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特集 調査季報 vol.176・2015.3 ■ 54 《7》 退

特集 - Yokohama...特集 調査季報 vol.176・2015.3 54 《7》横浜が進めるオープンイノベーション〜対話と創造 若者の力をオープンイノベーションに活かす

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特集

調査季報 vol.176・2015.3 ■ 54

横浜が進めるオープンイノベーション〜対話と創造

《7》 

若者の力をオープンイノベーションに活かす

 〜中期4か年計画のデータを用いたユースハッカソンを題材に

① インタビュー「若者の人材育成とIT教育」

【長谷川】 

横浜市では、現在

オープンデータの取組を進め

ていますが、その一環として、

若者を対象としたユースハッ

カソンなどを開催してきまし

た。この中で若者たちが、投

票率向上のためのアプリの開

発や、インフォグラフィック

スによりハザードマップの情

報をよりわかりやすく伝える

作品などを制作しました。今

後とも、オープンイノベー

ションを担う未来の人材を育

てるためのこのような活動を

後押ししていきたいと考えて

います。

DeNAでも、佐賀県武雄

市での小学校と連携したプ

ログラミング教育の取組な

ど、人材育成などの視点から

CSRに積極的に取り組んで

いらっしゃいますが、まずは

DeNAのCSR、あるいは

広い意味での社会貢献につい

て、お考えをお聞きします。

【南場】 

CSRというと非営

利というイメージがあると思

いますが、DeNAでは本業

で成功することがそのまま世

の中に貢献する企業となるこ

とを目指しています。

例えば、最近始めたのは、

ヘルスケア、未病に関する事

業です。これは、神奈川県や

横浜市も、行政が非常に熱心

に取り組んでらっしゃいます

ように、DeNAも、これが

成功すれば世の中がよくな

る、という想いで事業に取り

組んでいます。この事業を通

じて、セルフメディケーショ

ン、つまり自分が自分の健康

のオールを握るというような

社会を築いていきたいと思っ

ています。

他にも、武雄市では、公立

の小学校と協力して、将来

の日本を担っていく子ども

たちに向けたプログラミン

グ教育を行っています。これ

は、いままでの教育システ

ムのような「間違えない達

人を量産する」というので

はなく、それぞれが持つ創

造性を、リアルの場でもネッ

トの場でも表現できるよう

な人間に育ってほしいとい

う想いから生まれました。

ICTのスキルというのは、

あらゆる産業の改革に関連

してくるでしょう。これも、

いずれは収益化する方向に

持っていきたいと思ってい

ます。

それから、スポーツです。

DeNAは若々しい会社で、

この若々しさと負けず嫌いさ

が、とてもスポーツとフィッ

トする社風だと思います。横

浜DeNAベイスターズの経

営やDeNAランニングクラ

ブのように、スポーツで世の

中を明るくしていくというこ

とですね。それらをいわゆる

「CSR」だと片づけてしま

わずに、経営のプロとして利

益を出していくということも

社会貢献だと思います。例え

ば、球団の延長線上で地域と

密着した活動ができればいい

なと思いますし、拠点がある

ところで、スポーツを活用し

て、明るくはつらつとしたエ

ネルギーを拡げていけるよう

な会社になりたいと考えてい

ます。

【長谷川】 「オープンイノ

ベーション」という発想につ

いては、どのような印象をお

感じになりますか。

【南場】 

定義にもよると思い

ますが、DeNAでは、プロ

ジェクトチームの中にDeN

Aの社員しかいない、という

ことはほとんどないんです。

それぞれのプロジェクトに必

要な専門スキルを持った人

を、会社の外からダイナミッ

南場 

智子

株式会社ディー・エヌ・エー (D

eNA)取締役 

ファウンダー

1986年、津田塾大学卒業後、マッ

キンゼー・アンド・カンパニーに入

社。1990年、ハーバード・ビジ

ネス・スクールにてMBAを取得し、

1996年、マッキンゼーでパート

ナー(役員)に就任。

1999年に同社を退社して株式会

社ディー・エヌ・エーを設立、代表

取締役社長に就任。

2011年6月、取締役就任(現任)。

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55 ■ 特集・横浜が進めるオープンイノベーション〜対話と創造

クに入れて、イノベーション

を起こしていくという考え方

なのです。ですから、オープ

ンイノベーションという考え

方は定着していると思いま

す。

【長谷川】 

横浜市が先般策定

した「横浜市中期4か年計画

2014〜2017」におい

ても、行政だけでなく、市民

や企業の皆さんとの連携によ

る「オール横浜」で不可能を

可能にしていく、ということ

を謳っています。

それを実現するためのポイ

ントの一つとして「対話によ

る創造」を掲げておりまし

て、具体的には、地域の活動

や課題の視える化やクラウド

ファンディングなどのプラッ

トフォームである「ローカル

グッドヨコハマ」という活動

が、NPOや企業が中心と

なって立ち上がるといった動

きがあります。市としてもこ

のような取組に様々な方々を

巻き込んでいくことで、オー

プンイノベーションの基盤を

造っていきたいと思っていま

す。

【南場】 

そうですね。行政

の役割というのも重要です

が、税金や予算をどう分け

るかという枠組みだけだと、

なかなか永続的な運動にな

らない。むしろ、営利的な営

みにするということは、そ

れをどんどん大きくしてい

くという良循環を発生させ、

分けてもらう、分け与える

というのではなく、互いに

協力して価値を生み出すビ

ジネスメカニズムを創りだ

すということです。

関わっている民間企業が、

少しずつでも何かを得られ

るようなメカニズムを構築

するという点で、オープン

イノベーションは大事だと

思います。国の省庁などは

大きな予算を扱っているわ

けですが、分け与えるとい

うものと創り出すというこ

とは、根本的に違うことな

んですね。

【長谷川】 

冒頭に仰ったヘル

スケアもイノベーションが必

要な分野だと思いますが、そ

こに着目されたのはなぜです

か。

【南場】 

私の場合は個人的な

経験で、夫が重い病気になっ

たのですが、当初は対応で精

いっぱいだったのですが、少

し落ちついてくると「なぜ病

気にしてしまったのか」とい

う気持ちが後悔となってきま

した。自分自身でなく家族が

病気になったことで、何かし

なければと思ったのです。幸

い状況が落ち着いて自分も会

社に復帰できるようになり、

やはり事業を起こそう、と。

【長谷川】 

ご自身の経験から

来たものなのですね。

【南場】 

自分の個人的な経験

を事業や仕事に結びつけるこ

とができるというのは、恵ま

れているな、と感じています。

個人的な辛い経験が、今では

自分の軸になりつつあります

ね。

【長谷川】 

ご著書にもお書き

になっていますが、ご家族と

の闘病生活を通して、多様性、

あるいは世の中には様々な事

情を抱えた人がいるのだとい

うことをお感じになられたと

思います。

この「多様性」は非常に重

要な視点で、オープンイノ

ベーションを進めるためにも

大事な要素かと思いますが、

会社として人材の多様性につ

いてはどのようにお考えです

か。

【南場】 

人材の多様性とい

うと、よく性別の話になり

ますが、国籍やライフステー

ジといった違いもあります。

他の企業や行政と比べて当

社が多様性があると思うの

は、新卒で入社してくる人も

いれば、元役所の人もいる、

元大企業の人もいる、自分

で会社を成功させた人、自

分で会社を潰した人、いろ

んな人がいます。その中で、

自分が家族の病気という経験

の前は「仕事第一」「全員が

仕事に貪欲だ」というような

価値観でいたんです。でも、

そうでない人であっても、そ

の人の状況に合わせた仕事を

することはできる。ある人は、

病気で休んだあと復帰はして

いるが、まだ治療が残ってい

るから時短にしたい、とか。

一方で、手術で完治したので

時短は必要ない人もいる。同

じ病気だったとしても、全然

違うこともある。親が介護が

必要だと言っても、近くに兄

弟がいるのといないのでは、

負担が変わってくる。

ですから、あまり制度をが

ちがちに作るのではなく、そ

れぞれの人がそれぞれの状況

に応じて仕事を続けていける

ような制度であるべきと思い

ます。その人の経験は必ず、

サービスの改善やマネジメン

トの力量など会社にプラスに

なってくる。

【長谷川】 

どんな状況になっ

インタビュアー

長谷川 

政策局担当理事

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調査季報 vol.176・2015.3 ■ 56

ても仕事を続けていけるよう

な環境を作り出すというの

は、議論としてはよくわかり

ますが、実行するのはなかな

か難しいことと思います。

【南場】 

そうですね。DeN

Aも制度は制度として作りつ

つ、運用で幅を持たせたいと

思っています。

【長谷川】 

いよいよ我が国で

も、多様性を許容し、様々な

バックグラウンドを持った人

たちのチームでイノベーショ

ンを興し、課題解決に取り組

んでいこうという文化が生ま

れつつあるようにと思いま

す。と

ころで、先ほどもご紹

介をいただきましたが、イ

ノベーションの視点からの

子どもや若者に対する教育

の在り方について伺います。

特にICT教育の充実は必

須だと思いますが、いかが

でしょうか。

【南場】 

おっしゃる通りで

す。ネット市民と言われる人

もいれば、全くネットを使わ

ない人もいますが、多くはそ

の間にいて、仕事でリアルの

時間を過ごした後、すぐに

ネットの世界に入っていく。

ネット空間で消費する時間は

意外と多くて、そのシェアが

今どんどん大きくなる方向に

あります。そうなると、リア

ルの世界で活躍できるだけで

なく、ネットの世界でも活躍

できる人材になっていかない

と、活躍できる領域が狭まっ

ていく。世に与えるインパク

トも半分になっていくので

す。こ

れからの子どもたちには

ICT教育を、ユーザーとし

てだけでなく、できればそこ

で自分の考えを何かを作るこ

とで発表したりできるような

プログラミングスキルをある

程度は持っている人材でない

と、活躍できる領域が狭まっ

ていってしまうと思います。

【長谷川】 

これまでであれ

ば移動中などの「スキマ時

間」は読書などをしていたと

ころ、今はスマートフォンに

置き換わっている人も多いと

思います。そこに広大なマー

ケットや活躍のチャンスがあ

るという意味でもICT人材

の育成は重要と思いますが、

ICT教育の中核はプログラ

ミングということになるので

しょうか。

【南場】 

そうですね。全員

がプログラマーになる必要

はないのですが、プログラ

ミングの一定の素養がある

と活躍の領域が広がると思

います。与えられたものの

利用者ではなく、何かを創

造する武器を持つことにな

るわけです。また、他にも

プログラミングはいろいろ

なことを教えてくれます。

例えば、答えはひとつでは

ないということとか、世界の

人たちと共同作業ができると

か。みんなでひとつの共同作

業をすれば、必ずその中で

リーダーシップをとったり、

ルールを決めたり、コミュニ

ケーションをとったり、いろ

いろなことを学ぶことができ

ます。また、プログラミング

スキルをみながある程度の素

養として持つようになると、

その中から一握りの天才も出

てくるかもしれません。

【長谷川】 

すそ野が広がるこ

とによって、天才が出てくる

可能性も上がるということで

すね。

【南場】 

プログラマーになら

なかったとしても、素養があ

れば、教育者や医者や音楽家

でも、ちょっとツールが作れ

る、あるいは、発想できると

いうことで、教育の改革とか、

医療の改革とか、作曲の工夫

とか、自分が得意な領域でI

CTを用いた

ら何ができる

のか、という

ことがわかる

ことだけでも、

全然違ってく

ると思います。

【長谷川】 

CTに関する

理解を持つ人

材が増えるこ

とは、これま

でICTの活

用が十分とは

いえない様々

な分野でのイ

ノベーション

にもつながりますね。ところ

で、武雄市でのプログラム教

育の手ごたえはいかがです

か。

【南場】 

手ごたえは、もの

すごくあります。先日、児童

の作品発表会に参加して感

動で泣きそうなくらいだっ

たのですが、小学校1年生

を対象にしたもので、たっ

た8回の授業、そのうち発

表の準備などもあったので、

プログラミングを教えたの

は、正味40分の授業が4回く

らいだったのですが、全員が

自分たちの絵を使ってアニ

メーションやゲームを作っ

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57 ■ 特集・横浜が進めるオープンイノベーション〜対話と創造

たのです。発表のあと児童

に聞いてみたところ全員が

「もっとやりたい」と。とて

も素晴らしくて、発表会で

は保護者から歓声が上がっ

ていました。本当に、「やっ

てよかった」と感じました。

今回は収益化という面では

期待しないで実施しているの

ですが、公的なところに加

わってやっているということ

で、他からの引き合いがいく

つかあります。少しずつビジ

ネスになるかな、と感じてい

るところです。

【長谷川】 

今回も独自の教材

や開発ツールなどを作られて

いますが、ビジネスの方向性

としては、これらを横展開し

ていくということですか。

【南場】 

教材の販売と教え方

の両方を展開するイメージ

です。説明の仕方や分担など

も、担任の先生と「この教え

方なら大丈夫だ」というとこ

ろまで綿密にやったのです

が、それが宝物になりました。

【長谷川】 

子どもたちへの教

育という点では、学校の先生

はプロフェッショナルですか

ら、ICTのプロフェッショ

ナルであるDeNAとのコラ

ボレーションによってICT

教育のイノベーションが起き

たということですね。

【南場】 

まさに、オープンイ

ノベーションですね。

【長谷川】 

ICT教育につい

ては、プログラム以外の要素

もあると思いますが、いかが

でしょうか。

【南場】 

安全面を除く利用の

部分については、何もしなく

ても大丈夫だと思うんです。

例えば、友達の写真を撮って

アップするとか、SNSとか

は、教えなくても自分たちで

やっていく。でも、プログラ

ミングを教えないと、利用に

偏ってしまうと思うのです。

または、飲み込まれてしまう

こともありうる。

ゲームなども、結局人間が

作っているものなんだ、とい

うことがわかると、利用だけ

する側から、つくる側にシフ

トできる。放っておくと利用

に偏ってしまうので、プログ

ラミングやコンピュータの構

造を教えることが大事だと思

います。

【長谷川】 

単に消費する側で

はなく、自ら創造する側にな

る可能性を開いていくという

ことですね。

消費者という面では、SN

Sなどが子どもや若者に悪影

響を及ぼしているという議論

も絶えません。子どもたちが

ICTの負の面に陥らないた

めに、これまでもご苦労され

ていると思います。

【南場】 

ICTに対するヒス

テリックな反応は、2006

〜2007年くらいをピーク

にずいぶん減ってきていま

す。ネットで何か悪いことを

しようとしている人が減って

いるわけではなく、親の世代

がネットをかなり使いこなし

ている人たちになってきて

いるのです。見えないもの、

わからないものだから怖い、

という世代ではなくなって、

知っているということが意味

のない恐怖心を取り除いて居

るのですね。

ただ、どうしても、悪いこ

とする人はゼロにはならない

し、欲しい、買いたいという

誘惑も、リアルの世界でも

ネットの世界でも、自分の気

持ちを抑制することを同じよ

うに覚えていかないといけな

い。それは乗り越えていくべ

き課題として、落ち着いて対

処していくものですが、当時

はかなり社会の反応が過剰

だったのです。今はかなり成

熟して、どう身を守るかとい

う健全な方向に動き始めてい

るのかなと思います。事業者

側も自覚が出てきています。

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調査季報 vol.176・2015.3 ■ 58

で、創造的な経験ができたの

ではないでしょうか。

【長谷川】 

オープンイノベー

ションを進めるという視点か

らの子ども・若者に対するI

CT教育のポイントは、どの

ようなものがあるでしょう

か。

【南場】 

やはり、ICTを用

いて自分を表現していくこと

に力を入れてほしいと思いま

す。横

浜市は巨大な都市で、人

口構成の変化などいろいろな

課題を世界に先駆けて経験す

る都市なので、課題を解決す

る力や解決に向けてみんなの

エネルギーを高めていける

リーダーを創っていかなけれ

ばなりません。その時に、答

えはひとつしかないというよ

うな教育ではなく、ICTを

用いて感動を共有するとか、

バックグラウンドの違う人た

ちと力を合わせて大きな問題

を解決するといったことにつ

ながるような取組が必要だと

思います。

もちろん、プログラミング

も表現の術となりますし、そ

ういう文脈の中でICT教育

を強化していければよいと思

います。

【長谷川】 「リーダー」「力を

合わせて」「問題解決」といっ

たキーワードを挙げていただ

きました。「力を合わせて」

というのは「チーム」あるい

は「プロジェクト」とも言い

換えられるかと思いますが、

学校教育の世界では、例えば

テストは自分一人で解答する

わけですが、実際の社会では

一人の力で解決することはほ

とんどなくて、多くの人たち

とチームやプロジェクトを組

んで解決しているわけで、学

校の現場でもいろいろ苦労は

あるでしょうが、チームで課

題を解決するという機会があ

まりないように思います。

【南場】 

横浜は国際的な都市

で、バックグラウンドの異な

る人たちが集まる場所といえ

ます。そういうところでひと

つのうねりを作っていくこと

ができる若者を育成していた

だきたいなと思います。

【長谷川】 

次のキーワードと

して、「リーダー」というお

言葉もありましたが、リー

ダーシップというのは、今ま

での日本の教育ではあまり求

められていなかったように思

います。

【南場】 

アメリカの小学校で

は、例えば自分の大事な物に

ついてみんなの前で発表した

りして、リーダーシップのた

めの教育がされていたりしま

す。自分の意見を大人のマ

ナーでしっかりと伝えて共感

を得るという力を持っている

人がたくさんいるのです。自

らの考えを持つということ

が、大人として必須条件とい

うことが叩き込まれているの

ですね。

【長谷川】 「問題解決」につ

いては、今まで我が国では、

課題はあらかじめ決まってい

て、それをどう解決するかと

いうアプローチが一般的でし

たが、世界が複雑化・多様化

した現在、むしろ何が課題な

のかを自ら発見する「課題発

見・設定能力」が今の日本に

求められるスキルだと思いま

すが、いかがでしょうか。

【南場】 

問題の根源やそれが

本当に問題なのかということ

を考える力が重要で、イン

ターネットの発達により知識

を持つことはあまり必要でな

くなって、それによって余裕

が生まれた時間と能力を、本

質を見極めることに使える環

境になってきています。

【長谷川】 

南場さんはかつて

【長谷川】 

事業者側の対応も

大いに効果があった一方でI

CTを活用したサービスが社

会に受け入れられ、人々のリ

テラシーも高まった部分もあ

るということですね。

【南場】 

それに助けられた部

分もありますね。

【長谷川】 

そのような社会の

変化を踏まえると、これか

らの社会を担う若者の世代

が、習得したICTのスキル

を社会的に活用していくよう

に方向付けるための仕掛けづ

くりが、とても大事なことだ

と思っています。今年1月に

は、市立サイエンスフロン

ティア高校や横浜情報科学専

門学校、東京都市大学の学生

などの若者を対象に26年10月

から実施してきたアイデアソ

ン・ハッカソン・データビ

ジュアライゼーションを総括

する「横浜ユースフォーラム」

が、民間企業の皆さんにも協

力いただきながら開催されま

した。

【南場】 

行政のオープンデー

タは使ってこそ価値があるの

で、若者のアイデアを活用す

るのは、とても良いと思いま

す。ア

イデアを具現化する過程

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59 ■ 特集・横浜が進めるオープンイノベーション〜対話と創造

コンサルタントとして課題の

設定や解決策を考えるプロ

フェッショナルでいらしたわ

けですが、課題を把握したり、

解決したりする力を高めるに

はどうしたら良いのでしょう

か。

【南場】 

コンサルタント時代

の上司の大前研一さんから学

んだこと、それは、一般に言

われていることをすべからく

疑え、ということです。みん

なが同じことを言っているよ

うな時には、本当にそうなの

かを考えてみる。「本当にそ

れがいいのか、今でもいいの

か、自分たちにとっていいの

か」と、ちょっと突っ込んだ

質問をしてみて考えてみる。

これは自分でもエクササイズ

できることですよね。訓練と

いうよりも、心がけでしょう

か。

【長谷川】 

最後に、これから

南場さんが特に力を入れてい

きたいことをお聞かせくださ

い。

【南場】 

まずは、ヘルスケア

です。今のところ収益を上げ

るような事業にはなっていま

せんが、今後は収益を上げて

いくと同時に、それが医療費

の削減、そして個々人の幸せ

につながるような、シックケ

ア―病気になってからではな

く、ヘルスケア―病気になる

前に健康を維持していくよう

な社会を創っていきたいと

思っています。個人が自らの

健康維持のために、自分の情

報を把握し、自分にとって何

が良いのかを判断し、行動し、

管理していく、そんな社会を

実現していくことが私たちの

次の柱だと思っています。

また、プログラミング教育

はとても有意義だと思います

し、その有効性についてどん

どん確信が強くなってきてい

ますので、しっかりとやって

いきたいですね。

【長谷川】 

健康づくりは、個

人、企業、国や自治体すべて

にとってメリットがあります

し、ICTを活用したイノ

ベーションの可能性が高い分

野ですので、大いに期待して

おります。

本日はありがとうございま

した。