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ISSN 1346-9029 研究レポート No.339 April 2009 産学連携拠点としての米国の大学研究センターに 関する研究 主任研究員 西尾 好司

No.339 April 2009 - Fujitsu · 2015-11-25 · ISSN 1346-9029 研究レポート No.339 April 2009 産学連携拠点としての米国の大学研究センターに 関する研究

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ISSN 1346-9029

研究レポート

No.339 April 2009

産学連携拠点としての米国の大学研究センターに

関する研究

主任研究員 西尾 好司

要 旨

・ 米国の研究大学には、複数の専門分野を融合して活動する大学研究センター

(University Research Center:URC)が多く設置されている。URC が産業界から獲得す

る資金は、産業界から大学へ提供される資金の多くを占め、研究や教育において重要

な役割を果たしている。この URC では、既存の学部や学科を横断する形で研究者が参

加している。

・ URC の設立や運営に対して連邦政府や州政府が支援している。現在、米国政府で URC の

設立・運営の最大の支援者が National Science Foundation(NSF)である。NSF の支援

制度では、アイデア段階、センター設立の企画段階、実際の運営のための計画という 3

段階の審査を行っている。また、募集に際しては、センターの体制や大学や産業界の

コミットメント、大学の義務などの要件を明記し、企画の段階から機能するセンター

作りを支援している。さらに、ベストプラクティスの共有やセンター内での問題をセ

ンター間で共有するための仕組みとして、毎年全体会議を開催している。

・ 日本でも、政府は研究プロジェクトの評価の中でマネジメントについても重視し、そ

の結果を大学、産業界で共有することで、産学連携プロジェクトの成果を高めていく

取り組みが必要である。また、企業は、探索研究に関しては、自社の研究者と資金で

単独実施することはリスクが大きい。大学を拠点に複数社が参加して、政府資金を活

用し、レバレッジ効果を生かした研究を行うことを考え、プロジェクトの企画や実施

に、優秀な人材を投入していくように、深いコミットメントが必要である。

(キーワード)共同研究、研究開発拠点、産学連携、政府支援、マネジメント

目 次

1. 研究の概要 ·········································································································1

1.1 研究の背景 ····································································································1

1.2 本研究の目的 ·································································································1

1.3 本稿の構成 ····································································································2

2.米国の大学研究センターとは···················································································3

2.1 大学研究センターの特徴···················································································3

2.2 連邦政府の支援制度 ························································································3

2.3 州政府によるURCの支援制度 ··············································································5

2.4 URCの現状 ······································································································7

3.IUCRC··················································································································9

3.1 IUCRCの概要 ···································································································9

3.2 IUCRCの支援プロセス ·······················································································9

3.3 NSFの支援要件 ······························································································ 10

3.4 IUCRCの組織体制 ··························································································· 13

4. ERC················································································································ 15

4.1 ERC制度の目的 ······························································································ 15

4.2 ERCの採択プロセス ························································································ 16

4.3 ERC採択のポイント ························································································ 17

5.NSF支援のURCが機能する要因と日本へのインプリケーション ······································· 19

5.1 URCに対する企業の評価 ·················································································· 19

5.2 センターのマネジメント················································································· 21

5.3 URCの活動へ産業界のニーズを反映させる仕組み ················································· 23

5.4 日本へのインプリケーション··········································································· 25

参考文献 ·············································································································· 27

1. 研究の概要

1.1 研究の背景

米国の研究大学には、複数の専門分野を融合して活動する大学研究センター(University

Research Center:URC)が多く設置されている。この URC では、既存の学部や学科を横断す

る形で研究者が参加している。URC の設立や運営に対して連邦政府や州政府が支援している。

現在、米国政府で URC の設立・運営の最大の支援者が National Science Foundation(NSF)

である。NSF は、1972 年に設立(当時はパイロットプログラムの位置づけ)されてから、様々

なタイプのセンターを支援してきた。NSF 以外にも、多くの連邦省庁が URC の設立を支援し

ているが、NSF のように継続的に支援している省庁は、運輸省など一部省庁に限られる。

Cohen 等(1994)によると、URC が産業界から獲得する資金は、産業界から大学へ提供され

る資金の 7割を占め、研究や教育において重要な役割を果たしているという。また、Brooks

等(1998)によると、産業界から大学に提供される資金の大学の研究費に占める割合は、1970

年の 2.6%から 1995 年には 6.9%に増加しており、多くの資金が URC を通じて提供されて

いるという。これらの指摘は、URC が産業界にとって有用な存在であることを示している。

また、大学にとっても、単に資金の獲得だけでなく、企業の先端研究ニーズの把握、研究・

教育資源の整備、既存の学部よりも学生の就職率が高い等のメリットがある。Bozeman 等

(2004)によると、米国には URC が数百あり、大学の教員等の 1/3 が URC に関与していると

推測し、URC は企業及び大学双方にとって有用な研究・教育活動を行う拠点となっている。

米国のURCに対する政府の支援は、その多寡はあるが、設立・運営資金に占める割合は高

くなく、URCは連邦政府資金に全面的に依存する体質とはならず、大学側は連邦政府資金以

外の外部資金を集めることが必要となる。大学の外部資金として産業界からの資金を集め

ることは、連邦政府の支援を受ける条件となるだけでなく、州政府資金の獲得につながる

ことから、産業界のニーズに合う研究や教育がURCで行わなければURCを運営できないこと

を意味する。単に公的資金に依存する仕組みではなく、自律して活動できることを要求し、

それを支援するための制度設計となっている。URCは、米国の大学での研究や教育活動と産

業界をつなげる重要な役割を担ってきた拠点といえる1。

1.2 本研究の目的

日本でも、大学には研究所や研究センターのような組織が、既存の学部や研究科とは異

なる学内組織として設置されてきた(阿曽沼 1995)。こうした組織の中には、複数の学部

にまたがる学際的な研究拠点も出てきているが、米国のような大学外との連携の拠点とし

て機能しているところはほとんどない。しかし、イノベーションの創出拠点の整備のため、

総合科学技術会議の提唱を元に、先端融合領域における研究を企業群と大学との協働のも

とで、企業資金と公的資金により行う先端融合領域イノベーション創出拠点制度を 2006 年

度から始めている。また、大学と複数企業が参加する研究開発プロジェクトが政府資金だ

1 URC の中には科学の研究のみを対象とし、産業界との連携を想定してないものもあることを指摘しておく。

1

けでなく、独自に開始されるようになっている。

国の支援による研究開発プロジェクトについては、事前・中間・事後・追跡といった各

種の評価が導入されるようになってきた。しかし、こうしたプロジェクト評価においては、

プロジェクトの企画、実施後の運営などプロジェクトのマネジメントについての評価はほ

とんど行われていない。プロジェクトの成果を上げるためには、マネジメントについても

評価し、その結果を共有し、より成果を上げることのできるマネジメントを導入すること

が日本でも必要と考える。この観点からみて、米国の URC の支援制度は学ぶべきことが多

い。特に、複数の企業が参加する産学連携活動のマネジメントを成功させるために、米国

の URC の活動は参考になると考える。

筆者はこれまでURCについては、その支援の仕組みや活動についていくつか報告を行って

きた2。本稿では、Industry-University Cooperative Research Center(IUCRC)とEngineering

Research Center(ERC)の 2 つの支援制度を取り上げる。IUCRCは、NSFが実施した最初の支

援制度であり、支援の仕組みのモデルとなった制度である。またERCは現在NSFが実施して

いる最大の支援制度であり、ERCの活動は他のURCの活動のモデルとも指摘されている。さ

らに、最近になり両者とも支援のプロセスまたは目的を変更したことである。この点につ

いては、産業技術総合研究所(2008)で触れることができなかった。これらの理由から、本

稿ではIUCRC及びERCを中心に、URCの活動に関する最近の米国での研究成果を取り入れ、URC

が機能する仕組みを分析し、日本の拠点整備に対するインプリケーションを検討する。な

お、本研究では、基本的にNSFや関係のセンターのWebサイトからの情報をベースとして進

める。

1.3 本稿の構成

次の第 2章では、URC の特徴や代表的な支援機関である NSF の支援制度を概説する。そし

て、第 3 章では IUCRC を、第 4 章では ERC を対象に直近の募集について整理する。そして

第 5章では、IUCRC や ERC のレビュー結果を受けて、米国の URC が産業界から高い評価を得

ている要因を分析し、日本への提言を行う。

2西尾(2006),西尾・原山(2007),産業技術総合研究所(2008),西尾・大沢(2008)

2

2.米国の大学研究センターとは

2.1 大学研究センターの特徴

本書で取り上げる大学研究センター(University Research Center:URC)については、米

国でも特別な定義があるものではない。しかし、Gray 等(1998)によると、IUCRC の特質と

して Organized Research Units(ORUs)、Industrial Affiliates、R&D Consortia の 3 つの

性格を併せ持っている。

米国の多くの研究大学では、日本の大学の学部や学科のような正規の研究、教育の組織

とは別に「研究センター」や「研究所」などが設置されており、これらの組織をOrganized

Research Units(ORUs)と称している。このORUsは、既存の学部・学科とは異なり、これら

の既存組織の枠を超えた研究や教育にとって重要な組織と位置づけられている3(小林

(2003)や林(2005))。ORUsのような組織を大学が設立するメリットの 1つには、異なる専門

分野の研究者が参加し、既存の学問領域を超えた学際的な活動が可能になる点がある。一般

に、産業界や社会のニーズは 1 つの学問分野で解決できない場合も多い。Geiger(1993)に

よると、ORUsは 1970 年代後半から増加し、産業界のニーズに対応する活動に活用されてお

り、従来の大学の組織の枠組みを超えた連携活動を必要とする場合に形成される。

ORUs のような組織を作る場合、その運営資金を大学が独自に提供することは難しい。そ

こで、連邦政府の支援が必要となる。連邦政府の支援に当たっては、大学の外部の資金を

集めることが必要であり、産業界の資金を受け入れることが不可欠となる。そこで、URC で

は、会員制度を導入することが多い。会員の多くが企業であり、その他に連邦研究所や財

団法人などがある。企業ニーズは、学部や専攻のような学問的な領域(Discipline)とは異

なり、多領域横断的 (Multi-Disciplinary)や融合領域であることが多い。そのため URC は

企業にとって有用で、資金を提供する価値がある拠点となる。大学は会員制度という多く

の企業が協力して支援する仕組みを構築することで産業界のニーズを取り込むことが可能

となる。多くの企業が参加することで、複数企業や業界にとって有益な汎用的(generic)で

競争前段階(precompetitive stage)の研究を行うことになる。

さらに URC での研究活動に会員企業も参加することにより、研究開発コンソーシアム(R&D

Consortia)としても機能し、URC が産業界のニーズをベースに運営・研究が行われることを

確実にする。以上、このような特徴を持つ URC の多くは、産業界から長期的な資金を受け

入れて学際的な研究や教育を進めている。

2.2 連邦政府の支援制度

米国では、連邦政府及び州政府が様々な形でURCを支援してきた4。URCの最大の設立支援

機関であるNSFは 30 年にわたり、いろいろなタイプのURCを支援してきた。

3 ORUs の中には、既存の学部や学科内のみで形成されるものもある。 4 NSF 以外にも、NIH や運輸省、NASA、DARPA、DHHS 等の省庁が支援している。

3

(1)NSF による URC の設立支援制度

NSFの支援制度の中で代表的なものは、Industry-University Cooperative Research

Center(IUCRC)とEngineering Research Center(ERC)である5。2 つのURC支援制度は、特別

に技術分野を限定するものではない6。NSFの支援制度の中には、材料や数学、コンピュータ

のように分野を限定したURCの設立支援制度もある。最近のNSFのURCでは、複数大学の資源

を効果的に活用すべく、大学間のURC設置を積極的に支援している。

URC は1大学が運営するものから、複数大学が運営するものへシフトしている。複数のキ

ャンパスが構築しているセンターでも、1つのセンターとして資源を共有する。また、仮

に 1 つの大学で会員企業によるパートナーシップを構築したとしても、その資源には限界

がある。むしろ複数の大学が参加して、これらの大学の資源も有効活用したほうが効率が

よい。このような仕組みは、国全体に見て有用なメカニズムとなる。

① Industry-University Cooperative Research Center(IUCRC)

IUCRC は、産業界と大学が連携して産業技術の課題に取り組み、産業界の技術ポテンシャ

ルを高め、研究者の教育・育成を行うことを目的に、大学を拠点として複数の民間企業の

協力を得て研究開発を長期的に実施するセンターに対して小額の支援を行うものである。

② Engineering Research Center(ERC)

ERC は、産業界と大学が中心となり、学際的な工学研究・教育を行うために開始した支援

制度である。ERC の理念は、IUCRC よりも基礎側の基盤研究・発見・概念実証の段階に重点

を置く。これまで 500 社以上が参加し、700 件以上の共同研究プロジェクトが進められてお

り、NSF によるセンター設立支援制度として最大のものである。

③ Science and Technology Centers(STC)

STC は、基礎研究や教育活動を行い、その成果を技術移転や学際的な研究の発展につなげ

ることを目的として 1987 年に創設された。これまで、23 のセンターが設置され、11 のセ

ンターが 10 年間の期限を終了し、2 つのセンターについては管理運営上の問題により中断

し、現在 11 センターが稼動している。

④ Material Research Science and Engineering Centers (MRSEC)

MRSEC は、学際的、複数の専門領域を対象とする材料の研究や教育を支援し推進するもの

である。MRSEC では、材料に関して、知的及び技術的な面において重要な基本的な研究を対

象とし、大学と他のセクター間の連携を推進することで国の優先的な課題に貢献し、大学

ベースの研究センターによって規模及び学際性の利点を追求するものである。

5最近では、ナノテクノロジーの URC を積極的に支援している。 6後述のように 2009 年募集の ERC では募集要項に2つの技術分野を挙げている。しかし、既存の URC と重

複しないという前提で、その他の技術を対象とする ERC として応募することを認めている。

4

(2) NSF の支援

NSF では、①発見(Discovery)、②イノベーション(Innovation)、③教育(Education)とい

う 3つのビジョンを有している。最近では、その中でも②イノベーションをどのように NSF

が支援できるか、また、①から②の間のギャップをどのように埋めることができるかに注

目した施策が行われるようになっている。特にイノベーションに関しては、産学連携の強

化、新規連携の設立などが重要となる。

特に最近では、ベンチャー企業を Practitioner としてパートナーシップの強化を推進し

ている。発見をイノベーションとして商用化するためのギャップを克服するために、中小・

ベンチャー企業と URC の連携を密にするプログラムとして Transition Supplemental Grant

を創設している。これにより、SBIR からの支援を受けている企業の IUCRC や ERC のような

センターへの参加が促進されることになる。大学間の競争から大学間の協働、科学と実用

の橋渡しの推進の中で、これまでの既存企業と大学との協力の中心であった仕組みから、

初めてベンチャー企業を明確に位置付けるようになった。

(3) その他省庁の支援策

① 運輸省:University Transportation Center

運輸省では University Transportation Center プログラム(UTC)を 1988 年に開始した。

UTC の使命は、運輸の研究における最先端技術の発展と運輸の専門家数を増やすことにあり、

その目的は基礎、応用研究、運輸における知識を発展させることにある。そして、学際的

なコースワークや研究への参加を含む運輸に関連する教育プログラムを提供することも重

要な目的である。

② NASA

NASA は、Research Partnership Centers(RPCs)プログラムを創設して、産業界、政府、

大学のネットワークを構築して、宇宙に関する研究を推進している。現在、センターは、

12 箇所あり、大学や非営利研究機関に設置されている。航空技術や衛星通信、宇宙、バイ

オ、先端材料に関する特別な専門領域に焦点を当てている。

2.3 州政府によるURCの支援制度

(1)概要

連邦政府だけでなく州政府の支援もURCの運営に必要である。州政府による支援方法とし

ては、州政府が独自の制度としてURCを設立するものと連邦政府が支援して設立されたURC

に対して支援するものとがある。後者に関しては、NSFと州政府が協調して設立を支援する

制度(Industry University State Cooperative Research Center)7も存在していた。

7 NSF と National Governors Association Science and Technology Council of State の合意により、1990

年に作られた制度。州政府と連邦政府の連携を推進し、州がより直接的に支援を行い、会員企業の競争力

5

州政府が本格的に技術開発を支援するのは、1980 年代に入ってからである。Coburn 等

(1998)によると、1980 年以前には 3つの州にしか経済発展のための支援制度がなかったと

いう。しかし、80 年代には多くの州政府が経済発展のために技術開発の支援を行うように

なった。その中でセンターの設立を支援するようになり、1990 年までに 50 の州の内 26 の

州で州政府の支援制度が整備された。但し、80 年代の州政府による大学をベースとするセ

ンターは、NSF 等の連邦政府が支援して設立された URC とは異なり、技術移転を対象とする

ものが多かった。この背景には、1960 年代に商務省は州政府に対して産業界への技術の普

及事業(technical extension service)のための資金を提供しており、多くが大学をベース

に事業を実施していたことにある。

図表 1 1980-90 年代の州政府による URC

州 URC 制度 成果 ニューヨーク州 Centers for Advanced

Technology 1982~1991 年に 6100 万ドルの投資を行い、1.9~3.6 億ドルのリターンを実現

ミシガン州 Biotechnology Institute やIndustrial Technology Institute

マサチューセッツ州 Centers of Excellence バージニア州 Center for Innovative

Technology 1988~1994 年に 7290 万ドルの投資を行い、2.66 億ドルのリターン

オハイオ州 Thomas Edison Technology Centers

1992~1995 年に 7000 万ドル投資し 7.38 億ドルのリターン

ノースカロライナ州 Microelectronic Center ペンシルベニア州 Ben Franklin Partnership

Centers

(出典)Coburn 等(1998)より筆者作成

最近では、大きな州(カリフォルニア、オハイオ、ウィスコンシン、テキサスなど)では、

ナノテク、バイオや IT のような特定の技術領域を対象とする大学での研究に対して巨大な

投資をしている。

カリフォルニア州は、21 世紀もカリフォルニア州が世界最先端のハイテク地域であり続

けるために、20~30 年後を見越した技術革新の基盤を構築するために、カリフォルニア大

学と州の主導的企業が協力する枠組み “California Institute of Science and

Innovation:(CISI)” を設置した。これは、2001 年~2004 年にわたる 4 年間のプログラ

ムであり、予算は総額 12 億ドル以上である。

や地域経済の発展に貢献することが目的である。NSF と州が同額を出資し、かつ産業界は NSF や州以上の

支援を行うことが前提である。

6

CISI 傘下の 4つの機構は、

・ QB3 (California Institute for Science and Innovation in Bioengineering,

Biotechnology and Quantitative Biomedicine)

・ CAL(IT)2 (California Institute of Communications and Information Technology)

・ CNSI (California Nanosystems Institute)

・ CITRIS (Center for Information Technology Research in the Interest of Society)

QB3 はバイオ、CAL(IT)2は IT、CNSI はナノテクノロジー、CITRIS は社会における IT を

コアとして、それぞれ他領域を融合しつつ、学際研究を進めている。

ウィスコンシン州は、Stem Cell の研究を推進するための Wisconsin Institute for

Discovery という URC を設立した。これは、2004 年から 10 年にわたり総額 3.75 億ドルの

投資の一部が使用される。

2.4 URCの現状

前述の通り米国において URC の共通の定義はなく、URC の活動を概観できるような統計も

存在しない。例外的に、1990 年にカーネギーメロン大学が実施した調査は、今から 20 年以

上前のサーベイであるが、URC について様々な情報を提供してくれる。Cohen 等(1994)の結

果の概要を紹介する。

全米 200 以上の大学に 1,000 以上の共同研究センターがある。センターは、研究費総額

は 25.3 億ドルで、教授陣 1.2 万人、研究者 2.2 万人、学生 1.6 万人がいる。センターを設

立する場合、連邦や州政府の支援制度を活用する。公的資金は産業界資金の呼び水として

使用される。予算は、政府 46%(連邦政府 34%、州政府 12%)、産業界 31%、大学 18%で

賄っている。産業界から大学に投入される資金の 70%以上がセンターに投入されている。

センターの規模は多様である。大規模なものはカーネギーメロン大学の Center for Data

Storage System やスタンフォード大学の Center for Integrated Systems などがあり、10

社以上の会員企業、年間予算が 1000 万ドル以上、50 人以上の教授陣が参加している。セン

ターの 23%が 50 万ドル未満の予算で、45%が参加企業数 6社未満である。

センターで行われる研究は、環境技術や材料、ソフトウェアが中心である。基礎研究が 4

割、応用研究が 4割、開発が 2割である。センターの 3分の 2が研究に専念する一方、5分

の 1が教育や訓練に特化している。

7

図表 2 共同研究センターの技術分野(1990)

(出典)Cohen 等 (1994)

図表 3 URC のアウトプット Mean(N=425) Mean(サンプル数)

Research Paper 42.47 43.6 (414)Invention Disclosure 1.6 2.11 (321)Copyright 1.09 1.73 (268)Prototype 1 1.49 (286)New Products Invented 0.69 1.06 (277)New Process Invented 0.92 1.39 (281)Patent Applications 1.08 1.39 (330)Patent Issued 0.5 0.68 (311)Licenses 0.38 0.53 (301)Ph.D.s 4.38 4.6 (410)Master's Degrees 7.03 7.53 (402)

出典:Cohen 等(1994)

8

3.IUCRC

3.1 IUCRCの概要

1972 年当時の NSF でパイロット・プログラム創設のリーダーシップをとった長官 Guy

Stever は、マサチューセッツ工科大学に長年在籍し、その後カーネギーメロン大学で 7 年

間学長を務めていた。彼のリーダーシップにより、産業界と大学が連携して産業技術の課

題に取り組み、産業界の技術ポテンシャルを高め、研究者の教育・育成を行う目的に、1972

年にパイロット・プログラム(Experimental R&D Incentives Program(ERDIP)の一部)とし

てオレゴン大学、MIT とカーネギーメロン大学に”Technology Centers”が設立された。こ

れが、IUCRC の始まりである。1978 年に拡大し、パイロット・プログラムから正式に IUCRC

プログラムとなった。

3.2 IUCRCの支援プロセス

NSFによるIUCRCの支援のプロセスは、センターのアイデアを固める段階、センターの詳

細を企画する段階、センターを実際に立ち上げ軌道に乗せる段階と、大きく 3 つに分ける

ことができる8。

(1) Letter of Intent の送付

NSF による IUCRC の新設支援は、最初に NSF の担当部署のプログラム ディレクター宛に

Letter of Intent(LoI)を送付し受理されることから始まる。受理されていない場合には、

その後の企画のためのグラントを申請することができない。

LoI の中には、1~4名のプロジェクトリーダーや 1~4つの学外機関が参加することが認

められている。LoI の中には、計画するセンターの研究領域、参加する機関やファカルティ

や研究に興味を持つ産業界・企業のリストを記載しなければならない。なお、LoI は各機関

の Sponsored Projects Office から提出される。

LoI を提出させる目的は、最初に自己査定(Self Assessment)を実施させることにある。

LoI を作成する過程で、研究領域やテーマ、産業界のニーズに合う複数の専門技術分野を用

意できるか、強いリーダーシップを発揮することは可能か、研究対象は産業界のニーズに

十分合うか、大学当局はセンターを支援するかなどを検討させるのである。

(2)企画の Full Proposal の提出

次に、Full Proposal を提出する。このプロポーザルは最大が 15 ページと決められてい

る。Project Summary としてセンターの Intellectual Merit と Broader impact を記載する。

次に Planning Grant Objective として、このグラントの目的や戦略、可能性のある産業界

の企業、場所や会議の形や組織、スタッフや代表の責任、計画のドラフト、プロジェクト(セ

ンターの計画)の詳細を記載する。

8 IUCRC の支援方法は、Program Solicitation NSF08-591 をベースに記載している。以前のプロセスにつ

いては、産業技術総合研究所(2008)を参照のこと。

9

プロジェクトの詳細に関しては、次のことを記載する必要がある。

・ センターが対象とする産業についての一般的な分析として、当該産業がどのように国

の経済発展に効果があるのか、対象とする産業に関する研究の重要性や必要性、特に

センターとして適切と考えている研究領域について記載。

・ 産業界のニーズに関する研究を実施するためのセンターの能力に関する情報の記載。

・ センターのポリシー、ガイドライン、組織構成、運営システムについて決定したこと。

・ 個々の研究プロジェクトについて、実験計画、産業界の関連性や適切性、プロジェク

トの目的、研究チーム、実現可能性、手法、マイルストーンや完成までの期間、年度・

合計の予算計画を記載。

・ 補足資料として、マーケティング計画、センター長や拠点ごとのセンター長、会員契

約、研究計画のドラフト、会員機関からコミットする旨記載されたレターの提出。

(3) Center Proposal の提出

次にセンターの運営計画として Center Proposal(CP)を提出する。CP の中には、次の点

を記載する必要がある。

・ 組織構成として、適切な施設やインフラの整備、センター長の管理能力に関する証拠

を記載する必要がある。

・ 企業会員に対してロイヤルティ・フリーの通常実施権、ロイヤルティ支払いによる独

占実施権の可能性などの知財ポリシー、発表の猶予に関するポリシーなどのセンター

としてのポリシーが確立されているか、センターの会員制度として会員の役割、会員

のカテゴリーにおけるベネフィット、さらにはセンターの活動を阻害する可能性のあ

ることやこれらのリスクを最小化するための方法を記載する。センターを大学の通常

のポリシーの元で運営することを確実にし、センターとしての運営を円滑にするため

に university Policy Committee、Academic Advisory Committee の設置を要求。

・ 個々の研究プロジェクトについて、実験計画、産業界の関連性や適切性、プロジェク

トの目的、研究チーム、実現可能性、手法、マイルストーンや完成までの期間、年度・

合計の予算計画を記載する。

・ さらに、資金の提供先とコストについて個別に記載すること。NSF からの資金について

の予算は、最初の 5年間について年度ごとと 5年間の合計の計画を記載する。

3.3 NSFの支援要件

IUCRC には、複数大学で 1 つの IUCRC を運営する場合(Multi-University Center:MUC)と

1 つの大学が 1つの IUCRC を運営する場合(Single University Center:SUC)がある。ERC と

は異なり、MUC を義務化していないが、最近では MUC の方が多い。2007 年には、Directorate

for Engineering から 8センター、Directorate for Computer & Information Science and

Engineering から 5センターに対して支援が行われた。

10

(1) MUC に対する要件

MUC では、Partner University は NSF から支援を受け取るためには、URC として会員とし

て 6 機関、会費収入として 30 万ドルを獲得することが求められる。さらに 1 つの拠点(サ

イト)で毎年最低 15 万ドルの支援を会員から獲得し、その中で最低 3 社から年間 2.5 万ド

ル以上の資金を獲得できるようにしなければならない。

(2)SUC に対する要件

SUC の場合には 8つの機関、会費収入として 40 万ドルを獲得することが求められる。

図表 4 IUCRC の SUC と MUC の件数の推移

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09

Single

Multi

(出典)Gray 等(2009)より作成

なお、会費収入の間接費として大学が得ることができる割合は最高 10%であり、通常の

割合よりも相当低い。差額分が大学側の負担を意味する。また、Fundamental Research

Supplements 制度は、単一大学では最高 7.5 万ドル、2 拠点以上の場合には最高で 15 万ド

ル、さらに、大学や連邦政府研究所以外の機関に対して最高で 7.5 万ドルを支援する。ま

た、IUCRC では、評価者を置くことが求められており、この費用として 1拠点の場合 9千ド

ル、2拠点の場合 1.5 万ドル、3拠点では 1.8 万ドル、4拠点では 2.1 万ドルが支援される。

11

図表 5 MUC と SUC に対する支援額

MUC SUC 設立 1-5年 会費収入が 30 万ドル以上の場合には年 8

万ドル支援 15 万ドル以上 30 万ドル未満の場合には毎年 5.5 万ドル

会費収入として 40 万ドル以上の場合に毎年 8万ドル

設立 5-10 年 会費収入が 35 万ドル以上の場合には年 4万ドル支援 17.5 万ドル以上 35 万ドル未満の場合に年 2.8 万ドル支援

会費収入として 40 万ドル以上の場合に毎年 4万ドル

(出典)筆者作成

図表 6 IUCRC の獲得金額(2007-08 年度)

平均 総額 合計 $2,448,014 $83,232,472

$225,198 $7,656,743 NSF $157,391 $5,351,288 $721,686 $24,537,337 産業界 $124,558 $4,234,968

州 $120,823 $4,107,966 大学 $201,454 $6,849,447 その他連邦政府 $754,653 $25,658,212 連邦政府以外 $65,728 $2,234,763 その他 $76,522 $2,601,749

(出典)FINAL Report 2007-2008 STRUCTURAL INFORMATION より作成

図表 7 センターのライフサイクル(活動センター数と卒業センター数(合計))

-80

-60

-40

-20

0

20

40

60

80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 0 2 4 6 8

活動URC

卒業URC

(出典)Gray 等(2009)より作成

12

3.4 IUCRCの組織体制

センターの管理に関しては、センターの運営のあらゆることに対して責任を負うセンタ

ー長、拠点ごとに研究チームやセンター内の他の拠点との連携を管理するディレクター、

研究活動をレビューし提言する Industrial Advisory Board(IAB)を設置する。IUCRC では、

会員制度を採用しており、会員は、Full Member(FM)と Associate Member(AM)に分けること

ができる。FM は、センター支援に関する会員の全ての権利を獲得できる。AM は、主に中小

企業を対象として、FM の権利の一部を獲得できる。なお、IUCRC の要件として算出する会

員数として AM は 1/2 としてカウントされる。

IAB は会員企業の代表から構成され、センターの運営、研究のレビューにおいてアドバイ

スを行い、センターから生まれた情報や技術のゲートキーパーの役割を担う。センターの

ポリシーや研究プログラムに影響を与える事柄について会員企業としての投票権がある。

図表 8 IUCRC の会員機関数

Single Multiple センター数 14 25 サイト数 14 83 会員 174 487 1 センター当り 12.4 19.5 1 サイト当り 5.9 脱退会員 24 104 1 センター当り 1.7 4.2 1 サイト当り 1.3 新規参加会員 45 134 1 センター当り 3.2 5.4 1 サイト当り 1.6

(出典)Gray 等(2008)

図表 9 会員機関の内訳(総数 431 機関 合計 623 機関)

大企業(従業員500人以上)64%

小規模企業(従業員500人未満)

18%

連邦政府13%

州・地方政府3%

その他2%

(出典)Gray 等(2009)より作成

13

図表 10 IUCRC に参加している会員機関

参加センター数 機関名 18 U.S. Army(16) 13 Dept of Energy/ Nat’l Labs(15) 12 Boeing(11) 11 General Motors(8) 8 Intel Corporation(9), Lockheed Martin(7) 7 GE(6), NASA(5) ,U.S. Navy(7), Raytheon(5) 6 IBM(-) 5 Toyota(5), Honeywell(5), Ford(-), Siemens(6), U.S. Air Force(8)

(注)5 つ以上の IUCRC の会員となっている企業。()の数字は 2006-07 年度の URC 数。(-)は

2006-07 年度では上位にランキングせず数が不明な場合。なお、Samsung は 2006-07 年度に

5件であった。

(出典)Gray 等(2009)、Gray 等(2008)より作成

14

4. ERC

本章では、ERC 制度の設立の背景や ERC の目的の変遷、2009 年募集の ERC の採択プロセ

ス、ERC の採択基準、ERC の現状について概説する。

4.1 ERC制度の目的

(1)制度開始の背景

1986年に設立されたERC制度は、知識の創造と知識の応用の間のギャップを埋めるため、

産学間、工学系の専門分野間、イノベーション・プロセス間の橋渡しを行う仕組みとして

(Schmitt(1986))設立された。

先ず、産学間の橋渡しに関しては、産業界から大学への資金提供だけでなく、産業界の

問題を理解している人材を大学へ派遣するような人材の交流も含め、産学間で双方向の情

報の流れを作ることが目的である。つまり、産業界から大学へは、障害となっている問題

がどのようなものなのかを伝えることであり、大学から産業界へは、基本的な問題を克服

するのに必要な知識や人材を提供することである。これらの交流の重要な点は、大学の研

究を産業界にとって最も必要とされる基盤的な研究領域に導くことである。

次に専門分野間の橋渡しに関しては、解決すべき問題や必要とされる成果によって組織

を形成することである。これは、既存の専門分野を弱めるものではなく、既存の専門領域

を強化・再生し、さらに新しい専門領域を作ることになる。

イノベーション・プロセス間の橋渡しに関しては、イノベーションのプロセス全体の中

で工学研究を埋め込むことを追及する。そのため、単に科学の研究に留まるのではなく、

市場の特定から、製造や品質管理、メンテナンス、最初の製品の改善など全般にわたる。

(2)ERC の目的

当初の ERC の目標は、学際的な問題に焦点を当て、大学と産業界の密接な関係を構築し、

工学研究・教育を改革することにあった。特に教育を重要視している点が特色である。学

部生や大学院生向けにこれまでとは違うハンズオン型の教育を提供すること、学生達がチ

ームで活動することを重視し、大学入学前の生徒達へのアウトリーチ活動なども含んでい

る。NSF では ERC を大学での工学プログラムや工学コミュニティを変革する組織として考え

ており、他の NSF 支援のセンターや他省庁の同じタイプのセンターのモデルとしても機能

することも狙いとしている。

1996 年からの Generation-2(Gen-2)では、ERC は、工学研究・教育において「イノベーシ

ョンのカルチャー」を生み出し、transformational engineered system の研究を通じて、

科学的な発見を技術的なイノベーションにつなげることとし、一層知識の創造と応用を強

化する取り組みを推進した。2005/06 年から基本的に Gen-2 を引き継いでいるが、一部方

向性を変更する形で、Generation-3 ERC(Gen-3)が始まった。Gen-2 と比較して強調してい

ることは、革新的なスモールビジネスとのパートナーシップ、学生や教員における起業家

15

精神を醸成することである。そして、新しい ERC では、海外大学との共同研究や他の連携

方法により、国際的な研究やイノベーションの経験を提供し、工学・科学の教育における

国内の学生の登録者数を増やすことにこれまでの倍のエフォートを当てることを求めてい

る。このように Gen-3 は、スモールビジネス及び国際的な連携を強く打ち出している。

4.2 ERCの採択プロセス

ERC の採択も IUCRC と同様に 3段階のプロセスを経る。

(1) Letter of Intent の送付

NSF による ERC の新設支援は、最初に NSF の担当部署のプログラム ディレクター宛に

Letter of Intent(LoI)を送付し受理されることから始まる。LoI には、プロジェクトのタ

イトルや研究領域名、代表者の電子メールアドレスを記載しなければならない。なお、LoI

は IUCRC とは異なり ERC では、各申請機関の Sponsored Projects Office から提出する必

要はない。LoI には、次のことを記載する必要がある。

・ センター(Project)のタイトル名

・ ERC のビジョンやゴール、研究領域とそのゴールを含む研究プログラム、大学や高等学

校、産業界との協働・イノベーションプログラムについての概要(2500 字以内)

・ 次の段階の Preliminary Proposal で記載することになる項目、3 つのカテゴリーの中

のどれに該当するか、参加する大学や研究領域のリーダー、参加する教員、海外大学、

教育プログラムのディレクターなどの情報

・ プロジェクトの代表者の情報

・ センターの他の幹部の情報

(2) Preliminary Proposal の申請

次に、Preliminary Proposal(PP)を申請する。PP には、参加する海外大学、参加する教

員、起業家プログラムやイノベーションの推進に関するプログラムに参加する機関、ERC に

参加する企業、研究代表者、センターの概要やそのメリットやインパクト、参加する内外

の大学からのレター、産業界のレター(最高 10 機関)などを申請する。

(3) Full Proposal の提出

PP を申請した後で、Full Proposal(FP)を提出するように求められる(Invited Full

Proposal)。FP は、PP で記載される項目の中で、センターの内容の詳細や参加大学や産業

界からの資金の内容、代表大学での管理スペース(ヘッドクォーター)の確保についての大

学側のレター、地方政府のセンターへの支援のレター、会員企業の候補(PP では最高 10 機

関、FP ではすべて)からのレターのような参加大学や会員企業の関与(コミットメント)につ

いてより確実な情報、予算の詳細(大学の資金拠出額、最初 5年間の毎年の予算と資金計画)

を記載する。

16

(4) 技術領域

2009 年の募集における対象技術分野として 3つの分野が提示されている。

① Complex, Coupled physical Civil Infrastructure System under Stress

都市部や郊外のコミュニティ・地域の持続性を支援するために、物理的なシステムと経

済・社会的なシステムの融合を進め、ライフラインや運輸ネットワーク、通信を含むイン

フラを対象に、経済的な反映や生活環境の実現を目的に、工学・経済・社会及びインフラ

に関する意思決定者が連携して活動する。

② Energy Systems for a Sustainable Future

家庭及びコミュニティにおいて、均衡の取れた再生可能エネルギーと既存のエネルギー

コンビネーションにより効率的で機能するエネルギーシステムを実現するために、工学研

究者だけでなく経済や環境研究者が参加する活動。

③ Transformational Engineered Systems(オープン)

これは、従来からの ERC の目的としている工学システムを変革するための研究であり、

他の ERC やその他のセンターなどとも重複しない領域での活動を支援する。

4.3 ERC採択のポイント

ERC では、目的を達成するために、次のリソースやインフラを持つことが求められる。

・ Lead University と最多 4つの Partner University が長期的なパートナーシップにより

参画する

・ 戦略的な方向性やプロジェクトの選定や評価のため、アカデミアや産業界の専門家など

の外部からのアドバイスを得ることができるアドバイザリーボード、大学間のポリシー

の調整も含む内部のポリシーを策定するためにアドバイザリーボードを設置する。

(1)新センターの採択のポイント

ERC の使命や戦略について以下の点で評価される。

・ 新産業創出の潜在的可能性

・ 工学システムから個別プロジェクトまでの各レベルでの目標の明示

・ 最先端の知識を発展させるための戦略

教育や産学連携の活動も重要であることから以下の活動の計画が評価される。

・ 学部生・大学院生の教育の計画

・ 大学入学前学生などへの教育・普及啓発(アウトリーチ) 活動

・ 産業界連携相手の選択や参加の仕方

センターの組織構成やその環境として、以下の点が評価される。

17

・ センターの組織構成の目標に対する妥当性

・ 必要な研究分野やリーダーシップなどの点からみたチームを構成する人材の妥当性

・ 組織構造やマネジメント計画による効果的な資源の組織化・統合

・ 装置やスペースなどの資源の確保可能性

・ ERC への大学自体の関与の仕方

さらに実際に運営可能であるかを見極めるために以下の点も追加して評価される。

・ センター本部の場所や機能

・ 企業が実際に参加することの可能性

・ 産業界との合意内容(知的財産権のポリシーなど)

(2)renewal review のポイント

ERC の支援期間の平均は 10 年である。領域により異なる。バイオは 10 年以上かかるし、

エレクトロニクスのような場合は 5-8年である。支援期間はフレキシブルに対応する。最

初の段階は、年間 300 万ドルを 5年間支援することになる。3年目にレビューを行い、再度

プロポーザルを提出させ、次の 5 年の支援を行うかどうかをチェックする。もし、駄目で

あれば、これから終了へいくことになる。次のレビューは 6 年目である。いずれのレビュ

ーもデータ、パフォーマンスで行う。

3 年目の評価の基準は、2002 年時点では次の 6つの項目から構成されており、評価者は、

各項目について、各 ERC のこれまでの実績や将来の計画に関するメリット・デメリットに

関する情報、実際に観察された根拠、判断を記述する。

・ ビジョンとインパクト

・ ビジョンを達成するための戦略研究計画

・ 研究プログラム

・ 教育および普及啓発活動

・ 産業や実務家との共同

・ 戦略的な資金配分・マネジメントの計画

18

5.NSF支援のURCが機能する要因と日本へのインプリケーション

本章では、これまでの IUCRC や ERC に対する企業側の評価に関する調査結果を分析し、

このような評価結果を得る URC のマネジメントについて指摘し、最後に日本へのインプリ

ケーションを行う。

5.1 URCに対する企業の評価

(1)センターの成果

前の2章で紹介したセンターでは、優れた技術が生まれている。例えば IUCRC のひとつ、

カリフォルニア大学バークレー校の Center for Sensors and Actuators では、「スマート

ダスト(Smart Dust)」と呼ばれるワイヤレスセンサーを発明しており、これはウォール

ストリートジャーナル紙でも優れたイノベーションのひとつとして選ばれた。

ERC の中では、カーネギーメロン大学の Data Storage Systems Center では、ラップトッ

プや MP3 プレイヤーに搭載される小型の高容量のハードディスクドライブに使用可能な

NiAl の発明により全世界で 1,000 億ドルの市場の中で使われている。デューク大学の

Emerging Cardiovascular Technologies では、細動除去器により 100 億ドル規模の市場で

使用され、バージニア工科大学の Tech Center for Power Electronics Systems では、イ

ンテル社のプロセッサに入っている多段階電圧制御技術で 10億ドル規模の市場で使用され

ている。

(2)IUCRC の参加・不参加理由に関する調査

NSF は、IUCRC に関してノースカロライナ州立大学に対して継続して評価を委託している。

この結果については同大学が web サイトで公開し、毎年 2 回開催される IUCRC の全体会議

でも、最終結果あるいは中間結果が報告される。ノースカロライナ州立大学では、IUCRC に

参加する、または不参加を決めた企業の判断要因について参加することを決定した企業(9

社)と辞退した企業(11 社)の両方へのインタビューによる調査を実施している。

会員として参加することを決定した企業は、大学での研究と自社の研究・戦略への関連

性、大学の研究成果の技術移転の可能性、センターや関連する教員業績を主に考慮してい

た。そして、参加する理由として、基礎研究を社内で行っていない、著名なセンターと提

携することで自社の活動がプラスになる、他産業から参加する民間企業とのネットワーク

の拡大・イノベーションの促進を挙げている。

一方、参加しないことを決定した企業からは、会費、大学の研究と企業の研究・戦略へ

の関連性のなさ、知的財産やライセンシングへの懸念が主な要因となったという。あるい

は、既に参加している企業メンバーに競合企業がいること、地理的に近い大学との連携の

ほうが望ましいこと、知的財産に関しては独占的権利を望んだが大学からの了承を得られ

なかったことという回答もあった。

19

(3)ERC に対する参加企業が考えるベネフィット

ERCに関しては、SRI (Stanford Research Institute)がNSFの委託により実施した調査結

果が報告されている。SRIが 1994-1995 年に実施した評価(有効回答数 355、回答率 71%)に

ついて、Roessner等(1998)9によると、ベネフィットとして新しいアイデア・ノウハウや技

術へのアクセスを挙げた企業が 84.0%ともっとも高く、直接の技術指導、研究開発計画へ

の影響、他社との交流の順となっている。これらは、会員として参加するに当たり企業側

が期待として持っていたものと同じ順番であり、ERCが当初の企業側の期待を実現している

といえる。学生や大学院生の採用、新製品・プロセスの改良・開発・商品化については、

全体としてみると割合は低いが一部の企業からは高いベネフィットとして認識されている。

その後、2000 年に実施した調査(SRI International(2004))によると、会員のベネフィ

ットとして、9割の企業が新しいアイデアやノウハウへのアクセスを、3分の2の企業が自

社研究開発計画への効果を挙げている。一方で、ライセンスを挙げている企業は 15%であ

った。

(4) 企業のベネフィットについての留意点

IUCRCやERCに参加する企業は、新しいアイデア・ノウハウ・技術へのアクセスや新しい

技術に触れること、大学の研究に遅れないように付いていくこと、専門家にアクセスする

ことなど、大学との間での知識・技術の交流を中心に考えている。特許やライセンスにつ

いて、ベネフィットと考える企業は低い10。

ただし、こうした企業が考える参加理由やこれまでのメリットに対する調査結果につい

ては、留意する点もある。Roessner 等 (1998)や Feller 等(2002)が指摘しているように、

会員企業が過去(例えば会員として参加する時点)にベネフィットと考えていることが、現

時点あるいは将来のベネフィットと同じとは限らないことである。

URC に参加してベネフィットを得ようとする企業にとって最もかかるコストは会費では

ない。毎年開催されるミーティングやワークショップに 1 人派遣し、技術レポートを読む

だけの受動的に参加する企業は、真にベネフィットを享受する機会を失っている。あるい

は喫緊の課題に対して既製の技術やソリューションを求める企業、大学の研究者との交流

に技術者や研究者の時間を投資する意思のない、あるいはすることのできない企業は、URC

の活動に対して不満がたまる。コンソーシアムにおける研究成果の実用化に際して、その

成果をコンソーシアムの出資企業が利用あるいは移転する場合には、コンソーシアムで行

う研究活動の技術的な問題というよりは、利用あるいは移転する際の企業側のマネジメン

トの問題が大きいことがGibson等(1994)による米国のMCC(Microelectronics and Computer

Technology Corporation)の研究から指摘されている。つまり、URC に対する企業側の不満

9 1998 年 6 月の時点で、1985 年の制度開設以来 25 の ERC が創設され、その内 18 の ERC がその時点で NSF

からの支援を受けており、7つの ERC が 11 年間の支援期間を終えて活動を終了した。500 以上の企業が参

加し、企業との間で 700 ものパートナーシップ契約を締結した。 10 生物・医学系の URC では例外もある。なお、URC から生まれる発明・特許は非常に少ない。

20

は、必ずしも URC 側の問題として一方的に片づけられるのではなく、企業側の問題でもあ

る。

5.2 センターのマネジメント

企業側のベネフィットを実現するために必要な URC のマネジメントについて指摘する。

(1)センター長の役割

センター長は内部組織の運営のマネジメント、研究プログラム、産業界のスポンサーの

リクルートに責任を持つ立場にあり、その役割が最も重要と認識されている。センター長

は、センターのビジョンを実現するためのリーダーシップを発揮しうる組織構成や体制、

運営方法、企業との連携を構築することが求められる。

センター長の具体的な役割には次のようなものがある。センターに関する責任を有する

大学の代表者への報告、IAB からの勧告に対する対応、センターの内部組織の運営(予算管

理、センターの記録や出版物のメンテナンス、年次会議のセッティング、年次報告や NSF

や大学から求められる調査やレポートの作成)、研究のマネジメント(長期計画や研究計画

の策定と実施、研究のモニタリングと監督)、外部との関係(会員企業の拡大活動、会員企

業への技術移転の推進、広報資料の準備)、センターの運営におけるあらゆるコミュニケー

ションとコーディネートを行う。

そのため、NSF ではセンターを支援する要件としてセンター長を専任のテニュアの教員を

要求することが多い。それは、URC が成功するためには、センター長の強いリーダーシップ

が不可欠であり、センター長のリーダーシップは、産業界に対して多くコンサルティング

を実施しているテニュアであり、尊敬される教員が就任することにより実現できると考え

ているからである。

(2)大学の役割

大学にとっても、URC の設立、設立の支援を連邦政府から受けることについては、研究・

教育資源の拡張につながりメリットがあることから積極的に応援している。NSF ではセンタ

ーを支援する要件として、大学がセンターに対して、適切なスペース、設備や装置を割り

当てること、さらにはコストシェアが必要であり、大学の強力な支援を要求している。政

府からの支援を受けるためには、この大学側の対応について証拠を示す必要がある。前述

の間接費について、大学側は通常の間接費のレートを徴収できないことは、徴収できない

分大学の負担となり、大学も資金の負担をしていることを企業に示すことが出来る。

(3)企業の役割

URC の活動の成果が企業に貢献するためには、企業自身が、大学の研究を吸収し、それを

市場製品へ転換できる能力を持っていることが必要である。このような企業が URC へ強く

コミットメントすることにより、大学の研究者に匹敵する研究能力を持つ企業側の人材が

21

参加し、研究のアジェンダや研究の進捗や成果のレビューを通じて、容易に知識やノウハ

ウ、技術が移転できる。

複数大学が参加する MUC が増加しており、大学間の調整が重要となっている。IUCRC の1

つであるサウスダコタ大学が中心となって運営されている Center for Friction Stir

Processing(CFSP)では、情報標準化ツールを開発しており、マニュアルのドラフトを策

定している。①社会に対する貢献は何かを示す「ビジョン」と、②このビジョンをどうや

って達成するかを示す「ミッション」の 2 つを明確にしておくとよい。そこから、ミッシ

ョンを達成するために必要となるポリシー、手続き、プロセスなどを詳細に分析・策定す

ることができる。CFSP では、IAB の役割・責任、プロジェクト選定プロセス、PI 選定プロ

セス、規則、報告プロセス、論文発表ポリシー、特許ポリシーなどは全て文書化されてお

り、それぞれについて、どのようなプロセスを通り、どのようなマイルストーンを達成す

べきかを細かく示している。

(4)会員制度および IAB の役割

URC が会員制度を採用する理由には、センターで生まれた知識を会合や交流を通じて企業

側へ伝え、企業側で開発へつなげることがある。会員企業が参加する IAB を設置すること

で、IAB という場を通じて、産業界の声をセンターへ伝えることが可能になる。センターと

して、マイルストーンの設定(教員はいやがる)、毎年 2 回 IAB を開催することで、会員企

業との間でインターフェースを構築することができ、お互いを理解することになる。

IAB は、会員企業の代表が参加し、センターのポリシーや研究プログラムに影響を与える

内容について議論する場である。参加者の多くは、研究開発や製造分野のマネージャーク

ラスである。研究のレビューや評価を担当し、センターから生まれた情報や技術のゲート

キーパーの役割を担うことになる。活動領域やテーマの最終的な決定者は、センター長(教

員)であるが、IAB は URC の決定に影響を与えることができる。

活動の方向性の検討の際に、IAB を定期的に開催して、会員企業の意見を取り入れること

は、教員が独善的な対応をしないように、会員企業との間での交流を密にするための仕組

みでもある。NSF が指導しているようにセンター長のリーダーシップや参加する学内研究者

のビジョン共有を進めると、反対にセンター内で研究の中止が行いにくくなることも起こ

りうる。そのため、IAB を設置し企業の意見を取り入れる仕組みを組み込むことで、センタ

ーの刷新を妨げる可能性を回避できる、というメリットがある。

どの企業も会員になることは可能である(独占禁止法)。しかし、URC へ会員以外の企業

が URC と交流することについては、制限することがある。例えば、ERC の1つである

Engineered Biomaterials Engineering Research Center は、医療へ応用可能な、癒すこと

が可能な(Heal-able)合成物質の創出に研究の焦点を当てた医学・生物学的な研究を行っ

ている。ここでは、研究及び知的財産は会員企業にのみ提供される。研究は全て公開され

るが、初期段階のアクセス及び知財の first refusal right を持つ。会員企業は、技術の

22

ニュースレターや毎年開催されるシンポジウム、NSF への毎年の報告書、プロジェクトの最

終報告書へアクセスできる。こうした運用は、NSF のセンターでは一般的なことではないが、

バイオ系の企業にとっては魅力的なものとなる。

IUCRC の1つであるシンシナチー大学の Center for Intelligent Maintenance Systems で

は、メンバーではない企業から、スポンサードリサーチを委託された場合、基本的には拒

否するが、「ハネムーンプロジェクト」として短期プロジェクトであれば契約可能である。

しかし、このハネムーンプロジェクトの後、委託元の企業がセンターメンバーになる確率

はかなり低い。

(5)支援機関(NSF 等)の役割

NSFは単に資金を支援しているわけではない。IUCRCやERCでは、年 1回または 2回総会を

開催している。この総会の参加資格に関して、IUCRCの総会では参加制限がない11。一方ERC

については関係者に限定される。しかし、いずれの総会も、プレゼンテーション資料の多

くは、Webサイトで公開されている。

この総会では、NSF による新制度の説明、新しく活動を開始したセンターの紹介、センタ

ーの活動に関する重要なトピックスについての議論が行われる。ベストプラクティスに関

しては、IUCRC や ERC のベストプラクティスが作成され、公開されている。特に ERC につい

ては、アップデートされている。前述のとおり、IUCRC についてはノースカロライナ州立大

学へ、ERC については SRI へ評価の委託が行われ、この結果も公開される。こうした総会を

通じてセンター間で課題やベストプラクティスが共有化される。

5.3 URCの活動へ産業界のニーズを反映させる仕組み

(1)教員のコミットメントの強化と URC の企画

URC の企画の中心は教員であり、教員が企業と議論しながら内容を詰めている。大学幹部

や窓口組織と企業が連携に合意したとしても、必ずしも教員が参加するとは限らない。セ

ンターを成功させるためには、有力な教員の参加が重要である。米国でも教員の意思が尊

重され、優秀な教員を参加させるためには教員のインセンティブが重要である。ここでの

インセンティブとは、単にセンターに参加することが教員の研究費の獲得に有用というだ

けでなく、センターのビジョンや研究・教育における重要性も教員のインセンティブとな

る。優秀な教員を参加させるためには教員のインセンティブやセンターのビジョンや研

究・教育における重要性を計画段階から認識してもらうことが重要と指摘されている(Gray

等(1998))。こうした教員を中心に企画することは、URC の活動に対する教員の動機付けを

形成し、活動開始後に教員のコミットメントを引き出すことが可能となる。

(2)交流の深化の仕組み

11 一部のセッションは関係者限りという制限はある。

23

複数の教員や企業が参加して URC を企画することが可能な背景には、通常の大学の活動

で日本との違いがあるからである。URC 企画時の会員企業と教員は、それまでに共同研究な

どの連携の経験があり、しかも複数の企業と 1 つのプロジェクトを実施することも多い。

また、複数の教員が参加したチーム型の研究が一般的に実施されていることから、教員の

間で新しいアイデアや現状の問題点などを共有できる。このような、教員同士、または教

員と企業間で議論ができる環境が作られていることが重要なのである。しかも、URC は、こ

れまでの大学と企業との交流からアイデアが生み出され、アイデアを実現するための手段

となるものであり、始めに URC というセンターの設立を目的としているものではない。

・ ERC の 1 つであったカーネギーメロン大学の Data Storage System Center は、ストレー

ジに関する研究及び教育を行っており、1982 年設立の Magnet Technology Center を起

源とし、1990 年に ERC に採用され、2001 年に ERC を卒業した。

・ スタンフォード大学の材料研究科学技術センターであった Center on Polymer

Interfaces and Macromolecular Assemblies は、NSF の支援制度とは関係なくスタンフ

ォード大学と IBM がセンターの設立を計画しており、NSF が 1994 年に MRSEC の支援制度

を開始したことから、この制度に応募して支援を受けた。

・ カリフォルニア州の支援により設立された CITRIS は、カリフォルニア大学向けに募集

されたセンターの設立支援に応募するために作られたものであるが、その根拠は教員達

あるいは企業との議論を経てアイデアが生まれた。

このように、大学は必要な URC を検討していく中で、必要な支援制度を活用していると

いう姿勢がとられている。特に CITRIS については、このようなプロセスを経て企画される

ことから、新しい連携の仕組みを構築することも可能となる。カリフォルニア大学バーク

レー校の CITRIS あるいは BSAC の一部で実施されている特許を出願しないというポリシー

を掲げるような新しい連携の仕組みを構築することも可能となる。

(3)研究のマネジメント

URC の研究は、科学的な要素が強い研究から市場を意識した研究まで多岐に渡る。また、

複数の専門分野の研究者や企業が参加することから、関係者の認識を統一することには困

難なことが多い。それを解決する手段が前述の IAB 以外にロードマップの作成がある。

IAB はセンターでのプロジェクトの採択にも大きな影響を与える。例えば、アリゾナ大学

やオハイオ大学が運営する IUCRC の Center for Communications Circuits and Systems で

は、実施するプロジェクトでは、まず、研究者が 2 ページの簡単な提案書を IAB に提出す

ることから始まる。IAB は実施するプロジェクトの数を決め、提案書から興味あるプロジェ

クトを選び出す。IAB から指定された提案書についてフル提案書の作成が求められ、IAB で

さらなる審査のうえ、選出されたプロジェクトに対して研究資金が割り当てられるという

プロセスを経る。平均して最初に提出された 2 ページ提案書のうち、半数に対して研究資

金の割当が行われている。

24

ERC の1つである Center for Power Electronics Systems(CPES)では、ロードマップを

作成し、領域ごとにマイルストーンやベンチマークを作成している。ロードマップは年次

大会(教員や学生、企業スポンサーなど 250 名位が参加)でレビューされ、検討してアッ

プデートされる。毎週全ての教員や学生が参加してプロジェクト会議が開催される。これ

は、学生にとって CPES の活動全体を理解することやチームのコラボレーションを推進する

のに役立っている。設置されてすぐのセンターにとって必要なことは、明確なロードマッ

プやビジネスプランを策定して、統一された研究方向性を確立することである。

一般に会員企業の中で上位の会員(特にセンター企画段階から関与している企業)は従

業員をセンターに常駐でき、企業関係者が研究の立ち上げに参加することで、教員と企業

間の情報交換を円滑にできる。

科学的な要素が強い研究では、大学側がイニシアチブを取り研究を進めている。その一

方で、市場を意識した研究では企業がイニシアチブをとることも多い。つまり研究の性格

により研究管理の主体を変えている。

(4)学生の参加

企業と URC の交流の中で学生は重要である。最近では、URC と民間メンバーとのミーティ

ングにおいて、ポスターセッションを採用する動きが増加している。ポスターセッション

は学会などで頻繁に採用されている発表メカニズムであるが、これへの回帰が見られる。

民間メンバーとのミーティングには学生を必ず連れて行くことが重要である。これは、学

生を同席させることで、民間メンバーが支援に興味を持ち、また、学生が民間メンバーに

就職できる機会を増やせる、という一石二鳥の結果を生むからである。

5.4 日本へのインプリケーション

以上、米国の IUCRC と ERC を中心とする URC の活動や政府の支援について分析を行った。

ここから日本へのインプリケーションとして次のことが指摘できる。

(1)政府

URCは、マネジメントが必要となる活動であり、現在の日本の大学では一朝一夕にできる

ものではない。先端融合領域イノベーション創出拠点制度では、設立後 3 年目で評価をし

て支援を継続するかどうかを決定する。2009 年 1 月 22 日に公表された審査結果12によると、

目標の達成状況、研究成果以外に参加企業のコミットメントを評価項目に加えている。今

後は、拠点のマネジメントについて、継続支援するセンターとそれ以外のセンターの違い

についても指摘し、公表することで、拠点作りが成功する可能性を高めていくための支援

も政府は行っていくべきである。政府は研究開発プログラムとして、単に資金を支援する

だけでなく、マネジメントに関して関係者間で課題や評価結果、ベストプラクティスを共

12 「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成」プログラム平成 20 年度再審査結果

(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/21/01/attach/1236282.htm)

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有できるようにすべきである。そうすることで、企画を募集する際に、成功するためのポ

イントを募集要項・要件に盛り込むことが可能となる。

(2)企業

URC に参加する企業は、教員との人的な交流や最先端の研究成果へのアクセス、自社研究

員の能力向上、優秀な学生の採用を目的としている。さらに、IAB に参加することで、将来

の学際的な研究に初期段階から関与でき、研究の方向性の決定に関与することが可能にな

る。また、大学に探索研究の場を提供することで、次世代技術開発や技術の新しい適用領

域(アプリケーション)の開拓にもつながる。探索研究に関しては、企業が自社の研究者と資

金で単独実施することはリスクが大きい。企業が十分に研究資源を提供することは難しく、

むしろ企業は、大学に資金を拠出して、大学の優れた研究者が研究を進め、その成果やアイデア

に早い段階でアクセスすることを重視する。URC というコンソーシアムの場を通じて、1社当

たり少額の資金で研究を開始し、やがて政府資金を活用し、さらには他の企業を巻き込む

ことにより、自身が拠出する資金の何倍もの資金で研究を行うことが可能となる。

Nagaoka 等(2008)によると、研究開発の目的に関して、米国企業は日本企業よりも既存事

業とは関連のない長期的なシーズ創出や技術基盤の強化の占める割合が高く、半導体やバ

イオテクノロジー等先端分野と称せられる領域で一層顕著となるという。日本企業は、基

礎的・探索的な研究を実施することが一層困難な経済状況になっている現在、大学との連

携を効果的なものとしなければならない。URC のような活動は、研究開発費のレバレッジ効

果を活用できる拠点ともなる。企業は、大学との連携から価値を高めようと考えるのであ

れば、資金だけでなく、研究開発や企画に関する会議などに人をだすように、より深くコ

ミットしていく必要がある。

(3)大学

URC のような拠点を整備する時に注意しなければならないことは、大学側がトップダウン

で企業との連携を進めるのではなく、教員側と企業側の企画をベースに、大学は企画作り

を支援するという姿勢が必要である。実際に企画するにあたっては、企業と大学・教員が

コミュニケーションを取る仕組みがあること。単にセンターという拠点を作るだけでなく、

通常の研究の中で、教員同士の連携、複数企業との研究交流が行われるような研究活動を

追及することが求められる。大学としては、これまでの 1 つの研究室と 1 社の連携の枠組

みを超えた連携を支援していくこと必要となる。

26

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研究レポート一覧

No.339 産学連携拠点としての米国の大学研究センターに関する研究

西尾 好司 (2009年4月)

No.338 インフォミディアリの再定義と消費行動・企業経営へのインパクト

新藤 精士浜屋 敏

(2009年4月)

No.337 大企業のクラウドコンピューティングへの取り組みに向けた考察

湯川 抗前川 徹

(2009年4月)

No.336 オバマ新大統領の医療改革 松山 幸弘 (2009年3月)

No.335 労働拘束時間が運動習慣に与える影響について -「健康会計」に向けた企業と社会にとっての新たな 視点

河野 敏鑑 (2009年1月)

No.334 金融資産市場の変容とわが国金融改革のあり方 -米・英比較にみる「金融危機」の背景と金融の役割-

南波駿太郎(2008年12月)

No.333 低炭素社会に向けた民生部門対策の設計 生田 孝史(2008年12月)

No.332 調整期に入る中国経済 朱 炎(2008年11月)

No.331 貨物ゲートウェイ空港の国内立地のための方策 -アジアの活力を取り込んだ経済成長向上に向けて-

木村 達也(2008年11月)

No.330 顧客経験に基づくサービスの知覚品質評価 -ITインターフェース・サービスを中心として-

長島 直樹(2008年11月)

No.329 地域医療提供体制改革(IHN化)の国際比較 松山 幸弘(2008年11月)

No.328 工業系公設試験研究機関の現状に関する一考察 西尾 好司(2008年10月)

No.327 未公開Web2.0企業の実態と成長に関する研究 湯川 抗(2008年10月)

No.326 地方の自立性を高めるための地方への税配分 米山 秀隆(2008年10月)

No.325 インドにおける研究開発戦略のあり方 金 堅敏(2008年10月)

No.324 A Return of Protectionism? Internal Deregulation and ExternalInvestment Restrictions in the EU

Martin Schulz (2008年8月)

No.323 銀行の資産運用・収益構造と収益力強化のための基本戦略 -収益源の多角化と規模の収益性を求めて-

南波駿太郎 (2008年6月)

No.322 地域間移動を考慮した将来人口の推計 戸田 淳仁新堂 精士

(2008年6月)

No.321 中国経済のサステナビリティと環境公害問題 柯 隆 (2008年5月)

No.320 「革新創造国」造りに向かう中国のチャレンジ 金 堅敏 (2008年5月)

No.319 急拡大する中国の自動車市場と日系企業の対応 朱 炎 (2008年5月)

No.318 バリュー・プライシング実現に向けた一考察 長島 直樹 (2008年4月)

No.317 証券化の活用による賃貸住宅市場の革新 米山 秀隆 (2008年4月)

No.316 欧州との比較による日本の林業機械と作業システムの 課題

梶山 恵司 (2008年4月)

No.315 中国企業の海外投資戦略と政府系ファンド 金 堅敏 (2008年4月)

No.314 カテゴライゼーションの消費者行動における重要性 -Willingness to payへの影響-

新堂 精士 (2008年3月)

No.313 女性労働者の出生行動と金銭的インセンティブ -健康保険組合データに基づくパネルデータより

河野 敏鑑 (2008年3月)

http://jp.fujitsu.com/group/fri/report/research/

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