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1 自己実現に向け,本音で磨き合う活気あふれる松ヶ浦っ子の育成 ~特別活動における自主的,実践的な活動の充実を通して~ ◇本校を取り巻く環 境と子どもの実態 から ◇これまでの研究と 課題から ◇社会の要請から ◇教師の願いから 本校は昭和 30 年代には,児童数 600 人を超え県下屈指のスポーツ実力校と呼 ばれた時代もありました。しかし,時代とともに少子高齢化が確実に進行して います。現在,児童数は 18 人ですが,本校区に流れる教育熱心な気風は現在で も受け継がれています。 一方で,学級集団においては,へき地校特有の課題ともいえる人間関係や学 級内での立場や役割が固定化され,友だちや教師に対しての言葉遣いや礼儀が 馴れ合いになりがちです。また,ここ数年は全体的に自己肯定感が低い傾向に あり,学校生活においては,自分に自信がもてず,主体的にリーダーシップを 発揮したり,継続して善行に励んだりしようとする積極的な態度や向上心が不 足しています。 平成 26 年度からの2年間は,南九州市の研究指定を受けながら,「学習意欲 をより高めるための手立てと表現力を育成する算数科学習指導」をテーマに, 複式ガイド学習の充実や主体的に互いの考えを磨き合う姿を目指した研究・実 践に取り組んできました。 複式ガイド学習の充実や,互いの考えを磨き合う「ぴかぴかタイム(図1) の設定などに取り組み,子どもが主体的に学習を進められるように学習環境を 整備するなどして自分の考えを適切に表現する力を育ててきました。これらの 取組から,子どもの算数科に対する関心・意欲が高まり,自信をもって発表す ることができる子どもが育ってきました。また,「ガイド学習の手引き」や「発 表話型」等を活用させながら,ガイド学習を日常的に展開してきたことで,自 分たちの力で学習を進めることができるようになってきました。 しかし,一方で次のような課題が明らかになりました。 子どもは,基本的な学習の進め方を理解し,学習意欲も向上してきているも のの,子どもたち同士がより本音で磨き合い,自分たちの力で学級や学校にお ける生活を向上させていこうとする態度の育成や友だちとの人間関係を見直し, 自己有用感や自己肯定感等を高めていく必要がある。 以上のことから本校では,生きる力につながる教育の土台として,望ましい 集団活動を通した自己肯定感の育成が必要であると捉えました。改めて,特別 活動の研究・実践に取り組むことは,子ども一人一人に学ぶことの喜びや達成 感,他者と協調し合うことの大切さを感じさせることができ,自立的に生きる ための「生きる力」を育成することにつながると考えます。また,特に1年次 の研究では,『学級活動⑴学級や学校における生活づくりへの参画』に重点を置 くことで,子ども一人一人に学級や学校におけるよりよい生活づくりにつなが る豊かな体験活動へ意図的・計画的に取り組ませることができるとともに自己 肯定感を高めていけると考え,研究してきました。 今の子どもたちが社会で活躍する頃には,生産年齢人口の減少,人口知能の 飛躍的な進化,グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により,社会構造 や雇用環境が大きく変化すると予想されています。そこで,これからの変化の 激しい時代を生き抜いていくために,子どもたちが将来に向けて希望や目標を もって,自分自身で自分の未来を切り拓いてほしいと考えるようになりました。 そこで,2年次の研究では,新学習指導要領において「キャリア教育の要として位置付けられた『学級活動⑶一人一人のキャリア形成と自己実現』に関 する内容を充実させるための手立てを講じることで,本研究で目指す子ども像 【P3研究構想図】をより一層実現することができると考え,研究・実践に取 り組むこととしました。 2 テーマ設定の背景 1 研究テーマ 【図1:ぴかぴかタイム】

研究テーマ 2 テーマ設定の背景 - plala.or.jpminamikyushu-city.hs.plala.or.jp/matsugaura_es/minamikyu...2 ⑴「本音で磨き合う」とは 「課題解決のために,課題を自分事

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自己実現に向け,本音で磨き合う活気あふれる松ヶ浦っ子の育成

~特別活動における自主的,実践的な活動の充実を通して~

◇本校を取り巻く環

境と子どもの実態

から

◇これまでの研究と

課題から

◇社会の要請から

◇教師の願いから

本校は昭和 30年代には,児童数 600人を超え県下屈指のスポーツ実力校と呼

ばれた時代もありました。しかし,時代とともに少子高齢化が確実に進行して

います。現在,児童数は 18人ですが,本校区に流れる教育熱心な気風は現在で

も受け継がれています。

一方で,学級集団においては,へき地校特有の課題ともいえる人間関係や学

級内での立場や役割が固定化され,友だちや教師に対しての言葉遣いや礼儀が

馴れ合いになりがちです。また,ここ数年は全体的に自己肯定感が低い傾向に

あり,学校生活においては,自分に自信がもてず,主体的にリーダーシップを

発揮したり,継続して善行に励んだりしようとする積極的な態度や向上心が不

足しています。

平成 26 年度からの2年間は,南九州市の研究指定を受けながら,「学習意欲

をより高めるための手立てと表現力を育成する算数科学習指導」をテーマに,

複式ガイド学習の充実や主体的に互いの考えを磨き合う姿を目指した研究・実

践に取り組んできました。

複式ガイド学習の充実や,互いの考えを磨き合う「ぴかぴかタイム(図1)」

の設定などに取り組み,子どもが主体的に学習を進められるように学習環境を

整備するなどして自分の考えを適切に表現する力を育ててきました。これらの

取組から,子どもの算数科に対する関心・意欲が高まり,自信をもって発表す

ることができる子どもが育ってきました。また,「ガイド学習の手引き」や「発

表話型」等を活用させながら,ガイド学習を日常的に展開してきたことで,自

分たちの力で学習を進めることができるようになってきました。

しかし,一方で次のような課題が明らかになりました。

子どもは,基本的な学習の進め方を理解し,学習意欲も向上してきているも

のの,子どもたち同士がより本音で磨き合い,自分たちの力で学級や学校にお

ける生活を向上させていこうとする態度の育成や友だちとの人間関係を見直し,

自己有用感や自己肯定感等を高めていく必要がある。

以上のことから本校では,生きる力につながる教育の土台として,望ましい

集団活動を通した自己肯定感の育成が必要であると捉えました。改めて,特別

活動の研究・実践に取り組むことは,子ども一人一人に学ぶことの喜びや達成

感,他者と協調し合うことの大切さを感じさせることができ,自立的に生きる

ための「生きる力」を育成することにつながると考えます。また,特に1年次

の研究では,『学級活動⑴学級や学校における生活づくりへの参画』に重点を置

くことで,子ども一人一人に学級や学校におけるよりよい生活づくりにつなが

る豊かな体験活動へ意図的・計画的に取り組ませることができるとともに自己

肯定感を高めていけると考え,研究してきました。

今の子どもたちが社会で活躍する頃には,生産年齢人口の減少,人口知能の

飛躍的な進化,グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により,社会構造

や雇用環境が大きく変化すると予想されています。そこで,これからの変化の

激しい時代を生き抜いていくために,子どもたちが将来に向けて希望や目標を

もって,自分自身で自分の未来を切り拓いてほしいと考えるようになりました。

そこで,2年次の研究では,新学習指導要領において「キャリア教育の要」

として位置付けられた『学級活動⑶一人一人のキャリア形成と自己実現』に関

する内容を充実させるための手立てを講じることで,本研究で目指す子ども像

【P3研究構想図】をより一層実現することができると考え,研究・実践に取

り組むこととしました。

2 テーマ設定の背景

1 研究テーマ

【図1:ぴかぴかタイム】

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2

⑴「本音で磨き合う」とは

「課題解決のために,課題を自分事

として捉え,自分の意見を筋道立て

て主張し,自他のよさや可能性を認

めながらも批判的に考えたり,折り

合いを付けたりしながら考えをより

よくしていくこと」だと捉えました。

⑵「活気あふれる」とは

「課題に対して子ども一人一人が必

要感をもち,自分たちの生活をより

よくしていこうとする向上心や実践

化に向けてのやる気に満ち溢れてい

る状態」だと捉えました。

【研究内容1】 よりよい人間関係を築くための工夫

学級会等の話合い活動において,学級や学校での生活をよりよくするための課題を見

いだし,解決するために建設的に話し合い,合意形成し,役割を分担して協力して実践

する活動を繰り返すことで,所属感や活動することの楽しさ,成就感や達成感等を得た

り,自己有用感を高めたりできると考えています。

また,異年齢集団による自発的,自治的な活動を意図的・計画的に実施したり,教師

との信頼関係を築いたりすることでも自己有用感が高まると考えています。

視点1:学級活動⑴における「話合い活動」の充実 視点2:自己肯定感等を高める手立て

〇 活動意欲を引き出すための環境整備

〇 基本的な合意形成までのプロセス

〇 必要感の高い「話合い活動」を展開して

いくための手立て

〇 児童会活動を中心とした異年齢集団

による交流活動の充実

〇 教師との信頼関係を築くための取組

〇 「スキルタイム」の設定

【研究内容2】 一人一人のキャリア形成と自己実現に向けた工夫

学級活動⑶は,個々の子どもの将来に向けた自己実現に関わるものであり,一人一人

の主体的な意思決定に基づく実践にまでつなげることをねらいとしています。そこで,

本校では学級活動⑶においても,自他のよさや可能性を発揮できるように「磨き合う」

過程を位置付け,課題解決のために話し合って意思決定するようにしています。

また,年間を通して現在や将来に希望や目標をもって生きる意欲や態度を形成するた

めの取組や,社会参画意識の醸成や働くことの意義の理解を深めるための取組を実施す

ることで,自己実現に向けたキャリアが形成されるものだと考えています。

視点1:学級活動⑶におけるキャリア教育の充実 視点2:社会参画意識を育む手立て

〇 学級活動⑶における学習過程の工夫・改善

・「磨き合う」過程の設定

〇 年間を通しての自己の成長が実感できる

活動及び環境整備

〇 学級への参画意識が高まる係活動

〇 自発的,自治的なクラブ活動

〇 学校行事への参画意識が高まる

環境整備

3 研究テーマについて

ーマについて

4 研究内容と視点

【「本音で磨き合う」「活気あふれる」イメージ写真】

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【研究テーマ】

自己実現に向け,本音で磨き合う活気あふれる松ヶ浦っ子の育成

~特別活動における自主的,実践的な活動の充実を通して~

【子どもの実態】

〇 自己肯定感や自己有用感は高まりつつあるが個人差がある。

〇 朝の奉仕活動や体力つくりなど,自主的,実践的に活動する姿が以前よりも多く見られる。

【社会の要請】

〇 子どもたちが様々な変化に積極的に向き合い,他者と協働して課題を解決していくことや,様々な情報を見極め新たな価値につなげていくことが求められている。

【教師の願い】

〇 異年齢・少人数の集団の中でも,本音で関わり合えるようなよりよい人間関係を築き,何事にも主体的に取り組んでほしいと願っている。

自他のよさや可能性を発揮し,自主的,実践的に課題を解決しようとする活気に満ちあふれる子ども

【学校教育目標】 進んで学び,共に磨き合う松ヶ浦っ子の育成

自己指導能力

5 研究構想図

研究内容1

○学級活動⑴「話合い活動」の充実

〇自己肯定感等を高める手立て

自己効力感 自己有用感

研究内容2

〇学級活動⑶におけるキャリア

教育の充実

○社会参画意識を育む手立て

責任感

「生きる力」の育成

自 信

所属感

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本校では,「話合い活動」や自己有用感を実感することができるための取組を充実させることで,よ

りよい人間関係を築くことができ,子ども一人一人の自己肯定感も高めることができると考えています。

ア 学級活動⑴における「話合い活動」の充実

① 活動意欲を引き出すための環境整備

学級活動における話合い活動を円滑に進めるための「学級会グッズ」(短冊カードや時計等)

や掲示板,特活コーナーを全学級で活用しています。また,基本的な話合いの流れを共通理解で

きるよう1枚のボードにまとめ,全教室に掲示したり,話合い活動に関するスキルの向上を視覚

的に捉えられるようチャートで表したりして,子どもたちの活動意欲を引き出し,自信をもって

話合いに参加できるよう環境整備を工夫しています。

また,発達の段階に応じて話合い活動に関するのスキルを習得できるように低学年用の話型ボ

ードを活用したり,折り合いの仕方を学べる掲示物を教室に常設したりしています。

【話合いの進め方ボード】 【折り合いの仕方】

6 研究の実際

研究内容1 よりよい人間関係を築くための工夫

【掲示板の活用】

【計画黒板の常設】

【特活コーナーの常設】

【話合い活動スキルチャート】

【低学年フォロワー用話型ボード】 【低学年司会者用話型ボード】

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② 基本的な合意形成までのプロセス

短時間で,より深い話合いを展開していくためには基本的な話合いのモデルが必要と考え,話

合いの柱ごとに,意見・考えを「出し合う→比べ合う→まとめる(決定する)」という流れで指

導しています。「出し合う」タイムは,主に自分の考えを説明したり分からないことを質問した

りする時間(計画黒板や掲示板等で事前に知らせておくことで「出し合う」タイムを省略するこ

とがある),「比べ合う」タイムは,主に提案理由やキーワードなどを基に賛成意見を中心に発表

していくつかの考えに絞る時間,「まとめる」タイムは,主に子どもたちのこれまで出された意

見の中で心配な点を中心に,必要に応じて教師が問い返すなどして改善策などのアイデアを出し

合い,折り合いをつけながら建設的に考えを収束する時間と考えています。

【学級活動⑴における「話合い活動」での教師の問い返しのモデル】

③ 「まとめる」タイム…折り合いをつけながら,意見をまとめる時間

② 「比べ合う」タイム…賛成意見を述べる時間

① 「出し合う」タイム…説明や質問の時間

「しつもんがあります。

はないちもんめは,ど

んなあそびですか。お

しえてください。」

「わたしは,はんかちおと

しがいいです。りゆう

は,6人であそべるし,

みんながたのしめると

思ったからです。」

「しっぽをとったら,ともだち

にかえせばいいと思います。」

「キーワード」とは

提案理由に含ま

れる提案者の思い

や願いに当たる言

葉で,合意形成の

よりどころとなる

三つの言葉のこと

です。

「しっぽとりは,先生もたの

しいと思います。でも,と

られた人はいやな気持ちに

ならないかな。」※問い返し

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③ 必要感の高い「話合い活動」を展開していくための手立て

子どもが意欲的に話合い活動に参加していくためには,自

分たちにとって必要感のある議題を選定することが大切だ

と考えました。そこで,議題を呼びかける前などに,相手意

識(誰のために)や目的意識(何のために),合意形成した

い内容(何を決めるのか)を明確に意識することができるよ

うに,必要に応じて学級活動「⑶一人一人のキャリア形成と

自己実現」に関連する学習活動を設定したり,道徳科や総合

的な学習の時間などの各教科等と関連させたりしました。さ

らに,提案理由の中にも,相手意識・目的意識,合意形成し

たい内容を盛り込むようにしたことにより,提案者の思いや

願いをキーワードとして分かりやすく学級全員に伝え,論点

がずれることなく活発に話し合うことができるようになる

と考えました。

【提案理由】

《実践例:第5・6学年 議題「ウミガメ放流会で,ウミガメの命の大切さを発信しよう」》

⑴ 目標

ウミガメ保護の一員として,放流会で,ウミガメの命の大切さを発信するために,自他の思いを大

切にした活発な話合いができるようにする。

⑵ 必要感を高めるための手立て

① 総合的な学習の時間との関連

【単元名】

ウミガメ博士になろう

【主な活動内容】

・ウミガメの卵の保護活動

・海岸の漂着ゴミ調査

・ウミガメについての調査活動

・ウミガメ放流会でのガイド

【ウミガメの卵を保護する様子】

② 道徳科との関連

【内容項目:資料名】

生命の尊さ:氷原を走る犬ぞり

【 ねらい 】

生命の尊さを知り,身近にある生命あるものを大切にしようとする心情を育てる。

③ 学級活動⑶との関連

【題材名】

責任をもってウミガメの保護

活動に取り組もう!

【ねらい】

ウミガメ保護員の方の話から,

日頃の保護活動の重要性に気付

かせ,保護員(地域)の一員とし

て責任をもって主体的に行動し

ようとする態度を育てることが

できるようにする

【ゲストティーチャーの活用】

【話合いの様子】

「ぼくは,ウミガメの命の大

切さを多くの人に知ってもら

うために,自分たちでとった写

真をホームページで発信した

らいいと思います。」

【ウミガメ放流会の様子】

事後活動へ

【各教科等との往還の関係】

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イ 自己肯定感等を高める手立て

① 児童会活動を中心とした異年齢集団による交流活動の充実

過小規模校では異年齢集団による交流活動を設定しやすいという利点があります。そこで,

本校では,「児童会活動」を中心とした異年齢集団による交流活動を意図的・計画的に実施し,

自発的,自治的な活動の機会を増やしています。今年度は,第1回目の代表委員会で「児童会

目標」について話し合いました。それ以降の代表委員会では,児童会目標を達成するための「お

まつり」や「運動会をもりあげるかけ声」について話し合い,実践し,振り返る一連の活動を

行ってきました。このような活動を通して,上学年がリーダーシップを発揮したり,下学年が

上学年の姿を手本としたりする姿も多く見られるようになってきました。

② 教師との信頼関係を築くための取組

本校では,規範意識・自己有用感(友達との関係・教師との関係)・自己肯定感・自己実現

に関する子どもアンケートを学期ごとに実施・集計するようにしています。その分析結果の中

で,「クラスの人からほめられる」「先生からよくほめられる」の二つの項目の結果が他の項目

と比べて低い値を示していました。そこで,本校では,昨年度から『ぴかぴかスマイル大作戦』

として,「がんばりカード」の取組(子どもがボランティアや体力つくり,係活動などを頑張

っている姿を教師が称賛する取組)を継続的に実施しています。さらに,今年度は昨年度以上

に子どもたちに喜んでもらうためにオリジナルのシールを業者に発注し制作しました。シール

のデザインは,子どもたちに公募し,職員で選定しました。この活動を実施してから,教師と

子どもとの関係が深まり,子どもの頑張りを価値付けてきたことで,自己有用感が更に高まっ

てきていると感じています。

《児童会活動の例:議題「地域の人や,みんなが楽しめるようなおまつりをしよう」》

昨年度から児童会活動で「おまつり」が始まりました。そして,今年度は児童総会において,日頃

お世話になっている地域の方々も招待して,みんなが楽しめるおまつりを実施することなりました。地

域の方々への感謝の気持ちが高まってきた背景には,昨年度の児童会活動で行った「地域の方々へ感謝

の気持ちをつたえる動画」作成や,学校応援団の方々を中心として地域の方々が日頃から子どもたちを

見守ってくれていることが考えられます。

「おまつりワッショイ 2018」には,多くの地域の方や子どもたちのおじいちゃん,おばあちゃんも

参加してくださり,子どもたちとの触れ合いに笑顔がたえない様子でした。

子どもたちの事後アンケートの結果では,全員が「おまつりをやってよかった。」「地域の方に喜んで

もらえたと思う。」と回答していました。

【おまつりワッショイの様子】

【事後アンケートの一部】

【がんばりカード】

【シール台帳】

台帳は,机の横に下

げて個人で保管する

ようにしています。

【オリジナルのご褒美シール】

ご褒美シールが 10 枚

貯まると賞状がもらえ,

進級していきます。

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③ 「スキルタイム」の設定

本校では,人間関係形成能力や自己有用感・自己肯定感などを高めるために月に二度朝の活

動(15分)に,意図的・計画的にソーシャルスキルトレーニングや構成的グループエンカウン

ターなどの活動を行う「スキルタイム」を設定しています。また,規範意識・自己有用感(友

達との関係・教師との関係)・自己肯定感に関する子どもアンケートを学期ごとに実施・集計

するようにしています。その分析結果や学級の実態を考慮しながらスキルタイムの活動内容を

その都度検討し,年間計画に反映させています。また,活動内容によっては「スキルタイム」

実施の前後でも子どもアンケートを行い,短期的な子どもの変容を細かく把握するようにして

います。

【子どもアンケート結果(1学期学校平均)の一部】

【「スキルタイム」年間計画(実施分)】

「スキルタイム」の例:『よいとこビンゴ』 【活動のねらい】 ※活動内容はリーフレット参照

自分のよいところに気が付いて,自分を肯定的

に受け入れることができるようにする。

【活動の様子】

第だい

3回かい

 スキルタイムアンケート(事前じぜん

・事後じご

 次つぎ

のしつもんに答こた

えましょう。あてはまる番号ばんごう

に〇を書か

きましょう。

号 しつもんあて

はまる

だいたい

あてはまる

あまりあて

はまらない

あて

はまらない

5 4 3 2 1

16  スキルタイムは楽たの

しかった。 4 3 2

1 今いま

,自分じぶん

のこときらいだ。

 自分じぶん

にはいいところがある。

4 3 2

4 3 2 1 自分じぶん

のことは大切たいせつ

だ。

1

 自分じぶん

のことが好す

きだ。 4 3 2 1

 自分じぶん

はダメな人間にんげん

だ。 4 3 2

3

2

1

4

【『よいとこビンゴ』の事前・事後アンケート】

【子どもアンケート(一部抜粋)】

事後アンケートの結果,18名中9名の自己肯定感に関するいずれかの質問項目に高まりが見られまし

た。しかし,3名は事前に比べて低い結果になってしまいました。この結果からも分かるように自己肯

定感を高めていくためには,長期的・継続的な取組が必要です。そこで,本校では子どもアンケートの

分析結果を基に,月に二度「子どもと語る会」を朝の活動(15分)に位置付け,個別に教育相談をする

中で自己肯定感の高まりを阻む要因を探ったり,子どもの頑張りを称賛したりするようにしています。

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本校では,新学習指導要領解説の総則編において「キャリア教育の要」としての役割が示されている

特別活動の中でも,特に,学級活動「⑶一人一人のキャリア形成と自己実現」に重点を置いて指導し,

一人一人が主体的に意思決定でき,実践にまでつなげることができるように工夫・改善してきました。

ウ 学級活動⑶におけるキャリア教育の充実

① 学級活動⑶における学習過程の工夫・改善

新学習指導要領では,学級活動⑶の指導過程(資料①)が例示されています。そこで本校では,

昨年度から取り組んできている学級活動⑴における話合い活動で身に付けたスキルを生かすた

めに,「見つける」過程の後に,新たに「磨き合う」過程を位置付けました。この「磨き合う」

過程では,「見つける」過程で「なりたい自分」を追求するためにできることなどを見つけた後,

意思決定カードに仮の意思決定を書き,考えを出し合い,自分の考えを比べながら聞き,アドバ

イスしたり称賛したりする活動を行います。こうした活動を取り入れることで,「決める」過程

において,強い決意をもって個人目標や実践方法を意思決定できると考えています。

また,学級活動⑶の学習過程を子どもたちに理解させるために,各教室に学習過程表(資料②)

を掲示したり,一単位時間の学習の流れが視覚的に分かるように授業の際には黒板に各過程ごと

の短冊を掲示(資料③)したりしています。

【資料①:学級活動⑶における指導過程】 【資料②:本校独自の学習過程】

【資料③:学級活動⑶における板書の写真】

① 考えを出し合う。 ② アドバイスしたり,称賛したりする。

研究内容2 一人一人のキャリア形成と自己実現に向けた工夫

子どもから出されたアドバイスなどを教師が板書

し,「決める」過程につなげられるようにしています。

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② 年間を通して自己の成長を実感できる活動及び環境整備

学級活動⑶は,ア,イ,ウの三つの内容があるが,その中でも特に「ア 現在や将来に希望や

目標をもって生きる意欲や態度の形成」が子ども一人一人の自己実現に向けて必要な資質・能力

だと考え,授業展開を工夫し年間を通して個性の伸長を図ることができるように指導してきまし

た。

まず,全ての学級で4月当初に「学級活動⑶-ア」を実施し,個人の年間目標を設定させまし

た。その際,子どもがよりよく意思決定できるように低学年では,学校長をゲストティーチャー

として活用し教師の思いや理想の低学年像を伝えました。(写真①)中学年では,事前に保護者

アンケートを実施し,本時では保護者の願いや教師の思いをイラストや写真にまとめて伝えまし

た。高学年では,保護者の方をゲストティーチャーとして招き,直接保護者の思いや願いを伝え

てもらいました。(※詳しくは,特別活動リーフレットの学級活動⑶をご参照ください。)

次に,年間目標を達成するためのスモールステップとして,学期ごとにめあてを立てさせ,自

画像と共に廊下に掲示しました。この学期ごとのめあては,毎日自己評価させ,頑張ることがで

きためあての数だけシールを自画像に貼るようにしています。こうすることで,年間を通しての

自己の成長を実感することができると考えています。(写真②)

さらに,「スキルタイム」では学期に一度,友達の頑張りを称賛し,自己有用感を高めるため

の取組もあわせて実施しています。(写真③)

【写真①:「学級活動⑶-ア」】 【写真②:自画像と学期のめあての掲示】 【写真③:学級スキルタイム】

エ 社会参画意識を育む手立て

① 学級への参画意識が高まる係活動

従来は,仕事型(例:電気係)の係活動だったが,子

ども自らの力で学級をよりよくしていくためには創造

型(例:新聞わくわく係)の係活動(写真④)に考え方

を変えていく必要があると考えました。また,毎日帰り

の会で係活動について自己評価させることで,子どもが

驚くほど自主的,実践的に取り組むようになってきまし

た。

② 自発的,自治的なクラブ活動

本校は,第3学年からクラブ活動を実施しています。

そこで,昨年度から第1回目のクラブ活動の時間に,自

発的,自治的に活動できる内容を話し合わせ,年間計画

を立てるようにしています。そして,グループごとに担

当の教師と事前に活動計画等を打ち合わせ,子ども主体

の自発的,自治的なクラブ活動が展開できるようにし

ています。

③ 学校行事への参画意識が高まる環境整備

これまでの学校行事では,各行事の意義を子どもた

ちが把握できていないまま実施されている現状があり

ました。これでは,子どもの主体的な活動を促すこと

ができません。そこで,今年度から子どもたちが所属

感や達成感などを実感することができるように,体育

館に各行事のねらいと取組の様子が分かる写真(写真

⑤)を掲示しています。行事の前には,ねらいを確認

し,教師の適切な指導の下,子どもの主体的な活動を

促すようにしています。

【自己評価スペース】

【写真④:係活動カード】

【写真⑤:学校行事のねらいの掲示】

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〇 学級活動⑴における「話合い活動」の学習過程を工夫・改善し,全校で統一したことで,話合い

活動の進め方や発達の段階ごとの折り合いのつけ方などのスキルを着実に身に付けることができ

ています。

〇 道徳科や総合的な学習の時間などの他教科等との関連を図ることによって,子どもにとって必要

感の高い「話合い活動」を展開することができるようになってきました。

〇 児童会活動やクラブ活動等の異年齢集団による交流活動を実施し,自発的,自治的な活動の機会

を増やしてきたことで,学級・学校生活の充実に向け,子どもたちが自発的,自治的に取り組む姿

が見られるようになってきました。また,朝の奉仕活動や体力つくりなど自主的,実践的な姿も以

前より多く見られるようになってきました。

〇 子どもアンケートの結果などを基に,子どもや学級,学校の実態を的確に把握し,意図的・計画

的に「スキルタイム」を設定したり,教師との信頼関係を築くための「ぴかぴかスマイル作戦」を

実施したりしてきたことで,自己肯定感や自己有用感に関するアンケート項目全てが昨年度よりも

高くなってきています。【図表①】

【図表①:自己肯定感・自己有用感に関する子どもアンケートの経年比較の結果】

〇 学級活動⑶を中心とした自己の成長が実感できる取組を年間を通して実施してきたことで,子ど

もたちの自己実現に向けたキャリア形成の素地が育まれ,どんな困難にも柔軟に対応していく力で

あるレジリエンスが高まってきている。【図表②】

【図表②:自己実現に向けたキャリア形成に関する子どもアンケートの結果】

※平成 30年 12月実施

※図表②は,4「あてはまる」3「だいたいあてはまる」のどちらかを選択した全校平均

〇 「Q-Uアンケート」の学級満足度尺度(居心地のよいクラスにするためのアンケート)と学校生

活意欲尺度(やる気のあるクラスをつくるためのアンケート)の結果より,「学級生活満足群」13

人(72%)「学級不満満足群」1人(6%)「非承認群」1人(6%)「侵害行為認知群」3人(16%)

となり,全体的には,学級生活を意欲的に送っている子どもが多いことが分かりました。【図表③】

7 成果と課題

【図表③:「Q-U プロット図」】

※平成 30年7月実施

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● 「話合い活動」では,キーワードに沿って話し合うことで論点がずれることなく建設的な話し合

いができるようになってきました。今後も継続的に話合い活動を積み重ね,よりよい合意形成につ

なげていきたいと考えています。

● 子どもにとって必要感の高い「話合い活動」を展開していくために,意図的・計画的に教育課程

を見直し,各教科等で身に付けた資質・能力などを学級活動でよりよく活用できるようなカリキュ

ラム・マネジメントの実現に向けて指導計画を改訂していく必要があると考えています。

● 「話合い活動」や「スキルタイム」,「児童会活動」などを実施した後は,短期的に自己肯定感な

どに高まりが見られました。しかし,長期的・継続的な高まりには至っていない子どもも見られる

ことから,内容や方法を工夫し,継続的に取り組んでいく必要があると考えています。

◇ 今後も継続的に「話合い活動」を行い,そこで身に付けたよりよい合意形成のスキルなどの

資質・能力を各教科等の『磨き合う(ぴかぴかタイム)』過程等の活動に生かしていきたいと

考えています。

◇ 今後も子どもアンケートを実施し,意図的・計画的に「スキルタイム」を行い,子ども一人

一人の自己肯定感等を高め,日常生活に生かすことができるようにしたいと考えています。

◇ 異年齢集団による交流活動を工夫・改善し,子どもの自発的,自治的な活動を繰り返すこと

で所属感や達成感,自己有用感を高めることができるようにしたいと考えています。

本研究で参考にした主な文献は以下のとおりです。

・ 杉田 洋著『よりよい人間関係を築く特別活動』図書文化,2009

・ 文部科学省『小学校学習指導要領(平成 29年告示)解説 特別活動編』東洋館出版社,2018

・ 文部科学省『小学校学習指導要領解説 特別活動編』東洋館出版社,2008

・ 文部科学省 国立教育政策研究所 教育課程研究センター

『楽しく豊かな学級・学校生活をつくる特別活動 小学校編』文溪堂,2017

・ 文部科学省 国立教育政策研究所 教育課程研究センター

『みんなで,よりよい学級・学校生活をつくる特別活動 小学校編』2018

・ 鹿児島市立田上小学校『よりよい生き方と未来を拓く子どもの育成Ⅲ』2012

・ 鹿児島県小学校教育研究会特別活動部会

『学級経営が楽しくなる!学級担任の知恵袋CD』2016

・ 西宮ライフスキル研究会著

『自己肯定感がぐんぐんのびる 45の学習プログラム』合同出版株式会社,2012

8 今後の取組

9 参考文献

研 究 同 人 校 長 池 田 正 清 教 諭 菊 永 裕 美

教 頭 奥 野 裕 樹 講 師 村 田 礼 央

教 諭 前 田 久 之 養護教諭 大 迫 じゅん

教 諭 池 上 ひとみ 事務主幹 上 原 哲 郎

教 諭 齊 藤 禎 修 学校主事 武 元 誠

教 諭 内 野 裕 太 司 書 補 中 原 直 美

旧 同 人 徳 之 島 町 教 育 委 員 会 星 原 貴 光

霧 島 市 立 小 野 小 学 校 教 諭 山 下 純 弥

鹿児島市立中名小学校 教 諭 﨑 田 隆 夫

南九州市立別府小学校 事務主査 宮 原 恵

南九州市立宮脇小学校 支援員 西 岡 直 美

退 職 金 里 多美子