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研究レポート No.283 January 2007 サプライチェーンのCSR戦略 主任研究員 生田孝史 富士通総研(FRI)経済研究所

研究レポート - Fujitsu研究レポート No.283 January 2007 サプライチェーンのCSR戦略 主任研究員 生田孝史 富士通総研(FRI)経済研究所 サプライチェーンのCSR

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  • 研究レポート

    No.283 January 2007

    サプライチェーンのCSR戦略

    主任研究員 生田孝史

    富士通総研(FRI)経済研究所

  • サプライチェーンの CSR 戦略

    主任研究員 生田孝史

    【要旨】 グローバル化の進展、企業自身の対策の遅れ、途上国における環境・社会問題解決主体と

    しての大手企業に対する期待などの理由から、サプライチェーンにおける CSR(企業の社会的責任)の取り組みの重要性が高まっている。企業は、社会的・環境的側面からのサプライ

    チェーン全体を最適に管理し、従来のサプライチェーンマネジメントにおける経済合理性と

    のバランスをとらなければならない。 欧米の多国籍企業は、サプライチェーンの CSR に関して、厳しい要請を受けてきた。サプライチェーンに特化した CSR 評価手法の検討も進んでいる。アパレル業界、コーヒー業界、電機業界等を中心に、先行的な取り組みが行われているが、特に途上国においては、取

    引先の行動を監視する規制型の取り組みの費用対効果が疑問視されており、相互理解による

    協働型の取り組みに移行することが、長期的な利益につながるという考えが広まりつつある。 日本企業の CSR の取り組みは進展しており、国際的にも高いレベルにあるが、サプライチェーン全体での CSR にはまだ着手したばかりである。国内主要 118 社のうち、サプライチェーンの CSR について何らかの取り組みを行っている企業は 39 社であったが、その内容・レベルは様々である。現時点では、電機業界や化学・医薬業界において積極的な対応が

    目立つ一方で、素材関連業界や自動車業界の対応が遅れている。 サプライチェーンのCSRにおける日本企業を取り巻く課題は、ステイクホルダーの理解、自社の強みの検証、企業の取り組みを支援する包括的な枠組みの形成である。今後、日本企

    業が国際競争力を高めるためには、国際的な潮流を勘案しながら、サプライチェーンの CSRの戦略的な検討が必要であり、企業個別の取り組みに加えて、産業界・政府においてもグロ

    ーバル市場での CSR のあり方を主導的に議論し、普及を促していく必要がある。

  • 【目次】 1 はじめに ................................................................................................................................ 1 2 サプライチェーンのCSRを巡る国際的な潮流と課題.......................................................... 3

    2.1 サプライチェーン評価手法の開発.................................................................................... 3 2.2 欧米企業の先行取り組み .................................................................................................. 5 2.3 欧米先行企業が直面する課題 ........................................................................................... 8

    3 日本企業の取り組みの現状................................................................................................. 10 3.1 日本企業のCSRに対する評価......................................................................................... 10 3.2 国内主要企業のサプライチェーンでのCSRの取り組み ................................................ 11 3.3 日本企業の取り組みの傾向............................................................................................. 15

    4 日本企業の課題と今後の方向性 ......................................................................................... 17 4.1 日本企業の今後の課題 .................................................................................................... 17 4.2 戦略的検討に向けて........................................................................................................ 20

    参考文献 ...................................................................................................................................... 22

  • 1 はじめに

    わが国においても、CSR(企業の社会的責任)の考えが普及してきているが、最近では、企業自身の取り組みだけでなく、サプライチェーン関連企業全体における CSR の取り組みの重要性が高まってきている。 サプライチェーンの CSR が重視される主な理由は3つ考えられる。第一の理由は、グローバル化の進展である。生産工程の発展途上国への移転に伴って、規制当局、投資家、

    消費者、NGO などのステイクホルダーの関心もまた、途上国での労働環境や環境汚染問題にまで拡大してきたのである。加えて、IT の進展によって、海外でのサプライチェーンの状況に関する情報の入手が容易になったことも、マスコミや NGO 等の情報発信力を高め、ステイクホルダーの関心を喚起している要因になっている。 第二の理由は、企業にとって、CSR の様々な取り組みの中で、サプライチェーンの対応が残された課題となっているということである。CSR 対応組織の整備、CSR 報告書の発行や、社内の労働環境改善や環境対策に比べて、他社の取り組みを促すことになるサプラ

    イチェーンの対応は、後回しになっていたという面がある。 そして、第三の理由は、中小企業や途上国での CSR を推進する主体として、大手(多国籍)企業の役割が重視されていることである。中小企業への CSR の普及については、大手企業の先行取り組みによって蓄積されたノウハウを、取引関係を通じて、中小企業に

    伝播していくことが期待されている。また、途上国の環境・社会問題への関心が高い NGO等にとっては、政府より多国籍企業に働きかける方が、問題解決のために効果的という考

    え方になってきている。 欧米では、サプライチェーンの CSR に対する関心の高まりが、企業活動にとって無視できないものとなっている。欧米など、CSR への関心が高い消費者市場は NGO のキャンペーンに対して敏感に反応しやすく、企業は市場喪失リスクを抱えている。法規制では、

    環境分野のサプライチェーン管理が着実に進んでいる。例えば、今年 7 月施行の EU の電子電気機器に対する特定有害物質使用制限(RoHS)指令は、関連業界にサプライチェーンの化学物質情報の管理を求めるものである。資金調達に関しては、英国の社会責任投資

    (SRI)インデックスの FTSE4Good が、2004 年 11 月からサプライチェーンの労働対応を審査基準に加えた。全世界で 300 兆円規模と言われる SRI 市場の動向が企業に与える影響は大きい。公共調達分野でも、従来のグリーン調達から CSR 調達へと広がりを見せ始めている。EU では、2004 年の改正調達指令によって、政府調達市場の域内統一ルールに環境・社会基準の導入が可能となった。ベルギー政府は、サプライチェーンで労働基準の

    遵守を保証する製品に社会性ラベルを添付している。欧米主導でサプライチェーンの重視

    が進んでいるとはいえ、グローバルなサプライチェーンを構築する日本企業においても同

    様のリスク対応が必要であることは言うまでもない。 企業にとって、サプライチェーンにおけるCSRの取り組みは、競争優位を得るためと言

    1

  • うよりも、サプライチェーン全体でのリスクマネジメントによって競争力の維持を図ると

    いう意味合いが強い。通常、サプライチェーンマネジメント(SCM)と言えば、経済合理性を追求するために、需要動向に合わせて調達・生産プロセスを最適化することを意味す

    る。しかし、サプライチェーンのCSRを考慮するためには、従来のSCMからの発想の転換が必要である。すなわち、企業は、社会的・環境的側面からもサプライチェーン全体を最

    適に管理し、経済合理性とのバランスをとらなければならないということである。調達元

    や生産現場において、有害物質の使用や環境汚染などの問題がないか、従業員の健康や労

    働環境が不当な状況におかれていないか、その他法令等が遵守されているか、さらには地

    域経済への悪影響はないか1、などの状況を把握して、問題があれば改善していくことが

    求められている(図表 1 参照)。具体的には、CSR調達方針の策定や、サプライヤー行動規範の策定、取引条件への反映、監査・モニタリングの実施などの手法がとられている。 このような背景と問題意識の下、次章以下では、サプライチェーンの CSR の視点から、グローバル市場における日本企業の取り組みのあり方を検討する。具体的には、欧米企業

    の先行取り組みと課題、そして最近の評価手法の開発の動きを整理し(2 章)、日本企業の取り組みの現状と最近の傾向を分析した上で(3 章)、日本企業の課題を明確にし、今後の取り組みの方向性について(4 章)述べることとする。

    図表 1 サプライチェーンの CSR の基本的考え方

    環境の配慮環境の配慮

    労働・人権の配慮労働・人権の配慮

    地域経済の配慮地域経済の配慮

    環境の配慮環境の配慮

    労働・人権の配慮労働・人権の配慮

    地域経済の配慮地域経済の配慮

    従来のサプライチェーンマネジメント従来のサプライチェーンマネジメント

    需要に合った調達・生産プロセスの最適化

    サプライチェーンのCSR社会的・環境的側面と経済合理性の調和

    サプライチェーンのCSR社会的・環境的側面と経済合理性の調和

    (出所)富士通総研作成 1 一般的にCSRでは、環境・社会・経済の各側面における企業の取り組みが問われるが、経済的側面は、企業の財務パフォーマンスだけではなく、企業活動が地域・国際経済に及ぼす影響も対象となる。

    2

  • 2 サプライチェーンの CSR を巡る国際的な潮流と課題

    2.1 サプライチェーン評価手法の開発

    1.に前述したように、CSR の観点からサプライチェーンを評価し、企業行動を促そうという国際的な動きが顕著である。特に最近は、CSR 全体の評価項目の一つとしてではなく、サプライチェーンの CSR に限定したビジネスツール開発や評価手法の検討が進んでいる。

    ビジネスツールでは、「ニュージーランド・持続可能な開発のための経済人会議

    (NZBCSD)」が 2003 年に開発したサプライチェーンリスク評価マップが、先行事例である2。これは、取引先(資源採取、製造・加工、輸送の 3 段階)、小売(在庫管理、製品デザイン・開発、販売・市場開発の 3 段階)、消費者・利用者(使用時、使用後の 2 段階)の各段階において、CSRに関連したリスクを、一般項目 6 指標、特別項目 13 指標について自己評価するツールである(図表 2 参照)。

    図表 2 CSR サプライチェーンリスク自己評価ツールの例(NZBCSD) 取引先 小売 消費者・利用者

    リスク項目 資源 採取

    製造

    加工 輸送

    在庫

    管理

    製品設

    計・開発

    販売・市

    場開発 使用時 使用後

    一般項目

    顧客の期待の変化

    敵対的報道

    ブランド・企業評判の脅威

    政府調達の要請

    企業と従業員の協力喪失

    投資家へのアピール欠如

    特別項目

    長期的な原料供給

    化学物質・有害物質使用

    牧畜

    供給元への短期アクセス

    廃棄物・包装利用

    労働基準・時間外労働

    現地調達

    水質・大気・土壌汚染

    輸送、燃料、渋滞

    輸送コスト上昇

    エネルギー使用

    運転コスト上昇

    規制

    (出所)NZBCSD(2003)を基に富士通総研作成

    2 http://nzbcsd.org.nz/supplychain/SupplyChain.pdf

    3

    http://nzbcsd.org.nz/supplychain/SupplyChain.pdf

  • オランダのNGOであるVBDO3が 2006 年に作成した「レスポンシブル・サプライチェーンマネジメント(RSCM)ベンチマーク」は、サプライチェーンに限定したCSR評価手法として注目を集めている。VBDOは「持続可能な開発を目指す投資家団体」と称し、長年、企業情報の透明性に関する調査を行なってきた。VBDOには、国内の主要金融機関全てと、エシカルバンクと呼ばれるCSR分野に特化した金融機関とが名を連ねるほか、NGOや労働団体、WWFなどの国際機関も参加している。VBDOの取り組みは、オランダ国内企業を対象としたものだが、先行事例として、他地域におけるサプライチェーン評価に与

    える影響は大きい。 このベンチマークの構成は、図表 3 に示すように、ガバナンス・方針などの枠組みに関するものと、実際のマネジメント状況に関するものに大別されており、全部で 18 の指標が開発されている(「行動規範の内容」の指標はさらに 5 分類されている)。評価は、企業の公開情報を基に、各指標について 0 点から 2 点までの 3 段階評価(「行動規範の内容」指標の小項目は 0 点と 1 点の 2 段階評価)で行われる。

    図表 3 RSCM ベンチマーク指標(VBDO) 指標 評点

    役員会の責任 2 点- 1 点- 0 点

    サプライチェーンの持続可能性のリスク分析 2 点- 1 点- 0 点

    カントリーリスク分析 2 点- 1 点- 0 点

    サプライヤー方針 2 点- 1 点- 0 点

    ガバナンス・方針

    サプライチェーンの境界 2 点- 1 点- 0 点

    人権方針 1 点- 0 点

    労働条件・尊厳ある労働 1 点- 0 点

    社会方針 1 点- 0 点

    環境方針 1 点- 0 点

    行動規範の内容

    環境経営監査システム 1 点- 0 点

    ガバナンス・方針

    サ プ ラ イ ヤ ー 行

    動規範

    行動規範の適用 2 点- 1 点- 0 点

    監査方法 2 点- 1 点- 0 点

    監査範囲 2 点- 1 点- 0 点

    監査者の資格 2 点- 1 点- 0 点

    法令不遵守時の対処 2 点- 1 点- 0 点

    監査、法令順守、

    報告

    監査結果 2 点- 1 点- 0 点

    バイヤー訓練 2 点- 1 点- 0 点

    サプライヤー訓練 2 点- 1 点- 0 点

    サプライヤー訓練の範囲 2 点- 1 点- 0 点

    NGO や組合の関与 2 点- 1 点- 0 点

    サプライヤー参加状況 2 点- 1 点- 0 点

    マネジメント

    マネジメント

    戦略的パートナーシップへの関与 2 点- 1 点- 0 点

    (出所)VBDO(2006)を基に富士通総研作成

    3 http://www.vbdo.nl/

    4

    http://www.vbdo.nl/

  • VBDOは、ベンチマーク指標の策定に当たって、評価対象の全ての企業と意見交換を行っている。ベンチマーク評価を歓迎しない企業もあるようだが、企業とNGOがオープンに議論する土壌が存在していることは重要である。NGOも企業と敵対するのではなく、コミュニケーションを重視し、相互理解と状況改善を図ろうとする意識が強い。2006 年 9 月には、このベンチマークにしたがって、オランダ国内の主要企業 32 社(主に製造業)のサプライチェーンをCSRの観点から評価した結果が公開された4。スコアの最大合計は 39点であるが、5 社が合計で 0 点のスコアとなるなど、厳しい評価がなされた5。

    2.2 欧米企業の先行取り組み

    前述したように、欧米の多国籍企業は、サプライチェーンの CSR に関して、わが国よりも厳しいプレッシャーを受けてきた。以下では、ステイクホルダーからの要請に対応す

    るために先行的な取り組みを行なっている業界として、アパレル業界、コーヒー業界、電

    機業界の例を紹介する。 2.2.1 アパレル業界

    衣服やスポーツウェア・シューズなど、多国籍企業による途上国での委託製造が進むア

    パレル業界は、早い時期からサプライチェーンの CSR が注目されていた業界の一つである。業界特性として、労働集約的で委託加工業者がさらに下請けに出す構造となっており、

    これらの下請工場などでの労働環境・人権問題が問われることが多い。 サプライチェーンのCSRリスクの所在を世界的に有名にしたのが、ナイキの例である。ナイキは、1997 年にベトナム等の下請工場における児童労働・強制労働をNGOが指摘したことから、Sweatshop(労働搾取工場)の悪評がマスコミやインターネットで喧伝され、消費者の不買運動を経験した6。これによって、1999 年 3 月期の売上高が創業初の前年比マイナスを記録するという大きなダメージを受けた7。このため、ナイキでは、CSRの取り組みの強化を図ってきた。サプライチェーンの分野では、契約工場におけるナイキの製

    造スタッフによる日常的なモニタリングと専門スタッフによるコンプライアンス監査が導

    入されている。2005 年にナイキが発行した社会的責任レポート8では契約工場の監査結果

    4 VBDO “Benchmark Maatschappelijk Verantwoord Ketenbeheer” 5 スコア上位は大手多国籍企業。1 位がユニリーバ(25 点)、2 位がフィリップス(24 点)、3 位がシェル(23 点)。その他日本で知名度のある企業では、ハイネケン(9 位:15 点)、エールフランスKLM(13位:11 点)が評価対象となっている。 6 Boycott Nike ホームページ (http://www.saigon.com/~nike/) 7 1998 年 3 月期のナイキブランド売上高 9,122 百万ドルに対し、99 年 3 月期の同売上高は 8,358 百万ドルに留まり、8.4%の減少となった。2000 年 3 月期には同売上高は増加に転じたが、98 年 3 月期売上高レベルに回復したのは、02 年 3 月期決算後であった。もちろん、売上高の増減には商品戦略など他の要素も影響しているが、不買運動が売上高減に大きな影響を及ぼしたことは確かである。 8 http://www.nike.com/nikebiz/nikebiz.jhtml?page=29&item=fy04

    5

    http://www.saigon.com/%7Enike/http://www.nike.com/nikebiz/nikebiz.jhtml?page=29&item=fy04

  • を公開し、ホームページ上で、全世界で約 700 の契約工場のリストを掲載するなど9、積極的な情報公開の姿勢を示している。 このようなナイキの取り組みによって、これまでのところ、次のような波及効果が見ら

    れる。第一の効果は、同業他社の情報開示を促したことである。リーバイスやリーボック、

    ギャップなども、契約工場リストの公開、サプライヤー向けのガイドブック発行、CSR 報告書内のサプライチェーン分野の取り組みの詳述などを行なうようになってきた。このよ

    うな業界あげての積極的な情報開示が、結果的に取引先の労働条件向上や監査管理コスト

    の削減につながっており、業界全体にメリットが出ているとも言われている。 もう一つの効果が、ナイキ自身の企業評価の向上である。米ビジネスエシックスマガジ

    ン誌が毎年発表している企業市民ランキングでは、2004 年までナイキは 100 位圏外であったが、05 年には 31 位、06 年には 13 位と評価が急上昇している10。サプライチェーンの取り組みの直接的な成果とは言い難いが11、最近のCSR全体での積極的な取り組みによって、一時の「悪評高い」イメージから脱却しつつあるといえよう。 2.2.2 コーヒー業界

    コーヒーは、熱帯地方で栽培される作物であり、生産国の多くは途上国である。このた

    め、コーヒーの焙煎・流通に携わる多国籍企業は、途上国のコーヒー生産農家の労働環境や

    生活水準の向上、農地開発に伴う森林破壊の抑制などに関する強い要請を受けてきた。全

    般的に生産農家の経営規模が小さいため、仲買業者や焙煎企業との価格交渉力が弱く、最

    も価格変動の影響を受けやすい構造になっており、途上国における地域経済等に与える影

    響も少なくない12。 コーヒーの高品質性(スペシャリティコーヒー)を売りにした事業者は、早い時期から、

    サプライチェーンのCSRを配慮した取り組みを始めている。例えば、スターバックスでは、2001 年から独自の買付け基準を導入し、品質・環境・社会・経済面からコーヒー豆を評価し、基準を満たした生産者に対して、プレミアム価格での優先買付けなどの優遇を行なっ

    ている13, 14。このほか、フェアトレードコーヒー15や、有機コーヒーの取扱量も拡大して

    9 http://www.nike.com/nikebiz/nikebiz.jhtml?page=25&cat=activefactories10 http://www.business-ethics.com/whats_new/100best.html11 ランキングのスコアの内訳を見ると、ナイキは環境とコミュニティ(社会貢献活動)面での評価が高く、人権のスコアは低い。しかし、人権についても、05 年スコアでは、ランキング上位 100 社中、最低レベル(5 社が該当)であったが、06 年スコアでは、ナイキより人権の評価が低い企業が 6 社、同レベルの企業が 14 社というように、少しレベルが上がっており、サプライチェーンの取り組みの成果が表れているといえる。 12 コーヒー生豆の国際価格は、1989 年に生産国の輸出割当制度が瓦解して以来、変動が大きくなった。特に、97 年に 1 ポンド 300 セント以上に高騰した後に、ブラジルとベトナムの大幅な増産によって、2001年に 40 セント台にまで価格が低迷したために、採算が悪化した中米やアフリカの農家で生産放棄が相次いだ。生豆の国際価格は 06 年 10 月現在、100 セント前後で推移している。コーヒーの木の成長には 3,4年かかるため、生産回復は簡単ではない。 13 http://www.starbucks.co.jp/ja/csr/coffeecsr/index.htm

    6

    http://www.nike.com/nikebiz/nikebiz.jhtml?page=25&cat=activefactorieshttp://www.business-ethics.com/whats_new/100best.htmlhttp://www.starbucks.co.jp/ja/csr/coffeecsr/index.htm

  • おり、高付加価値のコーヒー生産者を支援し、生産地の地域社会と環境問題に寄与するこ

    とで、自社の高付加価値商品の供給力を高める戦略をとっている。スターバックスは成長

    企業とはいえ、世界のコーヒー取扱量に占めるシェアは 2%に過ぎず、その効果も限定的である。 2004 年 9 月にドラフトが公表された「コーヒー社会の共通規約(Common Code for the Coffee Community:4C)」16は、業界全体に大きな影響を及ぼす可能性がある。これは、持続可能なコーヒー生産体制の確立のために、コーヒーの生産・流通における環境・社会・

    経済面での自主基準を示したものである。02 年に、ドイツの政府とコーヒー協会が中心となって検討を開始したものであるが、検討メンバーには、ネスレやクラフト等の大手多国

    籍企業や、欧州及び途上国の生産者団体、NGO等が参加し、参加者全体のコーヒー取扱量の世界シェアは6割に達する。06 年末までは、規約の実証テストと支援体制の検討を行なっている段階だが、07 年に設立予定の 4C協会が多数の参加者を得て、実際に共通規約を採用する団体、企業が増えれば、効果的なサプライチェーンのCSR向上につながることが期待される17。 2.2.3 電機業界

    これまでサプライチェーンのCSRと言えば、前述したアパレル業界や、コーヒーを含む食品業界が注目されてきたが、最近では、電機業界のサプライチェーンの状況に対する関

    心が高まっている。早くから批判にさらされてきたアパレル業界や食品業界の対応が進ん

    できたことが、電機業界が関心を集めている理由の一つではあるが18、業界特有の理由と

    しては、①世界的なIT化の進行によって社会に対する業界の影響力が拡大していること、②IT機器の製造・廃棄に伴う有害物質汚染問題19、③PCや携帯電話などの購買主体である若い世代に対してCSRへの関心を喚起しやすいことなどが挙げられている。環境面については、EUでは 2006 年 7 月からRoHS(電子電気機器に対する特定有害物質使用制限)指令が施行され、サプライチェーンの化学物質の情報管理の要請は厳格となっている。 NGOによる大手電機多国籍企業のサプライチェーン調査も盛んである。2004 年 1 月に 14 2001 年に導入されたPreferred Supplier Program は、2004 年に品質と経済的透明性を前提条件として社会・環境基準を定めたCoffee and Farmer Equity (C.A.F.E.) Practices と名称を変えた。2005 年実績でC.A.F.E Practices 対象生産者からの優遇買付け量は、全体の約 25%であった。 15 途上国の生産者の生活安定に必要なコストを織り込んだ価格で取引すること。スターバックスでは、国際フェアトレード機構(FLO:http://www.fairtrade.net/)の認証を受けたコーヒー豆を 2005 年度実績で 1150 ポンド購入している。この量は、スターバックスの全体の買付け量の 3.7%、FLO認証のフェアトレードコーヒー輸入量の 10%にあたる。 16 http://www.sustainable-coffee.net17 4Cの導入については、生産国にとって輸出障壁になり、生産者の経済状況がさらに悪化するとして、難色を示す途上国も少なくない。 18 電機業界以外にも、金融機関(投融資先のCSR)や政府・公共機関(公共調達のCSR)なども、サプライチェーンに関する注目を集めている。 19 特に途上国における電気電子機器廃棄物(E-waste)の不法輸出入に伴う環境汚染が問題視されている。

    7

    http://www.fairtrade.net/http://www.sustainable-coffee.net/

  • イギリスのCAFOD20、2005 年 9 月にオランダのSOMO21が、それぞれ報告書を発表しており、IBM、デル、ヒューレッドパッカード、エイサー、富士通シーメンスなどが槍玉に挙げられた。これらのNGOを中心に、電機業界のサプライチェーンをターゲットとして、欧米や途上国の消費者団体、宗教団体、貿易組合などによる国際的なネットワークの構築

    が進んでいる。 このような状況に対応するために、電機業界では共同してサプライチェーンのCSRに取り組もうとする動きが進んでいる。途上国の下請け企業の労働環境を非難されたIBM、デル、ヒューレッドパッカードが 2004 年 10 月に策定した共通のサプライチェーン行動規範(Electronics Industry Code of Conduct:EICC22)には、マイクロソフト、インテル、ソニー等が加わるなど、参加企業数が増えており、07 年 1 月現在 23 社が参加している。このような取り組みは、NGOからも評価されている23。また、06 年 8 月に公開された社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)による「サプライチェーンCSR推進ガイドブック」の策定にも影響を与えた24。

    2.3 欧米先行企業が直面する課題

    このように欧米多国籍企業を中心として、サプライチェーンの CSR の取り組みが始まっているが、途上国での取り組みが進むに連れて、課題が浮き彫りになってきている。CSRの観点からサプライチェーンを管理する場合、サプライヤーの行動規範を設定し、その遵

    守状況を監査するというのが、これまで先行事例として一般的に行なわれてきた取り組み

    である。しかし、特に途上国での取り組みにおいては、費用対効果が疑問視されている。 そもそも、サプライチェーンをどこまで追えば良いのかという課題がある。一次取引先

    に十分な管理能力があれば、直接の取引関係のない二次、三次取引先にまで注意を払わな

    くても済むが、一次取引先の管理能力が乏しい場合、サプライチェーン上流に問題が発生

    すれば、自社の CSR が問われるリスクが生じるおそれがある。とはいえ、サプライチェーンを追えば追うほど状況把握が困難になり、外部監査員の派遣コストも増大する。 途上国における環境・労働分野の法整備の遅れや生産現場での意識の遅れは、サプライ

    チェーン管理コストの増大要因となっている25。現場の経営層自体にCSRの認識が不十分な場合も少なくなく、サプライチェーン管理の実効性を損ねることになる。例えば、監査

    20 http://www.cafod.org.uk/21 http://www.somo.nl/index_eng.php22 http://www.eicc.info/23 NGOのメキシコのNGOのCEREALと英CAFODは、EICCと 2005 年 9 月と 06 年 4 月に会合を開き、意見交換をしている。 24 JEITAガイドブックとEICCの比較について、4.1.1 に後述。 25 労働政策研究・研修機構(2005)によれば、ナイキは中国 135 工場の監査に年間 800 万ドルを投じているという。

    8

    http://www.cafod.org.uk/http://www.somo.nl/index_eng.phphttp://www.eicc.info/

  • を行なっても一時的な改善にとどまり、継続性が問題となることもあれば、そもそも不正

    が隠蔽されたり、従業員インタビューが適切に実施されなかったりする26可能性もある。

    また、途上国には労働組合結成に制限がある国が多い。これらの地域では、組合組織率が

    低く、現場での労働問題の把握の遅れや、従業員に対するCSRの普及啓発の障害となりやすい27。 このような課題が現出してきたことから、最近では、サプライチェーンのCSR普及には、取引先の行動を監視するような規制型ではなく、相互理解による協働型の取り組みに移行

    することが、長期的利益につながるという考えが広まりつつある。具体的には、取引先の

    経営管理行動の改善を重視し、取引先工場労働者に対する教育・研修などに力を入れる傾

    向が見られる28。

    26 例えば、従業員と監査員だけのインタビュー環境を作らせない(工場からの監視者が同席する)などのことがあるという(2005 年 11 月 18 日の欧州委員会会議 “Responsible Sourcing” でのDr. Bobby Josephの発言内容に基づく)。 27 一部の国・地域では、輸入組合等が労働組合の役割を代替している。例えば、中国紡績工業協会は独自のCSRマネジメントシステム(CSC9000T)を策定し、国内繊維・アパレル産業のCSR普及活動を支援している(http://www.csc9000.org.cn/)。 28 日本機械輸出組合(2005)によれば、アパレル業界のHennes & Mauritz(http://www.hm.com/)が、ステイクホルダー参画型のSCMを実施していると紹介されている。

    9

    http://www.csc9000.org.cn/http://www.hm.com/

  • 3 日本企業の取り組みの現状

    3.1 日本企業の CSR に対する評価

    近年、日本企業は大手企業を中心に積極的にCSRの取り組みを進めており、その進展の度合いは国際的にも高いレベルにあるといえる。例えば、2005 年にKPMGが発表した主要先進国各国の上位 100 社中のCSRレポートの発行比率29を見ると、日本企業が 80%で最も高い値を示している(図表 4 参照)。その一方で、トップレベルのCSRレポートの発行企業は、欧米企業が独占している状態である。2006 年にサステナビリティ社とUNEPが共同発行したCSRレポートのランキング30では、上位 50 社中、日本企業は 5 社がランクインしているものの、最も高評価だった大和証券でも 34 位にとどまっている31。これは、日本の大手企業の多くがCSRレポートを作成しているものの、必ずしもその内容はトップレベルにはないということであり、逆に言えば、欧米企業は一部の企業が先進的な取り組み

    を行っているものの、全体として見ると、取り組みが進んでいない企業が多いという状況

    を示唆している。

    図表 4 主要先進国の上位 100 社中の CSR レポート発行比率

    順位 国名 発行比率

    1 日本 80%

    2 イギリス 71%

    3 カナダ 41%

    4 フランス 40%

    5 ドイツ 36%

    6 アメリカ 32%

    7 フィンランド 31%

    7 イタリア 31%

    9 オランダ 29%

    10 スペイン 25%

    (出所)KPMG(2005) 29 http://www.kpmg.or.jp/resources/research/r_azsus200506_1.html(邦訳版)、原本は http://www.kpmg.nl/Docs/Corporate_Site/Publicaties/International_Survey_Corporate_Responsibility_2005.pdf30 Sustainability (2006) “Tomorrow’s value – The Global Reporters 2006 Survey or Corporate Sustainability Reporting” (http://www.sustainability.com/) 31 その他の日本企業は、富士写真フイルム(45 位)、ソニー(46 位)、セブンアンドアイホールディング(48 位)、日産自動車(49 位)である。ちなみに 1 位はBT(英)で、以下、Co-operative Financial Services(英)、BP(英)、Anglo Platinum(南ア)、Rabobank(オランダ)と続き、ナイキも 10 位に入っている。

    10

    http://www.kpmg.or.jp/resources/research/r_azsus200506_1.htmlhttp://www.kpmg.nl/Docs/Corporate_Site/Publicaties/International_Survey_Corporate_Responsibility_2005.pdfhttp://www.kpmg.nl/Docs/Corporate_Site/Publicaties/International_Survey_Corporate_Responsibility_2005.pdfhttp://www.sustainability.com/

  • 日本企業のCSRの取り組みと言えば、環境面では進んでいるが、その他の分野(主として社会的な側面)の取り組み等はそれほど進んでいないと見られがちであったが、環境面

    以外の取り組みも着実に進んでいるようだ。図表 5 は、ニューズウィーク社が行っている世界企業 500 社ランキング32において、2004 年版と 2006 年版の上位 500 社入りした日本企業(04 年 121 社、06 年 118 社)、イギリス企業(04 年 46 社、06 年 64 社)、アメリカ企業(04 年 225 社、06 年 161 社)のCSR分野別平均点を比較したものである。両年とも、企業統治、従業員、社会の分野においてイギリス企業の平均点が最も高いのに対して、日

    本企業は、環境分野において最も平均点が高いが、企業統治分野の平均点は最も低いとい

    う傾向は変わらない。しかし、この2年間で環境以外の分野において、最上位のイギリス

    企業と日本企業の平均点の差が顕著に縮小しており、日本企業の取り組みが大きく改善さ

    れてきていることを示唆している。

    図表 5 ニューズウィーク世界企業 500 社の各国 CSR 分野別平均点

    0

    5

    10

    15

    企業統治 従業員 社会 環境

    イギリス

    日本

    アメリカ

    0

    5

    10

    15

    企業統治 従業員 社会 環境

    2004年 2006年 点 点

    (出所)Newsweek(2004, 2006)をもとに富士通総研作成

    3.2 国内主要企業のサプライチェーンでの CSR の取り組み

    前述のように、日本企業は、企業内部におけるCSRの取り組みを着実に進めてきたが、サプライチェーン全体でのCSRの取り組みにも着手し始めているようだ。経済同友会の調査33によれば、31%の企業がCSR調達基準を策定し、12%の企業が取引先に適切な助言・指導を行っていると回答している34。以下では、サプライチェーンでのCSRの取り組みの状況をより詳細に見るために、国内主要企業を対象に調べた結果について述べる。

    32 Newsweek Global 500。2006 年のランキングは、ニューズウィーク日本版 2006 年 6 月 21 日号に掲載。英FTSE先進国指数を構成する事業会社の売上高上位 1000 社を財務力(60 点満点)とCSR(60 点満点)の合計で総合ランキングを決定している点。 33 経済同友会「日本企業のCSR:進捗と展望-自己評価レポート 2006」(http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2006/pdf/060523b.pdf) 34 経済同友会会員企業及び東証 1 部・2 部上場企業のうち 527 社が回答。

    11

    http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2006/pdf/060523b.pdf

  • 3.2.1 調査方法

    ここでは、前述の 2006 年版ニューズウィーク世界企業 500 社ランキングに選ばれた日本企業 118 社は、財務力と CSR 対応の双方から国際的に評価された主要企業であると考え、本調査の対象企業とした。これらの企業の 2006 年 8 月末の公開情報をもとに、サプライチェーンの CSR に関して、「自社方針の有無」と「取引先への要請の厳しさ」に大別して取り組み状況を評価した。「取引先への要請の厳しさ」については、「取引先への依頼

    状況」、「取引条件への反映」、「監査・モニタリングの状況」の3つに細別している。また、

    取り組みの程度を把握するために、これらの評価基準について、それぞれ 0~2 点の点数をつけて評価を行った(図表 6 参照)。なお、ここでは、環境分野(グリーン調達)のみを言及したものは、サプライチェーンの CSR の取り組みとは扱っていない。

    図表 6 サプライチェーンの CSR 取り組み状況の評価項目と評点

    評価項目 取り組みの程度 評点

    CSR 調達方針制定、購買方針内で明言 2点

    購買方針内で一部言及 1点 自社方針 CSR 調達方針

    不明 0点

    ガイドライン等具体的に要請 2点

    選定方針のみ提示 1点 取引先への依頼

    不明 0点

    取引の前提条件化 2点

    選定の参考、総合的に評価 1点 取引条件への反映

    不明 0点

    実施 2点

    検討中 1点

    取引先へ

    の要請の

    厳しさ

    監査・モニタリング

    不明 0点

    (出所)富士通総研作成 3.2.2 主要企業の取り組み状況

    国内主要 118 社について、前述の評価項目に基づいてサプライチェーンにおけるCSRの取り組み状況を調べたところ、評価項目の一つでも該当した取り組みを行っている企業は

    39 社であり、どの項目にも該当しない企業が 79 社であった35。すなわち、世界企業にランクされるレベルであっても、サプライチェーンにおけるCSRに着手している国内企業は、

    35 これらの未対応企業の中にも、実際にはCSRを考慮したSCMに着手している企業があることが予想されるが、公開情報がなければ、一般的なステイクホルダーに対する説明責任の点から対応が不十分とみ

    なし、ここでは未対応企業として位置づけている。

    12

  • そのうちの約 1/3 に過ぎないということである。 図表 7 は、評価項目ごとの CSR の取り組みの程度を示したものである。CSR 調達方針については、「CSR調達方針を設定あるいは購買方針内で明言」している企業が28社(24%)、「購買方針内で一部言及」している企業を含めると 33 社(28%)が対応している。取引先への依頼についても、「ガイドライン等具体的に要請」している企業が 26 社(22%)、「選定方針のみ提示」している企業を含めて 29 社(25%)が対応している。同じ取引先への要請項目であっても、取引先への依頼に比べて厳しい要請である取引条件への反映や監

    査・モニタリングについては、取り組みの比率は下がっている。例えば、取引条件への反

    映については、「取引の前提条件」としている企業はわずか 8 社(7%)であり、「選定の参考・総合評価」の位置づけとしている企業を加えて 26 社(22%)となっている。監査・モニタリングについては、「実施」している企業は 10 社(8%)で、「検討中」企業を含めても 18 社(15%)にとどまっている。

    図表 7 国内主要 118 社のサプライチェーンにおける CSR の取り組み状況

    28 5 85

    0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

    1

    CSR調達方針設定、購買方針内で明言 購買方針内で一部言及 不明

    26 3 89

    0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

    1

    ガイドライン等具体的に要請 選定方針のみ提示 不明

    8 18 92

    0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

    1

    取引の前提条件 選定の参考・総合評価 不明

    10 8 100

    0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

    1

    実施 検討中 不明

    28 5 85

    0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

    1

    CSR調達方針設定、購買方針内で明言 購買方針内で一部言及 不明

    26 3 89

    0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

    1

    ガイドライン等具体的に要請 選定方針のみ提示 不明

    8 18 92

    0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

    1

    取引の前提条件 選定の参考・総合評価 不明

    10 8 100

    0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

    1

    実施 検討中 不明

    監査・モニタリング監査・モニタリング

    取引条件への反映取引条件への反映

    取引先への依頼取引先への依頼

    CSR調達方針CSR調達方針 24% 28%24% 28%

    22% 25%22% 25%

    7% 22%7% 22%

    8% 15%8% 15%

    (出所)富士通総研作成

    (注)帯グラフ内の数値は企業数

    13

  • 3.2.3 サプライチェーン対応企業の類型

    図表 8 は、サプライチェーンにおける CSR に着手している 39 社について図表 6 に前述した基準によって評価した結果をもとに、「自社方針の有無」を縦軸(0 点~2 点)に、「取引先への要請の厳しさ」を横軸(0 点~6 点)にとって、各企業の取り組みの状況・程度を図示したものである。

    これらの 39 社は、「方針型」、「実務型」、「総合型」の3つに類型化することができる。「方針型」は、CSR 調達方針の制定などは行っているものの、現状では、取引先への要請はそれほど厳しくない企業である。一方、「実務型」は、CSR 調達方針などを明示していないものの、取引先の CSR の取り組みに対しては、具体的な要請や取引の前提条件化、監査・モニタリングの実施などに着手している企業である。当然のことながら、取引先の

    立場からすれば「方針型」より「実務型」企業の方が、慎重な対応を要することになる。

    また、「総合型」は CSR 調達方針を持ちながら、取引先に対しても厳しい要請を行っている企業である。ここでは、セイコーエプソン、大日本印刷、凸版印刷が、最も高い評価と

    なった。CSR 調達に関する自社方針を持つかどうかというのは、企業姿勢にもよるものであるため、現在の「実務型」企業が「総合型」企業に移行するかどうかは不明である。し

    かし、「方針型」企業は、今後、CSR 調達の実効性を高めるために、取引先への要請を高めていくことが予想されるため、多くの企業が「総合型」企業に移行していくものと考え

    られる。なお、この類型化は、あくまで公開情報をもとに評価したものであり、サプライ

    チェーンの CSR が実際に機能しているかどうかを示すものではない。

    図表 8 サプライチェーンの CSR 対応企業の類型化

    イオンオムロン

    三菱商事

    リコー資生堂

    第一三共未対応企業

    79社

    九州電力デンソー

    カシオ計算機

    三洋電機

    沖電気工業

    セイコーエプソン

    大日本印刷

    凸版印刷

    アサヒビール

    松下電器産業

    NECエレク

    TDK

    三井化学

    ソニー

    NEC

    日立製作所

    キリンビール

    東レ

    日東電工

    武田薬品工業

    富士通

    東芝

    シャープ

    オリンパス

    東京電力

    信越化学工業

    東京ガス

    旭化成

    コニカミノルタ

    日本製紙

    昭和電工

    中国電力

    全日本空輸

    イオンオムロン

    三菱商事

    リコー資生堂

    第一三共未対応企業

    79社

    九州電力デンソー

    カシオ計算機

    三洋電機

    沖電気工業

    セイコーエプソン

    大日本印刷

    凸版印刷

    アサヒビール

    松下電器産業

    NECエレク

    TDK

    三井化学

    ソニー

    NEC

    日立製作所

    キリンビール

    東レ

    日東電工

    武田薬品工業

    富士通

    東芝

    シャープ

    オリンパス

    東京電力

    信越化学工業

    東京ガス

    旭化成

    コニカミノルタ

    日本製紙

    昭和電工

    中国電力

    全日本空輸

    自社方針

    取引先への要請の厳しさ

    2

    1

    0

    6543210 6543210

    総合型方針型

    実務型

    点 (出所)富士通総研作成

    14

  • 3.3 日本企業の取り組みの傾向

    以上のように、日本でも、一部ではあるが、CSR の観点からサプライチェーンを見直す企業が現れている。とはいえ、その内容・レベルは様々であり、「方針型」に分類された企

    業のように、CSR 調達方針を策定したばかりで、取引先への具体的な要請に着手していない企業もある。

    図表 9 は、主要 118 企業調査の結果を業種別に整理したものである。サプライチェーンの CSR 対応企業数を見ると、電機業界や化学・医薬業界に、積極的な対応が目立つ。対応企業 39 社中、電機が 17 社、化学・医薬が 9 社というように、この 2 業種だけで対応企業の 2/3 を占めていた。また、業種内の対応率から見ても、電機は対象企業の 63%、化学・医薬も対象企業の 47%が、サプライチェーンの CSR に取り組んでいるという結果となっていた。このほか、電気・ガスも 4 社が該当し、比較的業種内の対応率は高いものの「方針型」の企業が多かった。

    図表 9 国内主要 118 社のサプライチェーンの CSR 対応状況の業種分類

    業種 調査対象

    企業数

    サプライチェ

    ーン CSR 対

    応企業数

    サプライチェ

    ーン CSR 対

    応企業シェア

    業種内の

    対応率

    建設 5 0 0% 0%

    食料品 5 2 5% 40%

    紙・パルプ 2 1 3% 50%

    化学・医薬品 19 9 23% 47%

    石油・ゴム製品 5 0 0% 0%

    ガラス・土石・鉄鋼・非鉄金属 6 0 0% 0%

    機械 6 0 0% 0%

    電気機器 27 17 44% 63%

    輸送用機器 12 1 3% 8%

    その他製造業 3 2 5% 67%

    電気・ガス 8 4 10% 50%

    非製造業(除く電気・ガス) 20 3 8% 15%

    合計 118 39 ―― 33%

    (出所)富士通総研作成

    先駆的な取り組みという点では、他の業種の中にも、グローバル市場において取引先調

    査やCSR行動規範の遵守要請・監査等、厳しい要求を行なっている企業がある。例えば、

    15

  • 小売業(図表 9 の分類では非製造業(除く電気・ガス))のイオン36は、サプライヤー取引行動規範を導入し、取引先には遵守宣言書提出義務があり、監査も実施するという取引

    先には厳しい取り組みを行っている。大日本印刷37や凸版印刷38においても、調達(選定)

    基準を設定し、遵守状況調査(取引先調査)を実施している。アサヒビール39も国内では

    いち早く、取引先に対してエントリーシート(環境・社会責任アンケート)を導入した企

    業である。変わったところでは、三菱商事40において、事業投資先のCSR取り組み調査や商品サプライチェーンの実態把握調査を行っている。 一方、建設、石油・ゴム、ガラス・土石・鉄鋼・非鉄金属、機械では、対応している企

    業が見当たらなかった。建設を除けば、原料・素材の生産が主な業種、一般消費者向けの

    最終消費財を供給が少ない業種であり、これまでのところ、ステイクホルダーからの要請

    も強くなく、サプライチェーンのCSRに対する関心が低いことが示唆される。また、自動車製造業などを含む輸送用機器業界の対応率も低かった。自動車業界を電機業界との比較

    で見れば、ステイクホルダーからの関心がまだ低いということが一つの要因と考えられる

    が、一般的に取引先と親密な関係を保っているために、現状ではCSRの枠組みでSCMを特別に捉える必要を感じていない傾向があるものと考えられる41。 今回の調査は、財務力とCSR対応の両面から国際的に評価された主要企業(118 社)を対象としたものであり、対象外の企業であっても、サプライチェーンのCSRの取り組みを行っている企業もある42。また、昨今のサプライチェーンのCSRへの急速な関心の高まりを勘案すると、今後、現在未対応の企業の中から、取り組みを始める企業が多く出てくる

    ことが予想される。

    36 http://www.aeon.info/environment/report/2006pdf/04.pdf 37 http://www.dnp.co.jp/procurement/jp 38 http://www.toppan.co.jp/csr/policy.html 39 http://www.asahibeer.co.jp/procurement/plan.html 40 http://www.mitsubishicorp.com/jp/csr/plan/ems.html41 自動車業界の多くは、グリーン調達や取引先のコンプライアンスについては積極的な取り組みを行っている。今回の調査では、企業自身がCSRの観点で、サプライチェーンの取り組みを整理・公開しているものを評価しているため、自動車業界に限らず、実際の取り組みをCSRの観点から整理し直せば、レベルの高い取り組みを行っている企業がある可能性もある。 42 例えば、田辺製薬(http://www.tanabe.co.jp/csr/promise/cooperation/index.shtml)、TOTO(http://www.toto.co.jp/company/kankyo/partner/index.htm)等。

    16

    http://www.aeon.info/environment/report/2006pdf/04.pdfhttp://www.dnp.co.jp/procurement/jphttp://www.toppan.co.jp/csr/policy.htmlhttp://www.asahibeer.co.jp/procurement/plan.htmlhttp://www.mitsubishicorp.com/jp/csr/plan/ems.htmlhttp://www.tanabe.co.jp/csr/promise/cooperation/index.shtmlhttp://www.toto.co.jp/company/kankyo/partner/index.htm

  • 4 日本企業の課題と今後の方向性

    4.1 日本企業の今後の課題

    これまで述べてきたように、CSR の観点からサプライチェーンを見直す日本企業が増えているが、その多くはまだ試行錯誤の段階であり、欧米の先行企業の取り組みと

    比べると、経験の蓄積という点で劣るようである。サプライチェーンがグローバルな

    ものとなっていることが、昨今の CSR の課題の本質であり、日本企業は、国際的な潮流を勘案した上で、自社のサプライチェーンにおける CSR の取り組みを進めていかなければならない。日本企業の今後の取り組みを考える上での課題として、①ステイク

    ホルダーの理解、②日本企業の強みの確認、③包括的な枠組みの構築、の3点を挙げ

    ることができる。 4.1.1 ステイクホルダーの理解

    まず、企業は、サプライチェーンの CSR の取り組みがステイクホルダーの理解を得られるものとなっているかということを確認しなければならない。これはもちろん、

    サプライチェーンに限らず、自社内の CSR の取り組みにおいても、ステイクホルダーとの相互理解は大変重要であり、ステイクホルダーの要請・期待と自社の取り組みの

    マッチングを図ることこそ、CSR であるといっても過言ではない。サプライチェーンの CSR に関しては、一次取引先、二次取引先…というように、サプライチェーンの各段階において、ステイクホルダーが異なる(あるいは同じステイクホルダーでも要請・

    期待する事柄が異なる)可能性があり、さらにサプライチェーンが展開されている国・

    地域においても考慮しなければならない CSR の事柄は異なってくる。このため、サプライチェーンの各段階とその地域ごとにステイクホルダーの関心事項とステイクホル

    ダーに対する具体的行動を整理したうえで、ステイクホルダーとのコミュニケーショ

    ンを図ることが求められる。 国際的潮流と日本企業の考えの違いを示す例として、2.2.3 で触れたJEITA資材委員会が

    制作した電機業界の「サプライチェーンCSR推進ガイドブック」43について詳しく見てみたい。日本版EICCとも言えるこのガイドブックは、サプライチェーンのCSRマネジメントに関して業界共通のガイドラインができたという点で(事務管理作業を効率化できるた

    め)、サプライヤーとカスタマーの双方にとって有益である。JEITAガイドブックは、EICCとの高い親和性によるグローバルな適応を強調しているが、いくつかの相違点がある(図

    表 10 参照)。JEITAガイドブックでは、EICCには含まれていない品質・安全性、情報セキュリティの項目が設けられている。これらは日本市場における関心事項とも言えるし、

    EICC策定後の約 2 年間で重要性が高まった項目とも言え、将来、EICCが改版されれば、新たな項目として追加される可能性もある。一方、EICCに含まれていながら、JEITAガ 43 http://home.jeita.or.jp/ecb/csr/

    17

    http://home.jeita.or.jp/ecb/csr/

  • イドブックにおいて設定されていないCSR項目は、サプライヤーのマネジメントシステムに関する項目である44。欧米を中心としたNGO等のステイクホルダーは、サプライチェーンのCSRの取り組みの継続的な進展(PDCAサイクル)を重視する傾向が強く、マネジメントシステム項目が欠如しているJEITAガイドブックに準拠しているだけでは、状況改善を担保するのに不十分と映る可能性がある。日本の電機企業にとって、単に業界標準に

    準拠しているという説明だけでは、グローバル市場で理論武装を強めるステイクホル

    ダーに十分な対応はできないだろう。国際的にマネジメントシステム(あるいはフィ

    ードバックループ)の整備が重視されていることを把握したうえで、自社のサプライ

    チェーンにおけるCSRの考え方を明確に説明する能力が求められる。

    図表 10 JEITA ガイドブックと EICC の項目の比較 ○

    ×

    ×

    EICC

    ×マネジメント

    ○社会貢献

    ○情報セキュリティ

    ○品質・安全性

    ○公正取引・倫理

    ○環境

    ○安全衛生

    ○人権・労働

    JEITAガイドブック

    ×

    ×

    EICC

    ×マネジメント

    ○社会貢献

    ○情報セキュリティ

    ○品質・安全性

    ○公正取引・倫理

    ○環境

    ○安全衛生

    ○人権・労働

    JEITAガイドブック

    (出所)JEITA 資料を基に富士通総研作成 4.1.2 日本企業の強み

    前述したステイクホルダーへの説明能力ということに関して、サプライチェーンの

    CSR において、日本企業の強みを生かした取り組みをアピールできているかということが二つ目の課題である。一般的に、海外では、日本企業の SCM は CSR の取り組みに有利であると考えられがちである。日本企業の取引構造の特徴といえば、長期継続

    的な取引や、サプライヤー・カスタマーとの情報共有や人材教育等を伴う親密な取引、

    系列企業等における長期雇用契約が挙げられる。サプライチェーンの CSR の普及に関する国際的潮流は、2.2 に述べたように、規制型のコンプライアンス監査への過度な依存から継続的な改善を目指すマネジメントシステムの導入や教育・研修プログラムに

    よる協働型の取り組みが重視されるようになってきている。つまり、日本企業に多く

    44 JEITAガイドブックの参考資料(JEITA-EICC項目比較)において、「管理の仕組みについてはチェックリストでカバー」という形で言及されているが、CSRの具体的項目には設定されていない。

    18

  • みられる取引先との親密な関係は、サプライヤーへの CSR の普及・啓発をスムーズに行ないやすく、CSR を考慮したサプライチェーンの再構築コストを低減できる「強み」とみなされているのである。

    しかし、実際には、日本の先行企業といっても、その多くは取り組みを開始したば

    かりであり、このような「強み」を検証できる段階にない。さらには、日本企業自身

    に、これまでの自社の取引構造、サプライチェーンが CSR の普及啓発を進めていく上で、「強み」になっている可能性に関する意識も乏しいように思える。今後、日本企業

    の「強み」を検証し、その「強み」を生かした取り組みを対外的にアピールするとい

    う発想が重要になるであろう。 4.1.3 包括的な枠組み

    三つ目の課題は、日本企業の取り組みを円滑に促すための包括的な枠組みが形成で

    きるかということである。欧米では、途上国における CSR の普及啓発活動が重視されているが、多国籍企業の取り組みを支援する包括的な枠組みが存在している。

    トルコでは、貿易組合やNGO等の 6 つの国際的なマルチステイクホルダーイニシアチブ(MSI)が国際共同イニシアチブ(JO-IN)45によるプロジェクトを行っている(図表 11 参照)。これには、欧州委員会や米国務省も助成しており、アディダス、ナイキ、GAP、プーマ等の多国籍企業 7 社や、トルコ政府等が参加し、同国の繊維産業のサプライヤーを対象に、CSRのトレーニング・能力開発を実施している。

    図表 11 トルコにおける JO-IN プロジェクトの概要

    マルチステイクホルダー

    イニシアチブ(MSI)

    Ethical Trading Initiative, Clean Clothes Campaign,

    Fair Labor Association, Fair Wear Association,

    Social Accountability International, Workers Rights Consortium

    参加多国籍企業 Adidas, Gap Inc., Hess Natur, Marks and Spencer, Nike, Patagonia, Puma

    プロジェクト期間 2003 年春から 2007 年末まで(含む準備期間)

    プロジェクト資金 欧州委員会、米国務省、ICCO、参加企業の一部からの提供

    プロジェクト目的

    ・ トルコ繊維産業の労働条件・生活条件の改善

    ・ 参加 MSI 間の類似した取り組み内容の重複の回避

    ・ 企業や他ステイクホルダーの互換的・補完的取り組みによる利益の

    実証

    ・ 共通規約実施時の MSI と地域のステイクホルダーの役割の明確化

    ・ 共通規約のベストプラクティスの合意と経験の普及

    アウトプット

    ・ 最終報告書

    ・ 共通規約

    ・ ガイドライン

    ・ 会議、セミナー

    (出所)JO-IN 資料を基に富士通総研作成 45 正式名は “Joint Initiative on Corporate Accountability and Workers Rights” (http://www.jo-in.org/)。

    19

    http://www.jo-in.org/

  • このほか、サプライチェーンのCSRに関する業界横断的な取り組みという点では、前述のEICCやCCCCといった電機業界やコーヒー業界が策定した共通規約も該当する。また、政府レベルの取り組みとしては、例えば、スウェーデンが在中国大使館に

    おいて、CSR普及啓発プロジェクトを実施し、自国の中国進出企業を支援している46。欧米政府が、途上国等でのCSRの普及啓発を支援する理由は、自国企業の進出リスクを低減するとともに、自国のCSRの考え方を進出先に伝播することによって、自国企業の(CSRに配慮した)SCMを容易にし、企業競争力を高めるという思惑がある。

    日本企業の場合、途上国でのCSRと言えば、地域への寄付や植林活動など社会貢献活動をアピールすることが多く、サプライチェーンにおけるCSR普及啓発活動に対する認識は低かったと言えよう。それに加えて、途上国における日本企業のCSRの取り組みを支援する包括的な枠組みも存在しない47。現在、途上国では、包括的な枠組み

    の有無を問わず、欧米主導でCSRの価値観を浸透させる取り組みが活発に行われている。昨今、中国・東南アジア地域でも、CSR関連セミナーが頻繁に行われているが、欧米系多国籍企業(及び関連会社)の参加に比べて、日本企業(日系企業)の存在感

    は薄い48。このような状況が続けば、途上国でのCSRに関して、日本企業が主導権を確保しにくくなるおそれがあり、前述したような日本企業の「強み」が存在したとし

    ても、それを十分に活用することが困難となる。

    4.2 戦略的検討に向けて

    企業活動のグローバル化に伴い、CSRのあり方も企業自身の取り組みだけではなく、開発から製造、流通、販売(さらには廃棄)に至るサプライチェーン全体での取り組

    みが問われている。今後、日本企業がグローバル市場において企業競争力を高めるた

    めには、サプライチェーンの CSR 推進が不可欠となっており、国際的な潮流を勘案しながら、戦略的な検討を行うことが望まれる。

    企業が着手しなければならないのが、CSR の観点による SCM 戦略の再構築である。そのためには、まず、CSRの観点からサプライチェーンの洗い直しを行う必要がある。具体的には、サプライチェーンの各段階において、コスト、品質、納期に加えて、環

    境、労働・人権、地域経済等の面からも、取引先が所在する国・地域特性とステイク

    ホルダーの関心・要請を考慮しながら、リスクアセスメントを行い、取引先に対する

    働きかけの手法を検討していくということである。もちろん、取引関係の強さに応じ

    て、働きかけの優先順位やその手法も異なってくるが、今後、重視されるのが、サプ

    46 スウェーデン在中国大使館では、2005 年末までCSRプロジェクトオフィサーが存在した(2006 年 10月現在空席)。 47 前述のJEITAガイドブックに関しても、現時点では、各社がどのように活用していくかを検討している段階であり、特に国外のサプライヤーに対して統一的な働きかけをするものとはなっていない。 48 欧米系のコンサルタント会社も多数参加し、ビジネスとしてCSRの普及啓発に一役買っている。

    20

  • ライヤーの CSR 経営をいかに支援するかということである。そのためには、取り組みの改善状況が可視化できる仕組みをサプライチェーン全体で構築することが望まれよ

    う。また、環境分野に関するグリーン調達の仕組みをグローバルに構築している企業

    もあるが、サプライヤーの人材開発プログラムも含めて、SCM の枠組みを CSR の観点からスクラップアンドビルドするのか、CSR に特化した別の枠組みとして整備するのか等についても検討する必要があろう。

    このように企業が、実際にサプライチェーンにおける CSR の取り組みを実施し、継続的なマネジメントシステムが稼動すれば、その後は、サプライヤー及び他のステイ

    クホルダーの理解を得るために、コミュニケーション能力の強化に着手しなければな

    らない。前述したように、サプライチェーンの各段階におけるステイクホルダーの関

    心事項と国際的な潮流を勘案しながら、相互理解を前提とした個別のコミュニケーシ

    ョン戦略を検討しなければならない。 今や CSR の中心議論は、途上国を中心としたサプライチェーン全体での取り組みと

    その効果の検証に移行している。これらの地域においても欧米主導で CSR の普及啓発活動が盛んに行われている。日本企業の事業活動が、持続可能な社会の構築に寄与し、

    社会に必要とされるビジネスモデルを提案できることをアピールし、国際競争力の源

    泉としていくためには、企業個別の取り組みだけでは限界がある。日本の産業界・政

    府においても、日本企業の CSR の取り組みを支援するために、グローバル市場でのCSR のあり方を主導的に議論し、その普及を促していく戦略的視点を持つことが求められているのではないだろうか。

    21

  • 参考文献

    生田孝史 2004 「サステナブル・コーポレーションへの変革」富士通総研『研究レポート』

    No.186 生田孝史・峰滝和典 2005 「わが国の持続的成長と企業の CSR 戦略」富士通総研『研究

    レポート』No.238 河口真理子 2005 「グローバル経済における労働問題と CSR」大和総研『経営戦略研究』

    Vol.5, pp.18-49 Kolk A. 2005, “Corporate Social Responsibility in the Coffee Sector: The Dynamics of

    MNC Responses and Code Development”, European Management Journal, Vol. 23, No.2, pp. 228-236

    KPMG 2005, “KPMG International Survey of Corporate Responsibility Reporting 2005”, http://www.kpmg.nl/Docs/Corporate_Site/Publicaties/International_Survey_Corporate_Responsibility_2005.pdf

    Mamic I. 2004, Implementing Codes of Conduct, International Labour Office and Greenleaf Publishing.

    日本機械輸出組合 2005 「企業の社会的責任(CSR)を巡る EU 政策動向に関する報告書」 独立行政法人労働政策研究・研修機構 2005 「グローバリゼーションと企業の社会的責任

    -主に労働と人権の領域を中心として-」 NZBCSD (New Zealand Business Councile for Sustainabile Development) 2003,

    “Business Guide to a Sustainable Supply Chain – A Practical Guide”, http://nzbcsd.org.nz/supplychain/SupplyChain.pdf

    VBDO 2006, Responsible Supply Chain Management Benchmark, http://www.vbdo.nl

    22

    研究レポート(生田)1 1 1 はじめに 2 サプライチェーンのCSRを巡る国際的な潮流と課題 2.1 サプライチェーン評価手法の開発 2.2 欧米企業の先行取り組み 2.2.1 アパレル業界 2.2.2 コーヒー業界 2.2.3 電機業界

    2.3 欧米先行企業が直面する課題 3 日本企業の取り組みの現状 3.1 日本企業のCSRに対する評価 3.2 国内主要企業のサプライチェーンでのCSRの取り組み 3.2.1 調査方法 3.2.2 主要企業の取り組み状況 3.2.3 サプライチェーン対応企業の類型

    3.3 日本企業の取り組みの傾向

    4 日本企業の課題と今後の方向性 4.1 日本企業の今後の課題 4.1.1 ステイクホルダーの理解 4.1.2 日本企業の強み 4.1.3 包括的な枠組み

    4.2 戦略的検討に向けて

    参考文献