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し合うことが必須となります。英語を共通のツールとすることで、英語を母国語とする人はもちろんのこと、11 億 2,500 万人もの非英語圏の方との会話、ひいては取引、連携、協調が可能になります。 このような時代を背景に、日本でも幼稚園や小学校から英語教育が導入されつつありますが、留学でもしないかぎりは、日常的に実践する機会には恵まれません。そのため、社会人になってはじめて、本当の意味で英語でのコミュニケーション力が試されるということが起きているのが実情です。

企業の英語研修が抱える課題

 先ほど、多くの日本企業が英語研修を実施していると述べましたが、実施している企業からはさまざまな課題もあげられています。この課題は、大きく「低予算化」、「費用対効果が低い、わかりづらい」、「マス層の英語力強化が難しい」の3つに集約されます。

低予算化

 2008 年のリーマンショック後、研修費用が大幅に削減され、その後、なかなか元の水準には戻らない状況にありました。そのうえ、英語研修が必要な人数が増えて1人あたりの研修費用を下げなければならない、あるいは、英語以外の研修を強

 日本企業の海外売上比率は年々伸びており、70%を海外売上比率が占めるという企業も増えました。売上げに限らず、開発、製造、販売、サービスの提供など、ビジネスプロセスの一部を海外で行っているという企業も数多く存在します。このようななかで、多くの日本企業が英語研修を導入しています。グローバルビジネスにおける最も主流のコミュニケーション言語は英語ですから、理にかなった選択です。 英語は世界で最も多くの人に話されている言語です。米国の統計会社 Statista 社が行った調査によると、世界における英語話者人口は 15 億人おり(図表1)、世界総人口 70 憶3千万人の 21%にあたります(図表2)。ビジネスに従事する年齢層に限れば、この割合はもっと高まります。 15 億人のうち、英語を母国語とする話者は25%(3億 7,500 万人)に過ぎず、残りの 75%(11億 2,500 万人)はノンネイティブスピーカーです。これは、英語に次いで話されている、中国語の話者の89%がネイティブスピーカーであることと対照的です。 多様化した社会で新しいモノ・サービスを出すためには、多様性のなかで意見をぶつけ合う、出

ベルリッツ・ジャパン 営業・マーケティング本部 法人・学校営業部 部長清水高明

グローバル人材育成のポイントビジネスの基礎となる英語力のつくり方

第 7回

連載

変わり続けるDNAを強化する

英語力必須の時代

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化するために英語研修の予算を削減したいなど、さまざまな背景から、ROI の分母となる予算に関する課題意識が高まっています。

費用対効果が低い、わかりづらい

 ROI の分子である成果に対する関心と課題意識も高まっています。多くの場合、講師の講評、受講者の所感、テストの点数の推移などから成果を評価していますが、仕事のための研修なので、本来、仕事での成果で評価できれば最良です。 しかし、すべての研修対象者が、研修を受けてすぐに業務で英会話実践の機会を与えられるわけではありません。また、以前、ベルリッツがある企業にて実施した調査によれば、英語研修を受けて海外赴任させた、現地滞在歴5年未満の社員の過半数が、「英語会議であまり発言できない」、あるいは「発言した経験がない」と回答していました。 実践の場以外での評価への不信感や、話す機会が与えられず、あるいは、与えられても活用できず、効果=成果を出せない社員がいます。その存在が、費用対効果が低い、わかりづらいという印象につながっています。

マス層の英語力強化が難しい

 海外に赴く少数選抜者の英語力を上げればよかった昔とは異なり、現在はビジネスのさまざまな局面において英語力の必要性が高まっています。そして、中長期的なキャリア・パスに配慮して、早い段階で全社員に英語力を身につけさせておきたいと考える企業が増えています。 しかし、英語研修の対象者を拡大したいのに予算が増やせなかったり、全体セミナーを行ったが成果が不明瞭であったり、自己啓発補助金を導入したものの利用者が少なかったりといった、目的意識が希薄なマス層向けの研修ならではの難しさも顕在化しています。

3つの課題に対応するヒント

 低予算化という課題に対しては、各社、対象者を選抜により絞ったり、研修の内製化に踏み切ったりといった手段を試されています。しかし、先ほどあげた費用対効果の低迷、またマス層を伸ばしきれないという課題は根強いようです。低予算で高い成果を出し、マス層のモチベーションまで高

変わり続けるDNAを強化するグローバル人材育成のポイント

世界総人口における英語話者人口図表2

英語話者21%

非英語話者79%

世界で最も話されている言語TOP3図表1

0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600

話者総数母語話者数

Hindi

Chinese

English375(話者総数の25%)

1,500

982(話者総数の89%)1,100

460(話者総数の71%)650

(百万人)

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める ROI が高い英語研修は、どのようにしたらつくれるのでしょうか。 すべての課題を解決する鍵となるのが「モチベーション」です。提供する側も受ける側もモチベーションが低い状態で行われる研修は、受講生の身につかない、もったいないものになります。しかし、これは逆もまたしかりなりです。立場ごとにわけて、いくつかヒントをご紹介します。

①研修提供者のモチベーション

 人材育成を担当する部門に海外赴任経験のある事業部出身の方がいて、英語研修を主導しているケースがあります。だいたいはご自身が英語力の必要性を強く認識されていて、英語研修に対して意欲的で、学習方法についての知見もあり、積極的に学習のサポートをされています。 外部の研修会社を使うにせよ、内製するにせよ、研修を提供する側の熱意やメッセージは、研修を受ける側に確実に伝わります。このような方がいる場合、研修は成果を生みやすくなります。 人材育成部門にそのような方がいない場合は、英語が不得手なメンバーを英語研修担当にして、外国籍の社員と会話させる、または、人事部に1人外国籍社員を入れ、業務の会話を英語でする経験をさせるというのも有効です。英語が不得手な状態で英会話を経験すれば、英語を学ぶインセンティブは高まります。自らの学習意欲が高まった研修担当者は、英語研修の目的や意義を自分の言葉で発信できるようになるでしょう。

②マス層のモチベーション

 英語をいますぐ使うわけではないという社員を対象に英語力を高めたいという場合、いくら「将来のために」といわれたところで、受講生のモチベーションはなかなか上がらないものです。なぜなら、英語を話して活躍するロールモデルが身近

にはなく、英語を話すことで何かを達成したという成功体験もないためです。 このような層が英語と聞かれて想起する定番は、学校英語、あるいは「TOEIC® テスト○○点」といった指標です。業務に直結しない机上の勉強でモチベーションを保つのは難しいですし、TOEIC® テストなどでは妙に高い点数を目標に設定して、自ら学習のハードルを高めてしまっている方を目にします。旧来の学校英語、受験対策の学習スタイルの弊害ともいえるでしょう。 この層のモチベーションを高めるうえで有効な手段は、否が応でも英語に触れる機会、必然的に英語を話さなければならない状況をつくり、英語を話して通じたという成功体験を与えることです。 1つの案は、①でもあげましたが、対象者のいる部門に外国籍の社員を1人入れるというものです。業務の会話だけでなくスモールトークなどを通じて、海外事情・文化への興味を高められれば、一時しのぎではない英語力醸成のモチベーションにつながります。 また、英語コミュニケーション能力をオンラインで測る「GTEC」(ベネッセコーポレーションとベルリッツコーポレーションの共同開発)のような、スピーキングテストの受験を義務づけるのも、低予算で実現可能な施策です。GTEC は読み書きを測るのではなく、スピーキングを測るのがポイントです。自ら話さなければならない状況が、モチベーションにつながります。読み書きの試験と違い、単調な試験勉強になりづらく、テストでうまく話せれば、本人の自信にもつながります。ふだん社内で英語をあまり使っていない企業でも、英語を使っての成功体験を提供できます。 ユニークなアイデアもあります。福利厚生の一環として、社宅で英語教育を提供するという施策です。社内結婚が多く社宅の利用率が高いある企業では、社宅に住む社員の子ども、幼児~中学生

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までに英語レッスンを提供しています。子どもたちは各家庭で学んだ英語を披露し、親、つまりその企業の社員に 「自分たちも英語に取り組まなければ」 という学習の刺激を与えています。

③英会話必須層のモチベーション

 海外事業の現担当者や次世代幹部候補など、グローバル人材として育成している層については、英語が必須ですから、基礎英語力を身につけること自体に対するモチベーションは高いのが普通です。この層でモチベーションが低く学習成果が伸び悩んでいるという場合は、学習目標の設定や学習方法に問題がないかを見直すべきでしょう。 1つ、反面教師となる事例をご紹介します。とある企業の研修で、仕事とは関係なく与えられたテーマ(たとえば首都機能移転や英語公用語化など)について、日本人同士が英語でディベートを行いました。参加者はディベートのテーマについての知識がなく、興味もないという状況のため、モチベーションは低く、ディベートは盛り上がりませんでした。参加者からは「一生使うことのなさそうな語彙を学んで終わった」という感想が出

変わり続けるDNAを強化するグローバル人材育成のポイント

たそうです。 ベルリッツがある企業で実施した調査で、TOEIC730 点以上の高得点者の英語学習動機を得点帯別にみたところ、860 点以上と 860 点未満で傾向が大きく分かれたのが、「仕事で必要だから」という項目でした(図表3)。より高得点な層は、英語が仕事に直結しているのです。英語研修においても、仕事で活かされるゴールを設定することで、動機をリマインドし、学習効果を高めることができます。 手前味噌になりますが、ベルリッツが英語研修で重視しているのがカスタマイズです。まず、研修受講者が担当している業務上の実際のシチュエーションを想定し、だれを相手に、どのようなコミュニケーションを取りたいのかを確認し、レッスンごとのゴールを設定します。ゴールは、「仮定法が使えるようになる」といったような文法上のテーマではなく、「条件に応じた価格提案ができるようになる」など、業務に寄せた形で設定します。 そして、ありがちな反復練習や形式的な英会話練習ではなく、さまざまな状況を想定したシミュレーションを行います。受講者の個別の状況・興味・関心にあわせてカスタマイズを行うことで、受講者の学習意欲や集中力の維持ができるのはもちろんのこと、脳への情報の取り込み(記憶)、取り込んだ情報の蓄積(記憶の長期化)も大きく促進され、学習効果向上につながります。

* 今号では、グローバル人材の基礎となる英語力を高める研修について、とくにモチベーションの面から述べてきました。基礎英語力を身につけたうえで、グローバル人材が次に取り組むべきテーマが、人の考えを変え、人を動かすためのビジネスコミュニケーションスキルです。次回は、こちらに注目します。どうぞお楽しみに。

TOEIC高得点者の得点帯別学習動機図表3

0 20 40 60 80 100

860~990点730~855点

語学にかぎらず勉強することが好き

英語自体が好き

業務にかかわらず人と話すことが好き

将来、仕事で必要になりそうだから

仕事で必要だから

海外事情、文化に興味があるから

(%)

8464

2463

7055

3946

4330

1020


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