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034 | April 2018 特集ブロックチェーンが時代 Report 明日への挑戦 建設連合国民健康保険組合 Journal ツチヤ教授の大人の社会科見学 Essay Partnerとは 須賀しのぶ Essay 街角コレクション 八馬

034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

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034 | April 2018

[特集]

ブロックチェーンが拓く次の時代 Report 明日への挑戦 建設連合国民健康保険組合 Journal ツチヤ教授の大人の社会科見学Essay Partnerとは 須賀しのぶEssay 街角コレクション 八馬 智

Page 2: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

P a r t n e r と は

・ワ

須賀しのぶ

 

音楽の好みは十四歳の時に聴いた音楽によって決まる、という

研究結果が出たらしい。我が身をふりかえってみて、なるほどなぁ

と思う。女子の場合は平均十三歳だそうだけれど、音楽にかぎらず、

私の好みはほぼ全てその時に夢中で頬張ったもので成立している。

しみじみ思春期というものはすごい。

 

そのころ衝撃を受けた音楽といったら、なんといってもリヒャ

ルト・ワグナーだ。

 

クラシック好きの母によく連れて行ってもらったコンサートは

たいていはモーツァルトあたりが中心で、ワグナーはワルキュー

レなどの有名どころは知っていたが、それまでは好きでもなんで

もなかった。むしろ、やたらゴテゴテして疲れると思っていたよ

うな気がする。(正直いって今もそう思うことはある。)

 

が、その日のコンサートで演奏されたのは、初めて聴く曲だった。

『トリスタンとイゾルデ』。前奏曲が始まった途端、私は言葉を

失った。え、これはなに? 

こんなぬめぬめして気味が悪いものが、

クラシックなの?

 

足下が崩れていくような不協和音の響きに、なんかやばいぞと

思いつつ、動けなかった。文字通り全身が耳になる。おぞましい

中からやがて浮かび上がる、とびきり純度の高い、美しい音。見

えたと思った瞬間消えてしまう、この世とは思えない光景の連続

に、背骨が溶けておなかの底が震えるような感覚を味わった。当

時はただふわふわした感覚と戸惑いが先立っていたけれど、官能

というものを知ったのは、おそらくこの時だったと思う。

 『トリスタンとイゾルデ』は、知人のワグネリアン(熱狂的ワグ

ナーファン)によれば、「一年に一度は聴かないと禁断症状が起き

る」そうだが、まったく同意。フルを生で聴くことができずとも、

前奏曲とラストの『イゾルデの愛の死』は聴かないと、私も自分

の中の整理がつかなくなる。

 

愛の死(LIEBEST

OD

)とはワグナーの造語であり、愛が死ぬ

のでも愛ゆえの死でもなく、愛と死は同一のものであり両方揃っ

て完成する、というような意味だ。文字で書くと陳腐な耽美に陥

りがちだが、本能に直結した感覚なので、音楽でしかこの死の官

能は的確に表現できないのではないかと思う。

 

私は、自分でいうのもなんだけれど、執筆する小説の作風はわ

りと淡泊で健全で、耽美とは無縁のように見えると思う。ただ、

ワグナーに年に一度、自分の中に渦巻く諸々を殺してもらって真っ

白な状態から再生していなければ、まったく違う方向に行ってい

たのではないかと時々考えてしまう。

 

ともかくワグナーには、これからも信頼のおけるバランサーと

してお付き合い願いたいと思っている。

須賀 しのぶ(すが しのぶ)1972年埼玉県生まれ。作家。『革命前夜』で第18回大藪春彦賞受賞、『また、桜の国で』で第156回直木賞候補、第 4回高校生直木賞受賞。著書に『芙蓉千里』『ゲームセットにはまだ早い』『夏の祈りは』などがある。大舩 光洋(おおふね みつひろ)大阪府生まれ。版画家。1990年大阪芸術大学芸術学部美術学科卒業。2008年、第54回全関西美術展 〈サクラアートサロン賞〉受賞。

Mitsuhiro OHFUNE

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N a v i s 0 3 4 – A p r i l 2 0 1 81

C o n t e n t s

essay “Partnerとは” 

  「バランサー・ワグナー」 須賀しのぶ

特集 ··········································································································································································································································· 2

ブロックチェーンが拓く次の時代 《コラム》 ブロックチェーンと産業の未来に向けて·················································································································································5

みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部 コンサルタント 竹岡紫陽

さまざまな産業分野で模索されるブロックチェーンの可能性 ···························································································································· 6

KDDI株式会社/会津大学/みずほ銀行

ブロックチェーン技術の展望と適用可能性 ··························································································································································10

近畿大学 産業理工学部 情報学科 教授 山崎重一郎

ツチヤ教授の大人の社会科見学 ······························································································································································ ························12

第14回 RPAの開発現場を見に行こう 土屋賢二

明日への挑戦 ············································································································································································································16

建設業に従事する組合員の健康維持にデータを活用して挑む ~建設連合国民健康保険組合~

Information ····························································································································································································································20

街角コレクション (2) ············································································································································································································21

「ぐるぐるスロープ」 八馬 智

撮影 関口尚志(Vda)

ラテン語で「船」の意味を持つ『NAVIS』は、航海・飛行を意味する「Navigation」の語源でもあります。ビジネスの大海を渡るお客さまとともに未来を拓く、安心できる“船”となりたい…私たちみずほ情報総研の願いをこめて名付けました。

03 4 | April 2018Navis

表紙のことば  フラワーアート 東 信弾けるような個々の鮮やかな花々が紐状のヤシの実に寄り添うように連なり、つながりあって、新たな世界を生み出すような世界観を表現しました。

ダリア、ラナンキュラス、ミモザ、カトレア、トルコキキョウ、チューリップ、スイートピー、ガーベラ、ルピナス、エピデンドラム、チャスマンテ、ナデシコ、フリージア、マリーゴールド、デルフィニウム、ゼラニウム、ポリシャス、ヤシ

あずままこと 1976年生まれ。 2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。またフラワーアーティストとして国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を追究し続けている。2016年12月に『Encyclopedia of Flowers Ⅲ 植物図鑑』を刊行。

Page 4: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

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仮想通貨(暗号通貨)の根幹をなす技術であり、FinTech

のキーテクノロジーとしても注目を集めている「ブロック

チェーン」。革新的な技術と評され、金融に限らずさまざま

な分野への適用が期待されている。2

0

1

6年に経済産業省

が発表した「ブロックチェーン技術を利用したサービスに

関する国内外動向調査」の報告書では、ブロックチェーン

技術の展開が有望な事例として、「価値の流通・ポイント化

プラットフォームのインフラ化」「権利証明行為の非中央集

権化の実現」「遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現」

「オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現」「プ

ロセス・取引の全自動化・効率化の実現」が挙げられてい

る。専門家の間では、ブロックチェーンは将来的に、さまざ

まな製品やソリューションの基盤技術になっていくと考えら

れている。

 

ブロックチェーンは、取引データを記録する台帳やデータ

の集合体のようなものであり、データを格納したブロック

が、前後のブロックとチェーンのようにつながっているとい

う構造を持つ。暗号技術がベースになっており、その特徴

は、管理者のいない非中央集権型であり、分散型の仕組みで

あることだ。

 

従来のシステムでは、特定の主体が認証や介入などの関与

を行い、取引内容の信頼性は、管理者によって担保される仕

組みだが、ブロックチェーンでは、そのネットワークに参加

する全員が同じデータを共有する分散型台帳の構造となって

おり、データの確定にあたっては、参加者全員がそのデータ

の正しさを検証し、認証する作業を行う。たとえばビットコ

インでは、ネットワークに参加する人々が、仮想通貨の取引

データ、つまり通貨の所在や移転の記録を検証し、そのデー

タが正しいと全員が確認すれば、コインの取引が確定する。

すなわち、取引内容の信頼性は、参加者によって担保され

る。これは、対等な関係の端末が通信を行う「P2P

(Peer to Peer

)」の一種であるともいえる。

ブロックチェーンの仕組みと特性

く次の時代

取材・文/編集部 写真/栗原 剛、ピクスタ

管理者

従来のシステム

管理者が中央集権的に取引履歴を管理。取引内容の信頼性は管理者によって担保される

ブロックチェーン

取引履歴は各ノードに分散保存され、参加者で共有。取引内容の信頼性は参加者によって担保される

Page 5: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

N a v i s 0 3 4 – A p r i l 2 0 1 83

 

この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特

性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であるということだ。

ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには

関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整

合が出ないよう

つのブロックだけを改ざんすることは、極

めて難しい。このため、実質的に改ざんが不可能となる。

 

こうした「不可逆性」を持ち、「真正性」を担保できる仕

組みであることから、ブロックチェーンは高いセキュリティ

を要求する情報のやり取りに使用できると考えられている。

また、データの連続性が保証されるため、トレーサビリティ

も確保できる。

 

さらに、分散型であるがゆえに、サイバー攻撃や障害など

により一部のネットワークが壊れても、他のコンピュータで

データを維持することが可能であり、止まらずに動き続ける

「ゼロダウンタイム」なシステムが構築できると考えられて

いる。加えて、大容量のサーバーを用意する必要がなく、安

価にシステムを構築できるという特性もある。こうした仕組

みに、「スマートコントラクト」と呼ばれる、一定の条件に

なった場合に自動的に取引や契約を行うアプリケーションを

付加すれば、これまでにない効率的なソリューションが構築

できると期待されている。

 

このようにブロックチェーンはさまざまな分野での利用拡

大が見込まれるが、ビジネスへの適用には課題がある。その

つが、分散型の仕組みであることから、参加者全員がデー

タを確認して確定するのに時間がかかるという点だ。たとえ

ばビットコインでは、現状、取引の確定までに約10分かか

る。そのため、株取引や決済などデータを即時に確定させる

必要のある分野には、ブロックチェーンは向いていないと考

えられている。

 

また、ネットワークの参加者に対して、システムを維持す

るためのインセンティブを確保し続ける必要があるという問

題もある。たとえばビットコインでは、参加者が「マイニン

ブロックチェーンの課題

特 集

仮想通貨市場の発展に伴い、基幹技術として注目を集めるブロックチェーン。その革新的な技術の適用可能性は金融分野に留まらない。ブロックチェーンはどのような分野や産業に革命を起こす可能性があるのだろう。

ブロックチェーンが拓

タイムスタンプ

前のブロックのハッシュ値

トランザクション

ブロックチェーンの概念図

タイムスタンプ

前のブロックのハッシュ値

トランザクション

タイムスタンプ

前のブロックのハッシュ値

トランザクション

前のブロックのデータを暗号化した値が含まれている

ブロックは時系列につながっている

Page 6: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

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グ(採掘)」と呼ばれるデータ確定作業を行う際、最も早く

検証・確定を行った参加者に新規のビットコインを報酬とし

て発行することで、ネットワークを維持している。

 

こうした課題の解決策の

つとして、仮想通貨のように誰

でも参加できる「パブリック型」のほかに、許可されたメン

バーが利用する「プライベート型」「コンソーシアム型」と

いわれるブロックチェーンが登場している。パブリック型

は、多くの人が参加することで多くのコンピュータ(ノー

ド)にデータが分散するため、真正性や安全性が増すものの、

データの確定に時間がかかる。一方、プライベート型は参加

者が限定されているため、合意が取りやすく、確定処理の高

速化を図ることが可能とされる。実際に数秒程度でデータの

確定が行えるアルゴリズムも提案されている。

 

パブリック型とプライベート型の使い分け、またブロック

チェーンと従来のデータベースやシステムの組み合わせ、あ

るいは膨大なデータのやり取り(トランザクション)に対す

るストレステストなど、ブロックチェーンを実際のビジネス

に適用するためには、まだまだ検討すべき点は多い。しか

し、こうした課題があるにせよ、ブロックチェーンは、情

報、土地、資産など、さまざまな「価値」を、高いセキュリ

ティの下、特定の主体による管理や介入を経ずに流通させる

ことができるという、従来にない仕組みであることは間違い

なく、この仕組みだからこそ実現できる新しいサービスが存

在することも確実だ。金融以外の分野でのユースケースを想

定して、ここ数年は、さまざまな実証実験が行われている。

 〈みずほ〉では、先端技術活用の取り組みの一環として、

ブロックチェーン技術の適用可能性を探っている。2

0

1

5

年には、世界の金融機関が参加する「R

3コンソーシアム」

に参加し、取り組みを本格化させてきた。各社との協働によ

り、送金やサプライチェーン管理に関する実証実験などに取

り組み、2

0

1

7年7月には、「H

yperledger Fabric

(*1)」と

「Corda

(*2)」の2つのブロックチェーンを使って、豪州・

日本間での実貿易取引を実施した。国内初の取り組みであ

り、C

orda

を使った実取引としては、世界初の試みとなる。

 

貿易取引では、輸出者、輸入者、輸送会社、保険会社、港

湾関係者など多数の関係者間で、原産国や商品明細など取引

ごとに異なる膨大な情報を書面でやり取りしている。貿易取

引に伴って金融機関が発行する「信用状(L/C)」も書面

で作成され、船便や飛行機便で送付されている。ブロック

チェーンを活用することで、書類の電子化と承認ステータス

の確認が容易になり、迅速かつ安全な取引を行うことができ

れば、多大な事務作業・コストの削減になる。「不可逆性や

透明性の高い情報のやり取りができるブロックチェーンは、

こうした複雑な取引にフィットするのではないかと考えた」

と、みずほフィナンシャルグループ

デジタルイノベーショ

ン部

調査役

株式会社B

lue Lab

シニアデジタルストラテ

ジストの上野育真氏は話す。

 

貿易取引に関する電子化システムはこれまでにも開発され

ていたが、移行コストや、多くの関係者間で方式を統一する

ことなどの難しさから、普及していなかったという。ブロッ

クチェーンであれば、各社が大容量のサーバーを設置するこ

とが不要で、移行にかかる作業負担やコストを抑えられる可

能性がある。

 

今回の実貿易取引では、信用状発行から貿易書類受け渡し

までの業務を、ブロックチェーン技術を使ったアプリケー

ション上で行った。その結果、これまで数日かかっていた貿

易書類受け渡し業務を

時間で実現することができ、大幅な

時間短縮が可能であることが確認できたという。さらに、書

類が現在どこにあり、修正中であるというような情報もリア

ルタイムで関係者全員に共有され、取引状況の見える化を図

ることができた。商用化の目途はまだ立っていないが、先進

的なサービスの実現に向けて、意義のあるプロジェクトと

なったという。取引に携わった国内外の関係者にブロック

チェーン技術を周知し、アイデアを募集できたことも大きな

成果だったという。

 

上野氏は、今後ブロックチェーンを活用するためにクリア

〈みずほ〉の取り組みに見る

ブロックチェーンの適用可能性

〈みずほ〉が取り組むブロックチェーンを活用した貿易取引の高度化スキーム

SWIFT

L/C通知銀行

L/C発行銀行

③L/C通知⑦貿易書類提出

①L/C発行依頼⑪貿易書類交付

⑫B/L呈示⑬商品受領

⑥保険証券提出

⑨貿易書類提出

⑧ドキュメントチェック

②L/C発行 ⑩資金決済

現行スキーム

④商品船積⑤B/L受領

輸出者 船会社 輸入者

保険会社

高度化スキーム

SWIFT

L/C通知銀行

L/C発行銀行ブロックチェーン

書類をアップロードすると参加者に共有

資金決済

保険会社 輸入者

船会社輸出者

L/C

Invoice

B/L

保険証券

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N a v i s 0 3 4 – A p r i l 2 0 1 85

すべき課題は、

つあると指摘する。

つは技術だ。オープ

ンソースであるブロックチェーンは発展途上の技術であり、

さらに進化させていく必要がある。そのためには、ユーザー

企業も含む多くの利用者でアライアンスを組んで議論を進

め、技術を磨いていく必要があるだろう。

 

つ目は法規制の問題だ。現在の法規制はデジタル化やク

ラウド化に対応しておらず、たとえば貿易取引では、船荷証

券は書面であることが求められている。そのため、こうした

法律を変えていく必要がある。さらに、海外とデータをやり

取りする際には、誰のデータがどのサーバーにあるかなど、

個人情報保護に関する法律上の問題も生じる。国によって制

度は異なっており、ボーダーレスなやり取りを難しくする恐

れもあるため、国際的な検討が進められるべきだろう。

 

最後はセキュリティの問題だ。アプリケーション(プログ

ラム)に脆弱性があれば、ハッキングによる情報漏えいや不

正操作が行われる恐れがある。実用化にあたっては、検証を

重ね、リスクへの対策にしっかりと取り組む必要がある。

 

上野氏は、ブロックチェーンは中長期的な視点で見るべき

技術だと述べる。「国内外の金融機関がコンソーシアムに参

加して議論を交わし、共同実証を行うなど、変化が起きて

いることを理解し、注視しておくことが重要だ」。今後、新

サービスや新しいビジネスモデルに使われている技術がブ

ロックチェーンだという未来は十分に考えられる。

 

ブロックチェーンの実装が最も活発な仮想通貨の分野で

は、国によっては取引禁止などの規制が始まっている。しか

し幸いなことに、日本にはこの新市場や新技術を見守ろうと

いう雰囲気がある。世界のフロントランナーになるために、

この機を逃さず、先を見据えて取り組みを進めていくことが

求められている。

 

今回の特集では、さまざまなビジネス領域で進み始めてい

るブロックチェーン活用の試みを紹介し、ブロックチェーン

の持つ大きな可能性と、今後解決されるべき課題、適用が進

んだ未来の姿を概観する。

 ブロックチェーン(分散台帳技術:DLTを含む)は、革新的な技術として多くの市場や産業を変えうるものとして期待されているが、実装するうえでは多くの課題が残っている。 たとえばビットコインでは、一つのブロックに書き込めるトランザクション数が限られ、処理速度が遅くなる問題(スケーラビリティ)や、トランザクションが確率的にしか決まらない問題(ファイナリティ)などが知られている。これに対して、ソフトウェアの改善提案が行われたり、異なるアルゴリズムを採用するブロックチェーンが現れている。 既存システムとの連携においては、たとえば、サプライチェーン全体のデータをブロックチェーン上に書き込むと、データの検索に多くの時間がかかることが想定される。このような場合、データの性質によってブロックチェーンとリレーショナルデータベース(RDB)のどちらかに格納し、連携する方法が考えられる。振り分け方はユースケースによっても異なるが、まだ十分に知見が蓄積されておらず、どのような形が望ましいか明確化できていない。また、RDBの障害が原因となって、ブロックチェーンのメリットである可用性(システムが継続して稼働できる能力)を失うことも想定される。 用途に応じた開発と国際標準化も重要なポイントとなる。2015年、Linux Foundationは暗号通貨以外の広い分野を対象に、Hyperledgerというオープンソースのブロックチェーン開発のプロジェクトを開始した。この中では IBMが主導して開発したFabric、Intelが主導するSawtooth、日本のベンチャー企業ソラミツが主導するIrohaの3つがアクティブなプラットフォームとして提供されている。FabricはB2B、Sawtoothは IoT、IrohaはB2C

を主な対象として開発されている。 ブロックチェーンはさまざまな産業を変革する可能性を秘めた技術だが、ユースケースごとにどのように活用していくかはまだ発展途上である。

ブロックチェーンと産業の未来に向けて

竹岡 紫陽みずほ情報総研経営・ITコンサルティング部コンサルタント

特集◆ブロックチェーンが拓く次の時代

*1オープンソースのブロックチェーン基盤の

*2

コンソーシアムで研究が進められている、金融機関向けの分散型台帳

技術プラットフォーム

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6

 

ブロックチェーンには、一定の条件が満たされると自動

的に契約内容を執行するプログラムを組み込むことで、「ス

マートコントラクト」機能を搭載することができる。実行さ

れる契約内容は、取引や決済などさまざまだ。従来のシステ

ムでもこうした自動執行プログラムの搭載は可能ではある

が、ブロックチェーンの場合、記録されている契約内容の改

ざんが困難であるため、高い信頼性の下、コンピュータに自

動執行を任せることができる。

 

この機能を活かして、取引やサービスの効率化を図ろうと

する実験が進められている。K

D

D

I株式会社は、2

0

1

7

年9月に、「E

nterprise Ethereum

」を活用したスマートコン

トラクトの実証実験を開始した。Ethereum

はブロックチェー

ン基盤の1つで、スマートコントラクト機能を実現できる

オープンソースのプラットフォームとして、世界で研究開発

が進められている。同社は、企業の壁を越えて同技術を活用

したユースケースの共有や標準化の策定などに取り組むため

に設立された「E

nterprise Ethereum

Alliance

(EE

A

)」にも加

入している。

 

第一弾として取り組んだのが、携帯電話の修理工程の情報

共有や効率化を行う実証実験だ。店頭での修理申し込みか

ら完了までの工程には、

ショップ、配送センター、メー

カー各社の修理拠点が関わっており、それぞれが異なるシス

テムで運用されている。ブロックチェーンを活用すること

で、異なるシステム間で修理のステータスや見積もりなどの

情報をリアルタイムに共有し、それによりオペレーションの

効率化を図るというものだ。

 

さらに、修理とリユースサービスの異なる事業者間におけ

る、スマートコントラクトを用いたシステム連携の技術検証

も行っている。携帯電話の修理の際、修理価格はもちろん、

機種変更した場合の価格や中古市場価格などの情報をプロ

グラムが自動判

別して、最適な

契約を行うこと

ができるか検証

するというもの

だ。同社は、今

後も

加入

メンバーと、ブ

ロックチェーン

を使った次世代

サービス基盤の

開発を進めてい

く予定だとい

う。

 

スマートコン

トラクト機能を

活用すれば、さ

まざまな業務

フローの効率化

が期待される。

などの技術を組み合わせることにより、従来にない

サービスが誕生する可能性もあるだろう。

 

ブロックチェーン技術を活用した地域通貨の実証実験も活

発に行われている。

 

コンピュータ理工学専門の大学である公立大学法人会津大

学では、プライベート型のブロックチェーンを使った地域通

貨の実証実験を行っている。その1つが、2

0

1

6年に福島

県会津市で開催されたイベントにおける、仮想通貨型の地域

通貨「萌貨」の実証実験だ。会津大学のほか、東京大学、ブ

修理事業 リユース事業

修理メーカー

ユーズドショップ

提携先企業

KDDI修理事業部門

KDDIリユース事業部門

提携先企業

auショップ

API

API

API

ブロックチェーンは次世代の基盤技術として、さまざまな産業分野や業務での活用が考えられている。各分野で進む実証やユースケースから、未来におけるブロックチェーン活用の姿を探る。

さまざまな産業分野で模索されるブロックチェーンの可能性

連携先企業と情報をセキュアに

リアルタイムに共有する

地域経済を見える化し、

小さな価値循環を活性化する

異なる事業者間における契約自動化実験

サービス×ブロックチェーン

地域通貨×ブロックチェーン

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ロックチェーンプラットフォーム「いろは(Iroha

)」を開発

するソラミツ株式会社、国際大学グローバル・コミュニケー

ション・センター(G

LO

CO

M

)の共同研究として行われ、

ブロックチェーンを活用した地域通貨の実証としては日本初

の取り組みだという。

 

実証実験では、イベント来場者が互いのスマートフォンを

近づけて振り合うと萌貨が発行されるアプリを構築。来場者

同士の活発なコミュニケーションを促す仕掛けにした。イベ

ント会場内で萌貨が飲食物や福引チケットなどに使用される

と、スマートコントラクトを通じて販売者などから自動的に

手数料が徴収され、それが原資になる仕組みだ。来場者は、

会場のゴミ拾いなど運営の仕事を手伝うことでも萌貨を貯め

ることができる。実験に携わった会津大学

産学イノベーショ

ンセンター准教授の藤井靖史氏は、「来場者が時としてサー

ビス提供者側になるという仕組みで、人口減少が続く地方自

治体などが、行政サービスを地域住民に担ってもらうことで

サービスの維持を図ることにも活用できるだろう」と話す。

藤井氏はテクノロジーの地域活用を研究領域としており、地

域の抱える課題を解決できる手段としてブロックチェーン技

術の研究を始めた経緯がある。

 

また、イベントのような小規模な経済の見える化に利用で

きると確認できたことも収穫だったという。蓄積されたログ

データから、より多くの萌貨を貯めた来場者つまりコアユー

ザーがわかるため、その傾向を分析して次回のイベント企画

に活かすことができる。「仮想通貨を地域経済に適用するこ

とができれば、経済の循環をデータで掴むことができ、対策

を打つべき分野などが見える化できる」(藤井氏)。

 

同大学では、学内通貨として、電子マネー型の地域通貨

「白虎」の実証実験も行っている。

月から現在

も続いている実験で、専用のアプリをインストールしたス

マートフォンを利用して取引を行う。学食や売店などの小規

模店舗では、既存の電子マネーは導入費や決済手数料の負担

が大きい。そこで、ブロックチェーンを活用した、安価に運

用できる電子マネーの仕組みを構築したのだという。学生

は、学食や売店でチャージ(入金)し、チャージしたアプリ

を利用して商品の支払いを行う。実験の結果、学内使用に限

定すれば多数の決済が同時に発生するケースはほぼないこと

から、サーバーなどの設備投資や運用費を抑えられることが

わかった。工夫によっては、手数料

%で運用できる感触も

得られたという。

 

現在は、当初ソラミツなどが行っていたシステム開発やメ

ンテナンスを、学生が行う体制へと切り替え始めている。ま

た、さらなるコスト低減に向けて、学生が所有するサーバー

をブロックチェーンの計算リソースとして活用する計画も進

めており、

年中に移行が完了する予定だ。

 

地域通貨は、地域内やイベント会場内など、経済循環の規

模が小さいため、構築コストの高さと見合わないとされてき

た。しかし、ブロックチェーンであれば、システム構築や偽

造防止対策を安価に実現することができる。藤井氏は、将来

的には、地域商店街の発行ポイントや自治体の地域振興券な

どもブロックチェーンを使った仕組みにし、交換レートを定

めて互いに移行可能にすることも考えられると話す。「これ

までの地域通貨は、新しい通貨を作って各所に依頼して導入

してもらっていた。この方法なら、新しい通貨を作る必要は

なく、これまでの運用ノウハウを継続することができる」。

 

課題は技術面以外にある。「まず、制度が現状に追いつい

ていない点だ。たとえば、地域通貨は、電子マネーのように

取り扱われるべきか、それとも仮想通貨として取り扱われる

べきかという未整理の問題がある」(藤井氏)。

点目の問題

は、地域通貨が投機の対象となるリスクだ。萌貨や白虎は、

発行期間や場所を限定したため投機の動きが起こりにくかっ

たが、継続運用を行うためには、さらなる対策を検討する必

要がある。

点目は、通貨の流通ノウハウの蓄積だ。地域通

貨の発行主体は、実証実験などを通じて、地域通貨を活用し

行政サービスの担い手となる住民を育てるなど、「通貨を発

行することで地域の課題を解決する」という経験を積んでい

くことが重要だ。

 

地域通貨は、地域の経済を循環させ、地域社会を活性化す

るための道具として活用できる。今後も各地でさまざまな実

証実験が行われ、研究が進むことが期待される。

スマートフォンを近づけて振り合う

運営の仕事を手伝う

●ゴミ拾い●ティッシュ配り●サンドイッチマン など

萌貨を稼ぐ

萌貨を使う

イベント  投票権

会場内での飲食

福引き

共同作業(コミュニケーション)が通貨となり流通する仕組みを構築した「萌貨」の実証実験

特集◆ブロックチェーンが拓く次の時代

Page 10: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

8

 

意外なところでも、ブロックチェーン技術の活用が検討さ

れている。電力分野への適用だ。

 

背景には、再生可能エネルギー(再エネ)をはじめとする

分散型エネルギーの普及拡大がある。電力会社が集中的に発

電し、送配電網を通じて購入する従来の構造は、需要家(消

費者)が太陽光などを使って自家発電・自家消費を行うとい

う分散型になりつつある。

 

エネルギーの分散化は、再エネの発電コストの低減によ

り、さらに進むと見られる。現時点では、再エネの発電コス

トは高く、政策的なサポートが行われているが、技術革新な

どにより発電コストは下がり続けており、小売電気料金と等

価あるいはそれより安価になる「グリッドパリティ」が近い

将来起こると予測されている。

 

分散化が進めば、余った電力を他者へ販売するという動機

が生じると、みずほ銀行

産業調査部

参事役の篠田篤氏は述

べる。そこで、電力自由化の動きも伴って、「V

P

P(V

irtual

Power Plant

)」の構築が進められている。V

P

Pは、家庭や

工場など各地に点在する再エネ発電や蓄電池、燃料電池など

の設備を一つにまとめて発電所のように利用する仕組みで、

参加する家庭や工場は、V

P

Pを通じて余剰電力を販売で

きる。ただ、電力の売買にはライセンスが必要なため、集約

された電力の売買は、「アグリゲーター」と呼ばれる事業者

が行うことが想定されている。

 

さらにその先にあるのは、個人間の直接取引だろうと篠田

氏は見ている。そこで始まっているのが、ブロックチェーン

技術を活用した個人間取引の実証だ。鍵となるのは、一定条

件が満たされれば自動で売買などの契約の履行を行うスマー

トコントラクトだ。たとえば、近隣の家庭が販売する電力

が、小売電気料金より10円安くなった場合は、自動的に近隣

の家から電気を購入するというプログラムを実行させる。契

約から支払いまでの一

連のプロセスが

で自動的に行えるよう

になれば、安価で安全

な取引の実行が可能と

なる。「細切れの電気

を融通するといった小

額取引が、経済性を確

保しながら実現可能に

なる」(篠田氏)。

 

国内では、さいたま

市の浦和美園地区に建

設されている新しい街

区において、東京大学

を中心としたグループ

が、ブロックチェー

ンを活用した電力の

取引に関する

実証実験を進めてい

る。デジタルグリッド

技術を活用し、既存の

電力系統と接続するこ

とで、街区にある大型

スーパーと各家庭との

間で、太陽光発電に

よって創られた電力が系統の電力より安価な時には、前者を

融通するという仕組みだ。

 

ブロックチェーンを活用した電力

取引は、小規模な

グリッド、たとえば工業団地や街区などのコミュニティ内で

行うのが現実的だろうと篠田氏は見る。「こうしたマイクロ

グリッドの形成は、地域のエネルギーを最大限に利用し、地

域企業の育成や、地域の防災力を高めるといった観点から、

自治体にとってもメリットがあるだろう」。

 

の実証がやっと始まろうとしている現時点では、そ

の先にあるブロックチェーンを使った

取引の検証を始

取引の実行・管理・決済

エネルギーリソース

集中型

分散型

集中型 分散型

● 大規模な発電事業 在来型:火力・原子力・水力等 非在来型:メガソーラー・風力・バイオマス等 ● 送電事業

● Virtual Power Plant 需要家が保有するエネルギーリソースを活用 アグリゲーターによる統合管理

● 電力P2P取引 ブロックチェーン、スマートコントラクトを 活用した需要家間の直接売買

● 小売電気事業 ● 配電事業

ブロックチェーン技術を活用した電力シェアリングエコノミーの展望(みずほ産業調査 Vol.57)

電力P2P取引への発展の方向性

個人間の電力取引を

安価に安全に実現する

電力×ブロックチェーン

Page 11: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

N a v i s 0 3 4 – A p r i l 2 0 1 89

めている事例は、世界的にもまだ少ないという。まずは分散

化の実現、再エネの発電コストや蓄電池のコスト低減が求め

られる。また、ライセンス制度の見直しなど法規制の整備、

電気の流れが複雑になることに対する配電系統の整備や分散

型システムの構築・運営などのコストの問題も解決が必要だ。

 

年以降には、固定価格買取制度(

)におけ

る買取期間が終了する再エネ電源が現れ始めることもあり、

将来的に、余剰電力を融通しようとする動きは必ず高まるだ

ろう。ブロックチェーン技術を活用したシステムの検証が進

み、コストの削減効果や信頼性が確保されれば、遠くない将

来には個人間取引も始まる可能性がある。

 

ブロックチェーンは時系列につながって記録されるため、

不可逆的なデータの連続性を保障する。このことから、原材

料から製品の販売に至るまでのサプライチェーンの履歴をブ

ロックチェーンに記録することで、その信頼性を担保すると

いう「トレーサビリティ」への活用が期待されている。

 

たとえば、アパレル産業では、小売業者によるプライベー

トブランド商品の企画などビジネスモデルは多様化しつつあ

るが、製品の企画・製造から流通・販売までの各工程を分業

で行うビジネスモデルが一般的だ。素材/副資材メーカーや

縫製企業など製造に関わる事業者と、企画・流通・販売に関

わる企業といったさまざまな業種が関わっている。このサプ

ライチェーンにブロックチェーンを活用すれば、製造業者や

工場、物流事業者、出荷日や販売日などのデータを記録し、

追跡することが、コストをかけずにできる。

 

この仕組みは、販売後の製品を、消費者がフリーマーケッ

トアプリなどで売却する際にも活用できるという。近年、ア

プリを通じたC

2

C(個人間取引)サービスの隆盛が著しい

が、売買される商品の信頼性をどのようにして確保するかと

いう問題が付きまとう。そこで、製品にR

FID

(電子タグ)を内

蔵するなど、製造時に何らかの目印を埋め込んでおき、ブロッ

クチェーンで確認できるような仕組みを構築すれば、真贋判

定に利用することができる。消費者にもメリットが生まれ、

シェアリングエコノミーの健全な育成にもつながるだろう。

 

また、食品の個品管理にも活用できると見られている。た

とえば、コンビニエンスストアの弁当や惣菜、加工食品な

どのトレーサビリティだ。経済産業省は2

0

2

5年までに、

コンビニエンスストアの全ての取扱商品をR

FID

で管理する

「コンビニ電子タグ1

0

0

0億枚宣言」を発表。電子タグを

用いて取得した情報の一部を、製造・物流・卸・小売・消費

者で共有することにより、在庫や返品の削減、安心・安全の

確保につなげる、スマートサプライチェーンの構築を目指し

ている。しかし、こうした個品情報を中央集権的に管理しよ

うとすると、システムのコストはかなり高くなってしまう。

そこで、たとえば、食材の原産地や製造した工場、賞味・消

費期限などの情報については、パブリック・ブロックチェー

ンに登録することで、消費者も含めたさまざまな人が簡単に

情報を確認できる仕組みが考えられる。

 

ブロックチェーンを利用したサプライチェーン管理

)の仕組みは、コストをかけずに構築できるため、

二次請けなどの中小企業にとっても負担が小さいというメ

リットもある。さらに、スマートコントラクトを組み合わせ

て、納品が完了すれば自動的に支払いが行われる仕組みにす

れば、売掛金回収までのリードタイムや請求書発行などの手

間も減らすことができる。

 

サプライチェーンにブロックチェーンを適用したという事

例は、世界でもまだ少なく、英国のE

verledger

による、ダイ

ヤモンドの取引における商品情報や流通履歴を個品管理する

事例程度である。しかし、2

0

1

7年8月には、ドールやネ

スレなどグローバルな食品サプライチェーンを展開する大手

企業とI

B

Mがコンソーシアムを組み、ブロックチェーン活

用の取り組みを進めることが発表されるなど、世界的に期待

が高まっている。今後も、サプライチェーンに関するブロッ

クチェーンの活用事例は増えていくだろう。

生産者名環境負荷出荷日

アパレル工場

アパレル店舗 消費者 C2C

サービス商社

物流センター

物流事業者名品質管理入出荷日

工場名品質管理出荷日

店舗名品質管理販売日

真贋判定査定評価交換履歴

素材/副資材メーカー

入荷検品時自動で取引先に支払い

出品返品時自動で消費者に支払い

※各取引フェーズで支払いを 自動的に行うことが可能

ブロックチェーンを活用したアパレル産業のトレーサビリティ(イメージ)

信頼性の高い

トレーサビリティを実現する

流通×ブロックチェーン

特集◆ブロックチェーンが拓く次の時代

Page 12: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

10

│ブロックチェーンはどのような分野に適用可能

性があるとお考えですか。

 

生産された製品の総量(物理的な量)が流通過程で

増減することのない物の流通や、あるいは、物や価値

が転々と譲渡されるような資産管理業務への適用が考

えられる。ブロックチェーンは、そうした製品の流通

経路やサプライチェーンを追跡することに適してい

る。たとえば、生産量が決められているブランド牛

のような商品の流通にブロックチェーンを活用すれ

ば、流通過程で盗難によって量が減ったり偽物が混入

して増えたりすることなく、消費者の元まできちんと

届いているか確認できる。

年に、高額な

肝炎治療薬の偽造品流通事件が起こったが、ブロック

チェーン技術を活用することで、工場から薬局までの

追跡が容易になり、こうした事件は起こりづらくなる

だろう。

│ブロックチェーンの現状をどのようにご覧に

なっていますか。

 

今は、「ブロックチェーンで何かをしてみたい」と

いったように、ブロックチェーンというキーワードだ

けが先行しているように感じる。現段階では、一般企

業がブロックチェーンを使って短期的に収益を上げる

ことは、まだ難しいのではないかと考えている。技術

的、制度的な取り組みがまだまだ不足しており、この

先数年は、エンジニアが技術研究に注力するフェーズ

ではないか。今からチャレンジしてノウハウを蓄積し

ておくことは後のアドバンテージにつながるが、短期

的な期待感を膨らませるべきではない。

 

現在のブロックチェーンの状況は、インターネット

の黎明期とよく似ている。インターネットも、当初は

ビジネスに活用できるような技術ではなかった。しか

し、暗号技術の発達やハードウェアの進化、インフラ

の強化などにより、一般に利用される技術となった。

それには相当の時間がかかっている。同じように、ブ

ロックチェーンも長期的な視点で見るべきだ。しばら

くの間は、人材育成に注力し、誰か、あるいはどこか

の場に、経験が蓄積されていくような取り組みを続け

ることが必要だろう。私も大学や地域でさまざまな勉

強会を開催している。

│日本の取り組みについてはどのようにご覧に

なっていますか。

 

たとえば仮想通貨については、日本は世界的に見て

もビジネスを行いやすい環境が整っている。

月に施行された改正資金決済法(仮想通貨法)に

より、「仮想通貨」とは何かが法律で定義された。仮

想通貨交換業者の登録制度も整備され、マネーロンダ

リング防止の観点から、銀行と同様に、口座を開設す

る際は顧客の本人確認が義務付けられている。仮想通

貨の盗難事件が発生しているが、盗まれた通貨を日本

国内の仮想通貨取引所で売却(換金)しようとすると、

すぐに発見される。

 

日本のように、仮想通貨の取引に関する法制度が

整っている国は世界でもまだ珍しいが、今後、中国の

動きは注視しておく必要があるだろう。中国では、民

事に関する基本原則を定めた「民法総則」が

年10月に施行され、デジタル資産が法的保護を受ける

こととなった。中国のこの法制定は、今後大きなアド

バンテージとなる可能性もある。

 

日本では、資金決済法の改正により仮想通貨の財産

的価値が認められるようになったものの、仮想通貨交

換業における利用者保護制度や、交換業者のセキュリ

ティに関連した業務の規定は、まだ整っていない。と

はいえ、日本は世界に先駆けて、ブロックチェーンや

仮想通貨に関する実験場を作り上げたのだ。日本で開

発された技術を利用したビジネスが、世界に広がる可

ブロックチェーン技術の展望と適用可能性ブロックチェーンは今後、どのような技術に発展し、どのような場面で使われるようになるのだろうか。電子認証やブロックチェーン技術に関する研究を行う山崎重一郎教授に、ブロックチェーン技術の可能性と利活用に向けて解決すべき課題について聞いた。

Page 13: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

N a v i s 0 3 4 – A p r i l 2 0 1 811

能性は十分にあるだろう。

│ブロックチェーン技術の利活用を進めるために

解決すべき課題はありますか。

 

今後、ブロックチェーン技術を安全な仕組みとして

活用していくためには何らかの規制が必要となるが、

それを誰が行うかという問題がある。現在、仮想通貨

交換業者が自主規制団体の設立に向けて動いている

が、自主規制は、時に事業者の利益を守ることが目的

となってしまい、新規事業者への参入障壁となる場合

もある。一方、政府による法規制では、イノベーショ

ンを阻害する恐れが生じる。

 

そこで、官と民による「共同規制」というルール作

りが必要ではないかと考えている。業界や利害関係者

以外の第三者である市民が、透明性や公平性の確保、

国際標準の準拠などを要求するというようなものだ。

仮想通貨においても、このようなルールを作ろうとす

る動きが出てきている。

 

ビットコインとイーサリアムに使われているパブ

リック型ブロックチェーンは、ブロックチェーンの中

でも最も研究開発が進んでいる仕組みだ

が、これらのブロックチェーンがプラッ

トフォームとなって、データベースやア

プリケーションなどを搭載し、ブロック

チェーンのデータを参照しながら海外送

金や物流管理を行うといった仕組みを構

築することができれば、効率的に、ある

いは安価に構築できるといったメリット

が生まれるだろう。

│ブロックチェーンは将来、どのよ

うな技術に発展するとお考えですか。

 

現在、ブロックチェーン技術やその技

術を使った仮想通貨の取引は、既存の金融システムと

は異なる場所、既存システムの〝外側〞に生じ、そこ

で完結している。しかし、将来的には、既存システ

ムと融合し、既存システムの〝内側〞に入り込んで

くるだろう。インターネット技術やインターネット

に関わる産業も、そうした移行を果たした。たとえば

Google

は、最初は既存の仕組みの外側に登場し、段々

と既存の仕組みの内側に入って新しい方法を適用し、

仕組みの中心になっていった。ブロックチェーン技術

も、既存の金融システムを再構築する可能性がある。

また、移行が進めば、利用者が、インターネットで使

われている通信プロトコルがT

CP/IP

だということを

意識していないように、アプリケーション開発にブ

ロックチェーンが使われていることも意識されなくな

るだろう。

 

技術は進化するものだ。今はとにかく、構想段階で

留まらず、技術をいじり倒すべきだ。現在、我々近畿

大学では、ブロックチェーン上のアプリケーションの

プラットフォームになるセカンドレイヤー技術を研究

開発しており、これによってさまざまな利用方法を可

能にしようとしている。たとえば、ブロックチェーン

を活用してスマートフォンでホテルの客室の鍵を開閉

できるようにしたいと考えた場合、「料金決済済み」

と電子的に証明できた人のみ開けることのできる電子

証明書といったものが考えられる。しかし、ブロック

チェーンは不可逆的な記録を行うため、一度鍵を開け

て閉めた後、再び開ける「二重使用」はできない。

 

そこで、利用期間中、何度も鍵を開け閉めできるよ

うに、決済済みと記録された取引と同じ取引をもう一

度行う二重支払いの仕組みを付加したアプリで可能に

するという実験を行っている。

 

このように、さまざまな利用方法を試し、使える技

術の種類を増やしていくことが必要だろう。そうする

ことで初めて、ありきたりではない、さまざまな適用

先が見えてくるだろう。

特集◆ブロックチェーンが拓く次の時代

山崎 重一郎氏近畿大学 産業理工学部 情報学科 教授

富士通、富士通研究所を経て2003年より現職。専門は、社会情報システム、電子認証、自然言語理解、並列処理など。著書に『ブロックチェーン・プログラミング 仮想通貨入門』(共著、講談社)など。

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ツチヤ教授の

P

大人の社会科見学〉〉 第 回 〈〈

井筒

本日ご案内させていただく、ソリューションビ

ジネス部の井筒です。よろしくお願いします。

土屋 

こんにちは。

井筒 

今日はまず、デモをご覧いただきます。これ

は、「あるフォルダ内にある、顧客管理システムから

書き出したデータファイルを、クラウドシステムに

アップロードする」という作業を行うロボットです。

土屋 

簡単な作業に思えますが、ロボットを使うんで

すか。

井筒 

作業自体は確かに簡単ですが、もしファイルが

数万件あると、手作業でやるにはかなり時間がかかり

ます。また、システムをつないでデータを連携させる

方法もありますが、それにはシステム改修が必要とな

り、数千万単位の費用がかかってしまいます。

土屋 

そんなにかかるんですか。

井筒 

そこで、その作業を、このノート

の中に

入っているロボットに代行してもらいます。今、起動

させました。

 

ロボットはまず、フォルダ内にあるファイルを参照

して、P

D

F形式かE

xcel

形式か判別し、E

xcel

なら、

自動的にP

D

Fに変換します。次に、ファイル名に

含まれる「取引先コード」の数字列を読み取ります。

それから、アップロードする先のクラウドシステムを

立ち上げます。その中から、先ほど読み取った取引先

コードを検索して、同じ取引先コード名のついたフォ

ルダを探します。見つけたら、そのフォルダ内にファ

イルをアップロードしていきます。

土屋 

最初に起動してからずっと、キーボードにもマ

ウスにも触っていないですね。

井筒 

今、ロボットが「ファイルアップロード」とい

うボタンをクリックしましたね。これで、

つのファ

イルに関する一連の作業が終わりました。ファイルを

定型業務はロボットに任せて

より本業に注力する

14

12

RPAの開発現場を

見に行こう

Page 15: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

閉じて、また最初の画面に戻って、今度は別のファイ

ルに対して同じ作業を繰り返しています。フォルダの

中にファイルが残っている限りずっと動きますし、24

時間作業を続けます。フォルダの開閉も、クラウドシ

ステムにつなぐためのインターネットの起動も、全て

ロボットが自分で行っています。

土屋 

人は何もしなくていいんですね!

すごい。

井筒 

このロボットは、「R

P

A (Robotic Process

Autom

ation

)」というツールです。簡単に説明します

と、Excel

やWord

など、あらゆるアプリケーションを

処理の対象にできる、優れたマクロのようなものです。

土屋 

どのアプリにも使えるんですか。

井筒 

はい。

は、マウス操作、キーボード操

作、コピー&ペースト、メール送信など、人がパソコ

ンで行う作業のほとんどを代行できます。また、定型

的なものであれば判断や判定もできます。たとえば、

ファイルの中身を確認して、設定条件に合えば次の作

業に進み、合わなければエラーと判断して条件に合う

まで次の作業を待つ程度のことは可能です。

土屋 

人間が作業すると必ずミスを起こしますが、ロ

ボットなら正確ですよね。人間は、失敗する時は完璧

に失敗しますからね(笑)。こういったシステムを作

るのに、どれくらいの期間がかかるんですか。

井筒 

内容にもよりますが、

カ月ほどです。お

客さまのシステム環境に合わせて作る必要があります

ので、常駐して開発することが多いです。

ツー

ルというものを使って開発するのですが、これまでの

システムのような、プログラム言語を使ったコーディ

ングは基本的に必要ありません。どういった処理をど

ういった手順で行わせれば一連の作業を完了できるか

考えて、指示を入力することが必要です。

ロボットなら

正確ですね

ツチヤ教授

13 N a v i s 0 3 4 – A p r i l 2 0 1 8

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14

土屋 

フローチャートを書くような感じですね。

井筒 

おっしゃるとおりです。さらに、

ツール

には操作を記録する機能があるため、ロボットに覚え

させたい作業をまず人間がやってみせれば、ロボット

がフローチャートに手順を落とし込んで、自動的にプ

ログラミングします。最後は人の手で設定を整えてい

く必要はありますが、構築が簡単です。

土屋 

ツールは高いんですか。

井筒 

いいえ。必要となるのは

の構築費用と

ツールのライセンス費用だけで、システム改修した場

合の半分以下のコストで開発できています。

土屋 

このツールほしいですね。個人で使えるものは

ないんですか(笑)?

井筒 

個人で勉強のために使うのであれば無償のツー

ルもありますよ(笑)。

 

が向いているのは、大量の申込書を処理する

といったような、大量かつ定型的な業務です。みずほ

銀行では

の導入を進めており、私はその開発に

携わっています。先ほどデモをお見せしたシステム

も、みずほ銀行で本番稼動しているものです。

土屋 

考えてみると、決まった手順で繰り返す作業っ

て多いですもんね。条件によって違う作業をさせるよ

うなこともできるのだったら、とても便利です。

井筒 

たとえば銀行の各店舗では、投資信託の口座開

設を行う際、申込書の内容を顧客管理システムに登録

します。ところがその後、事務センターでも、同じ内

容を別のシステムに入力しているのです。

 

そこで、この作業に

を導入しました。今、事

務センターでは

台のロボットが

日中稼動して、人

では

件あたり

分ほどかかった処理作業を40秒ほど

で完了させています。これまでは、端末と人がずらり

と並んでカタカタとデータを入力していたのが、今は

静かに端末が動いていて、人は端末が出力した紙をプ

リンタから取ってチェックするだけで済んでいます。

土屋 

そうなんですか。

井筒 

もう

つの事例はこちらです。みずほ銀行では

会議を招集する際に、スケジューラーに日時や参加者

などを登録した後、会議で使うタブレット

用の

「ペーパーレス会議システム」にも同じ情報を登録す

る必要があります。この作業は、

回あたりの作業量

は少ないものの、全社員分を集めると、社員

名が

年間ずっとその作業を行っているに等しい量になりま

す。そこで

を導入しました。スケジューラーで

ロボットも「参加者」として登録すると、スケジュー

ラーが参加者に送る会議通知から日時などの情報を読

み取って、自動的にペーパーレス会議システムに登録

してくれるのです。

土屋 

大学の事務作業でも、使えそうなケースはいっ

ぱいありますね。大学は予算が削られていて、それま

で事務職員がやっていた作業も教員が全てやっていま

す。そういうことで教員が時間を取られていて、よ

く授業する時間が残っているなという感じなんです

(笑)。でも

なら、打ち込む手間もいらないです

し、人が入力するより正確ですよね。

井筒 

注文書をシステムに入力するような業務でも利

用できます。報告書を作るため、生産データ・受注

データ・在庫データなどをそれぞれのシステムから抽

出してまとめるといった、複数のシステムから情報を

集める作業も代行可能です。

 

他にも、データを比較して確認する作業や、

イトで販売されている自社製品の価格を調べて価格動

向を把握するといったような作業も自動化できます。

土屋 

導入が難しいようなケースはありますか。

井筒 

ロボットで効率化できるところが少ない場合で

す。そのような場合は、業務フローを変更してロボッ

トを導入しやすくしたり、範囲を拡大して適用可能な

業務を検討するなどの提案も行います。当社のコンサ

ルティング部門は、

導入のための体制作りな

どのご相談も受けていますので、同部門と連携して、

ツール選定から開発までトータルサービスを提供し

土屋 賢二 (つちや けんじ) 氏 1944年、岡山県生まれ。お茶の水女子大学名誉教授。柔らかな語り口の哲学論集・講義集のほか、数多くのユーモアあふれるエッセイ集でも知られる。趣味はジャズピアノ。ユーモアエッセイ集には『妻と罰』『ツチヤ学部長の弁明』『紳士の言い逃れ』など多数。ほか『ツチヤ教授の哲学講義』『哲学者にならない方法』など。

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N a v i s 0 3 4 – A p r i l 2 0 1 815

ています。

 

最近は、〈みずほ〉内での

活用を目的とした

勉強会の講師を依頼されたり、グループ外のお客さま

からのお問い合わせも多いです。

井筒 

の適用範囲は、将来はもっと拡大できる

と思います。紙に書いてある文字を読み込んでデータ

に変換する

技術を組み合わせれば、申込用紙を

スキャナーで読み込めばシステムが全ての項目を勝手

に登録してくれるというような時代が来ると思います。

土屋 

しかも、それは遠い未来の話ではないんですよね。

井筒 

はい。

は「デジタルレイバー(人工労働

者)」と呼ばれますが、最終的には、

と組み合わ

されていくのかなと思います。

土屋 

が何でもやってくれるとなると、単純作

業をしていた人たちは何をしたらいいんでしょう。

井筒 

確かに

はいろいろなことができますが、

得意な部分と不得意な部分があります。「ロボティッ

ク」という名称であるため、導入すれば自分で考えて

何でもやってくれると誤解されることがありますが、

残念ながら、現時点では非定型的な判断を自分で行う

ことが必要になるような業務は難しいのが実態です。

土屋 

そうでしょうね。

井筒 

ですから、単純作業は

に任せて、人は、

判断の必要がある難しい業務にシフトしていくことに

なるのだろうと思います。

 

日本ではここ

年で

の導入数がとても増

えていますが、その背景にあるのは、「働き方改革」

です。

を導入する利点というのは、非効率な業

務にかかる手間を省き、やるべき本業に注力できるよ

う、人員をシフトさせることが可能になることです。

また、

を導入することで、少子高齢化による労

働人口の減少を補うことができるのではないかと期待

が高まっています。

土屋 

僕は、事務作業を効率化しても、接客のような

人と接する場面は削減しないでほしいなと思います。

銀行でも、行員が全くいないような店舗も作ることが

できるという話を聞きますが、そういう無人の銀行っ

て、僕は不安です。特に高齢者は、機械の操作がうま

くできないでしょう。そもそも金融関係の用語は難し

くて。振り込みと送金の違いがわからなくなる。

井筒 

が普及しても、お客さまと対話するといっ

たようなサービスの業務はゼロにはならないと思いま

す。むしろ、定型業務をロボットに任せて、そこに人員

を割くようになるのではないでしょうか。

土屋 

そうしてほしいです。効率化というと、どうし

ても、人間的な接触が失われる方向に行きがちです

が、銀行の入口に、案内係の方がいるでしょう。あれ

はとても助かるんですよ。

井筒 

誰かがいてくれると安心しますよね。

土屋 

昔イギリスで見たんですが、スーパーのレジで

スタッフに話しかけているおばあさんがいるんです

よ。それにスタッフはとても丁寧に応対しているんで

す。そのおばあさんにとっては、そこでの会話が一日

の全ての会話だということもあると思うんですね。そ

ういうことを大切にするのがサービスじゃないかと思

います。逆に夫婦の会話は自動化してもいいと思いま

すけどね(笑)。下手なことを言うと、いつ機嫌を損

ねるかわからないので、安全確実な受け答えを

に代行してほしいなと思います(笑)。

井筒 (笑)。無機質なものに置き換えていい業務と、

置き換えてはいけない業務がありますよね。

を導入することが、お客さまと触れ合う機会を増や

す一つのきっかけにもなればと思います。そうした、

導入の成功体験を〈みずほ〉全体で培って、さ

まざまな業種のお客さまに提案できるよう努めていき

たいと考えています。

PRPAの特徴や仕組みについてデモンストレーションを交えて紹介

人と接する場面は

減らさないでほしい

ツチヤ教授

Page 18: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

戦建設連合国民健康保険組合では、データ分析により被保険者の疾患の現状や傾向などの特徴を掴み、生活習慣病の重症化予防への取り組みを始めた。特性に合った計画を策定し、健康課題に取り組む同国保組合の挑戦と目指す将来像を聞いた。

建設連合国民健康保険組合

建設業に従事する組合員の健康維持にデータを活用して挑む

Page 19: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

17 N a v i s 0 3 4 – A p r i l 2 0 1 8

 

高齢化の進展や、それに伴う疾病構造の変化への対

応が求められ、国民の健康維持・増進の重要性が高ま

る中、健康・医療情報のデータ分析に基づく効果的・

効率的な保健事業である「データヘルス」の取り組み

の加速が急務となっている。

 

2

0

1

3年6月に閣議決定された「日本再興戦略」

において、全ての健康保険組合に対して、レセプト(診

療報酬明細書)・健診データの分析に基づく「データ

ヘルス計画」の作成・公表・事業実施・評価の取り組

みが求められ、各保険者は、P

D

C

Aサイクルに沿っ

た保健事業の運営を進めてきた。

 

国民健康保険法に基づいて設立された医療保険者で

ある国民健康保険組合は、同種の事業・業務に従事す

る人とその家族を被保険者として組織される。そのた

め、職種の違いから、組合ごとに被保険者の特性が異

なる。個人事業主が対象のため、企業の従業員とその

家族を被保険者とする健康保険組合(社保)などと

は、年齢構成やどの疾患が多いかなどの特徴に違いが

ある。健康保険組合ごとに異なる特徴を把握し、課題

を明確化して取り組みを行うことで、効果的で効率的

な保健事業が可能となる。

 

建設連合国民健康保険組合では、

年12月に

データヘルス計画を策定し、受診勧奨による生活習慣

病の重症化予防に取り組んでいる。

 

同国保組合は、法人格を取っていない「一人親方」

と呼ばれる人や、個人事業所の事業主など、全国の建

設業に従事する人とその家族を対象とした国民健康保

険組合だ。組合員およそ

人のうち、

が一人親方だという。

 

建築業法で定められた29業種に、その他建設工事に

関する業種(設計業、測量業、地質調査業)を加えた

32の業種を対象としているため、土木・建設・大工工

事業のほか、電気工事業や解体工事業など、組合員の

業種はさまざまだ。組合員の家族も合わせた被保険者

の数は15万人ほどで、30都道府県に40支部を展開する。

人の被保険者が所属する支部もあれば、

少ないところでは

名ほどと、地域によって規模

が大きく異なる点も特徴だ。

 

同国保組合では、これまでさまざまな保健事業を実

施してきた。人間ドックや一般健診の補助などはもち

ろん、

年頃からは、当時はまだ珍しかった歯科

健診を実施してきた。また、人間ドックやがん検診の

結果などの経年変化を分析して傾向を示すという健康

指導も行っていたが、特定健診・特定保健指導の開始

とともにいったん終了し、その役割を移行させている。

 

こうした疾病予防のための保健事業のほか、健康づ

くりの普及啓発のための健康優良世帯表彰や、組合員

の心身リフレッシュのための保養施設の利用補助、各

支部でのスポーツ大会や講師を招いての健康教室の開

催などの事業も行っている。

 

国保組合は、企業の健保組合と異なり加入者が加入

先を選ぶことができるため、同国保組合では、選ばれ

る国保組合となるために、さまざまな保健事業を通じ

て組合員の健康増進に寄与できるよう努めてきた。

  

 

同国保組合は、

年からみずほ情報総研の支

援を受けて、既存事業の分析や医療費、健診結果の

データ分析を行い、健康課題を抽出してデータヘルス

計画の策定に取りかかった。計画の策定にあたっては、

年度からの第

期データヘルス計画の策定も

含んだ

年度までの中長期の計画を策定した。

 

国保データベース(

)システムから提供され

るレセプト・健診データを分析した結果、同国保組合

では、高血圧性疾患が多いことがわかった。そこで、

年度に、高血圧対策を重点課題として、生活

習慣病の重症化を予防するための保健事業に取り組む

こととし、高血圧リスクのある被保険者を対象に、医

療機関の受診を働きかける「受診勧奨」を実施した。

特定健診受診者における高血圧リスク保有者のうち、

医療機関を受診していない人を抽出し、その中から、

収縮期血圧が

以上または拡張期血圧が

以上である「Ⅲ度」に該当する被保

険者

名を絞り込み、

月に勧奨を実

施。その後、医療機関の受診の有無をレセプトデータ

から確認し、10月に再勧奨を行った。

 

取り組みの結果、事業開始から現時点までの間で、

受診勧奨対象者のうち26・

%の人が医療機関を受診

した。また、19・

の人が再勧奨をきっかけに受診

した。対象者を的確に抽出し、一定の成果が出たこと

により、データヘルスへの取り組みの必要性を強く認

識することになったという。

 

年度末には最終的な効果検証を行い、次年度の受診

勧奨事業に活かすべく

を実施する予定だ。次

年度以降はさらに、高血圧リスク保有者の対象を広げ

たり、糖尿病患者や予備群など生活習慣病の他の疾患

も対象にすることも考えているという。

 

次のページでは、重症化予防事業の実施にあたって

留意したポイントや、見えてきた課題、また、次年度

以降の展望などについて聞く。

明 日 へ の 挑 戦

組合の特性に応じた

データヘルス計画を策定

建設業関係の従事者に

適した保健事業

健康課題を把握し

重症化予防事業に取り組む

Page 20: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

小松 氏 和歌月 氏塚田 氏

18

データから見えてきた健康課題や組合員の特性を分析し、適切な受診勧奨に取り組む

│データの分析とデータヘルス計画の策定を通じて、ど

のような成果が得られましたか。

和歌月氏◆データの分析から、当組合の特色をしっかりと把握

することができました。たとえば、当組合は、他の国保組合に

比べて喫煙者が多く飲酒量も多いという傾向があるのですが、

一方で、健康への関心が他の組合よりも高いとわかりました。

塚田氏◆今回の計画策定を通じて、私たちの行っている保健事

業を概観し、整理することができました。そして、今後は病気

の早期発見、早期治療に向けた二次予防に注力する必要がある

といった課題を認識することもできました。

│重症化予防事業で難しかったのはどの点でしたか。

塚田氏◆組合員は、一人親方や個人事業主がほとんどです。企

業の健保組合とは異なり、本部や支部の担当者が声をかければ

動いてくれるというわけではないため、受診勧奨の方法や、再

勧奨を行う際の対象者の抽出など、どのような働きかけを行え

ば医療機関を受診しようと思ってもらえるだろうかと悩みまし

た。また、医療機関の受診状況など私生活に踏み込んでくるこ

とに対する抵抗感を持たれてしまうのではないかという懸念も

ありました。しかし、特定健診・特定保健指導の開始から10年

が経過して、組合員の意識もかなり高くなっていたためか、特

に反発の声はなく、安心しました。

小松氏◆受診勧奨の対象となった人の多くは、生活上で高血圧

を特に気にしていない方々です。当組合には保健師が常駐して

いないため、保健指導サービスを提供する事業者にも協力して

もらい、適切なアプローチを模索しました。

 

検討の結果、計画の初年度で重症化予防事業を始めたばかり

ということもあって、今回は手紙による勧奨のみとし、電話勧

奨は行わないことにしました。また、再勧奨は、レセプトを参

照して対象者の絞り込みを行い実施しました。たとえば、高血

圧症以外の理由で定期的に医療機関を受診している方について

は、再勧奨の対象からは外しました。過剰な介入と受け取られ

てしまうと、特定健診なども忌避するようになる恐れもあると

考えたからです。

 

こうした細かい運用のポイントは、来年度に向けて議論を深

建設連合国民健康保険組合 事務局長 塚田 隆 氏業務二課 課長 小松 三起子 氏業務二課 課長補佐 和歌月 健太 氏

Ca

se

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Page 21: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

19 N a v i s 0 3 4 – A p r i l 2 0 1 8

めていかなくてはならないと思っています。

│今後どのような保健事業を行っていくお考えですか。

塚田氏◆データを活用した保健事業が有効であるということ

が、初年度にして明らかになりました。今後も、息の長い事業

として取り組む考えです。まずは、高血圧症の重症化予防とい

う事業を着実に根付かせることに注力したいと思います。将来

的には、高血圧症の受診勧奨の対象範囲を拡大していくこと、

さらにもう一歩進めて、糖尿病などそのほかの生活習慣病につ

いても、重症化予防に取り組んでいきたいと考えています。

小松氏◆今後は、勧奨を受けても医療機関を受診しなかった無

関心層の方々に、どうやってアプローチしていくかが課題にな

ると考えています。また、軽度の疾患や、対象とする疾患の種

類を増やすなど範囲を広げていけば、該当者が増え、一人ひと

りの状況を細かく見ていくことは難しくなるかもしれません。

しかし、事業を継続していくことでノウハウも蓄積されていく

と思いますので、みずほ情報総研からもアドバイスをいただき

ながら、さまざまなデータを活用して取り組みを推進していき

たいと思っています。

塚田氏◆特定健診・特定保健指導の受診率の向上も、取り組む

べき課題だと認識しています。

年度は、支部の

つが、

国の目標である特定健診の受診率70%を達成する見込みです。

当組合は、被保険者の数が支部によって大きく異なり、抱えて

いる課題も異なります。特定健診などは、我々本部が直接組合

員に働きかけるよりも、各支部から働きかけるほうが効果的だ

と考えています。一方、保健指導については、外部委託先とな

る事業者を各支部に紹介するなどのサポートを行っています。

本部と支部で役割を分担し、取り組みごとに効果的な方法を選

択する必要があると考えています。

 

保険者の役割は、医療費を給付するというものから、被保険

者の健康増進を図り、医療費の適正化に取り組むというものへ

と変わりつつあります。その役割を果たすには、効果的な保健

事業の推進が必要であり、そのための人材育成が不可欠だと考

えています。本部への保健師の常駐や、各支部に委員を設置し

て保健師のノウハウを伝えるといったことも検討していきたい

と考えています。

P r o f i l e 企業プロフィール

建設連合国民健康保険組合一般社団法人日本建設組合連合(建設連合)を設立母体として、1970

年に愛知県の認可を受けて設立された国民健康保険組合。建設連合の正会員である、全国の建設業に従事する個人事業主等を対象に、保健事業を展開している。

P r o f i l e 企業プロフィール第2期データヘルス計画の着実な実行

朝生 真美子みずほ情報総研エンタープライズ第3部ITエンジニア

 第 1期データヘルス計画の実施期間を経て、2018年度から始まる第 2期データヘルス計画における保健事業をより効果的かつ効率的に実施するため、保険者には、レセプト・健診データのさらなる活用が求められている。保健事業の実施および効果測定におけるデータ利活用のポイントとして、以下 2点を強調したい。 1点目は、対象者の適切な選定である。保健事業はデータヘルス計画で設定した目的・目標を達成するための手段であり、手段がいくら優れていても、目的・目標に合った事業対象者を選定できなければ、価値のある保健事業にはならない。たとえば、特定健診の受診率向上、生活習慣病の発症予防を目指す「特定健康診査未受診者対策事業」では、過去のレセプト・健診データを活用することにより、特定健診をこれまで一度も受診していない人や、特定健診未受診に加え医療機関未受診の人を抽出することができる。事業の目的に合致した人に受診勧奨を行うことで、保険者は目標達成に近づき、被保険者は特定健診の受診を健康増進のきっかけにすることができる。 2点目は、実施事業の効果測定と的確な評価である。計画した保健事業が実施のみに留まり、振り返りがなされなければ、目的・目標を達成するための適切な手段であったかが評価できず、事業改善もなされないまま形骸化してしまう。たとえば、生活習慣病リスクの高い被保険者の医療機関定期受診を目指す「生活習慣病重症化予防事業」では、レセプトデータを活用することにより、受診勧奨を行った被保険者の医療機関受診状況や投薬治療の有無を確認することができる。受診勧奨後の受診率を確認し、目標の達成状況や事業が目的に沿うものであったかを振り返り、評価することで、次年度以降の事業改善へとつなげることができる。 他にもレセプト・健診データを効果的に利活用できる場面は多数存在する。医療費の適正化、被保険者の健康増進を目的とした保健事業が実のあるものとなるよう、データに基づく確実な PDCAの実行を引き続き支援していきたい。

◆ データヘルス計画トータルソリューション healthage

医療・健康情報のデータ分析に基づいたデータヘルス計画の策定支援から計画推進支援、成果目標・事業量目標の効果測定および事業改善提案まで、効果的な保健事業の実現に向けてデータヘルス計画の PDCAを総合的に支援する。

明 日 へ の 挑 戦

Page 22: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

第34号 2018年4月1日発行

企画編集・発行: みずほ情報総研株式会社 経営企画部 広報室 〒101-8443 東京都千代田区神田錦町2─3 [email protected] 電話: 03-5281-7548 https://www.mizuho-ir.co.jp/

企画・編集協力: 株式会社プラップジャパンデザイン: nishino design studio/安田真奈己印刷: 日経印刷株式会社Copyright © 2018 Mizuho Information & Research Institute, Inc. All rights reserved.

無断転載を禁ず。本誌に掲載の記事・写真・図表などは、著作権法によって保護されており、無断で転用・転載・複製することはできません。─この本の紙は適切に管理された木材を使い作られています。植物油インキで印刷しています。

Navis編集後記

I n f o r m a t i o nみずほ情報総研からのお知らせ

 みずほ情報総研は、2018年2月より、RPA(ロボ

ティクス・プロセス・オートメーション)導入支援

サービスの提供を開始しました。

 本サービスは、〈みずほ〉におけるRPA導入の実

績とノウハウを基に、RPA製品の選定やプロジェク

ト支援などのコンサルティングからRPA開発、運用

保守までを包括的に支援するサービスです。RPA

導入方針や社内体制構築など導入計画の策定支援

や、RPA導入に必要となる各種ドキュメント(テンプ

レート)の提供、RPA製品選定に関するアドバイス

など、RPAを導入しようとする際に直面する課題解

決に向けて、ユーザー目線で支援します。

 当社は2016年度より、〈みずほ〉のオペレーショ

ナルエクセレンス(卓越した業務遂行力)推進におけ

るRPA導入を支援してきました。今後は〈みずほ〉で

の取り組みに加え、本サービスを全国の地銀・信金

などの金融機関のみならず、一般事業法人や官公

庁・自治体などのマーケットにも展開していきます。

 2018年3月8日、みずほ情報総研、株式会社エ

ス・エム・エス、みずほ銀行の3社は、企業従業員

の生活習慣病予防に役立つ新しいサービス創出を

目的とした業務連携協定を締結しました。

 3社は、2016年度より企業と企業健保が直面す

る従業員の健康づくりという課題の解決を支援する

新サービスの開発に向けて協働してきました。その

中で、健診・医療データの分析技術とICT・スマー

トフォンを活用して、医療従事者による健康改善支

援サービスを提供する体制を整えました。

 今回の業務連携協定により、生活習慣病予防に

役立つ新しいサービスの開発を加速させていきま

す。具体的には、従業員の健診・医療データの分

析から健康維持・増進のための企画立案、栄養・

保健指導などの健康改善支援サービスの実行、効

果検証までをワンストップで提供するサービスモデ

ルの構築を行います。従業員にとっては、より効果

的・効率的な生活習慣病予防のサービスを利用す

ることができ、企業・企業健保にとっては、財政安

定化につながる効果が期待できます。

 みずほ情報総研は、社会動向、技術動向、ビジ

ネスの最前線を紹介する『みずほ情報総研レポート

vol.15』を2018年3月30日に発行しました。

 本誌は、企業経営、公共政策、社会科学、環境、

情報通信、工学など各分野のトピックスについて

専門的見地から論述したレポート集です。今回は、

「材料開発の新潮流」「宇宙開発におけるデータサ

イエンス・AIの利用に向けた試み」「再生可能エ

ネルギーの現状と将来」などのレポートをお届けし

ます。ぜひご一読ください。

 人間が生み出した ITによって、これまで担当してきた仕事や働き方を見直すことが、今、求められています。何だか不思議ですが、定型業務をRPAに任せるのは、むしろ本来の ITの姿なのかもしれません。人間はいつしか ITを使いながらも定型業務に時間を割き過ぎていたのでしょうか。RPAの取材で改めて、ITは IT

らしく、人間は人間らしくありたいものだと感じました。(石)

 革新的な技術としてさまざまな産業への活用が期待されるブロックチェーン。ビジネスへの実装には解決すべき課題がありますが、近い将来、新しい基盤技術として、ビジネスや産業構造を変革していく可能性を秘めています。金融以外の分野に広がるユースケース、活発化しつつある実証実験についてレポートしました。各分野で、先を見据えた取り組みが始まっています。(綾)

RPA導入支援サービスの提供を開始

●お問い合わせ:グループ統括部 E-mail:[email protected]

電話:03-5281-5274

●お問い合わせ:エンタープライズ第3部 E-mail:[email protected]

電話:03-3869-2146

生活習慣病予防に役立つ新しいサービス創出を目的とした業務連携協定を締結

『みずほ情報総研レポート』vol.15を発行

●以下のURLよりダウンロードできますhttps://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/

mhir/

●お問い合わせ:コンサルティング事業推進部E-mail:[email protected]

電話:03-5281-5301

Page 23: 034 | April 2018...3 Navis 034 – April 2018 この分散構造のために、ブロックチェーンはさまざまな特 合が出ないよう関連性が持たされているため、システム全体にデータの不整ブロックは時系列につながり、前後のブロック内データには性を持つ。まず、改ざんが極めて困難であると

 ふと立ち止まってなにかをじっと見つめているうちに、

気になって仕方がない存在になった、という体験がある

人は多いだろう。自分にとって、街の中の「駐車場」がそ

うだった。例えば、ビルの谷間に妙な空間をぽっかり生

み出している平面駐車場、一台分しかない時間貸し駐

車場、風景の上部だけが切り取られて見える屋上駐車

場、光のラインが何層にも重なる夜の立体駐車場など。

 なんとなく撮っていた写真が溜まってきたので、それ

らにタグをつけながら並べてみると、ある種の「異質さ」

が浮かび上がってきた。徒歩と自動車という移動速度が

大きく切り替わるポイントである駐車場は、「ヒト」よりも

「クルマ」の都合でつくられているために、認識のズレ

が生じやすいのではないか、と。それ以降、駐車場がつ

くり出す眺めを「パーキングスケープ」と称して自覚的に

コレクションするようになった。今回はその中でも、見た

目のインパクトが大きい自走式立体駐車場の「ぐるぐる

スロープ」に着目してみよう。

 密度が高い街の中に、クルマの一時保管場所を低コ

ストで確保することは容易ではない。一カ所に集約して

垂直方向に重ね、スペース効率を高めることは当然の成

り行きだ。その外縁部は衝突に強い構造にするが、壁

で空間を閉じてしまうと消防設備をつけなければなら

なくなるため、横方向の開口部が盛大に現れる。もちろ

ん、自動車は階段のような急傾斜を登ることができない

ので、法令で定められた勾配を超えないスロープが必要

になり、その延長はとても長くなる。

 螺旋状のスロープは水平な駐車スペースを最大化す

る方法のひとつだと思うが、実際にはそれほど多く見か

けない。走行のしにくさやコスト面で嫌われているのだ

ろうか。しかし、ヒューマンスケールを超える巨大建造

物でありながら、滑らかな螺旋が一定のリズムを刻む外

観には、ヒトに媚びない強靱な魅力が宿っている。それ

らの姿は都市のバックヤードなどではなく、いきなり主

役級のランドマークになっている気がする。なお、ぐる

ぐるスロープの正式名称は知らないままだ。

はちま さとし 1969年千葉県生まれ。千葉工業大学 創造工学部 デザイン科学科 教授。景観デザインや産業観光を専門とする都市鑑賞者。著書に『ヨーロッパのドボクを見に行こう』などがある。

ぐるぐるスロープ街角コレクション ❷ …… 八馬 智

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www.mizuho-ir.co.jp

Navis 2018年4月1日第34号 発行:みずほ情報総研株式会社 経営企画部 広報室 〒101-8443 東京都千代田区神田錦町2–3 電話 03-5281-7548