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日皮会誌:91 (9), 911-916, 1981 (昭56) Eruptive vellus hair cysts 坂本ふみ子 設楽 篤幸 1977年,Esterlyらが初めて報告したeruptive vellus hair cysts に相当すると考えられる本邦第1例を報告し た.組織学的には嚢腫は穎粒層をもつ表皮性嚢腫であ り,嚢腫内に層状角質物質と,多数の獣毛断片を入れて いる.また毛包が嚢腫壁に連続している像が認められ た.同一組織標本中に,導管構造のない脂腺をもった毛 包や,峡部が高度に弩曲して太い起毛筋を伴った異常な 毛包がみられた.これらの所見は,本症の発症に毛包の 形態学的異常が関与していることを示唆している所見と 考えた.また獣毛の嚢腫壁貫通像,真皮内の獣毛を中心 とした肉芽腫反応などは,本症の自然消楼現象と関連あ る所見と考えた. 1977年Esterlyら1)は小児の前胸部,時に四肢に群生 し,軟毛と層状角質を含む毛包性嚢腫を主要病変とする 丘疹性皮疹を観察し,これをeruptive vellus hair cysts の名称のもとに記載した.この名称のもとで報告された 例は,現在まで小児例5例と,18歳の女性例1例の計6 例にすぎない"-^'. Esterlyら1)が報告した1例と, Lee &Ki�)が報告した1例では皮疹は自然消槌が認めら れている. 最近,著者らは22歳,男子の前胸部に多発した正常皮 膚色,淡褐色,暗青色の丘疹性皮疹を組織学的に検索し たところEsterlyら1)が報告したeruptive vellus hair cystsに相当する所見を得た.そこでeruptive vellushair cvstsの本邦第1例と考えられるので報告する. 患者:25歳,男. 初診:昭和55年6月2日. 新潟大学医学部皮膚科学教室(主任 佐藤良夫教授) Fumiko Sakamoto, Atsuyuki Shitara,Yoshio Sato: Eruptive vellus hair cysts 昭和56年2月10日受理 別刷請求先:(〒951)新潟市旭町通1 新潟大学 医学部皮膚科学教室 坂本ふみ子 佐藤 良夫 家族歴:家族に同症なし. 既往歴:特記することなし. 現病歴:約5年前より前胸部に,径1~2mmの正常 皮膚色の丘疹性皮疹と,これに混在して淡褐色の丘疹が 出現してきた.皮疹は漸次数を増すとともに上腹部にも 拡大してきた.自覚症状はない. 図1 前胸部と上腹部にみられる皮疹. 図2 図1の強拡大.

Eruptive vellus hair cystsdrmtl.org/data/091090911.pdfEruptive vellus hair cysts 図6 軟毛(矢印)の壁貫通像.壁にケラトヒアリ ン穎粒を認める.嚢腫周囲に異物型巨細胞を含む

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  • 日皮会誌:91 (9), 911-916, 1981 (昭56)

    Eruptive vellus hair cysts

    坂本ふみ子 設楽 篤幸

               要  旨

     1977年,Esterlyらが初めて報告したeruptive vellus

    hair cystsに相当すると考えられる本邦第1例を報告し

    た.組織学的には嚢腫は穎粒層をもつ表皮性嚢腫であ

    り,嚢腫内に層状角質物質と,多数の獣毛断片を入れて

    いる.また毛包が嚢腫壁に連続している像が認められ

    た.同一組織標本中に,導管構造のない脂腺をもった毛

    包や,峡部が高度に弩曲して太い起毛筋を伴った異常な

    毛包がみられた.これらの所見は,本症の発症に毛包の

    形態学的異常が関与していることを示唆している所見と

    考えた.また獣毛の嚢腫壁貫通像,真皮内の獣毛を中心

    とした肉芽腫反応などは,本症の自然消楼現象と関連あ

    る所見と考えた.

               緒  言

     1977年Esterlyら1)は小児の前胸部,時に四肢に群生

    し,軟毛と層状角質を含む毛包性嚢腫を主要病変とする

    丘疹性皮疹を観察し,これをeruptive vellus hair cysts

    の名称のもとに記載した.この名称のもとで報告された

    例は,現在まで小児例5例と,18歳の女性例1例の計6

    例にすぎない"-^'. Esterlyら1)が報告した1例と, Lee

    &Ki�)が報告した1例では皮疹は自然消槌が認めら

    れている.

     最近,著者らは22歳,男子の前胸部に多発した正常皮

    膚色,淡褐色,暗青色の丘疹性皮疹を組織学的に検索し

    たところEsterlyら1)が報告したeruptive vellus hair

    cystsに相当する所見を得た.そこでeruptive vellushair

    cvstsの本邦第1例と考えられるので報告する.

               症  例

     患者:25歳,男.

     初診:昭和55年6月2日.

    新潟大学医学部皮膚科学教室(主任 佐藤良夫教授)

    Fumiko Sakamoto, Atsuyuki Shitara,Yoshio Sato :

     Eruptive vellus hair cysts

    昭和56年2月10日受理

    別刷請求先:(〒951)新潟市旭町通1 新潟大学

     医学部皮膚科学教室 坂本ふみ子

    佐藤 良夫

     家族歴:家族に同症なし.

     既往歴:特記することなし.

     現病歴:約5年前より前胸部に,径1~2mmの正常

    皮膚色の丘疹性皮疹と,これに混在して淡褐色の丘疹が

    出現してきた.皮疹は漸次数を増すとともに上腹部にも

    拡大してきた.自覚症状はない.

    図1 前胸部と上腹部にみられる皮疹.

    図2 図1の強拡大.

  • 912

    図3 真皮中層の嚢腫

    坂本ふみ子ほか

    図4 表皮と連続する狐腫.連絡部は管状を呈する.

    図5‘ 嚢腫底部に附随する毛包と、これから仲長す

     る細い細胞索.その先端に毛母・毛乳頭様構造を

     認める.嚢腫内に多数の軟毛の横断面を認める.

     初診時皮膚所見:胸骨下部から上腹部にかけて丘疹性

    皮疹が多数認められる.それらは大きさ径1~2mmの

    正常皮膚色,淡褐色,暗青色のものと,さらにやや大き

    く,発赤し淡褐色を帯びるものが混在する.胸骨下部に

    はほぼ同大の巌痕が散在する.丘疹の一部は毛孔一致性

    であり,面飽様黒色小点が認められ,圧出によりチーズ

    様灰白色の内容物が得られた(図1,図2).

     検査所見:検血一般,血清脂質,肝機能検査等には異

    常なし.

     組織学的所見:真皮中層にほぼ円形の匍匪がみられる

     (図3).連続切片により表皮と連続の明らかなものも

    ある.嚢腫の表皮開口部の周囲は表皮が不整に陥凹して

    いる.連絡部は表皮内・表皮下にわたり川曲した管状を

    示して嚢腫に連続する.その壁は数回の壁細胞からなり

    内側の願粒層はよく発達し,内腔には層状角質物質が認

    められるが,軟毛の断片はみられない.嚢腫壁は3~4

    層の細胞からなり,細胞は扁平化し,穎粒層を形成して

    角層に移行する.嚢腫内には層状角質物質,多数の軟毛

    断片,少量の無構造物質がみられる(図4).軟毛断片

    は種々の方向の切断面を示し,メラニソ色素をもつもの

    や,これを欠きやや太い断面もみられる.いくつかの嚢

    腫の底部には,毛包の連続像が認められる.それらに

    は,成長期に,あるいは休止期に該当する構造を示すも

    のがみられた.これらの毛包からさらに伸長する細い細

    胞索が現われ,その先端に毛母・毛乳頭様構造がみられ

    るものもある(図5).嚢腫のあるものには,軟毛の壁

    貫通像があり,周囲結合織内に軟毛の断片と,異物型巨

    細胞を含む炎症性細胞浸潤が認められる(図6).同一

    組織標本の嚢腫の近くには,導管構造のない,小形で正

    常とは多少形態が異なる脂腺をもつ毛包が認められ,モ

    の毛包は隆起部で強く音曲し,そこに太い起毛筋が附随

  • Eruptive vellus hair cysts

    図6 軟毛(矢印)の壁貫通像.壁にケラトヒアリ

     ン穎粒を認める.嚢腫周囲に異物型巨細胞を含む

     炎症性細胞浸潤を認める.

     図8 圧出により得た嚢腫内容物をキシp-ルで処

      理した後の鏡検所見.コイル状の軟毛の塊が認め

      られる.

    していた(図7).また2つの毛包の表皮開口部が極め

    て近接している像も認められた.

     圧出によって得られた嚢腫内容物をキシロール処理し

    たところ,無構造物質は溶解し,その中に30数本の軟毛

    の塊が得られた.太さ,長さはほぼ一様で,径0.02mm,

    長さは2.70~3.15mm(平均3mm)であった(図8).

     経過:初診後5ヵ月の現在,皮疹に著変は認められな

    い.

               考  按

     1977年に, Esterlyら1)が本症の4例を初めて報告して

    913

     いく17 導管構造のない脂腺が直接附着している毛包.

      この毛包は隆起部で強く恋|且Iし,そこに太い起毛

      筋(M)が附随している.

    以来,その後の2報告いを加えても,本症の報告はい

    まだ6例を数えるにすぎない.本邦では自験例が第1例

    と思われる.そこで,これまでに報告された症例の臨床

    像と組織学的所見を紹介すると同時に,自験例について

    述べる(表0.

     年齢は,4~9歳の小児例が5例であるが,18歳の報

    告例もみられる.本症の[iこ疹性皮疹は,諸家の記載によ

    ると径1~4mmで,正常皮膚色,赤褐色ないし暗褐色

    である.これらの丘疹が前胸部,時に四肢に集展性ない

    し散在性に認められる.その数は30~50個に及ぶが自覚

    症状は認められない.自然消槌は2例に,それぞれ初診

    後14ヵ月と10ヵ月に観察されているが,その他の例では

    明らかではない.この2例は共に,皮疹消槌後なお少数

    の丘疹あるいは青色斑が残存している.再発は観察され

    ていない.

     本症の組織学的主要病変は,真皮中層から下層に存在

    する表皮性嚢腫である.すなわち散層の好酸性細胞から

    なる表皮性嚢腫で,嚢腫内には多数の獣毛と層状角質を

    入れている.表皮性嚢腫は穎粒層を形成して角質層に移

    行する像を特徴とする.また一部の嚢腫には,表皮と連

    続している像,休止期毛包と連続している像,育曲軟毛

    と2個の起毛筋と2個の痕跡的毛包を伴なう像,角栓な

    どが観察されている.

     自験例の前胸部の皮疹は,径1~2mmの正常皮膚色,

  • 914       坂本ふみ子ほか

    表1 Eruptive vellus hair cysts の症例

    報告者(年度)Esterlyet al."(1977) Bovenmyer2)

     (1979)

    Lee&Kim3

     (1979)

    自験例(1980)

    症例1 症例2 症例3 症例4

    年   齢 6 7 4 9 9 18 25

    性 女 男 女 男 男 女 男

    発生時期 2年前 3年前 1週間前 2年前 6ヵ月前 5年前

    皮疹の分布胸,前腕屈側,膝高 前胸

    前脚,上肢大腿,腰高 前胸 前洵 前胸,上腹

    // 数 80~100 50 35~40 多数

    // 大きさ 1~2 mm L~2 mm 1~2 mm 1~4 mm 1~2 mm

    /・性 状 赤褐色丘疹 暗褐色丘疹正常皮膚色,赤褐色丘疹一部臍高性丘疹

    茶褐色丘疹顛皮性丘疹

    正常皮膚色,暗青色淡褐色

    丘疹,溜池様小黒点

    自覚症状 (-) (-) (-) (-) (-)

    組 織 像表皮との巡続 (-) (-) (十),角栓 (十) (-) (十)(-)

    孤謡壁

    扁平化 (十) (十) (十) (十)

    顕粒層 (十) 一部(十) (十) (十)

    毛包の連続 (-) (十) (十)2っ (-) (十)2っ (十)

    脂 腺 (-) (-) (-) (-) (-)

    起毛筋の附着 (-) (-) (十)2っ (-) (-) (-)

    真菰内の層状角質と軟毛 C十) (十) (十) (十) (+) (十)

    軟毛の壁貫通像 (-) (-) (-) (十) (-) (十)

    異物型肉芽腫反応 (-) (-) (-) (十) (-) (十)

    自然消極 (十)14ヵ月後

    (-) (-) (-)  (十)10ヵ月後

    (-)

    淡褐色,暗青色の丘疹でほぼ今までの報告例と同様の形

    状を示している.その他に自験例では,暗青色の丘疹と

    毛孔一致性面嶮様黒色小点がみられ,その内容物に多数

    の軟毛がみられたLee & Ki�)は,本症の多くの皮

    疹が,消槌後なお少数の青色斑状皮疹を残したと記載

    している.またBovenmyer2)は,チーズ状内容の圧出

    後,消失をみた臍高性丘疹を観察している.自験例では

    明らかに駱高を有する丘疹は認められないが,淡褐色の

    丘疹よりやや大きく,発赤を伴う丘疹や小癩痕が認めら

    れた.この所見は,皮疹の新生と自然消捷がくり返し生

    じている可能性も考えさせる.組織学的にも,真皮中層

    の表皮性嚢腫であり,嚢腫内には多数の軟毛断片と,層

    状角質物質を入れており,今までの記載と合致する.ま

    た自験例では,表皮と連続の明らかな嚢腫がみられた.

    そしてその巡絡部は表皮内・表皮下にわたり屈曲した管

    状を示している.同一組織標本中の嚢腫の近傍に,導管

    構造のない脂腺をもった毛包が認められ,その毛包は隆

    起部で強く膏曲し,太い起毛筋が附随しているなど,形

    態学的異常のみられる毛包がみられた.

     eruptive vellushair cystsは,ときに臍高性を示し,

    チーズ様内容物の排出をみる2)などの点から, reactive

    perforating collagenosisを含む,いわゆる穿孔性丘疹性

    疾患群と,また毛包一致性ときに角栓様変化を伴なう点

    では,痘療ないし毛包炎などとの鑑別が問題とされる.

    これら疾患との鑑別は, Esterlyら1)の指摘の如く臨床像,

    組織学的所見から一般に容易である.本症は主に小児に

    発症をみているが,自験例の場合,発症年齢の上で尋常

    性痘痕との異同が問題であろう.しかしながら,皮疹は

    一般に尋常性痙酒の好発する顔面,背部などには認めら

    れず,胸部のみに存在するし,個疹は紅斑のほかは炎症

    症状に乏しい.また組織学的に自験例の皮疹は,軟毛性

    毛包を病変の座とするものであり,脂腺性毛包を侵す而

    飽とはその所見か明らかに異なる.

     以上の臨床的ならびに組織学的所見より,自験例は

    eruptive vellus hair cystsに相当すると思われる.自験

    例は25歳であるかLee & Ki�)は本症は青年にも発

  • Eruptive vellus hair cysts

    生し得ると述べており,自験例も年齢的には決してこの

    範時に入らないものではないと思われる.

     本症の発生機序についてEsterlyらt)は, (1)毛漏

    斗部にみられる角栓が,その中に軟毛を欠いていること・

    より,軟毛の伸長方向が深部に反れ,そのために嚢腫が

    形成され増大を引き起こす, (2) 2つの毛包と2つの

    起毛筋の附随する嚢腫が認められることより,2つの

    毛包が共通した毛漏斗部をもつ, (3)毛包の中枢部

     (proximal)と末梢部(distal)の間の結合が崩壊し,次

    第にそれが増強することによる,(4)先天的な毛包の

    異常が嚢腫形成の素因となる,などを考えている.自験

    例においても,表皮と連続する義腫において,連絡部に

    は層状角質のみで軟毛は認められない.また,2つの毛

    漏斗部が近接して表皮に開口する像や,表皮との連絡部

    が屈曲した管状を示す像,嚢腫に近接する毛包におい

    て,脂腺に導管構造を欠くなどの,明らかに毛包の形態

    学的異常を思わす像が認められた.そしてこれらの所見

    は,本症の発生に毛包の先天的異常が関与していること

    を示唆する所見と考えられる.

     皮疹の自然消梗現象は,Bovenmyer2)の指摘するよう

    に,経表皮性に角質,軟毛,肉芽腫組織などが排出さ

    れ,臍高性皮疹を形成する場合もあるであろう.自験例

    では臨床的に,発赤とともに小癩痕が認められ,そして

    組織学的に軟毛の壁貫通像と,その嚢腫周囲に,軟毛を

    含む肉芽腫反応が認められ,将来における義腫の自然消

    滅が推測される.

     近年,毛包性嚢腫は,軟毛性毛包(vellus follicles),

    脂腺性毛包【sebaceous fol】icles),終毛性毛包(terminal

    follicles)の,各毛包部分に由来する次の諸型が明らか

    にされてきている". (1) steatocystoma multiplex :

    脂腺性毛包の脂腺導管,脂腺胞巣に由来4).壁細胞は外

    毛根鞘に相当する^'. (2) trichilemmal cyst : 終毛性

    毛包の脂腺導管部下方の外毛根鞘に由来する6).(3)

    epidermal cyst (epidermoid cyst):毛包頚部に由来し,

    多くは脂腺性毛包に,稀に終毛性毛包,軟毛性毛包にも

    生ずる". eruptive vellus hair cysts の真皮中層に認めら

    れる嚢腫は,軟毛と層状角質を内容とし,穎粒層を形成

    して角層に移行する壁細胞よりなる点より,軟毛性毛包

    由来のepidermal cyst とみなされる.

     本邦においては,毛脂腺系由来の多発性腫瘤の多く

    は, 1922年,駒屋が多発性毛嚢嚢腫症(multiple Folli-

    cularcysten)という名称で報告して以来,一般にこの名

    称が使用され多くの報告がなされている.そしてそれら

    915

    はmultiple foUiculare Hautcysten (Bosellini, 1898),

    Steatocystoma multiplex (Pringle, 1899), Sebocystoma-

    tosis (Gunther, 1917),などの名称とほぽ同義語として

    使用されているが,一部に混乱があるようである,しか

    し,本邦報告例も詳細にみると,種々の臨床像,組織像

    が認められる.そしてそれらを今日の毛包性嚢腫の組織

    学的分類,遺伝性,さらには先天性異常7)などからみて

    みると,むしろLever & Schaumberg-Lever" Pinkus

    & Mehregan"', Bode & Plewig"のいうsteatocystoma

    multiplexに分類される症例が多い.一方,少数例ではあ

    るが,嚢腫壁に脂腺を欠くか,あるいは認められても少

    なく痕跡的で,壁が扁平化細胞(ケラトヒアリソ穎粒に

    っいての記載は乏しいが)からなる症例も記載されてい

    る8-10)それらは嚢腫内に多数の軟毛を入れており,無

    構造物質はみられない.また嚢腫底部に明瞭に毛包の連

    続が認められる像などより,これらの例は,むしろ毛包

    頚部を主要由来とするepidermal cystに相当する組織

    像と解される.このようにみてみると,本症にみられ

    るような組織像は決して稀なものではないと思われる.

    Esterlyら1)は今までに報告されていない,新しい独立し

    た疾患としてeruptive vellus hair cysts という名称を記

    載したが,おそらくeruptiveの語を皮疹の多発性,単

    調性,動きのある皮疹という意味で使用しているのでは

    ないかと思われる.したがって,臨床像,組織像を加味

    すると,毛包性異腫にはさらに種々の型の存在がうかが

    われる.

     また自験例の皮疹から圧出によって得た軟毛の長さを

    測定してみると, 2.7~3.15mmであった.軟毛の成長

    速度を0.03~0.02mm/日11)として計算すると,平均3.0

    mmの軟毛の成長期は100~150日となる.休止期を4週

    間とすると,毛周期は128~178日となる.仮腫に連続

    する毛包を1つとすると,30本の軟毛を入れる責腫は

    3,850~5,340日(約10年~14年)前,すなわち10~15歳

    の時にすでに軟毛の貯溜が始まったものと推測される.

     今までの本症の報告例をみてみると,2~3年の比較

    的短期間に皮疹の消失をみる臨床型と,数年にわたり皮

    疹の出現をみる臨床型がみられるようである.この2型

    の相異や,特に毛包の形態学的異常と臨床型との相関性

    などは,今後の症例の検討に待つべきものと思われる.

     本症例は第44回日本皮膚科学会東日本学術大会(昭和

    55年10月)において発表したものである.なお,他の類

    似例を含む2例とともに,第239回新潟地方会(昭和55

    年10月25日)においても発衣した,

  • 916 坂本ふみ子ほか

     文   献

    1) Esterly, N.B., Fretzin, D.F. & Pinkus, H.:

      Eruptive vellus hair cysts,jだh. DeΓmatol.,113:

      500-503, 1977.

    2) Bovenmyer, D.A.: Eruptive vellus hair cysts,

      j�h.DermatoL, 115: 338-339, 1979.

    3) Lee, S. & Kim, J.: Eruptive vellus hair

      cysts,Arch. Dermatol・,115: 744-746, 1979.

    4) Bode, U. & Plewig, G.: Klassifikation foUi-

      kularer Zysten, Hautarzt., 31: 1-9, 1980.

    5) Lever, W.F. & Schaumburg-Lever, G.:

      Steatocystoma multiplex, Histopathology of

      the Skin, 5th Ed., Lippincott, Philadelphia,

      1975, pp. 463-464.

    6) Pinkus, H. & Mehregan, A.H.: Glandular

      cysts,A Guide to Dermatohistopathology, 2nd

      Ed., Appleton-Century-Crofts, New York,

      1976, pp. 549-551.

     7)内山道夫:汎発性並びに家族的に発生した多発

      性毛嚢仮腫症の1例,臨床皮泌,19 : 1279―

      1283, 1965.

    8)大川原脩介:多発性毛嚢々腫症について,臨

      皮,22 : 1099―1102, 1968.

    9)松村治和,石川英一:多発性毛嚢表腫症の家族

      発生例,臨皮,33 : 241―245, 1979.

    10) Kligman, A.M. & Kirschbaum, J.D.:Steato-

      cystoma multiplex, J. Inoesl,Derm.,42-. 383-

      387, 1964.

    11) Leyden, J.J. & Kligroan, A.M.: Hair in acne

      comedones, Arch. Dermatol., 106, 851-853,

      1972.

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