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第2回ジャポニカアレイ ® 研究会 テーマ「ジャポニカアレイ ® の最新研究成果の共有と討論」 重篤な眼粘膜障害有•無で 遺伝素因が異なる (Ueta et al, Sci Rep. 2014;4:4862) アロプリノール (抗痛風薬) アロプリノール 漢民族、欧米人、日本人で HLA-B*58:01と強い関連 カルバマゼピン 漢民族でHLA-B*15:02、 欧米人、日本人で HLA-A*31:01と強い関連 カルバマゼピン (抗てんかん薬) 感冒薬 (アセトアミノフェン、 NSAIDs等) 被疑薬No.1 眼粘膜障害では関運なし HLA-A*02:06 と強い関連 日本人、韓国人 HLA-B*44:03 と強い関連 欧米系ブラジル人、 インド人、日本人 (Ueta et al, Sci Rep. 2014;4:5981) 非ステロイド系抗炎症薬 SJS/TEN 眼粘膜障害 眼粘膜障害 Stevens-Johnson症候群(SJS)は中毒性表皮壊死症(TEN)と 同一カテゴリーの疾患で、重症薬疹である。人口100万人あたりの 年間の発症頻度は、SJSが3.1人、TENが1.3人と大変稀な疾患で ある。しかし、急性期の死亡率は、SJSが3%、TENが19%と高く、 また、慢性期には眼粘膜障害から視覚障害など重篤な後遺症を残 すことがある。 重症薬疹とHLAが着目され、いくつか研究結果が報告されて いる。例えば、抗痛風薬であるアロプリノールによる重症薬疹の発 症は、漢民族、欧米人、日本人においてHLA-B*58:01が共通して 関連していることが報告されている。また、抗てんかん薬であるカ ルバマゼピンによる重症薬疹の発症は、漢民族ではHLA-B*15:02 と強く関連し、日本人と欧米人ではHLA-A*31:01が関連すること が報告されている。 (図1) 重篤な眼合併症を伴うSJS/TEN患者の約8割は、感冒薬に関連 して発症している。感冒薬は、ほぼすべての人が服用する薬剤で あるため、発症の危険性はほぼすべての人に存在する。しかしな がら、感冒薬によるSJS/TEN発症に関わる遺伝素因については、 今まで報告がなく、演者らが世界に先駆けて発表した。本日は感冒 薬SJSの遺伝的素因と病態解明について報告する。 演者らのHLA解析結果より、重篤な眼合併症を伴うSJS/TENの 発症には、HLA-A*02:06が強く関連することが明らかになった。 (p=2.8X10 -16 、オッズ比5.7)また、これらの患者の約8割が、感冒 薬により発症していることも報告してきた。 重篤な眼合併症を伴うSJS患者では、感冒薬服用の前にウィルス 感染症などを示唆する感冒様症状を呈することが多い。また、急性 期のみならず慢性期にもMRSA・MRSEを高率に保菌し、眼表面炎 症と感染症を生じやすい。これらの症状より、自然免疫応答異常が 関与している可能性を考え、候補遺伝子解析を行った。 自然免疫関連遺伝子に関わりの深い遺伝子に着目して遺伝子 多型解析を行ったところ、TLR3の遺伝子多型と関連することが明 らかになった。TLR3は、病原体認識機構であるToll like receptor ファミリーに属し、ウィルス由来の二本鎖RNAを認識する受容体で、 ウィルス感染に重要な役割を担っている。 TLR3欠損マウスおよびTLR3過剰発現マウスにアレルギー性結 膜炎を誘発し、結膜好酸球浸潤について解析を行った。TLR欠損マ ウスでは抗原点眼24時間後の結膜好酸球浸潤が野生型マウスと 比較して有意に減少した。逆にTLR3過剰発現マウスでは、好酸球 浸潤が有意に増加した。これはTLR3が眼表面炎症を促進している ことを示している。 引き続き行った皮膚科との共同研究では、TLR3が同様に皮膚炎 症を促進していることが確認された。 以上の疾患関連遺伝子の機能解析より、TLR3が皮膚粘膜炎症 を促進していることが明らかになった。 HLA-A*02:06とTLR3 SNPを組合せて解析した結果を図2に 示す。HLA-A*02:06の単独オッズ比は5.5、TLR3のrs3775296 TTの単独オッズ比は2.9であるが、組合わせるとオッズ比は37.8 と高くなった。 2017年9月23日(日) 東芝ビルディング(浜松町) 株式会社 東芝 サーモフィッシャーサイエンティフィック ライフテクノロジージャパン株式会社 感冒薬関連Stevens-Johnson症候群の 遺伝素因解明と病態解明 (講演要旨) 座長 東京大学大学院 医学系研究科 人類遺伝学分野 徳永 勝士 先生 京都府立医科大学 特任講座 感覚器未来医療学 上田 真由美 先生 日 時 場 所 共 催 候補遺伝子解析 HLA解析 はじめに 図1 原因薬剤と遺伝素因の相違

第2回ジャポニカアレイ 研究会 - Toshiba...SJS/TEN 眼粘膜障害 無 眼粘膜障害 有 Stevens-Johnson症候群(SJS)は中毒性表皮壊死症(TEN)と 同一カテゴリーの疾患で、重症薬疹である。人口100万人あたりの

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  • 第2回ジャポニカアレイ®研究会テーマ「ジャポニカアレイ®の最新研究成果の共有と討論」

    重篤な眼粘膜障害有•無で遺伝素因が異なる(Ueta et al, Sci Rep. 2014;4:4862)アロプリノール

    (抗痛風薬)

    アロプリノール漢民族、欧米人、日本人でHLA-B*58:01と強い関連

    カルバマゼピン漢民族でHLA-B*15:02、欧米人、日本人で

    HLA-A*31:01と強い関連

    カルバマゼピン(抗てんかん薬)

    感冒薬(アセトアミノフェン、NSAIDs等)

    被疑薬No.1

    眼粘膜障害無型では関運なし

    HLA-A*02:06と強い関連

    日本人、韓国人

    HLA-B*44:03と強い関連

    欧米系ブラジル人、インド人、日本人

    (Ueta et al, Sci Rep. 2014;4:5981)

    非ステロイド系抗炎症薬

    SJS/TEN

    眼粘膜障害無

    眼粘膜障害有

     Stevens-Johnson症候群(SJS)は中毒性表皮壊死症(TEN)と同一カテゴリーの疾患で、重症薬疹である。人口100万人あたりの年間の発症頻度は、SJSが3.1人、TENが1.3人と大変稀な疾患である。しかし、急性期の死亡率は、SJSが3%、TENが19%と高く、また、慢性期には眼粘膜障害から視覚障害など重篤な後遺症を残すことがある。 重症薬疹とHLAが着目され、いくつか研究結果が報告されている。例えば、抗痛風薬であるアロプリノールによる重症薬疹の発症は、漢民族、欧米人、日本人においてHLA-B*58:01が共通して関連していることが報告されている。また、抗てんかん薬であるカルバマゼピンによる重症薬疹の発症は、漢民族ではHLA-B*15:02と強く関連し、日本人と欧米人ではHLA-A*31:01が関連することが報告されている。(図1) 重篤な眼合併症を伴うSJS/TEN患者の約8割は、感冒薬に関連して発症している。感冒薬は、ほぼすべての人が服用する薬剤であるため、発症の危険性はほぼすべての人に存在する。しかしながら、感冒薬によるSJS/TEN発症に関わる遺伝素因については、今まで報告がなく、演者らが世界に先駆けて発表した。本日は感冒薬SJSの遺伝的素因と病態解明について報告する。

     演者らのHLA解析結果より、重篤な眼合併症を伴うSJS/TENの発症には、HLA-A*02:06が強く関連することが明らかになった。(p=2.8X10-16、オッズ比5.7)また、これらの患者の約8割が、感冒薬により発症していることも報告してきた。

     重篤な眼合併症を伴うSJS患者では、感冒薬服用の前にウィルス感染症などを示唆する感冒様症状を呈することが多い。また、急性期のみならず慢性期にもMRSA・MRSEを高率に保菌し、眼表面炎症と感染症を生じやすい。これらの症状より、自然免疫応答異常が関与している可能性を考え、候補遺伝子解析を行った。 自然免疫関連遺伝子に関わりの深い遺伝子に着目して遺伝子多型解析を行ったところ、TLR3の遺伝子多型と関連することが明らかになった。TLR3は、病原体認識機構であるToll like receptorファミリーに属し、ウィルス由来の二本鎖RNAを認識する受容体で、ウィルス感染に重要な役割を担っている。 TLR3欠損マウスおよびTLR3過剰発現マウスにアレルギー性結膜炎を誘発し、結膜好酸球浸潤について解析を行った。TLR欠損マウスでは抗原点眼24時間後の結膜好酸球浸潤が野生型マウスと比較して有意に減少した。逆にTLR3過剰発現マウスでは、好酸球浸潤が有意に増加した。これはTLR3が眼表面炎症を促進していることを示している。 引き続き行った皮膚科との共同研究では、TLR3が同様に皮膚炎症を促進していることが確認された。 以上の疾患関連遺伝子の機能解析より、TLR3が皮膚粘膜炎症を促進していることが明らかになった。 HLA-A*02:06とTLR3 SNPを組合せて解析した結果を図2に示す。HLA-A*02:06の単独オッズ比は5.5、TLR3のrs3775296 TTの単独オッズ比は2.9であるが、組合わせるとオッズ比は37.8と高くなった。

    2017年9月23日(日)東芝ビルディング(浜松町)株式会社 東芝サーモフィッシャーサイエンティフィックライフテクノロジージャパン株式会社

    感冒薬関連Stevens-Johnson症候群の遺伝素因解明と病態解明(講演要旨)

    座長東京大学大学院

    医学系研究科 人類遺伝学分野

    徳永 勝士 先生

    京都府立医科大学特任講座 感覚器未来医療学

    上田 真由美 先生

    日 時

    場 所

    共 催

    候補遺伝子解析

    HLA解析はじめに

    図1 原因薬剤と遺伝素因の相違

  • 研究開発本部

    〒105-8001 東京都港区芝浦1-1-1 TEL: 03-3457-2984Mail: [email protected]

    本部企画部 ライフサイエンス推進室

    この資料の内容は、2018年5月現在のものです。

    本サービスに関するお問い合わせ先

    (Ueta et al, PLoS One. 2012;7(8):e43650)

    4035302520151050

    Odd’s ratio 37.8

    0.22

    171 times

    HLA-A*02:06(OR 5.5)

    TLR3 SNPrs3775296 TT(OR 2.9) ++

    -

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    (Ueta et al, Human Genome Variation, 2015)

    (Ueta et al, J Hum Genet. 2017)

    15

    10

    5

    0

    Odd’s ratio

    Odd’s ratio

    10.8

    0.15

    70 times

    HLA-A*02:06(OR 5.5)

    EP3 SNPrs1327464 GA or AA

    (OR 4.5) ++-

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    120

    100

    80

    60

    40

    20

    0

    110

    0.16

    668 times

    HLA-A*02:06(OR 5.5)++

    -

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    SNPrs16957893 CG or CC

    (OR 6.7)

    ※ジャポニカアレイ®は国立大学法人東北大学の登録商標です。※この資料は、第2回ジャポニカアレイ®研究会の上田先生のご講演およびSJS/TENの情報 サイト(http://eye.sjs-ten.jp/doctor)より、株式会社東芝 ライフサイエンス推進部が作成 しました。お問い合わせは下記にお願いします。

     続いて行ったGWASでは、PGE2の受容体の一つであるEP3の遺伝子PTGER3の遺伝子多型との関連が確認された。大変興味深いことに重篤な眼合併症を伴うSJS患者の眼表面組織では、このEP3タンパクの発現が顕著に減少していた。また、マウス疾患モデルを用いた解析により、PGE2は、EP3を介して皮膚ならびに粘膜の炎症を抑制していることが明らかとなった。 感冒薬に含まれるアセトアミノフェンやNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が、EP3のリガンドであるPGE2の産生を抑制することも、重篤な眼合併症を伴うSJS/TEN発症に大きく関与している可能性を示唆している。図3にHLA-A*02:06とEP3 SNPを組合わせて解析した結果を示す。

     重篤な眼合併症を伴う感冒薬関連SJS/TENを対象に、東アジア人向けのチップ(Axiom Genome-Wide ASI 1 Array)を用いたGWASでは、HLA領域以外にIKZF1遺伝子が強い関連を示した。このIKZF1遺伝子多型は、日本人のみならず、韓国人、インド人でも有意な相関を認めたことから重篤な眼合併症を伴う感冒薬関連SJSの国際的共通の疾患関連遺伝子である可能性が高い。 IKZF1の過剰発現マウスでは、皮膚炎および眼表面炎症を自然発症することも確認できた。 重篤な眼合併症を伴う感冒薬関連SJSを対象に、ジャポニカアレイ®を用いたGWASを実施した。ジャポニカアレイ®のジェノタイピングデータから、全ゲノムインピュテーションを実施したデータのマンハッタンプロット等を図4に示す。ジャポニカアレイ®を用いた解析では、REC114はじめいくつかの新しい関連遺伝子を確認することができた。

     ジャポニカアレイ®を用いて確認した関連SNPとHLA-A*02:06の相関を図5に示す。 HLA-A*02:06の単独オッズ比は5.5、関連SNPの単独オッズ比は6.7であるが、組合わせた結果のオッズ比は110と大変高い値となった。 ジャポニカアレイ®では、全ゲノムインピュテーションによる遺伝子多型だけでなく、HLA型のインピュテーションも可能であり今後の研究における活用が期待される。

    ● HLA型と遺伝子多型の組み合わせにより、重篤な眼合併症を伴う感冒薬関連SJSのリスク評価を行った。

    ● 生体内では、HLA-A*02:06、TLR3、EP3、IKZF1など複数のリスク遺伝子間でネットワークを構成しており、このバランスがSJS発症機序に関連している可能性がある。

    ● 将来、HLA型と複数の遺伝子多型の組み合わせで、SJS発症リスクの予測が期待でき、予防や早期診断への活用が望まれる。

    ● さらなる関連遺伝子解析により、発症機序の解明および新しい治療法の開発が期待される。

    まとめ

    ゲノムワイド関連解析(GWAS)図2 HLA-A*02:06とTLR3 SNPのオッズ比

    図3 HLA-A*02:06とEP3 SNPのオッズ比

    図4 ジャポニカアレイ®を用いたマンハッタンプロット

    JPA P1805

    図5 HLA-A*02:06と関連SNPのオッズ比