。それで親父は岩手の土地を愛していま

したので、岩手の気心の知れた医師の方とコメ

ディカルの方に囲まれて最後の時を迎えた方が良

かったんじゃないかなという事を今でも思ったり

します。そうした人の温もりに触れながら旅立た

せてあげたかったなというようなことを時々思う

のですね。医療というものを、これは私が経験し

てそう思うだけなのかも知れないのですけれど

も、高度な医療、つまり今まで救うことの出来な

かった命を救う治療法を見つけることも医療の使

命だと思います。ただ、その人その人の望むかた

ちで最後の看取りを迎える、終末医療ももう一つ

の重要な使命なのではないかと思います。そして

また、国民全てが、なにがなんでも病気を治した

い、高度な医療を求めたいという訳ではないん

じゃないかなと思うんですね。そして今、国は医

療費を抑制し、医療費だけでなく保険費を抑えた

い、それが日本の国力だとスタンスを打ち出して

きています。その中で高度な医療は患者側の経済

的な負担も大きいですけれど、当然国の経済的な

負担も大きい、その中でいたずらにみんなが高度

な医療を受けるというよりは、それぞれが自分の

求める医療を選択出来るシステムとういうものを

揃えていくという事が必要なんじゃないかなとい

うことを感じています。これは爺さんの疼痛と言

いますか痛みとの戦いみたいなものを見ているん

で、そんな事を思うのかも知れませんけれども。

そういった選択肢というものを住民の皆さんの意

見を元に、こんな医療もあるよ、あんな医療もあ

るよ、あなたはどういう医療を求めますか?そう

いったことを常に医療の枠組みをつくっていくう

えで把握したうえで、それに必要な仕組み作りを

これから考えていかなければいけないのじゃない

かなというふうに思っています。

 地方で長く記者の仕事をしていますと平成の大

合併をはじめですね今、国と地方のあり方が変

- 51 -

私が見た医療 -医師不足を取材して-

Title:048染谷.ec6 Page:51 Date: 2008/07/08 Tue 11:33:10

Page 49: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

わって来ていることを実感しています。国全体で

いえば戦後の高度福祉国家を謳った体制から自己

責任の時代、もうちょっと行政サービスが限定さ

れた世の中になっていく流れにあるんじゃないか

という事を今感じています。ところが今、何の工

夫もしないで地域の医療の危機というものを放置

してしまうとどういうことになるかいうと、やは

り地域に人が住めなくなってしまうのではないで

しょうか。やはり都会というのは、実は地域から

出てきた人達が集まっていろんな文化ですとかや

文明を創出している場所です。こうした都会のア

イデンティティとなる地域というものが滅びてし

まったら、文化としての多様性というのも日本国

内で薄れてしまって、新しいことを生み出す体力

というものが国としてどんどん衰えていってしま

うのではないかなという危機感が個人的にはあり

ます。今丁度医療の問題をはじめとして、いろい

ろ国の仕組みが曲がり角に来ている時期ですか

ら、大いに議論して大いに自分の意見を言って新

しい時代に即した社会システムというものを構築

していければというふうに考えています。以上で

す。

司会

 どうもありがとうございました。染谷さんか

ら、いろんな機会に取材に来ていただいて、私も

いろんなディスカッションをさせてもらったりし

て、新潟の医療とかあるいは地域医療のこともお

話させてもらってます。大変貴重なご意見をあり

がとうございました。

 一応予定ではここまでが2部で、いったん休憩

の後、机も出す用意をしていたのですが、とても

机を出す時間はありません。休憩も申し訳ないで

すが、せっかく大勢参加していただきましたの

で、いろんな方からご意見をいただいた方がいい

かと思います。休憩なしでこのまま総合ディスカ

ションに移らせていただいて、時間もすでに終了

の時間ですが延長させていただいて、いろんなご

意見をいただきたいと思います。この我々が取り

組んでいる赤ひげチームプロジェクトに対するご

意見、今度どういう事をやったらいいのかという

事でも結構ですし、新潟大学としてどういう事を

やるべきなのか、そういう事に対するご意見でも

結構です。新潟県として県はこういう事に取り組

むべきだ、そういうご意見でも結構です。いろん

なご意見をいただきたいと思います。今日の配布

資料にもありますように、昨年度発足式をやって

その報告書を作ったのですが、このシンポジウム

も報告書を作りたいと思っておりますので、出来

ましたら、発言される方はお名前を言っていただ

いて、その後ご発言いただければと思います。よ

ろしいでしょうか。

 それでは第3部総合ディスカッションに移りた

いと思います。フロアの方で何かご意見、演者へ

の質問でも結構です。いかがでしょうか。

- 52 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:048染谷.ec6 Page:52 Date: 2008/07/08 Tue 11:33:10

Page 50: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

- 53 -

第三部 総合ディスカッション

Title:053仕切.ec6 Page:53 Date: 2008/07/08 Tue 11:33:43

Page 51: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

丸山 倫夫先生(JA新潟厚生連魚沼病院 副院長)

 本日はどうもありがとうございます。JA新潟

厚生連魚沼病院の丸山と申します。3点ほど、お

願いいたします。1つは、アンケートを実施され

た藤澤先生にお願いなのですが、非常にポイント

を得たまとめでありがたかったのですけれども、

アンケートをした時期の社会的背景を考察の中へ

加えていただきたいと思いました。全部の病院を

全県下ひとまとめにして地域医療の問題点を取り

上げられたのですが、実はあのアンケートは震災

後1年以上経った時期なのですね。震災被災地に

あった当院と栃尾郷病院が震災直後の気の張った

時期を過ぎ、職員が一番精神的に疲弊した時にあ

のアンケートが実施されたのです。ですから全県

下をまとめるのも良いのだけれども、病院によっ

ては背景に差があるということをつけ加えます。

また、アンケートを是非経時的にお願いしたいと

思います。というのは、この春診療報酬の改訂が

あって、私共、厚生連は職員の異動が激しく、ま

たものすごくストレスがかかっております。経時

的にアンケートを実施していただいてフィード

バックしていただけると、リスクマネージメント

の面で助かると思います。2点目のお願いは昨

日、自治医大の梶井教授の講演をうかがったので

すが、「地域医療」とういう言葉は非常に誤解を受

けやすいと思ったのです。現代は「ちょっとした

ことで患者さんに訴えられたりとか」、「疲れて辞

めたり開業したり」とか、厳しい状況にあるので

すが、プライマリケアの現場に触れて一番情報を

多くもらえる、豊富な暴露を受けられるもの、と

して「地域医療」をとらえていただきたい。「学生

時代に生の現場を直接見る窓口だ」ということを

教官の方に言ってほしいし、それから今日いらし

ている研修医の先生方も、学生さんも、そういう

ことを意識して、情報収集をする。医学部カリ

キュラムも、生の現場に常に暴露をする、暴露を

受けるのだ、ということを意識して組んでいただ

きたいと思いました。3点目は、今日の夜9時か

らNHKスペシャルで「もう医者にはかかれない」

というショッキングなテーマの番組があるのです

が、これは今の現場の赤裸々な問題を取り上げた

企画ですので、学生さんも、各現場の先生方も、

是非ご覧いただけると宜しいかと思います。以

上、3点申し上げます。

司会

 どうもありがとうございました。アンケートに

ついてはまた経時的にやろうという予定でいます

し、地域医療の定義についてもいろいろ問題もあ

るのですけれども、考えていかなければならいと

思います。他にいかがでしょうか。せっかくの機

会ですので、どなたでも。

大高 国郎(新潟県医療労働組合連合会 書記長)

 新潟県医療労働組合連合会の大高と申します。

今日は貴重なシンポジウムをありがとうございま

した。発表の中にもありましたけれども、北澤さ

ん、北田さんの発言の中にもあった様に実際に体

験してみることによって地域医療の重要性を痛感

出来るということで、染谷さんの方からは義務化

には反対だという意見があったのですが、体験す

るということで義務化はある意味必要なのではな

いかなとひとつ思いました。それから一昨日の朝

日新聞を見ると、教員ではローテーションで3年

から5年位で僻地へ行ったり都市部へ行ったりと

義務づけられているというのがありましたけれど

も、やっぱり医療の場合にもある程度ローテー

ションといいますかそれが必要なんではないかな

と感じました。これまで、大学の医局の方で医師

をプール化し、派遣して地域医療を担ってきたと

いう点があったと思うのですけど、現状ではそれ

が出来なくなっているということで、県の方から

もプール化を提示されていましたけれども、今度

は誰がそれをやっていくのか早急に制度として確

立していく事が必要なんじゃないかなと強く感じ

ました。以上です。

- 54 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:054ディスカ.ec6 Page:54 Date: 2008/07/08 Tue 11:34:17

Page 52: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

司会

 はい、どうもありがとうございました。いわゆ

る地方というところを担う方策としての提言なの

ですけども。他にいかがでしょう。

吉田 和清(新潟県六日町病院 病院長)

 県立六日町病院の吉田と申します。赤ひげチー

ム医療人ということで大学の方で頑張っておら

れ、テレビ会議システムといったようなことで地

域に支援をされて大変すばらしいことです。さら

に一歩踏み込んで現場に出掛けるということはど

うでしょうか。最近知ったのですが、長崎大学の

離島医学講座というのは五島列島にあるそうで

す。そういった点で今魚沼基幹病院の構想があり

ます。新潟大学は人事の件で全面的にバックアッ

プしていくとのことです。可能かどうか分りませ

んが、魚沼の基幹病院にそういった講座を県あた

りから寄付講座といったかたちで開いていただい

てはどうかという提案をしたいと思います。そう

いう点はどのようなものでしょうか。

司会

 新潟のことを考えて、すごく良い提案だと思い

ますし。先生が今お話になった魚沼の基幹病院が

どういう機能を持つのか、当然医育機関的な機能

をもってほしいと我々願っていますので、そうい

う意味で我々が今取り組んでいる赤ひげチームプ

ロジェクトと同じ様なことが、そういう所にも出

来てしかるべきだろうと思っています。そこにす

ぐ講座が出来ることに関しては、私は何とも発言

は出来ませんけれども。他にいかがでしょうか。

吉嶺 文俊(新潟県立津川病院 病院長)

 津川病院の吉嶺です。いろいろなご意見ありが

とうございました。2つ質問と意見を述べさせて

いただきます。まず、学生の北澤さんにフィール

ドワークの話を伺います。実際に住民さんや患者

さんと話す時間はどの位あったのですか。

北澤:僕がついていった時は9件の訪問診療があ

りまして、1回に充てる時間が5分位だったと

思います。時間は、地域がやっぱり広かったの

で20分位掛かりました。そういうこともあった

ので、大体全部で5分間位のものが9件です。

吉嶺先生:自分としては十分話しが出来ましたで

しょうか。

北澤さん:十分というよりは、先生がなさってい

るのについて聞きたいことがあったら質問して

みる「先生これはどうなのでしょう」という時

間だったので。

吉嶺先生:分りました。私フィールドワークにつ

いて行ったことがないので。患者さんや住民さ

んの生の声を聞くというのがフィードワークに

はあり、実際にやっていると思うのですが、発

表の中でフィールドワークの生の声の感想があ

まりなかったので、あまり話しが出来なかった

のかなと思いました。フィールドワークでは住

民さんとの対話とか行政の方との対話の時間を

多くしていただいて生の声を聞いてもらう、特

に医学部の学生さんの場合は患者さんの求める

医療が全部高度先進医療ではない、ということ

を知ってもらうために、患者さんや住民さんの

生の声を聞いていただくのがいいと思います。

 もう一つの意見ですが、専門医志向が強くて

と北田さんもおっしゃっていましたが、先端医

療とのギャップがある、このギャップというの

はどっちが上か下かという問題がありますけれ

ども、一つは住民さんの多くが専門医志向であ

るかというと、最後の染谷さんのお話にもあっ

た様にそうではないのではないかと、いわゆる

かかりつけ医といいますか総合医というポジ

ションというかステイタスが学問的に客観的に

認められて、なおかつ社会に広めていかなけれ

ばいけないかなと思います。そしてかかりつけ

医自身のレベルアップも必要だと思うのです。

- 55 -

総合ディスカッション

Title:054ディスカ.ec6 Page:55 Date: 2008/07/08 Tue 11:34:17

Page 53: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

地域医療で田舎で頑張っていらっしゃる先生方

はいっぱいいらっしゃるのですけど、それぞれ

非常に個別的で客観性を求めるのはなかなか難

しい。それぞれの先生方が、かかりつけ医とい

うのはどういう仕事なのか、相互批判が出来な

いとレベルアップは望めないし、なあなあで甘

えがあってはいけないと思うのですね、かかり

つけ医であっても。多くの患者さんが専門医志

向で大きな病院に集まるというのではなくて、

かかりつけ医の重要性を分かっていただく為の

住民教育をフィールドワークなんかでした方か

良いのではないかと思います。それを行う前に

私たちにもうちょっとコンセンサスがないとい

けないですね。どういうのがかかりつけ医なの

か、どういう医療が良いのかというコンセンサ

スを、新潟県の標準的な考え方をまとめないと

いけないと思うのです。

司会

 どうもありがとうございました。地域医療を担

う医師あるいは総合診療医をつくっていく、非常

に重要なテーマで、これは我々も真剣に考えなけ

ればいけないと思っています。この点について何

か、他に意見はいかがでしょうか。

布施 克也(新潟県立松代病院・病院長)

 松代病院の布施です。北澤君、北田さんに松代

での実習、研修の話をしていただきましてありが

とうございました。北澤君、北田さんのなかに地

域医療に対しての感性が育まれたといったことが

大変有用だったかなと思いました。特に北田さん

のおっしゃっている一人じゃないというものを実

感できるシステムは、地域医療の研修とか地域医

療の勤務の中でとても大事なことで、コアステー

ションを含めて県内の医療チームであるといった

ことを実感出来る様な実習と研修ができていると

いう事はとっても大事だろうと思います。私、自

治医科大学出身ですけど自治医大卒業生は地域医

療を担う為に大学に入るわけですけど、自治医大

でもやはりモチベーションとか感性を付ける為

に、一年生の時に一泊二日で卒業生の方へ行く、

5年次に2週間現場に泊まり込んで実習をする、

といった事をしないと、自治医大に地域医療をや

るつもりで入った学生もモチベーションを維持出

来ないといったことがあるかと思うのです。是非

なるだけたくさんの学生さんに地域医療の現場に

来ていただけるような仕組みを作っていただけれ

ばと思います。先ほど吉嶺先生がおっしゃったよ

うに、北澤君が来られたフィールドワークの形で

すと、私と訪問診療に出掛けて一周して帰って来

て、病院の中で少しお話をするというだけで、も

う病院でやる時間はいっぱいいっぱいでした。

もっといろんなことを見ていただける時間を作っ

ていただきたいということを思っております。以

上です。

司会

 はい。どうもありがとうございました。学部教

育の中にどの様に取り入れていくか私も非常に悩

んでいて、なかなか簡単にいかない。義務化とい

うのが出ていましたが、カリキュラムに取り込も

うとすると一学年100人というレベルになって、

まだまだ難しい。クリアしなければならない問題

がいっぱいあるのですね。これも当然大学では検

討していかなければならないと思っております。

他にはいかがでしょうか。

内山 政二(国立西新潟中央病院)

 国立西新潟中央病院の内山です。今日の第2部

は「地域医療と医師不足の現状」ですが、医師不

足についての議論がなかったので発言させていた

だきます。新潟県全体の医師不足は歴史的なもの

であり、致し方ない面があります。しかし、地域

の医師不足は別の側面を持っています。地域の医

師不足が医者のわがままや、大学の医師出し渋り

が原因であるかのように語られることがあります

が、これは日本社会の縮図であり、国土発展の不

均衡に直結した問題、つまり地域の問題です。し

- 56 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:054ディスカ.ec6 Page:56 Date: 2008/07/08 Tue 11:34:18

Page 54: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

かし地域に変われといっても無理でしょう。では

どうすればよいか?北澤君や北田さんが言われた

「地域医療は大変ではあるがやりがいがある」とい

う面白さや醍醐味を伝えていくことが一番大事で

あろうと思います。最近の若者はきつい仕事を嫌

うといわれますが、私はまだ日本の若者は捨てた

ものでないと思います。日本人選手のオリンピッ

ク優勝には国中が沸きますし、新潟のアルビが J

1に昇格した時は大勢の若者が歓喜しました。こ

ういうことを見ますと、若者には感動する心が十

分あり、仕事の喜びややりがいを訴えれば若者は

来ると思います。地域に魅力がなくとも、それを

打ち消すだけの仕事の魅力や醍醐味をアピールす

ることが大事だと思います。本県のある地域で

は、新卒後研修が始まる前から毎年東京から研修

医が来ています。それは関係者が一生懸命に地域

医療の魅力を訴え、実際に研修に来た人に対して

は来てよかったと思える研修を提供しているから

続いているわけです。大学主導の地域医療研修が

始まったわけですが、医師不足の新潟県のために

今後も是非続けていただきたいと思います。

司会

 どうもありがとうございました。学生のうち

に、あるいは研修医の早期のうちに体験するのは

すごく大事なことだと思います。どうやってやる

かは良く考えていきたいと思います。ありがとう

ございます。いかがでしょうか、他に。

高橋 榮明(新潟医療福祉大学 学長)

 新潟医療福祉大学の高橋です。今日は学生、そ

れから研修医の皆さんの体験を聞いて感激いたし

ました。医師不足は、構造上の問題で、新潟県で

は当分解決されそうもありません。10万人対の医

師数だけから考えると、全国平均に達するには、

本県で750~800名が不足です。しかし、少し違っ

た観点でみていただくことも大切だと思います。

と言うのは健康寿命から考えると女性は全国5

位、ところが、男性は25位なのでちょっと気にな

ります。これを沖縄の「26ショック」(注1)のよ

うな原因があるのか、そこはまだわかりません。

県にお聞きしましたら、県内の各地域の健康寿命

は何歳か、各地域にどのような差があるのかまで

は出ていないそうです。このように健康寿命はと

いう観点も必要かと思います。そして医療モデル

のみに注目しているとなかなか分からない福祉に

ついても注目し、新潟県において生活モデルを考

えて、医療福祉の連携の上において健康寿命をど

のように延伸するか、例えば特に男性の健康寿命

を延ばす観点も必要であると思います。ありがと

うございました。

(注1)「26ショック」

 厚生労働省が2000年に発表した、沖縄男性の平

均寿命は全国26位へ急落したというニュースは、

沖縄では「26ショック」と呼ばれ、それは「長寿

の島」という誇り、ブランドイメージが脆くも崩

れ去った瞬間であった。

司会

 どうもありがとうございました。今の点に関し

ては、フィールドワークでは医学科の学生だけで

はないので、口腔福祉生命学科の学生も一緒にい

たものですから、歯科の予防と言いますか、そう

いうのがすごく大事だと学生は感じて帰ってく

る。すごくいい事だなと私もその時思いました。

岩谷先生どうぞ。

岩谷  淳(佐渡市立両津病院 小児科部長)

 ひとつ他の地域の病院の先生方に伺いたいので

すけど、皆さんモチベーションを持って、いろい

ろなことをやっておられて、また学生さん、医療

スタッフを育てようとしていることには感銘をう

けておりますが、ところで皆さんのところは経営

的に採算が取れているのでしょうか。というの

は、医療も金がないとできません。一方地方自治

体はどんどん財政が厳しくなっています。本来医

療というのは別に儲けることを目的としているわ

- 57 -

総合ディスカッション

Title:054ディスカ.ec6 Page:57 Date: 2008/07/08 Tue 11:34:18

Page 55: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

けではなくて、住民に良いサービスを提供するこ

とを目的としてやっているわけですが、今の状況

下では経営的にとんとんでやるのも厳しい。自治

体はなかなか予算が厳しいので、今の医療制度で

は地方の公立病院は赤字になってしまうことを

解ってくれない。その時に、どの病院も皆一生懸

命やっているけど、どこも苦しくて赤字でしょう

がないのだ、というのであればそれは構造上の問

題、つまり国の打ち出している医療政策の構造上

の問題で赤字になるようにできているのだから、

地域医療を支える為にはその赤字の分は補填して

やっていかなければダメなのかという話にもなる

けど、そうではなくて、当院の経営のやり方が悪

くて「あんたのところはやり方が悪くてやっぱり

赤字なのだと」と言われればそれはそれで甘んじ

て批判を受けるしかないかと思うのですけど、そ

のあたりのことはちょっと答えにくい話なのです

けど、どうなっているのでしょうか?

司会

 本当は一番大事な話かも知れないのですけれど

も、なかなかここで今すぐディスカッションする

のは難しい話です。先ほどの話で学生教育もそう

ですね。私は学生全員を地域に連れて行きたいの

ですけども、その為には予算がいるのです。なか

なか難しいのです。泊り込みでやらせたいのだけ

れども、その為にも予算がいる。当然人も要りま

すけれども。今はこのプロジェクトのおかげで何

とかやっているのですけど、これを継続的に更に

拡大させようとすると、いろんな面で困難がいっ

ぱいあって、これをどうやってクリアしていこう

かなと今悩んでいるところなのです。是非県にも

いろんな協力をしていただいてと考えています。

で、病院の収支の問題についても、たぶん皆さん

苦労されているのじゃないかなと、私正直なとこ

ろそれ以上のコメントはできないですけれども。

では、荒川先生まとめをお願いします。

荒川 正昭(独立行政法人 大学入試センター)

 大変今日は勉強になりました。問題点は沢山あ

ると思っております。今日お話を聞いていて、実

は私が医者になってすぐに最初に長期出張したの

が松代病院でした。北田さんは自動車で行ったの

ですが、私は歩いて4時間半掛かって病院に着い

たことを覚えています。

 今日は大変感心しました。多くの討論は正しい

と思います。そのひとつに触れますと、確かに教

育全体も大切であると思いますが、今日のお話の

ようにモチベーションの高い学生はすぐにやりま

すが、実はモチベーションの高くない学生もいる

わけです。残念ながら。高くない医者も大勢いる

のです。こういう人達の教育をどうするか、これ

を考えて全体を底上げするための仕組み、教育シ

ステムを考えていくことが大切であると思ってい

ます。第2点は、新潟県では新潟大学と新潟県と

医師会との間に非常に良いネットワークがありま

す。これは他の県にはないことです。例えば県立

病院のネットワーク、あるいは厚生連のネット

ワーク、これらを含めた全体のネットワーク、こ

れが非常に上手くいっているのです。これを最大

限に利用してもう1度医者派遣の在り方を検討す

べきです。派遣するにはいろいろ手があります

が、これまで大学の医局は諸悪の根源でダメであ

る、今度は医局がダメとなると医局は何をやって

いるのだ、こういうマスコミから話が出てくるわ

けです。そうではなくて、医局は自信を持ってほ

しい、医局は自信を持って県と一緒になって頑張

る、このことを是非お願いいたします。卒後研修

が始まったとき、研修病院のネットワークに皆が

集まりましたね、頑張ろうと言ったのに今集まっ

ていない。今年は是非再び集まって、新潟県の臨

床研修を関東にアピールする様な構想、例えば臨

床研修新潟コンソーシアム、あるいはアカデミィ

といった沖縄県のようなものを出して欲しいとい

うのが私の気持ちです。

 それから岩谷さんの話は非常に面白い話しでし

たが、今、ここに病院があるから医師が必要であ

- 58 -

「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:054ディスカ.ec6 Page:58 Date: 2008/07/08 Tue 11:34:18

Page 56: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

ると言いますが、その地域に於いて本当にその病

院が必要なのか、本当はどんな医療をしたら良い

のか考えることも必要です。病院があるから医者

が足りない、医者を欲しいではなく、地域全体と

して医師の在り方を考えなければならないと考え

ます。

司会

 どうもありがとうございました。本当に医療の

問題はまだまだ議論が尽きないところがあるので

すけど、最後のディスカッションでは大勢の方か

らご意見をいただいて非常に良かったと思ってお

ります。予定よりだいぶ長くなってしまいまし

た。学生の北澤さんが先ほど言っていましたけれ

ど、今日のこの話をまた広げよう、今日参加して

いない人にも広めてもらって、こういう問題に興

味を持ってもらう。それがすごく私は大事だと思

うのです。すぐに解決策は出ないと思いますが、

皆が興味を持つ、あるいは興味を持つ人が増えて

くる。先ほど染谷さんのお話にもありましたけれ

ど、県内の住民の方、医療関係者だけでなくそう

いう方にも興味を持ってもらうのがすごく大事な

んじゃないかなと思います。大学も県も一緒に

なって医療を考えていかなければダメだというこ

とは十分分かっているつもりですので、今度とも

宜しくお願いしたいと思います。それでは、今日

のシンポジウムは以上で終了したいと思います。

どうもお疲れさまでした。

総合司会

 以上をもちまして本日のシンポジウムを終了さ

せていただきます。配布いたしましたアンケート

は出られました所に回収ボックスがございますの

で、ご協力お願いいたします。天候が悪いので足

元にお気を付けてお帰りください。本日はありが

とうございました。

- 59 -

総合ディスカッション

Title:054ディスカ.ec6 Page:59 Date: 2008/07/08 Tue 11:34:19

Page 57: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

- 60 -

お わ り に

 平成18年12月3日、折からの悪天候にもかかわらず「赤ひげチーム医療人育成プログラム」開始1周年の

企画「地域医療を考えるシンポジウム」を、無事開催することができました。関係各方面より多数のご出席

を賜り、大変ありがとうございました。改めて御礼申し上げます。また、シンポジウムで貴重なご発表、ご

発言をいただいた皆様にも、この場を借りて御礼申し上げます。このシンポジウムでいただいたご意見、ご

提言などを、今後の活動に生かしていきたいと思います。

 地域医療の問題は深刻です。地域の医師不足は、年々顕著になっています。診療報酬の改訂等の結果、中

小規模病院の経営は厳しく、県立病院の統廃合などの問題も顕在化してきております。少子高齢化・過疎の

問題とも相俟って解決策も見いだしにくい状況です。

 しかし、嘆いてばかりいても致し方ありません。今、できることを着実に実行していくことこそが肝要と

思います。学生に地域医療を体験してもらうこと、研修医によりよい地域医療研修を提供することにより、

地域医療の良さをアピールするなど、本プログラムでは、今私達がやるべきことを継続して行っていく予定

です。

 今回のご提言を糧に、さらなる飛躍を遂げられるよう努力していく所存ですので、今後とも当コアステー

ションの活動にご注目いただきます様、よろしくお願いいたします。

       地域医療教育支援コアステーション

井口清太郎、藤澤 純一、太田 求磨 

Title:060おわりに.ec6 Page:60 Date: 2008/07/08 Tue 11:34:57

Page 58: Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12-11- 文部科学省採択「赤ひげチーム医療人の育成プログラム」一周年記念 「地域医療を考えるシンポジウム」

Title:表紙1-4.ec6 Page:1 Date: 2008/07/08 Tue 11:36:12