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No.423 September 2016 研究最前線「クモの糸に学び、構造タンパク質をつくる」より SCIENCE VIEW シナプスの微細構造を深部まで超解像で見る 研究最前線 クモの糸に学び、構造タンパク質をつくる 研究最前線 グリア細胞“アストロサイト”は 脳内で何をしている? 特集 理研の次の百年に向けて 宍戸 創立百周年記念事業推進室長に聞く FACE 化学反応が始まる瞬間の電子の動きを 見ることを目指す研究者 TOPICS 「理化学研究所 科学講演会2016 理研百年へ─果てなき探求─」を 開催します! 新研究室主宰者の紹介 原酒 清掃登山 9 ISSN 1349-1229

No.423 September 2016 9...No.423 September 2016 研究最前線「クモの糸に学び、構造タンパク質をつくる」より SCIENCE VIEW ②シナプスの微細構造を深部まで超解像で見る

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No.423 September 2016

研究最前線「クモの糸に学び、構造タンパク質をつくる」より

SCIENCE VIEW ②

シナプスの微細構造を深部まで超解像で見る研究最前線 ④

クモの糸に学び、構造タンパク質をつくる研究最前線 ⑧

グリア細胞“アストロサイト”は脳内で何をしている?特集 ⑫

理研の次の百年に向けて宍戸 博 創立百周年記念事業推進室長に聞く

FACE ⑭化学反応が始まる瞬間の電子の動きを見ることを目指す研究者

TOPICS ⑮・ 「理化学研究所 科学講演会2016 理研百年へ─果てなき探求─」を開催します!

・ 新研究室主宰者の紹介

原酒 ⑯清掃登山

9

ISSN 1349-1229

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図2 SeeDB2によって深部においても超解像画像が得られる原理従来の透明化試薬の屈折率はオイルやカバーガラスの屈折率と違うため、深部を観察しようとすると光が1点に収束せず画像が不鮮明になる(左)。SeeDB2は屈折率が一致しているため、深部でも光が1点に収束して高い分解能が得られる(右)。

図3 SeeDB2によるシナプスの分布とスパインの形態の定量解析左は神経細胞の模式図。学習や神経回路の発達に重要な役割を果たすNMDA型グルタミン酸受容体を欠損させた神経細胞を観察した。神経細胞を赤色、抑制性シナプスを黄色の蛍光タンパク質で標識している。定量解析の結果、スパインの密度は変わらないが、先端が大きなスパインが増えること、大きなスパインには抑制性シナプス(矢頭)が多いことが明らかになった。

従来の透明化試薬

透明化した試料

カバーガラス

オイル

1.33~1.46

1.521.52

屈折率

1.52

1.521.52

屈折率対物レンズ 対物レンズ

SeeDB2

 網の目のように張り巡らされているのは、神経細胞の細胞体から伸びる樹

じゅ

状じょう

突とっ

起き

や軸索である(図1)。ポツポツと見えるのは樹状突起から出ているスパインというとげ

4 4

状の構造で、その先端には神経細胞同士が情報をやりとりするシナプスがある。「電子顕微鏡以外で、1µm以下と非常に小さいシナプスの微細構造をこれほど鮮明かつ立体的に捉えた例はありません。私たちが開発した透明化試薬S

シーディービー

eeDB2によって可能になったのです」と、多細胞システム形成研究センター(CDB)感覚神経回路形成研究チームの今井 猛チームリーダー(TL)は言う。「成功の鍵は、透明化試薬の屈折率です」 脳の神経回路は3次元的に絡み合っているため、スライス断面を観察しただけでは、どのようにつながっているのか分からない。そこで、深さ方向を連続的に観察して3次元像を再構築できるように、厚みのある試料を透明化する試薬がいくつか開発されている。感覚神経回路形成研究チームも2013

年にSeeDBを開発。果物に含まれるフルクトース(果糖)を用いたもので、微細な構造を損傷することなく透明化できる。画期的な透明化試薬として注目されたが、今井TLはさらに

先を目指した。「私たちの研究チームでは、嗅きゅう

覚かく

の神経回路の形成メカニズムの解明を目指しています。そのためにはシナプスを観察したいのですが、通常の光学顕微鏡の分解能は200nm(1nm=10億分の1m)くらいが限界なので、詳細な構造までは見えません。超解像顕微鏡ならばより高い分解能を実現できますが、SeeDBや既存の透明化試薬で処理した試料では、深部を観察しようとするとぼやけてしまうのです」 超解像顕微鏡では、試料を覆うカバーガラスと対物レン

シナプスの微細構造を深部まで超解像で見る2016年3月11日プレスリリース

樹状突起(入力)

軸索(出力)細胞体

スパイン

野生型(対照)

NMDA型受容体欠損 2µm

抑制性シナプス 興奮性

シナプス

S C I E N C E V I EW

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RIKEN NEWS 2016 September 03

図1 SeeDB2で処理したマウス大脳皮質の神経回路の大規模超解像画像深さ100µmまで超解像画像を取得して、3次元に再構築した。水平方向の分解能は150nm。

だ(図3)。「SeeDB2と超解像顕微鏡によって、シナプスの定量的かつ3次元的な解析が初めて可能になりました。神経回路の機能や疾患のメカニズムをシナプスレベルで解明することにも役立つと期待しています」 SeeDB2を用いてショウジョウバエの神経回路、マウスの卵母細胞の微小管、培養細胞の細胞内小器官構造なども観察し、その有効性も確認済みだ。「透明化は分厚い脳の試料でよく使われてきましたが、SeeDB2は高解像イメージングが最大の強みです。分厚い試料に限らず、さまざまな生物の組織や細胞でも広く使ってほしいですね」。すでにSeeDB3

の開発にも着手している。今井TLは「細胞を生かしたまま透明化したい」と意気込む。 (取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

ズの間をオイルで満たす。オイルとカバーガラスの屈折率は1.52だが、SeeDBの屈折率は1.49。この屈折率の違いによって深部では光が1点に収束せず、像がぼやけてしまうのだ(図2)。そこで今井TLらは屈折率が1.52になる透明化試薬を探索。そして完成したのが、CTスキャンなどでX線造影剤として使われているイオヘキソールを用いたSeeDB2である。毒性も低く、微細な構造を損なわずに透明化できる。 SeeDB2で透明化したマウスの大脳皮質を超解像顕微鏡で観察すると、表面から100µm以上の深部でも超解像の画像が得られた(図1)。従来の10倍以上の深さである。シナプスには興奮性と抑制性があるが、蛍光タンパク質で標識して、それぞれの分布や密度を詳細かつ大規模に調べることも可能

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04 RIKEN NEWS 2016 September

カイコなどの昆虫やクモがつくる繊維状タンパク質の総称がシルクである。 「シルクの研究の多くは、生物学からのアプローチです。タフツ大学の研究室のように、人工シルクを生合成する研究をしているところでも、再生医療用の機能材料として利用することが目的です。私はタフツ大学の上司と同じ研究はしたくないと思い、構造材料用に構造タンパク質を設計し、つくる研究を進めることにしました」 構造材料として優れた性能を持つ構

■ 構造タンパク質を効率良く大量合成する 高校では競泳、東京工業大学では水球に明け暮れていたという沼田TL。「大学で、タンパク質やプラスチックなどを扱う高分子工学科を選んだのは、深い考えがあったわけではありません。真面目に研究に取り組み始めたのは学部4年の夏、けがで2カ月間入院してプレーができなくなった後です」 大学院では高分子の構造や物性を調べる研究を進めて学位を取得し、2008

年から2年間、米国のタフツ大学へ。「赴任した研究室では、遺伝子治療用の材料として人工シルクを設計し、生合成する研究をしていました。私はそこで初めてシルクに出合いました」 タンパク質のうち、酵素などの化学反応に関わるものは“機能タンパク質”と呼ばれる。一方、コラーゲンなど体の構造づくりに関わるものを“構造タンパク質”という。 シルクも構造タンパク質である。シルクというと絹糸をまずイメージするが、

クモの糸に学び、構造タンパク質をつくる

骨や皮膚の成分であるコラーゲンなど、体の構造をつくるタンパク質は“構造タンパク質”と呼ばれる。クモの巣を形づくるクモの糸も構造タンパク質だ。クモの糸は、軽量ながら、質量当たりの強

きょう

靱じん

さ(タフネス)が鋼鉄の340倍という優れた性能を持つ。軽量で高タフネスなクモの糸を、人工物を形づくる構造材料として使うことができれば、例えば、燃費の良い自動車や飛行機ができるだろう。「ただし、クモの糸などの構造タンパク質を効率良く大量に合成する手法がまだありません」理研 環境資源科学研究センター(CSRS)酵素研究チームの沼田圭司チームリーダー(TL)は、そう指摘する。沼田TLたちは、構造タンパク質をつくる独自手法の開発を進めている。

①クモの内臓(大瓶状腺)でクモの糸タンパク質が丸まって粒子ができる

②管の中で粒子が一列に並んでたくさんの細い糸ができる

③細い糸が50本ほど束ねられてクモの糸となる

びん

図1 クモの糸の紡つむ

がれ方

研 究 最 前 線

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RIKEN NEWS 2016 September 05

造タンパク質の代表がクモの糸だ。「鉄は変形しにくい強さがあります。ゴムは引き伸ばすことができる柔らかさがあります。しかしどちらも破壊に必要なエネルギーはクモの牽

けん

引いん

糸(クモがぶら下がる命綱)には及びません。クモの糸は軽量ですが、強さと柔らかさを併せ持ち、破壊されにくい強靱さ(タフネス)に優れています」 そのクモの糸を、化学繊維のように石油原料に依存することなく、低エネルギーで製造できる可能性がある。「ただし、構造材料として実用化するには、低コストで大量合成できることが条件になります。そのような構造タンパク質の合成法はまだ確立されていません」 2010年4月、沼田TLは理研バイオマス工学研究プログラム(2015年にCSRSに統合)において、“クモの糸タンパク質”などの高分子材料を低コストで大量合成するための新手法の研究を始めた。

■ クモの糸タンパク質を 組み込んだ高機能木材 沼田TLたちは現在、三つのアプローチでクモの糸をはじめとする構造タンパク質をつくる研究を進めている。一つ目は植物につくらせる手法だ。 「バイオマス工学研究プログラムには植物の専門家が多く、いろいろと教えていただきながら、植物の核ゲノムに高分子材料を合成する遺伝子を導入してつくらせる研究を始めました。しかし、遺伝子を導入すると立ち枯れしてしまう問題が発生しました。調べてみると、ミトコンドリアがつくり出す物質の不足

が原因であることが分かりました」 ミトコンドリアは、生体エネルギーをつくり出す細胞内小器官だ。ミトコンドリアも、細胞核とは別に独自のDNAを持っている。 「私たちは、高分子工学の手法を使ってミトコンドリアに遺伝子を導入する改変技術を開発しました。それにより産生物質の不足を解消して立ち枯れを防ぐことができる可能性があります。そもそも、動物や微生物などに比べて、植物では遺伝子導入などの改変技術の開発が十分ではありません。少なくとも、動物細胞の分野から移ってきた私には、そう見えます。そのため、私たちは植物用の改変技術をそろえるところから始めています」 木材自体が、軽くて加工しやすい優れた構造材料だ。「さらに植物細胞の間をクモの糸タンパク質でつなぐことができれば、高タフネスの木材ができるでしょう。タフネスを高めることで、自動車の車体フレームや高層住宅用の建材など、木材の用途を大きく広げることを目指しています」

■ 窒素ガスを栄養源にできる 光合成細菌につくらせる 植物細胞にクモの糸タンパク質をつくらせても、それを低コストで抽出して構造材料として利用することは技術的に難しい。そこで沼田TLたちは、抽出技術が確立されている微生物を用いる研究も進めている。それが二つ目のアプローチだ。 「大腸菌のような、よく使われている

微生物に、クモの糸タンパク質の遺伝子を導入してつくらせる取り組みが、ほかの研究グループで進められています。私はあまり研究が進んでいない、海にすむ“光合成細菌”に注目しました。私たちが選んだ光合成細菌は、光合成をしながら、窒素の固定もできるという特徴があります」(図2) 微生物を利用した物質生産の課題は、餌などとして投入したエネルギーの大部分が微生物の成長に使われ、物質生産にはあまり使われないため、生産効率が低くなってしまうことだ。 「餌に含まれる栄養源の中でも、生物が生きる上で必須となる窒素は、肥料の原料にもなり高価です。大気の8割は窒素ガスなので大量にあるのですが、大腸菌も含め普通の生物はそれを栄養として直接取り込み利用することができません。一方、私たちが選んだ光合成細菌は、大気中の窒素ガスを取り込んで栄養として利用できる形に“固定”す

撮影:STUDIO CAC

図2 窒素を固定する海洋性光合成細菌

沼田圭司 (ぬまた・けいじ)環境資源科学研究センターバイオマス工学研究部門 酵素研究チームチームリーダー

1980年、東京都生まれ。博士(工学)。東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。米国タフツ大学 日本学術振興会海外特別研究員を経て、2010年、理研バイオマス工学研究プログラム酵素研究チーム 上級研究員。2012年、同チーム チームリーダー。2015年より現職。

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06 RIKEN NEWS 2016 September

ることができ、この点が最大のメリットです。大気中の窒素ガスと、水中の二酸化炭素を原料にしてクモの糸タンパク質をつくることができるのです。現在、光合成細菌が取り込んだ窒素ガスのうち、どれくらいがクモの糸タンパク質の合成に使われているかを調べているところです」 その光合成細菌は、よく使われる微生物に比べて、高分子材料をつくる能力が低いという課題がある。 「そもそもクモの糸タンパク質の遺伝子は発現しにくいのです」と沼田TLは指摘する。 タンパク質は遺伝子の情報に従って20種類のアミノ酸が並んだ鎖が立体的に折り畳まれたものだ。「その鎖の一方の端(N末端)付近のアミノ酸が、クモの糸タンパク質が発現しにくい原因だと考えられています。そのN末端付近がないと、タンパク質が水中で並ぶ際に効率が悪くなります。この点をほかの手

法で解決することで、N末端付近を取り除くなど、クモの糸タンパク質の遺伝子を、発現しやすい形に改変する実験を進めています。そのような手法により、窒素を固定する光合成細菌にクモの糸タンパク質を効率良くつくらせることを目指しています」

■ 試験管内で天然を超える構造タンパク質をつくる 窒素を固定する海洋性光合成細菌でクモの糸タンパク質をつくる研究をしている研究室は、世界でもCSRS酵素研究チームしか知られていない。沼田TLたちは、さらにもう一つの独創的な研究を進めている。試験管内で酵素を使ってアミノ酸をつなげて構造タンパク質を大量合成する研究だ。それが三つ目のアプローチである。 「試験管内で少量のタンパク質を合成する手法はあります。しかし構造材料に求められる低コストで大量生産が可

能な試験管内の合成法はなく、新しい重合反応の開発が必要です」 室温で反応が進む酵素を使い、有害な有機溶媒ではなく水系溶媒を用いることができれば、副産物も少なく、低エネルギーで環境に優しい低コストの合成法となる。 「試験管内で合成する手法の最大の利点は、アミノ酸以外の分子もタンパク質に組み込むことができることです。生物がつくれない高分子を合成できるのです。天然の構造タンパク質より人間が利用する目的に適した性能を持つ、人工構造タンパク質を合成できる可能性があります」 構造材料として使うには、熱で軟らかくして鋳型などで特定の形にする“熱成形”ができることが望ましい。ただしタンパク質に熱をかけると、焦げて分解してしまう。「アミノ酸以外の分子を組み込むことで熱成形が可能な構造タンパク質を実現できれば、用途が大きく広がります」 試験管内でクモの糸タンパク質をつくる研究は現在、どこまで進んでいるのか。クモの糸タンパク質は、βシートと呼ばれる結晶化した硬い領域と、結晶化していない軟らかい領域が交互につながってできている(図3)。 硬い結晶領域(βシート)はアラニン、軟らかい非結晶領域はグリシンというアミノ酸から主にできている。「クモの糸タンパク質はたくさんの種類のアミノ酸から成りますが、必須のアミノ酸はアラニンやグリシンなどに限られています。また、酵素のような機能タンパク質は、

図3 クモの糸タンパク質の基本構造クモの糸タンパク質は、硬い結晶領域(βシート)と、軟らかい非結晶領域が交互につながった構造をしている。クモの内臓でつくられたクモの糸タンパク質は、丸まって粒子となる(図1-①)。

クモの内臓でできるクモの糸タンパク質が丸まった粒子

クモの糸タンパク質

硬い結晶領域(βシート)

軟らかい非結晶領域

研 究 最 前 線

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RIKEN NEWS 2016 September 07

アミノ酸の並びが1個違うだけで機能が大きく異なりますが、構造タンパク質が構造材料としての性能を発現するためには、それほど厳密な並び方は必要ないと考えています。そのため、アミノ酸の並びをおおよそそろえたタンパク質であれば、試験管内で簡単に合成することができます」 クモの糸タンパク質を合成する上で大きな課題は、アミノ酸の鎖を長くつなげることだ。「まず硬い結晶領域と軟らかい非結晶領域を重縮合という反応でつなげていくことが難しかったのですが、化学合成が専門の土屋康

こう

佑すけ

上級研究員が、その問題を解決してくれました」 高タフネスのクモの糸タンパク質をつくるには、硬い結晶領域と軟らかい非結晶領域を交互につなげて、全体が数千個のアミノ酸から成る長い繊維状にする必要がある。 「現在は100個ほどアミノ酸をつなげると反応が止まってしまいます。鎖が長くなると反応を促進する酵素が働きにくくなるからだと考えられますが、詳細はよく分かっていません。原因を探り、アミノ酸を数千個までつなげることを目指しています」

■ クモの糸の紡つむ

がれ方を探る ここまで、クモの糸タンパク質をつくる研究を紹介してきたが、いずれもクモの糸になる前の材料の話だ。クモの糸タンパク質をシートなどにすればタフネスに優れた材料になるが(図4)、タフネスに最も優れた性能の材料となるのは、

糸に紡いだ場合だ。 「燃料電池自動車用の水素タンクには高タフネスが求められます。そのような用途の構造材料にするには、やはり人工的にクモの糸を紡ぐ必要があります」 沼田TLたちは、内閣府が進める「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」の「超高機能構造タンパク質による素材産業革命」に参画。大型放射光施設SPring-8や理研横浜事業所の高磁場NMR(核磁気共鳴)装置などを駆使して、天然と人工のクモの糸タンパク質の構造の違いとともに、クモの体内で糸が紡がれる仕組みを調べる研究を行い、ImPACTに参加している企業にその知見を提供している。 「クモの内臓である大瓶

びん

状腺において、クモの糸タンパク質が丸まって直径0.1µmほどの粒子ができます。管の中で粒子が一列に並んでたくさんの細い糸となり、それらが50本ほど束ねられて、太さ5μmほどのクモの糸ができることを私たちは突き止めました」(図1) ただし大きな謎が残されている、と沼田TLは言う。 「粒子と粒子がどのようにつながって細い糸ができるのか、まだ分かっていません。そこに高タフネスの秘密があるはずです。合成繊維の例を参考にすれば、硬い結晶領域(βシート)が並んで粒子間を貫通する串のような構造をつくり、粒子同士をつなぎ留めているといったことが考えられますが、いまだ確証が得られていません。私たちはSPring-8によって、細い糸を引き伸ばしたときの構造変化を観察して、粒子同士のつなが

り方を探っています」 クモの糸などのシルクは、水を含むと大きく物性が変わってしまう。それが構造材料として長期使用する際の大きな課題の一つだ。 「水分によってシルクの構造がどのように変化して、物性がどれくらい影響を受けるのか、よく分かっていませんでした。私たちはそれを調べ、水の影響をできるだけ小さくして構造材料としての性能を安定させる方法を解明しつつあります。今後は、安定性の高いシルク材料を設計し、開発します」

■ さまざまな構造タンパク質をつくる 窒素を固定する光合成細菌につくらせる手法と、試験管内で合成する手法は、「現段階では甲乙つけ難い」と沼田TLは言う。 「3年後には、どちらの手法が優れているか判断をして、一方の手法を発展させていくつもりです。さらに、シルク以外のさまざまな構造タンパク質をつくることも進めていきます。構造タンパク質には優れた機能を持つものがたくさんあります。例えば、ノミの跳躍力や、トンボの羽の動きを生み出す、高い弾力性を持つレジリンなどです。独自の手法でアミノ酸をうまくつなげて、さまざまな人工的な構造タンパク質をつくり、実用化する。このような研究に植物を融合させることで、社会に役立つ構造材料を開発していきたい。私はそれをライフワークとして続けていくつもりです」 (取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

撮影:STUDIO CAC関連情報● 2016年6月9日プレスリリース シルクの材料特性とアミノ酸配列の相関を解明● 2016年2月4日プレスリリース シルク材料での水の影響を解明● 2015年1月15日プレスリリース  植物ミトコンドリアへ選択的に遺伝子導入する手法を開発

図4 試験管内で合成したクモの糸タンパク質からつくったシート

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08 RIKEN NEWS 2016 September

情報の伝達と処理を担う。核が入っている細胞体から、情報を出力する1本の軸索と、情報を入力するたくさんの樹状突起が出ている。情報は神経細胞の中を電気信号として伝わっていく。血管は、細胞に必要な栄養と酸素を運ぶ。 では、グリア細胞の機能は? 「中枢神経系のグリア細胞には、オリゴデンドロサイト、ミクログリア、アストロサイト、NG2陽性細胞の4種類が知られています。グリア細胞は、英語ではsupport cell、日本語では支持細胞とも呼ばれます。その呼び名のとおり、情報の伝達や処理には関与せず、神経細胞の働きを助ける細胞だといわれていました」 オリゴデンドロサイトは神経細胞の軸索に巻き付いて、電気信号を効率よく伝える絶縁体の役割をしている。NG2陽性細胞はオリゴデンドロサイトに分化する前の前駆細胞だ。ミクログリアは脳における免疫機構を担っており、死んだ細胞を食べて処理するなど貪食細胞のような一面もある。 「私たちが注目しているアストロサイトの主な機能は、シナプスから放出された神経伝達物質の回収だと考えられてきました」と平瀬TL。神経細胞同士はシナプスという構造を介して接続し、情報の受け渡しを行っている(図1)。情報を送り出す側を“前シナプス”、受け取る

■ 脳を構成する3要素 「私が注目しているのは、アストロサイトと呼ばれる細胞です。あまりなじみのない細胞かもしれません」と平瀬TL。

「脳は、神経細胞と血管、そしてグリア細胞で構成されています。アストロサイトはグリア細胞の一種です」(図1) 神経細胞は、脳の中心的な細胞で、

図1 脳の構成要素脳は、神経細胞と4種類のグリア細胞、血管から構成される。情報は神経細胞の中を電気信号として伝わり、シナプスで神経伝達物質に変換されて次の神経細胞へと伝えられる。アストロサイトはシナプスと血管を覆っている。

神経細胞

樹状突起

神経伝達物質受容体

前シナプス

後シナプス

血管 軸索

オリゴデンドロサイト

ミクログリア

NG2陽性細胞

アストロサイト

グリア細胞“アストロサイト”は脳内で何をしている?

脳の構成要素といってまず思い浮かぶのは、神経細胞、そして血管だろう。実は、脳の構成要素にはもう一つ、グリア細胞がある。グリア細胞の役割は、脳の構造や代謝を維持し、神経細胞の働きを助けることだと考えられてきた。ところが、脳科学総合研究センター(BSI)神経グリア回路研究チームの平瀬 肇 チームリーダー(TL)は、「グリア細胞の一種であるアストロサイトは、神経細胞の働きを助けているだけではない」と言う。アストロサイトは、学習や記憶の形成に不可欠なシナプス可塑性にも関わっていることが分かってきたのだ。生きたままの動物の脳を観察することで初めて明らかになってきた、アストロサイトの多様な機能を紹介しよう。

研 究 最 前 線

イラスト:矢田 明

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RIKEN NEWS 2016 September 09

側を“後シナプス”と呼ぶ。情報は神経細胞の中を電気信号として伝わってくるが、前シナプスと後シナプスの間に数万分の1mmほどの隙間があり、電気信号は伝わらない。そのため、電気信号は前シナプスで神経伝達物質と呼ばれる化学物質に変換され、隙間に放出される。その神経伝達物質が後シナプスの表面にある受容体と結合すると、再び電気信号に変換されて次の神経細胞の中を伝わっていく。神経伝達物質をアストロサイトが速やかに吸収することで、シナプス間の情報伝達の時間を制限し、より頻繁に情報を送れるようになっている。

■ シナプスと血管をつなぐ なぜ平瀬TLはグリア細胞の中でもアストロサイトに注目したのだろうか。「アストロとは“星の”という意味です。たくさんの小さな突起があり、それらの突起がシナプスと血管を覆っています(図1、図2)。脳の構成要素である神経細胞と血管を密接につなげているのです。その様子から、神経細胞の補助だけでなく、神経細胞の情報伝達機能、ひいては記憶など脳の機能に重要な働きをしているのではないかと考えたからです」 「アストロサイトの活動を捉えた例は、ほとんどありませんでした」と平瀬TLは指摘する。神経細胞が活動すると、細胞の外からイオンが流れ込み、細胞膜の内側と外側で電位差が生じる。この膜電位を計測することで神経細胞が活動しているかどうかが分かる。しかし、活動時に数十mVも膜電位が変化する神経細胞に対してアストロサイトはわずか

数mVしか変化しない。そのため、アストロサイトは情報の伝達には関わっていないと考えられるようになった。ただしアストロサイトの実験は、脳を0.3mmほどの厚さで切り出した切片を使って行われてきた。細胞は数時間生きているが、本来の活動をしているかどうかは分からない。「アストロサイトの働きを知るには、生きたままの動物の脳で、その活動を捉える必要があります」

■ 活動を生きたままの状態で見る 平瀬TLは、英国のロンドン大学大学院で博士号を取得した後、米国のラトガース大学で研究を行った。そして2003年、2光子励

れい

起き

顕微鏡と細胞内のカルシウムイオン(Ca2+)濃度を感知する蛍光色素を使い、生きたままのラットの脳でアストロサイトの細胞内Ca2+濃度が上昇する様子を世界に先駆けて観察した。ちなみにアストロサイトの場合、Ca2+は細胞内の小胞体やミトコンドリアに貯蔵されており、そこから放出されて細胞内Ca2+濃度が上昇する。膜電位が変化しないのは、Ca2+が細胞外から入ってくるわけではないためだ。 「途中1年間、コロンビア大学で研究をしました。そこで、まだ珍しかった2光子励起顕微鏡に触れ、操作技術を学べたおかげです」と平瀬TL。従来の蛍光顕微鏡では可視光の青や緑の光を当て、1個の蛍光分子が1個の光子を吸収して励起状態となって発する蛍光を捉える。2光子励起顕微鏡では近赤外線を当て、1個の蛍光分子が2個の光子を同時に吸収して励起状態となって発する蛍

光を捉える。近赤外線は可視光より波長が長いため散乱されにくく、深部の蛍光分子も励起できるという特徴がある。 「アストロサイトが本当は何をしているのかを突き止めたい。電気的には静かなアストロサイトが細胞内Ca2+濃度をダイナミックに変化させて活動する様子を見たことで、強く思うようになりました」

■ アストロサイトから分泌された タンパク質が神経活動を調整 平瀬TLは2004年、BSIで神経グリア回路研究ユニット(2011年から研究チーム)を立ち上げた。これまでの研究をいくつか紹介しよう。 平瀬TLは、まずS100βというタンパク質に注目した研究に着手。「S100βはアストロサイトに特異的に発現し、Ca2+

と結合して細胞内Ca2+濃度を一定に保つと考えられていました。てんかんや統

撮影:STUDIO CAC

図2 アストロサイトの顕微鏡写真アストロサイトにはたくさんの小さな突起があり、シナプスと血管を覆っている。右上は、血管を取り巻いている部分の拡大。(撮影:三嶋恒子 研究員)

血管

アストロサイトの突起

平瀬 肇 (ひらせ・はじめ)脳科学総合研究センター 神経グリア回路研究チームチームリーダー

1972年、広島県生まれ。Ph.D. 英国ロンドン大学(UCL)コンピュータサイエンス学部卒業。同大学大学院神経科学研究科博士課程修了。米国ラトガース大学博士研究員、コロンビア大学博士研究員などを経て、2004年より理研脳科学総合研究センターユニットリーダー。2011年より現職。

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10 RIKEN NEWS 2016 September

合失調症の患者さんの脳脊髄液でS100βの濃度が高くなることも知られています。アストロサイトでつくられるS100βが、神経活動に何らかの影響を与えているのではないかと考えたのです。BSI行動遺伝学技術開発チームの糸原重美TLとの共同研究でS100βの遺伝子を欠損させた動物でさまざまな実験を行った結果、驚くべき発見がありました」 脳の主要な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸が放出されると、アストロサイトの表面にある受容体に結合する。すると、アストロサイト内からS100βが細胞外に分泌され、そのS100βが神経細胞の活動を調整していたのだ。 グルタミン酸など神経細胞から放出される神経伝達物質がアストロサイトからも放出されているという報告は、それまでにもあった。しかし、アストロサイトから分泌されるタンパク質が神経伝達物質と同様に神経活動を調整していることが明らかになったのは、世界で初めてだ。この成果は2008年に発表された。S100βが分泌される仕組みが分かったことで、てんかんや統合失調症の予防や治療薬の開発につながると期待される。

■ 記憶にアストロサイトが直接関与? ぼんやりしているときより、集中しているときの方が物を覚えられる。集中しているときには、目の奥に位置するマイネルト基底核という領域からアセチルコリンという神経伝達物質がたくさん分泌され、シナプスでの伝達効率が増強される。シナプスの情報伝達効率が変わることを“シナプス可塑性”といい、記憶や

学習の形成の基本的なメカニズムだとされている。「私は、アストロサイトはシナプス可塑性にも関与しているのではないかと予測し、アストロサイトの活動とシナプス可塑性との関連を生きたままの動物の脳で調べてみることにしました。これは誰もやったことがない実験でした」 麻酔をしたマウスのひげに圧縮空気を吹き付けて刺激すると、大脳皮質の神経細胞が活動する。またマイネルト基底核を刺激すると、アセチルコリンが分泌される。この二つの刺激を同時に繰り返すと、神経細胞活動が増大する。シナプスの伝達効率が増強され、シナプス可塑性が誘導されたのだ。このときのアストロサイトの細胞内Ca2+濃度の変化を2光子励起顕微鏡で調べた。 すると、刺激している間、アストロサイトの細胞内Ca2+濃度が顕著に上昇することが分かった。このときアストロサイトはD‒セリンというアミノ酸を放出することも明らかになった。D‒セリンは、後シナプス表面のNMDA受容体に結合する。NMDA受容体はグルタミン酸が結合する受容体だが、その活性化にはD‒セリンあるいはグリシンの結合も必要で、またシナプス可塑性と深く関わっている受容体として知られている。 D‒セリンの放出がアストロサイトの活動の結果であるかどうかを確かめるため、BSI発生神経生物研究チームの御子柴克彦TLとの共同研究で、細胞Ca2+

濃度の変化が起きないようにした遺伝子組み換えマウスでも同様の実験を行った。すると、細胞外のD‒セリンの増加、そしてシナプス可塑性も誘導さ

れなかった。 平瀬TLは、一連の実験結果を次のように解説する。「これまでマイネルト基底核からのアセチルコリンの分泌がシナプスの可塑性を直接誘導すると考えられていました。私たちの実験によって、マイネルト基底核から放出されたアセチルコリンはアストロサイトの細胞内Ca2+濃度の上昇を引き起こし、アストロサイトにD‒セリンを放出させる。それにより初めてシナプス可塑性が誘導されることが分かりました」(図3)。この成果は2011年に発表された。「シナプス可塑性については神経細胞を中心に研究が進められてきましたが、アストロサイトも含めることでメカニズムの理解が深まるのではないかと期待しています」

■ 微弱な電流が神経細胞を活性化する 2016年3月にも興味深い成果が発表された。それは毛

もう

内ない

拡ひろむ

研究員が中心となって行われた研究によるものだ。「大学院では、シナプスを介さない神経細胞

撮影:STUDIO CAC

図3 シナプス可塑性にアストロサイトが関与する経路マイネルト基底核から放出されたアセチルコリンは、アストロサイト表面の受容体に結合し、細胞内Ca2+濃度の上昇を引き起こす。すると、アストロサイトからアミノ酸のD-セリンが放出され、後シナプス表面のNMDA受容体に結合する。NMDA受容体が活性化し、シナプス可塑性が誘導されて情報伝達効率が増強される。

毛内 拡 研究員

①マイネルト基底核からのアセチルコリン放出

②アストロサイトの細胞内Ca2+濃度上昇

③D-セリンの放出とNMDA受容体の活性化

④シナプス 可塑性の 誘導

アセチルコリン

Ca2+濃度上昇

アストロサイト

D-セリン NMDA受容体

前シナプス 後シナプス

研 究 最 前 線

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RIKEN NEWS 2016 September 11

の情報伝達について研究していました。神経細胞が活動すると電気信号を発生します。その電気が細胞から漏れて周囲の神経細胞に影響を与えているのではないか、と考えられています。また、外から脳に電流を流すことで神経細胞の活動を変えられるはずです。そうした研究をする中で、経

けい

頭とう

蓋がい

直流電気刺激法(tDCS)という手法に興味を持ったのが始まりです」と毛内研究員。 tDCSは、頭皮の上から1~2mAの極めて微弱な直流電流を10分ほど流して脳を刺激するものだ。ヒトでは、記憶力が向上する、気分が爽快になる、うつ病の症状が改善する、といった報告がある。米国やドイツでは医療行為として認可され始めているが、その作用メカニズムは分かっていない。 そこで毛内研究員らは、微弱な直流電流を流したときに神経細胞とアストロサイトの細胞内Ca2+濃度がどのように変化するかを、生きたままの動物で観察することにした。この実験では、細胞内

Ca2+濃度に応答して蛍光を発するタンパク質をアストロサイトと一部の神経細胞に発現させたマウスを使用した。研究チームで開発した遺伝子組み換えマウスだ。「アストロサイトだけに蛍光タンパク質を発現させたかったので、実は失敗作なんです」と平瀬TLは笑う。「でも使ってみると、蛍光が非常に明るいのでマウスの頭蓋骨ごしでも観察できるなど利点も多く、今では非常に有用なマウスだと自負しています」 マウスの頭蓋骨の上から微弱な直流電流を流すと、アストロサイトの細胞内Ca2+濃度が一時的に非常に高くなった(図4)。薬理実験から、この細胞内Ca2+

濃度の上昇には、ノルアドレナリンという注意や覚醒などと関わっている神経伝達物質が作用していることが明らかになった。毛内研究員はこの実験結果を次のように解説する。「微弱な直流電流を脳に流すとノルアドレナリンが放出され、それがアストロサイト表面の受容体に結合し、アストロサイトの細胞内Ca2+

濃度が上昇します。その結果、アストロサイトから何らかの分子が放出され、シナプスの伝達効率が増強されたと考えられます。直流電流を流したことによる炎症などは見られないこと、またストレス環境下で飼育してうつ状態になったマウスに対して行うとうつ状態が改善されることも実証しました」(図5) tDCSのメカニズムが明らかになってきたことで、医療として用いる際の安全指針の目安にもなるだろう。「アストロサイトから放出され、シナプス可塑性を誘導する分子の正体は分かっていません。まずは、それを明らかにしたい。そして、アストロサイトを標的とした、うつ病など精神疾患の新しい治療法の開発につなげたい」と毛内研究員は展望する。

■ 拡散による情報伝達“グリア伝達” 「神経細胞はシナプスを介してポイントからポイントへ情報を伝達します。一方、アストロサイトは細胞内Ca2+濃度の上昇に伴ってさまざまな情報伝達物質を放出し、それが拡散することで神経細胞の機能を調節していることが分かってきました。そうした“グリア伝達”は気分などの形成に関わっているのではないかと想定しています」と平瀬TL。「私たちは最近、エネルギー源の一つであるグリコーゲンがアストロサイトに豊富に貯蔵されており、その局在が脳の部位によって異なることを明らかにしました。アストロサイトには、まだ知られていない機能があるのかもしれません。今後、より詳細に調べていきます」 (取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

図4 経頭蓋直流電気刺激中のマウス大脳皮質におけるCa2+濃度の変化右脳上の頭蓋骨に陽極を置き、陰極は首の筋肉に設置し、0.1mAで10分間、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)を行った。電気刺激開始直後から左脳を含む大脳皮質全体にわたってCa2+濃度の上昇が起き、電気刺激を与えている間だけ著しく増加した。大きな応答変化はアストロサイトによるもので、神経細胞の応答は変化していない。

図5 経頭蓋直流電気刺激がマウスのシナプス情報伝達の増強を起こす経路マウスの頭蓋骨の上から脳に微弱な直流電流を流すとノルアドレナリンの放出が促進され、アストロサイト表面の受容体に結合する。するとアストロサイトの細胞内Ca2+濃度が上昇し、その結果、シナプスの情報伝達効率が増強される。アストロサイトから何らかの情報伝達物質が放出され、シナプスの機能を調節していると考えられている。

アストロサイトグリア伝達

シナプス伝達の増強

前シナプス

後シナプス

?Ca2+濃度上昇

tDCS陽極

頭蓋骨

脳組織

導電性ゲル

微弱な直流電流

陰極へ

ノルアドレナリン拡散放出

tDCS陽極

0秒 10秒 20秒 30秒 40秒

58.73

5.34

蛍光輝度

変化率(%)

陰極

関連情報● 2016年7月6日プレスリリース 加齢に伴うグリコーゲンの脳内分布変化を可視化● 2016年3月22日プレスリリース 微弱な電気刺激が脳を活性化する仕組みを解明● 2011年12月7日プレスリリース 記憶や学習の能力にグリア細胞が直接関与● 2008年10月22日プレスリリース  脳内のグリア細胞が分泌するS100βタンパク質が神経活動を調節

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12 RIKEN NEWS 2016 September

■ 理研精神──科学技術の基礎研究を進め、 その成果によって産業の発展を図る──百年前、理研はどのような目的で設立されたのでしょうか。宍戸:「学問の力によって産業の発展を図り、国運の発展を期する使命を果たさんとする目的」で設立されました。当時は、欧州が主戦場となった第一次世界大戦(1914~18年)の最中です。欧州から物資や技術の輸入が難しくなり、自前の技術で産業を発展させる必要性が強く認識された時期でした。皇室からの御

下か

賜し

金きん

、財界・産業界からの寄附金、政府からの補助金により財団法人として理研は設立されました。国の主導ではなく、産業界や学界からの強い要望により設立された点が特徴です。 設立当初は研究室が物理部と化学部に分かれており、確執もあったそうです。第三代所長に就任した大河内正敏 博士は1922年、両部を廃止し、主任研究員制度による垣根のないフラットな組織にしました。主任研究員制度は、主任研究員が研究テーマや予算、人事の裁量権をもって研究室を主宰する制度です。その革新的な制度により、研究者の自由な発想に基づく基礎研究が進められ、数々の輝かしい成果を上げました。 さらに基礎研究の成果の製品化を行うため生産会社を設立

し、1939年ごろには会社数63、工場数121という規模になりました。それらは理研コンツェルンと呼ばれました。 第二次世界大戦後、理研コンツェルンは解体され、理研は株式会社になりました。その後、特殊法人、独立行政法人へと変遷しつつ、自然科学の総合研究所として活動を続け、2015年4月に現在の国立研究開発法人に至っています。そして2016年10月から特定国立研究開発法人として新たなスタートを切ります。

■ 基礎研究・研究基盤整備・人材育成──現在の理研の活動について簡単にご紹介ください。宍戸:理研には三つの使命があります。一つ目は、基礎研究を進め、その成果を社会や産業に役立てることです。最近では、113番元素を発見して命名権を獲得したことや、iPS細胞を用いた網膜の再生医療などの成果を上げています。 二つ目は、自らの研究だけでなく、研究基盤を構築して外部の研究機関や大学、産業界にも活用してもらうことです。理研では大型放射光施設SPring-8やX線自由電子レーザー施設SACLA、スーパーコンピュータ「京」などの構築・運用を行っています。また、マウスや微生物といった生命科学の実験に欠かせないバイオリソースの収集・保存・提供も行っています。 三つ目は人材育成です。大学院生や若手研究者・技術者を受け入れて育成し、優れた人材を輩出することです。そのために、基礎科学特別研究員制度を1989年に発足させました。当時、学位を取ったばかりの若手研究者は身分が不安定なまま研究を続けていることも多い状況でした。基礎科学特別研究員は、雇用契約を結ぶことで理研の福利厚生が受けられる安定した身分を保証し、自由な発想で主体的に研究に専念できるようにする制度です。 さらに同じ1989年、埼玉大学と日本初の連携大学院を開設しました。当時、理研は科学技術庁、埼玉大学など国立大学は

財団法人理化学研究所当時の看板

1号館(東京・駒込)

1917(大正6)年3月20日に設立された理化学研究所(理研)は、来年2017年に創立百周年を迎える。これを機に、これまでのご支援に感謝するとともに、社会から信頼される、かけがえのない研究所であり続けるために、理研と社会の関わりをさらに広げる活動として、創立百周年記念事業を進めている。理研のこれまでの歩みや活動の概要、次の百年に向けた取り組みを、創立百周年記念事業推進室長を務める宍戸 博 副理事に聞いた。

理研の次の百年に向けて宍戸 博 創立百周年記念事業推進室長に聞く

特 集

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RIKEN NEWS 2016 September 13

文部省の所管でした。連携大学院制度は今ではいろいろな研究機関で実施されていますが、当時は所管省庁の垣根を越えた画期的なものでした。理研では現在、国内大学40校、海外大学54校から約350人の大学院生を受け入れ、約300人の理研の研究者が客員教授などとして大学院教育に従事しています。 現在、理研の研究者の9割は、5~10年を期限とする任期制で採用されています。毎年250人ほどが大学や研究機関、企業へ転出し、ほぼ同数が理研に入ってくる状況で、研究人材の流動化に貢献しています。一方、基礎研究の成果を社会や産業に役立てるには、理研で長期間にわたり研究を続ける人材も必要でしょう。現在、双方に対応できるよう、新たな人事制度の検討を行っています。

■ 創立百周年記念事業──創立百周年記念事業についてご紹介ください。宍戸:五つの事業を展開していきます。一つ目は連携研究室(仮称)などの設置です。地球規模の課題を解決するには、さまざまな機関の連携が必要です。理研が国内外の研究機関、大学、企業、地域社会の連携のハブ(中核)となることで、地球規模の課題の解決やイノベーションを創出するための活動を推進します。戦前の理研では、帝国大学の中にも理研の研究室を設置していました。そのような制度を復活させ、大学内で理研の研究者が大学や企業と連携して研究を進めます。連携研究室は、大学院生が企業や理研の研究者と交流して経験を積む場ともなるでしょう。 二つ目は若手研究人材のキャリア形成です。理研では次世代のリーダーの育成を目的に、准主任研究員制度などを設けてきましたが、さらに新たな制度を計画しています。科学的・社会的にインパクトの高い野心的な研究に挑戦しようとする優秀な若手研究者を理研内外から採用して、独立して研究を推進する機会を提供するものです。今年度中に募集を行い、2017年度からスタートさせたいと考えています。 三つ目は国際水準の研究環境の整備です。その一環として、国内外の企業、大学、研究機関などの連携・交流の場となる「百周年記念ホール(仮称)」を整備したいと考えています。四つ目は記念式典・講演会・百年展の開催です。来年春に、国

立科学博物館(東京・上野)において、理研百年展および記念講演会を開催します。五つ目は、記念史料の収集・保存・展示です。先人たちが築いてきた百年の歩みと現在の姿を、私たちの次の世代へ伝えたいと思います。 さらに、次の百年を展望して次世代への投資となるような「未来を共につくる研究の推進」を計画しています。理研として挑戦していくべき研究課題をホームページなどに明示し、その研究に賛同していただける方々から寄附を募ります。そして寄附していただいた方々を年1回、理研にお招きして、研究者から研究の進

しん

捗ちょく

状況を報告する会を開きたいと考えています。寄附額の多少にかかわらず、基礎研究に関心を持ち応援するきっかけにしていただきたいと思います。

■ 次の百年も理研精神を受け継ぐ──宍戸 副理事が理研に入られたのはいつですか。宍戸:1979年に事務職員として入りました。当時は、定年制研究者が主体の主任研究員研究室が理研の大部分を占めていました。その後、1986年に任期制研究者主体の研究組織の先駆けとなる国際フロンティア研究システムが開設されました。私はその立ち上げや、先ほど紹介した1989年の基礎科学特別研究員制度の発足の仕事に携わらせていただきました。任期制研究者が主体となる理研センター群の先頭を切って1997年に脳科学総合研究センター(BSI)が開設される前には、私は科学技術庁に出向し、その立ち上げにも携わらせていただきました。──理研の長所はどういう点でしょうか。宍戸:大河内所長は物理部と化学部の垣根を取り払い、異分野を交流させました。現在の理研にも組織や分野を超えて交流する伝統が受け継がれています。また、知的財産権の管理や特殊装置の運転、安全管理や広報などの研究支援体制が充実していることも理研の強みだと思います。 理研が百年続いてきたのは、何よりも「科学技術の基礎研究を進め、その成果によって産業の発展を図る」という理研精神が失われることなく、先人たちにより実践されてきたからです。次の百年も理研精神を受け継ぎ、社会に信頼される、かけがえのない研究所であり続けたいと思います。 (取材・構成:立山 晃/フォトンクリエイト)

創立百周年記念事業への寄附金のお願い創立百周年(2017年)の記念事業へのご支援をお願いします。

問合せ先: 理研 外部資金室 寄附金担当  Tel 048-462-4955 Email [email protected] http://100th.riken.jp/support.html

大河内正敏 第三代所長の像と共に

宍戸 博 理化学研究所 副理事創立百周年記念事業推進室長

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14 RIKEN NEWS 2016 September

化学反応が始まる瞬間の電子の動きを見ることを目指す研究者化学反応の主役は電子だ。光が分子に当たると、まず電子が動くことで化学反応が始まる。しかし、そのような化学反応が始まる瞬間の電子の動きを見ることは、現在でも難しい。電子は、アト(10-18=100京分の1)秒スケールの速さで動くからだ。理研光量子工学研究領域アト秒科学研究チームの沖野友哉 研究員たちは、極めて短い時間だけ発する光“アト秒パルス”をフラッシュ撮影のように使い、化学反応が始まる瞬間の電子の動きをこま送りで見ることに挑戦している。「小学生のころから国語や社会は嫌いで、論理的に考えることができる算数や理科が好きでした」と語る沖野研究員の素顔に迫る。

 東京大学理学部で学科を選ぶとき、数学か化学かで迷ったと振り返る沖野研究員。「実際の現象を直接対象にする化学を選びました。そして、数学を駆使して化学反応を論理的に理解したいと思いました」。しかし、化学科で理論を学び始めると、その説明だけでは納得できなかった。「この化学反応ではここの電子が動いて反応が始まる、と理論で説明されます。それが本当に正しいのか、その電子の動きを誰も見たことがないのです」 化学反応が始まるとき、まず電子が動いて、その電子に追随するように原子核が動いて分子の形が変わる。「原子核の質量は電子よりも3桁大きいので、ゆっくり動きます。ゆっくりといってもフェムト(10-15=1000兆分の1)秒の時間スケールです。軽い電子はそれより速いアト秒スケールで動きます」 フェムト秒パルスで、化学反応における分子・原子の動きをこま送りで見る実験が世界中で進められている。一方、原子核より速い電子の動きを見るにはアト秒パルスが必要である。アト秒パルスの発生が初めて確認されたのは21世紀に入ってからだ。博士課程に進んだ沖野研究員は2005年、研修生として緑川レーザー物理工学研究室(現 アト秒科学研究チーム)の実験に参加した。「ちょうどアト秒パルスの発生実験が行われていました。アト秒パルスになっているかどうか

検証する実験に立ち会うことができ、感動しました」 それ以来、沖野研究員はアト秒パルスで化学反応が始まる瞬間の電子の動きを見ることを目指してきた。「まず、ポンプ光を分子に当てて電子を励

れい

起き

させて反応をスタートさせます。次に、一定の時間間隔で、プローブ光を当てて電子の動きをこま送りで観測します。現在ではアト秒パルスで実験を行っている研究グループが世界に数十カ所ありますが、光源の強度の問題から、ポンプ光だけにアト秒パルスを使っているところがほとんどです。プローブ光の時間が電子が動くアト秒より長いと、プローブ光自体で電子が動いてしまうので、ぼやけて見えてしまいます。私たちのチームの特徴は、ポンプ光とプローブ光の両方にアト秒パルスを使い、電子の動きをはっきり捉えることができる点です」 ただし計測系の開発は容易ではない、と沖野研究員。「アト秒パルスは空気中の分子に吸収されてしまうので、計測は全て真空中で行う必要があります。計測系の開発には、化学・物理学から工学、実験対象によっては生物学の知識も必要なので大変ですが、私は手を動かしながらアイデアをひねり出し、部品から計測系を組み上げていく作業が好きです」 沖野研究員たちは2015年、窒素分子に光を当てて、アト秒時間スケールでの電子状態の変化を直接観測することに成功した(図)。「今後、窒素分子よりも大きいアミノ酸やタンパク質、DNA分子内の電荷移動の観測および制御も進める予定です。DNAに紫外線が当たったとき、DNAを構成するどの原子核の周りの電子が最初に動いて損傷が始まるのか、といったことを直接見てみたいですね」 沖野研究員は「アト秒パルスによる実験だけにこだわっているわけではありません」と言う。「将来、いろいろな時間・空間スケールの観測をつなぎ合わせ、さまざまな化学反応の始まりから終わりまで全過程を理解することが目標です」 (取材・執筆:立山 晃/フォトンクリエイト)

沖野友哉光量子工学研究領域エクストリームフォトニクス研究グループアト秒科学研究チーム 研究員おきの・ともや1978年、福井県生まれ。博士(理学)。東京大学大学院理学系研究科化学専攻博士課程中途退学。理研 緑川レーザー物理工学研究室研修生・客員研究員、東京大学大学院理学系研究科化学専攻助手・助教などを経て、2013年より現職。科学技術振興機構さきがけ「光の極限制御・積極利用と新分野開拓」個人研究者を兼任(2015年12月~)。

図 アト秒パルスによる窒素分子(N2)の観測図 アト秒パルスによる窒素分子(N )の観測

N2

①アト秒パルスのポンプ光

②アト秒パルスのプローブ光

一定の時間間隔

N+の運動量画像

F A C E

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RIKEN NEWS 2016 September 15

新しく就任した研究室主宰者を紹介します。①生まれ年、②出生地、③最終学歴、④主な職歴、⑤活動内容・研究テーマ、⑥信条、⑦趣味

新研究室主宰者の紹介

腎・代謝・内分泌疾患研究チームチームリーダー

堀越桃子 ほりこし・ももこ①1974年 ②埼玉県 ③東京大学大学院医学系研究科内科学専攻博士(医学)課程 ④東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科、英国オックスフォード大学人類遺伝学ウェルカムトラストセンター ⑤2型糖尿病とそれにまつわる病態の遺伝素因の探求 ⑦音楽(バイオリン)、テニス、スキー、ハイキング

細胞動態計測コア 細胞動態計測研究グループオミックス動態研究ユニットユニットリーダー

城口克之 しろぐち・かつゆき②神奈川県 ④米国ハーバード大学、理研統合生命医科学研究センター ⑤生命システム理解と医科学に貢献する測定法の開発 ⑥Positive thinking  ⑦サッカー、映画鑑賞、野球(最近)

生命システム研究センター 統合生命医科学研究センター

理研の最新の研究活動を、研究最前線で活躍する研究者が分かりやすくご紹介する理化学研究所科学講演会。第38回を迎える今年は、アジアで初めて元素命名権を獲得した113番新元素の合成・発見に関連する研究者たちの講演を中心に開催します。

「理化学研究所 科学講演会2016 理研百年へ─果てなき探求─」を開催します!

14:00 開会のあいさつ 松本 紘 理事長

14:05~14:20 理化学研究所の最新研究成果のご紹介 小安重夫 理事

14:20~14:50 周期表から見た新元素玉尾皓平 グローバル研究クラスタ長、研究顧問

14:50~15:10 休憩

15:10~15:40 宇宙歴138億年にわたる元素創生延與秀人 仁科加速器研究センター長

15:40~16:25 アジア初、日本発の新元素「ニホニウム」森田浩介 仁科加速器研究センター 超重元素研究グループディレクター

16:25~16:30 閉会のあいさつ 有信睦弘 理事

プログラム ※時刻などは変更となる場合がございます。あらかじめご了承ください。

馬場先濠

皇居

日比谷通り

丸の内仲通り

中央口丸の内南口 北口

郵船ビル

三菱商事ビル

東京海上日動ビル明治安田生命ビル仲通りビル

丸の内二丁目ビル

三菱東京UFJ銀行本店

東京国際フォーラム

三菱ビル

行幸通り

馬場先通り

丸の内1st

千代田線二重橋前駅三田線大手町駅

丸ノ内線東京駅

JR京葉線東京駅

東西線大手町駅

 

JR東京駅

JP TOWER

7F&8F丸ビルホール&コンファレンススクエア

丸の内ブリックスクエア

開催日時 2016年11月3日(木・祝)14:00~16:30(13:30開場)開催場所 丸ビルホール 東京都千代田区丸の内2-4-1 丸ビル7階

JR東京駅丸の内南口徒歩1分、地下鉄丸ノ内線東京駅直結、地下鉄千代田線二重橋前駅直結

参加対象 高校生・大学生・一般(参加費無料)参加方法 事前申し込み制・先着順(定員400名)

※未就学児のご参加はご遠慮ください。※ 参加登録受け付けは10月21日(金)17時まで。往復はがきでの応募は21日消印有効。ただし定員に達し次第締め切りとさせていただきます。※ WEBフォーム登録の場合は登録完了メールの受信、FAX登録の場合は返信FAX、往復はがき応募の場合は返信はがきの到着をもって登録確認とします。登録確認の返信FAX・はがきが未着の場合は電話でお問い合わせください。

※往復はがきではない、通常はがきでの応募は無効とします。■WEBフォーム http://www.riken.jp/pr/events/events/20161103■電話 048-467-9954■FAX 048-462-4715■ 往復はがき送付先 〒351-0198 埼玉県和光市広沢2-1理化学研究所広報室「科学講演会」係宛て※ 電話の場合は、①参加者氏名、②年齢、③職業、④ご連絡のつく電話番号、⑤お住まいの都道府県、⑥イベント情報の入手先を伺います。FAXの場合は①~③⑤⑥は同じ、④に返信を受け取れるFAX番号を記載して送信ください。往復はがきの場合は①~⑥(連絡先④は電話もしくはFAXを指定ください)を明記ください。

問い合わせ先 理化学研究所 広報室 電話048-467-9954 E-mail [email protected]

T O P I C S

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■発行日/平成

28 年

9 月5 日

■編集発行/理化学研究所

広報室 〒

35

1-0

19

8  埼玉県和光市広沢

2 番1 号

      

Tel:048-467-4094 [

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●制作協力/有限会社フォトンクリエイト

●デザイン/株式会社デザインコンビビア

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理研ニュース

No

.42

3 Septem

ber 2016

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清掃登山野田茂穂 のだ・しげほ情報基盤センター 計算工学応用開発ユニットユニットリーダー

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問合せ先● 理研 外部資金室 寄附金担当  Tel:048-462-4955 Email:[email protected]

6月5日の日曜日、“飯いい

綱づな

山清掃登山”に参加してきました。飯綱(縄)山は長野市北部にあり、北信五岳の一つです。北信五岳は飯綱山、戸隠山、黒姫山、妙高山、斑尾山を指し、飯綱山はその中でも最も長野市中心部に近く、市民には身近な山です。 なんでも、飯

めし

砂ずな

という食用の砂(てんぐの麦飯として知られている菌類藻類の複合体のこと)が山中にあったらしいですが、今は絶滅しているそうです。 毎年6月5日は飯

いい

縄づな

神社の飯縄山開山祭が執り行われます。清掃登山は、登山道の美化を目的として同じ日に、市民参加で行われています。

■30年ほど前、長野市に越してきたときには、周囲を山に囲まれ、押しつぶされそうな気がしていました。それが今では、キャンプ、スキー、スノーシュー、山菜採りと、身近に楽しめリフレッシュできる山として親しんでいます。その山に少しでも役に立てればと思い、清掃登山に参加することにしています。 自宅から車で20分ちょっとで登山口駐車場である「一の鳥居」に到着します。集まった清掃登山の参加者(今年は30名程度)に、ごみ袋と携帯トイレが配られ、おのおの山頂を目指しながらごみを拾っていきます。

■出発地点である一の鳥居は標高1,130m、山頂は標高1,917m(ヒクイナ

4 4 4 4

飯綱山と覚えます)で、約800mの高低差です。距離にして約5km、「所要時間は登り2時間半、下り2時間で初級者向け」とガイドブックに記載されています。地元の小学生も登るので、にわか山登り好きにはちょうどよい登山です。 膝にサポーターを、リュックには熊鈴を付け、新調したストックの長さを調節して参加者のしんがりからスタート。別荘街を抜けると、登山道入り口の鳥居があり、そこから登山道に入ります。この登山道には、13体の石仏が祭られており、その一つ一つにお参りをしながら登っていきます。

 今年は雪が少なかったこともあり、例年より濃い緑の中を、山頂の飯縄神社からかすかに響いてくる修験僧の法

螺ら

貝の音(開山祭なので)を聞きながら、えっちらおっちらと登っていきます。

■森林限界を越えると北アルプスの残雪が見えてくるのだけど、今年は天候が良くなく、見ることができませんでした。この原稿向けに山頂からの富士山、日本海、佐渡島の写真を、と思っていましたが、去年の写真で代用します。

■参加者の多くは私よりも年配でベテランの方々ですが、登りのペースが速く引き離されてしまいます。最近私たちが取り組んでいる「高齢による運動機能の脆

ぜい

弱じゃく

化研究」として運動計測を行うと、こういう方々はどういう指標を示すだろうかと興味津々。やっぱり継続して体を動かしている人は元気ですね。 肝心の清掃登山の成果は……、あめの包み紙一つだけ。登山者のマナーが良く、気持ちの良い場所です。来年も続けて参加できるように体を動かさねばと思いつつ、温泉で体をほぐしてきました。

森林限界から:付近に咲くツツジと北アルプス

飯縄山登頂記念

富士山

山頂から:富士山、北アルプス、戸隠連峰

登山道の石仏

筆者

原 酒

RIK

EN

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