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Lecture 国際政治学 猪口邦子 学部 2002/4/3 1 国際政治学 猪口邦子 2002/4/3 ©Kuniko INOGUCHI UndergraduateLecture 2 ©Kuniko INOGUCHI Part I Formation of the Modern World System World System 経済循環と戦争サイクル . 世界システムとは . 循環と趨勢の概念 3.短期循環と中期循環 4.コンドラチェフ循環 Long Waves of Kondratieff 5.ゴールドスタイン(J. Goldstein) の経済循環と戦死 者の研究

Part I Formation of the Modern World System2.ジョシュア・S・ゴールドスタイン「戦争のサイクルとコ ンドラチェフの波」『国際政治』85号、1987,151-189頁

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Lecture 国際政治学 猪口邦子 学部  2002/4/3

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    国際政治学

 猪口邦子

2002/4/3©Kuniko INOGUCHI

Undergraduate Lecture 2©Kuniko INOGUCHI

Part I Formation of the Modern World System

World System 経済循環と戦争サイクル

1. 世界システムとは

2. 循環と趨勢の概念

3.短期循環と中期循環

4.コンドラチェフ循環 Long Waves of Kondratieff

5.ゴールドスタイン(J. Goldstein)の経済循環と戦死

者の研究

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Undergraduate Lecture 3

Bibliography/ 経済循環と戦争サイクル

◎1.猪口邦子『戦争と平和』1989, 東大出版会、4章

◎2.ジョシュア・S・ゴールドスタイン「戦争のサイクルとコンドラチェフの波」『国際政治』85号、1987,151-189頁

 3.ジョージ・モデルスキー『世界システムの動態』(浦野起央他訳)晃洋書房、1991、第1章

 4.田中昭彦『世界システム』東大出版会、1989、1,6章

&5.中村丈夫編『コンドラチェフ景気波動論』亜紀書房、1978.

&6.Joshua S. Goldstein, Long Cycles: Prosperity and War in the Modern Age, New Haven, Conn.: Yale University Press, 1988.

 7.猪口孝「世界システムの理論と分析」 『国際政治』

  82号(世界システム論)1986.

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Undergraduate Lecture 4

World System 世界システムとは

ウォラステイン(Immanuel Wallerstein) は、社会システムを分業で

結ばんだ全体、あるいは人間生活に枢要なものを生産して交換する人間の集団的広がりと捉え、世界システムを最大規模の社会システムとする。

成立:世界的規模での成立は、東方貿易の動脈としてのインド航路が開拓され、また銀の大量流入をもたらす新大陸が発見された15世紀後半から、その経済効果がヨーロッパ中心型の世界市場の誕生につながる17世紀前半までの「長い16世紀」においてであると指摘している。

(参考)「アメリカの発見と、喜望峰を経由する東インドへの航路の発見とは、人類の歴史に記録されたもっとも偉大でもっとも重要な二つの事件である」アダム・スミス

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Undergraduate Lecture 5

World System/ Formation世界システムの生成(ポルトガルによるインド航路発見)/ 01

nポルトガルは「長い16世紀」の初期において東西の航海技術の粋を集め、バトロメウ・ディアス(Bartholomeu Diaz)の喜望峰(Cape of Good Hope)発見(1488)を契機にインド洋からアラビア商人を駆逐して香料、絹、宝石類、工芸品などの交易を支配。⇒ 首都Lisbonを世界交易のcore(中枢)に。

nVasco da Gama: 1498年にインド航路発見(カリカット到着)500年目の1998年は国連総会により国際海洋年に決定。リスボンにて海をテーマに万国博覧会n(参考)エンリケ航海王子(Henry the Navigator,Henrique el Navogador, 1394-1460): 国王ジョアン1世の第3子。海洋研究所を開設して航海者を養成し、航海技術や知識の集積を図り、インド航路開拓へとつながる基礎を築く。

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Undergraduate Lecture 6

World System/ FormationPortugal’s Discovery of India/ 02 ///天正遣欧少年使節

n (参考)1584年、天正遣欧少年使節(4人の少

年)がリスボンに上陸し、日本人として始めて訪欧。1590年帰朝

n (参考)In recognition of the importance of the ocean, the marine environment and its resources for life and earth and for sustainable development, the United Nations has decided 1998 as the International Year of the Ocean. The UN General Assembly formally adopted the proposal in Dec. 1994.

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Undergraduate Lecture 7

Cycles/ Medium and Short Cycles中期・短期循環 / 01

n キッチン・サイクル(Joseph Armstrong Kitchin):ほぼ40ヶ月(3~4年)を周期として繰り返される短い循環。在庫循環とも呼ばれ、景気見通しをするうえで、最も基本的な循環で、在庫残高、在庫投資(フロー)の動き、在庫率(売上数量や出荷数量に対する在庫残高の比率)などの関連で発生する。

n ジュグラー・サイクル(Joseph Clement Juglar1819-1905):7年から12年(平均10年前後)を1期間とする。主因が設備投資の変動であることから、設備投資循環とも呼ばれる。一般に景気循環という場合はこの2つを指すことが多い。(香西豊『景気循環』1984年、教育社より)

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Undergraduate Lecture 8

World System/ Formation世界システムの生成(Treaty of Tordesillias)

1494 : トルデシラス条約(Treaty of Tordesillias) : divided the world, giving Portugal all rights in Asia and in the Atlantic up to Brazil , and Spain all right in lands west of Brazil

(参考)Columbusが西インド諸島を発見した直後、1493年ローマ教皇はスペインとポルトガル両国が発見した土地や島の帰属をめぐる紛争を調停し、アゾレス諸島の西方を通る子午線に沿って教皇境界線を設定し、その東をPortugalに、西をSpainの勢力範囲とした。これに不満なPortugalは直接Spainと交渉し、翌年に同条約によってこの境界線を西方に移動させた。BrazilはカブラルCabralの功績でPortugalに残され、PhilippinesはマゼランMagellanの功績によりSpain領となった。

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Undergraduate Lecture 9

World System/ Formation世界システムの生成(欧州、東方、新世界を結ぶ銀と交易の構造)/ 01

n 東洋に輸出する高価な商品を持たないヨーロッパにとって、東方の物産は金銀を対価としてのみ入手し得るものであったため、ヨーロッパ世界の対東洋収支は悪化して貴金属不足に陥る。

n コルテスCortesのアステカ帝国征服(1521)とピサロPizarroのインカ帝国征服(1533)で原住民の奴隷労働化による銀山の採掘が進み、新世界からの莫大な銀の流入は、ヨーロッパに交換経済の発展をもたらすと同時に東方貿易のファイナンシングを可能にした。

n こうして、16世紀半ばごろ、遠隔地航路を独占したPortugal/Spainを軸に、ヨーロッパ、東方、新世界の3世界は交易と収奪のある種の経済システムでつながることになる。

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World System/ Formation世界システムの生成(欧州、東方、新世界を結ぶ銀と交易の構造)/ 02  /// システムの成立とサイクルの発生

n 新大陸での過酷は収奪で原住民人口が激減した新大陸で労働力の補給が必要になるとき、アフリカもまたそのシステムに組み込まれ、ヨーロッパ中心型初期世界システムの原形が完成する。

n [問題意識] こうして「長い16世紀」に世界各地がヨーロッパを核coreとして結びつく社会システム

が発生し、その連動性のなかでさまざまな政治経済サイクルが見られるようになる。⇒ そのなかでの戦争生起の規則性は発見できるであろうか?

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World System/ Trends and Cycles 趨勢と循環

n 趨勢:現象が長期的に示す方向性と傾向で、揺り戻しや反復的な律動を超えて抽出される一定の方向性

n 循環:規則的に反復される連続的な事象または現象の一続きが完結するまでの時間間隔(Webster’s Dictionary)。規則性、反復性、周期性、連続性が特

徴であり、社会現象におけるこのようなパターンは、社会の構成単位間のある水準の相互作用や持続的かつ有機的関連を背景に現出すると考えられる。

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Cycles/ Medium and Short Cycles中期・短期循環 / 02 /// Kuznets

n クズネッツ・サイクル(Simmon Smith Kuznets, 1901-19 ): 17年から20年を1期間とする循環。実質GNPの成長率にほぼ20年の周期のあることを最初に発見

した米国の経済学者による。主因は人口変化、住宅・鉄道建設などで、建設循環とも呼ばれる、住宅用・工業用建物の損耗期間と関係があり、約20年おきに

建設活動が増大することから発生すると考えられる。

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Cycles/ Long Wave of Kondratieff

n Nikolai Dmitrievich Kondratieff (1892-シベリア流刑後亡くなったと想定される)は1920年代に英国、フラ

ンス、米国などの卸売物価指数、公債価格、賃金、輸出入額や石炭・鉄鋼生産の長期時系列データを分析して、約50年の周期の景気循環の存在を指摘した。

n ≪ポイント≫コンドラチェフの長波は観測された経済律動のうち最も長期の周期。主因に技術革新などと並んで、大規模戦争が含まれる。上昇波の頂点付近で発生し、それが誘因となって長期下降局面に入ることを指摘することにより、長期の経済循環は戦争など政治要因との関連が決定的であるなど、政治と経済の関連性を循環論において重視した。

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Cycles/ Long Wave of Kondratieffコンドラチェフの長波の概念図

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Kondratieff Wave      コンドラチェフの長波

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Cycles/ Kondratieff Wave/ 特徴と経験則

n 関わる要因:①資源(農業)②技術革新

   ③マネーサプライ(金産出量)④戦争・内乱

n 経験則 (1)上昇期には好況の年数が、下降期には不況の年数が規則的に優位を占める。

(2)長波の下降期には農業が長く低迷する。

(3)長波の下降期には特に多くの生産・交通技術上の発見や発明がなされるが、それが広範に応用されるようになるのは次の長波の上昇期においてである。

(4)長波の上昇期の初めには金産出高が増大し、植民地が世界経済に組み込まれて世界市場が拡大する。

(5)長波の上昇期には戦争や社会動揺が多発し、激化する。

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Cycles/ Kondratieff Wave/ シュンペーター説

n (参考)Joseph Alois Schumpeter (1883-1950) が特に

強調したのは第3の技術革新説で、産業の技術革新の消長から長波を説明した。

n (参考)シュンペーター的波動論を発展させたG. Gerhard Menshは、技術革新波動の頂点が、コンドラ

チェフ長波の下降期に対応していることを示し、経験則の3にもある、長期不況局面の困難のなかにおいてこそ基本的技術革新が群生的に発生するという、不況の発明促進 Depression Trigger説を立証した。

 (Gerhard Mensh, Stalemate in Technology: Innovations Overcome the Depression, Cambridge: Ballinger, 1979.)

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Goldsteinの戦争と経済局面分析 / 01

n Joshua Goldstein経済上昇期の戦死者増加傾向の発見:

  KondratieffやF. Blodelらによる長波と長期趨勢の成果や経済史の研究を総合し、15世紀末から今日に至る各種の時系列データに基づく経済の上昇期と下降期を細かく特定し、区間ごとに大国間戦争による年平均戦死者数を算出した。

n 仮説:経済の上昇局面の平均戦死者数は、下降局面の場合を上回る。

n 分析結果:17世紀以降は例外なく上昇局面において戦死者は増大し、下降期には必ず低下している。

  19世紀までのデータでは上昇期の戦死は下降期の6倍であり、20世紀も入れると21倍であった。

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Undergraduate Lecture 19

Goldstein 経済局面と戦死者数

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World System/ 結論/ 豊かさが大戦争と軍拡を可能にる

する構図と愚考の循環史

n 本来は共同体のよりよい生活を約束するはずの繁栄の果実を、逆に軍拡や戦争など生活と平和を脅かしたり破壊する活動に結

びつけてヨーロッパ中心型世界システムの近代史。

n ≪考えてもらいたいこと≫現在では克服できたのか?同じように繰り返しているのか?アジアはその継承者か、悪循環からの脱出者か?

 ⇒ イラン・イラク戦争(1980-88)は豊かな油田を内包する地域で万人の予想を越えて長期化した。

 ⇒ 経済的に隆盛するアジアで最も急速が軍拡が現在進行中である。

 ⇒ 核実験を決行したインドは今期の上昇波を決定する技術革新であるITの先端国である。

 ⇒ アフリカの紛争が絶えない背後にダイアモンド収益による軍拡があるという指摘もある。