17
JLω 緩ま 峨争問、 7 捌千四モ 4 破壊のエネルギー論的解析 60 第3iま き裂材における製性変形 I 61 板厚 B I 板厚 B 板厚 B I モ 一一争 (a) 大規模降伏状態 (b) 中問状態 (c) 小規模降伏状態 本章では,原子間結合が分離されるようなミクロな破壊およびマクロなき 裂の成長による破壊の進行についてエネルギー変化の観点から考え,それに 関わる力学パラメータを中心に述べる. さらに,第 3 章では小規模降伏状態 を主に論じたが,本誌では上記の関連問題としてぎ裂先端の塑性変形が大き い大規模降伏状態下でのき裂成長についても言及する . 3.12 板厚と塑性域の関係. 3 章問題 1.モード II 負荷における塑性域形態が式 (3.25) およ び式 (3.26) のようになること を示せ. 2.モー ド 111 負荷における塑性域形態が式(3.28) のようになることを示せ. 1)G. R.Irwin Fracture Handbuchder Physik VI 551(1958)Springe r. 2)G. R. Irwin Proc.7 thSagamore Con f . IV-63(1960). 3)D. S. Dugdale ). Mech.Phys. Solids 8 (1 960) 100. 4. 1 原子間結合強度 国体における原子の結合形態としては,結合を支配する電子配置状態に応 じて金属結合 (metallicbond) ,共有結合 (covalentbond) およびイオン 結合 {i onicbond}など相対的に強い一次結合 (primarybond) と,高分子 の結合を表すような分子聞のファンデ J レワー J レス結合 (vanderWaals bond) など相対的に弱い二次結合 (secondarybond)が存在する . この よ うな原子間結合の形態によ りそれぞれ原子の結合力が決まり ,原子や分子か ら構成されている固体の破壊強度はそれらの結合力に依存する . 通常,その結合力は原子あるいは分子聞のポテンシャルエネルギー U( γ) を原子間あるいは分子間距離 rで微分することによって与えられる.例え ば,金属結合や共有結合における原子間ポテンシャ J レエネルギーは A B U( γ)= 一下す+下す (4.1) 文献 のように近似的に表される .ただしAB m および n(>m) は, いずれも 正値であり ,物質によって決まる材料ノマラメータである.なお, ファンデ/レ

第3iま I - 東京大学...Fracture, Handbuch der Physik, VI, 551 (1958) Springer. 2) G. R. Irwin , Proc. 7 th Sagamore Conf., IV-63 (1960). 3) D. S. Dugdale, ). Mech

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JLω

緩ま

峨争問、7

捌千四モ

第 4章

破壊のエネルギー論的解析

60 第3iま き裂材における製性変形 I 61

板厚 B I 板厚 B 板厚 Bモ一一~I Iモ一一~I Iモ一一争

(a) 大規模降伏状態 (b) 中問状態 (c) 小規模降伏状態本章では,原子間結合が分離されるようなミクロな破壊およびマクロなき

裂の成長による破壊の進行についてエネルギー変化の観点から考え,それに

関わる力学パラメータを中心に述べる.さらに,第 3章では小規模降伏状態

を主に論じたが,本誌では上記の関連問題としてぎ裂先端の塑性変形が大き

い大規模降伏状態下でのき裂成長についても言及する.

図3.12 板厚と塑性域の関係.

第 3章 問題

1.モード II負荷における塑性域形態が式(3.25)および式(3.26)のようになること

を示せ.

2.モー ド111負荷における塑性域形態が式(3.28)のようになることを示せ.

1) G. R. Irwin, Fracture, Handbuch der Physik, VI, 551 (1958) Springer.

2) G. R. Irwin, Proc. 7 th Sagamore Conf., IV-63 (1960).

3) D. S. Dugdale, ). Mech. Phys. Solids, 8 (1960) 100.

4. 1 原子間結合強度

国体における原子の結合形態としては,結合を支配する電子配置状態に応

じて金属結合 (metallicbond),共有結合 (covalentbond)およびイオン

結合 {ionicbond}など相対的に強い一次結合 (primarybond) と,高分子

の結合を表すような分子聞のファンデJレワ ーJレス結合 (vander Waals

bond)など相対的に弱い二次結合 (secondarybond)が存在する.このよ

うな原子間結合の形態によ りそれぞれ原子の結合力が決まり,原子や分子か

ら構成されている固体の破壊強度はそれらの結合力に依存する.

通常,その結合力は原子あるいは分子聞のポテンシャルエネルギー U(γ)

を原子間あるいは分子間距離 rで微分することによって与えられる.例え

ば,金属結合や共有結合における原子間ポテンシャJレエネルギーは

A B U(γ)=一下す+下す (4.1)

文献

のように近似的に表される.ただし,A,B,mおよび n(>m)は,いずれも

正値であり,物質によって決まる材料ノマラメータである.なお,ファンデ/レ

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62 第 4宣言 破耳曜のエネルギー給的解祈

ワ-}レス結合のポテンシャルエネルギーは上式において 112= 6 および η~ 12

とした場合に相当する.一方,イオン結合における原子間ポテンシャルエネ

Jレギーは近似的に次式のように表される.

A'q2, B' U(1')=ーっァ+7 (4.2)

ここで,A',B'および η'はいずれも物質によって決まる正定数であり,q

はイオンの電荷を表す.

式(4.1)および式(4.2)のいずれにおいても,第 l項が引力を, 第 2項が斥

力に関与し,それらの原子間ポテンシヤ/レエネJレギーは図 4.1のように模式

的に表すことができる.このポテンシャノレを微分することによって得られる

『?、

r

民r、

ー守「

1託

両日M

l除去,廿川門会-rふ入トモ

y

図4.1 原子間ポテンシャJレと原子問カ.

4・1 原子間結合強度 63

原子問力の相対変位xに対する変化を,外部負荷応力 σにより表すと図

4.2のようになる.

σ

(π) X

図4.2 正弦関数で近似した原子間力.

いま,変位zに対する応力 σの関係を次の正弦関数

σ=(Ic sin(判 (4.3)同,),/2/

によって近似的に表すことにする.ここで,σcは原子間分離に要する臨界

応力を表す.このとき,原子間結合の分離破断によって生じるへき開

(cleavage)破壊に要する仕事院は,正弦関数として近似した領域の面積

として

院イ1吋苧)dx=サ (4.4)

によって与えられる.ここで,単位面積当りの表面エネルギー (surface

energy) をおとすると,へき開によって新しい破面が形成されるため,上

記の仕事院は新生面(二つの表面が形成される)の表面エネルギー 2ysに

等しくなる.変位エが小さい領域では,式(4.3)はσ=(Ic(27fx/).)のように近

似できる.さらに,原子の安定位置における原子間距離をぬとすると,ひ

ずみは x/aoと表すことができる.したがって,ヤング率を Eとすると

2πz 【 Z(I=(J,巴一一て-=.J!.,ーーー

A ao (4.5)

となり,これよ り

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64 第 41宮 破綴のエネルギ-?,命的解析

,1=1πσcao -一E

が得られる.上式を式(4.4)に代入することによって,

2(σ.c)2ao ーすー=2rs

(4.6)

(4.7)

となるので,

σc=j悪 (4.8)

という関係が成立する.上式は無欠陥材料のへき開破壊強度を与え,通常の

金属系材料ではオーダー的に E---1x 1011 [N/m2], rs---1 [J/m2=N/m]および

ao---1 [A=lXlQ-IOm]となるので,式(4.8)から計算される理論強度は約32

GPaとなる.しかし,一般に無欠陥に近いといわれるウイスカ (whisker)

材料でも上式で与え られる理論強度に比べて 1/10---1/100程度の強度になる

ことが知られている.このことは,無欠陥材料というものが存在せず,通常

の材料には何らかの欠陥が存在し,そのような欠陥が破綴強度を低下させて

いることを示唆している.

そこで,次に強度低下を招く要因として,材料中の潜在欠陥について考え

る.ここでは,だ円状の欠陥が存在したと きのへき開破壊強度を求める.図

4.3 に示すよう に,一様応力 σ を受ける無限平板中に, 長制~ a,短軸 bのだ

+ + + + +

• • t • t 図4.3 無限平板中のだ円欠陥.

4・2 線形5ij!性体におけるき裂成長 65

円欠陥が存在する とき,欠陥の長軸側先端での応力 σUpは,

山 p=σ[1+2存] (4.9)

で与えられる 1) ここで, ρは欠陥先端の曲率半径であり,ρ=ゲ/αの関係

がある.さて,p が欠陥長さに比べて非常に小さい場合, すなわち α/p~ l

の場合について考えると,式(4.9)は,

σtlp=2CJj.!!:.. (4.10.a) v ρ

のように近似できる.一方,だ円欠陥の先端でへき聞が生じるとき,式

(4.8)から

山 P=厚 (4.10.b)

となる.このときの式(4.10.a)における外部負荷応力 σが破壊強度 的を与

え,式(4.10.a)および式(4.10.b)から次式が得られる.

尻町

庁一川

(4.11)

上式を式(4.8)と比較すると係数G冗石7だけ異なり, ρ《αである場合を

想定するとぷπ石)~ 1 となる. したがって, このような欠陥の存在によっ

て破壊強度の実測値が理論強度よりも著しく低下するこ とを説明する ことが

できる.

4.2 線形弾性体におけるき裂成長

4・2・1 エネルギー平衡

単位厚さの線形弾性体の平板において長さ αのき裂がある場合について,

き裂成長におけるエネルギ一平衡を考察する.いま,平板に蓄えられた弾性

ひずみエネルギーを U,外力によって平板になされた仕事を F,き裂形成

に要するエネルギーを W とする.このときのき裂成長条件は,

d ,_ .., d W dUa (F-U)=τ ( 4 .12.a)

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66 第 4箪 破峻のエネ1レギー論的解析

と表される.ここで,式(4.12.a)の左辺はエネルギー解放率 (energy

release rate) "!},あるいはき裂進展力 (crackextension force) と称され,

右辺はき裂進展抵抗力 (crackresistance force) Rと呼ばれるパラメータ

である.上式を"!}を用いて書き換えると

"!}=R (4.12.b)

となる.

さて,図 4.4に示すような,き裂を有する板厚 Bの平板に外力 Pが作用

する場合を考える.荷重作用点での相対変位を uとし,き裂の微小進展量

daに対する uの変化窒を dvとする.このとき外力によってなされた仕事

孟は Pdvとなり,また式(4.12.b)が単位厚さ当りのエネルギ一平衡式であ

ることを考慮すると,式(4.12.b)の左辺すなわちエネルギー解放率gは

"!}=古(P32一号) (4.13)

のように表すことができる.ここで,Ulは厚さ Bの弾性平板に蓄えられた

全弾性ひずみエネルギーである.このき裂を含む弾性平板のコンプライ アン

ス (compliance:剛性の逆数)を Cとすると,v=CPとなるので,

U, = p__v = Cp2

一一一ーも

2 2

が得られる.上式を式(4.13)に適用することによって,

図4.4 き裂平板の模式図.

(4.14)

4' 2 線形弾性体におけるき裂成長

1 / _.dC . __dP p2 dC __dP¥ p2 dC "!} = :, (P2"::一一+CP~一一一一一一 CP一一 J=一一一一B" da'~' da 2 da _. da J 2B da

67

(4.15)

という関係が成立する.上式において dP/daの項が消えてしま うので,"!}

は荷重が一定であるか否かに関しては依存しないことになる.ここで,荷重

一定および変位一定の場合のそれぞれに対して,式(4.14)をき裂長さαに

関して微分する.この とき,荷重一定条件下では,

dU11 p2 dC 1= 一一 (4.16.a) da Ip 2 da

となり ,また変位一定の場合には

dU11 vdP vd(v/C) (v/C)2dC p2dC da lu 2 da 2 da 2 da 2 da

(4.16.b)

が得られる.したがって,式(4.15)から

"!}=土些 I=_l_些|B da Ip B da Iv

(4.17)

が成立する.つまり gは,弾性ひずみエネルギーのき裂増分に対する変化

率として与え られることになる.ただし,dUI/daは荷重一定の場合には正

となり,変位一定の場合には負となるので,"!}はき裂進展に対しては常に

正となる.

上述のエネルギ一変化に関して図式的に検証してみよう.図 4.5は線形弾

P

図4.5 き裂増分によるコンプライアンスの変化.

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68 m4i宮 破I爽のエネルギー論的解析

性体の荷重 (P)一変位 (v)関係のき裂増分daに対する変化を模式的に示した

ものである.き裂長さがaから a+daに変化すると剛性が低下する(コン

ブライアンスは増大する)ので,図 4.4に示すようにき裂増分daに対して

荷重ー変位関係の勾配は小さくなる.まず,荷量一定の場合について考える

と,弾性ひずみエネルギーはムOACの面積[Pv/2]に相当するエネ1レギーか

らムOEFの面積 [P(v+dv)/2]に増大し,そ の 差 は ム OAEの 面 積

[Pdv/2]で与えられる.一方,変位一定の条件について考える と,弾性エ

ネlレギーはムOACの面積に相当するエネ ルギーからム OBCの面積 [(P

-dP)v/2]に減少し,その差は.6.OABの面積 [dPv/2]となる.したがっ

て,各条件によるエネルギ一変化の差はム ABEの面積となる.しかし,き

裂の微小増分を考える場合,ムABEの面積 [dPdV/2]に相当するエネルギ

ーは他のエネルギー量に比べてより高次の微小量であり,それを無視する こ

とができて.6.OAEとム OABの面積はほぼ等しいとみなせるので,境界条

件によらずき裂進展に要するエネルギーは同じになる.

以上のことをまとめる と, き裂進展に要するエネノレギーは,荷重一定の場

合には外部荷重の仕事によって供給されるのに対して,変位一定の場合には

弾性体に蒋えられた余分な弾性エネルギーによって供給されるが,いずれの

場合も同じ値となる . 上述のように, ~は弾性ひずみエネルギーから計算

されるため,弾性エネルギー解放率とも称される.

4・2・2 エネルギー解放率と応力拡大係数

図 4.6に示すようなき裂先端部の閉口領域について考えるこ とにより,モ

ード I 型の場合のエネJレギー解放率~,と応力拡大係数 /(, との関係につい

て調べてみよう.

いま,無限平板中に長さ 2aのき裂が存在し,そのき裂の先端部におりる

長さ daの微小領域がき裂面力によって強制的に閉口させられている場合

(図4.6(a))について考えよう.このき裂面力をOにすることによって微

小企6aのき裂進展が生じる (図 4.6(b))ことになる.このときのエネル

ギー解放率は次式のように表される.

(a)

(b)

4' 2 線形郭性体における念裂成長

0"., (x.a)

σ.,(x.a)

A

a

図4.6 き裂先端部の解放解析.

~= )jm A

2 Ca仇

.;o.':o da}o 2

69

11., (x,a+ムα)

(c)

(4.18)

ここで,xはき裂先端を原点とするき裂と平行な z座標であり,Uy はzに

おけるき裂面の g方向変位を表す.上式におりるのZtIl/2は,xにおけるき

裂片面の開口による弾性エネlレギーの変化抵(図 4.6(C)の斜線部)を意味

し,積分の外に掛かる係数2はき裂上下面の開口に伴うエネルギ一変化を表

している.

さて,変位向は式(2.20.b)において 8=π すなわち α=π/2,r=da-x

とし,また aをa+daに置き換えることによって

d(X + 1) 辰二ドムαπー--UIl= 2f.J V一万-yD.aーェ

4Kμ +da)庁 ? で ア

,f[ifE' v....u 占

のように表される.また,応力のは次式で与えられる.

J(,(a) の=万吉

(4.19)

(4.20)

なお,上式において J(,(a)および /(,(α+da)は,それぞれき裂長さ aおよ

びa+daに対する応力主主大係数である ことを特に区別して表したものであ

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70 第 4宣言 磁波のエネルギー論的解析

る.式(4.19)および式(4.20)を用いると

。σ.yUydx=1f{,(a+d.a)I{r(aLtaJd.a-三f z= -J与三πE' }o V x

kμ+ d.a)f{,(a)d.a

E'

となるので,式(4.18)時

I(,(α+d.a)J(,(a) I(? '!J,=liln ... ...l \.~ • ~:"' ;&"" \""'/ 一一 (4.21) ~'':' ô E' E'

のように表される.

なお,上式は,無限平板中のき裂を対象にして導出したが,一般の有限幅

の平板やその他の幾何学的境界条件の場合についても成立する.

また,モード Iの場合と同様の考え方により,他の二つのモー ドについて

もエネJレギー解放率と応力艦大係数との関係を求めることができる.すなわ

ち,モード IIにおりる '!}JJとf{JJとの聞には

g戸手が,またモードmの場合の'!}JJ'とf{J1Jとの間には

'!}JJ'= ~~, JJ'=ーーー一一ー2μ

(4.22)

(4.23)

がそれぞれ成立する.一般に,混合モード負荷におけるエネルギー解放率

gは,

H

4H

一μ

K一2

+

十払品一'

+白+一E

dh一

一一

一一

匂d

(4.24)

のように表すことができる.

2・3節で述べたように,応力拡大係数はき裂先端近傍の応力 ・変位場の

特異性を規定するパラメータである.同時に,本項での考察から,応力拡大

係数はき裂成長に伴うエネルギー解放率にも関係するパラメータであること

がわかる.混合モード下でのき裂成長に対しては,異なるモード間での応力

拡大係数の線形和は適用できないが,式(4.24)からわかるように応力甚大係

4' 2 線形~m性体におけるき裂成長 71

数の 2次形式としてのエネルギー解放率という形で表すことができる.

4・2・3 コンブライアンスを用いた応力拡大係数の実験的評価法

前項の結果を用いることによって,複雑な形状における 2次元き裂の応力

革大係数は,有限要素法などの数値解析によらず,実験的にも求めることが

可能となる.

いま,長を aのき裂を有する板!早Bの平板に外力 Pが作用する場合を考

える.荷量作用点での相対変位を uとし,この弾性平板のコンプライアン

スを Cとする.このと き,エネルギー解放率 gとコンブライアンスとの関

係を与える式(4.15)およびモード Iき裂に関するエネJレギー解放率'!},と応

力拡大係数 J(, との関係を表す式(4.21)から次の関係式が成立する.

/ E' dC f{,=j E''!}, =pj長半 (4.25)

V 2B da

したがって,同じ形態の部材において異なるき裂長さに対する荷重 (p)ー荷

重点変位 (v)関係(図 4.7(a)) を求め,コンプライアンス Cとき裂長さ a

との関係(図 4.7(b)) における勾配(dC/da)のaに対する変化から,応

力鉱大係数を aの関数として,図 4.7(C)のように求めることができる.

P ck. /(、。1 a2 a3 tl4

(a)

U a a

図4.7 コンブライアンス計測による /(1値計算法.

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72 第 4i;t 破綴のエネルギー論的解析

4 . 3 き裂成長に関するエネルギー論的クライテリオン

前節で導入したエネルギー解放率 gを適用する場合,'9がき裂進展に必

要なエネルギーに等しくなったときにき裂成長が生じるという,き裂成長ク

ライテリオンを考えることができる.例えば,ガラスやセラミックスのよう

に室渦ではほとんど塑性変形を生じないと考えられるぜい性材料では,き裂

成長に要するエネルギーは新生面形成に関係する表面エネルギーと考えるこ

とができ,この場合

かつ

W=2rsa

dW R=ーァー=2rs

aa

(4.26)

(4.27)

となる.上式における rsは材料によって決まる表面エネルギーである.こ

の rsの値は,例えば金属材料では純鉄で 2.0J/m2,ステンレス鋼 SUS304

で 2.2J/m2および純銅で 1.8J/m九 またセラミック系材料ではか炭化ケイ

索で 2.8J/m2,アJレミナで l.lJ/m2およびシリカで 0.9J/m2となる.

いま,無限遠方で一様応力 σを受ける無限平板中に全長 2aのき裂が存在

する場合を考えると,式(4.21)は

'9,=σ2πG Iーすア (4.28)

のように変形できるので,式(4.12.b)と式(4.27)からき裂成長開始時の応

力 σcは

ac=~喜 (4.29)

のように表される.上式がいわゆる Griffithのクライテ リオン2)と称される

関係式である.この関係式は,き裂が大きいほど,また表面エネ/レギーおよ

び剛性が小さいほど,臨界応力仇が小さくなることを示している.

一方,通常の金属材料においてはほとんどの場合に破壊に伴って塑性変形

4 • 3 き裂成長に隙]するエネルギー論的クライテリオン 73

を生じるので,式(4.27)の右辺の値としては表面エネルギ一%に加えて塑

性変形エネルギ一%を考慮する必要がある3)・4) 一般に rpは rsに比べて非

常に大きく ,102........103倍のオーダーとなることが知られており,式(4.29)は

仇=/2(rszp)E'之F子 (4.30)

のように近似される.ここで,き裂進展の各段階で塑性変形に要するエネlレ

ギーが不変である場合,R=d Wldaも定数として扱うこ とが可能となる.

このことは,変形拘束により塑性変形量が小さくなる平面ひずみ状態にある

き裂材についてほぼ成立することが認められている.平面ひずみ状態での

Rは特に'9,cと表記され,これに対応する応力拡大係数は J(,cと表され,

次の関係

が成り立つ.

37-(1-d)ffIE ,c-ーーー一一一ー一一一一一一E

(4.31)

図4.8に初期のき裂長さ a,と負荷 σによるき裂進展品t::.aに関する gと

Rの一般的な関係を示す.初期き裂長さぬ のき裂材に応力がOからのに負

荷されたとき,'9は図中のO点から F点に増加するが,この段階では R=

'9,cに達していない.さらに応力をのから σ,(>の)に増加させて F点から

H点, すなわち R='9,cに達して,き裂の成長が開始する.それ以後は,

N

H

,ぺ-11 R="g,c

ぢ.//勺ゴF./ / . /

M././ 1くρ/σ2

a2 al 0 4子一一一一|ー一一一→ト

a,(初期き裂長さ),

6a(き裂進展立)

図4.8 エネルギー解放率とき裂進展抵抗.

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74 第 4意 破島慢のエネルギー治的解析

応力をめから増加させなくても,き裂成長に伴って gはHLに沿って (al

+ムa)に比例して単調増加するので,き裂は成長し続けて不安定破嬢するこ

とになる.一方,初期き裂長さ az(> al)のき裂に対して応力を Oからのに

増加させると,'[jはO点、から H点に達してき裂進展が開始し,その後g

は HN に沿ってい2+~a) に比例して増加するので, 最終的には不安定破壊

に至る.

上述の議論は応力一定のもとでの gの挙動であるが,変位一定条件下で

は応力が低下するので g と ( a,十~a) との関係は直線とはならず, 図 4. 9 に

示すように上に凸の曲線となる.しかし,この場合もき裂進展開始以後は,

gがRよりも常に大きくなるので不安定破壊を生じることになる.

J 一定応力

O

ぐ一一一一l一一ー・沙a, (初期き裂長さ) , ムα(き裂進展抗)

図4.9 境界条件に依存するエネJレギー解放率の変化.

4.4 き裂進展抵抗(R)曲線

前節ではき裂進展抵抗 Rはき裂長さには依存しないとして議論した.し

かし,この仮定は,平面ひずみ状態ではほぼ成り立つが,平面応力状態では

一般に成立しないことが実験的に認められている.試験片板厚が薄くなる

と,3・2節で述べたように平面応力状態が支配的となり,このとき,Rは

一定にはならず,き裂進展に伴って増加するようなき裂進展抵抗曲線

(crack resistance curve: R曲線)を描く .本節ではこの問題について考え

4・4 き裂進展抵抗(R)IUI線 75

ょう.

いま,平面応力状態が支配的となる十分に薄い板材におけるき裂について

考えることにする.ここで,応力が σiまで負荷されたとき,き裂成長が開

始するものとする.しかし,この場合のき裂成長は安定であり ,破壊には至

らない.すなわち,応力を σlで保持すると,き裂はわずかに成長するのみ

で停止 し,さらに応力を増大しなければき裂の成長は継続しない.応力を増

加させると,き裂は自然に成長し続けて,応力 σcにおいて臨界き裂長さ ac

に到達して初めて不安定破壊を生じる.上述の状況を図 4.10に模式的に示

すが,このような状態下では Rは図中の破線のようにき裂進展に伴って増

力日する.

h

,包

σ1

σZ=(l(Nπ)/a

a, ac き裂長さ

図4.10 き裂進展により噌加するき裂進展抵抗.

さて,長さa,のき裂が応力めを受ける場合を考える.このき裂が仮に成

長するとしたとき,エネルギー解放率は図 4.11の A点を通る破線のように

増加する.しかし,この値は Rよりも小さく実際にはき裂成長は生じない.

さらに応力をぬまで増加させて,エネJレギー解放率が図の B点に達する

と,初めてき裂成長開始に必要なレぺJレに到達する.ただし,応力を一定に

保持した場合のき裂成長を考えると,'[jは図の B点を通る破線に沿って増

加することになり,R曲線よりも低ししたがって応力一定のもとではき

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76 第 4I置 {波l授のエネlレギ-~I命的解析

a d.a

R='fjlc

(3JZ而ひずみ)

U

出此図4.11 き裂進展の条件.

裂成長は持続しない.さ らに応力を ぬまで増加させてき裂進展Eがb.aに

なった場合について考える.このと き, "!}は図のC点を通る破線に沿って

増加するが,Rはき裂進展に伴って R曲線に沿って増加 しgを上回る.

最終的に,応力仇に達してき裂長さが ac(= al + b.ac)になったとき,"!}お

よび RはR曲線上のD点に至る.このとき応力を仇一定に保持した場合

のき裂進展を考えると,"!}は図の D点を通る直線に沿っ て増加 し,常にR

の値を超えることになる.つまり ,この段階で応力を増加させなく てもさ裂

は不安定に成長するこ とになる.

したがって,最終破壊は図の D点において規定されるので,その条件式

は,

a"!} aR

aa aa (4.32.a)

かつ,

"!}=R (4.32.b)

てる表される.上式が平面応力状態における破壊のエネルギークライテ リオン

となる.ただし,エネルギークライテ リオンはき裂成長に関して必要条件で

4 .5 非線形型il性体におけるエネルギ一変化 77

あっても十分条件ではないことに注意しなければならない.つまり,き裂先

端の応力およびひずみが十分なレベルに達していなければき裂は成長し得な

いためである剖.

4. 5 非線形弾性体におけるエネルギー変化

前節までは主に線形弾性体を対象として破壊におけるエネルギ一変化を論

じてきたが,特に金属材料のように非線形変形,すなわち大規模な塑性変形

芝笠-j{壁壌を生じる童全金ありうる.そこで,本節では線形も含めた非線形

弾性体におけるエネルギー変化について考えることにする.なお,非線形弾

性体では,応力ーひずみ関係は非線形となるが,負荷および除荷においても

応力とひずみの関係は一義的であることに注意しなければならない.

本節では便宜上,座標系 (X,グ,z)を(XI,X2, X3)のように表記する.また,

下添字 i,j (または 112,n)が重複して現れている場合には,i, j (または

肌 n)をそれぞれ1,2, 3のように変化させたすべての和をとる総和規約

に従うものとする.これに伴っ て,応力成分 σI,のおよび T.rVをそれぞれ

ぬ,σ22およびTi2のように表すものとする.ひずみ成分についても同様であ

る.

4・5・1 き裂状欠陥を有する物体におけるエネルギー変他6)

まず,図 4.12に示すような切欠きあるいはポイドなどのき裂状欠陥を有

する場合のエネlレギー変化について調べる.

図 4.12(a)および(b)に示す二つの物体は,欠陥の大きさが微小17l,す

なわち図4.12( b )にお付る取り除かれた領域の体積b.Vおよび無応力状態

の新生面 b.Sだけ異なるものであり,荷重状態,幾何学的形態あるいは材

料成分などは同一であるとする.また,このときの物体に対する境界条件

は,荷重 Tiが作用する物体の境界 Srおよび変位 Uiが規定されている境界

Suによって与えられるものとする.

図4.12( a )における応力 ・ひずみ場が σuおよび Euで表されるとき,ポ

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78 第 4i営 破題提のエネルギー論的解析

(a) Su

(b)

図4.12 き裂状欠陥を有する物体における力学場の変化.

テンシヤ/レエネJレギ-flは次式で与えられる.

ロ=LTTω5-h W(ωdV (4.33)

次に図 4.12(b)の状態が σu+6σuおよびεu+6eijで表されるとき,ポテ

ンシャJレエネルギーの変化を6flとすれば次の関係が得られる.

刀+6fl刀= L Z川山(μωU佑t釘川,

欠陥の大きさが微小起量;だけ変化した後には,上式の右辺第 2項は

hW(ω ム 臼旬ω,,)川,)

となる.また,5Tにおいて 6T,=O, 5uにおいて 6Ui=0,また新生面65

においては Ti+6Ti=0となるので,5Tにおける Ti6zむの積分は図

4.12(b)の弾性体の全表面にわたって (Ti+6Ti)企Uiを積分したものと等価

となる.すなわち

L, TtM S = jLs tげTi十色U叫叫Ti:ηiゐ泌)込&ωωu仙吋tれ叫id

となる.さらに仮想仕事の原理を適用し, 式(4.35)の場合と同様に体積変化

を体積積分において考慮すると

4・5 非線形卵性体におりるエネルギ一変化 79

1 (Ti+6 T;)dS=メ(σA仙ふjdV (4.36)

=し〔σけ らゆeijdV

が得られる.式(4.35)および式(4.36)の関係を用い,式(4.34)から式(4.33)

を差し引 くことによって,

企庁=JvW(hn)dV+ムvW(ω )dV

-h-aV W(ε",,,+6白川+iTEAMS

=Jv W(ω)d V+ !vム-吋&げ6)(日(σ内川Uけ+刊ムω仏σ向仙U

一メムん寸-6)W(ω A臼句ωn)一W(emn)}dV

= J v W (住ωωm刷n)dV + h-)(付σu+刊叩Aωσ向仙ij

一Lム→-.J工Cr:了n什…+

=Jv W(ω)d V

+ムV[(σA向 )AEu-Cn+Mmnω中v

のようにポテンシャ jレエネルギーの変化を求めることができる.

(4.37)

ここでは,図 4.12( a )から図 4.12( b )へ移行する過程で,取り除かれた

領域において接線が連続的に変化するような平滑な表面を有する切欠き状欠

陥について考えることにする.なお,微小変化の安定性 dσudeu注Oを仮定

する.このとき,式(4.37)の最終行の第 2項における体積積分の被積分項は

図4.13の斜線部となるので,次の関係が成立する.

0::;;(σけ何)ムεu-C Mmhdε'J

三三6σu6eij (4.38)

さらに非線形弾性体では積分経路に依存しないことを考慮すると,すべての

経路に対して式(4.38)の不等式が適用できるので,式(4.37)から

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80 第 H宮 破担軽のエネルギー論的解析

σ

σu+C:.συ「 一一下おミヌミ~寸~一

氏以>' I .1.C:.Ou σi)'ト ー f--t-ム

lJ企εzJJ

ε εIJ

図4.13 弾性ひずみエネルギーの差.

0ζt-..,[(σ;j +.6.συ).6.εu一J;:…n仙 uJd V

=M -Jv W(ω)d V

~ t_,,).6.ωeu]d V

が得られる.また,上式の最終行に仮想仕事の原理を適用すると

ムvIAωeu]dv=ムSIMAui]dS

となり,さ らに Sr上でふTi=O,Su上で C:.Ui=Oであるので

ムS[ムmuzldS=L[ムTi.6.U,]dS

のようになる.以上より次の関係が得られる.

凶 H-JvW(hn)似 LIMAuzldS (4,39)

さて,微小量だけ異なる二つの切欠き状欠陥について考える.図4.12( a )

の切欠きの境界上の点は取り除かれた領域における図 4.12(b)の境界の法

線方向への距離 dnの箇所にある.切欠き表面において十分滑らかな関数

dn ~こ対して,ムTi= .6.σU'1'j およびムUi を 1 次の微小品とすると , 式 (4 . 39)

の上界は 2次の微小量となる.したがって,切欠きの形状を非常に滑らかに

変化させた場合,上界は Oに近づき,取り除かれた領域の体積を dSdη で

表せば,

となるので,

4・5 非線形卵性体におけるエネルギ一変化

山刀-JvW(凸訓

&凶H=LLvw〔いωm附,,)ゐdV

= L [M川W附(臼ωω,,)出伽叫州2]伽]d

が得られる.つまり,微小な切欠き状欠陥の変化を考えると,

81

(4.40)

(4.41)

ポテンシヤ/レ

エネノレギーの変化は取り除かれた部分のひずみエネルギーのみに依存するこ

とがわかる.

4.5・2 J積分6)

( a) ]積分の定義

前項で述べた滑らかな切欠き状欠陥の例として,2次元応力状態にある平

板の切欠きを考える.応力は,直角座標 Xl,X2にのみ依存するものとする.

切欠きは,切欠き先端を除く切欠き面がめ方向に平行で,また図4.14の

れで表されるような滑らかな曲線状の先端部を有するものとする.いま切

欠き長さがaと(α+da)のものについてポテンシャルエネルギーを比較す

¥ r

図4.14 切欠き長さの変化によるエネルギ一変化.

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82 第 4't;i 自主療のエネルギー論的解析

る.取り除かれた領域の微小体積要素 dVはdadx2dぬと表されるから,切

欠きの大きさに対する単位厚さ当 り(dx3=1)のポテンシャルエネJレギ-fl

の変化率は,式(4.41)から

dfl r ..., ,.. r つァ=I IiJ1(εmll)dx2dx3= I W(εmll)dX2 (4.42) oa JAV .Irt

のように表される.少なくともめ方向には均質な材料について考えると,

このポテンシャルエネルギーの変化率を切欠き先端の周り に採られた経路に

依存しない線積分として与えることができる.

上述のような考え方のもとに導入された経路独立積分として,Riceによ

って提案された /積分がある.Riceは/積分を次式のように定義した.

J= f_( W仇 -T与刈 (4.43) .Jr¥ O'XI I

ここで,rは切欠きの下面上に始点を, 上面上に終点、を設定し,切欠きを

左手に見ながら反時計回りに採った経路である.この経路の採り方に対して

求めた j積分の値を正とする.また sはr上の弧長とし,rの外向き単位

法線ベクトノレを nとすれば,r上の表面力は れ=σijnjと表される.r=T.

のとき,切欠き表面で T=Oであるから,式(4.43)の右辺は式(4.42)に等し

くな り,J積分は次のように与えられる.

dfl J=一一 (4.44) da

つま り,J積分はき裂を有する非線形弾性体におけるエネルギー解放率を意

味し,特に線形弾性体においては

J='9 (4.45)

となる.

以上のように,J積分は材料非線形性を呈する弾塑性材料におけるき裂成

長の問題に適用できる可能性がある.ただし,弾塑性材料への適用にあたっ

ては除荷を伴う場合に注意が必要となる.すなわち,非線形弾性体では除荷

の際も応力一ひずみ関係は一価的であるのに対して,金属材料が弾塑性状態

にある場合に除荷を生じると応力ーひずみ関係の一価性が失われるため,非

線形弾性体に対して定義された /積分は適用できなくなる.

4・5 非線形弥性体におりるエネJレギ一変化 83

(b)経路独立性

/積分はその積分経路に依存しない,つまり経路独立積分であることを示

す.まず,物体力の作用しない 2次元変形場において任意の面領域Aを囲

む閉曲線rcを考える.

Ti=σJわであることを考慮し,さらに Greenの定理を用いる と

LTま;ds=j♂な;ds

r OUi , = 1 σuーて- 1ZjOS

Jrc dXI

= 1 o:j (σ長)む1仏(4.46)

となる.

一方,Greenの定理を適用すると

r .... roW lwdZ2=lT-dzldZ2(4.47) Jrc .IA O'XI

となり,上式におけるひずみエネルギー密度関数 W のぬに関する偏微分

は次のように表せる.

。W O (r , ¥ 五7=五~U dijOeij)

九一h

=子[云(32)+去(昔)]ここで,

σu云(長)=の三~ (昔)=σu三~ (を)であるから

oW O {OUi¥ 石了一σijOXI ¥ oxjJ

となる.さらに,物体力が作用しない場合の応力の平衡方程式 (Oσu/OXJ=O

を考慮すると,

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85

ここで.fiおよび 乃 は任意の経路であるから.J積分は積分経路に対して

独立である ことが証明されたことになる.

非線形型il性体におけるエネルギ一変化4 .5 磁波のエネルギ一治的解析

。I OUi¥ Oσu OUi・ O (OUi¥ー.._1_{互生1,.. --,一 一 一 .ー ・ー 1_ 1'1一一-

OXj ¥ OiJ OXI )一言Xj OXI TUu OXj¥axIJ-Vt; OXI ¥OXjJ

第 4iま84

J積分とき裂先端の応力場制}

降伏応力が σysで,応力ーひずみ関係が次の Ramberg-Osgood型

4.5・3(4.48)

したがって

oW O I OUi¥

石;=OXj \ σu石~)

が得られる.以上の関係式から,任意の閉曲線九に対して(4.53)

で表される材料を考えよう.また,き裂先端応力場は,き裂先端を原点とす

る極座標系 (1',8)で表示すると,σr(γ方向垂直応力).σ。(θ 方向垂直応

力)および σ坤(1'-θ 面上のせん断応力)のように表される.これらの応力と

/積分は,次の関係

のようになる.

σYS εYS=す

~ ,守 f 庁 ¥ 1/11

一二一=---+αl一二一1 . εysσYS ¥σysl ー(4.49)

が成り立つ.

次に,図 4.15のよう に経路口,r2をとり,さらにそれらの経路と切欠き

面の上面 FAおよび下面 CDによって構成される切欠き先端部を含まない閉

人(WdX2-Tま;吋=0

I r ¥11/(11+1)

σ,=σ同 J T) ,.-11/(11+1) (j r( 8) ¥ασYSεysJ I

経路について考えると,式(4.49)から(4.54.a)

(4.54. b)

(4.54. c)

σezhl-L-7lnM}Y4ml}5e(θ) 1ασysεysJ I

(4.50)

となる.ただし,切欠き表面,すなわち FAおよびCD上では T=O,dX2=

Oであるから,上式は

l,+ム(W向一T者刈=0

かん+ム+ん(W仏 ーT長刈=0

(4.51)

(4.52)

I I ¥n/(n+1】

σro=σ'ys( -ームー;-) 戸川村)(j ro( 8) ¥aδ'yseysl I

で与えられる.ここで.1は定数であり,δベ8),(j8(θ)および (jre( 8)はそ

れぞれ応力場の角度。に対する変化を表す θのみの関数である.上式は,

加工硬化係数 nの非諒形弾性体(あるいは弾塑性体)にお付るき裂先端応

力場は -n/(n+1)の特異性を有することを表し,特に HRR特異場7).8)と

称されている.なお,デカjレト直角座標系での応力場は,次の応力変換

のようになり,結局次の関係が得られる.

1,(Wぬ -Tff吋=ん(WdX2-T去出)

庁,+(58 庁,ーσa.r=ーι一一二+ーι一一二cos2θ-σ月 sin2θ 2 2 山

円ー+ι ι-(50

συ=-ーム~V 一一一一~cos 28+σrO sin 28 ~ 2 2 ν

、、』

。unJU

向、unu p」市σ

AU

nL

n

QU

σ一

一一2

σ-一一g

x

'4

を行うことによって求めることができる.

特に n=lの場合,すなわち線形弾性体の場合には上式は

B

、、,,Lu

,e・、

J積分の経路独立性.図4.15

(a)

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86 !iJ4i宮 破淡のエネルギー論的解析

… (瓦三ys!)い (4.55)

のようになる.ただい上式の iおよびjは rまたは θを表すものとする.

さらに j=}ぐり'E'であることを考慮すると,式(4.55)は

I 1 ¥ 112 lr ( _ A ...,, ) ;_ih(8)

υ- vyヘασ同 ε)"SE'!J rr のように表され,式(2.37)と等価な関係が得られることがわかる.

(4.56)

4・6 J積分の簡便評価法

前節で述べたように.j積分は gに代わって,非線形材料においてエネ

ルギー解放率,あるいはき裂先端の応力場の支配力学量として,き裂の成長

問題に適用しうる.しかしながら.j積分を求めるにあたっては経路積分を

行わなければならないので,必ずしも実用的とは言い難い.ただし,特定の

試験片については必ずしも経路積分を行わなくても,簡便に評価できる場合

がある.本節ではそのような/積分の簡便評価法について述べる.

4・6・1 J積分と荷重一変位曲線引.10)

さて,式(4.44)からき裂長さ αを有する弾性体における /積分は次式で

与えられる.

j= lP(~~)lpdP (4.57)

または,

HU

JU

、、Bl''''P一b

dτo

,,,EE、、

fttA

一一,,,,d

(4.58)

上式の Ipおよび |υ はそれぞれ荷量 Pおよび変位 uを一定とする特殊な境界

条件に対する微分を意味する.したがって,き裂材の荷重ー変位曲線が得ら

れている場合には,式(4.57)および式(4.58)の関係を利用すると,図 4.16

のように図式的に/積分値を求めることができる.

以下に, これらの関係式を用いて,二つの特別な幾何学的境界条件に対す

4・6 ] f/f.分の簡便評価法 87

P

U

(a) 荷量一定

p,f.. ]d.A

Uo

(b) 変位一定

U

図4.16 非線形弾性体におりるエネルギー変化.

l dトl

4・6・2 曲げ負荷における片側き裂試験片川

図4.17(a)に示すような負荷形式の問題について考える.このとき,塑

性変形はリガメント部に限定されるものとする.また,はり端部のたわみ角

をφとし,さらに次のように弾性成分φelと塑性成分伽に分解できるもの

とする.

る/積分の簡便式を導出する.

ゆ=仇1+ゆPI (4.59)

さて,ゆplが無次元量であることを考慮すると,φPIは次元解析から次の

P

U

図4.17 3点曲げ負荷における片側き裂材に対する/評価.

(b)

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88 第 oま 敏綾のエネルギー論的解t;tfr 4・6J積分の簡便評価法 89

ような関数形で与えられる.

φPI=/ト与一生 }¥Bb・σ。,E' ,.; ん一郎nH,

+

P一r

=

r

j

y

J

のムロ場な的般な品己で視

(4.60) (4.66)

ここで,M は曲げモーメン ト,Bは板厚,bはリガメント長さ,σ。は材料

の塑性流動ノ守ラメータ,Eはヤング率,nは加工硬化指数をそれぞれ表す.

いま, リガメント部で十分に大きな塑性変形が生じている場合を考えると,

仇tはゆplに比べて無視できて φ:::::φplとなる.さらに,式(4.60)は次のよう

に逆変換でき る.

によ り評価される.ここで,Kは3点曲げ負荷の場合の応力拡大係数であ

り, Ap,は荷重ーたわみ変位曲線の面積から弾性仕事分を差し号|いた畠;を表

し,甲=2である.なお,図 4.17(a)と類似の負荷形態の場合にも式(4.66)

は拡張使用されるが,そのときの qは2以外の値となる.

EFZ=fl(恥1,号,n) (4.61) 4・6・3 引張負荷における両端き裂試験片11)

図 4.18( a )に示すように,両端にき裂を有する平板が単位厚さ当りの荷

重Pを受ける場合の /値の評価について考えよう.ここで,両き裂の先端

聞の距離,すなわちリガメント長さを 2bとし,塑性変形がリガメント部に

限定されるほ ど十分に bが小さいとする.

このとき,変位が

ここで,Mが単位厚さ当 りの荷重Pとスパン長さ Lとの積 PLに比例し,

また塑性変形がリガメント部に十分拘束されているとすると,たわみ uを

用いて φp戸 v/Lと表すことができる.したがって,式(4.61)は次式のよう

に変形できる.

P=立b2σ。β(ヱ主 }L ~ ~U"\ L' E' ,.;

さらに θ/oa=-o/,品 であることを考慮すると,

。P _. B _1 V dn ¥ 一 =-2b:σO/2(-;-二三 i oa -~ L ~U"\ L' E' ,.;

(4.62) V=Vel十VPI (4.67)

のように弾性成分 VCIと塑性成分 Vplに分離でき, Vplは次元解析から次式の

ように表される.

=-23 (4.63)

P となるので,これを式(4.58)に適用すると,

/=tfpdU (4.64)

2b ←テ

が導かれる.上式の積分項は図 4.17(b)に示す荷重ーたわみ変位曲線の下の

部分の面積Aを表しているので,曲げ荷量下の大規模降伏状態における /

値は近似的に次式

w

/-2A ---Bb

(4.65) U

を用いて実験的に求めるこ とができる.この負荷形態において弾性変形が無 (b)

図4.18 引張負荷における両端き裂材に対する/評価.

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'''''--一一ー一一一一一

90 第4i軽 自主峻のエネルギー論的解析

UP1=blziLL) ¥ Bbσ0' E"-I

さて,式 (4.57)の被積分項は

となる.さらに

。VP1 コVI'1___ 1..J... P _E!!. 一一よ一一h+一一 一 -ar;= -Tb--11 I b a(p/b)

(争)¥b=(告訴l=議訂であることを考慮すると,

32吋 P(争l-VP1J

となるので,Jの塑性成分]P1は

]P1=ザ [P(~~1 1-vP1JdP

1 rp r" n/ aVpl_ ¥1 _( a(p出2.¥11r1 P =τん L'" ¥θP Jlb ¥ ap Ilbr-

寸[lPPdVP1-与]

(4.68)

(4.69)

(4 _ 70)

(4.71)

(4.72)

となるが,上式の最終行における[ ]内は図 4.18( b )の Sと等価である.

したがって,厚さ Bの平板に対するJ値の評価式は次式のよう に与え られ

る.

1(2 . 2S J=一一十一一

E' ' Bb (4.73)

上式は中央き裂平板の引張負荷に対する /値の評価にも適用されている.

第4章問題

1.モード Il:およびモードIIIの負荷をそれぞれ受けるき裂材のエネルギー解放率が,

それぞれ式(4.22)および式(4.23)で表されることを示せ.

2.いま, ,- ン ./~E=200 GPa,ポアソン比 ν=0.3の材料で作成された特殊な形

状の板部材(ただし,板厚一定で B=2.5mm)の端部にき裂が存在している.

第 4'l苦問題 91

き裂長さ aは25mmであり,荷重 Pとしては 50kNが作用しているものとす

る.このときの応力舷大係数を求めよ.

なお,この板部材に対する応力主広大係数の評価式はハンドプック等にはない

ため,この板部材と同じ形状のものを数個準備し,それぞれの端部に異なる長

さのき裂を導入して荷量 p-荷重点変位 u曲線を求め,き裂長さ aとの関係を調

べた.その結果,下表のようなデータが10られた.ただし,いずれのき裂長さ

においても,板部材は負荷に対して線形変形であった.

a (mm)

P (kN)

u (mm)

3.式(4.43)の/積分は,平面問題では次式のように表されるこ とを示せ.ただ

し,X1および X2をzおよび y,U1および z々を ltおよび uとし,また σ11,σnお

よびσロ(=σ21)をそれぞれの,のおよび f.rν(=ljμ)とする.

r r (___ (θuθu ¥). ( θ u θ Z I ¥ _ 1 J= 111 w-Iσz一一+r四一一Ifdy+1ゐ一一+fni一一)dxlr Ll •• ¥ -~ eJx . -~ eJx / r3

. ¥ -" eJx . -~ eJx ;--J

4.下図のように x!紬方向に無限に長い平板がある.この平板にはx軸に平行なき

裂があり,また平板の y=::thにおける端・面は剛体に固定されている. このと

き,それぞれの端函を Uoだけ変位させたときのノ積分を求めよ.ただし,この

材料の応力ーひずみ関係は σ=cεnで袋され,平板は平而応力状態にあるものと

する.

剛体

E[モ一一一一一-"'1..D

止二I l h

z下三喜一o I

BL一一一一一一~C

剛体

生u。

守Uo

Page 17: 第3iま I - 東京大学...Fracture, Handbuch der Physik, VI, 551 (1958) Springer. 2) G. R. Irwin , Proc. 7 th Sagamore Conf., IV-63 (1960). 3) D. S. Dugdale, ). Mech

92 第 4i;i 由主療のエネルギー論的解析

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93

第 5章

強度の破壊力学的解析

本章では,第 2主主および第 4草で示した応力拡大係数 f(, エネルギー解

放率 gや/積分などの破壊力学パラメータを用いて,き裂を含む部材の強

度や健全性を評価する手法を中心に述べる.

5 . 1 破壊力学による解析手法の概要

ぜい性破壊,疲労,腐食疲労,応力腐食割れ,クリープ割れ,あるいは衝

撃破壊などの破壊現象において,き裂成長が関与する強度特性を破壊力学に

より定式化し, それに基づいて構造物や部材において検出されたき裂からの

破壊挙動をより詳細に把握することによって,システムの健全性評価あるい

は破壊の管理 ・制御が可能となる.そのような破壊力学的アプローチの概要

を図 5.1に示す.

まず,椋働中の部材において非破壊検査等によって欠陥が検出された場

合,その欠陥の大きさや形態(内部欠陥,表面欠陥およびその形状),さら

にその検出位置において実測あるいは解析的に推定した応力場から,応力盤

~ZK係数 f(,エネルギー解放率 gあるいは /積分などの破峻力学パラメータ

(fracture mechanics parameter: FMP) を評価する.このようにして得ら

れた破域力学パラメータの値と使用材料の強度特性値との比較から,その部

材ひいてはその部材から構成されるシステム全体の健全性を評価できる.

例えば,静的負荷において f(,"[}あるいは /の値を評価し,J( < J(IC, "[}

< "[} ICまたはJ<JICとなる場合には,部材はぜい性的な不安定破壊をしな

い(安定き裂成長).一方,き裂成長が部材の破損を支配する状況において