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研究にロマンを求めて 研究にロマンを求めて ~研究者から学生へのメッセージ~

研究にロマンを求めて - Tokyo Metropolitan University...2 カテゴリー:経営学 研究者名:室町 幸雄(ムロマチ ユキオ) 教授 所 属:都市教養学部

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Page 1: 研究にロマンを求めて - Tokyo Metropolitan University...2 カテゴリー:経営学 研究者名:室町 幸雄(ムロマチ ユキオ) 教授 所 属:都市教養学部

研究にロマンを求めて研究にロマンを求めて~研究者から学生へのメッセージ~

Page 2: 研究にロマンを求めて - Tokyo Metropolitan University...2 カテゴリー:経営学 研究者名:室町 幸雄(ムロマチ ユキオ) 教授 所 属:都市教養学部

目 次

研究テーマ 研究者

発行:公立大学法人 首都大学東京

所属:都市教養学部 都市教養学科   人文・社会系 国際文化コース日本古代の文学と文化

カテゴリー:日本文学 飯田 勇 教授 1

所属:都市教養学部 都市教養学科   都市政策コース「法と経済学」事始め

カテゴリー:法学、経済学 白石 賢 教授 4

所属:都市教養学部 都市教養学科   理工学系 数理科学コース微分方程式

カテゴリー:数学 下村 明洋 准教授 3

所属:健康福祉学部 放射線学科画像診断システムの特性向上に関する研究カテゴリー:放射線科学 安部 真治 准教授 7

所属:都市環境学部 建築都市コース快適な建築をなるべく少ないエネルギー消費で!カテゴリー:建築環境学 須永 修通 教授 5

所属:システムデザイン学部   航空宇宙システム工学コース航空宇宙分野での構造・材料と有限要素法解析

カテゴリー:航空宇宙構造力学、複合材料構造力学、構造振動工学 渡辺 直行 教授 6

カテゴリー:経営学

金融リスクの計測、評価、管理-常に予測を超える現実を追いかける-

室町 幸雄 教授 2

所属:都市教養学部 経営学系   経営学コース

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研究テーマ 日本古代の文学と文化カテゴリー:日本文学

研究者名:飯田 勇(イイダ イサム)教授所  属:都市教養学部 都市教養学科 人文・社会系     国際文化コース担当科目:日本言語文化概論Ⅱ、日本古典、日本文学史、     日本文学講義、日本文学演習

 古代文学は魅力的な研究分野である。文学の研究なので一義的には古事記や万葉集などの作品の解明を目的とするが、研究はそれにとどまらない。作品の精緻な読解を通して、日本文化を解明することも可能である。たとえば「みやび」という美意識。「みやび」は平安朝の文化や文学を説明する美意識としてかなり漠然と使われている言葉であるが、私見によれば、次のようなことが指摘できる。「みやび」は天皇(王権)の文化であり、たとえば藤原氏などの貴族の文化とは本来無縁であった。また、「みやび」は男と女の文化(恋の文化)と深く関わる美意識なのである。「みやび」に関するこうした発見は、日本の社会(男女関係)や歴史(摂関政治)の研究に一石を投ずる。 日本古代の宮廷は天皇を中心とした男女関係に基づく世界であり、男女関係(恋の文化)こそが宮廷政治の中心であった。古代の宮廷が男女関係に基づくのは、男女の性が穀物の豊穣と呪術的に結びついて考えられていたからであり、日本の祭りに性的な要素が多いのもこうした理由による。古代の宮廷は大農業主としての天皇を中心とした男女の恋の空間であり、かかる宮廷社会のなかで形成されたのが、「みやび」という美意識なのである。 ところが、中国から律令という新たな制度が輸入された。律令制国家の中心は古代の官僚政治であるが、男女関係という視点から言えば、律令制は日本の社会に女性を排除した、男社会を成立させた。それ以前は男女関係がそのまま宮廷政治であったので、女性も国家の支配機構における存在であった。しかし、律令制度は、女性を国家の支配機構から排除し、私的な男女関係のなかに閉じこめた。律令制度の導入は、日本の女性史にとっても大きな事件だったのである。 律令制は舶来の合理主義的な思想であり、前代の宮廷政治は否定の対象となった。すなわち、男女関係による「みやび」の政治は否定された。伊勢物語において王権の末裔である在原業平が「東下り」をしているのはかかる理由であり、それは天皇的な「みやび」が宮廷政治から排除されることを象徴していた。天皇的な「みやび」の政治に替って宮廷政治の中心となるのは官僚政治であり、その官僚政治の中心的な存在が藤原氏である。藤原氏は、周知のように、いわゆる摂関政治によって権力を掌握していった。平安時代の政治史は藤原氏を中心とする権力闘争史という視点から研究されることが多いけれども、こうした認識には大いに問題がある。藤原氏による摂関政治は娘を天皇に嫁がせることによって権力を維持する機構であるが、平安時代の政治を権力闘争史として見ることは、歴史の表面に現れた男の世界に片寄った認識なのではないか。摂関政治において、娘を天皇に嫁がせるという意味をもっと重要なものとして捉えるべきだと思う。つまり、藤原氏の権力構造としては、男の権力闘争とともに、娘と天皇との関係(「みやび」の文化)がその両輪として、不可欠で重要な意味を担っていたと考えるのである。換言すれば、藤原氏による摂関政治とは、あくまで天皇制を前提にした権力構造だということである。従来の権力闘争史観は、当時の政治における男女の文化(「みやび」の文化)の重要性に目を向けていない点で近代的な歴史観であり、藤原氏の権力の限界を考えていない点でも、平安時代の歴史を正しく把握しているとは言い難い。

研究概要

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カテゴリー:経営学

研究者名:室町 幸雄(ムロマチ ユキオ) 教授所  属:都市教養学部 経営学系 経営学コース担当科目:ファイナンス、金融リスク論

 銀行などの金融機関は株式や債券など多様な金融資産を保有していますが、そこにはさまざまなリスク(将来の利得の不確実性)が潜んでいます。株式の市場価格は日々変動し、わずか1日で価格が20%以上下落することもあれば、事業会社の発行した債券は満期前にデフォルト(債務不履行)に陥り、予定されていた元本償還や利息を受け取れなくなることもあります。また、システムの不備や売買注文の誤発注により、一瞬で数百億円を失うことさえあります。これらの多様なリスクを合理的に計測・評価するのが金融工学で、その成果は経営戦略を選択する際の判断材料として使われます。 金融工学にはさまざまなテーマがありますが、特に私が興味を持っているのは金融リスク計測です。個々の金融資産のリスクには互いに依存関係があるので、多くの資産を保有する金融機関のリスク評価は簡単ではありません。例えば、普段の株価、金利、為替レートはある程度の相関を持ちながら緩やかに変動しますが、突然同時にある方向に急変することがあります。また、ある資産のデフォルトが、それだけに留まらず、関連する別の金融商品にも波及して連鎖的にデフォルトが発生することもあります。このような現象を確率モデルで表現し、数値的に解析することにより、リスクを定量的に捉えることが私の研究テーマです。現在は、平穏時の状態も金融危機時の状態も統一的に表現できる、表現力が豊かで、しかも直観的に自然なモデルの提案を目指しています。 金融工学の特徴は、その成果が実務に直結している点です。金融工学の論文の多くは高度に数学的で、理系でも限られた人しか学ばないような数式のオンパレードです。しかし、実務家には「使える」ものは積極的に取り入れるタイプの人々がいて、本当に役立つ技術であれば(さらに、コストが収益に見合うと判断されれば)使ってくれます。また、実務における商品開発技術の進展は目覚ましく、それに伴って次から次へと困難な課題が発生するので、研究活動の動機付けは至る所に転がっています。 大学時代、私は理学部で惑星形成論、特に地球型惑星の初期進化を研究していました。当時は、世の中の役に立たないことにこそ価値があり、より純粋な知的行為なのだと考えていました。しかし、転職先で金融工学に出会ってからは、実際に使ってもらえることを良しと思うようになりました。企業にいた頃は、実務の現場の要望に沿った計算ツールを提供することもあれば、基礎理論の提案段階から参加して構築したシステムが商品化されたこともありました。利用者の細かい要望に応える作業は面倒ですが、納品物が実際に使われているという報告は十分嬉しいものでした。 既存の金融工学では世界金融危機を予見して警鐘を発することはできませんでしたが、この経験を経て、金融工学はさらに進歩します。しかし、常に人間の予測を超えてくるのが現実という奴です。事前にリスクを定量的に把握しようとする我々の研究に終着点はないのかもしれません。でも、それも含めて楽しみながら地道に研究活動を続けていこうと思っています。

研究概要

研究テーマ 金融リスクの計測、評価、管理—常に予測を超える現実を追いかける—

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カテゴリー:数学

研究者名: 下村 明洋(シモムラ アキヒロ) 准教授所  属:都市教養学部 都市教養学科 理工学系     数理科学コース担当科目:微分積分Ⅰ、微分積分Ⅱ、線形代数Ⅱ、微分積分Ⅲ、     解析学特別講義Ⅲ、数理科学総論

 私の研究分野は解析学で、特に偏微分方程式を函数解析的な方法によって研究してきました。微分方程式は物理現象を記述する為の手段の一つとして重要な役割を果たしています。独立変数が1つの微分方程式を常微分方程式と云い、独立変数が2つ以上の微分方程式を偏微分方程式と云います。常微分方程式の例として、古典力学に現れるニュートンの運動方程式やハミルトンの正準方程式等があり、偏微分方程式の例としては、古典電磁気学に現れるマックスウェル方程式、量子力学の基礎方程式であるシュレディンガー方程式、流体力学に於けるナヴィエ・ストークス方程式等が挙げられます。私は主に非線型シュレディンガー方程式やそれに類する方程式を対象として函数解析的な立場から研究をしてきました。この方程式は、(非線型)波動現象の時間発展を記述する非線型の偏微分方程式の一つで、例えば、非相対論的な物質場(ド・ブロイ場と呼ばれる波動場)の古典論や非線型ファイバー光学等に現れます。 偏微分方程式を函数解析的に扱う事について、数式を使わずに簡単に紹介します。物理現象が微分方程式によって数学的にモデル化されたとして、現象を記述するのは方程式ではなくその解である事に注意します。そこで、数学的に最も基本的で自然な問題として、先ず方程式の解の存在について考えます。微分方程式が比較的単純な場合や特殊な(良い)構造を持つ場合には解を具体的に表示出来る事がありますが、一般には解を具体的に表示する事は期待出来ません。解の存在は、たとえ物理学に現れる微分方程式であっても、必ずしも自明な事ではありません。そこで、より多くの偏微分方程式を扱える様にする為の方法の一つとして、先ず適当な函数空間を設定し、その枠組みで(枠の中で)解の存在について考えます。もう少し詳しく言うと、非線型シュレディンガー方程式の様な時間発展を記述する偏微分方程式に於いては、解の概念を明確にし(その為には超函数や函数解析の概念が必要になる事があります)、適当な初期条件の下で「方程式の解が適当な函数空間に唯一つ存在するか」という問題(初期値問題の可解性)を考えるのが標準的です。この函数空間は方程式との数学的・物理的な相性や必然性によって選択し、函数空間の枠を広くするか狭くするかによってこの問題に対する答は変わります。更に、解の具体的な表示を用いずに方程式から定性的に解の性質(例えば時間変数が無限大での解の漸近的振舞い等)を調べる事も考えます。この様な問題を解決する為に、主に、函数解析学、函数空間論、フーリエ解析等の解析学を用います。 解析学では、極限操作、微分積分、函数に対する評価式等の所謂 “計算” に労力を費やす傾向があるので、

(人や分野にもよりますが)幾つかの言葉や概念によって概要を端的に伝えるのはやや難しく実際に計算して解いて見せないと把握し辛い側面がある様に感じます。その為、解析学は数学の中でも比較的地味な印象を持たれるかもしれませんが、上の段落で紹介した研究分野は国内外で(特に若い人によって)活発に研究されている分野の一つです。

研究概要

研究テーマ 微分方程式

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カテゴリー:法学、経済学

研究者名:白石 賢(シライシ ケン)教授所  属:都市教養学部 都市教養学科 都市政策コース担当科目:都市政策特殊講義(法と経済学)、     都市政策演習(制度設計論Ⅰ・Ⅱ)、政策分析方法論Ⅰ

 私の場合、専門は何ですかと聞かれると困る。最近のペーパーも企業犯罪もの、幸福の経済学ものと研究分野が法律学・経済学にまたがっている。こうなる原因は、私自身が数年前まで役人をやっていたことによる。中央官庁の役人は1 ~ 2年ローテーションでポジションが替わる。それにより受け持つ政策テーマも替わることになる。政策立案作業というのは、単に新しい制度を作ればよいというものではない。その前提として、新政策を必要とする根拠や効果についての分析を行わなければならない。この政策立案における分析の経験が、実務家出身研究者の価値となるのである。 私の場合は、経済企画庁に入庁したため、マクロ経済分析のための計量経済学や経済統計、消費者行政や規制制度改革のための消費者法・行政法による分析を20年余の実務の中で経験してきた。このため、何らかの分析をした分野やペーパーを書いた分野というのは多岐にわたることになり、それが専門はと聞かれると困る原因なのである。 しかし、専門分野が無い私も、この役人生活で得た経済と法律に関する実務家としての稚拙な分析手法を統合した、「法と経済学」というニッチな研究分野が最近気に入っている。本来、そのような分野を研究対象とするには、当然両分野について相当程度の能力が必要とされるハズであるし、そうでなければならないと思う。しかし、実務家出身の私にとっては、法学者の研究会に行くと私は経済学を専ら専門にしているという顔をでき、一方、経済学の研究会に行くと専ら法律を専門にしているという顔をでき、両方の能力が足りない私にとっては非常に都合のよい研究分野なのである。 実は、この「法と経済学」を知るきっかけは大学受験まで遡らなければならない。1浪後、理系から文系へ転向。法学部を目指すものの経済学部の方が偏差値が低いとの予備校の推薦で経済学部に進学。経済学部にいながら法学をかじり「経済法」を履修したのだが、その経済学的な説明は単純な需要・供給曲線だけでありガッカリしたのである。その直後に、現東大の三輪先生が書かれた『独禁法の経済学』という本と出合った。その本では、独禁法をミクロ経済学によって緻密に分析してあった。当時、法と経済学という言葉こそ日本ではあまり聞かなかったが、これこそ、私が目指していた学問ではないか !と思ったものであった。 「法と経済学」とは何か、それは法律を経済学的に分析し政策立案に活かすという素晴らしい学問である。ただし、唯一の欠点は両分野の本が必要となり研究室の本棚がすぐに足りなくなることである。

研究概要

研究テーマ 「法と経済学」事始め

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カテゴリー:建築環境学

研究者名:須永 修通(スナガ ノブユキ)教授所  属:都市環境学部 建築都市コース担当科目:建築環境学A~C、建築環境演習Ⅰ・Ⅱ、     建築デザインⅡなど

 建築には、第一に住む人が安全であること、次に快適であること、そして、美しいことが求められてきました。現在は、これらに加え『エネルギー消費が少ない= CO2 の排出量が少ない』ことが必須になっています。 エネルギーすなわちエアコンなどの機械を使わずに、建築自体の造り方を工夫することで熱や光、空気などの流れをコントロールして、快適な室内環境を実現する手法はパッシブデザインと呼ばれます。南側に大きな窓を設け冬に太陽熱で室内を暖かくしたり、夏は屋上に植栽して日射熱を防いだりするのが、その一例です。このパッシブデザインの基本は、屋根や壁などの断熱と日除けによる日射遮蔽ですが、さらに建築自体を『工夫して』自然のエネルギーを利用するとより快適な室内環境を実現できます。 この『工夫をする』ところ、つまり『ある方法』=『システム』を考えるところが大変面白いし、楽しい。例えば、筆者らの研究に「屋根流水天井放射冷房システム」があります。熱は上に上がります。室内の熱を天井パネルで水に吸収させ、その水を屋根に流し、屋根面での蒸発冷却によって熱を大気に放ち、冷やされた水を再び室内に循環して冷房するというシステムを考えました。使うエネルギーはポンプの電力だけですので、エアコンに比べて少ないエネルギーで済みます。 ところが、このシステムでは水温は外気の湿球温度までしか下がりません。南大沢では夏季 23℃くらいです。この水温で涼しくできるかが問題です。この問題を解決したのが、温熱快適性に関する被験者実験です。周壁面温度や空気の温湿度を自由に変えられる人工気候室での実験から、空気温度が 28℃でも天井と床の表面温度が 25℃であれば、26℃に冷房したときと同じ快適性が得られることが解りました。そこで、23℃の水で 25℃の天井面を作るために、熱伝導性の良いアルミニウム製の天井パネルを開発しました。その結果、図のような理想通りの温熱環境を実現できました。

 「家々の屋根全部に太陽熱集熱器が載っていたら、どんなに素晴らしいだろう!」、そんなことを 25年程前に思っていました。この間、さまざまな『システム』がどんどん考えられて、今では、建築の図面を書くと年間のエネルギー消費量が自動的に計算されるようになりつつあります。また、居住時のエネルギー消費だけではなく建設時のエネルギーまで含めてゼロになる「ゼロエネルギー住宅」が実現されつつあります。これから先、皆さんによって、どんな『システム』が考え出されるのでしょうか。とっても楽しみです。

研究概要

研究テーマ 快適な建築をなるべく少ないエネルギー消費で!

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Page 8: 研究にロマンを求めて - Tokyo Metropolitan University...2 カテゴリー:経営学 研究者名:室町 幸雄(ムロマチ ユキオ) 教授 所 属:都市教養学部

 私が有限要素法(FEM : Finite Element Method)と出会ったのは、大学の航空学科4年の講義の中であった。FEM は微分方程式で記述できるような物理現象を、計算機を用いて解析する手法であり、材料・構造ばかりでなく多くの分野で使用されている。解析対称を多くの小さな部分(要素)に分け、物理量は要素内では単純な変化で近似されるが、要素の数が多いので全体では複雑な変化を表すことができるという方法である。もともとは、トラスなどの骨組構造の分野で始まり、ボーイング社および米国航空宇宙局を中心とする航空機構造の分野で発展した手法で、それらの設計には不可欠なものとなっている。 興味あってか卒業研究、修士課程、博士課程と FEM を用いて板や殻の弾塑性大変形に関する研究を行ってきた。FEM は著しく発展しつつあったが、大学で研究する複雑な問題は市販のプログラムでは解析できず、プログラムを手作りする必要がありたいへん苦労した。また重いパンチカードを5千枚も抱えて研究室と大型計算機センターを毎日何往復もしたのを今さらのように思い出す。 博士課程修了後は、当時の文部省宇宙科学研究所(現 JAXA 宇宙科学研究本部)の飛翔体構造工学部門の助手となった。宇宙ではロケットや人工衛星の構造の軽量化のために、精度良い解析があらゆる場面で必要とされる。製造メーカの設計者が、汎用の FEM ソフトウエアで解析してきた結果をチェックし解析モデルを修正するのも私の仕事であり、初めは宇宙の構造にはまったくの素人であったが、FEM の知識はたいへん役に立った。多くの構造開発を行ってきたが、特に上段の固体ロケットモータケースの設計では、材料に複合材 CFRP を用いたこともあり、全体形状、最適板厚、巻き角度などの決定に FEM 解析を多用して、軽量化に役立てたと思う。 その後大学に移って現在にいたる。さまざまなテーマで4年生、大学院生と研究を行ってきているが、相変わらず多かれ少なかれ FEM 解析を含んでいる。その中から二つ紹介する。ひとつめは平織の炭素繊維/エポキシ複合材である。F-1の車体の大半がこれで作られており、その形状はシャツの布地のようなもので、繊維が連続的に曲がっているため複雑な力学的挙動を示す。二つ目は、液体を内包するゴム膜の大変形振動問題で、構造と液体の相互作用、ゴムの材料非線型を含むたいへん厄介な問題である。

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研究テーマ 航空宇宙分野での構造・材料と有限要素法解析カテゴリー:航空宇宙構造力学、複合材料構造力学、構造振動工学

研究者名:渡辺 直行(ワタナベ ナオユキ) 教授所  属:システムデザイン学部 航空宇宙システム工学コース担当科目:弾性力学、航空宇宙構造力学1、航空宇宙構造力学2、     材料構造力学演習、複合材料構造力学特論

研究概要

CF/Epoxy

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CF/Epoxy 平織複合材の破断時の応力分布ゴム膜 /流体連成三次元大変形動的解析(膜面の変形と加方向応力分布)

CF/Epoxy

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研究テーマ 画像診断システムの特性向上に関する研究カテゴリー:放射線科学

研究者名:安部 真治(アベ シンジ) 准教授所  属:健康福祉学部 放射線学科担当科目:X線診断機器学Ⅰ、X線診断機器学Ⅱ、X線診断機器学実験、     医用画像機器学、ペイシェントケア論Ⅰ、画像診断臨床実習、     画像診断システム学特論・同演習、画像診断システム学特講・     同演習など

 医療において、画像診断は多くの病気の早期発見や治療において重要な役割を果たしています。現在、画像診断装置は、X線診断装置をはじめ、X線コンピュータ断層撮影装置(X線 CT 装置)、磁気共鳴画像診断装置(MRI 装置)、超音波画像診断装置など多くの画像診断システムが普及しています。 私の研究は、この中で、X線診断装置の特性を解析するための測定技術の開発や機器の性能や安全を保つための品質管理の研究、少ないX線量で最適な画像情報が得られるような医用画像の画質向上に向けた研究などを行っています。都立医療短大当時に、共同研究で指導を受けた教授は、わが国で初めてX線装置の高電圧出力を計測可能な測定器を開発し、X線写真に影響するX線装置の電気的諸現象を明らかにされた方でした。その教授とともに、X線装置に関する多くの実験や研究に携わったのが、現在の私の研究基盤となっています。 最初は、大学に設置されたすべてのX線装置の管理、装置性能の測定、解析の研究から始めました。この間に、X線装置の性能を高い精度で計測、解析が可能な「パーソナルコンピュータを用いたX線装置測定システム」を構築しました。この頃、エアコンや冷蔵庫などにインバータ式が普及したように、X線装置の分野でも、全く新しい方式の「インバータ式X線装置」が登場してきましたので、開発した測定システムを用いて、各X線装置メーカの工場や病院施設に赴き、最先端の多くのインバータ式装置の特性について測定、解析を行うことができました。これらの成果は、所属学会の叢書として、多くの会員に広めています。その後、臨床施設でも、安全で簡便に、高い精度で測定が可能な「可搬形(非接触)X線装置測定システム」を構築し、臨床施設における品質管理システムの開発、普及に関する研究を継続しています。 大学が安全で精度の高い測定システムを提供し、臨床施設と連携した品質管理システムの普及により、病院における医療機器のリスクマネージメントや安心、安全の医療の提供に繋がるものと思っています。

研究概要

CTMRI

1/20,000

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登録番号 21(22)

研究にロマンを求めて~研究者から学生へのメッセージ~

vol.15

研究にロマンを求めて~研究者から学生へのメッセージ~

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