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トピックス1 J-REITの底地取得・保有の意義� ���������2
トピックス2 企業の不動産売買意向と実際の取引行動�������6
マンスリーウォッチャー意向に沿って不動産を取得・売却するための工夫���8
2012
9September
2 September,�2012 � みずほ信託銀行 不動産トピックス
J-REITの底地取得額の累計が1600億円近くに
J-REITの底地取得・保有の意義不動産取引市場が低迷する中、J-REITの物件取得額が増加しており、その存在感は非常に大きく
なっています。そうした中で、J-REITによる底地※1(借地権付の土地の所有権)の取得が少しずつ増加しています。
以下、J-REITが底地を取得・保有することについて、社会的な意味合いを考えてみます。
リーマンショック(2008年下期)後、不動産の取引総額が低迷する中で、J-REITの取得額は総額の中で大きな割合を占める([図表1-1])ようになり、不動産取引市場において、J-REITの存在感が非常に大きくなっています。J-REITの最近の資産取得の特徴のひとつとして、底地の取得が増加していることを挙げることができます。J-REITの底地取得は、2010年以降増加傾向[図表1-2])にあり、J-REITの取得額全体に占める割合も大きくなっています。2012年6月末現在、30物件、1,589億円(取得額ベース)の底地を保有しています。底地とは、一般的に[図表1-4]に示すように、土地の上に建物があり、その建物の借地権が付されている土地の所有権※2を指しています。借地権者と底地保有者間には借地契約が締結され、底地保有者には地代が支払われます。
従来、底地が投資対象となりにくかったのは、旧借地借家法に基づく底地が、完全所有権の状態にある一般的な不動産に比べて流動性が低い※3とされてきたことが主な理由と思われます。しかし2010年以降、J-REITの底地取得が増加してきたのは、①2007年12月の借地借家法の改正により事業用定期借地権等の存続期間が20年から50年に延長され、税法上の償却期間とのミスマッチがなくなるなどのメリットから、事業法人が借地権者となっている底地が増加し、②後述するように、完全所有権の不動産を上物と底地に分離して取引する事業法人側の要請が大きくなってきたことなどで、事業法人が関係する底地取引が増加したことが背景にあると考えられます。
[図表1-1]上場企業等による不動産取引の状況
資料:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査※4」より
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
50
割合
0
5,000
10,000
15,000
20,000
25,000
30,000
35,000
40,000
45,000
50,000 リーマンショック後J-REITの物件取得額の割合が増加
取引総額 うち上場J-REITの物件取得額 総額に占めるJ-REITの物件取得額の割合
2007年上期
2007年下期
2008年上期
2008年下期
2009年上期
2009年下期
2010年上期
2010年下期
2011年上期
2011年下期
2012年上期
(億円) (%)
取引額
3みずほ信託銀行 不動産トピックス � September,�2012
[図表1-2]J-REITの底地取得の状況 [図表1-4]底地の概念
[図表1-3]J-REITが保有している底地金額単位:百万円
資料:図表1-2、1-3ともに都市未来総合研究所「ReiTREDA※5」より
投資法人 物件名称 都道府県 区・市 建物用途取得時総賃貸可能面積(㎡)
取得年月
A:取得時年間賃料
B:資産取得額
取得時利回りA÷B
森ヒルズリート投資法人 ラフォーレ原宿(底地) 東京都 渋谷区 店舗 2,565.06 H22.9 1,294 21,820 5.9%
産業ファンド投資法人 IIF習志野ロジスティクスセンター(底地) 千葉県 習志野市 物流施設 19,834.71 H22.2 開示無 1,190 −
産業ファンド投資法人 IIF戸塚テクノロジーセンター(底地) 神奈川県 横浜市戸塚区 その他 31,442.47 H22.3 276 4,500 6.1%
産業ファンド投資法人 IIF習志野ロジスティクスセンターⅡ(底地) 千葉県 習志野市 物流施設 58,070.00 H23.4 232 3,350 6.9%
ケネディクス・レジデンシャル投資法人 ニチイホームたまプラーザ(底地) 神奈川県 川崎市宮前区 住宅 3,635.89 H24.4 69 960 7.2%
ケネディクス・レジデンシャル投資法人 コスモハイム元住吉(底地) 神奈川県 川崎市中原区 住宅 3,040.11 H24.4 88 1,750 5.0%
アクティビア・プロパティーズ投資法人 COCOEあまがさき(底地) 兵庫県 尼崎市 店舗 27,465.44 H24.6 683 12,000 5.7%
日本リテールファンド投資法人 ライフ太平寺店(底地) 大阪府 東大阪市 店舗 3,898.01 H22.3 97 1,282 7.6%
日本リテールファンド投資法人 ライフ下寺店(底地) 大阪府 大阪市浪速区 店舗 4,344.18 H22.3 113 1,683 6.7%
日本リテールファンド投資法人 ライフ岸部店(底地) 大阪府 吹田市 店舗 5,516.61 H22.3 136 1,910 7.1%
日本リテールファンド投資法人 アーカンジェル代官山(底地) 東京都 目黒区 その他 904.04 H23.9 開示無 1,820 −
日本リテールファンド投資法人 ラウンドワンスタジアム千日前店(底地) 大阪府 大阪市中央区 その他 1,711.63 H23.9 360 8,000 4.5%
日本リテールファンド投資法人 泉佐野松風台(底地) 大阪府 泉佐野市 店舗 44,009.52 H23.9 開示無 2,625 −
日本リテールファンド投資法人 テックランド寝屋川店(底地) 大阪府 寝屋川市 店舗 10,433.26 H23.9 開示無 1,135 −
オリックス不動産投資法人 神戸桃山台ショッピングセンター(底地) 兵庫県 神戸市垂水区 店舗 42,123.17 H22.3 開示無 3,260 −
オリックス不動産投資法人 ホームセンタームサシ仙台泉店(底地) 宮城県 仙台市泉区 店舗 56,109.95 H24.1 開示無 2,350 −
日本プライムリアルティ投資法人 (仮称)大手町1-6計画(底地) 東京都 千代田区 事務所 11,034.78 H24.3 2,695 36,000 7.5%
東急リアル・エステート投資法人 湘南モールフィル(底地) 神奈川県 藤沢市 店舗 44,078.12 H18.4 開示無 6,810 −
ユナイテッド・アーバン投資法人 maricom-ISOGO・システムプラザ横浜(敷地)神奈川県 横浜市磯子区 事務所 52,668.39 H20.2 564 11,904 4.7%
ユナイテッド・アーバン投資法人 ビバホーム横浜青葉店(敷地) 神奈川県 横浜市青葉区 店舗 9,193.00 H23.10 開示無 2,600 −
ユナイテッド・アーバン投資法人 ヤマダ電機テックランド青葉店(敷地) 神奈川県 横浜市青葉区 店舗 7,650.63 H24.5 開示無 2,150 −
森トラスト総合リート投資法人 フレスポ稲毛(旧:クレッセ稲毛) 千葉県 千葉市稲毛区 店舗 39,556.71 H14.3 117 2,100 5.6%
フロンティア不動産投資法人 フレスポ鳥栖(底地) 佐賀県 鳥栖市 店舗 79,447.76 H19.11 236 3,179 7.4%
フロンティア不動産投資法人 コストコホールセール入間倉庫店(底地) 埼玉県 入間市 店舗 24,019.93 H20.7 開示無 2,600 −
フロンティア不動産投資法人 サミットストア横浜岡野店(底地) 神奈川県 横浜市西区 店舗 14,394.09 H24.2 307 5,700 5.4%
日本ロジスティクスファンド投資法人 中部春日物流センター(底地) 愛知県 清須市 物流施設 10,457.02 H18.12 33 685 4.8%
積水ハウス・SI投資法人 りんくう羽倉崎プラザ 大阪府 泉南郡田尻町 店舗 53,276.28 H17.7 376 4,697 8.0%
阪急リート投資法人 ニトリ茨木北店(敷地) 大阪府 茨木市 店舗 6,541.31 H18.3 開示無 1,318 −
阪急リート投資法人 コーナン広島中野東店(敷地) 広島県 広島市安芸区 店舗 25,529.73 H18.10 153 2,175 7.1%
阪急リート投資法人 ららぽーと甲子園(敷地) 兵庫県 西宮市 店舗 126,052.16 H21.1 509 7,350 6.9%
※1 �ここで対象にしている底地取引は、建物保有者である借地人が底地を取得し、完全所有権化するための取引は除いています。
※2 �借地権付き土地そのものを指して底地といい、底地の所有権を底地権という用例も一般的にみられます。
※3 �一般的に底地は、取引において、借地人との合意形成が必要なため、流動性の低い資産と考えられています。
※4 �不動産売買実態調査は、「上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則(適時開示規則)」に基づき東京証
券取引所に開示されている固定資産の譲渡または取得などに関する情報や、新聞などに公表された情報から、上場企業等が譲渡・取得した土地・建物の売主や買主、所在地、面積、売却額、譲渡損益、売却理由などについてデータの集計・分析を行っています。
※5 �ReiTREDAは、証券取引所に上場するJリートが公表するデータを蓄積したデータベースと時系列分析ツールを組み合わせた不動産投融資のためのJ-REITデータ分析ツールです。
1,589
2010年以降次第に増加底地取得額
全体取得額 底地保有額
0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
3,000 (億円)
02年1Q
03年1Q
04年1Q
05年1Q
06年1Q
07年1Q
08年1Q
09年1Q
10年1Q
11年1Q
12年1Q
不動産価値(完全所有権)
更地価値
不動産価値=建物価値+借地権価値+底地価値
借地人保有建物
借地権
底地
4 September,�2012 � みずほ信託銀行 不動産トピックス
底地の取得により、J-REITは地代を得ることになり、借地契約が履行されている間は安定的な収入が期待できます。完全所有権の状態にある一般的な不動産を取得した場合でも、賃料を保証するマスターレッシーとの契約や1棟全体の賃貸借契約で固定的な賃貸条件が設定されている場合など安定的な賃料収入が得られる形態(以下「賃料保証不動産」という。)があります。以下、底地取得の意味合いについて、賃料保証不動産と比較しながら整理します。
【賃料収入に対する配当の割合の視点】 �賃料保証不動産では減価償却費が発生しますが、底地では建物を保有していないため減価償却費が不要※6な分、賃料収入に対する配当の割合を高めることができます。実際の運用実績例でも、減価償却費だけでなく、管理委託料や修繕費などの管理費用の負担※7が小さくなっています。
【テナントとの契約満了時の流動性の視点】 �底地では、定期借地契約の契約満了時のように更地返却を契約事項に盛り込んである場合などでは、建物の用途にかかわりなく契約終了時には一定の流動性を確保することができます。
【テナントの退去リスクの視点】 �中途解約等でテナントが撤退するリスクがあり、賃料保証不動産、底地いずれの場合でもテナントのクレジットと撤退リスクの見積りから、利回りへの加味やペナルティ条項によるリスク軽減などの対応が必要となります。
【まとめ】 �底地取得において、安定的で効率的に配当原資を生成することができる点は長所といえるでしょう。長期保有を前提とするJ-REITにとってこの長所を積極的にとらえれば、底地が特殊な資産ではなく、一般的な資産として広く取得される可能性があります。
[図表1-6]J-REITにとっての底地と賃料保証不動産との比較
賃料収入に対する
配当の割合契約満了時の流動性 テナントの退去リスク
底地 高い契約満了時の更地返却を前提にすると、一定の流動性を確保できる。
中途解約に対して更地化を担保するペナルティを契約事項に盛り込むことで、リスクの軽減を図ることも。
賃料保証不動産(土地・建物) 低い 完全所有権不動産としての流
動性。テナントのクレジットと撤退リスクの検証が重要。
[図表1-5]底地取得時の収支構成例
賃料保証不動産の場合
底地の場合
賃料収入 - 公租公課 - 減価償却費 (- 管理委託料 - 修繕費 - 給水光熱費) → 利益 → 配当
賃料収入 - 公租公課 → 利益 → 配当
底地の場合は、減価償却費等の費用が発生しないため、底地の取得により賃料収入に対する配当の割合を高めることができます。
J-REITにとっての底地取得
※6 �減価償却費は、配当原資を低減させる費用項目であると同時に、キャッシュを内部留保できる重要な財源でもあります。しかし、底地については、減価償却が発生しないため、J-REITの資産に占める底地の割合が過度に大きい場合は、円滑な財務活動に支障が発生する可能性があります。
※7 �賃料保証不動産の形態においても、管理委託料や修繕費などの管理費用をテナント側が負担する形態(ネットリース等)があります。
※8 �オリジネーターが自己保有かつ自己使用していた不動産を第三者に売却し、当該物件の新保有者と賃貸借契約を結び売却後も継続利用する形態を指しています。
※9 �ほかに、企業グループ内への移転(新たに親会社として持株会社を創設し、持株会社に不動産を現物出資することで不動産を持株会社に移転するなどの形態)等が考えられます。
5みずほ信託銀行 不動産トピックス � September,�2012
事業法人にとって底地売却は、不動産の利用を継続したまま流動化を実現する財務戦略の一つの方策です。S&LBと同様の効果が期待でき、事業法人にとっては選択肢が増えたことになります。また、J-REITにとって底地の取得は、安定した賃料収入が期待できる資産の確保であり、事業法人が底地を売却し、J-REITが取得・保有する取引は、双方にメリットがあり、普及する可能性を秘めていると考えられます。
事業法人にとって、不動産の利用を継続したまま行える財務戦略の方策として、従来からセール&リースバック※8(以下「S&LB」という。)等※9が行われてきました。借地借家法の改正後は、完全所有権の不動産を上物と底地に分離して底地を売却することも、不動産の資金化の一つの方策と考えられるようになっています。以下、事業法人にとっての底地売却の意味合いを整理します。
【本業への制約】 �事業法人が事業を行う上で建物へ大きな変更が必要となるケースを想定すると、S&LBの場合は、借家契約となるため一定の制約を受けることになります。底地売却の場合は、建物保有者は当該事業法人であるため、基本的に制約はなく事業の機動性を損なうことはないといえます。
【事業法人のクレジット】 �S&LBの場合、借家テナントとなるため、汎用性の低い用途の不動産では、特に高いクレジットや撤退に対するペナルティが課せられる可能性があると同時に、リース会
見方を変えると、J-REITが、S&LBや底地売却など事業法人の財務戦略の方策の受け皿としても機能するならば、そこにはJ-REITの社会的な意味合いがあるといえるでしょう。
(以上、都市未来総合研究所 仲谷 光司)
計上、実質的に所有しているとみなされないか等、課題が生じます。 �底地売却の場合でも、借地人として相応のクレジットや撤退に対するペナルティは求められると思われますが、建物の用途がたとえ汎用性が低いものであっても大きくは影響しないと考えられます。
【まとめ】 �底地売却の場合に、本業への制約が少ないことは、事業法人にとって大きなメリットといえるでしょう。また、S&LBと同様の効果を汎用性の低い用途の不動産でも期待できることから、広い範囲での適用が想定されます。
[図表1-7]事業法人にとっての底地売却方策の比較
本業への制約 事業法人のクレジット
底地売却 建物を保有しているため、事業への制約は少ない。
借地人として、相応のクレジットや撤退に対するペナルティは求められる。
S&LB一般的な借家契約の場合、借家人には建物の維持や改修の権限はなく、利用が制限されることも。
汎用性の低い不動産の場合、高いクレジットが求められる可能性がある。
J-REITの底地取得・保有の意義
事業法人にとっての底地売却
6 September,�2012 � みずほ信託銀行 不動産トピックス
企業の不動産売買意向と実際の取引行動不動産を取得・売却する場合、売手と買手の需給バランスによって、意向通りに不動産を取得・売
却できないケースが考えられます。本稿では企業の土地購入・売却意向の調査結果と実際の土地売買額のデータを比較することにより、企業が意向通りに土地を購入・売却できているか、全体的な傾向を概観しました。
購入意向は景況感と連動
国土交通省「土地取引動向調査」における企業の向こう1年間の土地購入・売却意向※1と企業の景況感を示す日銀短観の業況判断DI※2
を比較すると、企業の土地購入意向は景況感に1、2年遅行して連動する傾向が見られます(図表2-1)。2009年9月以降は景況感の回復に伴い、購入意向も徐々に増えています。
売却意向は景況感に逆連動するとともに逓減して推移一方、土地売却意向は景況感に逆連動(景況感が悪化(良化)すれば売却意向が増加(減少))するとともに、ここ10年でみると逓減して推移しています(図表2-1)。これは業績悪化や2005年の減損会計の強制適用を見据え、2000年代前半から企業が遊休不動産や福利厚生施設など、非事業用資産を中心に資産売却を進めてきた結果、売却可能な手持ちの不動産が減ってきたことが一因と考えられます。
企業が不動産売却を行う場合、資金ねん出を目的とするケースも多いと考えられますが、この場合は非事業用資産の単純売却に限定せず、使用中の事業用施設をセール&リースバックするなど、売却検討の対象資産を広げることも一考に値するのではないでしょうか。
資料:国土交通省「土地取引動向調査」、日本銀行「短観」
意向増↑
意向減↓ 50
60
70
80
90
100
110
120
130
140
150
‒60
‒40
‒20
0
20
40
業況判断DI(12年6月調査まで記載) 土地購入意向(2区間後方移動平均、02年3月=100) 土地売却意向(2区間後方移動平均、02年3月=100)
製造業の土地購入意向・売却意向(02年3月=100)と日銀短観の業況判断DIの推移
業況判断DI 購入売却意向
01年3月
01年9月
02年3月
02年9月
03年3月
03年9月
04年3月
04年9月
05年3月
05年9月
06年3月
06年9月
07年3月
07年9月
08年3月
08年9月
09年3月
09年9月
10年3月
10年9月
11年3月
11年9月
12年3月
意向減↓
業況判断DI(12年6月調査まで記載) 土地購入意向(2区間後方移動平均、02年3月=100) 土地売却意向(2区間後方移動平均、02年3月=100)
業況判断DI
非製造業の土地購入意向・売却意向(02年3月=100)と日銀短観の業況判断DIの推移
購入意向09年3月:121.3売却意向09年3月:114.9
01年3月
01年9月
02年3月
02年9月
03年3月
03年9月
04年3月
04年9月
05年3月
05年9月
06年3月
06年9月
07年3月
07年9月
08年3月
08年9月
09年3月
09年9月
10年3月
10年9月
11年3月
11年9月
12年3月
購入売却意向
意向増↑
60
70
80
90
100
110
‒40
‒20
20
40
60
0
[図表2-1]企業の土地購入意向・売却意向(02年3月=100)と業況判断DIの推移
企業の土地購入・売却意向は景況感に左右。売却意向は逓減。
<掲載データの出典・解説>※1:国土交通省「土地取引動向調査」の企業の土地購入・売却意向の対象企業は上場企業及び資本金10億円以上の非上場企業。
※2:日本銀行「短観」の業況判断DIは大企業(資本金10億円以上)を対象とした。
※3:財務省「法人企業統計」の土地取得額は「土地(当期末譲受固定資産)」(棚卸資産は含まない)とした。土地売却額は「土地(当期末滅失固定資産)」(=土地売却+減損処理額。簿価ベース。)から減損処理額を減じて算出した。減損処理額は2006年度附帯調査(「固定資産の減損会計」の導入について」)で公表された2003~2006年度の減損処理額とした。附帯調査の業種別の減損処理額は資本金1億円以上のみのため、土地取得額・売買額の対象企業は資本金1億以上の企業を対象とした。なお、製造業の「土地(当期末譲受固定資産)」は2000年以降四半期ベースでおおむね1,000~3,000億円のレンジで推移しているが、2009年1‒3月期のみ35兆円(同時に「土地(当期末滅失固定資産)」に35兆円)と突出して金額が高く、特殊事情と判断し数値の補正を行った(土地(当期末譲受固定資産)を直前4四半期の平均値に代替、土地(当期末滅失固定資産)は土地(当期末譲受固定資産)の補正分を減算)。
*非製造業の土地購入意向はリーマンショックが発生した2008年9月調査とその直後の2009年3月調査において非常に高い結果となっている(両時期とも売却意向も非常に高い)。
7みずほ信託銀行 不動産トピックス � September,�2012
資料:図表2-2、2-3とも国土交通省「土地取引動向調査」、財務省「法人企業統計」
土地取得額 土地購入意向(向こう1年、%)(02年度は02年3月と02年9月調査の平均)
製造業の土地購入意向と土地取得額の推移
0
0.5
1.0
1.5
2.0
02468101214161820
02年度
03年度
04年度
05年度
06年度
07年度
08年度
09年度
10年度
11年度
12年度
(3月調査)
取得額(兆円)
購入意向(%)
購入意向は景況感に連動
土地取得額(不動産除く非製造業) 土地取得額(不動産) 土地購入意向(向こう1年、%)(02年度は02年3月と02年9月調査の平均)
02年度
03年度
04年度
05年度
06年度
07年度
08年度
09年度
10年度
11年度
12年度
(3月調査)
取得額(兆円)
購入意向(%)
購入意向は景況感に連動
0
1
2
3
4
5
5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25
非製造業の土地購入意向と土地取得額の推移
[図表2-2]企業の土地購入意向と土地取得額の推移
02年度
03年度
04年度
05年度
06年度
07年度
08年度
09年度
10年度
11年度
12年度
(3月調査)
土地売却額土地売却意向(向こう1年、%)(02年度は02年3月と02年9月調査の平均)
製造業の土地売却意向と土地売却額の推移売却額(兆円)
売却意向(%)
売却意向は逓減
0
0.5
1.0
1.5
1618202224262830323436
02年度
03年度
04年度
05年度
06年度
07年度
08年度
09年度
10年度
11年度
12年度
(3月調査)
土地売却額(不動産除く非製造業) 土地売却額(不動産)土地売却意向(向こう1年、%)(02年度は02年3月と02年9月調査の平均)
売却額(兆円)
売却意向(%)
0
1
2
3
4
5
14 16 18 20 22 24 26 28 30 32 34
売却意向は逓減
非製造業の土地売却意向と土地売却額の推移
[図表2-3]企業の土地売却意向と土地売却額の推移
次に、企業が意向通りに土地を購入・売却できているか、全体的な傾向を概観するため、土地購入・売却意向と財務省「法人企業統計」※3(前頁)の土地取得額・売却額を比較します※4、5。土地購入に関しては製造業(図表2-2左図)では2005~2008年度にかけ、購入意向が上昇するものの取得額は横ばいで推移し、意向通りに土地の購入が進まなかった傾向がみられます。この時期、不動産売買マーケットは加熱していたにもかかわらず、売り出される物件が減少したこと、その結果、市場性を有する不動産については価格が高騰したことなどが背景と考えられます。同時期の非製造業(同右図)は購入意向と取得額がおおむね連動していますが、高値でも不動産取得を進めた不動産業がけん引したことが一因と考えられます。土地売却に関しては製造業、非製造業(図表2-3)とも売却意向の減少とともに売却額が減少し、全体的には意向に沿った形で売却が進められている傾向がみられます。ただし、意向と売却額にかい離がみられる時期も見られます。例えば、2005年度は売却意向が上昇したにもかかわらず売却額は減少しています
が、これは企業が遊休不動産等の売却を進めた結果、市場性の低い不動産が手もとに残ったことが一因とも考えられます※6。また、リーマンショックにより不動産の取得環境・マインドが大きく低下し、買手不在※7となった2008~2009年度もかい離が見られます。今後、景気回復に伴い企業の不動産購入意向が回復する一方、売り物件の不足が続くとすると、売主、買主とも意向に沿って不動産を取得・売却するための工夫が必要になるケースも考えられます(裏面「Monthly�Watcher」に続く)。
土地購入・売却意向通りに売買できない時期も
※4:企業による不動産取得・売却は事務所、生産施設、店舗等の事業用と投資用に大きく分けられるが、土地取引動向調査、法人企業統計とも目的別のデータは得られないため、企業の全体的な不動産売買動向を概観するもの。
※5:売買金額との比較により意向とのギャップを分析したが、安価な物件は金額に反映されにくいこと、また、法人企業統計の売却金額は簿価ベースのため、売却額が高額でも簿価が低い物件は売却金額に反映されにくい点で課題が残る。なお、企業の土地購入額に関するデータは日銀短観や一般財団法人建設物価調査会「民間企業設備投資動向調査」等でも得られるが、売却額データも得られる統計・調査は少ない。
※6:2005年9月実施の国土交通省「土地投資動向調査」では減損処理した(予定含む)不動産を保有する理由で「買い手が見当たらない」が過半(52%)を占めている。
※7:上記データの対象外である不動産ファンドの影響も大きい。
不動産トピックス 2012.9発 行 みずほ信託銀行株式会社 不動産企画部 〒103-8670 東京都中央区八重洲1-2-1 http://www.mizuho-tb.co.jp/編集協力 株式会社都市未来総合研究所 〒103-0027 東京都中央区日本橋2-3-4 日本橋プラザビル11階 http://www.tmri.co.jp/
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P6-7で述べたように、今後、景気回復に伴い企業の不動産購入意向が回復する一方、売り物件の不足が続くとすると、売主、買主とも意向に沿って不動産を取得・売却するための工夫が必要になるケースも考えられます。以下、実際の売買事例からそうした工夫がみられる事例をいくつか紹介します。不動産の売却に関しては、資金ねん出を目的とするケースも多いと考えられますが、この場合、遊休不動産や福利厚生施設などの非事業用資産の単純売却に限定せず、使用中の本社や生産施設などの事業用資産をセール&リースバックする(図表3-1のNo.1、No.2)、また賃貸不動産の底地を借地権者に売却するのではなく収益物件として不動産ファンドに売却する(同No.3)など、売却対象資産や売却先を広げて検討する事例がみられます。また、保有不動産をマンション用地としてデベロッパーに売却する事例では、売主企業が移転計画や決算対策(売却損益の計上時期)との兼ね合いで今すぐ引き渡しできない状況でも、マンション用地が不足する中、用地確保したいデベロッパーが引き渡し条件に柔軟に応じることにより、売却希望時期と取得希望時期のギャップを調整する事例(同No.4、5)がみられます。不動産の取得に関しては、不動産は代用が効かない性格のため、自社にとって有用と思われる売り物件が出てきた場合(例えば隣地や近隣の土地。同No.6)は自社の業況や不動産マーケットの動向によらず、まずは取得を検討するスタンスが必要です。また、一般事業会社が私募ファンドの物件を投資用としてではなく、本社や事業用として取得する事例もみられ(同No.7、8)※、これらは継続的に幅広く物件情報収集を行うことにより、取得機会を逃さず物件を取得した事例と言えるでしょう。� (以上、都市未来総合研究所 湯目 健一郎)
※日本証券業協会の調査結果によれば、2004年度以降に国内資産を裏付けとして発行されたCMBSは約5兆7千億円で、2011年12月末の残高は1兆8千億円である。CMBSの法定最終償還期日は2012~2014年度に集中(既償還分含む)しており、今後、裏付け物件に売却圧力がかかってくると考えられる。
意向に沿って不動産を取得・売却するための工夫
[図表3-1]意向に沿って不動産を取得・売却するための工夫がみられる売買事例
資料:都市未来総合研究所「不動産売買実態調査」、各社リリース、報道記事
開示時期 No 内容
売却対象資産を拡大し事業用資産や底地を売却した事例
2012年3月 1IT企業がソリューションセンターを不動産ファンド(デベロッパー経由)にセール&リースバック。売主は売却希望時期にデベロッパーに売却、不動産ファンドの取得希望時期に合わせデベロッパーから不動産ファンドへ売却。
2012年6月 2 製造メーカーが工場、事務所、福利厚生施設等の複数施設を一括してリース会社にセール&リースバック。
2012年2月 3 製造メーカーが不動産の有効活用で賃貸していた商業施設の底地を不動産ファンドに売却。
売却希望時期と取得希望時期のギャップを調整した事例
2012年3月 4商社が横浜市の住宅地に立地する本社ビルをデベロッパーに売却。2012年3月契約、2012年9月引渡しとし、引き渡しまでに移転先を確保し、移転予定。特別損失は契約ベースで2012年3月期に計上。
2012年6月 5製造メーカーが23区内の住居系地域に近接した研究開発施設、事務所等をデベロッパーに売却。2012年6月契約、2014年6月引き渡しとし、引き渡しまでの2年間に移転予定。
取得機会を逃さず物件を取得した事例
2011年10月 6 サービス業が本社近隣の土地を取得し新築移転。耐震性・省エネ性を勘案した本社ビルを建設予定。
2012年7月 7 製造メーカーが大阪市内のオフィスビルをSPCから取得。本社ビルとして使用(一部賃貸)。
2012年7月 8 サービス業が大阪市内の商業施設をSPCから取得。事業用施設に建て替え予定。