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博士論文 近赤外線分光法を用いた重症心身障害児・者に対する 視覚機能評価と生活状況との関連 Correlation between the assessment for visual functions in persons with severe motor and intellectual disabilities using a technique of near-infrared spectroscopy and their life situations 札幌医科大学大学院保健医療学研究科 博士課程後期 理学療法学・作業療法学専攻 感覚統合障害学分野 中村 裕二 Nakamura Yuji

Correlation between the assessment for visual …...2 覚的定位を生じさせ、注意を向けることができることは後の認知発達に とって多大な影響を及ぼすと推察される。我々の調査6

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博士論文

近赤外線分光法を用いた重症心身障害児・者に対する

視覚機能評価と生活状況との関連

Correlation between the assessment for visual functions in persons with

severe motor and intellectual disabilities using a technique of near-infrared

spectroscopy and their life situations

札幌医科大学大学院保健医療学研究科 博士課程後期

理学療法学・作業療法学専攻 感覚統合障害学分野

中村 裕二 Nakamura Yuji

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目次

Ⅰ はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

Ⅰ -1 研究背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

Ⅰ -2 研究目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

Ⅰ -3 研究仮説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

Ⅰ -4 用語の定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

Ⅰ -5 先行研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

Ⅱ 研究方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

Ⅱ -1 対象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

Ⅱ -2 評価手段・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

Ⅱ -2-1 視覚課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

Ⅱ -2-2 施設職員による生活特徴に関する評価・・・・・・・・ 8

Ⅱ -3 実験機器と実験環境・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

Ⅱ -4 分析方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

Ⅱ -4-1 視覚課題に対する観察評価・・・・・・・・・・・・・ 9

Ⅱ -4-2 視覚課題中の脳血流評価・・・・・・・・・・・・・・ 9

Ⅱ -4-3 生活特徴に関する評価・・・・・・・・・・・・・・・ 10

Ⅱ -4-4 統計分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

Ⅱ -5 倫理的配慮・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

Ⅲ 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

Ⅲ -1 健常成人・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

Ⅲ -2 視覚課題 1 に関して・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12

Ⅲ -2-1 観察評価とこれに基づいた群別の発達月齢、生活特徴・ 12

Ⅲ -2-2 観察評価に基づいた群別の脳血流評価・・・・・・・・ 12

Ⅲ -2-3 脳血流評価別にみた発達月齢、生活特徴・・・・・・・ 13

Ⅲ -3 視覚課題 2 に関して・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14

Ⅳ 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14

Ⅳ -1 健常成人における oxy-Hb 変化 ・・・・・・・・・・・・・ 14

Ⅳ -2 重症児・者に対する観察評価と oxy-Hb 変化の関係 ・・・・ 15

Ⅳ -3 発達月齢および生活特徴と各視覚機能評価との関係・・・・ 16

Ⅳ -4 視覚刺激の違いが視覚反応に与える影響・・・・・・・・・ 17

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Ⅴ 研究の限界・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19

Ⅵ 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19

謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20

文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20

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Ⅰ はじめに

Ⅰ -1 研究背景

近年、障害児療育や特殊教育の領域で、対象となる子ども達の障害の

重度・重複化が指摘されている

1 , 2)。重症心身障害児・者(以下、重症

児・者)と行政的な括りがされている重度の障害を持つ障害児・者にお

いても、超重症児と呼ばれる最重症の対象者が増えてきている現状にあ

る。重症児・者は、脳性麻痺などの運動障害に重度精神遅滞を合併して

おり、在宅や施設において作業療法の対象となる。その多くは、寝返り

や歩行等の移動機能の未獲得、言語理解や表出が困難といった症状を呈

し、生活全般を介助によって過ごしている。実際、重症児・者の障害程

度分類法である大島の分類

3)において運動機能として寝返りが不可能で、

知能は IQ20 以下とされる「分類 1」に属する者が全体の 4 割におよぶ 4)との報告もあり、これらの対象者に対する適切な支援の方法の確立が強

く求められている。しかし、これらの対象者は表情の表出や上肢の動き

も障害されている場合が多く、環境へ自ら働きかけることや療育者との

意思の確認が困難なことも多い。そのため、支援を行う上での基礎とな

る発達状況や知的機能の評価が困難となり、対象者の能力に応じた支援

内容の決定がし難い現状にある。筆者らは入所型施設において施設職員

がどのような関わりを重症児・者に対して実施しているのかを調査し

5)、

受け身的な感覚刺激を提供する遊びが多く実践されていることを報告し

た。しかし、これらの支援は経験的に行われている場合が多く、反応が

乏しい児・者に対してテレビの視聴や本の読み聞かせ等を一方的に行う

など、個々人の発達段階に適した関わりが行われているとは言い難い現

状にあることが明らかになった。また、大島の分類で「分類 1」に属す

る重症児・者の生活特徴を調査した報告では、彼らの生活特徴は反応が

乏しく視覚的な定位がみられないものから、介護に協力したり製作活動

を実施したりするものまで多様であった

6)。つまり大島の分類で「分類

1」と判定されている対象者でも、発達的には様々な能力を有する者が含

まれていることが推察される結果であった。このように、重症児・者の

中核を占める大島の分類で「分類 1」に属する重症児・者であっても、

その生活特徴は多様であり、その背景にある能力も個人差が大きいと考

えられる。しかしながら、療育の現場では画一的な支援が行われている

傾向にあり、実際の能力に支援内容が見合っていない事態にある。この

様な現状において、重症児・者の生活特徴の違いを引き起こす能力差を

明確にすることは、日々の生活支援や乳幼児期からの治療的介入に有用

な指針を提供する可能性があると考えている。

これまでに、重症児・者の生活を特徴付ける遊びやコ ミュニケーショ

ンには感覚運動的知能や注視・追視機能の発達が深く関与していること

が報告されている

7 , 8 )。特に、重症児・者が自ら外界の刺激に対して視

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覚的定位を生じさせ、注意を向けることができることは後の認知発達に

とって多大な影響を及ぼすと推察される。我々の調査

6)においても、視

覚刺激に定位し、刺激を記憶した後で注意をそらすこと(馴化)が可能

な重症児・者は、そうでない重症児・者と比較して発達月齢や生活能力

が高いことを認めている。また、重症児・者への新しい療育理念として、

視覚刺激などの感覚刺激を分かりやすく物理的に配置することで、重症

児・者の活動性を促したりリラクゼ ーションを図ったりすることを目的

とした環境設定が注目されている

9 , 1 0)。実際にその環境設定の一つであ

る Snoez e l en や Mul t i - s enso r y Env i ro nmen t と呼ばれる特別な環境下では、

探索行動の増加や注意の持続を生じる重症児・者が多いことが報告され

ている

1 1)。よって、視覚的定位や注意の持続が困難な重症児・者におい

ても、刺激の種類や提示方法を工夫することで日常生活や訓練場面にお

いても視覚的探索行動を生起し易くさせる可能性がある。よって、重症

児・者の個別性を配慮した療育を実施していくためには、重症児・者の

示す能力差の一つとして考えられている視覚的定位や注視能力に対する

評価を正確に行うことや、これらの能力を促すアプロ ーチ方法の確立が

必要であると考えている。しかし、重症児・者では、頚部の不安定さや

覚醒水準の低さなどにより外界への注意喚起が乏しいことに加え、療育

者にとっても、重症児・者の持つ視力障害や眼振・斜視などの眼球運動

障害により正確に視覚的定位や注視を評価することが困難な場合が多い。

また、大江

1 2)は、重症児・者の視覚機能の評価法に関して視覚選好法、

STYCAR 法、視運動性眼振法を挙げているが、どの評価法も評価者の観

察による眼球運動評価を要し、多くの重症児・者に適応させる上では困

難さを伴う。そのため、眼球運動の観察以外の方法で、重症児・者が示

す視覚的定位や注視能力を定量的に示すことができる生理学的指標の確

立が必要である。また、より多くの重症児・者に適応することが可能な

生理学的評価指標を確立することは、生活の中で提示される様々な刺激

を見ているのか否かを明確にし、視覚機能に関する個別性に配慮した療

育支援計画に繋がると考える。

近年、視覚刺激に対する応答を捉える客観的な指標に関し、近赤外線

分光法( Nea r- In f r a red Sp ec t rosc op y; N IRS 法)を用いた研究が散見され

ている

1 3 - 1 7)。 N IRS 法は、皮膚や骨に対して高い透過性を有する近赤外

光を用いて、非侵 襲的に血管内ヘモ グロビン、筋肉内ミオグロビン、ミ

トコンドリア内チ トクロームオキシ ダーゼの濃度変化を測定する方法で

ある。本法は、生体組織の酸素化状態を直接モニターする方法として研

究・開発が進められてきたが、脳神経活動に対応した血流の変化も捉え

ることができ、近年新しい脳機能イ メージング法として世界的に注目さ

れている。この方法は、非侵襲的で、リアルタイムな測定が可能、安価

であるなどの利点を持つとされる。その原理は神経活動時の局所脳循環

代謝に基づいている。即ち、神経活動時には活動部位の局所脳血流が上

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昇するが、酸素消 費率はわずかな上昇に止まるため、脳組織中の酸素化

ヘモグロビンの上昇が神経活動の一指標となることを測定原理としてい

る。 Ka to ら 1 8)は N IRS 法を用いて初めて健常成人における後 頭 葉視覚

野の活性化を捉えた。彼らは提示する刺激として閃光刺激を用い、刺激

提 示 後 す ぐ に 後 頭 葉 視 覚 野 に お け る 血 中 の 酸 素 化 ヘ モ グ ロ ビ ン 濃 度

( ox y- Hb)が増加し、刺激消滅後はすぐに ox y- Hb が減少することを報

告し、脳血流評価における N IRS 法の有効性を提言している。その後、

乳児を対象とした研究

1 9 - 2 1)においても、視覚刺激を注視することで後

頭葉視覚野における ox y-Hb の増加が生じることが確認されている。視

覚刺激に対応して後頭葉視覚野の脳血流が増加するという指標は、観察

からは視覚機能を評価することが困難な重症児・者に対する視覚機能評

価指標として使用できる可能性がある。しかし、重症児・者の視覚刺激

に対する応答を捉える目的で N IRS 法を用いた研究は少ない。

これまで、重症児・者に対する視覚機能の評価は観察が主であったた

め、視覚機能の発達状況が不明確な重症児・者が多く存在する。この様

な重症児・者に対しては、療育活動として受動的な関わりが行われるこ

とが多く、周囲との関わりが画一化したり減少してしまう傾向にある。

また、刺激に対して馴化する能力は後の認知発達と関係があるといわれ

ているが、行動観察によって判定した馴化能力評価が重症児・者の発達

月 齢や生活特徴を正確に反映しているのかは不明な点も多い。更に、

Snoez e l en 等で用いられることが多いコ ン ト ラ ス トが明確で動きのある

視覚刺激に対する重症児・者の視覚応答行動も観察により評価されてき

ており、客観性に乏しい現状にある。そのため、重症児・者の視覚機能

評価において、従来から行われている観察評価に加え N IRS 評価を実施

することで、これらの問題点を改善することが可能であると考えている。

具体的には、N IRS 評価を併用することで、視覚刺激に対する反応が不明

確な児の視覚機能を検討できる、ox y-Hb 変化に基づいた視覚機能評価が

重症児・者の発達月齢や生活特徴を反映する指標となると考えている。

さらに、刺激特性の違いが重症児・者の刺激に対する反応と脳血流動態

に与える影響を検 討することによって、重症児・者にとって注意を促し

やすい刺激や生活環境、リハビリテーションプログラ ムを考案していく

ことに繋がると思われる。

Ⅰ -2 研究目的

本研究では、重症児・者の視覚刺激に対する定位や注視の持続能力を

観察評価法および N IRS 法を用いて評価し、それぞれの評価の有用性を

発達月齢や生活特徴との関連から明らかにすることを目的とする。さら

に、提示する刺激特性の違いが重症児・者の反応と脳血流動態に与える

影響を明らかにすることを目的とする。具体的には、以下の点を検討す

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る。

1 . 観察評価から得られる重症児・者の視覚機能と発達月齢や生活特徴と

の関連を示し、従来から指摘されている視覚機能と認知発達との関連

を検討する。

2 . 同様に、 N IRS 評価から得られる重症児・者の視覚機能と発達月齢や

生活特徴との関連を示し、重症児・者の認知発達を反映しやすい視覚

機能評価法を検討する。

3 . 観察評価から視覚機能を評価することが可能であった群の脳血 流 変

化パターンを明らかにし、これを基準に観察からは評価することが困

難であった群の視覚機能を検討する。

4 . 刺激の種類の違いが、視覚刺激に対する反応や脳血流動態に及ぼす影

響を明らかにし、視覚的注意を促しやすい生活環境を検討する。

Ⅰ -3 研究仮説

1 . 重症児・者の視覚機能と発達月齢や生活特徴には関連がみられる。

2 . 脳血流評価は、重症児・者の発達月齢や生活特徴をより反映する視覚

機能評価法となる。

3 . 観察評価に加え、脳血流評価を実施することで、観察からは不明確な

重症児・者の視覚機能をより客観的に評価することができる。

4 . 提示する刺激特性の違いが、重症児・者の視覚刺激に対する行動や脳

血流動態に影響を与える。

Ⅰ -4 用語の定義

1 .重症心身障害児・者

昭和 41 年に出された厚生省次官通達によると、「身体的・精神的障害

が重複し、かつ、それぞれの障害が重度である児童および満 18 歳以上の

もの」と定義されている。また、児童福祉法第 43 条の 4 のなかで、「重

度の知的障害及び重度の肢体不自由が重複している児童」を重症心身障

害児と定義している

2 2)。

2 .大島の分類

昭和 30 年代から東京都衛生局の技 官として重症心身障害児福祉施策

に携わっていた大島一良が、都立府中療育センター開設時に入所者を選

定する基準として作製した重症児・者の障害程度の分類を表すもの。現

在、研究や論文の中で重症心身障害児を規定する場合は、文部科学省の

分類または大島の分類が使用されている

3)。

3 .定位反応

刺激の種類を問わず、新たな刺激の提示、刺激に何らかの変化があれ

ば生じるもので、耳をそばだてる、刺激の方に眼や頭を向ける、自律反

応に変化が生じるなど多くの成分からなっている

2 3)。本研究では、視覚

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刺激に対して眼球や顔を向けることを視覚的定位とする。

4 .注視

眼球停留あるいは固視とも呼ばれ、眼球を刺激対象に向けて停止させ

て見ることをいう

2 4)。

5 .近赤外線分光法( N IRS 法)

先に述べたように 、N IRS 法は、皮 膚や骨に対して高い透過性を有する

近赤外光を用いて、非侵襲的に血管内ヘモグロビン、筋肉内ミオグロビ

ン、ミトコンドリ ア内チトクローム オキシダーゼの濃度変化を測定する

方法である。その原理は神経活動時の局所脳循環代謝に基づいている。

即ち、神経活動時には活動部位の局所脳血流が上昇するが、酸素消費率

はわずかにしか増加しないため、脳組織中の酸素化ヘ モグロビンの上昇

が神経活動の一指標となることを測定原理としている

1 3 - 1 7)。

6 . Snoez e l en

1970 年代、オラン ダの重度の知的障害児施設で生まれた療育理念であ

り、「重い障害を持つ人々が受け入れやすい感覚刺激を提供し、障害を持

つ人々が自分自身の時間を自分自身の選択で持ち、介護者は同じ人間と

して刺激を楽しみ、互いの感じ方や喜びを共有する」というもの。特徴

的な取り組みの一つとして、障害児が感じやすく、楽しみやすい視覚刺

激や聴覚刺激、触覚刺激、嗅覚などを提供できる機器を考案し、情緒的

に安定した状態で環境や人との関わりを楽しめる配慮を行っている

2 5)。

運動機能や知的機能に加え、感覚機能にも何らかの障害を有している重

症児・者が受け入れやすい感覚刺激を配置しているため、環境との関わ

りや人とのやりとりを促すことを目的に療育場面でも用いられることが

多 い 活 動 で あ る 。 Mul t i - s enso r y E nv i ronmen t は 、 主 に 作 業 療 法 士 が

Snoez e l en を訓練に活用する際に用いている用語である。

Ⅰ -5 先行研究

1 .重症心身障害児・者に対する作業療法

重症児・者に対する作業療法では、対象者の身体機能や呼吸機能、上

肢機能、摂食機能、感覚機能、知的発達など多岐にわたる評価とアプロ

ーチが必要とされている

2 6)。また、臨床場面では、個別治療や集団活動、

日常生活などの様々な取り組みの中に、上肢機能や感覚機能、発達段階

に合わせた遊びの設定をすることの必要性が指摘されている

2 7)。特に、

知的機能と遊びの関連において中村ら

7)は、重症児・者の遊びの段階を

決定するのは感覚運動的知能や注視・追視の発達であり、知能レベルに

応じた感覚運動や人からの応答的反応が必要であると述べている。しか

し、既存の発達検査や知能検査では、重症児・者の知的機能を正確に評

価することは困難である。そのため、精神機能の賦活を目的とした取り

組みは、観察による評価や経験に基づくアプローチがなされやすい現状

にあり、作業療法士を含めた支援者は、重症児・者が示す微弱な反応を

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読み取ることが出来ていない可能性がある。

2 .発達初期にみられる視覚機能と発達

注視・追視機能の基盤となる定位反応は、健常乳児においては周囲の

人や事物からの適切な応答により、次の刺激変化を求めて、外界への新

たな探索・操作の活動へと展開していく。重症児・者では、定位反応が

極めて微弱であり、一見、提示された事物に対する定位が殆ど無い、あ

るいは全くない場合もあると考えられている

2 8)。また、刺激に定位し注

視した後で刺激に飽きを示す行動(馴化)に関して、刺激への馴化速度

と後の知能には相関があることが報告されている

2 9 , 3 0)。重症児・者にお

いても、動く刺激に対して馴化能力を示した重症児・者は対人関係や発

語、言語理解といったコミュニケー ションに関連する能力の発達月齢が

高いことが報告されている

3 1)。また、著者らの調査においても、馴化能

力を有する重症児・者は、言語理解の発達月齢と、人の顔への定位や介

護への協力姿勢、日常場面での予測行動などの生活能力が高いことを報

告した

6)。しかし、眼球運動の観察から評価するこれらの能力評価は、

運動障害を有する重症児・者にとって最適な評価方法ではない可能性が

ある。視覚的定位や注視、馴化に対する評価は、時間や行動観察による

ものが殆どであり、他の生理学的評価指標を併用し客 観的評価を行える

ようになることが必要である。

3 .近赤外線分光法( N IRS 法)を用いた脳血流評価に関して

Kato ら 1 8)は N IRS 法を用いて初めて健常成人における後頭葉視覚野

の活性化を捉えた。彼らは提示する刺激として閃光刺激を用い、刺激提

示 後 す ぐ に 後 頭 葉 視 覚 野 に お け る 血 中 の 酸 素 化 ヘ モ グ ロ ビ ン 濃 度

( ox y- Hb)が増加し、刺激消滅後はすぐに ox y- Hb が減少することを報

告し、脳血流評価における N IRS 法の有効性を示唆している。同じく成

人を対象とした研究には、Obr ig H ら 3 2)、Heekeren H R ら 3 3)

の研 究があ

り、用いた視覚刺激は多色からなる 12 面体、一定時間に反転するチェッ

クボードと相違はあるが、Kato らと同様に後頭葉視覚野における ox y-H b

の増加が示されたことを報告している。また、乳児を対象とした研究で

は、Meek J H ら 2 1)が N IRS 法を用いて初めて覚醒中の乳児における脳血

流変化を捉えている。彼らは提示する刺激として反転するチェックボー

ドを用い、前頭葉と後頭葉における脳血流変化を比較し、後頭葉のみで

視覚刺激の ON-O FF に対応する脳血 流変化が見られたことを報告してい

る。同じく乳児を対象とした研究には Taga ら 1 9)、Wilcox ら 2 0)

の研究

があり、それぞれ、反転するチェックボード、動く物体の刺激を用いて

後頭葉視覚野の活性化を捉えている。重症児・者に対しては、渡邊

3 4)が言語指導過程における前頭葉から側頭葉にかけての血流変化を捉える

試みを報告し、言語理解が進むにつれて側頭葉に限局した脳の活性化が

みられたことを示している。これらから、視覚刺激に対する反応を捉え

る目的で N IRS 法を用いた脳血流評価を行うことは妥当であると考えら

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れる。また、検査自体への理解力や耐久性が低い重症児・者においても、

実施可能な検査であると思われる。

4 . Snoez e l en に関して

Ashb y M ら

9)は、重度の知的障害を有する児・者に Snoez e l en を提供

した結果、多くの児・者において活動後に設定した型はめ課題への集中

が高まったことを報告している。八代

3 5)は、 0-18 ヶ月の発達段階にあ

る重症児・者に Snoez e l en 活動を実施した結果、発達月齢の低い、0-6 ヶ

月の発達段階の重症児・者は毎回種々の感覚に興味・関心を示す「感覚

刺激優位群」に多く分類されたことを報告している。また、姉崎

3 6、 3 7)は、Snoez e l en は重症児・者に対する発達促進や対象者および療育者の心

理的安定に寄与する可能性が高いことを報告しているが、その効果の科

学的分析は乏しいことを指摘している。これらから、重症児・者に対し

て Snoez e l en の理念を用いた関わりや環境設定を行うことは、集中力の

向上や探索活動の増加、全般的な発達促進など認知面に対する一定の効

果があるといえる。しかし、その効果判定は観察によるものが多く、客

観的指標を用いた研究は少ない現状にある。今回、特に探索活動の増加

という側面に対して、視覚的定位や注視の持続を、N IRS 法を用いて評価

していくことは意義のあることと考える。

Ⅱ 研究方法

Ⅱ -1 対象

研究の対象は、済生会西小樽病院・重症心身障害児施設みどりの里に

入所しており、大島の分類において分類 1、 2、 5 に属する重症児・者 21

名(男性 11 名、女性 10 名、平均年齢 38 .5 歳)とした。即ち、知的能力

においては IQ20 以下で、かつ、運動機能において“寝たきり”から“歩

行障害”を有している者の中から選定した。診断名では、脳性麻痺が 13

名、染色体異常が 3 名、低酸素脳症後遺症が 2 名、難治性てんかんが 2

名、髄膜炎後遺症が 1 名であった。また、視覚機能に関しては、明らか

な視覚障害、視覚機能に関する既往歴があるものを除外した。さらに、

病棟職員に視覚に関する日常的な行動評価を依頼し、光刺激に対する反

応があり、且つ、人の顔を見る様子が観察される、または玩具などを取

ろうとする行動

3 8)が日常的に認められていることを選定の基準とした。

頚部のコントロー ルに関しては車椅子や座位保持装置のヘッドレストあ

るいはセラピストの徒手的な支持により頚部を正中位に保持できるもの

とし、眼前の対象物に対する視覚的定位が運動機能的に可能な者であっ

た。対象者のプロフィールを表 1 に示す。

また、脳血流評価のコントロール群として健常成人7名を対象にした

(男性 4 名、女性 3 名、平均年齢 27 .3 歳)。視覚機能に関係する既往歴

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はなく、視力低下がみられるものは眼鏡またはコンタ クトレンズ着用に

て行った。

Ⅱ -2 評価手段

Ⅱ -2-1 視覚課題

視覚課題 1(重症児・者および健 常成人用)として乳児の顔写真を用

いた視覚課題を作成し(成人には風景写真)、これは 4 種類(計 5 枚)の

スライドで構成された。まず、スライド 1 としてアニ メ画像を用い、実

験を開始するにあたり対象者に画面への注意喚起を促したり、実験環境

に慣れてもらったりする目的で用いた。スライド 2 としては黒画面を使

用し、安静期用のスライドとして用いた。スライド 3 ,4 は異なる日本人

乳児の顔写真(成人には異なる風景写真)を用いた。表情はニュートラ

ルなものを使用した。実際の実験では、“アニメ画像”を提示し、対象者

が実験環境に慣れてきたことを確認した後で、“黒画面”を 30 秒間提示

し、その後“乳児 1”を 30 秒間、“乳児 2”を 20 秒間、“黒画面”を 30

秒間提示した(図 1-a)。

視覚課題 2(重症児・者用)として動く視覚刺激を用いた視覚課題を

作成した。これは 3 種類(計 4 枚)のスライドから構成され、スライド

1 としてアニメ画像、スライド 2 として黒画面、スライド 3 として動く

視覚刺激を撮影した動画を用いた。動く視覚刺激としては、 Snoez e l en

で用いられる“バブルユニット”と呼ばれる、水泡が下方から上方へ次々

と移動し、且つ、背景の色が変化する機器の一部をデジタルビデオで撮

影したものを用いた。実際の実験では、“アニメ画像”を視覚課題 1 と同

様に用い、その後、“黒画面”を 3 0 秒間提示し、その後“動画”を 30

秒間、“黒画面”を 30 秒間提示した(図 1-b)。

Ⅱ -2-2 施設職員による生活特徴に関する評価

対象者が入所する施設の職員に、重症児・者に対する生活特徴の評価

を依頼した。評価に用いた質問紙は、著者及び重症心身障害児施設での

勤務経験を持つ作業療法士の臨床経験と先行研 究

3 8 , 3 9)を参考に作成し

た。項目は、生活全般に関する項目と視覚刺激に対する行動特徴に関す

る項目からなり、各行動の有無を「はい・いいえ」の二項選択回答方式

で評価できるものとした(表 2)。

Ⅱ -3 実験機器と実験環境

脳血流評価には光トポグラフィ装置( ETG-4000、H ITACH I)を用いた。

対象者の後頭部に、近赤外光照射プ ローブと受光プローブが 3cm 間隔で

設置された 22 チャンネルの後頭部用プローブを装着し実験を行った。プ

ローブの装着は、脳波計測に用いられている国際 10-20 法に基づき行っ

た。具体的には、プローブの最下列の 5 つのプローブの中央が、後頭結

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9

節の真上 0 .5cm に位置するよう設置した(図 2)。デー タ採取のサンプリ

ングタイムは 0 .1sec とした。

実験は、対象者から見える範囲を暗幕で覆った室内で行った。各視覚

課 題 は 、 Powerpo in t2003( Microso f t) お よ び Microso f t Med ia P l a ye r9

(Microso f t)にて制御し、ノート型パーソナル コンピュータ( C F-W 5、

Panason ic)に接続した 19 インチのパーソナルコンピュータ用ディスプ

レイ( LCD92 VM- V、 NEC)を対象者の眼前 80-100c m の位置に設置し提

示した。視覚課題実施中の対象者の視線を撮影するために、ディスプレ

イの上方にデジ タ ルビデオカメ ラ( DCR-TRV30、 SON Y)を設置し、光

トポグラフィ装置に接続し、脳血流評価と同期できるようにした。対象

者は、車椅子または座位保持装置にて座位姿勢を保ち、自立または実験

者の徒手的介助にて頚部を保持しディスプレイを注視できる姿勢を維持

させた(図 3)。

Ⅱ -4 分析方法

Ⅱ -4-1 視覚課題に対する観察評価

1 .視覚課題 1 に対して

視覚課題実施中の対象者の様子を撮影したデジタルビデオカメラのデ

ータをもとに、各刺激に対して対象者が刺激を注視しているか否かを評

価した。評価は、発達障害分野での 15 年の臨床経験をもち、馴化能力に

対する観察評価の経験を持つ作業療法士と著者の 2 名で行った。具体的

には、まず、“乳児 1”に対して対象者が「明らかに注視している」、「注

視していない」、「不明確である」の 3 段階に区分し、両評価者間で評価

結果が異なる場合は協議を重ね、統一した見解が得られた後に区分した。

明らかな注視が認められた対象者に関しては、注視の途中で刺激から視

線を反らすなどの“飽きる行動;馴化”が観られるか否かも評価した。

さらに馴化が確認された対象者に関して、スライド 4 に対して再度注視

するなどの“注意が回復する行動;脱馴化”が観られるか否かも併せて

評価した。これらの評価から、対象とした重症児・者を「注視群」「馴化

群」「非注視群」「不明群」に分類した。

2 .視覚課題 2 に対して

視覚課題 1 において「非注視群」「不明群」に分類された重症児・者を

対象に、視覚課題 2 の“動画”に対して対象者が「明らかに注視してい

る」、「注視していない」、「不明確である」の 3 段階に区分し、両評価者

間で評価結果が異なる場合は協議を重ね、統一した見解が得られた後に

区分した。これらから、対象者を「注視群」「非注視群」「不明群」に分

類した。

Ⅱ -4-2 視覚課題中の脳血流評価

光 トポグ ラフィで測定可能な脳血 流指標は酸 素化ヘ モ グ ロビン 濃度

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10

( ox y- Hb)、脱酸 素化ヘモグロビン濃度( deox y- Hb)、総ヘモグロビン 濃

度( t o t a l -Hb)の 3 つである。脳活動の指標として、 ox y- Hb と deox y- H b

のどちらに注目すべきかについては議論の余地があるとされているが、

一般的には ox y-H bを脳活動の指標としている

1 8 - 2 1)ことから本研究では、

脳血流評価の指標として ox y-Hb を用いる。

1 .視覚課題 1 に対して

重症児・者、健常 成人のデータとも同様の処理を行った。サンプリン

グタイム 0 .1sec で測定された ox y-H b を、5 秒間の移動平均をとったもの

を分析対象データとした。対象者ごと、測定した 22 チャンネル全てにお

いて、“乳児 1”(“風景 1”)提示開始時( B1)と“乳児 1”(“風景 1”)

提示中最も ox y- H b が増加した箇所(M1)の値を算出した。さらに、 B1

と M1 の差が最も大きかったチャンネル(分析チャンネル)に対して、

“乳児 2”(“風景 2”)提示開始時( B2)と“乳児 2”(“風景 2”)提示中

最も ox y-Hb が増加した箇所(M2)の値を算出した。光トポグラフィで

測定される ox y-H b の値は測定開始時を 0( mM・mm)とした変化量であ

るため、本実験では B1 を 0( mM・mm)とした変化量で他の値を算出し

た。

健常成人のデータに対しては 7 人の平均 ox y-Hb 変化を算出した。さ

らに、 B1-M1 間の変化量-標 準誤差、M1-B2 間の変化量+標 準誤差、

B2-M2 間の変化量-標準誤差を算出し、課題実施中の ox y-Hb 変化パ タ

ーンを検討した。ここで得られた基準値をもとに、重症児・者における

視覚課題 1 実施中の ox y- Hb 変化パ ターンを検討した。

2 .視覚課題 2 に対して

視覚課題 1 と同様に、サンプリングタイム 0 .1sec で測定された脳血流

データを、 5 秒間の移動平均をとったものを分析対象データとした。対

象者ごと、測定した 22 チャンネル全てにおいて、“動画”提示開始時( B3)

と“動画”提示中最も ox y-Hb が増加した箇所(M3)の値を算出した。

B3 と M3 の差が最も大きかったチャンネルを分析チャンネルとした。視

覚課題 1 と同様に、 B3 を 0( mM・ mm)とした変化量で M3 の値を算出

した。また、視覚刺激の違いが刺激に対する反応に与える影響を検討す

るため、視覚課題 1 における B1- M1 間の ox y-H b 変化量と視覚課題 2 に

おける B3-M3 間の ox y- Hb 変化量の違いを検討した。

Ⅱ -4-3 生活特徴に関する評価

生活全般および視覚刺激に対する行動特徴に関して、評価項目に挙げ

た各行動の有無を対象者ごとに検討した。具体的には、各質問に対して

「はい」と回答した場合を 1 点とし、合計点から生活全般に関する項目、

視覚刺激に対する行動特徴に関する項目の得点を算出した。

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Ⅱ -4-4 統計分析

1 .観察評価に関して

視覚課題 1 から得られる群別に発達月齢と生活特徴調査の得点を算出

し 、 群 間 比 較 を 行 っ た 。 統 計 処 理 に は 、 Krusk a l - Wal l i s の 検 定 及 び

Mann-W hi tne y の検定による対比較を用いた。

2 .脳血流評価に関して

視覚課題 1 から得られる群別に視覚課題 1 における B1 -M1 間の ox y- Hb

変化量を算出し、群間比較を行った。統計処理には、Kruska l -Wal l i s の検

定及び Mann-W hi tne y の検定による対比較を用いた。また、 ox y-Hb 変化

パターンが類似する群別に、発達月 齢と生活特徴調査の得点を算出し、

群 間 比 較 を 行 っ た 。 統 計 処 理 に は 、 Krusk a l -Wal l i s の 検 定 及 び

Mann-W hi tne y の検定による対比較を用いた。

Ⅱ -5 倫理的配慮

本研究を遂行するに当たり、北海道済生会西小樽病院・重症心身障害児

施設みどりの里施設長に研究協力を依頼する際には、以下の事柄に関し

て口頭および文書にて説明した(資料 1)。

1 . 研究目的、意義、方法、実施内容。

2 . 研究への参加は自由であり、研究中に参加の同意を取り消すことは権

利として保障すること。

3 . 個人情報保護に関し、実験で得られる各種データは本研究以外に使用

しないこと、研究結果の報告の際にも個人が特定されないような配慮

を行うこと。

4 . 検査課題実施中に対象者の体調変化が見られた場合に備え、主治医に

連絡をとれる体制を整えること。

これらの説明を実施した後、承諾書(資料 2)には施設代表者の署名

および捺印を求めた。また、保護者にも同様の説明(資料 3)を行い、

同意が得られた場合に、同意書(資料 4)に対する保護者または保護者

代理の署名および捺印を求めた。コ ントロール群として用いた健常成人

に対しても資料 5 として示した「研究協力のお願い」の書面を用いて研

究内容を説明し、同意が得られた者に対しては、同意書(資料 4)に対

する署名及び捺印を求めた。

Ⅲ 結果

Ⅲ -1 健常成人

視覚刺激への視覚的定位や注視に関する観察評価では、被験者には課

題中画面を注視していることを求めたため、画面から視線が逸れるもの

はいなかった。 N IRS 法による平均脳血流評価では、“風景 1”の提示 開

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始時( B1)の ox y-Hb を 0( mM・ mm)とすると、“風景 1”の提示中の

最大値(M1)で 0 .36±0 .08( mM・mm)まで増加し、“風景 2”の提示開

始時( B2)には 0 . 12±0 .09( mM・mm)まで低下、“風景 2”提示中の最

大値(M2)では 0 .31±0 .11( mM・ mm)まで再び増加するという傾向を

示した(図 4)。また、B1 -M1 間の変化量-標準誤差、M1-B2 間の変化量

+標 準誤差、 B2-M2 間の変化量-標 準誤差は、それぞれ、 0 .22( mM・

mm)、 -0 .15( mM・mm)、 0 .08( mM・mm)であった(本研究での基準値

とする)。即ち、健常成人では、 oxy- Hb が“風景 1”の提示開始に伴い

最大値まで 0 .22( mM・mm)以上増加し、風景 2 提示開始までに 0 .15( mM・

mm)以上減少し、その後最大値まで 0 .08( mM・mm)以上増加すること

が示された。

Ⅲ -2 視覚課題 1 に関して

Ⅲ -2-1 観察評価とこれに基づいた群別の発達月齢、生活特徴

対象とした重症児・者 21 名は、「注視群」が 9 名( 43%)、「馴化群」

が 7 名( 33%)、「非注視群」が 2 名( 10%)、「不明群」が 3 名( 14%)

に分類された(図 5)。また、「馴化群」のうち全員において脱馴化が確

認された。観察評価に関する評価者 2 名の評価結果の一致率は 0 .95 であ

り高い一致率が得られた。一致しなかったデータは「注視群」か「馴化

群」で一致しなかったが、評価の視点を再度確認し、それぞれの評価者

が再度評価を行い「注視群」に分類した。分類された各群の言語理解に

関する発達月齢(遠城寺式乳幼児分析的発達検査)は「注視群」が 11 .3

ヶ月、「馴化群」が 14 .3 ヶ月、「非注視群・不明群」が 2 .8 ヶ月であった。

統計処理の結果、「注視群」と「馴化群」はそうでない群と比較し発達月

齢が高かった( p< 0 .05)(図 6)。また、統計的な有意差はないが、「馴

化群」の方が「注視群」よりも言語発達月齢が高いという結果であった。

また、各群における生活特徴では、生活全般に関する能力、視覚刺激に

対する行動特徴ともに、「注視群」「馴化群」は「非注視・不明群」より

も能力が高いという結果であった。また、統計的な有意差はないが、「馴

化群」の方が「注視群」よりも能力が高いという結果であった。(図 7)。

生活特徴に関する評価では、「非注視群」「不明群」に分類された重症児・

者 に お い て も 、「 人 や 玩 具 に 対 す る 注 視 ・ 追 視 が み ら れ る 」 者 や 、

「 Snoez e l en で用いられる光刺激を注視する」「欲しい玩具に手を伸ばし

て取ろうとする」者が存在した。

Ⅲ -2-2 観察評価に基づいた群別の脳血流評価

観察評価に基づいた群別の“乳児 1”提示開始時( B1)から“乳児 1”

提示中の最大値(M1)までの ox y-H b 変化( B1-M1 間の平均 ox y-Hb 変化)

を図 8 に示している。「注視群」では 0 .45( mM・ mm)、「馴化群」では

0 .83( mM・ mm)、「非 注視群」と「不明群」を組み合わせた「非 注視・

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不明群」では 0 .13( mM・mm) ox y- Hb が増加し、「注視群」と「馴化群」

は「非注視・不明群」と比較して有意に増加量が多いという結果であっ

た( p< 0 .01)。

また、“乳児 1”の提示開始時( B1)から“乳児 2”提示中の最大値(M2)

までの ox y-Hb 変化を各群ごと図 9 に示した。この変化を、健常成人か

ら得られた基準値をもとに、ox y-Hb 変化を模式的に示したものが表 3 で

ある。即ち、“乳児 1”提示開始( B1)に伴い最大値(M1)までに 0 .22

( mM・ mm)以上増加した場合を“増加;↑”、“乳児 2”提示開始まで

に 0 .15( mM・ mm)以上減 少した場合を“減 少 ;↓”、その後最大値ま

で 0 .08( mM・ mm)以上増加した場合を“増加;↑”とした。これに満

たない変化を示した場合は“不変;→”と整理した。その結果、“乳児 1”

の提示に伴い増加を示したものが「注視群」「馴化群」では 16 名中 15

名みられた。一方、「非注視群」では 2 名中 0 名、「不明群」では 3 名中

2 名であった。その後の ox y-Hb 変化は、(減少、増加)(減少、不変)(不

変、不変)(不変、増加)の 4 つのパターンが「注視群」「馴化群」に混

在し、「不明群」では全員が(減少、増加)を示していた。「非注視群」

は、それぞれ(不変、不変)(減少、不変)であった。

Ⅲ -2-3 脳血流評価別にみた発達月齢、生活特徴

観察評価から「注視群」「馴化群」と分類された対象者の ox y-Hb 変化

パターンを、“乳児 1”提示中の最大値から“乳児 2”提示開始までの ox y-Hb

変化が減少を示した群を「減少群」、不変を示した群を「不変群」とし分

類した(表 4)。この分類別にみた対象者の言語理解に関する発達月齢で

は、「減少群」は 8 .9 ヶ月、「不変群」は 16 .4 ヶ月であり、「減少群」は

「不変群」よりも発達月齢が低く、先に示した「注視群」と「馴化群」

の月齢差よりも大きかった(図 10)。同様に、生活特徴では、生活全般

に関する項目、視覚刺激に対する行動特徴ともに、「不変群」は「減少 群」

よりも能力が高かった(図 11)。また、この能力差は、「注視群」と「馴

化群」の差よりも大きかった。

Ⅲ -3 視覚課題 2 に関して

図 12 は、視覚課題 1 において「非 注視群」「不明群」に分類された 5

名に対して、動きのある視覚刺激を用いた視覚課題 2 を実施したときの

ox y- Hb 変化(“動画”提示開始時から最大値までの変化)を示している。

また、表 5 は、同様の 5 名における視覚課題 1 と視覚課題 2 における観

察評価と ox y-Hb 変化(視覚課題 1 は、“乳児 1”提示開始時から最大値

までの変化)を比較したものである。

視覚課題 1 において「非注視群」に分類された 2 名( No.12 ,20)と「不

明群」に分類された 3 名のうちの 2 名( No.7 ,21)は、視覚課題 2 におい

て観察評価では「注視群」に分類され、脳血流評価では ox y-Hb 変化の

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増加量が増えていた。

Ⅳ 考察

Ⅳ -1 健常成人における oxy-Hb 変化

健常成人に対し初めて 2 チャンネルの N IRS 機器を用いて、視覚刺激

に対する後頭葉の反応を測定したのは Kato ら 1 8)である。Kato らは健常

成人 5 名を対象に閃光刺激を視覚刺激として用い前頭葉と後頭葉の脳血

流評価を同時に行った。その結果、後頭葉においてのみ、 8Hz で提示し

た視覚刺激の ON - OFF に対応した o x y- Hb の増減が確認されたことを報

告している。また、Takah ash i ら 4 0)は、今回我々が用いたのと同等の多

チャンネルの N IR S 機器を用い、健常成人 5 名の後頭葉における脳血流

評価を、反転するチェックボードを用いて検討している。彼らの報告で

は、 4 名の被験者において一次視覚野に相当する部位において顕著な

ox y- Hb の増加が確認されている。この様に、先行研究では、健常成人に

対する N IRS 法を用いた脳血流評価の視覚刺激として閃光刺激や反転す

るチェックボードなどのパターンリバーサル刺激が用いられている。こ

れらの刺激は、視覚経路の器質性障害の客観的評価や診断、経過追跡を

目的とした視覚誘発電位の測定に一般的に用いられている刺激である。

網膜の神経節細胞は、単なる光の明るさではなく、刺激のもつコントラ

ストや大きさを検出すると考えられているため、デー タ採取の再現性を

高める意味で特にパターンリバーサル刺激が多く用いられている

4 1)。一

方、今回の実験では臨床場面を想定して風景写真を用いた実験を行った

が、健常成人においては全員が刺激提示に対応した ox y- Hb 変化が認め

られるという結果であった。 Cs ib ra G ら 4 2)も、顔写真を視覚刺激とし

て用い、後頭葉における ox y-Hb の増加を報告しており、風景写真とい

った日常的な視覚刺激でも、閃光刺激やパターンリバーサル刺激と同様

に、N IRS 法による脳血流動態の評価刺激として用いることができると考

えられる結果が得られた。

また、今回の健 常成人に対する実験結果からは、一つ目の視覚刺激提

示中に最大値を示した ox y-Hb は、二つ目の視覚刺激提示開始までの間

に減少し、二つ目の視覚刺激提示に伴い再び増加する傾向が認められた。

これには、神経系レベルでの馴化や脱馴化が関与している可能性が考え

られた。馴化とは刺激に対して生じた定位反応が、刺激の反復提示に伴

い減衰し、やがては消失する過程を意味する。このときに、新たな刺激

を導入すると定位反応は急速に回復し、この過程を脱馴化と呼ぶ。乳幼

児であれば、馴化や脱馴化の指標として、刺激から視線や注意が逸れる、

といった行動評価を用いることが多い

4 3)。視覚刺激を課題中注視し続け

ている健常成人においても、人の顔写真を一定時間提示することで、扁

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桃体の MR I- BO LD 信号が低下することが報告されている

4 4 , 4 5)。また、

N IRS を用いた研 究では、 Obr i g H ら 4 6)は、健常成人に対してパターン

リバーサル刺激を 60 秒間提示する中で、次第に ox y-H b が減少してくる

過程を馴化過程と捉えている。今回、特に新たな視覚刺激(風景 2)が

提示されたときに、ox y- Hb が再び増加することは新たな知見であり、対

象とした健常成人が 2 つの風景画の違いを区別したことと関係があると

思われる。このように、健常成人において視覚課題 1 実施中にみられた

ox y- Hb の変動は、馴化や脱馴化と関連があると推察され、視覚刺激に対

する定位だけでなく、認知的側面への応用の可能性も伺える結果であっ

た。

Ⅳ -2 重症児・者に対する観察評価と oxy-Hb 変化の関係

視覚課題 1 の結果から、“乳児 1”の提示に伴い、「注視群」「馴化群」

は「非注視群・不明群」よりも有意に ox y-Hb 変化が増加することが示

された。また、健常成人の結果から得られた ox y-Hb 変化の増減に関す

る基準値を当てはめると、「注視群」「馴化群」では、 16 名中 15 名が増

加を示し、「非注視群」では 0 名、「不明群」では 2 名が増加を示してい

た。これまでに、乳児を対象とした N IRS 法を用いた視覚機能の評価で

は、視覚刺激の O N-OFF に対応した ox y-H b 変化の増減が確認され、本

研究でも同様の結果が得られた。

N IRS 法を用いて脳血流評価を行った先行研究の中で、乳児にパターン

リバーサル刺激を提示した Ta ga ら 1 9)の研究では、被験者 6 名の ox y-H b

変化が 0 .13、 0 .04、 0 .09、 0 .1、 0 .09、 0 .04( mM・ mm)であったことを

報告している。同様に、健常成人にパターンリバーサル刺激を提示した

Takahash i ら 4 0)の研究では、被験者 5 名の ox y-H b 変化は 0 .12、0 .08、0 .08、

0 .07、 0 .13( mM・ mm)と報告されている。このように、パ タ ー ン リバ

ーサル刺激を用いて脳血流評価を行った研究では、 oxy- H b 変化が約 0 .1

( mM・ mm)前後と報告されている。本研究では、初 期の発達段階から

選好注視の生じる顔を刺激として用いており、パター ンリバーサル刺激

よりも重症児・者の興味を引きつけやすい刺激を用いている。そのため、

上述の先行研究と直接的な比較はできないものの、「注視群」の ox y-H b

変化が 0 .45( mM・mm)、「馴化群」が 0 .83( mM・mm)と先行研究の 0 . 1

( mM・ mm)を大きく上回っており、対象者が能動的に刺激を注目して

いることが推測される。このことは、病棟職員のこれらの対象者に対す

る観察で「ビー玉など細かなものへの注視や追視」「玩具への追視や注視」

といった評価がなされていることとも整合性があり、実験場面で対象者

が能動的な注意を示したことを支持する評価であると考えられる。一方、

「非注視群」の 2 名では、 0 .02、 0 .004( mM・ mm)と 0 .1( mM・ mm)

を大きく下回るという結果であった。即ち、刺激が O N の状態であって

も、明確な注視を行っていない群は、ox y- Hb 変化に乏しく、観察から得

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られた「非注視」という行動を客観的に示すことが出来た。一方、「不明

群」では、 0 .26、 0 .25、 0 .21( mM・ mm)と 0 .1( mM・ mm)を上回る結

果であり、さらに、“乳児 1”提示 後の最大値から“乳児 2”提示開始ま

でに ox y-Hb 変化が減少し、“乳児 2”提示開始に伴い ox y- Hb 変化が再び

増加するという刺激変化に対する ox y- Hb 変化の増減が確認された。視

覚刺激に対する行動特徴においても、「 Snoez e l en で用いられる光刺激を

注視する」「欲しい玩具に手を伸ばし取ろうとする」行動がそれぞれ見ら

れている。このことは、観察からは「不明群」に分類されたが、実際は

刺激を注視していると考えられる結果であり、対象者にとって更に興味

を引きつける刺激であれば明確な注視が生起すると考えられた。

また、「注視群」と「馴化群」における“乳児 1”提示後の最大値から

の ox y-Hb 変化パ ターンでは、各群において一定の傾向を認めないとい

う結果であった。観察評価から「注視群」に分類された群は、“乳児 1”

を提示時間中継続して注視を続けていた群であり、「馴化群」は“乳児 1”

を注視している途中で視線を反らすなどの飽きを示した群である。しか

し、この様な視覚刺激を注視した後に生じた行動は、ox y- Hb 変化として

は一定の傾向は示さなかった。即ち、観察評価による馴化と健常成人に

おける先行研究や本研究結果から得られたような神経系レベルでの馴化

は、必ずしも一致していないことも考えられる結果であった。このこと

は、従来から認知発達との関連が指摘されている乳児や障害児の馴化能

力を測定する上で、どちらの指標が有益なのかを更に検討していく必要

性を示しており、次項で検討を加える。

このように、 N IR S 評価は重症児・者の視覚刺激に対する注視行動を

ox y- Hb 変化の“増加”として、非注視行動を ox y-H b 変化の“不変”と

して示すと考えられた。さらに、視覚刺激提示中の ox y- Hb 変化や ox y-Hb

変化パターンを分析することで、視覚刺激に対する反応が不明確な重症

児・者の視覚機能を推測できる可能性が示唆された。

Ⅳ -3 発達月齢および生活特徴と各視覚機能評価との関係

観察評価結果別にみた言語発達月齢や生活特徴の結果から、刺激に対

して明確に馴化を示す重症児・者は認知発達段階が高いことが示され、

先行研究

6 , 3 1)と一致した結果であった。このことから、観察評価により

視覚機能を評価することでも、重症児・者の認知発達を大まかに反映し

た結果になり得ることが示された。しかし、対象者の言語発達月齢や生

活特徴は、観察評価から得られた「注視群」と「馴化群」別に比較する

よりも、N IRS 評価により「減少群」と「不変群」別に比較した方が、よ

り 2 群間の能力差が明確であった。つまり、行動観察を用いて視覚刺激

に対する反応を評価することと比較し、ox y- Hb 変化パ ターンを用いて視

覚刺激に対する反応を評価することの方が、対象者の能力差を顕在化で

きるという結果であった。Ox y-Hb 変化パターンによる分類での「不変群」

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は、“乳児 1”提示により増加した ox y-Hb が、その後も維持あるいは更

に増加しており、神経系レベルでの活性化は継続していることを示して

いる。従って、一定時間、脳の活性を維持・増加できる者は、認知発達

が高い水 準に達する可能性が示され、 ox y-Hb 変化パ タ ー ン評価が重症

児・者の認知レベルの評価や知的障害の予後予測に有用な指標の一つに

なることも考えられた。

Ⅳ -4 視覚刺激の違いが視覚反応に与える影響

視覚課題 2 の対象とした視覚課題 1 において「非注視群」に分類され

た 2 名( No.12、 No.20)では、“動画”に対して注視がみられ、 ox y-Hb

変化も視覚課題 1 と比較し増加量が大きいという結果であった。このこ

とは、No.12、No.20 の 2 名は、全ての視覚刺激に対して能動的な注意を

示さないわけではなく、刺激の種類によっては適切な注意喚起が可能で

あることを示している。また、同じく視覚課題 1 において「不明群」に

分類された 3 名のうち 2 名( No.7、No.21)も同様の結果であり、刺激の

種 類 に よ っ て は 注 視 が 行 わ れ て い る と 考 え ら れ た 。 こ れ ら か ら 、

Snoez e l en 等で用いられることが多いコ ン ト ラ ス トが明確で動きを伴う

視覚刺激は、観察評価と N IRS 評価の両面から判断しても能動的な注視

を促しやすい刺激であると言えるかもしれない。先行研究においては、

Snoez e l en や Mul t i Senso r y Env i ronme n t の設定が重症児・者に与える影響

の一側面として、探索活動を増加させる、注意の持続を促す、といった

効果が報告されている

9)。また、八代

3 5)は、 0-18 ヶ月の発達段階にあ

る重症児・者に Snoez e l en 活動を実施した結果、発達月齢の低い、0-6 ヶ

月の発達段階の重症児・者は毎回種々の感覚に興味・関心を示す「感覚

刺激優位群」に多く分類されたことを報告している。今回、視覚課題 1

において「非注視群」「不明群」に分類されていた重症児・者の言語発達

月齢は、 1~ 7 ヶ月であったことからも、今回用いたような視覚刺激は、

特に発達月齢の低い重症児・者の視覚的定位や注視を促すうえで有効で

あると考えられた。

このような視覚刺激が、重症児・者の視覚的注視行動を増加させた理

由としては、刺激の特性と視覚機能の発達との関係が考えられた。神経

生理学的に視覚系には、網膜から外側膝状体を通り大脳皮質の視覚野へ

向かう経路と、網膜から中脳の上丘へ向かう経路の 2 つがあることが知

られている。前者は視覚的パターンや色の知覚とそれに基づく対象の認

知、能動的注意の解放過程に関与している。後者は動くものへの定位反

応や受動的注意の解放過程に関与し、新生児期から視神経の髄鞘化が進

んでいるといわれている

4 7)。また、新生児は、純白と漆黒の間 30-40%

のコントラストしか見分けることができず、生後 5 年くらいの間に成人

のレベルに発達してくる

4 8)。即ち,動きのある視覚刺激を、コントラス

トを明確にした状態で提示することは、視覚認知機能に何らかの未熟さ

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を有していると考えられる重症児・者にとって、認識しやすく、視覚的

な興味を引きつける要素を含む刺激であることに関与している可能性が

ある。

以上のことから、重症児・者の視覚機能評価として観察評価と併用し

N IRS 評価を用いることが、作業療法や療育支援を考える上で有用である

とする幾つかの知見を得たと考えている。まず、観察からは視覚機能が

不明確であった者の視覚機能を検討できたことである。臨床場面では、

視覚刺激に対する反応が不明確であることが一因となり、積極的に療育

活動を提供されていない重症児・者が存在する。このことは、更に重症

児・者の生活を受け身的にさせ悪循環に作用してしまう。職員の認識と

しても、「光刺激を感じている程度」と、「ある程度の事物を認識できて

いる」といった認識の違いは大きく、実際の療育内容や作業療法プログ

ラム、目的を立案する上で有益な情報となる。また、重症児・者に対す

る乳児期から成人期までの継続的な生活支援を求められる作業療法士に

とって、注意喚起を促しやすい視覚刺激を用いた療育支援は、個別治療

場面のみならず、重症児・者の日常的な生活環境にも応用すべき取り組

みである。視覚機能の発達やそれと関連する認知発達段階によって重症

児・者が注意を喚起しやすい刺激の種類は異なることが経験的には理解

されていたが、今回、ox y- Hb 変化の増加量が刺激間で異なるという客観

的な結果が得られた。増加量が持つ厳密な意味合いは分からないが、何

らかの認知処理水 準の相違が影響している可能性がある。頚部の回旋や

移動運動が困難な重症児・者にとって、医療用ベッドなどでの背臥位姿

勢は日常的に最も長い時間保持する姿勢である。そのため、ベッド周囲

の環境を整えることが重症児・者のために必要な環境調整といえる。本

研究で用いたような特徴を有する視覚刺激をその調整に活用していくこ

とが重症児・者の精神活動を賦活させることに関与する可能性があると

思われた。さらに、ox y- Hb 変化パタ ーンに基づいた視覚機能評価を実施

することで重症児・者の能力差をより顕在化できたことから、作業療法

を含むリハビリテーションの評価指標になり得る可能性が考えられた。

N IRS 評価機器自体に関しては、多チャンネルの機器は高価であり、臨

床応用面では問題がある。しかし、今回の研究から、重症児・者に対す

る視覚野付近での脳血流評価が可能であることが示され、安価でチャン

ネル数の少ない機器でも、測定回数を増加させることで十分な視覚機能

評価が出来る可能性があり、今後の臨床応用が期待される手法であると

考えている。

Ⅴ 研究の限界

1 .対象者に関して

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本研究で用いた N IRS 法は脳波や M R I など他の生理学的検査と比較す

ると拘束性が少なく、検査に要する時間も短い。しかし、プローブと呼

ばれる機器が網状の帽子に付いたものを頭部に装着させた状態で実験を

実施するため、強い拒否を示す者や頭部の動きが大きい被験者を対象と

することは困難である。また、プロ ーブの大きさに制限があり、頭部が

小さい学齢期以前の重症児・者を対象とすることは出来なかった。その

ため、厳密な意味でのランダム化された対象者の選択には至っていない

ため、全ての重症児・者に当てはまる結果であるとは言い切れない。

2 .視覚課題に関して

今回用いた視覚課題 1 の刺激は乳児の顔写真であった。これを用いた

理由は先にも述べたように、顔は初 期の発達段階から視覚的選好がみら

れる刺激であり、重症児・者でも興味を引きやすいからである。しかし、

重症児・者にとって身近な人物の写真や表情の異なる写真を用いるなど、

顔写真の違いによる ox y-Hb 変化の違いは検討していないため、あくま

でも乳児の顔写真に対する視覚反応や ox y-Hb 変化を検討した研究であ

る。

3 .ox y- Hb 変化パタ ーンの分析に関して

本研究では、健常成人に対する脳血流評価から得られた ox y-Hb 変化

の基準値を重症児・者に活用し、oxy- H b 変化パター ンを模式化した。現

在、N IRS 法を用いた脳血流評価では、測定した値は実験開始時からの相

対値であり、個体間での直接的な比較は十分検討されていない

1 3)。しか

し、先に述べたように、パターンリバーサル刺激などの単純刺激を提示

した時の ox y-Hb 変化は 0 .1mM・mm 前後と個人差が少ないことが報告さ

れ、研究内での検討に止めることを前提に、ox y-Hb 変化の実測値を比較

している研究が散見される

2 0 , 3 3 , 4 2)。本研究でも、実験環境としては、脳

血流変化に影響を与えるような姿勢変化や実験と無関係な視覚刺激は極

力排除し、先行研 究に準じた均一化された実験環境を設定することに努

めた。これらのことから、本研究では ox y-Hb 変化の基準値を決定する

にあたり ox y-Hb 変化の直接比較を実施したが、あくまでも、本研究内

における基準値に止まると考えている。

Ⅵ 今後の課題

本研究から、視覚刺激に明確に注視を示している時の ox y-H b 変化は

増加することが示された。このことを踏まえ、今後は、研究の限界でも

触れたが、対象とする重症児・者が視覚刺激に対して持っている既知度

などを変化させる目的で、刺激の種類を増加させる必 要があると思われ

る。人物の違いを区別することや表情の違いの認識などは、全ての重症

児・者にとって可能な能力ではないため、この様な能力の有無と ox y-H b

変化の相違を検討していく必要があると考える。言語的コミュニケーシ

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ョンを有しないことが多い重症児・者では、刺激の違いを明確に区別し

ているのか、あるいは、感情の分化や他者理解とも関連する表情認知が

正確にできているのか、など認知機能レベルを評価する一つの手段とし

て N IRS 評価が活用できるのか否かを検討していく必要がある。

また、今回、視覚刺激に対して適切な脳の活性化を示し、その後、一

定時間その活性を維持しているか、といった ox y-Hb 変化パターンが、

重症児・者の認知発達評価指標として活用できる可能性が示唆された。

研究の限界にも述べたように、 ox y- Hb 変化パターンを決定する ox y- H b

変化量に関しては、現在の N IRS 評価機器ではこれ以上言及できない状

態にある。しかし、重症児・者の療育支援の中で、視覚機能や認知発達

の客観的指標となり得る可能性があるため、重症児・者の縦断的な臨床

像の変化と、視覚刺激に対する ox y-Hb 変化パターンの縦断的変化を追

って調査していくことが必要であると考える。

謝辞

研究を遂行するにあたり快く協力して頂いた済生会西小樽病院・重症

心身障害児施設みどりの里の千葉峻三院長(札幌医科大学名誉教授)、

入所者の皆様方、同看護部ならびに診療部機能訓練課職員の皆様方に深

謝致します。稿を終えるにあたり、御指導ならびに本論文の御校閲を賜

りました主任指導教員の仙石泰仁教授、副指導教員の舘延忠准教授、中

島そのみ講師に慎んで感謝の意を表します。また研究遂行に際し、貴重

な御助言を頂いた大柳俊夫准教授に深く感謝致します。

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表1 対象者のプロフィールケースNo. 性別 年齢(歳) 診断名 大島の分類 言語発達(月) 瞬目反射1 男性 44 脳性麻痺 2 1 +2 女性 53 脳性麻痺 2 21 +3 女性 42 脳性麻痺 2 2 +4 男性 43 脳性麻痺 1 1 +5 男性 46 低酸素脳症後遺症 5 27 +6 女性 44 脳性麻痺 1 2 +7 女性 28 染色体異常 2 1 +8 女性 44 脳性麻痺 1 18 +9 男性 57 脳性麻痺 1 3 +10 男性 33 染色体異常 5 33 +11 男性 26 難治性てんかん 2 5 +12 男性 24 難治性てんかん 1 7 +13 男性 23 低酸素脳症後遺症 2 21 +14 男性 49 脳性麻痺 2 7 +15 女性 57 脳性麻痺 1 10 +16 男性 19 脳性麻痺 1 5 +17 女性 27 脳性麻痺 1 7 +18 男性 42 脳性麻痺 2 9 +19 女性 42 脳性麻痺 5 33 +20 女性 38 脳性麻痺 1 1 +21 女性 28 髄膜炎後遺症 1 1 +

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a 視覚課題 1 30sec 30sec 20sec 30sec乳児1(風景1) 乳児2(風景2)アニメ → → → →スライド1 スライド2 スライド3 スライド4 スライド2乳児1(風景1)の提示開始時:B1乳児1(風景1)の提示中最もoxy-Hbが増加した時:M1b 視覚課題 2 30sec 30sec 30secアニメ → → 動画 →スライド1 スライド2 スライド3 スライド2図1 視覚課題のプロトコール

乳児1(風景1)の提示中最もoxy-Hbが増加した時:M1乳児2(風景2)の提示開始時:B2乳児2(風景2)の提示中最もoxy-Hbが増加した時:M2動画の提示開始時:B3動画の提示中最もoxy-Hbが増加した時:M3

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表2 生活特徴評価の項目生活全般に関して1 覚醒レベルにおいて異常がみられない (はい・いいえ)2 更衣介助において協力姿勢が見られる (はい・いいえ)3 おむつ交換において協力姿勢が見られる (はい・いいえ)4 食事介助においてスプーンが口唇に触れる前に口を開く (はい・いいえ)5 尿意を事前に動作や言葉で知らせる (はい・いいえ)6 便意を事前に動作や言葉で知らせる (はい・いいえ)7 排尿後の不快感を示す (はい・いいえ)8 排便後の不快感を示す (はい・いいえ)視覚刺激に対する行動特徴に関して11 日光や部屋の明るさに反応する (はい・いいえ)2 ビー玉くらいの小さなものへの注視がみられる (はい・いいえ)3 ビー玉くらいの小さなものへの追視がみられる (はい・いいえ)4 人の顔への注視が見られる (はい・いいえ)5 人の接近や移動に対する追視が見られる (はい・いいえ)6 玩具や絵本への注視が見られる (はい・いいえ)7 玩具や絵本の接近や移動対する追視が見られる (はい・いいえ)8 テレビの画面に注目する様子がみられる (はい・いいえ)9 スヌーズレン機器などの光刺激を注視する (はい・いいえ)

10 玩具など欲しいものを取ろうとする (はい・いいえ)Katsumi O38),小林39)を改変

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1 2 3 4

5 6 7 8 9

10 11 12 13

14 15 16 17 18 3cm19 20 21 22

+後頭結節図2 プローブの配置は照射プローブを, は受光プローブを表している.

数字はチャンネル番号を示している.

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図3 実験場面の様子実験は、視覚刺激及び聴覚刺激の統制された暗室内で行われた。刺激を提示するディスプレイの周囲は暗幕で覆い、デジタルビデオカメラは対象者から極力気づかれないように配置した。

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0.511.5mM・mm

図4 健常成人におけるoxy-Hb変化-1-0.500.5

風景1提示開始B1 風景1提示中の最大値M1 風景2提示開始B2 風景2提示中の最大値M2

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注視群非注視群2名, 10% 不明群3名, 14%N=21 注視群9名 43%

図5 観察評価に基づいた分類

9名, 43%馴化群7名, 33%2名, 10% N=21

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20

25

30

35月齢 * *p<0.05*

図6 観察評価に基づいた群別の言語発達月齢0

5

10

15

注視群 馴化群 非注視・不明群

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6

8

10

12 注視群馴化群非注視群・不明群点

図7 観察評価に基づいた群別の生活特徴0

2

4

生活全般 視覚刺激に対する行動

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0.60.811.2 *mM・mm * *p<0.01

00.20.4注視群 馴化群 非注視群・不明群

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-1-0.500.511.5 注視群 No.3No.4No.8No.9No.13No.14No.15No.18No.19mM・mm

-1-0.500.511.5 馴化群 No.2No.5No.6No.10No.11No.16No.17mM・mm

11.5 非注視群 No.12mM・mm 11.5 不明群 No.1No.7No.21mM・mm乳児1提示開始B1 乳児1提示中の最大値M1 乳児2提示開始B2 乳児2提示中の最大値M2 乳児1提示開始B1 乳児1提示中の最大値M1 乳児2提示開始B2 乳児2提示中の最大値M2

図9 観察評価に基づいた群別にみたoxy-Hb変化(B1~M2)-1-0.500.5 No.20-1-0.500.5

乳児1提示開始B1 乳児1提示中の最大値M1 乳児2提示開始B2 乳児2提示中の最大値M2乳児1提示開始B1 乳児1提示中の最大値M1 乳児2提示開始B2 乳児2提示中の最大値M2

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表3 模式的に示したoxy-Hb変化(観察評価別)ケースNo. 乳児1提示開始から乳児1最大値(B1-M1) 乳児1最大値から乳児2開始(M1-B2) 乳児2開始から乳児2最大値(B2-M2)注視群 3 ↑ ↓ ↑4 ↑ ↓ →8 ↑ ↓ →9 → → →13 ↑ → ↑14 ↑ → ↑15 ↑ ↓ ↑18 ↑ → ↑18 ↑ → ↑19 ↑ → →馴化群 2 ↑ → →5 ↑ ↓ ↑6 ↑ ↓ ↑10 ↑ → →11 ↑ → →16 ↑ ↓ ↑17 ↑ ↓ ↑非注視群 12 → → →20 → ↓ →不明群 1 ↑ ↓ ↑7 ↑ ↓ ↑21 → ↓ ↑“乳児1”提示開始(B1)に伴い最大値(M1)までに0.22(mM・mm)以上増加した場合を“増加;↑”、“乳児2”提示開始までに0.15(mM・mm)以上減少した場合を“減少;↓”、その後最大値まで0.08(mM・mm)以上増加した場合を“増加;↑”とした。これに満たない変化を示した場合は“不変;→”とした。

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表4 健常成人に対するoxy-Hb変化の比率と模式的変化(観察評価別)ケースNo. 乳児1提示開始から乳児1最大値(B1-M1) 乳児1最大値から乳児2開始(M1-B2) 乳児2開始から乳児2最大値(B2-M2)注視群 3 0.80 (↑) 3.49 (↓) 1.52 (↑)4 1.35 (↑) 1.38 (↓) 0.69 (→)8 1.39 (↑) 1.22 (↓) -0.22 (→)9 0.30 (→) 0.49 (→) 0.33 (→)13 2.22 (↑) -0.01 (→) 2.74 (↑)14 1.77 (↑) 0.00 (→) 2.74 (↑)15 1.00 (↑) 0.86 (↓) 1.47 (↑)18 0.86 (→) 0.00 (→) 10.72 (↑)19 1.64 (↑) -0.25 (→) 0.27 (→)馴化群 2 3.46 (↑) 0.17 (→) -0.18 (→)5 2.00 (↑) 1.53 (↓) 1.14 (↑)6 2.71 (↑) 5.85 (↓) 6.59 (↑)10 1.80 (↑) 0.31 (→) -0.08 (→)11 2.22 (↑) 0.11 (→) -0.19 (→)16 1.68 (↑) 1.19 (↓) 2.83 (↑)16 1.68 (↑) 1.19 (↓) 2.83 (↑)17 2.34 (↑) 5.97 (↓) 1.62 (↑)非注視群 12 0.05 (→) 0.59 (→) -0.03 (→)20 0.01 (→) 1.93 (↓) -0.03 (→)不明群 1 0.73 (→) 5.43 (↓) 1.25 (↑)7 0.70 (→) 3.44 (↓) 1.24 (↑)21 0.58 (→) 1.21 (↓) 2.27 (↑)各区間における数値は、健常成人から得られたoxy-Hb変化に対する比率を示している。矢印は、得られた比率を基に各対象者のoxy-Hb変化を模式的に示したものである。各比率が1以上の場合を“増加;↑”“減少;↓”、1に満たない変率化を示した場合は“不変;→”とした。

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表5 模式的に示したoxy-Hb変化(脳血流評価別)ケースNo. 乳児1提示開始から乳児1最大値(B1-M1) 乳児1最大値から乳児2開始(M1-B2) 乳児2開始から乳児2最大値(B2-M2)不変群 9 → → →2 ↑ → →10 ↑ → →11 ↑ → →19 ↑ → →13 ↑ → ↑14 ↑ → ↑18 ↑ → ↑減少群 3 ↑ ↓ ↑5 ↑ ↓ ↑6 ↑ ↓ ↑15 ↑ ↓ ↑16 ↑ ↓ ↑17 ↑ ↓ ↑4 ↑ ↓ →8 ↑ ↓ →“乳児1”提示開始(B1)に伴い最大値(M1)までに0.22(mM・mm)以上増加した場合を“増加;↑”、“乳児2”提示開始までに0.15(mM・mm)以上減少した場合を“減少;↓”、その後最大値まで0.08(mM・mm)以上増加した場合を“増加;↑”とした。これに満たない変化を示した場合は“不変;→”とした。

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15202530月齢

図10 脳血流評価別にみた言語発達月齢051015

不変群 減少群

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681012

不変群 減少群

図11 脳血流評価別にみた生活特徴024

生活全般 視覚刺激に対する行動

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11.5

No.12No.20No.1mM・mm

図12 動きのある視覚刺激に対するoxy-Hb変化-0.50

0.5動画提示開始B3 動画提示中の最大値M3

No.7No.21

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表6 観察評価およびoxy-Hb変化の課題間比較ケースNo. 視覚課題1 視覚課題2観察評価 oxy-Hb変化(B1-M1) 観察評価 oxy-Hb変化(B3-M3)12 非注視群 0.019 注視群 1.349 20 非注視群 0.005 注視群 0.787 1 不明群 0.263 不明群 -0.001 7 不明群 0.251 注視群 0.731 21 不明群 0.207 注視群 0.734 単位:mM・mm