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NTT技術ジャーナル 2018.2 73 全日本空輸㈱(ANA),コンビ㈱,東レ㈱,NTTは,「赤 ち ゃ ん が 泣 か ない!? ヒ コ ー キ」 プ ロ ジ ェ ク ト(以 下, 本プロジェクト)を立ち上げました. 小さな赤ちゃんを持つママ ・ パパの中には,機内で赤 ちゃんが大泣きし,周囲の乗客に迷惑がかかることを心 配して,赤ちゃんが大きくなるまでは飛行機での移動を 避ける方が少なくないといわれています. そこで,各社の強みを活かして赤ちゃんが機内で泣く 原因の 1 つと考えられる,気圧変化による耳痛の解消に 役立つ赤ちゃん用の耳抜きグッズの開発に取り組みま す.さらに,赤ちゃんの心拍数などの生体情報を基に, 赤ちゃんの快適さや不快などの状態をモニタリングして 大泣きを予知する技術検討を進めていきます(図1 ). 本プロジェクトは,そのようなママ ・ パパにも安心し てご利用いただけるフライトをめざしているANA,赤 ちゃんグッズ開発に関して豊富なノウハウと実績を持つ コンビ,長時間の生体情報モニタリングが可能な機能素 材hitoe ® を共同開発し,さまざまなサービス開発に取り 組んでいる東レ ・ NTTの 4 社が連携し,発足しました. また,今後の事業化に向けて,hitoe ® を活用したサービ スの提供実績を持つNTTコミュニケーションズが参画 します. プロジェクト第一弾として,2017年10月 1 日に 4 社グ ループの社員で 3 歳未満の赤ちゃんを持つママ ・ パパを 対象に,乗客全員が小さなお子さま連れとなる「赤ちゃ んチャーター便」を実施し,その機内において,ベビー マグやタブレットによる耳抜きの効果の確認と,hitoe ® を用いて赤ちゃんの状態を推定するトライアルを行いま した(図2 3 ). トライアルの当日は,赤ちゃん連れの家族のほかに, 多くの報道関係者も搭乗し,にぎやかな機内の取材も行 われました. ■各社の役割 ・ ANA:飛行中の赤ちゃん,ママ ・ パパのお困り事, 解決方法などのノウハウ提供 コンビ:赤ちゃんグッズの試作,提供,モニタ調査, 赤ちゃん,ママ ・ パパのお困り事,解決方法などの ノウハウ提供 ・ 東レ:赤ちゃん用hitoe ® ウェア提供 ・NTT:赤ちゃん用生体情報モニタリングの仕組み 提供,モニタ調査,hitoe ® や心拍数モニタリング技 術全般のノウハウ提供 ◆問い合わせ先 NTT研究企画部門 プロデュース担当 TEL 046-240-5157 E-mail baby-ict-ml hco.ntt.co.jp URL http://www.ntt.co.jp/news2017/1710/171001a.html 図 3  赤ちゃんチャーター便トライアルの担当メンバー 図 2  ベビーマグによる耳抜き 効果を検証 図 1  ベルト型のhitoe ® を着用した様子 ANA×コンビ×東レ×NTT コラボレーション成果 「赤ちゃんが泣かない!?ヒコーキ」プロジェクトを立ち上げ

ANA×コンビ×東レ×NTT コラボレーション成果 「赤 …NTT技術ジャーナル 2018.2 73 全日本空輸 (ANA),コンビ ,東レ ,NTTは,「赤 ちゃんが泣かない!?ヒコーキ」プロジェクト(以下,本プロジェクト)を立ち上げました.

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Page 1: ANA×コンビ×東レ×NTT コラボレーション成果 「赤 …NTT技術ジャーナル 2018.2 73 全日本空輸 (ANA),コンビ ,東レ ,NTTは,「赤 ちゃんが泣かない!?ヒコーキ」プロジェクト(以下,本プロジェクト)を立ち上げました.

NTT技術ジャーナル 2018.2 73

全日本空輸㈱(ANA),コンビ㈱,東レ㈱,NTTは,「赤ちゃんが泣かない!?ヒコーキ」プロジェクト(以下,本プロジェクト)を立ち上げました.小さな赤ちゃんを持つママ ・ パパの中には,機内で赤ちゃんが大泣きし,周囲の乗客に迷惑がかかることを心配して,赤ちゃんが大きくなるまでは飛行機での移動を避ける方が少なくないといわれています.そこで,各社の強みを活かして赤ちゃんが機内で泣く原因の 1 つと考えられる,気圧変化による耳痛の解消に役立つ赤ちゃん用の耳抜きグッズの開発に取り組みます.さらに,赤ちゃんの心拍数などの生体情報を基に,赤ちゃんの快適さや不快などの状態をモニタリングして大泣きを予知する技術検討を進めていきます(図 1).本プロジェクトは,そのようなママ ・ パパにも安心してご利用いただけるフライトをめざしているANA,赤ちゃんグッズ開発に関して豊富なノウハウと実績を持つコンビ,長時間の生体情報モニタリングが可能な機能素材hitoe®を共同開発し,さまざまなサービス開発に取り組んでいる東レ ・ NTTの 4 社が連携し,発足しました.また,今後の事業化に向けて,hitoe®を活用したサービスの提供実績を持つNTTコミュニケーションズが参画します.プロジェクト第一弾として,2017年10月 1 日に 4 社グループの社員で 3 歳未満の赤ちゃんを持つママ ・ パパを対象に,乗客全員が小さなお子さま連れとなる「赤ちゃ

んチャーター便」を実施し,その機内において,ベビーマグやタブレットによる耳抜きの効果の確認と,hitoe®

を用いて赤ちゃんの状態を推定するトライアルを行いました(図 2, 3).トライアルの当日は,赤ちゃん連れの家族のほかに,多くの報道関係者も搭乗し,にぎやかな機内の取材も行われました.

■各社の役割・ ANA:飛行中の赤ちゃん,ママ ・ パパのお困り事,解決方法などのノウハウ提供・ コンビ:赤ちゃんグッズの試作,提供,モニタ調査,赤ちゃん,ママ ・ パパのお困り事,解決方法などのノウハウ提供・ 東レ:赤ちゃん用hitoe®ウェア提供・ NTT:赤ちゃん用生体情報モニタリングの仕組み提供,モニタ調査,hitoe®や心拍数モニタリング技術全般のノウハウ提供

◆問い合わせ先NTT研究企画部門 プロデュース担当TEL 046-240-5157E-mail baby-ict-ml hco.ntt.co.jpURL http://www.ntt.co.jp/news2017/1710/171001a.html

図 3  赤ちゃんチャーター便トライアルの担当メンバー図 2  ベビーマグによる耳抜き効果を検証

図 1  ベルト型のhitoe®を着用した様子

ANA×コンビ×東レ×NTT コラボレーション成果「赤ちゃんが泣かない!? ヒコーキ」プロジェクトを立ち上げ

Page 2: ANA×コンビ×東レ×NTT コラボレーション成果 「赤 …NTT技術ジャーナル 2018.2 73 全日本空輸 (ANA),コンビ ,東レ ,NTTは,「赤 ちゃんが泣かない!?ヒコーキ」プロジェクト(以下,本プロジェクト)を立ち上げました.

NTT技術ジャーナル 2018.274

私たち全日本空輸(ANA)は,さまざまなお客さまに日頃よりご搭乗いただいておりますが,とりわけ小さなお子さまをお持ちのお客さまより,お子さまが機内で大泣きすることを心配する気持ちから,飛行機の利用を避けているというお声を伺っておりました.現在,全搭乗者に占める3歳未満のお子さまの割合は,国内線で1.6%,国際線では0.8%にとどまっており,潜在的な需要はまだあるのではと感じています.そこで,少しでも赤ちゃんが泣かずに,ごきげんに過ごせる環境をつくることで小さなお子さま連れのお客さまでも安心してご利用いただける飛行機を提供できないかと考えたのが,今回の企画の発端です.今回,「赤ちゃんが泣かない!? ヒコーキ」プロジェクトのチャーター便を運航するにあたり,ANAグループ社内から参加者を募集したところ,「ぜひ参加したい!」とたくさんの声があがりました.日頃から潜在的に同じような思いを持った心強い仲間たちが,いかに多くいるかということを知りました.チャーター便当日は,36人の赤ちゃんと一緒に宮崎空港までフライトしました.朝早くの集合や,慣れない環境に泣いてしまう赤ちゃんもいましたが,周りの参加者も皆さんお子さま連れ同士なことや,ママさんCAによるサービスもあり,機内は可愛らしく和やかな雰囲気に包まれました.まだ実用化に向けては課題も多くありますが,今回の結果をしっかり分析し,今後の発展につなげていきたいと思います.小さなお子さまを持つお客さまの心理的負担を少しでも取り除くことで,ご家族にもっと飛行機での空の旅を積極的に楽しんでいただき,たくさんの思い出をつくってほしいというのが,この企画に携わる立場としての夢です.

ご家族の空の旅を応援できるような存在に

直木 美香子全日本空輸株式会社 CS&プロダクト・サービス室 商品戦略部

パートナ紹介パートナ紹介

コンビは1957年の創業以来,ベビー用品の総合メーカーとして,「お母さんや育児に係るすべての人と赤ちゃんのコンビを応援する」企業として,今までにない製品・サービスを世に出し,育児環境の向上に努めてきました.このたびは,本プロジェクトの目的である「飛行機のお出かけにおいて,赤ちゃん連れでも安心してお出かけできるような環境をつくる」が,私たちのめざす企業理念と一致していたため,プロジェクトに参加いたしました.赤ちゃんと一緒に旅をして楽しい思い出をたくさんつくりたいと考えているママ・パパはたくさんいます.でも飛行機の旅は,機内で赤ちゃんが大泣きしてしまうのではないかと思い,心おきなく楽しめないことがあります.特に飛行機の離着陸の際は大人でも機内の圧力変化によって,耳が痛くなったり,詰まるような違和感を生じることがあります.赤ちゃんや小さなお子さまはこの痛みが原因となり機内で泣き出す場合があります.そこで,60年間培ってきた育児用品の開発に関しての豊富なノウハウと実績を活かし,気圧変化による耳痛の解消に役立つ赤ちゃん用の耳抜きグッズの開発に取り組んでいます.また赤ちゃんの耳痛の解消だけではなく,気圧の変化が激しい飛行機内でも使いやすいグッズとしていろいろと工夫を検討しています.本プロジェクトで開発しているグッズで,ママ・パパたちがどんな場所へも心おきなくお出かけでき,赤ちゃんと旅する喜びを感じて,たくさんの素敵な思い出をつくってもらいたいと思っています.

赤ちゃんと旅する喜びを

亀井 百恵コンビ株式会社 プロダクトセンター 企画室 第1企画グループ マネジャー

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NTT技術ジャーナル 2018.2 75

hitoe®開発は2014年1月の記者発表からスタートしました.東レではナノファイバを活用し実用に耐え得る電極生産技術とノウハウを蓄積してきました.またさらにhitoe®電極の活用方法としてウェア型にすることによりスポーツ向け,作業者安全管理向けに縫製技術とノウハウも蓄積してきました.今回のフライトでは赤ちゃん向けということで,当社にとっては新しいチャレンジでした.今まで開発してきた用途では対象者が大人ということでノウハウを培ってきましたが,赤ちゃん向け衣料として今まで検討していなかったホルマリンに対する対応や,肌に接することから柔らかい素材の選定,測定精度を担保するストレッチ性,できる限り接触面を減らすための縫製仕様など,特に着用感と測定精度の両立に加え,着用者の視点にたったモノづくりとなりました.今回のフライトでは大半の赤ちゃんが,普段とは違う状態にもかかわらず,hitoe®を着用した状態で生体データを取得できたことは一安心でした.ただし3歳未満の赤ちゃんにhitoe®を着用するときに,初めてのことなので嫌がるなど着用方法など運用面での課題も見つかりました.今後も今回の課題を踏まえ,より簡単に赤ちゃんの生体信号が取得することができるように開発を進めていきたいと考えています.

核家族化が進む現代の日本社会では,赤ちゃんを連れて外出することは保護者にとって大きな負担になることもあります.その理由の1つに,赤ちゃんは言葉で心身の状態を説明できないため,赤ちゃんの様子を注意深く見守り続ける必要があり,経験も要するという点があります.赤ちゃんの心拍数は,泣いている状態では上昇し,心地良い状態やぐっすり眠っている状態では下降する傾向を示すことから,赤ちゃんの状態を推定する手掛かりとなります.さらに心拍数の連続モニタリングによって,赤ちゃんの状態変化をより早く察知できる可能性があります.これまで赤ちゃんの心拍数の正確な測定は,医療現場以外では一般的ではありませんでした.NTT物性科学基礎研究所では,スポーツ用や医療用のhitoe®技術を基に,発達心理学の研究用ツールとして赤ちゃん専用のhitoe®を開発してきました.赤ちゃんの生体データ(心拍数とからだの動き)から赤ちゃんのご機嫌を推定し表示する専用アプリも開発し,実際にアプリを使っていただいた保護者の方から,分かりやすい,気持ちがほぐれる,楽しみでずっと見ていた等の感想をいただきました.現状では,赤ちゃんの発達度合いや個人差,環境変化などの影響により,正確な判定が困難な場合もあります.今回のフライトで得られた生体データと保護者の方の入力データを分析し推定精度を高めていく予定です.将来,赤ちゃんの状態変化を速やかにお知らせできる技術を確立し,気兼ねなく赤ちゃんと一緒の外出を楽しんでもらいたい,そんな思いで研究開発を進めています.

赤ちゃん用hitoe®の開発

赤ちゃんのご機嫌を知らせるhitoe®技術

浅井 英東レ株式会社 機能製品部東京ユニフォーム課 主任部員

河西 奈保子NTT物性科学基礎研究所 主任研究員現・首都大学東京(大学教育センター) 教授

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研究者紹介研究者紹介