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ISSN 1346-9029

研究レポート

No.463 Oct 2018

構造改革の一環としての口座維持手数料導入の可能性

主席研究員 岡 宏

構造改革の一環としての口座維持手数料導入の可能性

主席研究員 岡 宏

要旨

日本銀行による金融緩和政策が長期化するなか、2018 年 3 月期の全国銀行における業務

純益は過去 20 年間で最低水準にまで低下している。たとえ金利政策が正常化しても、人口

減少が進むなかでは限られた資金需要を巡る金融機関同士の金利競争が沈静化することは

考えにくく、収益改善は期待できない。国内金融機関が将来にわたって安定的な経営を維持

するためには、やはり構造改革によるビジネスモデルの再構築が必要である。

その構造改革の柱の一つと考えられるのが、手数料体系の見直しと口座維持手数料の導

入である。特に口座維持手数料は一定規模の収益拡大とともに銀行収益の安定化をもたら

すというメリットがある。また、今後進むと考えられるフィンテックやキャッシュレスのサ

ービスを充実させるための原資を確保する、という意味もある。

とは言え、これまで日本では口座維持手数料の認知度が低く、その導入には銀行利用者の

反発が大きく、実現が難しいものと考えられていた。そこで今回、全国 3,144 人の個人を対

象に利用者向けアンケートを行った。予想通り「容認」の割合は数%にとどまったものの、

一方で「条件付き容認」の割合が 5 割程度あり、「容認」と「条件付き容認」とを合わせる

と「反対」を上回るという結果が得られた。この結果から、日本でも口座維持手数料の導入

の可能性が一定程度あるものと想定される。ただし、口座維持手数料の導入には多くの問題

もあり、導入を進めるにしても丁寧な説明と、時間をかけながら段階を踏んだ手順が必要と

なる。

また、口座維持手数料が導入されるとメイン口座への取引集約が進むものと考えられ、金

融機関の競争構造に変化をもたらし、マーケティングなど銀行ビジネスへの影響も考えら

れる。このように口座維持手数料の導入は、単なる収益改善施策にとどまらず、ビジネスモ

デルの再構築につながる構造改革としてとらえるべきである。

キーワード:口座維持手数料、構造改革、フィンテック、キャッシュレス、決済ビジネス、

休眠口座

目次

はじめに................................................................................................................................... 1

1. ビジネスモデルの再構築を進める上での着眼点 ............................................................ 2

1.1. 近年における業績低迷が物語る銀行の構造的問題 ................................................... 2

1.2. 構造改革の中で浮かび上がってきた課題 .................................................................. 3

1.3. 収益力強化に向けた手数料体系の見直しの必要性 ................................................... 5

2. 役務取引等利益の現状と銀行経営への影響 .................................................................... 9

2.1. 近年における役務取引等利益の推移 ........................................................................ 9

2.2. 役務取引等収益の構成 ............................................................................................. 9

2.3. 手数料ビジネスが銀行経営に与える影響 ................................................................ 10

3. 手数料体系の見直しによる銀行経営へのインパクト ........................................................ 12

3.1. 収益力強化の試算 .................................................................................................. 12

3.2. コスト削減効果の試算 ............................................................................................. 12

3.3. 米国における口座維持手数料の状況 ...................................................................... 13

4. 口座維持手数料に関する利用者の態度 .......................................................................... 15

4.1. 口座維持手数料の認知度 ....................................................................................... 15

4.2. 口座維持手数料の導入に関する銀行利用者の意向 ................................................ 15

4.3. 容認・反対の理由 .................................................................................................... 17

4.4. 口座維持手数料導入による顧客流出の可能性 ........................................................ 19

4.5. 口座維持手数料の水準について ............................................................................. 19

4.6. 口座維持手数料が免除される条件について ............................................................ 20

5. 口座維持手数料導入に伴う銀行ビジネス変化の可能性 .................................................. 23

5.1. メイン口座への取引集約が進む可能性 .................................................................... 23

5.2. 競争構造の変化 ...................................................................................................... 23

5.3. マーケティングの変化 .............................................................................................. 24

6. 口座維持手数料の導入に際しての留意点....................................................................... 25

6.1. 銀行利用者からの理解を得ること ............................................................................ 25

6.2. 段階を踏んだ導入 ................................................................................................... 27

6.3. 独禁法に抵触しないこと........................................................................................... 28

7. 口座維持手数料導入における課題 ................................................................................. 29

7.1. 逆進性の問題.......................................................................................................... 29

7.2. ゆうちょ銀行の問題 ................................................................................................. 29

7.3. システム開発費用の問題......................................................................................... 29

8. まとめ ............................................................................................................................. 30

<参考>アンケートの概要とその他のアンケート結果 ...................................................... 31

<参考文献> ........................................................................................................................ 34

1

はじめに

2018 年 3 月期の全国銀行における業務純益は、3.2 兆円と過去 20 年間で最低水準にま

で減少し、ピーク時(2005 年 3 月期)の 6.4 兆円の半分となった。その原因を日銀による

金融緩和政策の長期化とする意見も多いが、人口減少が進むなかではたとえ金利政策が正

常化しても、限られた資金需要を巡る金融機関同士の金利競争が沈静化することは考えに

くく、収益改善は期待できない。国内金融機関が将来にわたって安定的な経営を維持するた

めには、やはり構造改革によるビジネスモデルの再構築が必要である。

構造改革にはいくつかの柱があるが、その一つが手数料体系の見直しと口座維持手数料

の導入である。特に口座維持手数料の導入は、収益改善のみならず国内金融機関のビジネス

モデル再構築を進めるうえでの施策として注目される。

本稿では、口座維持手数料を中心とする手数料体系の見直しについて、①その必要性、②

銀行経営への量的・質的なインパクトを検討したうえで、③利用者アンケートに基づく口座

維持手数料導入の賛否や影響などを整理し、④口座維持手数料導入に伴う問題点、⑤導入に

際しての留意点について検討する。

2

1. ビジネスモデルの再構築を進める上での着眼点

1.1. 近年における業績低迷が物語る銀行の構造的問題

近年、国内銀行における収益低下が著しい。図表 1 は全国銀行1における業務純益の推移

を示したものだが、2017 年度は約 3.4 兆円にまで低下し過去 20 年間において最低水準と

なっている。2017 年度の業務純益は、不良債権問題に起因する金融危機の影響が顕著であ

った 1998 年度、あるいはリーマンショックがあった 2008 年度をも下回るもので、危機的

状況にあると言える。

図表 1 全国銀行における業務純益の推移

(注)業務純益=業務粗利益 - 経費等 - 一般貸倒引当金

資料:全国銀行協会公表のデータをもとに作成

いま国内銀行が直面している危機は、これまで経験してきたものとは異質のものである。

1990 年代後半の金融危機は、主としてバブル期以降に積みあがった不良債権問題により惹

起されたものであり、リーマンショックはサブプライムローンを組み込んだ CDO2の毀損な

どで多くの金融機関が巨額の損失を被ったことがきっかけとなった。これらの危機は、不良

債権問題が解消したり、有価証券運用の損失処理が進んだりすることで終息に向かった。不

良債権問題がもたらした金融危機もリーマンショックも、金融機関にとっては一時的な外

的要因が引き起こした問題であり、問題が沈静化することで危機を乗り越えることができ

1 全国銀行:都市銀行、地方銀行、第二地方銀行および信託銀行(2018 年 3 月末時点で 116 行) 2 CDO:ローン債権などの資産を担保として発行される証券化商品

3

た。

ところが、近年における国内銀行の収益減少は伝統的な銀行のビジネスモデル自体が機

能不全に陥ったためであると見られる。1990 年代半ばに預金金利が完全自由化され規制金

利時代が終焉した以降も、融資ビジネスにおいて金利競争が一気に加速することはなく銀

行は一定の貸出利鞘を得ることができた。しかし、インターネットの浸透とともに住宅ロー

ンなどを中心に銀行間における金利の比較が容易になり、金利競争が一気に進むことにな

った。また、地域における人口減少は事業性資金を中心に資金需要の減退を招き、金融機関

は限られた融資案件の獲得を競い金利競争が激化することとなった。もはや付加価値を伴

わない単なる資金仲介機能の提供だけでは、国内銀行の経営を維持することは難しくなっ

てきている。

近年の国内銀行における収益減少について、日本銀行による金融緩和政策の長期化が原

因であるという指摘は多い。確かに超低金利環境が長引いたことで銀行の資金利益が減少

していることは疑いようがない。とはいえ、マイナス金利が解除されるなど金融緩和政策が

終息したとしても、人口減少が進む限り地域における資金需要は減退が続くため、金融機関

における金利競争が収まることはなく、収益改善の見通しはたたない。外部環境の好転を待

っていても銀行の業績改善が期待できない今、構造改革による銀行のビジネスモデルの再

構築が求められている。

1.2. 構造改革の中で浮かび上がってきた課題

ビジネスモデルの再構築を実現するための構造改革では、図表 2 にある 3 つのテーマに

ついて、様々な環境変化(経済、社会、IT の進展など)を考慮したうえで、根本から見直

す必要がある。

図表 2 構造改革における 3 つのテーマ

①稼ぐ力の強化 融資や有価証券運用などの「資金運用ビジネス」

決済サービスや金融商品販売、投資銀行業務などの役務を提供して収益を得る

「手数料ビジネス」

②コスト構造改革 店舗等の顧客チャネル運営コストの合理化

IT コストの適正化

③経営管理(収益管理、リスク管理、ガバナンス)の高度化

資料:筆者作成

これら 3 つのテーマは有機的に進める必要があるが、そのなかで特に重要であり、かつ困

難なものが稼ぐ力の強化である。これまで稼ぐ力の中核であった資金運用ビジネスの収益

性が低下しているなかで、近年は手数料ビジネスへの期待が高まっている。ところが、日本

の銀行が行う手数料ビジネスには、根本的な問題がある。

4

第一に、日本の銀行はサービスに見合った、あるいはコストに見合った手数料が得られて

いないという点である。その代表例が口座維持手数料で、海外では支払うことが当たり前に

なっている手数料が、日本の銀行ではほとんど取られていない。日本の銀行では、1 口座当

たり年間¥2,000~¥3,000 のコスト3が発生すると言われている。それにも関わらず口座を

開設しただけでは利用者が手数料を徴求されることはなく、日本では預金口座の維持にか

かる費用は金融機関が負担することが当然であると考えられている。

口座を開設しても手数料が発生しないため、日本ではひとりの人が複数の普通預金口座

(総合口座)を保有することが多く、日本全体で 12 億口座程度4あると考えられる。ちなみ

に英国では約 1.5 億口座、韓国は約 1.7 億口座となっており、日本の預金口座数がいかに多

いかがわかる。様々な用途で預金口座が開設されるが、時間の経過とともに使われなくなっ

た不活動口座5が増え続けており、実際に利用されている口座は 6 割程度と考えられる。使

われない口座についても活動口座と同様にコストがかかり、銀行の経費を圧迫する一因と

なっている。

第二に、フィンテックやキャッシュレスのサービス拡大の影響が挙げられる。個人間送金

(P2P 送金)などのフィンテック関連サービスの多くは、無料あるいは極めて低価格で提

供されている。2014 年 12 月にサービスが開始された LINE Pay では、個人間で行う送金

や送金依頼、割り勘の各決済機能が無料で利用できる。LINE の主たる収入は広告やコミュ

ニケーション、コンテンツ事業であり、こうした本業の拡大に貢献する決済サービスでは必

ずしも黒字化する必要がない。LINE に限らず、決済サービスを本業の付帯サービスとして

無料で提供する事業者は国内でも増え続けており、提供されるサービスの多様化や利便性

向上が進んでいる。こうした決済サービスの無料化の流れは、決済サービスを本業の一つと

する既存の銀行にとっては極めて憂慮すべき事態である。B2B や B2C の決済では信頼性や

安全性が求められるために、たとえ無料であってもすべてがフィンテック関連サービスに

移行するとは考えられない。とは言え、フィンテック関連サービスによって銀行の事業領域

の一部が浸食あるいは破壊6されてしまうことは収益機会の減少につながる。

また、キャッシュレス化の動きも銀行にとっては大きな影響が考えられる。2018 年 4 月

に経産省から発表された「キャッシュレス・ビジョン」では、2015 年時点で 18.4%であっ

た日本のキャッシュレス決済比率を、2025 年には 40%にまで高め、将来的には 80%を目

指すとしている。日本のキャッシュレス決済比率を高めるための施策として注目されてい

3 1 口座当たりの年間コストには通帳の印紙税¥200 やデータ管理コストなどが含まれるが、厳密に計算

されたものではない 4 ゆうちょ銀行を除く国内銀行で 8.0 億口座、信用金庫で 1.3 億口座(2018 年 3 月末)、ゆうちょ銀行の

通常貯金で 1.2 億口座があり、さらに信用組合や JA バンク、労働金庫などの口座を合わせると、約 12

億口座あるものと考えられている。 5 10 年以上取引が行われていない口座で、残高 1 万円未満または残高 1 万円以上で持ち主と連絡が取れ

ない口座は休眠口座となる(全国銀行協会通達)。内閣府の調査によると 2016 年度には 879 万口座が休

眠口座とり、一方で過去に休眠口座となった 100 万口座が払い出された。 6 米国では 2015 年ごろから、フィンテック企業による既存銀行ビジネスの破壊(ディスラプション)の

懸念が高まっている。

5

るのが、近年中国で爆発的に利用が進んだ QR コード決済である。QR コード決済に関して

は規格の乱立によって利用者や小売店の利便性が損なわれないように、大手行を中心とし

た規格統一の動きもある。ただ、QR コード決済はデビットカードと同様に即時払いである

が、J-Debit の取扱額は 2005 年に 8,000 億円に達して以降減少傾向にある。スマートフォ

ンを利用する QR コード決済の利便性の高さから J-Debit とはけた違いの利用が進むとの

期待もあるが、クレジットカードに比べて加盟店手数料率がかなり低くなると見られてお

り、当面の間は赤字も予想される。さらに、アリペイや WeChat ペイのように中国で加盟

店手数料を実質ゼロ7にして成長した勢力が日本で事業を拡大すれば、日本の金融機関が運

営する QR コード決済サービスは採算を永久に確保できない可能性もある。

このような既存の金融機関にとっては採算の維持が極めて難しいフィンテック関連サー

ビスや新たなキャッシュレス決済の事業に対しても、金融機関は顧客の利便性向上のため

に投資をせざるを得ないという悩ましい問題を抱え始めている。

1.3. 収益力強化に向けた手数料体系の見直しの必要性

図表 1 が示すように日本の銀行の収益減少は深刻で、かつ収益力改善の突破口となるよ

うな施策も見つからない状況にある。日本の銀行における粗利益の 9 割以上は資金利益と

役務取引等利益(手数料収益)とで構成されているが、役務取引等利益に比べ資金利益の方

が圧倒的に多い。しかしながら、近年の超低金利環境の長期化によって収益の柱である資金

利益が減少するなかで、役務取引等利益の拡大を試みる銀行が増えている。その傾向は図表

3 に顕著に表れており、2000 年度を 100 とすると 2017 年度の資金利益は 76.6 に減少する

一方で、役務取引等利益は 185.1 と大きな伸びを見せている。

7 アリペイや WeChat ペイの中国国内における決済手数料は公表値ベースでは 0.6%であるが、手数料の

値引きやキャッシュバックによって、実質的には 0%に近い水準にあると考えられている。

6

図表 3 全国銀行における業務粗利益の推移(2000 年度=100)

資料:全国銀行協会公表のデータをもとに作成

過去 20 年近くの間に役務取引等利益が大きく伸びたのは、1998 年の銀行による投資信

託窓口販売業務の解禁に端を発する金融商品販売による手数料収入の増加が大きく貢献し

たためである。また、大手行を中心とする投資銀行業務の強化の影響も大きい8。ただし、

近年における役務取引等利益の増加も業務粗利益の大半を占める資金利益の減少を補うた

めには不十分で、図表 1 が示すように業務純益の減少に歯止めがかかっていない。更なる

役務取引等利益の増強を図るためには、手数料ビジネスの量的拡大や新規手数料ビジネス

の開拓だけではなく、既存手数料体系の見直しも必要となる。先に示したとおり、日本の銀

行はサービスに見合った、あるいはコストに見合った手数料を顧客に求めることが必要で

ある。具体的には、既存の手数料水準の引き上げ、併せて口座維持手数料の導入を検討する

必要がある。

まず既存の手数料水準の引き上げであるが、これは既に多くの金融機関において進めら

れている。図表 4 は日本銀行が 2016~2017 年度における地域銀行9および信用金庫におけ

る手数料の引き上げ・新設状況を調査した結果であるが、2016 年度に比べ 2017 年度の方

が多くの金融機関で手数料の引き上げ・新設を行っている。具体的な手数料項目は図表 5 の

とおりであるが、振込・送金関連手数料などを除けば取扱件数が少ないものが多く、役務取

引等利益の増加への貢献度は限定的であると考えられる。とは言え、サービス内容やコスト

8 メガバンクグループが行う投資銀行業務による収益は主に証券子会社に帰属し、銀行が行う投資銀行業

務の収益は限定的となっている。 9 地域銀行:地方銀行(64 行)および第二地方銀行(41 行)

7

に見合ったレベルまで手数料を引き上げることは重要で、金融機関の手数料を重視する姿

勢を示すことにつながる。

図表 4 手数料の引き上げ・新設状況

金融機関数 実施比率

地域銀行 信用金庫 計 地域銀行 信用金庫 計

2017 年度 44 67 111 41.9% 26.3% 30.8%

(前年比) (57.1%) (28.8%) (38.8%)

2016 年度 28 52 80 26.7% 20.4% 22.2%

2016 年度以降 58 103 161 55.2% 40.4% 44.7%

出典:「金融システムレポート 2018 年 4 月」(日本銀行)

図表 5 2017 年度中の主な引き上げ・新設項目

名称 金融機関数 名称 金融機関数

振込・送金関連手数料 50 ローン条件変更手数料 19

証明書発行手数料 48 代金取立手数料 18

両替関連手数料 47 融資実行関連手数料 18

ローン繰上返済手数料 24 手形・小切手交付手数料 17

不動産担保事務関連手数料 22 夜間金庫利用手数料 16

出典:「金融システムレポート 2018 年 4 月」(日本銀行)

もう一方の口座維持手数料は日本人にとってはなじみがなく、その導入は非常に難しい

とする意見が大半かもしれない。全国地方銀行協会の佐久間英利会長も今年 1 月の定例会

見で「長年(手数料を取らないこと)が定着しているので、(口座維持手数料の導入は)ご

理解いただくのはなかなか難しい」と述べている。また図表 6 にあるとおり 2000 年から

2002 年にかけて、日本でもいくつかの銀行が口座維持手数料の導入を行ったが、これまで

にほとんどが廃止となっている。廃止に至った理由ははっきりしないが、①口座維持手数料

を導入する金融機関が少なく顧客獲得の上で不利となった、②口座維持手数料と各種の優

遇施策を組み合わせた顧客サービスを展開したが浸透しなかった(理解が進まなかった)、

③口座維持手数料導入の説明が不十分で利用者に理解されなかった、などの理由が考えら

れる。現在ではシティバンク銀行を引き継いだ SMBC 信託銀行プレスティアが月額¥2,000

(税別)の口座維持手数料を課している程度である。

過去に導入しながら定着しなかった口座維持手数料の制度を改めて導入するのは確かに

難しいかもしれない。しかしながら、先に示したとおり今後のフィンテック関連サービスや

新たなキャッシュレス決済サービスで手数料収益を得ることが難しい以上、銀行利用者に

対する資金管理や決済などの総合的なサービス手数料として、口座維持手数料の導入は不

8

可欠であると考えられる。

図表 6 国内における主な口座維持手数料の導入事例

時期 銀行名 商品名 手数料(税

別)

手数料免除の条件

1994 年 6 月 シティバンク銀行 - ¥2,000/月 預り資産の月間平残 30 万円

以上

2000 年 10 月 ジャパンネット銀行 - ¥1,000/月 給振口座の指定など

2001 年 1 月 東京三菱銀行 メインバンク

(総合口座)

¥300/月 同一店舗の月末の総運用資

産が 10 万円以上

2001 年 5 月 アイワイバンク銀行 - ¥100/月 預金残高 10 万円以上

2001 年 6 月 新生銀行 - ¥1,000/月

2002 年 11 月 三井住友銀行 ワンズプラス ¥200/月 通帳不発行か預金残高 30 万

円以上

資料:筆者作成

9

2. 役務取引等利益の現状と銀行経営への影響

2.1. 近年における役務取引等利益の推移

図表 3 にあるとおり、全国銀行における役務取引等利益(手数料収益)は近年大きな伸び

を示している。役務取引等利益は「為替手数料利益(内国為替および外国為替)」と「その

他役務利益」に分かれるが、近年の役務取引等利益の増加は主に「その他役務利益」の増加

によるものである(図表 7 参照)。過去 20 年間において、為替手数料利益は概ね 5,000~

6,000 億円程度で安定的に推移している。一方、その他役務利益は 2000 年前後から急激に

伸びており、リーマンショック(2008 年)前後に一時減少したものの、この数年は為替手

数料利益の 3 倍程度の水準にまで達している。

図表 7 全国銀行における役務取引等利益の推移

資料:全国銀行協会公表のデータをもとに作成

2.2. 役務取引等収益の構成

役務取引等利益(業務粗利益ベース)は、「役務取引等収益(経常収益)-役務取引等費

用(経常費用)」によって求められ、役務取引等収益をさらに詳細化したのが図表 8 である。

役務取引等収益は業務的観点から、①決済関連手数料、②金融商品販売関連手数料、③投資

銀行業務関連手数料および④その他預金・貸出関連手数料に分類することができる。近年に

おける役務取引等利益の増加は、②金融商品販売関連手数料および③投資銀行業務関連手

数料の増加によるところが大きい。

10

図表 8 横浜銀行における役務取引等収益の内訳

経常収益(億円) 構成比率

預金・

貸出関連

ATM 関連 46.5 8.8%

口座振替 45.6 8.6%

シ・ローン関連 82.5 15.6%

その他(手形小切手、再発行、ローン取扱など) 70.5 13.4%

為替業務 95.1 18.0%

証券関連

業務

投資信託収益 75.7 14.3%

その他(社債受託関連、証券仲介など) 19.8 3.8%

代理業務 6.3 1.2%

保護預り・貸金庫業務 15.6 3.0%

保証業務(一般債務保証、代理貸付関連、手形引受けなど) 5.1 1.0%

その他 保険関連 43.8 8.3%

その他(M&A 手数料ほか) 21.1 4.0%

<合計> 527.7 100.0%

(注)金額は経常収益ベース、2017(H29)年度実績

資料:コンコルディア・フィナンシャルグループ「決算説明資料」

および「銀行経理の実務 第 9 版」をもとに作成

2.3. 手数料ビジネスが銀行経営に与える影響

国内における銀行の手数料ビジネスに関する先行研究としては、稲葉圭一郎・服部正純に

よる「銀行手数料ビジネスの動向と経営安定性」(2006 年)がある。同研究では、米国の商

業銀行を対象とした De Young and Roland(1999)や Stiroh(2004)などの先行研究が「①手

数料ビジネス利益は資金利益と順相関関係にある、②手数料ビジネスの拡大は銀行収益の

変動性を高める、③手数料ビジネスの拡大による銀行収益の変動性の高まりは銀行の倒産

確率の上昇につながる」としているのに対し、「わが国商業銀行を対象とした本稿の分析結

果によれば、1990 年代後半までは、先行研究と同様に手数料ビジネス利益と資金利益の順

相関関係が確認される。しかし、2001 年度から 2005 年度にかけては、両者の間に有意な

順相関が観察されず、手数料ビジネスの拡大が収益の変動性を高めるのではなく、収益増加

を通じて経営安定性の向上に寄与している」としている。

稲葉・服部(2006)の分析では主に役務純利益(=役務取引等収益-役務取引等費用)全

体の変動に着目しており、その内訳である「為替手数料利益」および「その他の役務利益」

10や、役務取引等収益の内訳である各種の手数料項目まで踏み込んだ分析は行われていない。

図表 8 にも示したとおり手数料ビジネスは多岐にわたり、個々のビジネスの性格も大きく

10 「為替手数料利益」および「その他の役務利益」:稲葉・服部(2006)では、各々「為替純手数料収

入」および「その他の役務純利益」と表記している

11

異なるため、これらを手数料ビジネスとしてひとくくりにして論ずるのは無理がある。そこ

で、本稿では主な手数料ビジネスについて経済環境や株式相場などの外部環境の影響を受

けやすいかどうかの観点から、図表 9 にあるとおり 3 つに分類した。

図表 9 環境変化による影響の観点からの手数料ビジネスの分類

環境変化による影響 分類 業務内容

影響を強く受ける フロー型ビジネス シ・ローンや M&A、株式や債券の発行・引き受けな

ど投資銀行業務

ある程度の影響を受ける 混合型ビジネス 投資信託や保険などの金融商品販売

影響が小さい ストック型ビジネ

・決済サービス(振込、ATM、口座振替)

・資産形成商品(つみたて NISA など)の販売

・預金・融資関連サービス

資料:筆者作成

「フロー型ビジネス」に属するビジネスは、経済環境や株式相場などの変動によって発生

する案件数や規模が大きく変化し、また基本的に確固たる顧客基盤をベースとしないビジ

ネスであるため、毎年の収益は大きく変動する傾向にある。一方、「ストック型ビジネス」

は金融機関の顧客である企業の活動や利用者の生活のなかで発生する決済などの金融サー

ビスであり、そこからから得られる手数料収益は経済環境や株式相場などの変化に影響さ

れにくい。両社の中間に位置するのが「混合型ビジネス」である。混合型ビジネスの中核で

ある金融商品販売は、各金融機関が一定の顧客ベースを保有するものの、経済環境や株式相

場などの変動によって案件数や取扱額が大きく変化する。預り資産から信託報酬などのス

トック収益が得られる一方で、販売手数料収益は案件数や取扱額に依存するため特に株式

相場の変化により変動しやすい。

全ての手数料ビジネスは何らかのかたちで経済環境などの外部環境の影響を受けるが、

その影響の程度は図表 9 に示すとおりビジネスの特性によって大きく異なる。手数料ビジ

ネスの拡大(役務取引等利益の増加)によって金融機関の経営安定性を高めるためには、で

きるだけ環境変化による影響を受けにくいストック型の手数料ビジネスを強化することが

重要となる。第 1 章において既存の手数料水準の引き上げおよび口座維持手数料の導入の

必要性を述べたが、特に口座維持手数料は基本的にストック型の手数料ビジネスに属する

もので、経済環境や株式相場などの変化に影響を受けにくい。こうしたストック型の手数料

ビジネスから得られる収益を厚くしておくことは、銀行の収益力が外部環境の変化による

影響を受けにくくなり、併せて採算の維持が難しいフィンテック関連サービスや新たなキ

ャッシュレス決済サービスなどを安定的に提供できるというメリットがある。

12

3. 手数料体系の見直しによる銀行経営へのインパクト

3.1. 収益力強化の試算

ここでは、手数料体系の見直しにより銀行の収益力がどの程度強化されるかを検討する

ため、各種施策の実施による役務取引等利益への貢献度について評価・試算する。

まず、既存の手数料水準の引き上げであるが、取扱件数が多い為替手数料や ATM 手数料

では目立った値上げは難しく、値上げに躊躇する金融機関も多い。そこで繁忙日に限り銀行

窓口での振込などの手数料を割り増しする「ダイナミックプライシング」の適用などは利用

者の納得感も得られやすく11、比較的導入しやすい。窓口混雑の緩和や事務量の平準化にも

つながるため、間接的にではあるがコスト削減にも寄与すると考えられる。

また、投資信託などの金融商品販売関連の手数料については、住宅ローンの金利などと同

様にインターネットで銀行間の比較が行われることが多く、競争力に影響してしまうため

値上げは容易でない。一方、再発行やローン取扱時の手数料などは利用者にとって頻繁に発

生するものではなく、ある程度の値上げ幅があっても利用者からの不満や競合上の問題は

ほとんど発生しないものと考えられる。しかしながら、取扱件数が少ないために銀行収益へ

の貢献度は極めて限定的となる。

このようにみると、既存の手数料水準の引き上げにより短期的に役務取引等利益を伸ば

すことは容易ではないことがわかる。既存の手数料水準の引き上げは、長期にわたり徐々に

手数料水準を引き上げるように取り組むしかないであろう。

もう一つの口座維持手数料の導入は対象となる口座が多いため、一定の収益貢献度が期

待できるが、口座数などのデータを開示している銀行がほとんどないため効果の試算は難

しい。ここでは、先に取り上げた横浜銀行における普通預金口座(総合口座)が 5 百万口座

(睡眠口座を除く)あり、そのうち口座維持手数料が課金される対象が 4 割であると仮定

する。仮に 1 口座当たり毎月¥200(年間¥2,400)の口座維持手数料が得られるとすれば、

これによる年間の手数料収入は 48 億円となり、2017 年度における役務取引等収益(535 億

円)が 9.0%増加することになる。同期における業務純益は 858 億円であり、口座維持手数

料の導入により 48 億円の粗利益の増加があったとすれば、一定のインパクトになるであろ

う。

3.2. コスト削減効果の試算

日本において口座維持手数料を導入すると、コスト削減も期待できる。日本では多くの人

が複数の金融機関に普通預金口座を開設しており12、睡眠預金を除いても普段利用しない口

11 巻末の図表 23 のアンケート結果参照。4 割程度の人が「混乱を招く」「値上げは反対」とする一方

で、同じく 4 割程度の人が「問題ない」としている。 12 巻末の図表 24 のアンケート結果参照。

13

座が 4 割程度あると考えられている。こうした不活動口座でも通帳には毎年¥200 の印紙

税が発生し、正確な統計データがあるわけではないが、データ管理料などを含めれば 1 口

座あたり毎年¥2,000~¥3,000 のコストがかかると言われている。

口座維持手数料が導入されれば、多くの人が手数料の課金を回避するためにメイン口座

へ取引を集約すると考えられる。また、メイン口座以外に口座を開設する人も少なくなると

考えられ、不活動口座の削減が進むことで銀行が負担する口座維持コストは減少する。しか

しながら、削減できるコストは通帳の発行・繰り越し費用や通帳にかかる印紙税など限定的

で、口座数が減少してもシステム経費がダイレクトに減少するわけでもなくデータ管理コ

ストなどの削減は実質的にゼロである。

3.3. 米国における口座維持手数料の状況

口座維持手数料が定着している米国の状況を見てみる。図表 10 は、過去 30 年間におけ

る米国商業銀行13における口座維持手数料14の推移を示したものである。

図表 10 米国商業銀行における口座維持手数料収益の推移

資料:米国預金保険機構(FDIC)公表のデータをもとに作成

2017 年における口座維持手数料収益は 351 億ドルに達し、非金利収益の 14.9%、粗利益

(=純金利収益+非金利収益)全体の 5.1%を占めている。過去 30 年間における口座維持手

数料収益の推移を見ると、粗利益の 5.1%~7.6%を占めており、米国商業銀行の重要かつ安

13 1987 年末および 2017 年末時点における米国商業銀行の数は、各々13,703 行および 4,918 行。 14 FDIC による口座維持手数料(Service Charges on Deposit Accounts)の定義: Represents service

charges on deposit accounts in domestic offices such as maintenance fees, activity charges,

administrative charges, overdraft charges, and check certification charges.

14

定的な収益源となっていることがわかる。なお、米国預金保険機構(FDIC)が公表してい

る口座維持手数料には、日本では発生しない「貸し越し手数料」(overdraft charges)も含

まれる。これは、残高を超えてデビットカードを利用するなどして残高不足を発生させた際

にかかる手数料で、通常は 35 ドル程度徴求される。

米国における口座維持手数料は銀行によってまちまちであるが、大手地銀のウェルズ・フ

ァーゴでは、金利のつかない「Everyday Checking」口座では月額 10 ドル(預金残高 1,500

ドルで免除)、金利がつく「Preferred Checking」口座では月額 15 ドル(預金残高 10,000

ドルで免除)となっている。また、同じく大手地銀の PNC 銀行の「Standard Checking」

口座では、月額 7 ドル(預金残高 500 ドルで免除)となっている(2018 年 8 月現在)。

また、すべての米国商業銀行が口座維持手数料を徴求しているわけではなく、コミュニテ

ィバンクやリージョナルバンクなど中小規模の銀行では口座維持手数料がかからないこと

が多い。また、銀行の規模にかかわらず地域における競合状況を勘案して口座維持手数料を

取るか取らないかを決めているケースも多いようである。それでも多くの人が口座維持手

数料のかかるマネーセンターバンク15やスーパーリージョナルバンク16などの大手金融機関

を利用している。その理由は明確になってはいないが、利用者が大手行のブランドを重視し

ているからではないかと考えられている。また、最近は大手行を中心に利便性の高いフィン

テックサービスを提供する米国商業銀行も増えているが、口座維持手数料はこうした便利

なサービスの対価であるとも考えられている。

大手米国商業銀行がスマートフォンなどを通じて提供する「デジタルバンキングサービ

ス」は、いまやフィンテック企業顔負けの利便性や先進性を備えていると言われている。こ

うした大手行が提供する個々のサービスからの手数料収入が少なく採算が合わなくても、

口座維持手数料収入によって個別サービスの赤字を補うことができる。一方、長期的・安定

的に口座維持手数料を得るためには、顧客基盤をしっかりと維持・拡大することが必要とな

る。そのためには利便性の高い顧客サービスを絶えず提供し続けることが重要で、フィンテ

ックなどへの投資を惜しむことはできないのである。大手行を中心とした米国商業銀行に

おける口座維持手数料は、銀行の収益基盤と顧客基盤の維持・拡大のために極めて重要な役

割をしていることがわかる。

15 マネーセンターバンク:幅広い業務分野に進出し、米国内外の市場において支配力をもつ金融グルー

プ。シティバンク、JP モルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカが代表的。 16 スーパーリージョナルバンク:マネーセンターバンクに準じる規模を持ち、複数の州を営業基盤とし

ている大手地銀

15

4. 口座維持手数料に関する利用者の態度

銀行手数料体系の見直し、とりわけ口座維持手数料の導入は利用者の強い反発が予想さ

れる。そこで口座維持手数料の導入に関する利用者の意向を知るため、2018 年 7 月に 20

歳以上の全国 3,144 人を対象17にアンケートを行った。

4.1. 口座維持手数料の認知度

まず、日本であまり馴染みのない口座維持手数料に関して、その認知度を聞いてみたとこ

ろ図表 11 のような結果となった。やはり口座維持手数料の認知度は低く、「聞いたことも

ない」という人が半数近くおり、「聞いたことはあるが、どのようなものかは知らない」と

いう人を含めれば全体の3/4以上の人が知らないという結果となった。

図表 11 口座維持手数料の認知度について

【問】あなたは、銀行の「口座維持手数料」について知っていますか?(単一回答)

資料:富士通総研実施アンケート結果をもとに作成

4.2. 口座維持手数料の導入に関する銀行利用者の意向

次いで、「口座維持手数料とは、銀行に口座を開設しただけで毎月かかる手数料で、欧米

では一般的な制度です。例えば米国では、毎月 5~10 ドル程度の口座維持手数料を徴求さ

れますが、一定の預金残高(例:3,000 ドル)があれば免除されます。」という説明を行った

うえで、銀行の口座維持手数料導入に関する利用者の意見を聞いた。なお、回答者 3,144 人

17 回答者は日本の縮図となるように性別、年齢層、居住地域で割り付けを行った。アンケートの実施要

領は巻末に記載。

16

を A 群および B 群に均等に分割し18、A 群の回答者のみ、次の文章を読んでもらったうえ

で回答を得た。

私たちが普段利用している銀行口座には、通帳にかかる印紙税¥200 やデータ管理料

など、1 口座当たり年間¥2,000~¥3,000 のコストがかかっており、これを銀行が負

担しています。また、日本の銀行口座は約 12 億あると言われ、その 4 割程度は利用

されておらず銀行の管理負担を大きくしていると考えられています。

図表 12 口座維持手数料の導入に関する銀行利用者の意向

【問】近い将来、日本の銀行が口座維持手数料を導入するとすれば、あなたはどのように思いますか?

最もあてはまるものをお答えください。(単一回答)

[1]理解できる、仕方がない、やむを得ない

[2]手数料免除の制度(例:給与・年金の振込口座は無料、あるいは預金残高 10 万円以上は無料など)

があれば、導入しても構わないと思う

[3]口座維持手数料を払う代わりに代替措置(ATM や両替手数料の無料化、振込手数料などの値下げ

など)があれば、導入しても構わないと思う

[4]手数料免除の制度や代替措置があっても、口座維持手数料の導入には反対

資料:富士通総研実施アンケート結果をもとに作成

調査結果は図表 12 のとおりで、「理解できる、仕方がない、やむを得ない」(容認)と回

答した人は数%にとどまった。ただし、上記の説明文を読んだ A 群の回答者は 8.3%で、説

明文を読んでいない B 群の回答者の 6.7%に比べ、1.6%高くなっている。また、「手数料免

除の制度があれば構わない」「代替措置があれば構わない」という「条件付き容認」は A 群

18 分割後の A・B の各群とも日本の縮図となるように割り付けを行った。

17

で 53.3%、B 群で 45.7%となっている。「容認」おおび「条件付き容認」を合わせると、A

群で 61.6%、B 群で 52.4%であり、「反対」を上回っている。

また、口座維持手数料の導入に関する銀行利用者の意向を年齢階層別にみたものが図表

13 である(A・B群合計)。20 代において「容認」する人の割合が 11.7%で最も高く、50

代が最も低く 5.0%となっている。

図表 13 口座維持手数料の導入に関する銀行利用者の意向(年齢階層別)

資料:富士通総研実施アンケート結果をもとに作成

4.3. 容認・反対の理由

口座維持手数料の導入について「容認」の姿勢を示している回答者は、全体の 7.5%にあ

たる 235 人であった。当該回答者に容認する理由を尋ねたところ、図表 14 のような結果が

得られた。最も多い回答が「お金の管理などのサービスの提供を受けているのだから、利用

者としては一定の手数料を払うのは仕方がない」であり、受益者負担を受け入れる姿勢を示

すものであった。

18

図表 14 口座維持手数料の導入を「容認」する理由(複数回答)

資料:富士通総研実施アンケート結果をもとに作成

一方、口座維持手数料の導入について「反対」の姿勢を示している回答者は、全体の 43.0%

にあたる 1,352 人であった。当該回答者に反対する理由を尋ねたところ、図表 15 のような

結果が得られた。

図表 15 口座維持手数料の導入に「反対」する理由(複数回答)

資料:富士通総研実施アンケート結果をもとに作成

19

4.4. 口座維持手数料導入による顧客流出の可能性

口座維持手数料の導入に関して、銀行がもっとも懸念しているのは顧客離れであろう。も

し取引する銀行が口座維持手数料を導入することになった場合の利用者の反応について尋

ねた結果が図表 16 である。口座維持手数料の導入に「反対」とした人は全回答者のうちの

43.0%であったが、メイン口座のある銀行が口座維持手数料を導入した場合に取引する金融

機関を「変える(変えると思う)」とした人は全体の 29%にとどまっている。「優遇措置(預

金残高 10 万円以上など)が適用され手数料が¥0 になるなら、変えない」とした人が最も

多く、41%にのぼる。口座維持手数料の導入には反対だが、優遇措置により手数料がかから

なければよいと考える人も多いようである。

図表 16 口座維持手数料が導入された場合の利用者の反応

【問】もし、あなたのメイン口座のある銀行が口座維持手数料を導入した場合、取引する金融機関を変

えますか?最もあてはまるものをお答えください。(単一回答)

[1]口座維持手数料が発生しても、変えるつもりはない(変えないと思う)

[2]優遇措置(預金残高 10 万円以上など)が適用され手数料が¥0 になるなら、変えない

[3]少額であっても手数料が発生するのであれば、変える(変えると思う)

[4]何とも言えない

資料:富士通総研実施アンケート結果をもとに作成

4.5. 口座維持手数料の水準について

口座維持手数料が導入された場合の手数料水準について、銀行利用者が許容できる手数

料額について尋ねた結果が図表 17 である。やはり「手数料は安くあってほしい」という利

20

用者の思いが現れた結果となっている。

図表 17 許容できる口座維持手数料の水準

資料:富士通総研実施アンケート結果をもとに作成

4.6. 口座維持手数料が免除される条件について

米国商業銀行などにおける口座維持手数料の制度では、預金残高が基準額を上回るなど

一定の条件を満たせば手数料が免除となる。そこで、日本で口座維持手数料が導入された場

合の手数料が免除される基準について、銀行利用者の意向を聞いてみた。

まず、手数料免除の条件が「通帳を発行しないこと」になった場合の銀行利用者の意向は

図表 18 のとおりである。半数近い 44.6%が「通帳無しの手数料ゼロ取引」を選ぶとしてい

るのに対し、「月額¥100 以下であれば通帳有の取引を選ぶ」あるいは「通帳有でも手数料

がかからない他行に取引を移す」と回答した人は各々9.7%と 18.2%で、全体の 3 割近くに

なる。インターネットなどを利用したデジタルバンキングが浸透してきているにも関わら

ず、いまでも通帳を重視する人は思いのほか少なくない。

21

図表 18 「通帳不発行」が手数料免除の条件となる場合の利用者の意向

【問】もし、あなたのメイン口座のある銀行が口座維持手数料を導入し、「通帳を発行しなければ手数料

を免除する」とした場合、あなたのお考えとして最もあてはまるものをお答えください。(単一回答)

資料:富士通総研実施アンケート結果をもとに作成

続いて、手数料免除の条件が「預金残高が 10 万円以上」となった場合の銀行利用者の意

向は図表 19 のとおりである。自身が保有する口座をメイン口座へ集約することにより、口

座維持手数料の課金を回避しようとする人の割合は 35.8%となっている。一方、「口座維持

手数料のかからない銀行にメイン口座を移す」とした人の割合は 31.6%であった。なお、

「何とも言えない、その時になってみないとわからない」と答えた人の割合は 31.7%で、

手数料免除の条件が「通帳を発行しないこと」とした場合に同様の答えをした人が 27.1%

であったのに比べて 4.6 ポイント上回っている。「通帳を発行しないこと」に比べ、「預金残

高が 10万円以上」というのは利用者にとって達成が難しい条件であることがうかがわれる。

22

図表 19 「預金残高が 10 万円以上」が手数料免除の条件となる場合の利用者の意向

【問】もし、あなたのメイン口座のある銀行が口座維持手数料を導入し、「預金残高が 10 万円以上であ

れば手数料を免除する」とした場合、あなたのお考えとして最もあてはまるものをお答えください。(単

一回答)

資料:富士通総研実施アンケート結果をもとに作成

23

5. 口座維持手数料導入に伴う銀行ビジネス変化の可能性

5.1. メイン口座への取引集約が進む可能性

口座維持手数料の制度が導入されると、銀行ビジネスにも変化が生じる可能性がある。図

表 19 にあるとおり、口座維持手数料が免除される基準が「預金残高が 10 万円以上」とな

った場合、35.8%の銀行利用者が分散した取引をメイン口座へ集約すると答えている。「何

とも言えない、その時になってみないとわからない」と態度を明確にしていない人も 31.7%

いるため、実際にはさらに多くの人がメイン口座への取引を集約するものと考えられる。た

だし、すべての銀行が口座維持手数料を導入するわけではないので、メイン口座への取引集

約と口座維持手数料がかからない銀行への取引のシフトの両方が起きると考えられる。

多くの人が新たな手数料を支払いたくないと考えるであろうが、実際には取引を他の銀

行へ移すには手間もかかるので、あまり大きな動きが発生しない可能性もある。メイン口座

への取引集約あるいは口座維持手数料がかからない銀行への取引のシフトがどれだけの規

模となるかは、導入される口座維持手数料の水準や支払い免除の基準に依存するものと考

えられる。

5.2. 競争構造の変化

通常、銀行利用者の多くが給与や年金の振込口座を家計のメイン口座としており、その口

座を使って公共料金などの口座振替を行ったり生活費の出し入れを行ったりしている。特

に給与振込口座は大手行や地域におけるトップシェア地銀などに開設する人が多く19、口座

維持手数料導入によってメイン口座への取引集約が進むとすれば、こうした銀行の預金残

高増加や付随する決済、資産形成ビジネスなどの拡大が進むものと考えられる。

一方、地域におけるシェアが 2 番手以下の中小金融機関などでは、口座維持手数料の導

入によって顧客流出の危機に見舞われる可能性がある。こうした顧客流出の可能性が高い

中小金融機関では口座維持手数料の導入を断念して顧客引き留めを図るものと考えられ、

役務取引等利益の増強が難しくなる。収益改善が進まなければ経費を削減せざるを得ず、フ

ィンテックやキャッシュレスなどの新たなサービス導入が難しくなり、結果的に個人向け

ビジネスを中心に大手行やトップシェア地銀との競争力の差が拡大するものと考えられる。

このように口座維持手数料の導入は大手行や地域トップシェア地銀に有利に働くと考え

られるが、メイン口座への取引集約で預金の流入が増えてその運用をどうするかという問

題も生じる。近年、大手企業を中心に金余りが顕著となり、金利競争の激化もあって採算性

を確保できる貸出が難しくなっている。市場での資金運用も容易ではないなかで預金が増

え続ければ、逆に収益を圧迫することにもなる。

さらに、口座維持手数料を取らないことを競争力にする金融機関もあるであろう。現状で

19 巻末の図表 25 のアンケート結果参照。

24

も一定の収益力を維持しているネット専業銀行や流通系銀行などの新規参入銀行は、もと

もと金利や手数料の価格競争力を武器としているため、口座維持手数料を取らない可能性

が高い。大手行などを中心に口座維持手数料の制度が導入されると、こうした新規参入銀行

の競争力がさらに高まる可能性もある。

5.3. マーケティングの変化

口座維持手数料の制度が導入されれば、銀行のマーケティングも変わるものと考えられ

る。口座維持手数料がかからないと、銀行利用者は価格や利便性によって銀行を使い分ける

ことができる。給与口座は ATM 網が充実していて手数料無料の時間帯が長い A 行に、住

宅ローンは金利の安い B 行でというように、“いいとこ取り”することができる。口座維持

手数料が導入されればメイン口座への取引集約が進むため、個々の顧客と取引する商品・サ

ービスの数が増え、採算性も向上する。こうした優良顧客の増加が期待できるために、口座

維持手数料の導入を契機として優良顧客の囲い込みを図ろうとする銀行が増えると考えら

れる。口座維持手数料が免除となる基準をコントロールすることで、優良顧客を取り込むこ

とも可能である。最低預金残高を基準として設けるのではなく、「カードローン契約がある

こと」や「つみたて NISA または iDeCo の取引があること」などを条件とすれば、その銀

行の狙いにマッチした顧客の獲得も期待できる。

また、口座維持手数料の免除だけでなく ATM 取引手数料の減免などを組み合わせたり、

最低預金残高の上げ下げを行ったりすることで、効果的なマーケティングも期待できる。例

えば、口座維持手数料が免除となる最低預金残高を 50 万と多少高めに設定する代わりにコ

ンビニ ATM での利用手数料を月 3 回まで無料とするような施策が考えられる。

25

6. 口座維持手数料の導入に際しての留意点

6.1. 銀行利用者からの理解を得ること

図表 12 のアンケート結果にあるとおり、日本の銀行による口座維持手数料導入について

「反対」の声は大きく、現状では銀行利用者の理解が得られるとはとても思えない。口座維

持手数料の導入を実現するためには、こうした「反対」の声に耳を傾け、時間をかけて丁寧

に説明することが必要であろう。

今回銀行利用者向けに行ったアンケートでは、図表 21 および図表 22 にあるとおり、

「2019 年 10 月予定の消費税率アップ」および「2017 年 10 月のクロネコヤマトによる宅

急便の取扱手数料の約 10%値上げ」についての利用者の意向を聞いた。銀行による口座維

持手数料導入を「納得できる、理解できる、仕方がない」として「容認」するとした人は 1

割未満にとどまったが、消費税率アップおよび宅急便の取扱手数料値上げを「容認」する人

は、各々20.4%ならびに 45.9%に達している。消費税率のアップに関しては当初の 15 年 10

月に予定されていたものが 2 度延期になっており、また政府による財政健全化も進んでい

ないことなどから、「容認」する声が一定の割合まで達している。宅急便については、アマ

ゾンをはじめとするネット通販による取扱量増加や人手不足が重なり従業員の長時間労働

問題や配達の遅延が発生し、多くのメディアで取り上げられた。これによりヤマト運輸をは

じめとする宅配便各社が抱える問題や現場で働く従業員の実態が広く知られるところとな

り、宅急便の取扱手数料の値上げに関して半数近い人が「容認」としたと考えられる。特に

ヤマト運輸のケースで見れば、「問題解決には値上げしかない」という会社の考えが消費者

に広く理解されたものと考えられる。

銀行における口座維持手数料の導入に際しても、「問題解決には口座維持手数料の導入し

かない」ということを理解してもらうための丁寧な説明が欠かせない。単に収益が減少して

経営が維持できないなどという説明では、企業努力が不足しているように見えてしまい、消

費者からの納得は得られない。図表 12 のアンケートでは、回答者を A 群および B 群に分

け A 群の回答者にのみ「銀行の口座維持・管理コスト」に関する説明をしたところ、説明

をしなかった B 群に比べ「容認」する人の割合が 1.6 ポイント高くなった。また、「反対」

する人の割合が 9.2 ポイント低くなった。わずかこれだけの説明でも「容認」あるいは「反

対」する人の割合が変化しており、このことからも銀行の事情を利用者にわかりやすく説明

することが重要であることがわかる。ただし、口座維持手数料の導入に「反対」した人の中

には、自由記述のなかで「海外で口座維持手数料が一般的だからといって日本でも導入する

のはおかしい」という趣旨の回答が散見された。海外事例を引き合いにして日本での口座維

持手数料の導入を図ろうとすると、余計に反発を招く恐れもあるので注意が必要である。

26

図表 21 消費税率アップに関する利用者の意向

【問】2019 年 10 月予定の消費税値上げ(8%→10%)について、あなたはどのように思いますか?最

もあてはまるものをお答えください。(単一回答)

[1]納得できる、理解できる、仕方がない

[2]生活に支障が出たり家計を圧迫したりするほどではないが、値上げは困る(値上げすべきではない

と思った)

[3]生活に支障が出たり家計を圧迫したりするので、値上げは困る

[4]自分にはあまり関係ない、特に思うところはない

資料:富士通総研実施アンケート結果をもとに作成

27

図表 22 値上げに関する利用者の意向

【問】クロネコヤマトの宅急便の取扱手数料が約 10%値上げされた(2017 年 10 月)ことについて、あ

なたはどのように思いましたか?最もあてはまるものをお答えください。(単一回答)

[1]納得できる、理解できる、仕方がない

[2]利用者に負担を強いる前に、経費削減などの企業努力を行うべきだ

[3]法人向けの手数料値上げは仕方がないが、消費者向け手数料値上げは行うべきではない

[4]その他

[5]自分にはあまり関係ない、特に思うところはない

資料:富士通総研実施アンケート結果をもとに作成

6.2. 段階を踏んだ導入

口座維持手数料の導入に向けては、丁寧な説明による利用者の理解を得る取り組みとと

もに、段階を踏んだアプローチも必要となる。

図表 11 に示したとおり、日本では銀行の口座維持手数料について「聞いたこともない」

という人が半分近くもおり、認知度は極めて低い。そうした状況のなか、たとえ少額であっ

てもいきなり口座維持手数料が導入されれば消費者から大きな反発を受け、場合によって

は社会問題化する恐れもある。まずは個人の利用者向けの口座維持手数料の導入は行わず、

対象を法人に限定して導入するのが現実的であると思われる。

法人向けに続いて個人利用者向けの口座維持手数料を導入する場合も、ミニマムスター

トにより利用者の動揺を抑える必要がある。例えば、手数料水準を月額¥100(税別)程度

に抑えるとともに、手数料の免除の条件を「通帳を発行しない」や「給与・年金受給口座で

あること」など比較的クリアしやすいものにする。口座維持手数料の導入に対する反対の声

28

は大きいが、図表 12 のアンケート結果が示すとおり「手数料免除の制度」や「代替措置」

などを伴う「条件付き容認」は全体の 49.5%となっている(A 群・B 群合計)。実質的に口

座維持手数料の支払いが回避できればよいとする人がほぼ半数に上るわけで、手数料が免

除となる条件が緩やかなレベルからスタートすれば、比較的理解が得られやすいと考えら

れる。

6.3. 独禁法に抵触しないこと

日本の銀行が口座維持手数料を導入する際に留意しなければならないこととして、独占

禁止法への抵触がある。

口座維持手数料の導入について、個々の金融機関が独自の判断で導入を決めたり手数料

や手数料が免除となる条件などを決めたりするのであれば、基本的に問題とはならない。し

かしながら、口座維持手数料の導入について複数の金融機関が共同で検討したりすれば、

「不当な取引制限(カルテル)」を禁じている独占禁止法に抵触する恐れがある。利用者の

反発が予想される制度の導入は顧客離れを招く懸念があるため、できれば業界として足並

みを揃えたいという思いが生じる可能性は高い。また上述のとおり、利用者の理解を得るた

めには個々の金融機関の努力だけでは限界があり、やはり業界あげての取り組みが有効で

あると考えられる。とは言え、金融機関として公正かつ自由な競争を阻害するような取り組

みは厳に慎まなければならず、また消費者や企業の利益を優先する姿勢がなければ、口座維

持手数料の導入に関する理解は永久に得られないであろう。

29

7. 口座維持手数料導入における課題

7.1. 逆進性の問題

図表 15 のアンケート結果が示すとおり、口座維持手数料の導入に反対する理由として

「少額預金者・低所得者への影響が大きい」とする回答が全体(1,352 人)のうちの 42.5%

に上った。海外の例をみると、口座維持手数料は預金残高が一定額以上あれば免除されるこ

とが多く、結果的に少額預金者や低所得者を排除して高額預金者を優遇するようにも見え

る。消費税も逆進性が高い制度であると言われるが、高額所得者も低所得者も一律に課税さ

れるという点では不公平ではない。ところが、口座維持手数料の場合は高額預金者が手数料

を免除され少額預金者が課金され、不公平感がある。この点は口座維持手数料の導入に際し

て問題視される可能性が強く、金融機関が厳しく非難されることも想定されるので注意が

必要である。

7.2. ゆうちょ銀行の問題

口座維持手数料を導入しようとする銀行にとって、ゆうちょ銀行の動きは気になるとこ

ろである。郵便局における銀行窓口業務に関し、ユニバーサルサービスの提供の責務が日本

郵便株式会社法に規定されている。貯金残高などの条件によって口座維持手数料が発生す

るのはユニバーサルサービスの提供の観点から難しいと考えられ、一般の銀行などに比べ

ゆうちょ銀行では口座手数料の導入が見送られる可能性が高い。

ゆうちょ銀行は日本全国に約 24,000 の窓口、約 28,800 の ATM ネットワークを有して

おり、預貯金シェアは 13.7%に上る(2017 年 3 月末時点)。これだけの競争力を有する銀

行が口座維持手数料を導入しない場合、競合する一般の金融機関としては顧客離れの懸念

が高まり、導入が難しくなる可能性もある。

7.3. システム開発費用の問題

一般的に口座維持手数料は預金残高などによって免除されるが、その管理を行うための

システム開発が必要となる。例えば、月末日における貯金残高を基準として口座維持手数料

の課金を判断するのであれば、システム改修費用も比較的抑制できると思われる。しかしな

がら、手数料免除の条件が複雑になるとシステム開発の範囲や期間も増大し、銀行の経費を

圧迫する要因にもなる。先にも述べたとおり、口座維持手数料の導入を契機に個人向けのマ

ーケティングのあり方も変わるため、こうした意味でもシステム開発費用が増加すること

も考えられる。

30

8. まとめ

構造不況業種と言われるまでに厳しい経営状況にある日本の銀行は、構造改革によって

新たな収益モデルの構築が求められている。本稿ではその施策として口座維持手数料の導

入を柱とする手数料体系の見直しにより、外部環境の影響を受けにくい役務取引等利益の

増強を図ることを提言した。これまで日本の銀行はサービスやコストに見合った手数料が

得られていないという根本的な問題を抱えながら、利用者からの反発を懸念してその問題

に本格的に取り組むことをしてこなかった。よく言われることだが、日本では「サービス=

無料」という概念が定着しており、これを覆そうという取り組みはあまりにも膨大なエネル

ギーを要するため銀行界では進まなかった。しかし、いまこそこの問題に本気で取り組むべ

きときであり、その突破口として口座維持手数料の導入が有力な手段となる。口座維持手数

料の導入というのは、単に収益向上が目的ではなく、「サービス=無料」から「サービス=

有償」に転換するという、日本の銀行にとっての構造改革の一環としての取り組みである。

このように、口座維持手数料の導入は銀行の構造改革の成否にかかわる重要な施策であ

るが、その取り組みには多くの難問が伴い、定着には相応の時間がかかると考えられる。銀

行利用者からの理解は容易には得られることはなく、消費増税と同じレベルの反発も予想

される。社会問題化した場合にも「なぜ口座維持手数料の導入が必要か」についてきちんと

説明ができるように準備をしておく必要がある。先にも述べたとおり、収益環境が厳しいか

らとか、海外では一般的だからというような説明では、絶対に利用者からの理解は得られな

い。将来に向けて、利便性や品質の高い商品・サービスを、安全・安心を伴うかたちで提供

するための原資として口座維持手数料が必要であることを、詳細かつ丁寧に説明する必要

がある。

口座維持手数料を導入しても、銀行の業績改善に向けた効果は短期的には得られそうに

もない。また、制度が定着したとしても収益貢献度はせいぜい粗利益の数%にとどまるもの

と見込まれ、収益の柱とはなりえないものと考えられる。とは言え、口座維持手数料の導入

によって銀行収益の安定化が図れるとともに、フィンテックやキャッシュレスなどのサー

ビスを導入・運営するための原資が確保できるという極めて重要な意義もある。日本の銀行

が持続的成長を図ろうとするならば、口座維持手数料の導入は避けては通れない課題であ

ろう。

31

<参考>アンケートの概要とその他のアンケート結果

アンケートの概要 実施時期 2018 年 07 月 27 日~2018 年 07 月 30 日

手法 インターネットによる調査

回答者 全国の個人 3,144 人(性別・年齢層は人口動態比例、全国 8 エリ

アでの居住地域性を考慮)

図表 23 繁忙日における窓口での手数料値上げ(ダイナミックプライシング)について

【問】月末や給与・年金支給日など、銀行窓口が込み合う日に限り、「窓口での振込手数料が 1.5 倍にな

る」とすれば、あなたはどう思いますか?

最もあてはまるものをお答えください。(単一回答)

[1]銀行の繁忙日(手数料が割増しとなる日)を避けて利用するので、問題ない

[2]ATM やインターネットバンキングを使うようにするので、問題ない

[3]銀行窓口の混雑が緩和されると思うので、どちらかと言えば望ましい

[4]日によって手数料が変わるのは利用者にとってわかりづらく、混乱を招く

[5]いかなる理由であれ、手数料が上がるのは反対

[6]その他

[7]何とも言えない、自分にはあまり関係ない

資料:富士通総研実施アンケート結果をもとに作成

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図表 24 普通預金口座(総合口座)の保有数

【問】あなたは普通預金口座(総合口座)をいくつぐらいの金融機関に保有していますか?

※普段利用していない口座も含みます。(単一回答)

[1]1 つの金融機関のみ

[2]2~3 の金融機関

[3]4~5 の金融機関

[4]6 以上の金融機関

[5]普通預金口座(総合口座)は保有していない

資料:富士通総研実施アンケート結果をもとに作成

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図表 25 メイン口座について

【問】あなたのメイン口座(給与や年金受給など、家計取引の中心となっている口座)のある金融機関

(メインバンク)はどこですか?(単一回答)

[1]ゆうちょ銀行

[2]都市銀行(三菱 UFJ、三井住友、みずほ、りそな、埼玉りそな)

[3]地方銀行、第二地方銀行

[4]信用金庫、信用組合、労働金庫、JA バンク

[5]ネット専業銀行(ジャパンネット、ソニー、楽天、じぶん、住信 SBI ネット、大和ネクスト)、流

通系銀行(セブン、イオン)

[6]その他(信託銀行、外国銀行、新生銀行、あおぞら銀行など)

[7]メイン口座は持っていない/わからない

資料:富士通総研実施アンケート結果をもとに作成

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<参考文献>

内閣府 休眠預金等活用審議会「休眠預金等発生額の推移」

日本銀行「預金者別預金(2018 年 3 月末)」

全国銀行協会「全国銀行決算発表」

全国銀行協会「決済統計年報」

銀行経理問題研究会「銀行経理の実務 第 9 版」

ゆうちょ銀行「ディスクロージャー誌 2017」

稲葉圭一郎・服部正純(2006)「銀行手数料ビジネスの動向と経営安定性」

日経ヴェリタス(2012 年 9 月 16 日)「あの日預けた休眠預金を探して」

グローバルリサーチ研究所「ウィークリーグローバルリサーチ」

研究レポート一覧

No.463 構造改革の一環としての口座維持手数料導入の可能性 岡 宏(2018年10月)

No.462 ネットは社会を分断するのか -パネルデータからの考察-

田中 辰雄浜屋 敏

(2018年8月)

No.461 デジタル社会に適応困難な貧困者の問題 -貧困者のITリテラシー問題と世代別対策-

大平 剛史 (2018年7月)

No.460 価値創造のための企業価値評価のあり方 -ESG対応から戦略的活用へ-

生田 孝史 (2018年6月)

No.459 共生ケアの効果と新たな価値 -変化する自立支援の意味と介護サービス-

森田麻記子 (2018年6月)

No.458 地域社会に創発されるレジリエントな組織と知恵 上田 遼 (2018年5月)

No.457 パリ協定離脱を決めた米国の排出削減の行方 -新たな原動力となるビジネス機会の追求-

加藤 望 (2018年5月)

No.456 温室効果ガス削減80%時代の再生可能エネルギーおよび 系統蓄電の役割:系統を考慮したエネルギー技術モデルでの分析

濱崎 博 (2018年4月)

No.455 IoT時代で活発化する中国のベンチャー活動は持続可能か 金 堅敏 (2018年4月)

No.454 地域密着型金融の課題とキャッシュフローレンディングの可能性

岡 宏 (2018年4月)

No.453 サステナブルでレジリエントな企業経営と情報開示 生田 孝史藤本 健

(2018年1月)

No.452 シビックテックに関する研究 -ITで強化された市民と行政との関係性について-

榎並 利博 (2018年1月)

No.451 移住者呼び込みの方策 -自治体による人材の選抜- 米山 秀隆 (2018年1月)

No.450 木質バイオマスエネルギーの地産地消における 課題と展望 -遠野地域の取り組みを通じて-

渡邉 優子(2017年12月)

No.449 観光を活用した地域産業活性化 :成功要因と将来の可能性

大平 剛史(2017年12月)

No.448 結びつくことの予期せざる罠 -ネットは世論を分断するのか?-

田中 辰雄浜屋 敏

(2017年10月)

No.447 地域における消費、投資活性化の方策 -地域通貨と新たなファンディング手法の活用-

米山 秀隆 (2017年8月)

No.446 日本における市民参加型共創に関する研究 -Living Labの取り組みから-

西尾 好司 (2017年7月)

http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/research/

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URL http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/

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