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-169- 生活科学研究誌 ・ Vo l .1(202) NICU における臨床心理士の役割 一臨床心理援助モデルの検討 - 長滑輝代,松 島恭子 大阪市立大学大学院生活科学研究科 (平成14 8 19 日受付 :平成14 10 23 日受理) RoleofclinicalpsychologistjnNJCU ‥EVa山ationofac仙icalpsychologlCalsupportmodel- TeruyoNagahama and KyokoMatsushima GTaduateSchoolofHumanLL'feSclenceiOsakaCL'tyUnL'veTSJ'tY Summary Theoccurrenceofclinicalpsychologicalproblemsintheperinatalperiodandthepossibilityofclinical psycholog iCa lsupportwereeva luatedonthebasisofactivitiesintheNICU.Theviewpointofcrisisinterventionf or thesupportofthemother-i nfantrelationshipwasimportantinthesupportprovidedbyclinica lpsycholog istinthe NICU.Acomprehensiveapproachtounderstandthestructureofthemother-infantrelationshipwidely encompassingthemother-infantrelationship.familyrelationship,staff・familyrelationship,andrelationshipwithinthe stafratherthanrestricdngthetargettothemothera lonewasefective.Inadditiontopassivesupportinthe interviewroom,activesupportincludingcooperationwithspecialistsinotherfieldswasshowntobenecessary. Keywords:NICU MC U ,臨床 心理士 CIL'nl'calPsycho10g'st . 危機介入 Cn'sL'sLenteTVentlon , 臨床心理援助 cll'nL'calpsycholoBT'Calsupport Ⅰ.NICU における心理臨床の意義 1.NICU とは 本論文は、人格形成の最早期、すなわち周産期 におけ る嘩床心理的問題の把握 と、それに対する臨床心理援助 について考察することを目的としている。本論文で臨床 実践 を行 っているNICU(neonatalinfantcareuni t:新生 児集中治療室)は、新生児の生命維持 を第-の 目的 とし てお り、図 1 の串うに位置づけられる.NICU では必要 に応 じて産婦人科、脳外科、小児外科、心臓外科、 リハ ビリテー シ ョン科、麻酔科 などと連携 をとって治療 にあ l たっている。 新生児のNICU 入院の流れは以下の通り.である。 ( 1 ) NICU 入院までの流れには大きく2 つ のバ ター ンが あ る。一つは周産期 に切迫早産や胎児の異常などの リスク を抱えた妊婦が産婦人科に入院する場合である。このと き、出産までの母親の入院は数 日か ら数か月にわたる。 中には入院期間中、排椎や食事等の日常生活のすべてを 横臥で行わなければならない絶対安静の妊婦 もいる。出 産は、産婦人科医、NICU 担当の小児科医の立ち会いの もとで行われ、出生 と同時に新生児はNICU へ入院する。 ほとんどの場合母親は、自然分娩では一週間、帝王切開 では二週間の産婦人科入院を経て退院する。もう一つは、 出生後新生児に重症仮死などの畢常が生 じたためNICU に救急搬送される場合である。 いずれの場合 も新生児 は、数週間か ら数 ヶ月 とい う長

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-169-

生活科学研究誌 ・Vol.1(2002)

NICUにおける臨床心理士の役割

一臨床心理援助モデルの検討-

長滑輝代,松島恭子

大阪市立大学大学院生活科学研究科

(平成14年8月19日受付 :平成14年10月23日受理)

RoleofclinicalpsychologistjnNJCU‥EVa山ationofac仙icalpsychologlCalsupportmodel-

TeruyoNagahamaand KyokoMatsushima

GTaduateSchoolofHumanLL'feSclenceiOsakaCL'tyUnL'veTSJ'tY

Summary

Theoccurrenceofclinicalpsychologicalproblemsintheperinatalperiodandthepossibilityofclinical

psychologiCalsupportwereevaluatedonthebasisofactivitiesintheNICU.Theviewpointofcrisisinterventionfor

thesupportofthemother-infantrelationshipwasimportantinthesupportprovidedbyclinicalpsychologistinthe

NICU.Acomprehensiveapproachtounderstandthestructureofthemother-infantrelationshipwidely

encompassingthemother-infantrelationship.familyrelationship,staff・familyrelationship,andrelationshipwithinthe

staffratherthanrestricdngthetargettothemotheralonewaseffective.Inadditiontopassivesupportinthe

interviewroom,activesupportincludingcooperationwithspecialistsinotherfieldswasshowntobenecessary.

Keywords:NICU MCU,臨床心理士 CIL'nl'calPsycho10g'st.

危機介入 Cn'sL'sLenteTVentlon,臨床心理援助 cll'nL'calpsycholoBT'Calsupport

Ⅰ.NICUにおける心理臨床の意義

1.NICUとは

本論文は、人格形成の最早期、すなわち周産期におけ

る嘩床心理的問題の把握と、それに対する臨床心理援助

について考察することを目的としている。本論文で臨床

実践を行っているNICU (neonatalinfantcareunit:新生

児集中治療室)は、新生児の生命維持を第-の目的とし

ており、図 1の串うに位置づけられる.NICUでは必要

に応じて産婦人科、脳外科、小児外科、心臓外科、リハ

ビリテーション科、麻酔科などと連携をとって治療にあl

たっている。

新生児のNICU入院の流れは以下の通り.である。

( 1 )

NICU入院までの流れには大 きく2つのバターンがあ

る。一つは周産期に切迫早産や胎児の異常などのリスク

を抱えた妊婦が産婦人科に入院する場合である。このと

き、出産までの母親の入院は数日から数か月にわたる。

中には入院期間中、排椎や食事等の日常生活のすべてを

横臥で行わなければならない絶対安静の妊婦もいる。出

産は、産婦人科医、NICU担当の小児科医の立ち会いの

もとで行われ、出生と同時に新生児はNICUへ入院する。

ほとんどの場合母親は、自然分娩では一週間、帝王切開

では二週間の産婦人科入院を経て退院する。もう一つは、

出生後新生児に重症仮死などの畢常が生じたためNICU

に救急搬送される場合である。

いずれの場合も新生児は、数週間から数ヶ月という長

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-170-「- 生活科学研究誌 ・Vol.1(2002)

芸 人a 「

出産前(母親)

数日一致か

出産後(母親)

帝王切開の場合 2週間

曽通分娩の場合 1週間の入

図1.NICU入院前後の連携機構

期間NICUに入院する。新生児が退院するまでの期間、

両親はNICUでの面会という形で新生児とかかわる。退

院後は小児科専門外来におけるフ*'ローアップで、新生

児の成長を見守っていく。

NICUは、予定日より早 く生まれた低出生体重児や、

出生時に仮死や呼吸障害を里 した新生児、生まれながら

にして重い病気をもった新生児などが入院する施設であ

る。NICU内は温度、気圧にいたるまで管理され、救命

のための最新の機械が所狭しと並び、室内にはモニター

音が響 く。医療スタッフはモニター音に瞬時に反応して、

1秒単位、0.1g、0.1ccの単位での処置が要求される。そ

して、新生児の状態に常に神経を研 ぎ澄まし、最新の注

意を払いながら、最新の医療技術を駆使して新生児自身

の生命力への援助を継続する.o

近年の新生児医療の進歩により、現在では在胎22週~

23週の極低出生体重児も生育可能とされている。出生体

重100Og未満の超低出生体重児は、1960年代までは医療

の対象になることが少なく、生存率は10%以下であった。

しかし、今日では500-999gの新生児で80%の例が救命

可能である1)。その一方で、把握できた乳幼児虐待のう

ち47%が、出生時1000g以下の超低出生体重児であった

との報告2)や、低出生体重児における被虐待児の額度は

成熟児の13.5倍に相当するとの報告3) もあり、救命率が

上がることによって引き起こされる様々な問題も指摘さ

れるようになってきた。医療現場でも、出生直後からの

母子分離や両親の育児不安、NICU退院後に我が子との

関係性に困難を抱えてしまうケースがあることが指摘さ

れるようになり、NICUでの母子に対する心理的ケアの

必要性が徐々に認識されるようになっ た。しか_し、二次

的に発生した母子関係の問題についての臨床的取り組み

は緒についたところであり、NICUの現場で働く心理士

(2)

の数は、そのニーズに比べて圧倒的に少ないのが現状で

ある。

2.親子関係の実際

そもそも周産期とは、厳密には妊娠22週から出産後1

週間をさす。 しかし、橋本 (2001)4)の指摘にあるよう

に、家族のケアという側面から考えると、周産期を母親

にとっての妊娠期と産樽期、子どもにとっての胎児期と

新生児期をあわせた期蘭と考えるのがふさわしいと考え

られる4)。ここでは周産期を家族のケアという視点から、

妊娠期から産樽期までを含む広義になものとして理解す

ることにする。

周産期において女性は、妊娠、出産という大きなライ

フイベントを経験する。妊娠、出産は、古来より繰 り返

されてきた生理的現象ではあるが、母親にとっても新生

児にとっても "死"や "障害''などのリスクを内包する

現象であり、心身に及ぼす影響は計り知れないものがあ

る。また、妊娠初期は、全ての女性が妊娠を肯定的に受

け取っているわけではない。妊娠した女性の生活習慣は

変化を強いられ、妊娠した事実にとまどいを持っている

ことも多い。一方、家族にとっての周産期とは、家族の

一月が増えるという新たな家族システムの構築がはから

れる分岐点であり、それまで妻、夫としての役割を果た

してきた女性と男性が、母親、je'親という新しい役割を

担う時期である。

このように妊娠・出産を含む周産期とは、それを経験

する女性にとって大きなライフイベントであると同時

に、女性を取 り巻 く家族にとっても家族システムの崩

壊 ・新たな家族システムの生成という心理的変動の大き

な時期であるといえる。

問題なく妊娠 ・出産を迎えたとしても、両親の心理的

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長滑 ・松島 :NICUにおける臨床心理士の役割

変動は大きいが、NICUでの親子の出会いは通常の出産

に比して多 くの困難を抱えている。そもそもNICUは、

生命の危機や重大な疾患を抱えた新年児が入院してくる

場所である。両親は、妊娠中あるいは出産時に新生児に

生じた危機を説明される。心の準備ができないうちに出

生直後の親子は引き離され、新生児はNICUへと搬送さ

れていく。両親は我が子に会うために、決められた面会

時間にNICUの扉を開き、履物を変え、ガウンを着用し、

消毒液で手を洗いうがいをして初めて入室できる。

NICU内は温度、気圧などが管理されており、室内には

モニター音が響いている。私たちが "あかちゃんの部屋"

といって思い浮かべるような白くてふわふわとした部屋

からは程遠く、救命のための最新の機械が所狭 しと並ん

でいる。時折モニター音が鳴り響き、スタッフは室内を

忙 しく立ち回る。そこで両親が目にするのは、保育器の

中で気管チューブ、輸液のためのカテーテル、モニター

などのチューブをつながれ、目を閉じて横たわっている

新生児である。横たわる我が子は両親が想像 していた

`̀あかちゃん"のイメージとはかけ離れており、思いも

寄らない姿に両親は強い衝撃を受ける。保育器の中で横

たわる新生児を自由に抱くこともできず、母親も父親も

そっと見守るだけである。

3.心理的援助の現状と必要性 ●

このような親子の出会いは、両親のこころを大きく揺

さぶり、親子の出会いが傷つきからはじまることも想像

に難くない。早産を体験した母親は、胎児に対する対象

愛が十分に形作られる前に出産しているため、思い悩み、

女性としての自己を傷つけられ、喪失感、非現実感、失

敗感におそわれてしまう。

渡辺 (2001)5)は、NICUで2か月間過ごして退院した

乳児の母親が、乳児が泣きやまないことに苦しみ、未熟

児で産んだという負い目から 「私にはこの子は育てられ

ない、この子は障害児に違いない」と思い込んでしまっ

た例を挙げている。また永田 (2001)6)も、2000g弱の

低出生体重児として出生し、1か月間NICUに入院して

いたAちゃんと、そのAちゃんに対して退院後手を上げ

たり口にタオルを押 し当てたりしていた母親の例を挙

げ、「相談できる相手もいないまま一人で苦 しんで」い

た母親を 「産科、NICU、退院後のどこかで母子をしっ

かりと抱えることができていたならば、これほどまでに

悪循環に陥らずに、Aちゃんとの関係性をはぐくむこと

ができたのではないか」と指摘している。

神谷 (1999)7)が、このような母親の精神的負担につ

いて「満期産で生めなかったことに対しての自虐的感情、

(3)

-171-

子どもにかわいそうなことをしたというわが子への罪障

感、今後の予測に対する不安感や焦燥感など心理的には

かなりの葛藤状況」と説明しているように、NICU入院

という危機的状況は、親子の関係性にとって大きなリス

ク要因となりうる。

このように、様々な危機を内包するNICUという場で、

親子が出会い.、傷つきを癒し、新しい関係を構築して新

たな一歩をスター トさせるために、臨床心理援助の果た

す役割は大きい。今回、NICUでの親子の出会いに際し

て、母親をはじめとする家族への危機介入的援助を行っ

た症例をあげ、NICUという特殊な場で起きる母子ユニ

ットの形成、母子をとりまくNICUスタッフと臨床心理

士とのかかわりについて考察する。

Ⅰ.NtCUにおける臨床心理援助の実際

NICUには、様々な危機に直面する乳児と乳児を取 り

巻く家族がいる。本論文では、A総合病院のNICUで行

った臨床心理援助の実際 として4例 を取 り上げる。

NICU、小児科、産婦人科の機構は、図1で説明した通

りである。以下、●事例1,2,4における主治医から要請とは

NICUの新生児の主治医からの要請を指し、事例3にお

ける看護師からの勧めと.はNICUスタッフの看護師から

の勧めを指す。

事例1は、新生児の生命が危機的状況にあり、十分な

気持ちの表現を両親ともにできず苦しんだ 「生と死の狭

間での母と子の出会い」の例、事例2は、経済的な不安

から児に向き合えなかった 「経済的困窮の中での母と子

の出会い」の例、事例3は、実父より虐待を受けて育っ

た 「被虐待児であった母とその子の出会い」の例、事例

4は、我が子を小さく産んだことへの罪悪感から 「パニ

ックにより面会が不可能だった母と子の出会い」の例で

ある。今回の事例はプライバシー保護の観点から、本筋

に影響がない程度に修正を加えた。また事例の中では、l

臨床心理士が現場で呼ばれているままの呼称 「カウンセ

ラー」をそのまま用いている。

以下にその面接過程を述べる。

【事例 1】一生と死の狭間での母と子の出会い-

Aちゃんは30代半ばの両親の第2子で、他院にて満期

出産後、重度の心疾息が判明した。救急搬送されNICU

に入院となった。

Aちゃんの予後が悪 く両親の心理的混乱が予想される

との理由で、NICUの主治医の要請をうけてカウンセラ

ーは面接を行った。

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-172- 生活科学研究誌 ・Vol.1(2002)

面接で両親は 「特になにがというわけでもなく」「と

りあえず医者に勧められたから」心理面接を受けただけ

といい、「困ったことはない」と話した。「ただ、しいて

言うなら・・・」とAちゃんが生まれたことを、第1子

であるお兄ちゃんに話したほうが良いかどうかで、.-夫婦

の意見が対立していることが話された。父親は、Aちゃ

んがたとえ数日しか生きられなくてもそ.れが現実であ

り、事実をごまかして嘘をつくのはいけないと思ってい

るが、母親の実家から "生まれなかったことにしたらよ

い"と言われでいること、母親もそれに賛成しているた

めお兄ちゃんに知らせていないことを話した。それにつ

いて母親は、実家の祖父母の意見を 「お兄ちゃんに教え

てつらい思いをさせたくなしうってこと」と擁護し、カウ

ンセラーの目の前で父親と母親が口論となった。Aちゃ

ん誕生後、両親の間でAちゃんについての話題は避けら

れており、これが初めての口論である様子だった。話し

合いは平行線で折り合いがつかずこ父親も母親も最後に

は横を向き押し黙ってしまった。そこで、カウンセラー

が家で待っているお兄ちゃんにつし,て尋ねると、父親も

母親もたいへんお兄ちゃんをかわいがっている様子が話

された。カウンセラーが<お兄ちゃんは、あかちゃんの

こと、どう思っているのでしょう?>と尋ねると、父親

も母親も、最近お兄ちゃんがピタリとあかちゃんの話を

しなくなったことに気がついていた。そして母親が 「な

にも言わないけど、お兄ちゃんはきっと気づいていると

思います」といい、イ実は私の弟も、私が6歳のとき重い

病気をもって生まれて ・・・私は気づいていたけど、あ

かちゃんのことを両親に言ってはいけないと思ってい

た。ずっと両親があかちゃんにかかりきりで、・私はあの

時寂しかった」と涙を流し始めた。それを聞いて父親も

「最近お兄ちゃんが ん僕とお母さんとお父さんはずっと

家族だよね"って言ってくる。本当にいい子なんです」

と涙を流し始めた。

そこでカケンセラーは父親に対して、<母親が今のお

兄ちゃんと同じような状況でがんばらざるを得なかった

辛い過去を持っており、だからこそお兄ちゃんがこれ以

上苦しまないようにしてあげたいと思っているのではな

いか>と話し、母親に対しては<父親は、事実だから嘘

をついてはいけないというだけじゃなく、お兄ちゃんを

訳の分からない不安な状況にさらし続けたくない気持ち●

から告知が必要t=.と思っているのでは?>と話し、<両

親どちらともAちゃんのことも、.お兄ちゃんのことも大

事に思っているからこそ苦しんでいるのですね>と続け

た。さらに沈黙の後、母親が 「やはりいつまでも隠して

おくわけにはいかない」と顔をあげ、父親も 「後は家族

で考えます」と言い面接を終えた。

両親からの面接継続の希望はなく、カウンセラーは、

面会中'に保育器の横に倖む両親とともに無音で仔むだけ

であった。面接から一カ月後iAちゃんは短い生を終え

た。最後は両親の希望で、Aちゃんは母親の胸に抱かれ、

父親とお兄ちゃんに見守られながら息を引き取ったとの

ことであった。

【事例2】「経済的困窮の中での出会い-

Bちゃんは20代後半の母親の第1子で、妊娠8か月日、

1100g台の極低出生体重児で生まれ、NICUに入院とな

った。

カウンセラーはNICUの主治医から、母親の家庭背景

が複雑で不安が高いようなので一度話を聞いて欲しい、

との要請を受けて面接を行った。

-回目の面接には母親と母親の実母がやってきた。母

親は、Bちゃんがいつまで入院しなければならないかに

ついて危倶していた。というのもBちゃんの父親と母親

は近々離婚を考えており、父親はBちゃんの入院に関し

て経済的な負担を一切拒否し、父親からの認知を得られ

るかどうかも分からず、保険の手続きも行えていないと

のことだった。また、Bちゃんが生まれて1週間もたっ

ていないにも関わらず、「できることなら費用がかさむ

ので入院期間を短 くしてもらいたい」「生まれたのは嬉

しいが、こんな状態なので素直に喜べない」などと、面

接は経済的な不安についての話に終始していた。このよ

うな経済面の不安から、母親はBちゃんへ意識を向ける

ことができない状況であると考えられた。そこでカウン

セラーは、<離婚などの トラブルがある中、・よくがんば

っていらっしゃるんですね><生活の基盤がしっかりし

ていないときは、いくらあかちゃんがかわいくても素直

に喜べないのは当然>と保障した。その上で、保険制度

や生活補助などの実際的な話について相談にのるソーシ

ャルワ-カニがいる事を説明し、まずは母親の生活が安

定するようにソーシャルワーカーとの面談を勧めた。す

ぐにソーシャルワーカーとの面談を実施し、生活支援の

ための補助を利用できると決定してから、母親は面会中

徐々にBちゃんへの愛情を口にするようになってきた。

-回目の面接から2カ月後、母親からの希望があり2回

目の面接を行った。面接室に入るなり母親は、「退院間

近であるため直凄母乳を与える練習をしたが、Bちゃん

が母乳をうまく飲んでくれないので焦った」「焦りから

だんだんパニックになり、看護婦と主治医に "今す ぐ退

院させてくれ"と大声を出してしまった」「家に帰って

から "今退院してもBちゃんがしんどいだけ"と反省し

(4)

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長滑 ・松島 :NICUにおける臨床心理士の役割

た」などと話された。母親は 「看護婦さんたちに変なお

母さんだと思われて、Bが冷たくされるのではないか」

と悩んでいるようであった。

母親がパニックになったのは、「どうしても母乳で育

てたい」という母親としての強い思いと、さらには 「わ

たしがBにしてやれるのは母乳をあげることだけ。それ

ができなくなると、この子は私が母親であることを忘れ

てしまうのではないか」という不安が関係 しているよう

であった。そこでカウンセラーは<お母さんが、我が子

を思うあまりに焦るのは当然のこと><スタッフも、お

母さんのBちゃんに対する思いはよくわかっているか

ら、お母さんを変だと思ったりBちゃんに冷たくしたり

しない>と伝えた。その上で<でも、こうやってお母さ

んの気持ちを教えてもらうともっと分か りやすいから、

スタッフにも伝えたいと思うのですが、いいですか ?>

と尋ねたところ、母親は 「それをお願いしようと思って

面接を希望しました」と答えた。

【事例3】一被虐待児であった母親の出会い-

Cちゃんは20代後半の両親の第2子で、妊娠8か月半ば

1700g台で生まれ、NICUに入院となった。母親は、C

ちゃんを出産する4週間前から、早産抑制のため産婦人

科で絶対安静の入院生活を送っていた。

面会中に母親がCちゃんに触れることができない状態

をNICUの担当看護師が危倶 し、看護師からの勧めで母

親との面接を行うことになった。

面接で母親は 「私ががんばれなかったから小さく生ま

れてしまった」「主治医に促されても、怖 くてあの子に

さわれない」と自分を責めた。一方、突然母親は、領さ

ながら黙って聞いているカウンセラーに「ごめんなさい、

私の話が下手だから黙っているんですよね」と姿勢を正

して向き直ったり、そうかと思うとす ぐに目線をそらし

てしまうなど、まるで何かに怯えているようであった。

そうした母親の様子にカウンセラーは違和感を覚えた。

そこでカウンセラーが母親の現在の体調について尋ね

ると、「(妊娠中絶対安静の時間が長かったため)急に動

いて全身筋肉痛。医者にも"普通は歩ける状態ではない"

と言われた」と話 した。カウンセラーが<もしかしたら.

がんばりすぎている状態では ?>と尋ねると、母親の複

雑な家庭背景が話された。母親の実父は家族に暴力を振

るい、実母が実父に殴られる様子をずっと目の当たりに

していたこと、母親自身も実父から暴力を受けて育った

こと、母親が結婚するとき実家から逃げ出せてホッとし

たこと、その一方で自分だけが逃げ出してしまって罪悪

感を感じてきたことなどが語られた.つし.、最近、実母の

(5)

-173-

離婚が決まったところであり、そのため実家に頼るわけ

にもいかず、逆に情緒不安定な実母の面倒をみていると

のことたった.母親は面接中、「私がどうにかしなけれ

ばと思う」と何度も繰 り返した。<お母さんは、自分の

幸せを後回しにして、周 りの人の幸せを一番に考えてし

まうタイプのようですね>と尋ねると、母親は深 くうな

づいた。母親自身が人との付 き合いが苦手であり、頼み

た、第1子であるCちゃんの姉の育児にすでに疲れてお

り、退院したら 「キレてしまうかもしれない」とつぶや

いた。<今までご主人に頼みごとをしたことは ?>「一

切ありません」<もし頼んだとしたら?>「多分、やっ

てくれるとは思う」といいつつ、夫に頼みごとをすると

怒られてしまうような気がして甘えたりできない、と続

けた。

カウンセラーから母親に、<ご主人の機嫌がいいとき

に第1子の育児を頼んでその反応をみること><ちょっ

と空いた時間を見つけたら少 し横になってみること>を

提案した。また、あかちゃんマッサージの効果を説明し、

看護婦と一緒に少しずつマッサージをしてみることを勧

めて面接を終えた。

1回目の面接から1か月間後の退院間近のある日、たま

たま筆問に訪問していたカウンセラーはCちゃんと母親

にお会いした。母親は、気づかずに通 り過ぎようとした

カウンセラーを呼びとめ、Cちゃんをコットから抱 き上

げて 「抱っこできるようになったんです。抱っこしてい

るところを写真にとってもらえますか」と頼み、「もう

じき退院します」と笑顔をみせた。カウンセラーはCち

ゃんとCちゃんを抱っこして微笑む母親の姿を数枚カメ

ラにおさめた。

【事例4】-パニックにより面会が不可能だった母親の出会い-

Dちゃんは20代前半の両親の秦1子で、早期破水のた

め1100gの超低出生体重児で生まれ、NICUに入院した。

母親は面会を 「一人でDに会うのか怖い」との理由で

昼間は行えず、面会は父親と一緒の夜の時間に限ってい

た。1週間たっても面会中に涙を流 しつづけ、むしろ泣

き崩れてしまう様子がみられるようになった。このよう

な様子か ら、 カウンセラーによる危機介入が必要 と

NICUの主治医が判断し、母親に面接を勧めた。

面接では、母親は着席するなり 「小さく産んだことが

申し訳ない」「Dを見ていると涙が出てきてとまらない」

「私だけ先に退院 してしまって、Dだけ置いていってし

まった」「Dがし、ろんな機械にくくりつけられているの

を見ると私が悪いことをしてしまったって思って辛い」

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-174- 生活科学研究誌 ・Vol.1(2(泊2)

「あんな風にしか産めなかったのに、私だけ泣いてしま

って、こんなのでは母親失格だ」などと一気に話し始め

た。母親が言い尽くすまで待っていると、そのうち話し

はDちゃんへの面会に及んだ。「NICUに入ると頭が真っ

白になってパニックになる」こと、「怖 くて泣いてしま

うので一人で面会に来れない」ことを話した後、「実は

一度だけ 『泣いてばかりじゃいけない、母親なんだからJ

と勇気をふ りしぼって一人で面会に来たことがあった」

と話し始めた。しかし、たまたまDちゃんのベッドに医

者が集まっており、それをみた母親は 「Dが死んでしま

った」と思い、ノヤニックになってDちゃんに面会するこ

となく家に帰ってしまったのだという。その日から、面

会中に泣き崩れて、途中でNICUを出ていってしまうよ

うになった、とのことだった。

そこでカウンセラーは、「あの子をあんなふうにしか

産めなかったのに、自分だけ泣いて情けない」という母

親に<お母さんが泣 くのは当然だと思います。それだけ

の辛い思いをされているのですから>と伝えた。すると

母親は涙を流 し、しゃくりあげ始めた。「そんなこと言

われたのは初めてです。友達もみんな `̀お母さんだから

しっかりして"って言うし、主人もおじいちゃんもおば

あちゃんも ●̀泣きたいのはDだぞ、母親がそんなことで

どうする"って言うし、私も母親なのにこんなんじゃい

けない、つて ・・・」。<先ほどから母親なのに泣くな

と言われているとおっしゃられているけれども・・・母

親だから泣くんですよね。母親以上に泣きたい気持ちを、

いったい誰が持っているんでしょうね。だから、泣くの

は母親の特権ですよね>とカウンセラーが話すと、母親

はパッと顔をあげて 「泣いてもいいんですよね - ・・

よかった ・・・」とさらに涙する。面接終了時、NICU

入院当初、母親がカウンセリングを受けたいと父親に相

談したところ `̀カウンゼリングを受けたら変だと思われ

る"と反対されていたと話す。<きっとご主人も、お母

さんの様子を見て、心配のあまり、どうしていいのかわ

からなかったのかもしれませんね>と伝えると 「私が泣

いてばかりいたから」と笑う。

次の週、母親が一人でDちゃんと面会していた。カウ

ンセラーが声をかけると母親から、前回のカウンセリン

グの後夫婦で話し合い父親が納得してくれたこと、祖父

母も 「なんだ、泣いてもいいのか」と言ってくれるよう

になったこと、しかし不忠議なものであ'の日から面会中

に泣かなくなったこと、それを見て父親も祖父母も 「早

くカウンセリングを受けておけばよかったな」と笑って

いることが話された。また前回のカウンセリング以降、

最初は少し緊張したものの、母親一人での面会が可能に

なったことも話された。

Ⅱ.考察

今回の4つの事例では、NICUという場で親子が出会

う様々な形を抽出した。NICUでは、事例1のような身

体的な生と死の狭間での親子の出会いに限らず、他の事

例に見られるような新生児を取り巻くシビアな環境も親

子の出会いに大きな影を落とす。

以上の点を踏まえて、事例の経過から、傷つきをもっ

て出会った親子のユニットに臨床心理士がどのような役

割を果たし得たのか、NICUという特殊な場での親子の

出会いをNICUスタッフがどう支えていったのかについ

て、母親と臨床心理士の関係、NICUスタッフと臨床心

理士の関係について考察を行い、NICUにおける母親 ・

スタッフ ・臨床心理士の関わりを図示する。

1.母親と砲床心理士のかかわり

a.母子ユニットの形成

「子は授かりもの」といわれながら、現在、妊娠 ・出

産は現代科学の進歩によって支配されつつある。子ども

を産むことが母親の意志である程度コントロールでき、

人生のプランにあわせて子どもを産むことが可能になっ

てきている8)。 しかし、NICUへ搬送される新生児は、

両親の意志や想像を超えて人生のプランにない緊急事態

で生まれる。その事態に母親、父親は狼狽し、母子一体

のユニットを形成できないことがある。

事例 1の場合、健常な妊娠期間を経て出生したAちゃ

んに、深刻な疾患が指摘され、両親や祖父母は混乱状態

におちいった。カウンセリングでは実家の祖父母の言う

"生まれてこなかったことにしたら良い''という考えを

めぐって、これを擁護する母親と非難する父親という構

図が浮き彫 りとなった。面接の様子から、Aちゃん誕生

後、Aちゃんの話はタブー視され、夫婦間で十分な話 し

合いが持てていないことが推測された。しかし、それは

決して "生まれなかったことにしたら良い"という判断

からではなく、母親、父親ともにAちゃんとの出会いに

傷つき、●起こった事態をどのように受けてとめてよいか

わからない結果のようであらた。さらにNICU入院のた

めにAちゃんと物理的に引き裂かれるという危機に陥っ

た母親は、`̀どうせ死ぬのだから''という諦めをもって

自分自身の心に蓋をして、母子のユニットを形成できず

にいたことも影響 していた。その結果、母親は、実家の

祖父母のいうように●̀生まれなかったことにしたらよい…

(6)

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長滑 ・松島 :NICUにおける臨床心理士の役割

という考えによって、母親がAちゃんに向けるはずのエ

ネルギ一・に蓋をし、他方、父親はAちゃんへの思いを母

親と祖父母への怒りに変えてしまい、両親ともにAちゃ

んに対峠できていなかった。

事例2の場合、カウンセリングの内容は経済的な不安

に終始していた。母親は救命のための治療が不可欠であ

ることを認識しながらも 「費用がかさむので入院期間を

短くしてもらいたい」と口にした。また、「生まれたの

は嬉しいが、こんな状態なので素直に喜べない」という

母親の言葉に表されているように、家庭の経済的な不安

があまりに強く、母親としてBちゃんに向けるはずの思

いが不安におおわれて、見えなくなってしまっているよ

うであった。

事例3の場合、母親は 「私ががんばれなかったから小

さく生まれてしまった」ため 「怖 くてあの子にさわれな

い」と訴えた。その背後にはCちゃんに対する強い罪障

感が感じられた。さらに母親自身が虐待を受けて育った

という家庭背景へと話がすすんだ。母親自身が常に 「私

がどうにかしなければ」と思って育ち、そのためCちゃ

んの誕生や、第一子であるCちゃんの姉の育児について

強い不安をもちながらも、父親に相談できていないこと

が判明した。過去に受けてきた実父からの理不尽な暴力

のために、母親は人に頼ったり甘えたりすることが困難

であるのではないか、と推測された。そして、これまで

はなんとかがんばってこれたものの、今回の思いがけな

い小さなCちゃんの誕生によって "自分だけではどうに

もできない"状況に追い詰められ、そのため 「キレて」

「どうなってしまうかわからない」とという言葉が口を

ついたものと考えられた。母親がこれまで選択してきた

''自分一人でな4,とかする"方法が破綻 し、母親一人で

はどうにもできない状況に混乱 して、Cちゃんへ向かう

はずの思いが 「どうなってしまうかわからない」という

不安に取って代わられている状態にあると考えられた。

事例4の場合、母親は 「小さく産んだことが申し訳な

い」「私だけ退院 して、Dだけ置いていっそしまった」

「あんな風にしか産めなかったのに、私だけ泣いてしま

って、こんなのでは母親失格だ」などのDちゃんに対す

る済まなさと、周囲から `̀母親なら泣くな"と言われて

いるにも関わらず、それでも泣いてしまう自分に対する

罪障感を語った。周囲からの "母親がそんなことでどう

する"などの言葉は、母親を励ますためのものであり、

もちろん、母親もその真意を理解しているものと思われ

た。しかし、周囲のそのような思いを理解しているから

こそ、泣かずにおれない自分に対して、母親失格ではな

いかという不安を増していた。母親の思いは "泣くから

(7)

-175-

母親失格""母親である私がDちゃんをあんなにしてし

まったのに情けない"●̀だから私が一番悪い"となり、

Dちゃんへ向かうはずの思いが、自責の念に覆われ見え

なくなってしまっているものと思われた。

いずれの事例でも、新生児は出生して間もなくNICU

へ搬送され、母親と新生児は物理的な分離を余儀なくさ

れていた。新生児はNICUという "場"でゆっくりと身

体的な成長を遂げていくが、その成長と同じリズムで母

子の関係が育っていくわけではない。事例 1では夫婦間

の意見の対立と母親の過去の傷つき、事例2では夫婦関

係の崩壊と経済的な不安、事例3では被虐待体験に由来

する自己犠牲パターンの破綻、事例4では新生児に対す

る自然な情緒を周囲から責められることで湧き上がる自

責の念、などが母子の関係の成長を阻む要因と考えられ

た。

通常の出産であれば、周囲からの祝福とサポー トを受

け、母子間のやりとりの中で母性が触発されやすく、母

子の相互関係が育ちやすい環境にある。しかしNICUで

は物理的に分離された母子が、新生児期の発達障害、母

親の罪障感や傷つきなどによって、心理的な距離をさら

に広げてしまう。また、母親にとって新生児とは、今ま

で母親の中に宿っていた我が身体の一部である。新生児

の障害は、母親に新生児への心配、不安を喚起するだけ

でなく、満足な結果を産み出せなかった我が身への嫌悪、

まなさをも引き起こす。母親は、このような不完全なお

産、罪障感を伴う親子の出会いの中で、母親としての母

性の傷つきを経験し、さらに妻として、女性として、個

人としての失敗感を経験するのである。母親の心には、

なんとかして新生児と関係を持ちたいという思いと同時

に、新生児との関係を切 りたいというアンビバレントな

思いがあると考えられる。.

しかし、親と子の鮮一数ヶ月間、母親の身体とまさに

一体となって過ごしてきた我が子との鮮-は、それほど

簡単に切れてしまうものではない。カウンセリングの場

では、母性の体現者としての母親という存在だけではな

く、個人として、妻としての思いを、当然のものとして

受け止める。母親はカウンセリングで、一人の人間とし

ての過去の傷つき、夫との関係に心を占拠される妻q)哀

しみ、などの心情を吐露する。そして、"今にも死にそ

うな我が子を見ずに逃げてしまいたい''"子どもの命よ

り明日の生活が不安''"育児を放 り出してしまいたい"

などの母親の弱い部分、他人に語ることのできない本音

の部分を、母親と臨床心理士はともに味わい、臨床心理

士はそれを認め、受けとめる。今まで、"母親としてあ

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- 176- 生活科学研究誌 ・Vol.1(2002)

るまじき思い"にとらわれて身動きできなく.なっていた

母親が、臨床心理士という同伴者を得て、自らの思いを

語 り、その真意を同伴者に理解されることで、それまで

持っていながらも覆われてみえなくなっていた我が子へ

の思いに到達できたものと考えられる。

b.危横介入的視点

NICUにおける母親と新生児の出会いは危機に直面し

ていることが多い。キャブラン (1961)9)は危機状態を

「人生上の重要目標が達成されるのを妨げられる事態に

直面したとき、習慣的な課題解決法をまず初めに用いて、

その事態を解決しようとするが、それでも克服できない

結果発生する状態」としてい/a.そして、危機状態にい

る人は、それまでもっていた自分の習慣的対処方法を便 ■

いきってしまい、不安と混乱、睡眠障害、食欲不振、彰

的状態など様々な精神症状を伴うとしている。

事例1では、それまでタブーとなっていたAちゃんを

巡って母親と父親が口論をしはじめた。母親も父親も我

が子の生命の危機という状況に傷ついており、それぞれ

の思いに対して誤った認識、情報不足によるゆがんだ認

知を持っているように思われた。そこで臨床心理士は、

母親の "あかちゃんをいなかったことにしたい●'という

気持ちを< (Aちゃんの)お兄ちゃんと同じような状況

でがんばらざるを得なかった辛い過去をもって>いる母

親だからこそ<お兄ちゃんがこれ以上苦しまないように

してあげたいと思っている>という新たな意味づけを行

った。父親の思いについても<事実だから嘘をついては

いけない>というのではなく、<これ以上お兄ちゃんを

訳の分からない不安な状況にさらしつづけたくないから

こそ告知したいと思っている>という新たな認識を提示

した。

事例2で臨床心理士は、経済的な不安を口にし続ける

母親に対して<トラブルのある中、よくがんばっていら

っしゃる><生活の基盤がしっかりしていない時は、あ

かちゃんがかわいくても素直に喜べないのは当然>と認

めたうえで、母親をとりまく環境を好転させるべくソー

シャルワーカーとの面談を設定した。

事例3の母親は、複雑な家庭背景から自己犠牲の上に

対人関係を構築しており、CちゃんのNICU入院という

危機状態をきっかけに、母親自身が心理的に不安定にな

ると危供された。臨床心理士は話の流れから父親のサポ

ー トが得られると判断し、母親に対して父親に育児を頼

んでみるよう捷案した。また、母親に対しては体を休ま・

せるよう指示し、できるだけ母親が自己犠牲を払うこと

なく取 り組めるよう配慮した。

事例4では、父親をはじめとする周囲のサポー トが整

っており、母親の心理的混乱は異常事態における正常な

反応と考えられた。ただ亘親は、"泣 く"ことにネガテ

ィブな評価を与え、その評価ゆえにさらに母親として失

格であるという思いにとらわれているという悪循環の中

にあった。そこで臨床心理士は、涙を流すことを母親の

当然の権利と位置づけ、泣 くことにポジティブな評価を

与えた。七のことは、泣かざるを得ない母親にもポジテ

ィブな評価と保障を与えることにつながった。

これらの臨床心理士の介入は、山本 (1986)10)のいう

危機介入の検討の項目に対応している。それぞれの介入

方法は、状況や事件の意味づけや認識の仕方に対して、

別の意味づけや認識のしかたのヒントを与えてみる (辛

例 1、事例4)、利用可能な福祉機関などの専門機関、専

門家を導入する・(事例2)、利用可能な外的資源を利用せ

ず一人きりで対応しているこ-とが多いため、利用しやす

いように指示することで外的資源を利用 しやす くする

(事例3)、などの危機介入の検討項目に合致するもので

あった。

危機が内包する意味はネガティブなもめだけではな

い。「危機」は、不安 ・危険としての 「危」と、転機の

「機」から成る。つまり∴「危機」とは "運命との出会い

の時期"であり、成長促進可能性を有する "分かれ目の

時"ともいえる (山本1986)10)。危機を転換点ととらえ

ることで、適応への過程の出発点と定義することもでき

よう。今回の事例における危機介入的視点は、母子のユ

ニットの形成、ポジティブな関係への転機という重要な

意味を持つと考えられた。

2.NICUスタッフと曲床心理士のかかわり

今回の事例で臨床心理士は、先に述べたように危機介

入的視点を持って母子のユニットの形成を目指す関わり

をもったが、カウンセリングを行った後のフォローは臨

床心理士だけでなくNICUスタッフとともに行ってい

る。今回の4つの事例において、臨床心理士が面接の内

容をNICUスタッフにどのようにフィー ドバックしたの

か、母親、父親、母子のユニットがどのように変化した

か、その変化を受けてNICUスタッフと臨床心理士がど

のような対応を行ったか、について以下に述べる。

事例 1では、NICUスタッフから、"カウンセリング

を受けてから、今まで泣くことのなかった母親が、最近

Aちゃんの横で泣いてばか りになってしまい心配であ

る''との相談を受けた。そこで臨床心理士は、母親が泣

くようになったのは、それまで切.り捨ててしまおう思っ

ていたAちゃんのことを受け止め、向き合いはじめた証

拠であると説明し、現在のAちゃんの母親の反応は "母

(8)

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長滑 ・松島 :NICUにおける臨床心理士の役割

親"として当然の反応であるので、じっくりと見守って

ほしいとお願いした。その後、臨床心理士が両親と面接

することはなかったが、常にNICUスタッフが母親のそ

ばに寄り添い、面会中の母親の涙を当然あるべきものと

して見守り続けた。父親がカウンセリングの最後に 「後

は家族で考えます」と語ったとおり、Aちゃんの最後は

Aちゃんのお兄ちゃんも含めた家族4人で過ごすことが

できた。これ′は母子を含めた家族全体が、NICUという

器の中で支えられ、家族の関係性を育てることができた

結果であるともいえよう。

事例2では、母親からの希望で2カ月複に2回目の面接

を行った。臨床心理士は事前にスタッフから-"母親が突

然退院させてくれと言ってきて対応しかねている'●との

連絡を受けていた。NICU内では、その他にも真意が測

りかねる言動を繰 り返すBちゃんの母親に対して、どの

ように理解 してよいのか、スタッフの中でも章兄が分か

れているとのことだった。母親との2回日の面接の中で

は、1回目の面接時には見られなかった母親としての心

情が確認できた。そこでスタッフには、母親は一見淡々

として強そうに見えるが∴NICUへのBちゃんの入院や

離婚の トラブルな●どから母親としてだけではなく女性と

しても傷ついてお り、Bちゃんへの思いが焦 りとなって

理解 しがたい言動になっている可能性があることを伝

え、理解を求めた。我が事のように頭を悩ませていた担

当スタッフも、母親がBちゃんへの愛情を深めているこ●

とに安心し、スタッフ内での母親への対応が統一された

ことを喜んだ。

事例3では、母親が面会時にみせる過敏な様子につい

て担当スタッフも心配していた。臨床心理士は面接後に、

母親が今までがんばらざるを得ない家庭背景を背負って

きたことをスタッフに説明した。また、母親がより適切

に外的資源を活用できるよう、臨床心理士から "父親に

頼ること"と "母親自身の休みを取る・こと"を指示した

と伝えた。そしてその真意は、母親が罪悪感をもたずに

"指示されたから仕方ない''という形で外的資源を活用

できるようにすることであり、この指示が逆に重荷にな

っている様子であれば、いつでも中止するべ く見守って

いて欲しいと伝えた。また担当スタッフに対し、Cちゃ

んにタッチできないお母さんのペースを急がせることな

く、ゆったりと気を配ってほしいとお願いした。

担当スタッフは母親の境遇に共感し、自分がついてい

るから安心するようにと母親に保障し、見守 り続けた。

その後の面会の様子から、父親がCちゃんの姉の面倒を

見るようになり、母親がより長い時間Cちゃんと面会で

きるようになったこと、担当スタッフに励まされながら

(9)

-177-

Cちゃんを抱っこできるようになったことが臨床心理士I

に報告された。退院間近に母親が臨床心理士を呼びとめ

てCちゃんを抱っこしている写真を撮ってほしいと頼ん

だのは、Cちゃんをしっかりと抱っこできるようになっ

た様子を臨床心理士に見せたかったからだろうと思われ

た。

事例4の担当スタッフは、母親のあまりの混乱ぶりに

`̀どう声をかけて良いかわからない"との不安を持って

いた。母親も面接のなかで 「私が泣 くと、看護婦さんも

困っていて、それをみるとますます涙が止まらなくなる」

と訴えており、不安が不安を事ぶ悪循環が存在していた。

しかし母親は、担当スタッフと母親との育児ノー ト (交

換ノー トのようなもの)の中で、スタッフが "私もまだ

キャリア'の短い看護婦で、不安になっているお母さんを

支えることができなくて申し訳ない''と率直な気持ちを

表明していたことに言及し、「プロの看護婦さんだって

新米だっ一たら不安になる、私も新米のママだから同じで

もいいんだと思った」と面接で語っている。担当スタッ

フの母親を思う率直な青葉が母親の心に響き、それが母

親とスタッフの信頼につながったものと思われた。臨床

心理士は担当スタッフに対し、母親のDちゃんへの心理

的な受け入れや夫婦関係がともに良好であるため、自信

を持って母親の感情のゆれを見守ってもらうようにお願ヽ

いした。

上記の事例からもわかるとおり、母子の日常をサポー

トするのはNICUのスタッフである。橋本 (2000)ll)は

NICUが親子の関係性を育むにふさわしい 「場」・である

ためには、図2に示 したようにNICUが親と手を 「抱え

る環境」として機能しなければならない、と述べている。

NICUでは、子どもを支え、親を支え、親子の関係その

ものを支えるという3つのアプローチが、同時に有機的

に行われる必要性が指摘されている。その意味で、親子l

の出会いが危険なもので終わるか、転機 となるかは、

ノ■●●J■l■■■一一●′■●

㌔\●■

_.._..亙 ..I.、..

'r① 塗)① 治療 ②傷つきを癒す

Ⅱ// 王子が育つ

親を育てる

ー●一一\●●、●●

?

子を雷てる

親として育つ

.ヽ._ ③関係性が育つ

I.一一●一一●■_..-■●l--一一一●I-一一一●′■●■

/ ●

′●●′

●■/■

図2.「抱える場」としてのNICU (橋本 (2000)川 より抜粋)

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-178- 生活科学研究誌 ・Vol.1(2002)

NICUという器の中のスタッフの力が大きく影響してく

るといえよう。

今回の4事例では、臨床心理士による母親の状況につ

いての解釈がスタッフに伝えられ、NICUの場でおこっ

ている様々な心的力動をスタッフとともに吟味してき

た。母親の真意をはかりかねる言動一例えば新生児の治

療の打ち切 りを希望したり、新生児の成長に対する否定

的な言動-があった場合、NICUのスタッフが親子の関

係を支えることは大変困難になる。なぜならばNICUの

第一の機能は、治療を通して新生児の生命を支え、成長

を応援することであり、そのために日夜取 り組んでいる

からである。しかし、母親にとってそれらが良しとされ

ない考えだとわかっていても.、新生児に対する拒否感や

絶望感を伴う複雑な感情を持ってしまうことは先に述べ

たとおりである。そこで、母親の思いを臨床心理士が受

けとめ、母親の真意をよりわかりやすい形でスタッフに

伝えることは、表面に現れた母親の言動に左右されてし

まう危険性を減少させることにつながる。それはNICU

の抱える場としての機能を充実させる意味があると考え

られる。その意味で、NICUにおける臨床心理士は、母

親と母親自身、母親と家族の間、母親とスタッフとの間

を、翻訳し、伝え、つなぐ役割をもつと考えられる。

また、担当スタッフが昏親とともに揺れ、母親と同様

に不安になったり (事例1、事例3、事例4)、周囲に理解

されないことで母親と同様に傷ついたり (事例2) して

いる点は興味深い。母親がNICUという 「場」に抱えら

れ、担当スタッフとより強固なつなが りを持ちはじめる

と、母親が感じてるであろう不安や傷つきと同様の揺れ

をスタッフが感じたり、傷ついている母親を守ろうとい

う気持ちがスタッフに湧き上がってくる。このような母

親とスタッフとの心的力動に関する考察は、危機介入以

後の考察として今後深めるべ き視点であると考えてい

る。

3.NICUの場における親・スタッフ・臨床心理士の関係

以上の考察から、NICUにおける母親 ・スタッフ ・臨

床心理士の関係モデルを以下の図3のように考察した。

図3の①のように、母親は新生児を出産し、一体であっ

た母子が物理的に分離する。 この時、新生児はNICUに

入院し、母親と新生児の物理的な距離はさらに増すが、

心理的な一体感 ・(母子ユニット)は保たれる。理想的に

は、心理的母子ユニットが保たれたままNICUという器

に守られて、新生児の成長と同時に母子関係が育成され

ていく (②)。その後、NICUスタッフの中でも最も濃

密な関わりを持つ担当看護師に守られながら (③)、さ

(10)

らにしっかりとした母子関係を育成させる (④)。新生

児が退院間近になると母子のユニットはNICUの器から

出てい く準備 を し (⑤)、退院後母子ユ ニ ッ トは、

NICUや担当看護師、保健所やその他のコミュニティー

に支えられ、地域の中で安定した母子ユニットを確立し

ていく ((釘).

しかし、常にこのような理想的な母子ユニットが育成

できるわけではない。この母子ユニットは、母子の物理

的分離、新生児の障害の程度、母親の罪悪感や傷つきの

大きさ、といった要素に大きな影響を受ける。このよう

な物理的分離や新生児の障害の程度、母親の罪悪感や傷

つさといったリスクが大きければ大きいほど、①aのよ

うに母親と新生児の心理的距離はさらに大きくなり、つ

いには(むbのように母親が孤立 してしまう可能性が高

い。母親が孤立し、新生児のみがNICUという器で育て

られた場合、新生児が危機を脱してNICUを退院した後、

先に挙げた渡辺 (2001)5)や永田 (2001)6)の例のように

母親の新生児の受け入れは困難なものになると予想され

る。母親の孤立は、親子関係のねじれや虐待といったリ

スク要因になりかねない。

今回行われた臨床心理援助は、まき中二①-①aへ と

移行する時期に行った介入であり、~①bの状態への進行

をとめ、速やかに②の状態へ移行できるよう援助するも

のである..臨床心理士は、母親が(彰bの状態にすすんで

しまわぬよう、傾聴や共感や支持などの静的なサポー ト

だけではなく、指導や他の専門家との連携など動的なサ

ポー トも積極的に行った。

また、臨床心理士がNICUスタッフ、特に担当者講師

に行った働きかけは、母子ユニットを抱える "器"を支

えるものである。事例の中で、担当看護師が起こした母

親への情緒的反応は、図で示すと③-③aに向かいつつ

ある流れで解釈できる。⑨aでは、担当者講師が母子ユ

ニットと一体化するあまり、NICU環境からの意見を受

け入れられなくなったり、極端に母子ユニット側に立っ

た意見を他のNICUスタッフに向かって述べはじめる状

況であると考えられる。これらについては、今後さらに

事例を増やして考察を深めることを課題としたい。

4.NJCUにおける曲床心理士の役割とは一今後の課題一

本論文では、周産期における臨床心理的問題の発生と

臨床心理援助ゐ可能性について、NICUでの活動をもと

に考察を行った。NICUの現場で臨床心理士が行った援

助には、母子関係の援助を目的とした危機介入の視点が

重要であった。また、対象を母親に限定するのではなく、

広 く母子関係、家族関係、スタッフと家族の関係、スタ

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長滑 ・松島 :NICUにおける臨床心理士の役割

菓 頭

①a

>

.㊦

①b

M :Mother

B:Baby

Ns:Nurse

図3.NICUにおける母一子 ・スタッフ ・臨床心理士の関係モデル

( ll)

-179-

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-180- 生活科学研究誌 ・Vol.1(2(氾2)

ツ了とスタッフの関係 も含めて、母子関係の構造を理解

する、という総合的な視点が有効であった。そのために

は、面接室に限られた静的なサポー トだけではなくし他

の専門家との連携などより動的 ・積極的なサポー トが必

要であった。

本論文で検討された事項は、図3の①に示 した危機介

入期に限定されたものである。NICUでの母子関係、ス

タッフとの関係の経過はさらに長期にわたる。今後は、

本論文で由示 したNICUでの危機介入以後の母子ユニッ

トの発達や変化、スタッフとの連携のありようについて

さらに考察していきたい。

引用文献

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2)小泉武宣 :「ハイリスク家庭への周産期からの援助

に関する研究」,平成11年度厚生科学研究 (子ども

家庭総合研究事業)報告香 (2000)

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らの援助介入」,NeonatalCarevol.12(7),(1999)

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幼児精神保健の新 しい風,104-112(2001)

5) 渡辺久子 : 「乳幼児精神保健の新しい動向」,乳

幼児精神保健の新 しい風,2-ll(2001)

6)永田雅子 : 「NICUにおける心理的サポー ト」,

乳幼児精神保健の新しい風,81-90(2001)

7) 神谷育司、河合恵美子、斎藤 さつき、犬飼和久 :

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おける実践」,小児科診療2(9),(1999)

8) 橋本やよい : 「現代社会と母親の語 り」,心理療法

と現代社会 心理療法 (8),p81(2001)

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会 (1986)

ll)橋本洋子 : rNICUとこころのケアJ,メデイカ出

版, 117(2000)

参考文献

松島恭子 : 『ダウン症乳児の親子心理療法」, ミネルヴ

ァ書房 (1997)

長頭輝代 :「周産期にリスクをもつ親子への臨床心理的

ケア」,繊維製品消費科学,Vo143,No6(2(氾2)

NICUにおける臨床心理士の役割

一臨床心理援助モデルの検討-

長滑輝代 ・松島恭子

要 旨 :本論文では、周産期における臨床心理的問題の発生と臨床心理援助の可能性について、蹄床心理士のNICUでの

活動をもとに考察を行った。NICUの現場で臨床心理士が行った援助には、母子関係の援助を目的とした危機介入の視●

点が重要であった。また、臨床心理援助の対象を母親に限定するのではなく、広 く母子関係、家族関係、スタッフと家

族の関係、スタッフとスタッフの関係も含めて、母子関係の構造を理解するという総合的な視点が有効であった。これ

らの結果は、臨床心理士の能動的サポー トの必要性と、他の専門家との連携などを含む複合的サポー トの必要性の観卓

から考察された。

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